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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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五百十八話 地下宮殿とヴィーネたち

 

 ◇◆◇◆


 ここは地下宮殿の宝物庫。

 ガラスで仕切られた場所で、ルシヴァルの眷属たちが見守るのは、巨大なスチール製の机だ。

 その机の上にずらりと秘宝クラスのアイテム類が並べられていた。


「これが縞模様の夢追いの袋ね。ちょうどよく古代狼族が預けた秘宝が全部入っている状態みたい」

「はい、隠れて見ていた時にロンハンがレブラの枯れ腕を含めた品を入れていましたから。こっちの色艶のない方が無魔の手袋です」


 ユイとヴィーネが笑みを浮かべて語る。

 ジョディは魔短剣ダブルフェイスの背後に立っていた。


「じゃ、ヴィーネ、お願いね」

「はい」


 無魔の手袋を嵌めるヴィーネ。

 秘宝が入った夢追い袋を手にした。


 その様子を見ていた魔短剣ダブルフェイスが、


「他の秘宝クラスのアイテムは回収しないのか?」


 と、質問。


「勿論、回収はする。無魔の手袋とその夢追いの袋があれば、どんな呪いの品でも回収はできるはずだから。けど、不安よね……」


 ユイは言葉を濁す。


「盗みとはいえ、ツラヌキ団の多岐に渡る偉業のような仕事の要となったアイテム。その、夢追いの袋の真価は、確実だと思いますが」


 ジョディが縦縞模様の袋のことを指摘する。

 ヴィーネは頷いた。


「はい。ですが、ユイが話をしたように不安は不安です」

「確かに、ルシヴァルの眷属でも、神々の作用は、どのように降り掛かるか分かりませんからね」


 ジョディがヴィーネの言葉を肯定するように喋りながら宝物庫を確認した。

 一見は、清潔な空間。

 光沢のある床に敷かれたマットは高級品だ。

 ホルカーバム産の素材を使い王都グロムハイムの技術を持ったサリエント商会が作ったマット。


 壁にはスチール製のボルトで固定された魔法の絵が陳列されている。

 天井は金属製のチェーンがぶら下がり、チェーンの先端に生きた眼球の魔道具が動いていた。


 その周囲を確認しているジョディの視線と合わせるようにヴィーネも部屋を見る。

 そして、ガラスに反射するユイの双眸を見つめて、


「神々の作用は予想できませんから」

「うん……って、わたしの目でたとえないでよ?」


 自身の白銀色に染まる双眸の<ベイカラの瞳>のことを語るユイ。


「神々といえば、シュウヤ様も、呪神ココッブルー……の影響を受けていると語っておいででした」


 <光魔ノ蝶徒>のジョディも記憶力は完璧ではなかった。


「シュウヤから聞いている。ココッ……と、長々しい呪神の名前。精霊様の力で接触ができた。と語っていたわね。寂れた古代の女神像に祭司のネックレスを捧げたとも」

「その通りだ。わたしはその時、側にいたからな。呪神の名は……ココッブルゥン、ドーズゥィン様だったはずだ――」



 ◇◆◇◆


 そのヴィーネの渋い声――。

 光魔ルシヴァルの第一の<筆頭従者長>が、お祈りを行った効果か不明だが……。


 北の魔霧の渦森に棲まう呪神ココッブル……の耳と心に、しっかりとリアルタイムに届いていた。


 小さい呪神の彼女は魔霧の渦森から集めたパワーを『祭司のネックレス』に溜めていたのだが……。

 そのヴィーネの声を聞いて、


『フン、妾の名前をちゃんと覚えてくれたのはシュウヤだけだ! 妾は妾は……うあぁぁぁぁん』


 魔霧の渦森に奇怪めいたエキセントリックな哭声が轟く。

 森に棲む小さいモンスターたちは、一斉に飛び立った。


 ◇◆◇◆



 ヴィーネの言葉を聞いたジョディは髪飾りを煌めかせながら瞬間移動を行う――。

 ユイとヴィーネの前に出現した。

 貴族然とした白を基調とした和風ジャケットを着込むジョディ。

 背中から、白色と血色が混じった斑に輝く蛾たちを散らしている。


 そのジョディは巨乳の胸元に手を当て、


「――わたしが、皆の代わりに、この呪いの品と推測できる秘宝類の回収をしましょう」


 と、発言した。

 その美しいジョディの消えては現れる姿と、言葉を聞いた魔短剣ダブルフェイスは驚く。


 同時に、ジョディのことを凝視した。

 ジョディの美しさに魅了されたわけではない。

 ダブルフェイスは訝しんでいた。


 ユイは、その訝しむ表情を浮かべたダブルフェイスを睨みつつジョディに向けて、


「ジョディでも、危ないと思うわよ? もう死蝶人ではないし、同じ眷属だけど<筆頭従者長>ではないからね」

「ですからですよ。わたしに、神々の悪戯という脅威が降り掛かっても、元はアーゴルンの魔宝石が大本の眷属。ヴァルマスク家のホフマンの施設から盗んだ品の時も平気でしたし、多少の傷ならば――」

「ジョディ、待つのだ」


 と、素の感情で喋るヴィーネ。

 ジョディの言葉を遮る。


「はい?」


 ジョディは美しい白と黒の双眸を瞬きさせながら、そう短くヴィーネに聞いていた。


「皆を想う気持ちは、素直に受け取る。が、しかし――」


 無魔の手袋を嵌めているヴィーネは銀色の虹彩を輝かせながら、強い感情を顔に出す。 

 最初の選ばれし眷属として選ばれたことに誇りを感じているヴィーネ。

 昔なごりの感情のまま、


「ここは第一の<筆頭従者長>である、わたしが責任を持つ」


 と言葉を紡いでいた。秘宝の一つを掴んで夢追いの袋に入れた。


「あ……わたしが回収しましたのに……」


 ヴィーネが夢追いの袋に入れたアイテムの名は、姥(うば)蛇(へび)ジィルの数珠。


 女性専用の数珠だ。

 これを身につけて、とある儀式を行い数珠と本人の魔力を交換しつつ数珠に宿る姥蛇ジィルと契約を結べば……数珠を装備した本人の身体能力を大幅に引き上げ、永遠の若さを未来永劫得られる。


 しかし、その引き換えに巨大な乳房三つと巨大な女性器を得るというジィルの呪いを受ける。


 その乳房からは、興奮作用を促し、洗脳と快楽の効果を促す特別な麻薬酒を造ることが可能となる。

 更にオーク族とゴブリン族の肉腫という巨大な逸物を、最低で数百年間、巨大な女性器で受け入れなければならない呪いも受けることになる。


 白色の貴婦人こと、ゼレナードでさえ、あえて使わずに放置していた。

 これは、フジク連邦の東方からとあるルートで八支流に流入してきた物をロンハンが手に入れた古い蛇人族(ラミア)に伝わる秘宝だ。


 次にヴィーネが見たアイテムは……。

 ところどころに茨の護符が出ている茨の冠と紫と黒の法衣だった。


「いいのだ。わたしはご主人様の血をたくさん受け継いでいる第一の<筆頭従者長>。光魔ルシヴァルとして、わたしの実力を信用しろ」

「はい、信用はしていますよ」

「そして先程の呪神フグの眷属たちとの戦いの内容は覚えているだろう?」

「勿論! わたしも地下の冒険と探索をしたくなりました。しかし、この呪いの品の回収は別です。とくにこれは、一目見て気色悪い………わたしが回収した方が……」


 剥きだした骨が折り重なり卑猥なモノを形作っているアイテムを見ながら、そう語るジョディ。


「いや、ジョディの気持ちは嬉しいが、やはり、わたしが回収する」

「しかし……ヴィーネにもしものことがあったら……家族として、新参者のわたしが」

「ふふ、家族か……しかし、何をいう!」

「え?」

「新参だろうと、関係ない。<光魔ノ蝶徒>といっても、もう同じルシヴァルの家族なのだ」

「まぁ……嬉しい言葉をありがとう……ヴィーネ」


 ジョディとヴィーネは見つめ合う。

 そのヴィーネは、


「……セイジャ姉様を思い出す」


 と呟いた。


「司祭候補となった姉様ね。第十二位魔導貴族アズマイル家が潰された話は悲惨だったけど、貴重な話だった」

「樹海でも無数に争いはありましたが、地下も地下ですね」


 ジョディの言葉にヴィーネとユイは頷く。


「ご主人様もよく語られておいでだが、世界は広い。ということで、これらの品をしまうぞ」


 ヴィーネが見た次の秘宝。それは茨の冠だ。


 地底神セレデルの不死眷属の一人、デ・ムースが愛用していた茨の冠。

 茨の王ラゼリスの力の一部を引き出すことが可能となる。


 紫と黒の法衣はミスランの法衣。

 【九紫院】に所属していた者が身につける法衣だ。


「そうですね」

「うん」

「うむ、わたしたちに鑑定能力はないのだ。この夢追いの袋に、入れるだけ入れてしまおう」 

「お願いします、ヴィーネお姉様?」

「はは、わたしの方が妹だろう? ジョディお姉様……」


 微笑んだヴィーネは、一瞬、ジョディの背後に自身が愛した姉の幻影を見る。

 喜びと悲しみが綯い交ぜとなった表情を浮かべていた。

 ユイとジョディはその僅かなヴィーネの感情までは読み取れなかった。


 ヴィーネは気にせず、秘宝類と推測できる無数のアイテムをランダムに手に取り夢追いの袋の中に入れていく。


 デュラートの秘剣、コツェンツアの魔槍、デルカウザーの魔除け(アミュレット)、フィナプルスの夜会、ゴッデス金枝篇、紋章理派の器雲術書、ホルテルマの蛇騎士長の封窯、道神セレクニの杖、髑髏の指輪、センティアの手、ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡、ソグ・ミレグの体液、閃光のミレイヴァル、暴神ローグンの魔皮膚の欠片、ガイソルの欠片、外魔都市の秘密、虹のイヴェセアの角笛、荒神ソゼンの眼球、暁の墓碑の密使ア・ラオ・クー、魔導札・雷神ラ・ドオラ。


 粗方の品を回収したヴィーネ。

 それを見ていたユイが、


「夢追いの袋って、どの程度入るんだろう。巨大な窯とか鏡まで入るとは驚き。大きさも変わらないし……」


 と発言。

 今の今まで強気だったヴィーネだったが、ユイの言葉を聞いて、


「うむ、いきなり壊れると怖い」


 そう不安そうに語る。


 が、ご主人様はもう近くにきておられるのだ。

 ……しっかりしろ、わたし。


 と、シュウヤにみっともないところは見せられないと強がるヴィーネ。

 そして、褒めてほしいヴィーネであった。


「大丈夫でしょう。呪いの品は、まったく反応がありません。無魔の手袋と夢追いの袋は、ツラヌキ団が利用していただけはあります」


 そう、ジョディが指摘した。


「これだけの施設を作り上げたゼレナードが用意したアイテムだからね」

「はい」


 と、ヴィーネは夢追いの袋を自身のアイテムボックスの中に仕舞う。


「それじゃ、シュウヤたちと合流かな」

「そうですね、この地下に広がる宮殿の奥が気になります……」


 ジョディの言葉に頷く、ユイとヴィーネ。

 ユイはヴィーネを見ながら……。


 この宝物庫に入る前に話していたことを思い出しながら、


「そうねぇ、地下といえば、さっきの話の続きだけど、ロルガとセレデルの勢力が地下資源を巡る争いに巻き込まれている最中に遭遇した話は強烈ね」

「大鳳竜アビリセン……」

「そう、その超巨大な怪物竜に襲撃を受けたっていう」

「そうだ、大混戦。怖かった」

「ヴィーネが怖がるんだから、よっぽどよね」


 ユイの言葉に頷くヴィーネ。

 ジョディも白と黒の双眸を輝かせながら、


「凄まじい戦いを生き抜いた経験は計り知れないモノがありそうです」


 そのジョディの感心する言葉に、やや恥ずかしそうに頬を紅く染めたヴィーネは魔霧の渦森と地下での戦いを思い出す。


 そして、頭上を行き交うミスティとの合作の金属の鳥を見つめながら、


「大乱戦は糧となった……ミスティとハンカイ殿がいなかったら、正直、死んでいたかもしれない」


 と涼しげに語る。


「……ふふ。わたしも旅の途中にね、凄く強い剣士と戦って、かなり成長はしたと思う」

「その強い剣士とは、闇ギルド以外の?」

「そう。何回もいうけど、世の中広い。でも、ヴィーネもヴィーネよ」

「ふふ、そういうユイもユイだ。カルード殿と一緒に壮絶な闇ギルドの戦いから、濃厚な経験を得ていると戦いを見ていて、よく分かるぞ。三刀流は、着実に進化を果たしているのだな」

「見ててくれたのね……ありがとう。ヴィーネも血を生かした弓と剣に魔法の発展がめざましい。心強いわ。本当に、血の姉妹でよかった」


 ユイが優しい表情を浮かべて語る。

 その時、肩を少し震わせていたダブルフェイスは、ルシヴァルの眷属たちの態度を見て、驚いていた。


 それをチラリと見たユイが、


「ダブルフェイスが驚いているわよ?」


 と、発言。


 白色の貴婦人側の幹部だった彼が驚く理由は簡単だ。


 細い双眸が見開いた状態のダブルフェイス。

 彼の散大している瞳はジョディからユイにヴィーネを凝視していく。


 帽子が傾いているようにも見えたが、無理もない。

 <光魔ノ蝶徒>ジョディはケマチェンを屠った後……。


 ユイと話をしているダブルフェイスの帽子と肩を踏むように、ドリル足の先端を突き立てていたからだ。


 そして、ジョディが急に前屈したかと思えば、ダブルフェイスの耳に息を吹きかけながら……。

 独特な嗤い声をあげつつ『ふふふ、この耳、切っていいかしら?』と尋ねていた。


 その<光魔ノ蝶徒>としての言葉を聞いた時、ダブルフェイスは、正直生きた心地がしなかっただろう。

 ジョディは本当に耳の飾りが欲しかっただけだが、彼は耳を喰われるかと思っていた。


 まして、交渉していた相手もユイだ。


 目の前で、仲間だったダヴィを赤子ごとばっさりと斬り捨てたユイ。

 暗殺者然としたクールビューティさを醸し出す美人とはいえ……。


 ダブルフェイスは表情を装いつつ話をしながらも『いつ、なんどき、構わず、斬る……』という意思をユイから、ひしひしと感じながらの交渉中だったのもある。

 ダブルフェイスは怖くてしかたなかった。


 ユイの双眸は<ベイカラの瞳>を発動した状態だったから、なおのことだろう。


 だからこそ……。

 このジョディの身を犠牲にする優しさと、ユイの眷属たちに向けた優しい女性としての表情を見て……。


 その二面性に驚いていた。

 彼はユイに武器を差し出し、光魔ルシヴァルの宗主に忠誠を誓うと宣言した。

 そして、宝物庫に案内をするから命は奪わないでくれと嘆願していた。


 勿論、それは、うわべだけだが、宗主のことは気になっていた。

 これほどの眷属を生み出す光魔ルシヴァルの宗主であり、槍使い……。


 俺の紋章を消した相手を見ないで死ねるかよ。


 と、ダブルフェイスは考えている。


 表面上は従うふりをして大人しくしていることは、ユイたちも気付いていた。

 だが、こうして約束通り宝物庫に案内した以上、ルシヴァルの眷属たちはダブルフェイスを生かすと決めていた。 


「……意外ですか? ダブルフェイス」

「あぁ」


 その時、濃厚な血の匂いと宝物庫の外から魔素の反応を感じ取るルシヴァルの眷属たち。


「あ、シュウヤの匂い。魔力の反応もある。ロロちゃんと、他にも一つ?」

「フムクリの妖天秤も反応しています」

「ご主人様ですね! わたしが先に――」


 冷然としたヴィーネは一気に女性としての艶が出る。

 シュウヤの顔を早く見たくて仕方がないという面を浮かべるヴィーネは、宝物庫から出ていった。

 ユイとジョディも同じ気持ちだったが……。

 第一の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>として気概を見せたヴィーネに姉妹としての愛を感じているから、最初は譲る気持ちだった。



 ◇◆◇◆



 狭い薬の保管庫から出てきたラファエル。


「魂王の額縁は無防備になるから、頼むよ」


 と、発言。

 俺は早く治療してやれという思いを込めて、


「了解、ここは任せろ」


 と、告げる。


「うん」


 目的の薬を発見したラファエルはイケメンらしい笑みを残す。

 注射針がついた薬を持ち、魂王の額縁の中に入っていった。

 数分後、タータンを救ったであろうラファエルが、魂王の額縁から現れる。


 どうしたことか、ラファエルは傷を負っていた。

 頬に赤い掌マークがある。

 唇から血が流れていた。

 胸元に巨大な鞭で叩かれたような痕が残っていた。


 なんでダメージを……。

 治療が必要なモンスターが暴れたのかもしれない。


 だが、救えたことがよほど嬉しいのか、表情は歓を極めている。

 爽快な笑顔。


「……救えたようだな」

「うん、マルゲリータにこっぴどく叱られた」


 と、前髪をあげながら額を掻くラファエル。


「にゃお~」

「神獣ちゃんもただいま、タータンを救えたよ。ありがとう。シュウヤもありがとう」


 傷を負っているが、本当にいい笑顔だ。


「おう、よかった」


 彼の背後で浮かぶ魂王の額縁が映し出している不可思議なユーンが笑みを讃えているようにも見えた。


 その時――。

 魔力と共に、ヴィーネの匂いを感じ取る。


「――ご主人様!」


 ヴィーネが走ってくる。

 銀色の髪に虹彩の瞳は変わらない。

 朱色の鎧と漆黒色の外套を身に纏うヴィーネだ。


「よう、ヴィーネ」


 俺の目の前で足を止めたヴィーネ。

 すぐに抱きつきたいと分かる表情だ。


 艶然とした微笑み。

 蠱惑的な銀色の虹彩だ。


 相変わらず、俺を魅了する。

 人を自然とひきつける罪深い眼差しだ。


 しかし、彼女は、俺に抱きつきはしなかった。

 長い耳を少し動かして、小さい唇を少し噛んでいる。

 我慢したようだ。


 俺としては寂しい。

 兎が寂しさで死んでしまうような気持ちを得たが。

 あれは嘘だ。指摘はしない。


 そんな気持ちは当然分からないヴィーネは相棒をチラリと見て、微笑む。


「にゃお」

「ロロ様……相も変わらず、お美しい黒豹の姿ですね」

「にゃ~」


 相棒と挨拶をかわした彼女は見知らぬラファエルの姿を見て……ジロリと睨む。

 浮いているアイテムを見て、警戒した。


 まぁ当然か。

 アイテム云々の前に、俺が男を連れているという超絶なレア体験だ。


 警戒を解こう。


「よう、横の金髪のイケメンはラファエルだ。仲間になった」

「まさか、ご主人様が最初に視(・)られたと警戒していた相手ですか?」


 そうヴィーネが聞いてくると、ユイとジョディを確認。

 そして、そのユイとジョディの前を歩かされている幹部らしき男も見えた。


「そうだ。その背後の男は魔短剣ダブルフェイスかな?」


 と、ヴィーネと共にラファエルにも、目配せしながら語る。


「そうだよ。彼がダブルフェイス。短剣使いだ。導魔術系能力を使う凄腕。殺し屋でもあるし、エマサッドと仲が良かった」


 と、ラファエルが指摘。

 彼はトルーマンに手を当てていた。

 盾となる団子、もとい、ドザンの盾も浮かんでいる。


 大丈夫だとは思うが、ラファエルは警戒している。

 戦闘メイド長のエマサッドはラファエルを虐めていたようだからな。

 そのダブルフェイスは、ユイとジョディに許可をもらい、俺の近くにくると、


「……光魔ルシヴァルの宗主殿!」


 と、渋い声で頭を下げてくる。


「何か用か?」

「宗主殿……貴方様に、我が命を捧げる。忠誠を誓います――」


 渋い声音で冷静に語り、片膝を地面に突け、頭を垂れている。

 自然で淀みのない動作だ。


「え?」


 と、思わず、俺は声を出して、ユイとジョディとヴィーネに視線を向けた。

 彼女たちも俺と目を合わせて冷静に、首を縦に振った。


「助ける代わりに、ここの場所まで案内してもらったから」


 と、ユイは神鬼・霊風の魔刀の鯉口に手を添えながら語る。

 居合い系の技をいつでも繰り出せるという感じだ。


「はい、案内してもらいました。あなた様。その男が気に入らないのであれば、処分はお任せを――」

「ジョディ、それはわたしの役目です――」


 ジョディとヴィーネは動きを揃える。

 頭を垂れたダブルフェイスの首にそれぞれの得物の刃を当てていた。

 血を纏うガドリセスの剣と鎌の巨大な刃を持つサージュ。


 ――怖いがな。


 唾を飲み込む音が聞こえる。

 それは武器を向けられているダブルフェイスじゃない。


 ラファエルだ。

 彼は瞳孔が散大。

 腰に差すトルーマンを触ろうとしている。

 が、手が震えて触ることができていない。


 震えたラファエルの肩口から覗かせる猫じゃらし風の長杖が、本当に動いているように見えた。


「ラファエル、お前には武器は向けないよ。大丈夫だ。というかヴィーネとジョディも武器を下げろ」

「はい、しかし、死の旅人のメンバーかと」

「今はいい」

「……分かりました」


 二人は武器を下げたがダブルフェイスは微動だにせず。

 頭を下げたままだが、分かる。

 こいつは、かなり狡猾そうだ、と……。


 短剣使いといえば、あの悪態笑顔(カーススマイル)のやつを思い出す。


「……」

「ダブルフェイス、頭をあげてくれ」

「は、では……」


 渋い声音を発しているように、ラファエルとは違うイケメンだ。

 カルードのような中年のイケメンおっさん。


「……死の旅人のメンバーだよな?」

「……そうです」


 嘘はついていないだろう。

 聖ギルド連盟の命を奪った奴らの一味。

 リーンとドルガルとアソルの顔が浮かぶ……。


「聖ギルド連盟のメンバーを殺したな?」

「はい、殺したのは四人。幹部ではないはず」


 と、素直に語るダブルフェイス。

 ドルガルを殺したフェウなら即座に月狼環ノ槍をぶち込んでいただろうが……。


「素直だな、死が怖くないのか?」


 俺の問いに、ニヒルに笑うダブルフェイス。


「……もとより、白色の貴婦人に紋章を埋め込まれた時点で、俺は死んでますから」

「そうか――」


 と、ブゥゥンと音を立てる血魔剣を左手で抜く。

 彼の首に血魔剣の切っ先を当てた。


 ダブルフェイスは俺を強く視る。

 魔眼か不明だが、力を宿した目だ。

 だが、それは死を覚悟した目であり、表情だ。


 そして、決意したように瞳孔が動くと、彼は自らの首を動かして、俺の血魔剣に当てようとした――。

 おぃ――急ぎ、血魔剣を引く。


「おい、自殺するつもりなのかよ」

「……」


 ダブルフェイスは驚く俺を視て、頭部を左右に僅かに振るい、


「……宗主殿、こんな俺を本気で救うつもりなのか?」


 今まで、感情を押し殺していたのか、声が震えている。

 まさか俺が助けるとは思わなかったようだ。


「命あっての物種とかじゃねぇ。甘ったれるな。ここで殺して、お前を楽にすることは簡単だってことだよ」

「……ふふ、素直じゃないシュウヤ。でも、男たちを救う日を、この目で見ることになるとはね」


 と、ユイは、ラファエルとダブルフェイスを見て、自らを皮肉っているように語る。

 笑みを讃えているユイ。

 どこか、昔のことを思い出しているような表情だ。


 俺はユイからダブルフェイスに視線を向けて、


「……ダブルフェイス、生きたいのか死にたいのか不明だが、信用はそう易々と得られないと思え」


 血魔剣を腰にしまう。


「はいッ、ありがたき幸せ……」


 ダブルフェイスか。

 死にたいならいつでも死ねたはず、俺を試したな。

 狡猾さを感じるし、気に食わない面もあるが、そういう奴も面白い。


「……ぼ、僕は……」


 ラファエルめ。

 信用していないと思っているのか。

 魂王の額縁の中に入りたいと思わせておいて、まったく。


「ラファエルよ、その面はなんだ。しゃきっとしろ。ロロも、尻尾で足を叩いているぞ」


 そう、『しっかりしろにゃ』と、ラファエルは膝裏を尻尾で叩かれていた。


「うん、そうだね。よかった。眷属さんたちもよろしくお願いするよ。僕の名はラファエル。魔法絵師系の<魔拡群絵師>が戦闘職業なんだ」


 と、お辞儀をするラファエル。


「はい、わたしはヴィーネ」

「ユイよ」

「ジョディですよ。魔法絵師ですか……久しく見てない相手ですね」


 と、魂王の額縁を注視する三人。

 ま、当然だな。ロロディーヌがその三人の足下に向かう。

 それぞれの足や衣服の臭いを、ふがふがと、チェックする神獣ちゃんだ。

 さて、可愛い黒豹(ロロ)を見ていたいが、今は、この宮殿だな。


 侵入する時にもあった深海魚の鮟鱇(あんこう)のような形のランプが壁に備わっている。

 薬の保管庫がある壁側の一部は溶けていた。


 上の階層の魔物隔離部屋と同じか。


 天井は真っ暗。

 薬の保管庫から続く壁に紋章陣らしきモノが溶けたように崩壊した痕がいたるところにあった。


 しかし、まだ壁に残っている彫刻は見事な出来栄えだ。

 ただ、黒豹(ロロ)の炎を受けた箇所は悲惨なことになっている。


 ある種のアートか。


 壁の上の方にある飾りを見ていると、タペストリーがあった。

 象と象が重なって鮟鱇のような魚を持ち上げている絵柄。


 彫った壁と合う形だから、いちいち、凝っている。


 ……鮟鱇のランプか。

 当初にも思ったが、やはり、意味があるんだろうか。


 しかし、この地下宮殿は広い……。

 掌握察を強めるか……と仙魔術とは違う導魔術を展開。


 師匠に習った技術は健在だ――。

 その魔力の波が、周囲に溶けるように浸透した直後――。


 地下宮殿の奥から魔素を感じ取った。

 しかも、無数の魔素だ。


 何だこれは……。

 嫌な予感がする……。


「ンン――」


 喉声を鳴らした相棒も即座に動く。

 触手を周囲に展開――。


 四肢に膂力がありそうな筋肉を見せるように立つ相棒。

 まだ信用していないダブルフェイスを見張るような位置だ。


 だが、魔素の反応を示す方向に触手群の一部を向けていた。

 地下宮殿の奥に何かが居ることは確実か。


「ヴィーネ、ユイ、ジョディ、警戒しろ」

「地下宮殿の奥……ゼレナードは、だれも奥には入れさせなかったよ」


 ラファエルの言葉を聞いてからダブルフェイスにも視線を向ける。

 彼はラファエルと視線を合わせて頷き、会釈した。


 そして、片方がやや茶色の瞳を俺に向けて、


「……確かに。あの野郎は幹部だろうと信用はしていなかったからな……ケマチェンぐらいか」

「うん」


 ラファエルはダブルフェイスの言葉に頷く。

 その刹那――地下宮殿が揺れる震動が起きた。


 地震か?


「ま、まさか!?」


 ヴィーネはこの地震に覚えがあるような面だ。

続きは土曜日の予定です。

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