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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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四百九十五話 追跡

 樹海を進むロンハンとダヴィは足を止めた。

 

 まだ本部のような建物は見当たらないが……。

 ――俺も走るのを止めた。

 膝頭を地面の根に当て体勢を低くする。


 ロンハンたちの様子を窺う。

 背後のユイに合わせ、背中に回した片手で……血文字を作った。

 

 暗号文めいた血文字を送る――。


 血文字を見たであろうユイ。

 俺の背後で動きを止めた。

 

 ユイの位置は見ずとも感覚で分かる。


 そんな俺はカレウドスコープとスキルの<無影歩>を発動中。

 仙魔術を実行した時も、自然と同化するように俺の姿は消えて見えるが、この<無影歩>は仙魔術以上にステルス性能を引き上げる効果があった。

 さらに<暗者適応>を取り込んだ効果か、成長している効果か、不明だが……。

 <隠身(ハイド)>系スキルを実行しながら俺と行動を共にしているユイも、


『自分の隠蔽効果が上がっているような感覚を得たわ。後、少しシュウヤを凝視すれば見れたけど、今は見えにくくなった。能力を使えば別だけどね。臭いの判別も難しい』


 と、血文字で連絡してきた。

 ユイを含めた<筆頭従者長>たちでさえ俺の血の臭いを嗅ぎ取ることができなくなるとはな。


 勿論、ユイは光魔ルシヴァルの<筆頭従者長>。

 その彼女が使う<隠身(ハイド)>系スキルも優秀だ。

 幼い頃から父のカルードから剣術と暗殺者の訓練をしながら育った下地がある。

 元暗殺者でありネビュロスの三傑としても活躍していた。


 さらに死神ベイカラに愛でられている美人さんだ。


 選ばれし眷属のユイだからこその向上効果もあるのかもしれない。


 この<無影歩>の影響範囲は不明だが……。

 俺の仲間や眷属たちにも効果を及ぼすようだ。


 眷属だからこそ影響を受けることが可能なのかもしれない。

 肩に居る神獣の黒猫(ロロ)もそうだ。

 前に<無影歩>のことをステータスで見た時は周囲に影響があるとは記されていなかったが……。


 現に効果は出ている。

 背後のユイは俺の<無影歩>効果が重なっているのか魔力が外に出ていない。

 ……魔力探知に優れた者でも、葉と風の流れを意味するような微かな魔素の流れだと判断するだろう。


 ま、俺の<無影歩>だけの効果だとしたら……。

 素直に伝説のアサシンクリード一家の長マクスオブフェルトさんに感謝しよう。


 この世界のどこかで活躍するマクスオブフェルトさんに感謝を込めて……。


 ――ラ・ケラーダのマークを胸元に作ると肩で見ていた黒猫(ロロ)が反応。


「ンン――」


 と、微かな喉声を鳴らしながら、ジャブ気味の猫パンチを繰り出す。

 シュッシュッと音を立てるように肉球アタックを、ラ・ケラーダのマークを胸元に作った指に当ててきた。


 鼻息を荒くした黒猫(ロロ)さん。

 やわらかい肉球の感触だ……たまらんな。


「ロロ、そんなジャブじゃ、枯れ葉は掴めないぞ」

「にゃ?」


 黒猫(ロロ)は頭部を傾けて鳴く。

 素直に可愛い。

 小さい頭部を撫でて、その耳を引っ張りたくなった!

 ――だが、我慢だ。

 さて、後続の眷属たちのために、要所、要所で、目印となる血を残す。

 

 仮面が似合うユイは俺の隣に来て体勢を低くすると前方を窺う。


「標的が止まったわね」

「あぁ、ここに本拠地のような建物はないが、ユイは俺が見えるのか?」

「さすがにこの距離では見えるし、愚問ね」


 あぁ、そうか。と、ユイの言葉に頷く。

 さっきも能力を使えば別と血文字を寄越してきた。


 彼女は<ベイカラの瞳>を持つからな。

 俺は一度どころか、何度も、ユイに縁取られている。


 ということはユイには<無影歩>も効かない。

 ヤヴェ、俺が何処で何をしてようが追ってこられる暗殺者ってことだ……。

 次元を超えた場合は分からないが……。


 すると、前で動きを止めたロンハンとダヴィが振り返ってくる――。


 一瞬、バレたか?

 と、ユイと俺は顔を見合わせる。


 ユイは腰を僅かに捻りながら伝説(レジェンド)級の神鬼・霊風の太刀の柄に指を当てていた。

 魔力を内包した鞘も美しい。

 そんなユイの体勢は、居合がすぐに発動可能な片膝を地面につけた「片胡坐」に近い。

 武門に通じた小貴族のフローグマン家の活躍の場は、何も戦場ばかりではないことの証拠だ。


 カルードとの訓練は室内が多かったようだし。

 そんな緊張感を漂わせたユイだったが……。

 前方に居るロンハンとダヴィは『心配のしすぎだ』と語ったような表情を浮かべて笑い合う。

 二人は『追跡の気配がないか?』といったように、背後を、単に確認しているだけだった。


 何がどうしておかしいのか分からないが、隠れている俺たちにも聞こえてくるぐらいの笑い声だ。

 二人の笑い声が周囲に木霊する。


 樹海の生物たちがその人の笑い声を聞いてざわめいた。

 二人は手練れなのか、樹海のモンスターたちの荒ぶる声を聞いても気にしない。

 ロンタンとダヴィは笑いながら腰にぶら下げている魔道具を調べては、互いの手を握り、見つめ合う。


 なんだなんだ……。

 ロンハンはダヴィの腰に手を回している。

 樹海を背景としたロマンチックな流れとなった。

 もしかして恋人同士なのか?

 キスを始めた。


 事前情報で、


『女遊びが激しそうな男です』


 と、ヴィーネからも報告があったようにあの女性も遊ばれているのかな。


 今もキスに夢中だ。

 見たくない――。

 といった思いから、指先で視界に居るロンハンたちを払うように手を動かす。


 第六の指状態となっているイモリザが反応した。


『お前たちの出番はまだ後だ』


 と、指状態のイモリザに気持ちを込めると――。

 血文字が宙に浮かぶ。


『ごしゅさま。八魚亭の魔法陣を確認しました』


 アラハと一緒に居るはずのサザーの血文字連絡だ。

 続いて、


『ご主人様、フーです。秋風亭の魔法陣を確認、雑魚は血を吸って干からびました』

『マイロード、フレデリカの屋敷にある魔法陣を確認』


 ユイも浮かんでいる血文字を見て、自慢げに頷いている。

 アルゼの街に住む人々の命を奪う魔法陣。

 その魔法陣の破壊には、リスクがあることを承知の上で、カルードを隊長とする血獣隊と墓掘り人の一部が迅速に動いてくれた。


『さすがはカルード。ルシヴァル親衛隊隊長なだけはあります』


 左目に宿る精霊ヘルメが、そんな思念を寄こす。

 

 そういえば……。

 カルードを眷属化しようとした時に、ヘルメはそんなことを語っていた。

 ヘルメの野望の骨組みが徐々にできあがっているのは気のせいだろうか……。


 そのことは血文字では伝えない。


『了解した。まだ、その魔法陣に傷を付けたり破壊はするな。人質を救出した後に破壊だ。その後は……』


 と、皆に血文字で指示を出す。


『はい、掃討戦ですね!』

『皆様と合流しながら、向かいます』

『承知』


 最後のカルードによる血文字の返事は短い。


 だが、短いからこそ……。

 〝すべてを把握していますぞ〟〝マイロード!〟といった熱さが感じられる。

 アルゼの街の領主でもあるフレデリカ邸には、白色の貴婦人勢力が潜り込んでいたが、カルードたちが適切に対処した。

 紋章も埋め込んでいない捨て駒の雑魚が墓掘り人を含めたカルードたちに敵うわけもない。


 カルードの血文字は筆圧も他と違うから、そんな意味を感じ取る。


 そうして、個性ある血文字の連絡を終えたところでロンハンとダヴィは動きを変えた。

 パコパコとセックスをやりそうな勢いだったがキスのみだった。

 よかった……。

 見たくないし、俺は眷属たちの求めに応じて、がんばったからな……。

 だが、ロンハンとダヴィは話し合っている。

 イチャイチャはまだ続くらしい。

 しょうがないな? とユイを見る。


 お揃いの般若仮面をかぶるユイも同じ気持ちだったようで、深く頷いている。


「んじゃ、もう少しここに居るとして、ここにも、後続のために血の印を作ろうかと思う。そして、少し試す」

「試す? シュウヤの血を魔造虎に宿る新しい幻獣に飲ませるとか?」


 それ、いいかも。

 黒猫(ロロ)黄黒猫(アーレイ)白黒猫(ヒュレミ)も飲んでたし、幻獣の好みとかあると思うが、今度試してみるか。


「……面白いことを考えるな。まぁそれとは違う。見てて」


 <無影歩>を実行しっぱなしで、ユイにそう語る……。

 <血道第一・開門>で血を腕から流す。


 即座に<血道第四・開門>を意識しながら<ルシヴァルの紋章樹>を発動した――。

 続けて<光魔の王笏>も発動させる――。


 ――<霊血の泉>は距離的に不可能か。

 サイデイルに聳え立つ紋章樹とそこに棲むルッシーはまだ幼い。

 それに、この樹海の大地には、女王サーダインの力もあるだろう。


 サーダインも語っていた。

 前に、聖ギルド連盟の黒髪のアソルも語っていたが、樹海は、この惑星の中に全部で十二個あるようだしな。

 マハハイム大陸だけを差しているのかは不明だが。


 知記憶の王樹キュルハ、破壊の王ラシーンズ・レビオダの力の一部を受け継ぐ女王サーダイン。

 <紅蓮嵐穿>で、そのサーダインの体を穿ったが、生きていた。

 さらに、俺の知らないところで、地中深くからサイデイル村を襲おうとしていたんだ。

 イグルードを元としたルッシーのルシヴァルの紋章樹がなければ……。


 と、いやな想像は止めとこう。

 両手の指から流れ出る血を、太い樹木へと向かわせる――。


「ぁ……血の臭いを感じる」


 と、呟くユイ。

 ――ユイは俺の血を吸いたくなったんだろう。


 彼女の般若の面越しの双眸が血色に煌めいた。

 <ベイカラの瞳>を発動しているユイ……。

 仮面越しとはいえ、白い双眸が生み出す血の光芒の煌めきは凄く綺麗だった。


 ――太い樹に触れた俺の血。

 樹の荒い樹皮を覆うと、その血の樹皮は赤黒い竜鱗のようなモノに見えてきた。

 血は樹の中に浸透していく。


「血を樹木に浸透させることが試すこと?」


 ユイはそう聞きながら、俺の血が浸透した樹を見ていた。


「効果は不明だが、そうだ」


 その直後、竜鱗の皮ように荒い幹の樹皮だったものが、侵食を受けたように萎んでたわんだ。


「動いている!」

『不思議です』


 たわんだ樹皮は剥がれながら燃えて塵を宙に生み出していく。

 その燃えた塵のようなモノは宙に漂いながら、血文字のようなモノを形成。

 古代の魔法書を読んだ時の現象に近い。


 あの時のように頭には来ないが……。

 それら浮かんだ血文字と似た塵たちは、樹の絵を宙に描いていく――。

 おぉ……。

 それは墨汁と筆で劇画風に描かれたルシヴァルの紋章樹だった。


「……目印にしては神聖さがあるけど、綺麗」

「あぁ、どうして、このような綺麗な絵となったのかは、まったくもって分からないが」

「実はシュウヤって芸術家になりたかったとか? 心の内面が出た?」

「ユイさん、分かってるねぇ。俺の心は常に芸術が爆発しているからな」

「ぷ、何が芸術よ。エロの爆発でしょうが」


 ユイはレベッカなみのツッコミを繰り出す。


「はは」

「……」


 と、小声で笑った。

 だが、ユイは仮面の口の部位に人差し指を立てている。

 自分も喋ってたくせに『静かにして』という意味を告げてきた。


 今は<無影歩>中だが、ロンハンとダヴィが前方に居るからな。

 音はあまり立てられない。

 

 俺は頷いてから宙に浮かぶ紋章樹を見ていく。

 その宙に墨汁で描かれた紋章樹には、ちゃんと二十個の大きな円と、二十五個の小さい円がある。


 大きな円は<筆頭従者長>たちの意味だ。

 小さい円は<従者長>としてのマーク。


 カルードの小さい円から派生し延びた線と繋がっている小さい円もある。

 その円の中に鴉さんの文字が刻まれていた。


 小円にはママニたちの血獣隊の名前と新しいクエマとソロボの名もある。


 そのクエマだが……。


 骨笛と連動した<鬼幻の音灯>の効果が増したと話をしていた。

 光魔ルシヴァルの血族になっても、戦神グンダルンは認めてくれたとか発狂するように喜んでいたが、急いでいたから詳しくは聞かなかったな。


 ムーがそのクエマとソロボに訓練を催促していたこともある。

 さらに、オーク語の言葉をドミドーン博士&助手のミエさんとキッシュたちに教えている。

 色々と忙しいからなクエマ&ソロボも。

 オーク語と共通語のせいで転移者のサナさんとヒナさんは苦労していたが眼鏡が似合うヒナさんは何か嬉しそうだった。


 そのサナさんは、


『座学ばかりではだめです』


 と、語学ばかりでストレスが溜まっていたのもあると思うが、音なしの又兵衛の戦魔をムーたちの訓練に参加させては、自身もその訓練に交ざり出す。


 一緒に汗を流す様子は楽しそうに見えた。

 その様子を、訓練場の外からリデルが応援している様子も絵になったな。


 サナさんとヒナさんは順調だ。

 まぁ、彼女たちの異世界ライフはまだ始まったばかり。

 俺の知らない科学と十二名家の魔術師の知識が、この世界でも通じることを祈ろう。


 と、少し前のサイデイルの出来事を思い出しつつ紋章樹を見ていく。


 <光魔騎士>として形の変わった円もあった。

 その変わった円の中にシュヘリアとデルハウトの名が刻まれている。


 ヘルメとジョディにイモリザとクナの名はない。

 ジョディが眷属となった時、俺は<光魔ノ蓮華蝶>を獲得した。


 そして、ジョディは<光魔ノ蝶徒>として生まれ変わることができた。

 アーゴルンの魔宝石を心臓に持つ。

 見た目も白を基調とするジョディの姿と衣裳のように綺麗な宝石だったな。


 これは前と同じこと考えたが、イモリザ、ツアン、ピュリンと同じような<光邪ノ使徒>と同じ。

 常闇の水精霊ヘルメと沸騎士と同じ部類だ。


 そして、二十個の大きな円の中を注視。

 <筆頭従者長>としてのヴィーネを含め、俺の側に居るユイ、現在ペルネーテで活動中のヴェロニカの名も、しっかりと刻まれている。

 ヴェロニカの<筆頭従者長>の大円から派生した小さい円もあった。

 その小さい円にはヴェロニカの直系を意味する<筆頭従者>のメルとベネットの名が刻まれている。


 <筆頭従者>は<筆頭従者長>だけが持つ家族だな。

 そして、俺には<筆頭従者>は作れない。

 

 ま、大本は俺と繋がっているからメルもベネットも大家族の一員だ。


「サイデイルでも少し見たけど、シュヘリアさんとデルハウトさんの円の形は、他と少し違うわね」

「なんせ、元は魔界の神々の誰かが認めなきゃ成れない魔界騎士だからな。特別な光魔騎士との意味だろう」


 俺は首筋の傷痕のような<夢闇祝>のマークをさすりながら話す。


「うんって、あれ?」


 ユイが驚いている。

 その驚いた理由は、悪夢の女王ヴァーミナが出現したわけじゃない。

明日も更新予定です。


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