四十七話 アイテムボックスの機能
次は、このペーター・ゼンの断章を確認する。
ふむふむ。
どうやら、これは著名な冒険者のメモらしい。
何枚か続けて綴ってあるようだな。
タイトルは〝伝説の巨人たちと北壁〟
少し長めだが、読むか。
□■□■
ここは北の最果て。
ロロリッザ王国の冒険者ギルドが定める未探索地域、北方諸国より北の地。
人類未踏の地と言われていたが、完全に間違いだ。
見知らぬ長身の人族たちの王国。
黒き環がある古代都市。
魔軍夜行により滅びた都市。
ハイエルフの国。
地下ではなく地上にあるダークエルフの帝国。
ゴブリンたちの支配地域。
それら無数の国々を無事に突破できたのは、偶然発見した古き転移陣が使えたからだ。
これは幸運だと皆で喜び、笑いあったものだ。
だが、この北の最果て、ここに来てしまったことを激しく後悔することになった。
どうしてか?
それは我々、探検クラン【フォートレス】が崩壊したからだ。
永らく一緒に連れ添った仲間たち、その全員が死んでしまった。
食われてしまったのだ。
あの大きい怪物、巨人たちに……。
巨人たちの地域に進出した当初は順調だったのが、我々の油断を招いたのかも知れない。
仲間は迷宮都市から来た歴戦の強者たちだった。
彼らは未知な言動を取る以外は、ジャイアントゴブリン、サイクロプスなどの巨人を圧倒して殲滅していた。
正直、安心して戦いを任せられるほどの実力者たちだったのだ。
そのせいもあってか、巨人などモンスターの一種類でしかないと思っていた。
ところが、ある日出会った巨人たちは違っていた。
攻撃は当たる。しかし、回復速度が尋常ではないのだ。
巨人の数が少なければ、我々だけで圧倒できただろう。
しかし、新手が増え、攻撃が追いつかなくなり、敵の攻撃を捌き切れなくなってくる。
そして、最後には逃げるしかなくなった。前以て対巨人戦術を入念に調べておけば、結果は違っていたかも知れない。
だが時すでに遅し。こうして、無類の強さを誇った我ら【フォートレス】が一人、また一人と巨人たちの手に捕まり、食われて死んでいった。
巨人の大きさは二十メートル以上。
最も種類の多い巨人は一つ目の巨人サイクロプス。
次に頭が二つある巨人エティーン、人族の姿に近い巨人デミヒューマン。
あまり数は多くないが、一際大きい岩型の岩巨人。
因みに一番小さい巨人ジャイアントゴブリンもいる。
この地域はそんな多様な巨人たちが支配する未探索地域だったのだ。
巨人たちは普通のモンスターとは違う。
獰猛で頭が悪い奴ばかりだが、中には頭が良い巨人も存在した。
ここでは小さい我らのような人族を含めた生物は蟻と同じ。
常に駆逐される存在なのだ。巨人たちに狙われ食われる餌の世界だった。
しかし、今ペンを取りこれを書いているように、わたしは最終的に一人になりながらも、ある組織に助けられて逃げ延びることができた。
それは巨人に対抗する組織で、静かなる狩人と呼ばれていた。
助けられた当初はこの静かなる狩人たちをこの地域における同業者、冒険者クランみたいな存在だと勘違いしていた。
そして驚いたことに、魔族と見られる者たちがこの部隊の中核メンバーに存在していた。
人族や亜人と協力して、巨人と戦っているらしい。
ここでは魔族も人族も手を組まないと生きてはいけないのだと知る。そんな静かなる狩人は正に統率された軍隊だった。
士気も高く、全員が魔法や遠距離武器に近接武器を扱える。
巨大な矢とバリスタを用いた殲滅戦術と広範囲魔法で追い詰めての巨人殺しは見ていて爽快な気分になったものだ。
だが、彼らとて確実に対抗できているわけではない。
巨人は強い――。
普通クラスのサイクロプスで、ワイバーンクラスの竜と互角かそれ以上だろう。
それがワラワラと集団で襲ってくるのだからな……。
確実にこのような地獄の世界が存在するのだ。
これを読んだ後世の人々に上手く伝わればいいが……その巨人狩りをしているリーダー格の人物に、この辺りの歴史について教わることもできた。
事の発端は北の地。
崖に挟まれた地域に巨人たちが住まう巨人文明が存在するらしい。
その巨人たちの侵攻を防ぐため、遥か昔、人型種族たちは、絶望の北壁と呼ばれる高さ五十メートルを超える壁を、山を利用するように崖と崖の間に築き上げたそうだ。
だが、サイクロプスを筆頭に、多くの巨人たちの進撃により、その壁を撃ち破られてしまう。
それからはこの地域の人々は散り散りになり、巨人から逃げる生活を余儀なくされたとか。
これは驚くべき情報だった。
わたしは故郷を思い出す。
幸いにも、この地域は北の最果てと思われる地域。
我が祖国であるロロリッザ王国は遥か南の果て……。
今わたしがいるこの地域は巨人たちにより壊滅状態だが、我が祖国は遠く、何十何百という国を越えた先にある地。幾ら巨人たちが強く数が多くとも、そこまで手は及ばないだろう。
大地は途方もなく広い。
巨人でさえもて余す状態と考えられる。
しかし、この情報を故郷に持ち帰ったとしても、巨人が集団で我らを襲う話など笑われるか、頭がおかしくなったと言われて、相手にもされないと予想できる。
□■□■
ここからは殆どが愚痴ばかりだ。
ぺーター・ゼンの断章を読むのを止めた。
遠い場所ではこんな戦いも存在するのか……。
一つ目の巨人サイクロプス。
集団で襲い掛かってくるときは……巨大地震のように地面が揺れるのだろうな。
想像すると恐怖を覚える。
次に暁の古文石を手に取った。
全部で三つあるが、どれも石板に刻まれた文字なのでちゃんと読める。
石板の古代文字を読んでいく。
□■□■
我ら暁の栄光は闇夜に赤光を灯す。
栄光の凱歌である聖歌を奏でるであろう。
神器を操る器神を超える法力を齎す。
暁の魔道技術は二つの神器を産み出す。
本物と偽物あれど神器には変わらず。
神器足る器の法力は怪物たちを駆逐す。
地下深くに古の湖底遺跡あり。
謎深き透明な膜に覆われた箱物。
古の末裔神国ゴルディクス司祭も知らず。
どの御技も一切の法力が通用せず。
それは幾千年の時も開かれぬ未知の壁。
皇帝の神器も効かず叡知の神セウロスの御業なりか。
□■□■
三つの古文石には抽象的な言葉が刻まれている。
僅花一日の栄という言葉を連想したが、意味は違うかもしれない。
次のアイテムをチェックしよ。
――ロント写本。
ヴォイニッチ手稿的な物と邪推したが違った。
途中で破れているが、比較的新しい羊皮紙でできている本。
そのロント写本を読んでいく。
最初は愛の女神アリアが羊飼いラーゼの目の前に降臨したところから始まる。
女神アリアは小さい女の子の姿で降臨したらしい。
序盤はその場で神託を得た羊飼いラーゼが、女神アリアの信仰に目覚めて、女神アリアの教えを広めるために世界各地に放浪する旅へ赴くシナリオで、中盤から、民たちに女神アリアの信仰を伝え、預言者、または伝道師と成って、各地域の権力者に迫害されながらも、聖なる場所コーデリアを見つけて、そこにアリアの神殿を建設する物語だった。
途中で紙が破れていて話が途切れてしまった。
中途半端だが、かいつまんで理解すると、聖書に出てくるモーゼの話に似ている感じだ。
そこでロント写本を閉じる。
次に移ろう。
あえて避けていたアイテムをチェック。
見た目、名前、共にインパクトがある。
名は十天邪像シテアトップ。
見た目は瓢箪型の小さな瓶、壺、先端が鍵のよう?
サイドにリアルな人間の大きい耳が二つと、正面に大きい眼球や曲がった長い鼻がついた小さい瓢箪型のアクセサリーのようなモノ。
妙にリアルで繊細な作りは不気味だ。
何か、形が……。
蝕とか起きたらシャレにならんぞ……。
まぁ、妄想が飛躍しすぎかも知れない。
あ、見た目的に、これが人面の瓶か?
クナが手書きで残していた。
確か、血を欲する謎のアイテム。擦ったらアラジンのランプの精とか出てきそう。ハクション大魔王だったら笑えるんだが。
勿論、本当に擦ったりはしない。見た目も強烈で怖いし、何も願わずにアイテムボックスの中へ仕舞っておこう……。
次は二つの魔法書。
魔法を覚えたら、一回は試したいから、ここで試すのは危険だ。
誰もいない空き地を探そ。
その前に出していたアイテム類をアイテムボックスの中へ仕舞う。
黒槍を手にして宿部屋を後にした。
夜の雰囲気を味わいたいので、あえて<夜目>を使わずに、指輪から光球を産み出す。夜空を見上げながら路地を適当に進んだ。
空き地がないか探し続ける。
散策を続けていると、空き地を見つけることができた。
周りには誰もいない。
「にゃっ」
お? 突然黒猫が肩から飛び降りた。
空き地へ走っていく。
なんだろ? 黒猫を追いかけた。
掌握察や<分泌吸の匂手>で人の反応はなし。
だが、魔素の反応は複数ある。
あ、反応はこいつらか。
そこには人ではなく野良猫たちが集まっていた。
大きい切り株の上にいるのは数匹の特徴的な猫。
その切り株を囲むように座っている野良猫たち。
猫たちの集会か?
夜空は片方の月が満月に近い。
光球が要らないぐらいの皓々とした二つの明かりが猫たちを照らし出していく。
俺と黒猫がその場に来ても、猫たちは動じなかった。
所々で猫の唸り声が聞こえてくるが……。
猫たちの一対の目が月明かりで反射。
あちらこちらで光るので、少し不気味に見える。
だが、動かない猫たちが多いので、『ここに俺とロロがいても良いよ』的なサインと勝手に受け取り、黙って見守ることにした。
猫たちのもとへ黒猫が近寄っていく。
どうやら猫の集会に参加したいらしい。
黒猫が混ざると、騒めきがぴたりと止む。
静かになった瞬間、切り株に乗っていた一匹の太い猫が月に向かって「にゃああ」と強く鳴いて切り株から降りてゆく。
ありゃ、そのままゆったりとした動作で空き地から去ってしまった。周りにいた猫たちの一部も太い猫の後を追うように離れていく。
続けて、切り株に乗っていたスラッとした若い猫も一回鳴いた後、同じように降りて去っていった。続けて一部の猫たちもついていく。
切り株に偉そうに座っていた猫たちは、どうやらリーダー格だったらしい。
最後まで切り株に残っていたのは、老猫というか髭が長い仙人のような猫だった。
仙人猫も最後まで残っていた猫たちへ挨拶するように一回鳴くと、切り株から降りている。
他のリーダー猫と同じようにここから去ると思ったら、その仙人猫は黒猫に近付いてきた。
そして、黒猫と仙人猫は頬を擦り合わせる。
猫の挨拶。可愛いし、面白い。
黒猫はいつぞやに大きな狼とも頬を擦り合わせていた。
仙人猫は黒猫との猫の挨拶を終えると、プイッと顔を叛けて、何事もなかったように黒猫から離れていく。
黙って見ていた最後の猫集団も仙人猫の後につづいて離れていった。
野良猫たちがいなくなる。
切り株で行われていた野良猫の集会は終わったようだ。
「野良猫たちの集会か。ロロ、仲間になれたか?」
「にゃっ、にゃぁん」
黒猫は二回鳴くと、『どこにも行かにゃい』と言うように、何回も俺の足へ頭をこすりつけてきた。
「はは、こいつめ」
そんな可愛い黒猫を抱き上げ、胸の前に抱っこしてやった。
お腹のふさふさに顔を埋める――。
毛並みが柔らかく、腹の温もりが気持ち良い。ふさふさだ。
獣独特の匂いもいい。
ごろごろ音が聞こえるし、黒猫も喜んでくれている。
黒猫はそんな俺の頬へ向けて、触手を伸ばしてきた。
『かゆい』『気持ち良い』『好き』
可愛い感情が伝わってきた。
俺はたまらず、肉球マッサージをしながら頭を撫でていく。
「……さて、お楽しみはここまでにして、ロロ、少し離れてて。実験をする」
「ンン、にゃ」
短く返事をした黒猫は俺の後方へ走り離れていく。
アイテムボックスから、魔法書を取りだす。
二冊の魔法書。
闇言語魔法の闇壁。
闇紋章魔法の闇枷。
紋章魔法の魔法書を地面に置き、言語魔法の魔法書を持つ。
魔法書から魔力を感じながら読み進めていく。
これが……詠唱文か。一通り読み……理解した。
すると、書物は魔力を失い崩れ落ちて消えていく。
あっさりと終了。文字は浮かばなかった。
ピコーン※<言語魔法>※スキル獲得※
良し、簡単に覚えられた。
<紋章魔法>のスキルも取得しているから今更だな。
俺の魔力や精神の値は高い方なのだろう。
それに、現時点の戦闘職業である<魔槍闇士>は、<魔法使い>を含んでランクアップした職業だ。
だから、魔法関係の上位職も兼ねている可能性が大。
早速試す。
「……闇の精霊ベルアードよ。我が魔力を糧に、闇の結束の力を現したまえ、――《闇壁》」
詠唱を終えた直後、
自身の魔力が少し無くなるのを感じた瞬間――黒い壁が出現。
漆黒色の壁には、うっすら煙状の靄が浮き出ていた。
人が三人隠れられるぐらいの幅。高さは俺と同じくらい。
名前通り、壁、魔法障壁。
詠唱がある分、使いどころは限られるかな?
俺は基本、前衛ポジションだ。
後衛ポジションをやることになったら、使うかもしれない……そんな日が本当に来るかは分からないが。
壁は消えろと念じると簡単に消えた。
次も覚えちゃお。
地面に置いた魔法書を拾い、読んでいく。
あっという間に魔法書を読み終える――。
紋章魔法の闇枷を覚えた。
今度もあっさり終了。
さっきと同じく、読んだ魔法書の文字が光って浮かび、俺の頭へ突入っ! は起きなかった。あれは古代の魔法書だけのようだ。
読み終わった魔法書は塵のように消え失せる。
覚えた魔法はクナが牢獄前で一度見せていた紋章魔法。
拘束する闇の枷を作り出す物。
まずは俺の足に試す。
覚えた魔法陣を構築していき、完成させた。
《闇枷》。
そう念じた途端、
両足を繋げる黒い枷が出現。
カチンコチンと硬い枷が両足を拘束している。
ヤバイ――壊すか。<魔闘術>を発動。
両足に力を込めて、足をずらすように動かす。
黒い枷は音を立てて壊れたが、メキッと足の皮膚が裂けて肉が千切れ――イテェェェェェェッ! 血がドバドバと噴出。
すぐに傷は再生し治っていくが、痛いもんは痛い。
もしかして、この枷……俺の魔力で強化されてたりしたのかも。
クナが俺の手首につけた魔法の枷も怪我をしながら壊したけど、あの時よりも硬くなっていた。
――もう俺自身の体での実験は止めておこう。
というか、解除とか消えろと念じれば消えたんじゃ……アホだな、わざわざ力ずくで解決しようとするとは、脳筋にも程がある。
さて、痛い思いもしたが、これで一通りアイテムボックスに入ってた気になる物は調べられた。
次はこのアイテムボックス自体を調べようか。
メニューにある◆のマークも気になるが、まずは格納の隣にある人型マークを押してみよう。
ポチッと人型マークを押す。
押した瞬間、腕輪の表面にある円盤のオブジェが動き出す。
円盤の周りにある小さいギザギザの炎を象った飾りが時計回りに円の縁を回りだし、円盤の中心から二つの突起物が生えてきた。
更に突起物の先端から緑の光が真上へ照射され、その緑の光が八角形に変化。
これは、緑色のウィンドウか。
緑色のウィンドウに触ると感触がある。
――ウィンドウが掴めた。
おぉ、これ、八角形だと思ったら自由自在か。
左右の手でウィンドウを伸ばすように広げると、ウィンドウも大きくなった。
ウィンドウは独立性があるのか、右手首にあるアイテムボックスの腕輪から離しても大丈夫なようだ。
そのウィンドウの中には手形マークが表示されている。
これに手を合わせろ?
認証システムか?
一番最初のキャラクターメイキングを思い出す。
その手形に両手を合わせた。
すると、ウィンドウの中に普段見ている文字とは違う文字が表示された。
とりあえず、読めるから読んでみる。
「《ナ・パーム・ド・フォド・カリーム》」
その瞬間、アイテムボックスの円盤から突き出ている二つの突起物から俺の頭に向けて光線が照射されてきた。
――被験体の脳波、思念波、時空属性確認、音声確認終了。
――適合チェック開始。
――被験体、<フォドシステム>に適合。新たなナ・パーム統合軍における新カリームと確認。セキュリティを解除します。
――新たなカリームを登録しますと、今までの増加容量は確保されますが、端末に納めたエレニウム総量がリセットされて、船体及び端末のキーアサインと前回登録者のデータが抹消されます。
――宜しいですか? Y/N
こんなのが出たよ。
これ、データが消えるとは、どういうことなんだろう。
昔に使っていた登録者がいたということか。
ま、登録しないと使えないとなると、データが消えるのは残念だが、ここはイエスを選択。
Yをポチッとな。
――了解。新たなキーアサイン登録完了。
――今後は本人の声と思考で完全固定されます。
――《フォド・ワン・カリーム》起動――。
表示された文字が消えると、ウィンドウが中から真空管が振動したようにブゥンと効果音を発し変化した。
そして、そのウィンドウの中にデフォルメされた謎のアバターキャラクターが出現。
顔に四つの目を持つ宇宙人の絵だ。
額が広くて不思議な模様もある。
この異星人の文明がナ・パーム統合軍なのか?
このアイテムボックスはカリームという称号を持つ軍人用の装備なのかな?
左上には判別できない記号や文字が書かれていく。
分からないが使えそうだし、使っちゃお。
そして、そのアバターキャラの右手、左手の位置に__という空欄があった。
これゲームみたいだな。
もしかして……。
右手の__部分をタッチすると、魔剣ビートゥの名が表示された。
左手の__も同様だった。
この魔剣ビートゥ、アイテムボックスの中に入っている武器だ。
両手に武器を登録できると、要するに武器召喚だな。
試しに右手に魔剣ビートゥを登録する。
――右手に魔剣ビートゥを装備しますか? Y/N
当然、Yを選択。
すると、思った通り……。
実際の右手に魔剣ビートゥが握られていた。
しかも、抜き身の状態だ。
アイテムボックスのアバターキャラの絵も右手に剣が握られていた。
凄い。アイテムボックスの中に入れた武器を両手に登録できる。
ゲームのようなショートカット機能だ。
右手に握られた魔剣を振り上げ、降り下ろす。
片手半剣である魔剣は普通の剣より長いのに、相変わらず軽い。
これ、ちゃんと本物だ。
しかし、アイテムを戻すには格納を押さなきゃならないのかな。
もしかして……。
試しにアイテムボックスへ戻れと右手に握る魔剣ビートゥを意識しながら念じると、魔剣ビートゥはパッと消えた。
おぉ、やはり成功した。
『魔剣よ来い』
とまた念じてみると、パッと瞬時に右手に出現する。
おぉぉ、これ便利だ。次は黒槍で試してみよう。
黒槍をアイテムボックスの中に入れてキャラ表示させ、右手の__をチェックした。
案の定、魔剣ビートゥの下にタンザの槍が追加されている。
宇宙人キャラの右手の__に今度はタンザの槍を登録してみた。
――右手にタンザの槍を装備しますか? Y/N
Yを選択。
同じように左手の__には魔剣ビートゥを登録。
――左手に魔剣ビートゥを装備しますか? Y/N
同様にYを選択。
その結果。デフォルメされた宇宙人アバターキャラの右手に槍、左手に剣が描かれる。実際の俺の右手にも黒槍が握られ、左手にも魔剣ビートゥが握られていた。
それらの武器を『戻れ』と念じて一時的に格納。
こりゃ楽だ。瞬時に戻る……。
あ、状況によって変わるか試してみよ。
実験を開始した。
ウィンドウを消し、掌を下へ向けて開きっぱなしの状態で、『右手に武器よ来い』と念じてみる。掌の下に黒槍が出現するが、当然の如く、この星の重力により黒槍は地面へ落ちた。
更にそこからアイテムボックスへ戻れや武器よ来いと念じても、掌へ戻ることはなく、黒槍は地面に転がったままだった。
そう都合よくはいかないらしい。
しかし、指を一本でも武器に触れて念じればアイテムボックスの中へ戻ることはわかった。
次々に試していく。
何も考えず武器よ来いだけだと、右手だけに出現。
少しでも左手を意識しながら武器よ来いと念じると左手に出現。
俺が右利きだからか?
『槍よ来い』
『剣よ』『槍』
と言った簡略化したイメージで試していく。
ようは強く念じるだけで出現するわけか。
そして、<導想魔手>の魔力の歪な手をイメージして試すことにした。
無手の状態でシンプルに武器よ来いと念じただけだと、普通に右手に槍が召喚される。
その召喚された黒槍を消して、また無手に戻す。
今度は右手ではなく<導想魔手>をイメージしながら武器よ来いと念じると、<導想魔手>を肉体の一部と認識したらしく、<導想魔手>には黒槍が握られていた。
次に黒槍を消し<導想魔手>に『剣よ』とイメージすると魔剣が握られている。
イメージ次第で変わるのか。
登録した左手と右手は関係ないようだ。
<導想魔手>はただ右腕よりなだけらしい。
この結果から推測すると、<導想魔手>が第三の腕と変わらないことになる。
しかも、槍と剣どっちも召喚可能なので臨機応変だ。
だが、<導想魔手>に握らせることができるのは左右の手に登録した武器だけなので、<導想魔手>と左右の手に三つ同時に違う武器を召喚するのは無理だった。
でも、こりゃ革命だ。
嬉しくなった俺は笑みを浮かべ、自然と体が動いていた。
月夜が照らす空き地の中で、訓練を行う。
突き――<刺突>、突き――<刺突>。
また突き――の最中に右腕に握る黒槍を意識して『アイテムボックスへ戻れ』と念じると、握っていた黒槍は消えた。
左手に握った魔剣ビートゥを横に払いながら低い体勢へ移行。
くるくると体を横回転させながら前進。
回転中に『槍よ来い』と念じた瞬間、パッと右手に黒槍が現れる。
高速移動中でも大丈夫だ。
また笑みを浮かべながら、左手に握る魔剣ビートゥを消す。
空いた左手の指先を黒槍に添えて、両手持ちへ移行した。
同時に回転させていた体をストップさせ、制動の隙を無くすように前屈みの体勢から急に上半身を上げる。
――片足で体を支える鶴のポーズの如く、
上半身と黒槍を斜め前方へ伸ばす。
ヨガのように一定時間、動きを止める。
そこから、ダンスを踊るように左右の足を交差させて前進――。
召喚された黒槍の感触を確かめるように、両腕全体と上半身の筋肉を使い黒槍を扇状に回転させながら動かす。
歩きながら黒槍を動かし、クルクルと弄ぶように回転させて両腕の中で激しく行き交わせていく。
動かしておいてなんだが、黒槍が生きた黒蛇のように見えてくる。
蛇が動いているようだ。
しかし、アイテムボックスにこんな機能があるとはな。
武器を登録しておけば、確実にこの手に来るということだ。
そんな思いと同時に両手にガシッと掴んだ黒槍を、天の月へ突き上げながら膝を畳む。
その畳んだ姿勢からバネのように足を伸ばし地面を蹴った。
空中へ勢い良く飛び上がりながら黒槍を大上段に構え、海老反り体勢へ移行する。
月光が空を舞う俺を照らす。
重力の加速を得て急降下するが、体感はゆっくりと感じる。
その視界は下の地面を捉えていた。
俺の影ができている。
その俺の影に向かって――黒槍を叩きつけた。叩きつけられた衝撃で地面が抉れて土が弾け飛び、周囲に飛んでいく。
少し手が痺れた。これはこれで何かの技っぽい。
武器は違うが、幕末の人斬り抜刀斎がこんな感じの技を使っていた気がする。
そんな漫画を思いだしたところで、訓練は終了。
まだアイテムボックスを調べたいし。
次は◆のマークをポチッとな。
―――――――――――――――――――――――
◆ ここにエレニウムストーンを入れてください。
―――――――――――――――――――――――
左側には◆の巨大なマークがある。
更に“ここにエレニウムストーンを入れてください”という文字が表示されていた。
◆:エレニウム総蓄量:0
―――――――――――――――――――――――――――
必要なエレニウムストーン:50:未完了。
報酬:格納庫15+、記録庫解放。
必要なエレニウムストーン:100:未完了。
報酬:格納庫20+、カレウドスコープ解放。
必要なエレニウムストーン:200:未完了。
報酬:格納庫25+、ディメンションスキャン機能搭載。
??????
??????
??????
―――――――――――――――――――――――――――
右側にはエレニウム総蓄量や、エレニウムストーン五十個、百個を求める表が羅列されている。
未完了か、これはエレニウムストーンとやらを左側の◆マークに入れろということかな。
エレニウムストーンとやらを集め、この求められている数値を達成したら、その報酬として格納庫の容量がアップして記録庫も解放されると……。
報酬にカレウドスコープ解放もあるし、アイテムが報酬の場合もあるようだ。
でも、エレニウムストーンとは何だ?
表示されてる菱形マークの形状からするとダイヤモンド的な宝石とか?
謎だ。
今は分からないので、上部にあるメニューらしき菱形マークをもう一度素早くタップして表示を消す。
すると、ブゥンッと音がなり、普通のアイテム表記画面に戻った。
この辺はスマホやゲームメニュー辺りによくある操作と同じらしい。
さて、宿に戻るか。
◇◆◇◆
同時刻、【城塞都市ヘカトレイル】から数キロ南西に離れたとある小屋にて――。
「お待たせ……ラライ」
肩を落としながら部屋に入ってきた痩駆の男。肩には黒い翼の入れ墨があり、スマートな筋肉が目立つが、腕に怪我を負っている。
黄土色のローブを着ているラライと呼ばれた女性は、その怪我を怪訝そうに見つめながら、
「カリィ、お帰り。でも、偉くド派手に暴れたわね……」
「ウン、ワケありでね」
「その右腕……カリィほどの使い手が、傷を負ったの?」
痩駆の男カリィは腕を振ろうと僅かに動かすが、眉間に皺を寄せて痛みを我慢する素振りを見せていた。
「――あぁ、やられたヨ。これでも一応、中級回復ポーションを飲んだんだけど、思ったより深手だったようだ」
「だからか。高級回復ポーションは無いの?」
カリィは笑みを浮かべ、
「クク、ナンセンス。ボクが傷を負ったンだよ? 直ぐに治すなんて勿体ない」
「……相変わらずヘンタイね。でも、影の翼のようにひっそりと華麗に仕事を済ませるはずの任務がバレバレよ? 黒翼の入れ墨をした男が、【茨の尻尾】の事務所から派手に逃げていくのを多数の人に見られたようだし」
「あぁ、それはしょうがなイヨ。計算外のことが起きたンだ」
ラライはカリィが言った計算外という聞き慣れない言葉に興味を持ったのか、眉をピクリと動かし、
「計算外……へぇ、貴方がそんなことを言うなんてね。わたしも参加したほうが良かったかしら……」
ラライは皮肉を込めた笑みを浮かべる。
「イヤァ、どうだろうね。キミにも見せたことのナイボクの技を見せても切り傷さえ与えられなかったのが相手にいたンだよ? たとえ千雷のラライがその場に居ても、変わらなかったと思うけどナァ」
それを聞いたラライは目を見開く。その双眸にはうっすらと黄色い線らしき紋様が浮かび上がっていた。
「……それは非常に気になるわね。でも変ね。そんな相手が存在しているなんてアルフォードから聞いてない。事前情報にはなかったはず」
「彼の能力もすべてを見通せるほどじゃなかっただけサ」
「ふーん、そのカリィが戦った相手は無事なんでしょ? ここに戻ってきちゃっていいの?」
「良いんだヨ。ボクが戦った相手は【茨の尻尾】のメンバーではナカったしね。戦いは完全な任務外サ。今回はボクが我慢できずに我儘をした。その結果がこれなんだヨ」
ラライは首を傾げる。
「え? そうなの? てっきりわたしはその美味そうで強そうな相手が標的の闇ギルドのメンバーにいたのかと思ったわよ」
「いや、少なくとも、ボクが負けた強い相手は【茨の尻尾】ではないね。二剣のライザに暗黒のクナを殺ったのもソイツだし」
ラライは更に驚く。
「えぇぇぇ? 吃驚なことだらけね……」
「ほんとだヨ。まぁお陰で、スムーズに【茨の尻尾】を壊滅させられたけど。因みに、ボスであるドミンゲスはちゃんとボクが殺ったからね? だから、仕事は完了サ……」
「そう……強い相手なのね……」
ラライはカリィの仕事完了の話を聞かずにブツブツと呟き始め、邪悪な笑みを浮かべていた。
「ハァ……人の話を聞いてるのかイ? もう妄想を始めちゃったのかイ? あの槍使いを……」
「――ん? その相手は槍使いなのね? フフ……」
ラライはその場でふわっと裾をめくるように横回転。
楽しそうに踊り始めた。
「――アハハハ、わたしもそのヒトに会いたいなぁ……」
ラライは嬉しそうに笑窪がある口角を上げて笑い出す。
ローブから細い両手を出し、特殊な棘付き指貫グローブから出た十本の指をピアノを弾くように動かす。
その指先からバチバチッと稲妻のような電光を発生させていた。
「ラライ……ソンナ危険な妄想をしてナイデ、皆がいるタンダールに帰るよ? 団長も待っていると思うし、次はたぶんガイガル潰し、その後は迷宮都市で大きな仕事があると思う」
「……裸で……槍の……グフ」
カリィの言葉を無視するラライ。
恍惚とした表情へ変貌していた。
双眸にうっすらとしかなかった紋様が……。
今ははっきりと黄色く不気味に光る魔法陣として浮かび上がっている。
ラライは、指から出た無数の放電で小さい人型を作り出し……。
独り遊びを始めていく。
完全に妄想の世界へと旅立っていた。
カリィはそんなラライを目を細めて見つめ……。
またか……と言わんばかりに溜め息を吐く。
呆れ顔を作るカリィ。
しかしそのカリィも、『でも、ボクも人のことはいえないか……』と考えていた。
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