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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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四百九十話 ヒヨリミ様の弦歌ダンスと聖杯伝説

 

 キコとジェスを先頭にヒヨリミ様たち一行は廓のような数寄を凝らした木の道を歩く。

 大月と小月のオブジェと巨大な神狼ハーレイア像と狼たちの像も、音楽を奏でながらダンスを披露する彼女たちの行進を応援し祝福するように光を帯びていく。


 音楽とダンスに像たちのイルミネーションか。

 ちんどん屋とは違う。

 アイソレーションも統一されているし、楽しげで繊細で……風が通るような……。

 高度な玄人向けのパレードを行う黒衣を着た集団だな。


 先頭集団に交ざっているヒヨリミ様たちは狼将たちの座る場所に向かう。

 次第にハーレイアの神像の光が強まった。

 周囲の狼の像たちもキラキラとした光を強めていく。


 それら光り輝く像の群れが、無数の樹と枝葉が形成している樹の屋根の中央に出来ていた大きい穴へ吠えているように見えた。

 吼えているような神像の群れは、光を発し、行進しているヒヨリミ様の一行を追いかけるように光を差し延ばしてゆく。


 その不思議な光が影のようにヒヨリミ様たちを捕らえると、そのヒヨリミ様に強いスポットライトが照射されたように見えた。


 一気に華やかな雰囲気となった。


 神像からの温かそうな光を気持ちよさげに浴びているヒヨリミ様たち。

 絨毯の上を楽しげに音楽を奏でながら上座の方へと歩く一行。


 光を浴びている一団は、まさに銀光の歌劇団――。

 黒衣の衣裳だが、銀を纏う歌劇団だ。


 特徴的な楽器を持った女性たちは前回以上に増えている。


 え? ぷゆゆ系だ。

 古代狼族の中に、樹海獣人がちらほらと混ざっていた。

 ソンゾル族とテルポット族という種族らしいが……。

 しかし、俺の知るカウボーイハットをかぶる樹海獣人はいない。  

 相棒の神獣ロロディーヌと匂いを嗅ぎ合った魔獣に乗った樹海獣人。

 もう一度会いたいような会いたくないような、樹海おっさんは見かけなかった。


 それにしても音楽とダンスが凄い……。


 花びらを撒く者たち。

 梟を含めた鳥たちを従える魔物使いの者たち。

 歌う者たちと踊る者たち。

 小さい太鼓を胸抱えて扱う者たち。

 ピアノのような繊細な音を出す小さい楽器を持つ者たち。

 カスタネットを叩く者たちと弦楽器を扱う者たち。

 シンバルを扱う者たち。

 人差し指と中指と親指を擦り当て、パッチンとした音を立ててリズムを刻む者たち。

 そして、傘を持ったヒヨリミ様のダンス。

 蝙蝠傘は良く見ると弦楽器だった。ストゥリングス系か……。

 皆が皆、楽器の音程に合わせてリズミカルに歩き、走り、踊る。


 風が通るような美しい音楽と巧みなダンスの動き。

 古代狼族の長い歴史をダンスと音で表現していると理解できた。


 巧みな歌劇団の劇を生で見ているようで凄く面白いし魅了される。

 宙をひらひらと舞う花びらが楽譜に見えた。

 その楽譜に見える花弁たちを啄む梟と魔鳥たちが一小節と二小節を記す音符記号に見えてくる。


『……楽しく、非常に芸術性の高い音楽です』

『そうだな……この狼月都市は音楽に満ちている』


 本当に感動だよ。しかし、そんな感想を持つが……。

 樹海獣人のダンスと音楽も見事なんだが……。


 ぷゆゆを知っているだけに変な気持ちとなった。

 思わずエヴァたちを見る。

 皆、音楽に乗って手を叩き楽しんでいたが微妙に驚いているような面だ。


 レベッカもエヴァと一緒に微笑みながら、目と指で樹海獣人たちを差している。


 俺は『うんうんと』笑いながら頷いていた。

 ぷゆゆを知っているしな、彼女たちは都市の外を見学していないのもある。


 あんな風に楽器を器用に扱う樹海獣人たちを見たら圧倒されるか。

 俺も驚いたからなぁ。

 この狼月都市ハーレイアには、ぷゆゆ系の種族がいっぱい歩いているんだから……。


『妾も混ざるか?』

『ダメだ。踊り混ざりながら鳥を貫いて、狼将たちもついでに攻撃するつもりだろ?』

『ぐぬぬぬ』


 冗談半分だが、サラテンはいつもの反応。

 とはいうものの……。

 サラテンはイターシャが戻ってこなかったことでショックを受けている。

 今も森屋敷の宮で墓掘り人たちと一緒に留守番しているジョディの近くに居る(いたち)姿のイターシャちゃん。


 アリスと一緒にねんねしているかもしれない。

 左目に棲まうヘルメと左手の傷の中にある異世界のような場所に格納されているサラテンの会話を楽しみつつ古代狼族たちの音楽とダンスを楽しんでいく。


 踊り子たちや楽器を持つ古代狼族たちの頭部には花びらが落ちていった。

 ヒヨリミ様は音楽と歌声に合わせて、自身もソロパートの歌声を披露。


 それは古代狼族の詩。

 ハイグリアも関係があるようで、頭部を左右にリズム良く揺らしながら口ずさんでいた。

 切なさがあるが……ジーンと心の奥に沁みる曲と歌だ。


 そんなハイグリアが着ている服は尻尾も出ている。

 紅色が基調で花飾りが揺れていく。


 花嫁衣装と呼ぶべきものだが……そこはやはり古代狼族。

 銀式爪鎧と一体化している戦士風のデザインだ。


「……シュウヤ、婆様の声と弦楽器にダンスは合議の際に、時々行われるぐらいで滅多に見られない。凄く貴重なのだ」

「そうなんだ」


 と、ハイグリアに答えながら、そのヒヨリミ様一行に視線を戻す。

 ヒヨリミ様は歌いながら植物系の柄の蝙蝠傘を左右に振るい、落ちてくるリズム良く花弁を払う――。

 花を払いつつも傘に付属する弦を銀爪で弾き、音を奏でるヒヨリミ様は、歌声とダンスをも実行する。


 ――美しい。


 ただ、それしか出てこなかった。


 そんなヒヨリミ様を中心とした歌劇団の一行が向かう狼将たちの席には、数席の空きがある。


 そういえば……ハイグリアと出会った時。

 彼女は狼将の仇を取ろうとヴァンパイアと戦っていた。


 そのヴァンパイアは<筆頭従者>ホフマンの直系の<従者長>ユオ。 

 そのユオはハイグリアと戦っていた。

 

 そして、ヴァンパイアハンターのノーラも、そのヴァンパイアと古代狼族との戦いに途中から乱入したんだっけか。


 俺も参加して、そのユオを捕らえたが、仇ということでハイグリアに譲った。

 

 あの時、狼将の仇であるユオを討ち取れたハイグリアは嬉しそうだった。

 神姫としての仕事を全うしたともいえる。


 あの空いている席の一部は、そのユオが殺した狼将の席なんだろうか。

 歌劇団と化したヒヨリミ様たち一行が、その空いている席を含めて座っている狼将たちに近付くと、座っていた狼将たちは席から降りた。


 先ほど俺を睨んだドルセルという名の狼将だろう。

 そのドルセルの頭部と肩にある傷痕は痛々しい。

 爪鎧で隠されていないから、わざと傷痕を晒しているのかもしれない。

 睨みを強めていた狼将たちはリズミカルに近付いてくるヒヨリミ様に対して、


「ハハッ――」


 敬う声を上げて片膝の頭を床につけていた。

 続いて音楽と合う形で一斉に頭を下げた。


 シンバルの音と重なる。

 狼将たちはヒヨリミ様に対して頭を下げたまま片腕を差し出した。


 狼将たちの片腕には個性がある。

 各狼将の爪が体に展開している爪鎧は形が違う。

 普通の古代狼族の兵士たちより狼将たちの爪鎧は洗練されている。


 古代狼族たちの両手の爪は、全身の防具や衣服にもなる優れ物だ、特有の力で種族特性かな。

 階級ごとに爪鎧の質が違うことも面白い。

 

 ヒヨリミ様の両手の爪も指と両手首に体を覆う洗練された鎧と化している。


 ハイグリアと同じ銀爪式獣鎧という能力の名前だろう。

 狼将たちもそれぞれに固有の名がありそうな爪鎧を装備している。

 各自の両手の爪は体の表面を這うように移動し、溶けた蝋が固まるような動きで己の体毛とも融合しているような装甲もあるようだ。

 

 武器か防具を意味するような特徴を持った形。

 そんな爪の籠手たちの表面には……。

 少し盛り上がった加工が施された家紋のような印があった。 

 家紋は胸元のマークと同じかな。

 それぞれの狼将が率いる部族の意味を表す印だろう。


 俺はその中で、一人の狼将の印を注視した。

 樹海で見たマークと同じだ。

 場所は、古代狼族にとっての前線地域、名は【狼の角蝋目】だったかな。


 だから、あの豹獣人(セバーカ)のカズンさんと似ている狼将は、俺たちが通り過ぎた前線を縄張りに持つということか?


 狼将たちの名は……。


 アゼラヌ。

 ドルセル。

 オウリア。

 ビドルヌ。


 と聞いている。

 その狼将たちがヒヨリミ様に差し出している爪の先端は総じて丸く光っていた。

 ヒヨリミ様は、その光っている狼将の爪と自身の爪の先端を合わせていく。


 大狼后と狼将が行う挨拶かな。

 ……女王の手の甲にキスを行うような所作に見える。


 爪が触れあう度に……ヒヨリミ様の爪と衣服が銀色に煌めく。

 あの美しい銀色の光はハイグリアと同じ血筋だという意味だろう。

 爪先と衣服からも魔力の小さい波が発生。

 

 小さい魔力の波は宙へと浸透するように消失していく。 


 波が現れ消えていく度に月狼環ノ槍は震えた。

 ヒヨリミ様は狼将たちと爪を合わせるという挨拶をしながら卓の回りを一周していく。


 ハイグリアも目元を潤ませながら「婆様……」と呟いた。


 すると、


「シュウヤ、音楽は最高に楽しいけど、白の大将の討伐を忘れないでよ!」

「ん、白色の貴婦人とハイグリアをぶっとばせ!」

「マイロードと決闘とは羨ましい」

「貴方、シュウヤ様は本気で戦いませんよ?」

「そうなのか」


 カルードは勘違いしているようだ。

 鴉さんに指摘を受けていた。


「うん、マスターが本気を出したらハイグリアちゃんは大変なことになるし。でも、何かイライラするから新型魔導人形(ウォーガノフ)で、決闘ごと卓をぶち壊す?」

「シュウヤが前に教えてくれたけど、ちゃぶだい返しって奴でしょ? 賛成よ! 怖い視線を向けてくる狼将ごと、破壊ヲ希望~。でも、このお菓子、今流行ってるだけはあるわね~」


 地面ごとひっくり返すことに賛成したレベッカはお菓子を食べている。

 

 ちゃぶだい返しの部分で、第六の指と化していたイモリザが反応したが、無視。

 ミスティは流れから、本当に新型魔導人形(ウォーガノフ)を機動させた。


 近くに居たリョクラインが新型(ゼクス)の動きを見て、驚いていた。

 リョクラインと話をしていたヴィーネも隣に居るが……。


 俺に嫉妬の視線を寄越していた。


「……ご主人様……」

「ヴィーネ落ち込まないの。決闘と儀式は約束だから。それにキッシュのためでもある」

「ん、故郷のサイデイルは復興して発展しているけど、もっと安全にするためには、この同盟は必須」

「キッシュさんと取り決めを守るとハイグリアさんも約束をしたようだし。応援はしたくないけど、しないと……ね。樹海の周辺は地上も地下も白色の貴婦人以外に敵がわんさか居る状況だし」


 ミスティの言い方は諦めも入った口調だが……。

 今後のことを考えたら当然といったニュアンスだ。


「そう、樹怪王の軍団はベンラック村でも有名」


 エヴァがそう答えていた。


「ご主人様のためになることは分かっている……しかし、偕老同穴かいろうどうけつは……」

「あ、そういえば夫婦の儀式を行ったと自慢していたっけ」

「ん、ヴィーネとシュウヤはもう結婚してた?」

「知らず知らずのうちにダークエルフの契りを交わしているシュウヤ……」

「それは前に聞いた。わたしと再会する前だし……仕方がないけど」


 ユイは一瞬、俺を一瞥した。

 <ベイカラの瞳>が発動していたような、気がしたが、気のせいのはずだ……。


「ん、でも、選ばれし眷属は結婚と同じ?」

「うんうん。そう、そうよ! だから皆同じよ!」

「ンン、にゃお~」


 相棒が何故かレベッカに賛同したように鳴き声を上げている。

 片足の肉球を見せるように上げていた。


 別に肉球パンチを繰り出しているわけではない。


「一番は、わたしのはず……」


 ヴィーネが強きなことをいうが、珍しく弱さが出ていた。


「ううん、一番はわたしよ! ぁぅ、ロロちゃん、舐めちゃだめ。あ、神獣様も一番はわたしってこと?」

「ん、違う。ロロちゃんはわたしの手を舐めてくれた。あ、今も舐められた」


 エヴァの手をぺろぺろと舐めていく黒豹(ロロ)

 猫、もとい豹パンチではなかったか。


 舌のざらつきが、豹だからな……。

 なんともいえないはずだ。


「……とりあえず、そのお菓子をもらおう……」

「ヴィーネも気に入った? イモテンプラは癖になるのよね」


 右側で怖いことを発言しながらもお菓子を食べている眷属たち。

 黒豹(ロロ)も側で撫でられながら、皆の手を舐めているようだ。


 サザーは相棒の触手で頭部をわしゃわしゃと悪戯されていた。


 ママニたち血獣隊も一緒だ。

 クナも居るが、ハンカイに睨まれている。


「そんな警戒しても仕方ないと思うのだけど」

「ふん、俺の前で油断すると……」

「ちょっと、二人でやり合わないでよ?」

「ん、仲良く!」


 エヴァの注意でハンカイも照れるように微笑んで頷いた。

 あの沸騎士も動揺する天使の微笑を見たら、だれでもそうなるだろう。


 相棒の尻尾を握っているレネ&ソプラさんも見えた。


 ツラヌキ団の小柄獣人(ノイルランナー)たちは森屋敷の宮で待機だ。


 皆の様子を確認してから隣のハイグリアを見た。

 眷属たちの言葉を聞いたハイグリアは俺を守ろうと腕を伸ばしている。


 俺より、自分の身を守った方がいいと思うが……。


 眷属たちは不満げだが、これは仕方がない。

 レベッカが珍しく理解を示しているように……。


 前に約束をしたのだからな……。

 ハイグリアと決闘という儀式を行うと。

 まだ、どんなことをやるのか詳しく聞いていないが……。


「ハイグリア様! 気合いですよ!」


 と、俺の眷属たちが見守っている席からリョクラインの声が響いた。


「うむ!」


 と、元気よく声を上げて応えたハイグリアは、俺を見てくる。


「シュウヤ、見れば分かるが、もうすぐ始まる」

「了解」

「わたしに任せれば、この儀式はすぐに終わるはずだ」

「分かった」


 頷いてから、再び、ヒヨリミ様たちを見る。


 杖のような縦笛にも横笛にもなる笛を吹くキコとジェス。


 キコとジェスはヒヨリミ様たちを見るように、笛を吹きつつ、八方にストップ&ゴーのダンスステップを使い踊り歩いては、案内を務めている。


 笛を吹きながら高度なステップダンスを行っていた。

 二人は壇が高い場所に来ると、ピタと背を反らし揃えて動き止める。


 そこは巨大な神狼ハーレイア象の真下に接地された壇だ。

 二人は笛を唇から離してから、その笛をバトン棒のように縦回転させていく。


 回転する笛から魔力が発生。

 魔力は網のように拡大――。


 魔力を発した笛を振る続けるキコとジェスはヒヨリミ様に対して恭しく頭を下げる。


 彼女たちが宙に放っていた魔力の網は散っていた花びらと連動した。


 花びらと花びらが円を描くように宙空に拡がる。

 花弁と花弁は魔線で繋がり、花弁の群れが円となるように薄い膜が拡がってヒヨリミ様が座るだろう大きい席を囲った。


 その円の膜は正面に出入り口もある。


 キコとジェスたちはバックコーラスの歌姫の声に合わせながら円の形の膜に守られている、その大きい椅子へとヒヨリミ様を誘導した。

 ヒヨリミ様は頷く。


「二人ともありがとう」

「はい――」


 返事をしたキコとジェスは、自分たちの魔力を椅子に足を向けたヒヨリミ様に対して放った。


 キコとジェスの魔力を全身に受けたヒヨリミ様は微笑む。


 ヒヨリミ様の背後から花びらを撒いていた女性たちも動く。

 バックコーラスに乗る形で一斉に巨大な花びらを宙に散らし始めていった――。


 その巨大な花弁は膜の表面に触れた瞬間真新しい枝に変身し、円の薄い膜を這うように移動しながら球を覆う。


 膜の出入り口がアーチ状の門にも見えてきた。

 そんな膜をより強固とするように……葉脈めいた木の膜が膜の表面に重なり広がった。その膜はヒヨリミ様が座る椅子だけを包むカマクラに見えた。


 木の膜から小枝が四方へと生えていく。

 椅子の飾りのように枝が生えた。


 ヒヨリミ様は傘を持ったまま、壇を上り、椅子の前に生成されたばかりの膜の出入り口を潜り膜の内部に入った。


 ヒヨリミ様は横回転して蝙蝠傘を畳むと振り向く。

 ふわりと、蝙蝠傘に付属していた弦たちが、美しい旋律を奏でながら舞う。


 ヒヨリミ様は俺たちに顔を見せると、周囲の音程が一段と高くなった。

 弦楽器と打楽器を奏でる古代狼族たちの動きが速くなる。


 歌い手もソプラノ系の高音が続く。

 ヒヨリミ様は俺たちを見据えながら……専用の椅子にゆっくりと腰掛けた。


 そのヒヨリミ様が座った途端――。

 歌声と音楽とダンスがピタリと止まる。


 黒衣の衣裳が似合う古代狼族たちは動きを止めた。


 飛翔していた鳥たちも樹海獣人たちの肩に戻る。

 ヒヨリミ様は、背凭れは利用しない。

 

 浅く座って背筋をピンと伸ばしていた。

 その姿勢から威厳を感じさせた。


 狼将たちも威厳を感じたように静かになる。

 皆、ヒヨリミ様のことを注目した。


 華やかさがあった空気が……一気に締まる。

 厳粛なムードだ。


 シンバルの音が響き渡ったような気がした。

 さすがに女王というか大狼后。存在感がある……。

 狼将たちのヒヨリミ様に対する表情には、依然と厳しさがあるが……。

 そこには深い尊敬の意思が宿っていた。


 明らかに俺に対して向けられていた表情とは違う。

 そして、席から立ち上がったヒヨリミが、


「さぁ! 聖なる決闘の時間です……」


 片手を上げながら宣言した。

 あの防御膜は声を拡大させるような効果もあるのか、不思議と響き渡る。


 すると、銅鑼が鳴り響く。

 笛の音も響いていった。


 だが、一部の狼将たちが率いている古代狼族たちは、一斉に不満そうな声をあげていった。

 示し合わせていたような動きだ。


 キコとジェスが笛を鳴らす。

 

 ――『鎮まりなさい』


 といった声が聞こえたような気がした。

 その直後、ヒヨリミ様が魔息めいた息を吐きながら、


「……狼将たちとその一族たち。各自、掟書と合議に無い事柄で不満はあるとは思います。しかし、まずは番が持つ槍を見るのです!」


 俺が持つ月狼環ノ槍をヒヨリミ様は大声で指摘してきた。


「シュウヤ、掲げるんだ。皆に見せるように」


 隣に居るハイグリアもそう指示を出してくる。


「おう、こうか?」

「うん、それでいい」


 月狼環ノ槍を掲げると、


「おおぉ!?」

「あれは、まさかアルデルの」

「金属の環といい、柄の魔文字を見ろ……」

「……本当だ。伝説の槍……聖杯伝説の槍ではないか!」

「……それを持つからこそ、神姫の番……」

「そういうことか……」


 狼将たちはそう発言しては納得したようにヒヨリミ様に頭を下げていく。

 狼将たちの背後に居た一族たちも納得したようにざわついては、静まっていった。


 しかし、


「……あの槍は本物か? 人族の癖に魔力操作が巧みだとは分かるが」

「俺が戦って組み伏せてやろうか」

「オウリア、アゼラヌ、中身の実力はヒヨリミ様の言葉を信じるしかあるまいて」

「だがな……人族だぞ」

「一理あるが、そうせっつくな」


 と、狼将の一部は俺を見て不満げだ。


「槍は本物です。これが証拠となります――」


 ヒヨリミ様は攻防一体型の武器として銀式爪鎧から竹筒を取り出した。

 その竹筒を、宙に投げると月狼環ノ槍が反応し、俺の手から離れた。


 勝手に宙を移動していく。

 その移動した月狼環ノ槍から狼たちの唸り声が響く。


 さらに穂先に備わる金属の環たちが不協和音を轟かせた。


 竹筒を守るように宙の位置で止まる月狼環ノ槍。

 その槍の上に狼たちの幻が見える……。


 狼たちが重なると古代狼族の青年の姿となった。

 その古代狼族の青年はヒヨリミ様を熱い眼差しで見つめて何かを語りかけると夜空の中に染み入るように消えていく。

 すると、狼将の一人が爪を伸ばし――


「本当の聖杯伝説!!」


 その言葉に周囲がざわめく。

 俺に気炎を上げていた狼将たちは驚愕していた。


「呪いを受けて失われていた秘宝……」


 狼将の言葉に古代狼族たちの全員がどよめきの声を上げる。


「シュウヤ、進むぞ」


 と笑顔のハイグリアに手を握られて連れられがら壇の中央に向かう。


明日も更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 2週間ほどかけてここまで一気に拝読しております初老の一読者です。 この辺のお話しの内容からは外れますが、キサラさんの扱いが不遇な点が気になりました。 眷属化でキッシュさんを優先するのは…
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