五百十五話 監獄デラースとの激闘
魔物隔離部屋に到着。
……何故、こうなった。
ゼットンらしきモンスターとトンファーを扱う男が激戦を繰り広げていた。ゼットンは肉の壁的な分厚いモンスター。
魔物隔離部屋はゼットンとトンファー使いが戦った結果か不明だが、めちゃくちゃに破壊されているが、洞窟もある。洞窟から逃げたモンスターもいるようだ。出入り口の付近にも巨大な鉄扉が湾曲し転がっている。
凹み具合からゼットンの転んだ跡かな。トンファー使いを見ながら、
「ラファエル、乱入はしないのか?」
と聞いていた。
「するさ! デラースめ、僕のゼットンを虐めるな!」
見た目から、あの動く壁巨人の方ではないと思うが一応確認するため、
「そのデラースとは、トンファー使いのことだよな」
「そうだよ! 白い制服に魔道具の皮膚で素早さも普通じゃないし、強いんだ。うぅ、僕のゼットンがボコボコに……」
弱気な言葉だが、ラファエルの視線は厳しい。
トルーマンの杖先を、そのトンファー使いに向けていた。
「にゃ~」
黒豹も鳴く。
ラファエルの構えた杖のトルーマンを凝視。
杖から出た無数の小さい足が気になるんだろう。
ラファエルは先ほど見せていた「CQC」がありそうな短銃の構えだ。
すると、トルーマンの杖先から魔法弾が一、二、三、四と連続発射。
「裏切り者か!?」
即座に気付くトンファー使い。
先端にホローポイントのような空洞がありそうな魔法弾丸が、そのトンファー使いに向かう。トンファー使いは相対し戦っている壁巨人風のゼットンを、本当に壁のように利用した。反復横跳びをくり返しながら魔法の弾丸を避ける。魔力操作もスムーズ。素早い男のトンファー使いは強者だ。
「見た感じだと、そのトルーマンの杖から射出する、魔法弾に追尾性能はないのか」
「うん――」
ラファエルは、続けて、小銃と似たトルーマンの杖から、魔法弾を放つ。
変わった銃口らしき部位から射出する螺旋した小さい弾丸たち。
そのラファエルの銃を撃つ構えが渋い。
「しつけぇぞ、ラファエル!」
「うるさい、デラース! 閉じ込められていたゼットンを虐める酷いやつ!」
魔法の銃弾は威力は中々ありそう。
しかし、あんな簡単に避ける速度を維持するデラースは凄いな。
否、速度というよりは、読みか。
ラファエルの腕先と瞳から魔法の弾丸の軌道を読んだようだ。
駆け引きをしないし、対人の戦いに関しては素人っぽい。
ラファエルが射出した弾丸が衝突した床は、本当にピストルの弾丸がめり込んだような傷ができていた。
そんな短銃トルーマンには、カートリッジと銃身らしき箇所から小さいバッタ足が生えている。バッタの足は呼吸でも行う動きでラファエルの手首と繋がった状態だ。
トルーマンの小銃的な杖から弾丸を射出する度に――。
腕環の形状の火を吐く蜥蜴こと、イントルーパーたちは、小さい火を吐き出されていく。手首から火を出しているようにも見えるし、マズルフラッシュにも見えた。が、あのバッタ足も弱点かもしれない。
魔法弾が出る直前に少し膨れる。
そんなトルーマン杖銃を撃つラファエルの背後には、依然と、魂王の額縁と部隊マークのような魔眼が浮いている。
ラファエルは肩で息をして、魔法弾を撃つのを止めた。
魔力と体力を消費するのか。すると、魔法の弾丸を避け続けていたトンファー使いも動きを止めた。トンファー使いはゼットンを凝視してから俺たちをジロッと睨む。
「隙ありだ」
と声を発して、ゼットンとの間合いを突如、詰めた。
速い――壁のような大柄モンスター『ゼットン』の片腕をトンファーで切り飛ばす。更に回し蹴りの追撃をゼットンに喰らわせて、跳躍し距離を取った。
華麗に着地はせず――。
片手ごと地面に突き刺して動きを止めたトンファー使い。
「ゼットン!」
ラファエルの悲鳴に近い声。
トンファー使いは、その声を聞いても、唾を吐いて、表情を変えず。
髪を垂らして逆さまな体勢ながら、逆に、俺たちを睨む。
「そこのタフなモンスターはなんなんだ? 目当てのモンスターも逃げちまったし……邪魔立てしやがって」
白色の軍服姿の彼はそう喋る。
片手で、倒立したような状態のままだ。
軽業師、サーカス団の演者のような機動だ。
一対のトンファー武器の全貌は……。
エヴァが扱うようなトンファーとは違う。
今は突き刺さっているから見えないが先端は杭。
そして、杭を持つトンファーの棒には細かな刃がまぶしてある。
「丈夫なゼットンを! 悔しいけど僕では……」
「ここは俺に任せろ」
「うん、ありがとう。急いで魂王の額縁に引き込まないと……」
ラファエルは片腕を失い壁に激突していたゼットンを見て、そう喋る。
「シュウヤ、ゼットンを引き込む際に隙ができるから守ってくれ!」
「了解した。ロロはラファエルを守ってあげてくれ」
「にゃ」
「神獣ちゃんも頼むよ」
「にゃお~」
「はは、可愛い。今度は本当にご褒美をあげるからね。よし! 今、ゼットンを引き寄せる準備をする、魂王ファフニール!」
トルーマンを腰に差したラファエルは、額縁を呼ぶように叫ぶ。
浮いていた印籠風魔眼アイテムを掴む。
呼ばれた魂王の額縁も、彼の頭上に瞬時に移動した。
「ゼレナードが警戒した。あの額縁の力を使うつもりか……」
デラースは警戒したのか、そう呟きながらゼットンと、俺たちの動きを見る。
額縁の力と連動しているのか、ゼットンの身体から肉団子系風の飛び道具がデラースに飛翔していく。
威力がありそうにないが、
「チィ、タフな肉壁モンスターめ――」
デラースはトンファーでその礫を弾く。
トンファーにこびりついた肉から煙があがった。
目を回すデラース。
「くそ、くせぇぇぇ!」
臭いらしい。
しかし、臭い丸弾というか、肉団子を射出したゼットンは肉体を犠牲にしているのか、身体のサイズが小さくなっていく。
「というか、俺も臭い」
「……ごめん」
と、謝るラファエル。
そのラファエルは額に汗を掻きながら、魂王の額縁を操作しているようだ。
その額縁の中央の立体的な絵が出ているのは、前と変わらない。
もう一つの異世界風、箱庭世界だ。
異世界と呼ぶべきモノか。
精巧な細工玩具のモンスターたちが暮らす世界。
異世界のような舞台装置か。回転しているし……。
演劇や歌舞伎の劇場の床に設置された特別な舞台装置やメリーゴーランドのように横回転したかと思えば、縦回転。
そんな不思議な木組みで構成した小劇場の中で暮らしているモンスターたちの動きも面白い。
パズルのピースたちが組み合わさった玩具のモンスターたち。
コミカルに立体的に動く楽しげな人形劇。
面白く、トリックアート的でもある。
そのトリックアート風の世界から、無数の魔線が出ると、ラファエルと繋がった。魂王の額縁が逆にラファエルを操って見える勢いだ。
あくまでも、見た目だけと。分かっているが……。
操り人形のようなラファエルだ。
だが、名前も〝魂王〟と〝ファフニール〟だし、実はそうだったりするのか? 魂と契約とか。
色々と制約はありそうだ……。
ラファエルの着込む魔術師系ローブと繋がる金具と腰元の装備品が少し浮いている。腰ベルトに差したトルーマンも、何か、萎縮しているように震えていた。
「ンン――」
そう鳴いた黒豹は、ラファエルが展開した魂王の額縁が作る劇場の中に入りたそうだ。
だが、ちゃんと、ラファエルの頼みごとを聞く。
ラファエルを守るように足下に移動した。
しかし、それはトルーマンに近づくということ……。
バッタのような足たちが逆再生でもするように縮小する不思議な動きを見て、口からチラリと牙を光らせる相棒。
じゃれたそうにしたロロディーヌ。
だが、誘惑に勝ったのか、ちゃんと漆黒色の触手群をラファエルの周囲に展開させた。
少し、ラファエルというかトルーマンの身が心配だ……。
まぁ、大丈夫だろうと相棒を信頼しつつトンファー使いとゼットンに視線を移した。
ゼットンの見た目は、少しだけ、有名な壁妖怪と似ている。
その直後、準備を整えたラファエルが、「よし、いくよ!」と、宣言。
「ゼットンの足は短く見えるけどね、実は!」
と、魂王の額縁を掴んで掲げた瞬間――。
身体が小さくなっていたゼットンの短足が、急激に伸びて変形。
そして、その魂王の額縁の中へと引き寄せられていった。
ゼットンと敵対しているデラースが、俄に動くゼットンを見て、一対のトンファーの切っ先を俺たちに差し向けてくる。
「――裏切り野郎が、肉壁を仕舞うつもりなら、お前が空くということだぞ?」
デラースはそう喋ると、床を蹴って、突進してきた。
即座に<魔闘術の心得>を意識し、発動。
白服の似合うデラースの踏み込みに歩幅は一定でスムーズだ。
魔法の弾丸をあっさりと避けていたように素早い――。
デラースの右腕が前に延びたようなトンファーの杭が魂王の額縁の中に戻ろうとしているゼットンの背中を捉えようとしていた。
――そうはさせない。
<血道第三・開門>――。
<血液加速>の発動。
光魔ルシヴァルの血が末端の神経にまで行き渡る。
両足に乗せた<魔闘術>と血の<血魔力>を合わせた二重の加速技――。
直進するデラースが伸ばす<刺突>系の杭刃を下から狙う――。
魔力を込めた月狼環ノ槍の<刺突>で、デラースのトンファーの下を捉えると、月狼環ノ槍の棟とトンファーが擦れながら九環刀のような環の群れと衝突しまくって、じゃらじゃらと音を奏でる。
デラースは腕を上げるように引いた。
――デラースの黒色のトンファーを弾いた。
同時に、揺れていた月狼環ノ槍の棟の金属の環から幻狼が出現し、上向いたトンファーに直進。
杭へと噛み付いた。
次々に幻狼が出現し、トンファーに噛み付いていくと、幻狼の群れは消えたが、あの黒色のトンファーに傷はない、特別製か。
そのトンファーを持つデラースとの間合いを詰めた――。
魔槍杖バルドークの<刺突>をデラースの胸へと突き出す。
続けて、至近距離から――。
《氷刃》を放つ――。
デラースはトンファーを中段に戻しながら魔槍杖バルドークの<刺突>と《氷刃》を受けず、素直に退いた。
――判断力と<魔闘術>系統の技術は高い。
退いたデラースは左右の腕を広げて閉じるといった腕をクロスさせる動作を繰り返し、
「――槍と魔法だと?」
と疑問げに喋ると、両腕に付随した一対のトンファーを胸元でくるくると回転させた。デラースは身軽さを強調するようにつま先と踵に体重を乗せつつバレエダンサーを超える機動で横回転を行った。
ゴムの靴なのか足下からキュッと音を響かせながら、その足先を揃える形で急激に動きを止めた。
流れるような動作で片方のトンファーの杭を俺に向けてくる。
トンファーの杭刃と彼の鋭い視線が合わさったデラースは渋い。
青白い瞳。その片方の瞳には、眼鏡がある。
一見、カレウドスコープのようにも見えた片眼鏡風の魔道具。
その片眼鏡と似て非なる物を装着しているデラースが、
「――金剛樹とヌベファの結晶製のトンファーが、こうも簡単に跳ね返るとはな……」
デラースはトンファー越しに俺を睨みながら語った。
金剛樹は有名な金属。ハンカイの斧とか、荒神を閉じ込めていた金属とかと同じ名だ。もう一つの素材は聞いたことないが、ミスティかエヴァなら知っている素材だろう。
やはりトンファーは特別のようだ。
デラースは俺を分析するように魔力を備えた片眼鏡を触っていた。
その触る腕を含めて白色の裾。着ている白色を基調とした軍服だ。
そんな軍服を着る中肉中背といったデラースの体格。
魔力を纏うデラースの動きを見ながら、
「……俺の二つの槍も特別だからな」
そう答えつつ、デラースの観察を続けた。
二の腕に赤色と黒色のワッペンを巻いている。
監獄という二つ名のとおり、『囚人部屋』&『魔物隔離部屋』の責任者かな? 周囲に白い制服を着た兵士たちの死体と無数のモンスターたちの死体が散らばっている。
檻に隔離されたままのモンスターは、まだ生きていた。
しかし、檻が壊れ外に出たモンスターの大半は死んだようだ。
あ、生きているモンスターが居た。背が小さい可愛らしい単眼種族だ。
震えているが、あれもモンスター?
どっかで見たような気がする。しかし、今の相手はこのデラースだ。
「そのようだ。二槍使いか? 腰の剣に魔導書も怪しいな」
デラースは片眼鏡の分析アイテムで、解析はある程度したようだ。
「だが、俺を目の前にして、よそ見とは……」
そう喋りながら、自身の魔闘術の配分を変えたデラース。
「舐められたもんだ――」
いきなり突進からの突き技を出してくる。
八槍神王位第七位リコの技術を応用しよう、自然体とした手首の柔らかさを意識しながら月狼環ノ槍を迫るトンファーに向けて突き出し、微妙に大刀穂先の角度を変えた。
柔らかく穂先を絶妙なタイミングで動かす「後の先」の技術――迫るトンファーに柔らかさを意識した月狼環ノ槍の穂先を優しく当てた。
大刀穂先の上をトンファーの杭が滑っていく――。
狙いは金属の環に嵌めることだったが、ズレた――実戦だ、相手も強いし仕方ない。同時に魔槍杖バルドークの<刺突>をデラースの懐に向かわせる。
「――二槍流!」
デラースは喋っているように俺の加速と二槍流に対応。
紅蓮色の嵐雲の矛の<刺突>は彼の左手が握る巧みなトンファーに防がれた。が、即座に魔槍杖バルドークを消去し右手を引く。
そして、自然と突きのモーションに移行した右手に魔槍杖バルドークを再出現させた。間髪を容れず――血を生かす。
視線のフェイクと、血と、左半身を使う風槍流『支え串』のフェイクを追加――。
「――あん?」
――掛かった。
右手ごと一本の血が滴る長柄武器と化す<血穿>バルドークを――もう一度、血が掛かり片目を瞑ったデラースの胴体に向かわせた――。
紅蓮を彷彿する血を纏う嵐矛が、デラースの脇腹を捉え――貫く。
白い服が血に染まった。
「ぐああぁぁ」
悲鳴をあげながらもデラースは左に移動。
傷を負うことに慣れているような動き。
側面に回り込むと右手のトンファーの杭刃で俺の頭部を突き刺そうと反撃を寄越す――。
前に出した右手の魔槍杖を消去し、すでに引いていた左手首を回転させる。
当然、その左手が握っている月狼環ノ槍も横回転。
迫った杭刃を月狼環ノ槍の柄で叩くように横に弾き飛ばす――。
傷を負いながらも反撃を繰り出したデラースはバックステップで身を退いた。
すると、彼の胸元の軍服の一部が自動的に裂けてせり上がる。
バルドークの嵐雲の矛で突いた脇腹の場所とは違う。
黒インナーがせり上がると、札が光って消えた。
そこから、小さい魔法陣が浮かび上がった――。
浮かんだ魔法陣から異質な魔力の腕が出現する。
――何だ?
スクロール系から<導想魔手>的な魔力の腕を召喚?
まぁ、三つの腕となったところで人型に変わりない接近戦を挑む――。
――前傾姿勢の特攻。
同時に、俺は右の二の腕に魔力を込めた。
右肩を突き出すように前進し、デラースと間合いを詰めた――。
「――迅い!」
と、喋るようにデラースは俺の突進に反応した。
逆に俺の頭部ごと胴体を貫こうとトンファーの杭を伸ばしてくる。
狙い通り――。
俺は右肩を傾けた光輪防具で、そのデラースが繰り出したトンファーの杭を弾く――。
風槍流『風研ぎ』を応用した歩法だ。
そのまま、横に回避しようと動いたデラースを追うように、姿勢を変えながら、生活魔法の水を周囲に放出――。
ゼロコンマ数秒の間の後、右手ごと相手の心を打つように突き出す。
魔槍杖の<水穿>を繰り出す――
水を纏わせた嵐雲の矛から蒸気のような煙が立ちのぼる――。
魔槍杖バルドークと水は相性が悪いが、その相性の悪さが、この技の妙だ――。
「――目眩ましのつもりか! <烈腕・鋼>」
デラースは胸元から飛び出た魔力の腕を盾代わりに用いた。
水を纏う嵐雲の矛はその魔力の腕をあっさりと貫く。
が、盾ではなく、魔力の腕で<水穿>を察知したようだ。
デラースは寸前で<水穿>を避けた。
「チィ――」
回避術が多才なデラースは舌打ちしながら、下段蹴りを繰り出してくる。
俺の足を刈ろうとした。
――即座に魔槍杖を消去し、素直に足を引く。
続けて、追撃に出たデラースは右手のトンファーを俺の胸に伸ばしてきた。
俺は握り手の位置を短くした月狼環ノ槍を使い、その胸元に迫った杭刃を横へと弾く。
その弾いた際に、デラースの脇腹から出た血飛沫を吸収する。
刹那、また、バックステップで退いたデラース。
「――おまえ、吸血鬼なのか」
「そうだよ、亜種だがな」
背後から「僕の血は吸わなかったくせに」とか声が聞こえたが、しらんがな。
視界にちらちら舞う血が邪魔だからと、いう反論を口にするのも億劫だ――。
デラースはそのわずかの間に――。
左腕のトンファーを振るいながら腰を回転させてくる。
右手のトンファーの杭で俺の首を狙う素振りから、ムエタイの選手のような下段蹴りを繰り出してきた。
魔槍杖バルドークを出現させる。
そのローキックのような足を、逆に引っかけようとしたが――。
今度は、左手のトンファーが、俺の胸元を貫こうと伸びてきた――。
狙いを読まれたか――か。
俺はスウェーバックで後退した瞬間、閃く――。
トンファーの杭が鼻先を過ぎるのを、見ながら、避けつつ回転し――。
左手の月狼環ノ槍と右手の魔槍杖バルドークの<豪閃>を同時に繰り出す。
デラースは最初の<豪閃>を避けるが、バルドークの<豪閃>に対応が遅れた。
かに見えたが、トンファーを地面に突き立て、バルドークの<豪閃>を防ぐ。
※ピコーン※<双豪閃>※スキル獲得※
スキルを獲得するが、喜ぶ暇もない――。
そのまま<豪閃>の威力を逆に利用したデラースは、中空で半回転しながら蹴りを繰り出してきた。
――急ぎ、退きながら最初の蹴りを避ける。
が、二段目の回転蹴りは月狼環ノ槍で受けに回るしなかった。
重い蹴り技だ、衝撃が骨にくる。キサラの蹴り技を思い出すが、それ以上か――。
三段目の蹴りは魔槍杖の柄で押し出すように弾く。
その瞬間、《氷刃》を発動させたが制動もなく身を捻って後退したデラース。
強い……。
「ひゅ~、今の<蘭蹴猛>の蹴りを防ぐか……やるな」
息は少し荒いデラース。
スタミナから回復系のスキルを持つのかもしれない。
それに、傷が回復している?
白服の軍服より、あのインナーか皮膚の特殊なモノか。
「お前こそ、傷を受けてもその動きか」
と、いった直後――。
俄に反対方向へと横回転したデラースは不規則な動きからトンファーを振るう。
やや、荒い軌道で俺の胴体を殴ろうとトンファーを向かわせてきた。
その機動は読めたが、不自然な魔力が足下に集結していることを視認。
肩に魔力を込めて、ハルホンクの片目から蒼い氷礫をその、デラースの足下に飛翔させていく――。
「狙いが分かったところで遅い!」
掛かったといわんばかりのデラースは、魔力の分身めいた残像を床に生み出す。
自身は不自然に浮かび上がっていた。
両手のトンファーを振り下ろしている。
さらに、そのトンファーの後部がずれて、細い剣刃が飛び出てくる――。
俺は両手の二槍を眼前に掲げて、トンファーと細い剣刃の攻撃を防ぐ。
――四つ同時に攻撃を防ぐことに成功。
いや、貫いたはずの魔力の拳が、腹に向かってきたが――。
しかし、俺はあるスキルで受けた。
そう<導想魔手>だ。
「――な、何だと!?」
「魔力の拳には歪な魔力の拳ってか――」
強引に月狼環ノ槍と魔槍杖バルドークを押し出すように前転――。
そのままトンファーごと巻き込むように相手の胸元にドロップキックを喰らわせた。
もろにデラースの胸にアーゼンのブーツ底が食い込む。
手応えあり。
「ぐえぇ」
血を吐くデラースは吹き飛び着地するや否や前傾姿勢で突進――。
風槍流『風研ぎ』の構えのまま月狼環ノ槍で<刺突>を繰り出す。デラースの左前腕に月狼環ノ槍の<刺突>が穿つ。更に体勢を低くしたまま右腕を斜め下に突き出すように魔槍杖バルドークの<牙衝>をデラースの足に繰り出し、その右足を嵐雲の矛が穿った。
「――グッァ、こなくそがぁぁぁ」
デラースは叫びつつ魔槍杖バルドークの矛が貫いた足を自ら引き裂くように移動――。
左腕から血を発しているデラースは片眼鏡を光らせながら右手のトンファーの先端を差し向けようとした。
そんなのは無視だ。左手の月狼環ノ槍を宙に浮かせる。
デラースは勿論、不自然な槍の動きと金属音に釣られた。
刹那――身を捻りながら<牙衝>を繰り出していた魔槍杖バルドークを手前に引き戻し、右手の魔槍杖バルドークを前に突き出すモーションに入る。
今度の狙いは腹だ――嵐雲の矛の<血穿>でデラースの腹をぶち抜く! 左手に神槍ガンジスを召喚――。
そのタイミングで魔槍杖バルドークの<血穿>がデラースの左の下腹を捉え穿った――。
血飛沫の血が眼前に血の幕を作る中――宙に浮いた月狼環ノ槍を<導想魔手>が掴み、三槍流に移行した瞬間――。
<無影歩>と同時に脳脊魔速を発動。
回転の連撃を意識し脳脊魔速の加速のまま回転しながら前進――意。
最初にデラースの頭部を神槍ガンジスの穂先が捉えた。
続いてデラースの胸に月狼環ノ槍の穂先が衝き刺さる。
最後に、デラースの下腹部を引き千切る魔槍杖バルドークの穂先――。
一旋風、二旋風、三旋風、と神速の域で空間ごと切り刻む勢いで駆け抜けていた。血を吸いながら余韻を残す。
<無影歩>を解除し脳脊魔速を終える。
と、目の前は血だらけの世界が広がっていた。
風槍流オリジナル『真・風雅の舞』という感じだろうか……。
※ピコーン※無天・風雅槍※スキル獲得※
よっしゃ、スキルをゲット。
<双豪閃>も獲得したし二つも獲得した。
最後は舞ってより<無影歩>と関係した感じか。
魔闘術を残しつつ<血液加速>を解除。
ヴァンパイアらしく足下から血を吸い取っていく。
「おおお!! 消えて現れるし! 血を吸い取っていくさまが、美しい……それに、その魔力の腕は凄い!」
「にゃおおお~」
ラファエルとロロディーヌの興奮した声が背後から響いた。
ラファエルと相棒の声を背中で応えながら<導想魔手>が握る月狼環ノ槍を掲げる。ゼットンは無事に回収を終えたようだ。
後は、薬とユイたちに合流かな。
両手から武器を消して、振り返りながら、
「三腕なら三腕って奴さ」
とラファエルに答えた。
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コミックファイア様から漫画版「槍使いと、黒猫。」1~2巻発売中。




