四百七十六話 お爺ちゃん
「槍使いと、黒猫。」コミックス記念です。
シュウヤがまだゴルディーバの里で暮らしていた頃となります。
いつものアキレス師匠との訓練を終えた。
すると、「にゃ、にゃ~」と家屋の方から鳴き声が響く。
黒猫が鳴きながら近寄ってきた。
足下に来た黒猫は、俺の足に頭を衝突させてきた。
そして、頭部から背筋を擦り当て、尻尾を絡ませながら、俺のふくらはぎ側へと回り込む黒猫。
甘えかたの上手な猫ちゃんだな。
だが、その黒猫は俺の足裏にとどまる。
そこに、
「もう~神獣様! 速いぃぃ!」
レファが走り寄ってきた。
肩で息をしている。
なるほど。
この、はぁはぁぜぇぜぇ、と息が荒いレファ。
この子供ながらに必死な姿を見て、どんな状況だったのか軽く予想はできた。
地団駄を踏んでいるレファ。
手に小さい布を結んで作った紐を持っていた。
あれで黒猫をじゃらして、遊んでいたようだ。
「ロロを興奮させて、捕まえようとしていたな?」
「うん! う、ううん、鬼ごっこだよー」
笑顔満面で一回強く頷いてから、すぐに頭を振って否定するレファッ子。
可愛いが、いたずらっ子だ。
「レファ、神獣様をいじめてはだめだぞ」
と、アキレス師匠が注意した。
「えぇ~」
レファはそう声を発しながら、続けて『ふーん』と小声を発してから視線を斜め上に向けている。
手に持った紐を背中に回して紐を隠そうとするが、隠せていない。
その時、トコトコと可愛く歩く黒猫。
尻尾をふりふりながら師匠の方に向かった。
「神獣様!」
と、アキレス師匠は両膝に手を当ててしゃがみこむ。
「ンン、にゃ、にゃ~」
黒猫が珍しくアキレス師匠に小さい頭を衝突させていた。
師匠は頬が赤らむ。
師匠の照れている姿は貴重だ。
すると、黒猫は師匠の肩の上に乗っている。
その黒猫の姿を見て……過去を思い出した。
転生する前。
爺ちゃんと過ごしていた頃を……。
◇◇◇◇
いつものように爺ちゃんが俺に剣道を教えようとして逃げた時だ。
俺はその爺ちゃんから逃げるようにレファと似た幼なじみの女の子と一緒にケンケンパの遊びをしてから家に帰ったんだ。
そして、すす掃きの掃除をしてから、庭の縁側でお爺ちゃんと一緒に納涼を楽しみながらシジミのお菓子を食べてお茶を飲んでいた時だ。
「こらこら、わしの頭は魚の骨ではないぞ」
猫たちだ! 爺ちゃんの頭がたべられちゃう!
あ、おれにも、猫が来た! 黒猫だぁ。
「じいー、この猫、くろ猫だけが、手をなめなめしてくるー」
この頃の俺はまだ小学生ぐらいかな。
そして、どういう訳か、爺ちゃんは不思議と猫にモテた。
いつも、いつもたくさん猫たちが、爺ちゃんを探しに、縁側に集まっていた。
餌を求めるわけではないのに……。
今、思えば不思議だ。
その爺ちゃんを中心として切り株に乗った猫たちの会議が始まっていた。
にゃーにゃーといった猫たちの声がうるさかったな。
そんな爺ちゃんは、膝に乗っている子猫の頭を優しく撫でながら、
「それは親愛の証しだ」
「しんあいー?」
「そうだ。餌が欲しいというわけではなく、猫の仲間、家族としての挨拶だな」
そう爺ちゃんが語ると、本当に黒猫は頭部をこすりつけてきた。
膝に頭をぶつけられる親愛の感触は、今でも忘れない。
「……わぁ、おれ、爺ちゃんだけが家族だから嬉しいな!」
幼い俺の言葉を聞いた笑う爺ちゃん。
今も忘れてない。
「その黒猫は、シュウヤ、お前のことが好きなんだな」
爺ちゃんの微笑みといい、この時の言葉を聞いて、子供ながらに凄く嬉しかったことは覚えている。
俺にとって家族は爺ちゃんしかいなかったからな。
父と母は……車の事故で……。
「あはは、じゃーーーおれも、なめなめするううう」
と、黒猫を抱きしめようとしたが、すぐに、
「にゃごぉぁぁ――」
と、師匠の何かが気にくわなかったのか不明だが、師匠の肩から奇声を発して逃げ出す黒猫。
あの時、逃げられてしまった黒猫の姿とかぶった……。
もう、あの頃には、永遠に戻ることができない。
だが、今は、師匠とレファたちゴルディーバの大切な家族たちが居る……。
爺ちゃん、見ててくれていますか?
……俺、違う世界に来ちゃったけど、ここで、がんばっていますよ。
爺ちゃん……。
「シュウヤ、急にどうしたのだ」
「あぁ、目に埃が……」
「へんなのーいきなり泣いている!」
この後、0時も更新予定です




