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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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472/2026

四百七十一話 魔術総武会と象神都市レジーピック

2024年3月16日 11時55分 修正

 このまま都市の中に突入するのはまずい。

 少し手前で降りるとしよう。

 と神獣のロロディーヌの手綱を操作しようとした時――。

 雲が凄まじい勢いで都市の奥へと曳いていく。

 すると、急激に近付いてくる魔力の動きを察知した。


「シュウヤ、魔力が近付いてくるけど」

「不思議な雲も退いた」


 警戒を促すレベッカとエヴァ。

 選ばれし眷属(彼女)たちに視線を向けながら、


「おう。取りあえず下に降りる――」


 感覚を共有している神獣ロロディーヌ。素早く方向を変えた。

 兎を追う大鷹のように前方の森の中へと急加速――。

 ロロディーヌの巨大な四肢が無数の樹群と衝突した。

 俺たちに衝撃は来ない、野生の動物たちは一心不乱に逃げていく。

 動物たちには悪いが力強さと柔らかさを併せ持った四肢の肉球クッションは凄い。多数の樹を打ち倒しながらの重量感溢れる神獣らしい着地を行った。

 直ぐに周囲を確認。端から見たらとんでもない巨獣の襲来だろう。

 ゴブリンたちモンスターの姿が見えた。

 俺たちに向けて射手のゴブリンが矢を飛ばしてくる。

 槍の<投擲>を行うゴブリンも居た。しかし、大半のゴブリンは混乱している。転げて失神しては、叫び狂乱し周囲の樹木に体当たりをかますゴブリンたち。そんな狂乱したゴブリンたちへ、


「ここはわたしたちが!」


 と、叫んだママニの<血魔力>が混じったアシュラムが向かう――。

 続いて、フーの血を帯びた土魔法の礫が下方に向かう。

 フーとママニは、神獣の背中の端から地上へ向けて遠距離攻撃を繰り出した

『ここはゴブリンの巣が近いのでしょうか』

『そうかもしれない』


 ヘルメの念話に答えている間にゴブリンを仕留めた二人。

 フーとママニはそれぞれの武器をしまいながら、


「平均的なゴブリン・テルカかな」

「テルカはテルカ。しかし、金玉の方じゃない。眉毛が太い。眉毛が売り物になるテルカー種のスキンタイプでしょう」

 フーとママニがゴブリン種を語る。ゴブリンも多種多様だ。

 すると、神獣ロロディーヌは体を傾けて頭部を下げた。

 目的は虫? 動物? ゴブリンの生き残り? 穴掘りかな? 急な頭部な動きだ。零コンマ数秒も経たず――神獣ロロディーヌはその頭部を持ち上げた。

 俺たちに巨大な鼻先を見せたと思ったら巨大なエルクのような角が見えていた。エルクというか俺にはヘラジカか。動物かモンスターか鹿系の獲物を得ていたようだ。食べている様子はここからでは見えない。むしゃむしゃと咀嚼音を響かせる。巨大な鹿系だから肉か骨を砕く音も大きい。

 角はカルシウムが豊富そうだし相棒的に美味しいのかもしれない。

 そんな神獣(ロロ)は獲物を食べている間にも、皆に触手を絡ませていく。


「ん、ロロちゃん、わたしは大丈夫」


 エヴァは己の体に紫魔力を展開させながら超能力者らしく体を浮かせていた。魔道車椅子タイプではない。金属の足に変化していた。

 そのエヴァの胸元を大切そうに扱いつつも見事に絡む触手さん。

 エヴァの隠れ巨乳の輪郭が強調される。乳房が柔らかそうなマシュマロを連想させる。ロロディーヌは俺を喜ばせようとしているのか?

 ぐっじょぶ! ロロ。

「――シュウヤ、あとで蒼炎拳を食べてみる?」


 俺のさりげない親指を立てた動きをしっかりと見ていたレベッカさん。

 レベッカの腰に相棒の触手が巻き付いて逆さまとなりながらもナイスなツッコミを行う。そんなレベッカの可愛い絵柄のパンティを凝視して、


「おうよ、白熊パンティ」

「ちょっ!」


 臀部を隠そうと両手で捲れたスカートを押さえるレベッカ。


「えっちな馬鹿シュウヤ! あぅぁ~」


 そのレベッカの腰を結んでいた触手が地面に運ぶ――。

 レベッカの悲鳴的な声と金髪が持ち上がるように後ろにもっていかれる光景を見て、ジェットコースターに乗っている可愛い女性に見えてしまった。相棒は俺にも触手を寄越す――しかし、さっと横に移動して避けた。


「ロロ、鬼ごっこだ!」

「にゃ~」


 槍掛けに置かれた月狼環ノ槍を素早く取り操縦席から跳躍を行う――。


「俺を捕まえたら、ご褒美のカソジックの肉を上げよう!」


 相棒を挑発しながら宙に舞う。触手は直ぐに迫るが、足場にした<導想魔手>を蹴って方向転換。触手を避けた――回転しながら宙を躍る――。

 視界が移り変わるムーンサルトを超える機動を行った。

 相棒は、


「ンン――」


 悔しそうな喉声を鳴らしつつ負けじと触手を向かわせてくる。

 相棒よ、簡単に捕まえられると思うなよ――。

 俺も素早さは上がっているからな! 触手が俺に近付くタイミングを予測しての――時折背後を見るような半身の姿勢を取る。

 余裕に触手を避けながら、目の前の太い樹の幹を利用する――。

 空中から前に一回転を行い、右足の裏で樹の幹を捉え、その太い幹を足裏で蹴って反対の方向へと身を捻りつつ跳ぶ、視界に反対側の倒れていた樹が見えたところで、その倒れていた樹の幹を右足で捉えるようとアーゼンのブーツの裏で踏みッ蹴って再び高く跳躍した――。

 三角飛びの連続敢行だ――。

 そのまま前転を繰り返したところで、宙空の大気を感じるように両手を拡げながら<導想魔手>を蹴って宙空を飛翔するように跳ぶ。そして、皆が降りて集まっている地面を見ながら降り立った。


 そして、神獣ロロディーヌを見る。


「ロロ、まだまだだな?」


 触手から逃げ切ったことを相棒に伝える。

 相棒は、つまんないとでもいうように、人には聞こえない小さい猫声を上げてから、喉を膨らませて、食べていたエルクを一気に飲み干す。

 そして、双眸を俺に向けて、にこりと迫力ある笑みを見せてくる神獣(ロロ)さん。


「食べていたエルクは美味しかったか」

「ンンン――」


 頭部を揺らして『うまいにゃ~』と鳴くように重低音のある喉声で応えてくれた。鼻息も荒くしているし満足げだ。

 鼻息を荒くしたロロディーヌは前足を俺に突き出す。

 前足にはエルクの肉片が突き刺さっていた。獲物の自慢か。

 単に相棒が俺のために餌を用意してくれたのか。

 かみ切った肉片をわざわざ俺に見せてくる。

 その神獣(ロロ)は座った犬のような態勢に移行した。

 巨大な頭部を俺に寄せてくる。


「ロロちゃんの尻尾が、凄い揺れている!」


 エヴァが尻尾の動きを見て興奮しているような口調で指摘してきた。

 しかし、相棒は巨大な神獣。尻尾の動きはここからでは見えない。

 ロロディーヌは口を少し広げて、


「にゃおぉ~」


 猫の声だが、牙と喉ちんこを晒しながら迫力ある声を発してきた。


『このにくをたべろにゃ~』と語っているのかな。

 髪や体が熱のこもった息で揺れる。

 暗緑色がメインのハルホンクの防護服も揺れた。

 血肉の臭いが混じっているが神獣の炎が宿る息だ。竜の息吹は超えているだろう。

 しかし、そんな臭く炎を宿した息にも相棒なりの可愛さがある。

 相棒の発した炎を宿した息と声の影響で揺れていた肉片。

 その肉片は、炎の輝きを帯びた息に照らされて、ぎらついている。

 かみ切った跡は生々しい。


『ロロ様……炎の息吹は……』


 ヘルメは怖々と語っている。念話には応えず――。

 ――俺たちに魔力が近付いてくる方向を見る。

 速度的にここに到着するのは、そろそろか。

 掌握察の分かる範囲だと……空からだろうし、周囲の魔素の状況からしても、カルードとユイの魔力ではないと分かる。俺は相棒から視線を逸らし、皆を確認――。

 触手と黒毛が包むアラハは眠ったままだ。 


「ロロ、アラハを起こしていいから退け。一時でいいから姿を小さくして隠れていろ」

「――にゃぁ」


 相棒の返事を聞きながら、皆を見る。


「――皆、知っているように、この場に近づいてくる魔力がある」

「都市の防衛隊に見つかった?」

「ん、右手、左手、中央から集団? 帝国にも竜騎士隊は存在する。竜騎士だったら強そう」

「……ご主人様、先制しますか?」


 アシュラムを片手に持つママニが聞いてくる。


「最初は様子見だ」

「了解、蒼炎と拳の準備だけ――」


 レベッカは腰を沈めて、正拳突きのポーズを取る。

 可愛い空手魔法使いだ。蒼炎は纏っていない。魔力は外にまったく漏れていない。魔力操作も確実に向上しているレベッカはハイエルフだ。

 常闇の水精霊ヘルメが褒めるほどの炎を扱うことが得意な魔法使いだから当然か。


「分かった。血獣隊と連携する」


 エヴァは血獣隊の隊長ママニと視線を巡らせる。

 ママニはエヴァに向け丁寧なお辞儀をした。

 そして、ビア、サザーとメンバーたちに視線で指示を出す。

 阿吽の呼吸だ。


「承知」

「うん」


 すると、隠れるように指示を出していた黒豹のロロディーヌが傍に来た。

 寝ぼけ眼のアラハを背に乗せている。


「にゃ、にゃあ」

「わたしが神獣様のお背中に乗っても大丈夫なのですか……」


 アラハはおろおろしながら語る。

 相棒は気にするな。といったように黒豹の鋭い顔つきを上向かせている。

 相棒はアラハを見ようとしているが、背中に乗っているし無理だ。

 その代わり触手でアラハの髪の毛をわしゃわしゃとかき混ぜるように頭部を撫でていた。


「姉さん……羨ましい……」


 そう呟いたサザー。サザーの言葉を聞いた相棒。

 すぐに首から数本の触手を生やし、その触手をサザーの頭部に向かわせる。

 先端が平たいお豆の形した可愛い触手で、サザーの頭部と腰を撫でて上げていた。

 このまま、アラハとサザーとロロディーヌの微笑ましい光景を見ていたい。

 が、今はそんな余裕はない。


「――ロロ、向こうの木陰に避難しとけ」

「にゃぁ」


 俺の口調から空気を察したロロディーヌ。

 触手でサザーを撫でていたロロディーヌは即座に動く。

 乗っているアラハを触手で固定してから、振り落とさないように駆けていった。

 ママニたちはフーを後衛にオーソドックスな隊列を組む。


「来るぞ」


 最初に姿を見せたのは鴉の群れ。

 鴉の群れは人型を模りながら、女性の姿となると、綺麗な足で太枝に着地した。


『魔力の質が異常に高いですね……』


 左目に棲む常闇の水精霊ヘルメが語る。

 確かに、一瞬、ヴァルマスク家かと思ったが……。

 今は、胸元が開いた漆黒のローブ姿が似合う魔女の姿となった。

 人族系。


「あれ、冒険者?」


 魔女は可愛らしい声で喋っていた。

 ローブで前髪の一部が隠れているが、黒髪と分かる。

 その黒髪女性の手には金色の光を発した長い魔杖が握られていた。

 長柄に細かな魔宝石の装飾がちりばめられている。杖の先端は、異質だ。

 曲がりくねった金属の刃が幾つも集結しつつも宙空に浮いている。

 一瞬、エヴァの能力に近いのか? とエヴァに視線を向ける。

 エヴァは頭を振り、


「ん、似てるけど違う」


 エヴァは俺のアイコンタクトだけで、思考を読んできた。

 頷いてから、再び、漆黒のローブの女性が扱う長い魔杖を注視。

 鴉の紋様を持った金属製の刃たちが多い。 鴉といえばキサラ。

 四天魔女が扱うような魔術の一種か?


 それら金属の刃は、微妙に離れた位置で互いが引き合うように浮いていた。

 金属の刃たちは、超伝導のような素材同士なのか? 魔力量も膨大だ。

 杖の先端から発している魔力量が多いが、柄自体から自然に発している魔力量からしても……伝説(レジェンド)級のマジックウェポンクラスと推測。


 とにかく異質な杖だ。

 漆黒のローブを纏う魔女は、その特別だと思う杖を背中に回す。

 可愛らしく頭部を傾げていた。

 俺たちを見て、不思議と思ったのかもしれない。

 その黒髪魔女の背後から白髭を顎に蓄えた爺さんと女の子の魔法使いが現れた。

 太枝に着地した二人の魔法使い。

 二人ともアンバーの斜め線が胸元に映えるコーラルレッドを基調としたローブを羽織っている。


「フミレンス様、ここですか?」

(かか)さま。ゴブリンの巣の退治?」

「はて、樹木は不自然に倒れておりますが……災厄級は……」


 爺さんと女の子はそんなことを述べて周囲を確認していた。

 しかし、空を飛べる魔法使いたちか。

 高位戦闘職なのは確実。

 漆黒ローブを着た女性の名はフミレンスさん。

 そして、あの子はフミレンスさんと衣装の色が違うが娘さんか。


 続いて、斜め上の空に金髪の女性が視界に入る――。

 グロテスクなマントのような物を靡かせながら華麗に枝に着地した。

 金髪女性は、漆黒ローブを着た女性と爺さんと女の子の横に立つ。

 この新手の女性は人族というか魔族か?


『魔族のように見えますが、鎧に服が……』


 ヘルメも驚いている。女性の素肌は綺麗だが、

 ノースリーブの衣装のようで、両肩を覆う巨大な部分が、歪な口だった。

 その口は蠢いていた。歪な口の群れは、歯肉からカギ爪のような牙を出す。

 それは鮫が持つような三角形の歯牙。

 狂乱索餌(きょうらんさくじ)状態、まさにザ・怪物。

 そんな鮫のように餌を求める口の中から、舌が出た。

 舌は赤黒い色で、巨大ミミズのような太さ。

 神獣ロロディーヌの触手とは違う。

 エイリアン級のグロテスクさを持つ舌だ。そんな大きいミミズのような強烈な舌が彼女の腰と片腕の表面を蛇のように絡んでいく。その蛇の動きは厭らしく悩ましい。

 細い腕に絡んだ大きい舌は先端が細くなった。

 彼女の爪先に、小さく鉛筆の幅に縮小した舌がヌメリながら、これまた、悩ましく絡む。

 しかも、そのヌメヌメした舌先は、歪な小さい刃物群が密集していた。

 そんな密集した刃物群の先端から無数の唾が滴り落ちていく。


 唾が触れた地面はジュアッと音が立ち、黄金色の煙が上がっていた。

 あの茨や釘を巻いたバットのような舌先で、攻撃は受けたくないな……。

 ゾンビドラマのボスが持つような攻撃は受けたくない。嫌だ。


 垂れている臭そうな唾は確実に猛毒類だろう。

 両手に武器はないが、確実に強者だ……しかし、興味がある。

 あの背中の怪物たちは、クリシュナ魔道具店に売っているような装備が元なのか?


 それとも魔界か獄界に棲まうモノと眷属の契約でもして、背中に怪物を宿している?

 俺も……知らず知らずの内に尻の中に水精霊ヘルメを宿していたし……。

 契約云々の前に、背中に怪物を宿す人族系の種族かもしれない。


 その怪物を背中に飼う金髪の女性が、


「――膨大な魔力の源が突然に消えただと? しかし、ハプニングが起きたにしては……冒険者たちは残っている?」


 金髪の魔族のような女性が、俺たちを指しながら、そう語る。

 ロロディーヌは黒豹の姿で隠れている。魔力の源の発見は難しいだろう。

 それに消えた(・・・)という言葉から姿を黒豹タイプに戻したロロディーヌのことに気付いていない。


 さすが相棒だ。戦うべきと逃げる時の判断を持っている。

 仮に見つかったとしても、今の見た目は普通の黒豹。

 触手を見たら魔獣と分かると思うが……。

 隠れようとしているロロディーヌだ。

 外に魔力を出さない限り、巨大な姿に変身が可能な神獣とは思わないはず。


「風韻を感じさせる槍使いか……」


 金髪の女性は目角を立てながら、月狼環ノ槍を見て、俺をそう表した。

 そして、怪訝そうに腰の血魔剣を睨む。これは、弁解のしようがないアイテムだ。

 柄は髑髏だし血が巡っているような剣身だ、怪しい長剣に見えるだろう。

 もう血は滴っていないが……。

 金髪の魔眼を持つ女性は、血魔剣から、ぶら下がっている魔軍夜行ノ槍業を眺め出す。


「魔剣も魔造書も使うのか……」


 と分析しながら俺を注視してきた。体幹を意識した魔力操作を体に留めることを意識している。外に魔力は漏らしていない。

 アキレス師匠に魔力操作が褒められたように……。

 <魔闘術>はかなりの域だと自負している。


 鑑定能力を持つ魔眼が優秀でも、初見で俺の魔力の質を見破ることは困難なはずだ。


 金髪の女性は俺たちを調べようと貪欲に魔眼が輝く。

 背中に怪物を飼っている女性だが……妖艶さを持つ。

 ノースリーブの鋼色のコスチュームを装着している。

 巨乳さんと丸わかり、一対のたわわの果実を実らせている貴重な女性。

 くびれた腰に手足も長い。

 服の素材は、肌とピッタリと合っているケブラー素材にも見える。

 近未来風の公安の方が着ていそうな戦闘服。

 しかし、背中の怪物の口たちという……。


 ま、グロテスクだが、ある種のアートにも見えるか……。


「……槍使いと女たちか。車椅子に乗っている女の冒険者とは珍しい。しかし、獣人も混じった普通の冒険者パーティにも見える……しかし、だ。わたしの鑑識を弾いてきたよ? どういうことだい。フミレンス」


 怪物を宿したコスチュームを纏う女性が仲間のフミレンスさんに聞いていた。

 爺さんと子供魔法使いも、隣に居るフミレンスさんを見る。


「さぁ……貴方の魔眼でも見られないように、わたしも無理よ――」


 漆黒のローブを着た黒髪魔女は、そう答えると、周囲を確認。

 太枝から下りてきた。血獣隊たちが緊張したように身構える。

 続けて、爺さんと子供魔法使いも降りてきた。


 月狼環ノ槍を握り、前に出た。向こうは戦う様子はない。

 まずは無難に挨拶だろう。フミレンスという黒髪女性を見て、


「こんにちは」


 と、挨拶して頭を下げた。

 漆黒のローブを着た女性も、ローブを上げてから頭部を晒す。


 持っていた杖を離してから、俺に向けて丁寧な所作で頭を下げてくる。

 手が離れた杖は浮いていた。

 良く見たら、胸元に天秤と杖と腕のマークのブローチがある。

 魔力が内包して黄金色と虹色の光を発していた。


「こんにちは。あなた方、ここに巨大な怪物のような存在を見なかったかしら……」


 周囲の打ち倒された樹木を見て語るフミレンスさん。


 たぶん、相棒のことを指しているんだろう。

 ここはしらを切る。


「獣の咆哮を聞いてこの場に来ましたが、ゴブリンたちしか居なかったですね」

「……そうですか」

「……はい。未知なモノはそこら中に居ます。見ての通り、ゴブリンと巨大な鹿が潰れている死骸が転がってますからね。その巨大な怪物は……遠くに移動したのかもしれないです」


 と、無難に発言。

 血獣隊とエヴァにレベッカは黙って見ている。

 すると、黒髪女性の背後に降り立った金髪の怪物衣装を着込む女性が、


「……怪しいね。その右目の横にある十字の金属はなんだ……」


 と、俺を睨みながら発言した。彼女の目尻に血管が浮いている。思わず、眉を動かして反応してしまう。いかん、ポーカーフェイスを貫く。


「これは、鑑定に使うマジックアイテムですよ」


 またまた無難に本当のことを告げる。

 彼女が疑うというか怪しむのは当然だ。

 今、アラハを連れて隠れているロロディーヌのことは分からずとも……。

 魔眼を弾く俺たちの存在(光魔ルシヴァル種)は怪しい。

 観察眼に優れた魔眼の持ち主は、自身の能力に自信もあるだろうし……。

 普段、弾いてくる存在と遭遇するのも稀だろう。と、納得した。


 そのタイミングで――新手が登場。

 右手の斜めに打ち倒れていた幹の上に着地した女性。

 焦げ茶色の髪を持つ女性だ。俺たちの様子を見てくる。


「……黒髪の魔槍使い? まさかね……」


 彼女は月狼環ノ槍を見て、そう語る。

 胸元がスリット状に重なったお洒落な衣装は魔女風だ。

 首にマルーン色の小さいマフラーを巻いている。

 鎖骨が薄く見えたインナーに砂漠色の猫のブローチを装着していた。

 猫のブローチを好むとは、センスが良いね。素晴らしい、好感度が高まった。フミレンスさんと同じように、天秤と杖と腕のマークのブローチもある。

 細い腕に魔力を宿した金色に輝く獅子の刺青もあった。

 手首に数珠と、手には魔力を備えた鉤縄を持つ。

 手首の数珠と鉤縄は、忍者が持つような武器と似ている。

 しかし、衣装は魔女だ。あの数珠はどこかで見た覚えがある。

 数珠と鉤縄は、腕に刻む獅子の刺青と関係していそうな雰囲気があった。

 が、そんな武器類よりも、片腕が浮いていることの方が重要か。

 俺の<導想魔手>とは違う。

 焦げ茶色の髪が掛かった右肩の辺りに油絵の質感を持った片腕を浮かせていた。

 魔力を宿した片腕、籠手の部位、肘までの片腕だが……。

 甲の部分に小さい鴉たちが縁取る眼を備えていた。眼球は魔眼だろう。

 その下に砂漠色の猫の絵と夜叉の面が刻まれていた。

 髪がコンロウで額に十字印があり、双眸がオッドアイ。

 コンロウと額の十字印……まさかな……。

 その疑念は置くとして、浮いている片腕が主武器だろう。

 そして、鉤縄と数珠が副武装と推測した。

 数珠の方は、俺の二の腕に備わる光輪防具(アーバー)系かもしれない。

 攻防一体型の防具かな。

 ボーイッシュな焦げ茶色の髪を持つ女性は、かろやかなポーズを取ると飛び降りてくる。

 オプション兵器のような片腕を連れながら茶色の髪の女性も、他の仲間たちの横に並ぶ。

 三人の魔女と、その家族か?

 俺は老人と子供も含めて、その方々に視線を巡らせてから、


「あなた方は……あ、まずは名乗ってシュウヤといいます。冒険者です」


 と、アイムフレンドリーを意識しながら自己紹介をした。

 そして、懐から……。

 神々の残骸、いや、黄黒猫(アーレイ)でもなく……。

 冒険者カードを取り出して、皆にカードを見せていく。


「これはご丁寧に。初めましてシュウヤさん。わたしの名はフミレンス。象神都市と契約している魔法ギルドの者で、玲瓏の魔女と呼ばれている組織の統括者ですよ」


 魔法ギルドの方々だったのか。

 あ、思い出した。天秤と杖と腕のマークを。

 ミスティの兄、ゾル・ギュスターブが着ていたローブの背中に同じマークがあった。

 ペルネーテの魔法街にも似たマークがあったな。


「……魔法ギルドの方でしたか」


 ということは……帝国の統治機構側の存在か。


「はい。それよりもシュウヤさんたち、ここは危険ですから離れた方いいです」


 真剣な表情を浮かべたフミレンスさんは警告してくれた。

 良い方々のようだ。

 フミレンスさんは、杖を持っていない片腕を右方へ向ける。


 都市に続く道の方角を示してくれているようだ。

 指貫グローブから出ている繊細そうな指たち。

 指の爪はどれも長い。そして、爪から魔線が延びている。

『すぐにここから逃げろ』

 という強い意思が、腕の動きに込められていることは分かった。

「ありがとうございます」

 素直に礼を述べた。

「フミレンス。いいのかい? この黒髪から、夜の気配を感じるよ?」

 そう疑問げに聞く金髪の怪物を纏う女性。

 老人と子供に、遅れて来た片腕を武器とするような女性も黙って見ていた。


分かって(・・・・)います。しかし、暁の墓碑もある鎮守の森は大事。そして、燎原の火は広まりやすいモノ。もう一度、空から範囲魔察を行います――」


 刹那――。

 フミレンスさんの近くで浮いていた杖の一部がバナナの皮を剥くように離れた。

 離れた金属は、ぐにょりと弧を描きながら変化を続けて、彼女の足下に移動する。


 漆黒のローブが少し風を受けてめくれる。

 靴と細い素足が見えた。

 すると、湾曲した金属たちと連動したように、鴉たちも飛び立つ。

 飛び立って消えた鴉たち。しかし、鴉たちの数羽は、急反転。

 湾曲した金属に突進して戻る鴉もいた。金属に衝突はしない。

 鴉たちは金属の中へと液体が染みこむように吸い込まれていく。

 その瞬間、金属の表面に鴉の紋様が現れた。

 センスのいい鴉のマークが立体的に浮かぶ。カッコイイ。

 フミレンスさんは、微笑むと、その金属ボードの上に乗った。


「マテウス、スズ。貴方たちもここに乗りなさい。飛行術も魔力を消費しますからね」

「あ、はい」

「うん、かかさま」


 フミレンスさんは優しげに老人と子供を呼び寄せる。

 二人を金属ボードに乗せると、そのまま血剣に乗ったヴェロニカのようにサーフィン機動で空を軽やかに移動していった。

 その直後、俺を睨んでいた怪物を纏う金髪女性が、


「チッ、速いんだよ――」


 と、舌打ちしながら喋り、地面に両足の跡を残しながら跳躍した。

 舌を口の中に収斂させながら飛行する金髪女性の飛翔速度は速い。

 先を行く黒髪女性を追い掛けていった。

 黙って見ていた片腕を武器とする女性は、俺たちに見て、


「B級の冒険者なら余計な世話かもしれないが、フミレンスが語るように、この辺りは危険だ。もし災厄級なら緊急依頼も間に合わない。だから、急いで都市の中に避難を勧める」

「ありがとう。片腕を扱う方。名前を教えてください」


 と、さり気なく焦げ茶色の髪を持つ美人さんの名前を聞いておく。


「あたしの名か。久しく名乗ってないが……これも縁。名はゾカシィだよ」

「ゾカシィさん。その片腕はどんなアイテムなのでしょうか」

「あぁ、これかい、これはメファーラ様にゆかりのある特別なアイテムさ――」

「――ゾカシィ」


 空で金髪の魔女が呼ぶ。


「あいよ。んでは、気をつけるんだよ――」


 跳躍したゾカシィは、両手の指を組み合わせて幾つかの魔法印字を刻む。


 刹那、浮いた片腕の表面にある眼球の虹彩が散大した。

 散大した瞳の中心から砂が混じった風が吹く。

 彼女はその指向性を持った砂塵を足下に纏うと、尋常じゃない速度で飛翔していった。


 ゾカシィを呼んでいた怪物を背負う金髪女性をも追い越していく。


 あっという間に見えなくなった。相棒がすぐに戻ってくる。

 俺はエヴァとレベッカたちに視線を向けた。


「さて、ユイとカルードの待ち合わせ場所に向かおうか」

「うん、けど、今さっきの人たち、わたしたちを怪しんでいたわよね」

「そうだな。だからここから離れるとして、アラハが気絶しない範囲で速度を出そうか」

「すみません……」

「ん、アラハちゃん、ロロちゃんが包むから大丈夫」

「そうよ。羨ましいけど、ロロちゃんも、もふもふの毛が大好きのようだし!」

「にゃ~」

「姉さんばかり……」

「はは、サザー嫉妬か?」

「……ごしゅさま、違います」


 と、頬を赤くするサザーちゃんだ。


「んじゃ、ロロ、アラハを振り落とすなよ――」


 血獣隊の面々にアイコンタクトしてから走り出す。

 ママニとサザーが俺の横につけて、一緒に走り出した。

 先ほど、フミレンスさんが指していた方向を走ると直ぐ街道に出る。

 そこから象神都市の入り口までは直ぐだった。

 外壁と入り口の巨大な象の門が遠くに見える。

 幅広な街道も動物の象と似た石像が並んでいた。

 勿論、人、獣人、亜人、様々な種族たちが通りを行き交っている。

 馬車はオセベリアと似ているが、形が違う馬車もあった。

 魔獣売りの馬喰たちもいる。蝙蝠の羽がたくさん吊してある屋台。

 ラーメンを作っていそうな店もあった。

 左では役人らしい格好をした者立ちが、虎獣人(ラゼール)の商人たちを取り調べている。鍋料理を売っていそうな店もあった。

 城塞都市ヘカトレイルで美味しかった野菜と肉が入った鍋料理が売っているのだろうか。


 興味あるが……見学はしない。

 通りを進んでいく。


 エルフの剣士たちが戦っている小さい闘技会場も右手にあった。


 ――自然発火現象に気をつけろ

 ――地母神マムムートの怒りは近い。象神レジーピックなぞ、地にひれ伏すだろう。


 布告状のような場所もあった。

 ここからは早歩きかな。

 ラドフォード帝国の兵士たちの格好はオセベリアとは違う。


 少し速度を落としながら、大小様々な石像の象たちを見学した。

 俺が知る動物の象と似ているが、微妙に違う。


 足が多いし、象の鼻が三つもある。

 そして、乳房が多い……。

 象神レジーピックなんだろうか。


 そして、巨大な象の門を進む。

 巨大な象は長い三つの鼻を上げて、立派な角牙群が、下を通る俺たちや、様々な種族たちを出迎えている。


 道幅は街道と同じかなり広い。


「ん、大きい」


 見上げているエヴァの言葉だ。

 懐かしいが、少しえっちな言葉だ。


 エヴァが見て……呟いたように。

 天井の象の内腹には……乳房群が並んでいる。 

 天井からぶらさがるリアルな真鍮製にも見える乳房群が並ぶ光景。


 ……圧巻だ。

 青銅製の仏塔にも見えた。


 そんな入り口の巨大な象の門は長く続いている。

 股間部分は……割愛しよう。


 とはいえ、乳房も、あまり注視はしたくない。

 おっぱい好きとはいえ、乳房が多いのは守護者級のモンスターで味わっているからな……。


 だから、エヴァを見て癒やされる。

 そのエヴァはレベッカに魔道車椅子を押して貰いながら進んでいた。

 <筆頭従者長>の二人は姉妹のようだ。

 エヴァはホルカーバム近郊の貴族の出。

 ペルネーテに移り住んでから隣の国に行ったことはないだろう。

 レベッカはサイデイル村に来たぐらいで、ペルネーテの外に出たことはないようだし、まったくの知らない地域、知らない文化だろうし。


 二人は楽しいだろうな……。

 笑顔がそれを物語っている。


 血獣隊の面々も西の帝国領は初めてのはずだ。

 と、観光も楽しみたいが……。


 巨大な入り口の門を抜けたところで、


「ロロ、カルードとユイの匂いはどっちだ?」


 と、血鎖探訪を使うかと考えながら、アラハを主人とした相棒に尋ねる。


「ンン――」


 喉声で返事をしたロロディーヌは走り出す。


「きゃ――」


 アラハは驚いてロロディーヌにしがみついていた。

 小柄獣人らしい小さい犬耳が揺れて可愛い。


「ロロちゃん、速い!」

「レベッカ、追い掛けて!」


 なぜか、興奮したエヴァはレベッカを促すと、


「うん!」


 と、二の腕にこぶを作って、かよわいマッスルポーズを作るレベッカ。

 エヴァの魔導車椅子の手押しハンドルを押して走り出す。

 エヴァは紫魔力で、そのレベッカを包むと、二人は<血魔力>を生かすように、尋常ではない速度で通りを行き交う人々を軽やかに躱しながら進み出す。

目立つが、あれは馬車にも見えるか。笑った俺は血獣隊の面々と一緒に彼女とロロディーヌを追い掛けていった。アラハを乗せた黒豹ロロディーヌの姿は見えない――町中だしな、走って追うのも無理がある。

 屋根上を飛び越えて追うことも可能だったが……。


 今は派手に行動はしない。

 <無影歩>を使えば良いとは思うが使わず、すると、相棒を見失った通りの横に盾と剣で構成した道標のような標識があった。

 オセベリアと少し筆記体の種類が違うが字は読める。


「イズマム街、ハフナート通り、魔法街、宗教街」


 とあった。

 左上の方か。古びた教会の跡地は宗教街にある。


「ん、ロロちゃん、どこ」

「<血嗅覚烈>ではこっちから匂ってきます」


 ママニがそう発言しながら腕を左の方の路地に差す。

 酔っ払いのドワーフがその路地に入っていく姿が見えた。


「ありがとうママニ」

「はい」

「ママニの臭いを追う技術は高い」


 ビアがそう発言。姉に嫉妬していたサザーも頷く。


「左と分かるが、一応、俺も――」


 <血鎖探訪>の出番だ。ユイの血を出そうと思ったが、血鎖はユイの血の臭いを覚えているように自動的に動く。振り子時計のように揺れた血鎖の先端。碇にも見える先端は左方の方角を差して固定した。

 皆、血の鎖の動きを見て頷く。


「ん、こっち――」

「生きているみたいね、血鎖も成長しているの?」

「さぁな」


 エヴァとレベッカは頷くと先に行く。

 そうして、血の鎖とママニの臭いを頼りに幾つかの狭い路地を過ぎた――瞬間、ユイとカルードの魔素の気配を感じた、ユイの姿を思い浮かべる。一気に懐かしい思い出が脳裏を駆け巡った。自然と走る速度が上がっていく。その時、通りの端で動きを止めていたロロディーヌを見つけた。


 待っていてくれたのかな。

 と思ったが相棒は隅の方をふがふが、くんくん、と臭いを嗅いでいた。

 そして、頭部を上げるロロディーヌ。

 鼻が膨らんで『ここ、くちゃい、にゃぁ~』といったような表情を浮かべている。『ここは掃除して臭いの封印ニャ~』といったように交互に両前足を前にパンチするように伸ばしながら周囲の土を削るように掘る。


 自分の小便を片付けるように、その臭い部分へと削り取った土を当てていた。黒豹だが、野良猫の縄張りの臭いは気になるよな。

 単に臭いのが嫌だったのかもしれないが……。

 犬の縄張りか不明だが、獣の習性だ。仕方ない。

 相棒の背中に乗っているアラハも、ロロが土を掘るたびに体を揺らしていた。一生懸命に土を掘っている神獣の姿を見たアラハは混乱したような表情を浮かべておろおろとしている。


 フレーメン反応は知らないようだ。


「相棒、先に行くぞ、袋があっても、その中に入ってアラハを落とすなよ――」


 と、笑いながら喋った俺は、<血鎖探訪>が差す角を曲がる。

 そこに左手に建物が見えた。古びた教会の建物だ。

 ホルカーバムの石材でも使われているのか、一応は、建物の形は保っている。天辺の十字架は欠けている。しかし、あれが、この地方の神聖教会のなれの果てか。地方によってこれほど宗教観が変わるものかと……古びた外観から思った。ペルネーテとヘカトレイルの神聖教会は立派だった。

 その二つの都市の通りには信者に説教する司祭も居た。

 そんな感想を持ったところで、ユイの走ってくる姿が――。

 目元に涙を溜めている。はは、ユイ……。

 そこに仲間たちとカルードとも違う、不自然な魔素を感じた。

 更に黄緑色の魔力が包む矢がユイの左右から迫ってきた。

続きは来週です。

HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1-20巻発売中!

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