四百六十一話 血魔道ノ理者
2022年12月19日 15時22分 諸々、修正。
血の滴る剣か――。
ヘルメの肩から手を放す。
魔槍杖バルドークと<鎖>の盾を消去。
念のためポケットから取り出した魔造虎と闇の獄骨騎へと魔力を注いだ。
すると、ポケットが振動。
神々の残骸とホルカーの欠片が震えているんだろう。
天然のバイブでもあるが、気にしない。
が、この言い方は下品か?
植物の女神サデュラ様と大地の神ガイア様に叱られるかもしれない。
と、たわいのないことを考えている間にも、濛々と黒色のゼメタスと赤色のアドモスの煙が立ちこめる。
同時に、魔造虎からアーレイとヒュレミが大虎へと変身を遂げた。
墓掘り人たちが、黒と赤の煙を打ち消すように動いた。
側近として、俺を守る陣形。
少しヘルメの動きを真似ている?
墓掘り人たちは、それぞれの武器を構えながら陣取った。
自身に合う形の<血液加速>系のスキルを持つようだ。
「良い動きです」
ヘルメも墓掘り人たちを褒めた。
ヘルメは氷槍を複数発動。
更に、氷剣を握りながら<珠瑠の紐>の輝く紐も指先の球根花から伸ばしている。
氷槍の群は、俺の頭上に多い。
某有名シューティングゲームのオプションからレーザーを無数に放てるような気分になった。氷柱雪崩のような連続攻撃をいつでも可能といった感じだ。
そんな俺たちと対峙している血が滴る剣。
墓掘り人たちの一人一人の行動を見定めるように鋒を向けていく。
血が滴る剣は、攻撃の意思はないようだが……。
すると、沸騎士ゼメタスとアドモスが煙を吸収するように現れる。
「閣下、敵は、血剣!?」
「我らが特攻を!」
「待て、様子見だ。ゼメタスとアドモスを、皆に紹介がてら呼んだ」
「「はッ」」
沸騎士たちは気合い声で応えると、骨剣で骨盾を叩く。
「この剣って……」
甲高い声のイセスだ。
血の滴る剣を見ながらそう言葉を発していた。
イセスは、小型チャクラムの円の中心に右手の人差し指をさし、そのまま指先を回して、小型チャクラムを回していた。
その右の指で扱う小型チャクラムは血濡れた大きい五円玉に見える。
回転中の小型チャクラムの端から血飛沫が飛んでいた。
反対の左腕は背中に回していた。
背中には大きいチャクラムを装着している。
細身の体格だから、目立つチャクラムだ。
持ち手の太い部分も見えている。その持ち手に左の指を当てていた。直ぐに、その太い部分を握り、大きいチャクラムの<投擲>が可能なフォームと分かる。
大きいチャクラムと背中の金具は脱着可能かな。
大きいチャクラムの縁の刃から血の炎が迸っていた。
髪の毛が燃え移る勢いのプロミネンスを彷彿とする血の炎だが、まぁ、血の炎だから大丈夫なんだろう。
あれがイセスの<血魔力>か。
ロゼバトフのメイスと拳骨の武器も気になったところで、
「古代狼族たちが守っていた秘宝の中にあった血剣だ」
頬骨が見えているキースが発言。
頬骨から不気味な血があふれ出る。
血は蛍のように煌めくと小さくなって消失。
ホラーテイストだが、バーレンティン以上に渋い方だ。
背中から刀剣を引き抜いている。
刀身は魔槍グドルルの穂先と同じようなオレンジ色の輝きを放っていた
「血が滴る剣か。ソレグレン派の中に血を宿す血魔剣があると聞いたことがある」
メイスを拳の上に乗せた構えのロゼバトフがそう語った。
「へぇ、あのセグネファリアの災いを制止したという?」
イセスが語る。
地下にも色々と争いがあるようだ。
「そうだ」
と、バーレンティンは頷く。
すると、魔眼を発動させている禿げたスゥンさんが、
「バーレンティン。地下洞穴の道を闇虎の姿をしたゼルウィンガーの亡霊に導かれたと聞いたが、血の滴る秘宝剣の臭いも関係していたのか」
と、バーレンティンに尋ねていた。
彼の頭部は見事に禿げている。
しかし、横顔は「ゲイリー・オールドマン」と似て渋い。
正面からは「アルトゥル・ショーペンハウアー」と似た方だ。
そんな俳優と哲学者と似ている渋いスゥンさん。
見ているだけで射殺せそうな魔眼から発している魔線は刃渡りの厚い短剣と繋がっている。
右手の武器は普通だ。
左手の方の武器は見たことのない代物。
柄の両端は三角刃。
その三角刃に合う赤色の鱗金属が積み重なった武器。
金属の筋めいた機構から白燐めいた光を覗かせている。
鞭、手裏剣、短杖、短槍へと形状の変化が可能な武器と推測するが……。
変化が多用な武器を扱えるスゥンさんか。
そのスゥンさんが発した渋い言葉にバーレンティンは頷く。
「……濃厚な血の臭いと勘もある」
「勘か」
「そうだ。秘宝の数々の品をチラリと見てな……古い血脈ソレグレン派の血魔剣だと推察した。だからこそ……」
バーレンティンは俺を見た。
そして、イセスが指先で回していたチャクラムを懐にしまい、
「主が、皆の血を飲んだ杯と関係する? 〝古の外魔アーヴィンの髑髏の杯〟は、血が濃厚というより……血が複雑に絡み合っていて、わたしの<血解>では判断がつかないんだけど」
「当然だ。秘宝の中に内包された血脈は異常……バーレンティン以外では無理だろう。否、バーレンティンでさえも把握はしきれていない」
キースはそう話をした、皆は頷く。
「あぁ」
バーレンティンはそう声を出して頷く。
「が、バーレンティンは<血脳>に<神霊トルゥザ>を持つ」
「バーレンティンは、<血脳>の分析と、血の臭いから、ある程度は予測していたか」
「そして、古代狼族が持っていた秘宝と関係すると判断したと……」
スゥンさんとサルジンが語る。
スゥンさんは魔眼で俺を見ながら話をしてくれた。
サルジンは不細工だがスゥンさんは禿げカッコイイ。
わざと俺にバーレンティンの持つ能力を説明してくれているようだ。
バーレンティンは、
「そうだ。<血脳>や<血解>の分析に、血の匂い……そして、古の外魔。偽の神霊トルゥザの地下墓を暴き、お前の持つ〝リングオブガイガー〟と同時に入手した、あのアーヴィンの髑髏の杯。その秘宝と関係すると推察した。わたしの命を救った東方の吸血鬼と、地下を放浪している我ら墓掘り人とも関係がある」
バーレンティンの言葉に墓掘り人たちは頷いた。
リングオブガイガー?
スゥンさんの嵌めている指輪を注視した。
琥珀色の模様が綺麗な指輪。
魔力は普通……怪しい。
双眸を意識して目に魔力を強く込めた。
と、スゥンさんのはめている指輪に、途方もない禍々しい魔力を感じ取った。
幻影魔法が独自に掛かっているらしい。
あの指輪は、知性を有したアイテムか?
神剣サラテン? 剣精霊イターシャ?
ある種の蟲のような感じかもしれない。
俺の魔察眼はかなりの熟練度だと認識しているが……。
表面しか見えない。気付かなかった。
俺は<覇槍ノ魔雄>と<光魔の王笏>の効果があるが
まぁ、普通の観察だけで看破できるわけがないか。
だからこそスゥンさんの装備しているアイテムは神話級クラスと推測する。
指輪が展開している幻影魔法の一端を知れただけだろう。
そして、俺が持つ髑髏のリキュールボトル。
この血の杯の秘宝も、また神話か伝説と推測。
〝古の外魔アーヴィンの髑髏の杯〟
という名があるようだ。
髑髏の杯の中の血は、墓掘り人たちの血脈だけではない。
他の古い吸血鬼の血脈など無数の吸血鬼系統の血の系譜が入っていたのか。
吸血王サリナスはソレグレン派か?
吸血王サリナスも髑髏の杯の血脈の中に内包されている吸血鬼の一人なのだろうか。
俺は<ソレグレン派の系譜>と<吸血王サリナスの系譜>を獲得した。
ソレグレン派とは地下で生活していた吸血鬼たちのことだろう。
そのソレグレン派は、ヴァルマスク家、ハルゼルマ家と、名が付く十二支族の一つなのか?
それとも吸血神ルグナドの理から外れた怪夜魔族の特性を持つ吸血鬼一族ということなのか?
エルザの幽鬼族系の一派であるタザカーフの血脈とは違うだろうし……。
あの血を垂らす魔剣……ハイグリアは吸血王サリナスの血剣と語っていた。
すると、
「――にゃごぁ」
「あなた様――」
神獣ロロディーヌとジョディが棚の壁を吹き飛ばしながら戻ってきた。
ジョディの首に巻き付いていたイターシャも彼女の肩に乗っている。
小さい鼬の胴体部分から爪楊枝の切っ先が見えていた。
見た目は小さい。
しかし、あの爪楊枝も中々に威力がある。
波群瓢箪から産まれた眷属リサナと神剣サラテンが活躍した剣精霊同士の戦いでもイターシャは爪楊枝の剣で見事に狸の剣精霊を貫いていた
その直後、血の滴る剣が反応。
剣身を上向かせて垂直へと跳ね上がった――。
囲いに加わった神獣ロロディーヌと光魔ノ蝶徒ジョディの存在から慌てて逃げるようにも見える。
血剣は野菜の飾りを破壊して天井を貫く――。
天から射す月光りが拡大した。
双月神たちが『見ているぞ』と強く警告を発したように強いスポットライトのような月光を浴びた螺旋する血剣は、その月光から逃げるように血の陰月を宙空に描く。
と陶器製の机へと向かう。
アドゥムブラリの横を掠めながら机に突き刺さった。
甲高い金属音が耳朶を叩く。
「――ぬぉぉ、オ、オレ様は、美味しくないからな、喰わない、いや、吸わないでくれよ血剣よ……」
頑丈な陶器製の机。
しかし、突き刺さった血剣の周囲は円形に窪んでいる。
『惜しい――生意気な血の臭いを漂わせている魔剣の類いよ。もう少しであのアドゥムの身を貫けたであろうに!』
『サラテン娘。外にその思念は聞こえてないぞ』
『ふん、分かっておる、ライバルだからな。あの球体は!』
サラテンは元魔侯爵に嫉妬している。
アドゥムブラリが観察していた闇の炎を灯していた燭台は斜めにずれ落ちていった。
それを見た単眼球体のアドゥムブラリは怯えながら、
「――主、この血の剣は大丈夫なのか?」
そう早口で言葉を発してから机から離れた。
ヴェニューがいるカーテンに向かう。
「小さいぴこぴこ饅頭が近くに来たけど、あの血剣、わたしたちを攻撃しているわけじゃないの?」
「……何かをアピールしているように見える……」
見ていたエルザとアリスがそう語る。
そのアリスは、カーテンの裏に隠れようとしていたアドゥムブラリの襟を掴む。と、新しい玩具を得た! と言うように子供らしい笑顔を浮かべた。
アリスは、そのアドゥムブラリの柔らかそうな単眼球体を、ヴェニューが宿る水カーテンの表面にこすりつけていく。アドゥムブラリは、
「――ひぃぁぁぁ、見えざるは易きことなき、感ずべき物がある如しぃぃ~。肌が潤う?」
と、変な言葉だが、意味があるような言葉を叫ぶ。面白い。が、無視だ。
アドゥの額に文字はない。
エルザはトレードマークのアウトローマスクの一部が外れていた。
素顔が少し見える。駄菓子屋でお茶した時と同じく細い顎を露見していた。
エルザとアリスの悩ましいデコルテが見えている。
おっぱいさんが見えそうだぞ。
一方、その悩ましい彼女たちが手で持つカーテンの表面には、ヴェニューの上半身が生えたまま。カーテンのにょきっと生えているようにも見える不思議なヴェニューたちは、各々、小さい棒を血が滴る剣に向けて投擲していた。
が、その宙を進む小さい棒に威力はない。空中で消えている。
すると、沸騎士たちも興奮したのか、骨盾をどつき回す。
骨盾だ打楽器に見えてくる。
皆、血剣にも注視するが、その沸騎士音頭を放つ存在に、畏怖したような面を見せる。
そんな中、アリスだけ、目を輝かせていた。
沸騎士に向けてアドゥムブラリを放る。
「主ぃぃ~」
と、小さい一対の翼をぱたぱたと動かして、帰ってくる。
痴漢しようとしていたから、素直に出迎えはしない。
親指で単眼球を押し込む。
アドゥムブラリから「あべし」と聞こえたが無視して、
「アドゥム、とりあえず戻れ」
「おうよ!」
アドゥムブラリが紅玉環に帰還。風呂場に居るエルザとアリスに向けて、
「エルザとアリス。血剣の方は大丈夫だと思うが、そのヴェニューを纏ったカーテンを下ろして隠れていろ。水幕とヴェニューが加わった防御効果はかなり高いはずだ」
「やだ! 血剣が気になるんだもん!」
「ガラサスも居る。こちらに来たらわたしも動く」
魔眼を発動しているエルザ。
彼女のハスキーボイスから独特の力強さを感じた。
しかし、謎の力を秘めたネックレスがあるからといってアリスは子供だ。
「アリスは隠れていた方がいいだろう」
「アリスならわたしが守る」
「ワタシモ、イル」
なら、いいか。
と、ガラサスの不気味な声を耳にしながらツラヌキ団たちを確認。
彼女たちは机から離れて一カ所に集結していた。
美しいセルリアンブルーの魔力を発しているオフィーリアが隣に立つツブツブを含めて小柄獣人の皆を守る形だ。
一方、戻ってきた神獣ロロディーヌ。
突き刺さった血剣に対して「ガルルゥ」と唸り声を発しながら――。
尻尾と触手で黄黒虎と白黒虎にグルーミングを行っていた。
黄黒虎と白黒虎は喜びごろニャンコ。
床に寝転がっている。
ちゃっかりマッサージを受けていた。
大好きな母親のようなロロディーヌに対して柔らかそうな枕となる魅力的な内腹を見せていくが……。
今はだめだ。
「アーレイとヒュレミ。枕を魅せるな。まだ戦いじゃないが、未知の血剣だ。用心しろ」
聞き分けの良い黄黒虎と白黒虎は耳をピクピクと動かしてから、
「――ニャア」
「――ニャオ」
と、鳴いてブレイクダンスをするように起き上がった。
俺の左右の側に四肢で立つ大虎たち。
大虎たちに微笑みを向けてから――。
もしものために血なら光で対抗だと考えて、拳の形だった<導想魔手>を広げ聖槍アロステを意識した。
<導想魔手>の手に聖槍アロステが出現。
歪な魔力の手に握らせる。
机の周囲に散らばった墓掘り人たちは沸騎士の存在からアロステに注意を移す。
聖槍アロステを見てどよめいた。
そんなことは構わず机に刺さった血剣を見据え――。
左足を一歩出す。
キサラから習った掌法の『魔漁掌刃』で構えた。
「ニャァ」
黄黒猫も同じように左足を一歩出す。
可愛い大虎だ。
髑髏のリキュールグラスをあまり動かさない。
片手だけの『魔漁掌刃』だ。
その直後――。
腰に備えた魔軍夜行ノ槍業が訴えるように震えてくる。
即座に魔軍夜行ノ槍業へと魔力をたたき込む。
と、奥義書と呼べる魔軍夜行の書は静かになった。
アイテムボックスにある閻魔の奇岩を欲しているわけではないらしい。
しかし……この魔軍夜行ノ槍業の内部に棲む方々を師匠と呼べるかどうか。
魔力でチンモクすると魔物を扱っている気分になる。
……さて、この肝心の血剣だが……。
机を裂くように突き刺さって動きが止まったままだ。
血剣を注視した直後――。
柄の表面と剣身から火山が噴火するような勢いで大量に血が噴出した――。
宙に展開した血は<血鎖の饗宴>を彷彿とさせる。
そして『諸法無我を歩む、新しき王よ、血を汲め――』と古代文字を宙に象った。
「血を汲め?」
俺の問いに応えるように噴出した血は――。
血色の柳絮の種子を持ったしだれ柳のような形で放物線を描く。
この宙に展開している血は意識がある?
血は指向性のある動きを示して、俺に近寄ってくる。
避ける暇はない。
血は俺が持っていた髑髏のリキュールボトルと繋がった。
リキュールボトルの拡大した髑髏の表面に血が波打った。
と思いきや新しく四つの穴の中に血が吸い込まれていく。
「四つの穴に血が? それより血を汲めとは?」
俺がそう尋ねると――。
穴に吸い込まれていない大量の螺旋した血が宙に展開。
宙に展開した血は吸血鬼の生命を測る尺度に見えた。
螺旋の渦が散って血霧となると四つの人型を映し出す。
四つの人型はローブのような物を羽織っていた。
「我は、血外魔の大魔導師アガナス」
「我は、血内道の中魔導師レキウレス」
「我は、血獄道の大魔導師ソトビガ」
「我は、血月陰陽の魔導師ゼノン」
魔導師たちは喋った。
血の幻影にも見えるが四人とも意識があるようだ。
「やはり、反応したか……吸血王サリナスを支えた古代の吸血鬼たち」
黙っていたバーレンティンがそう話をした。
吸血王サリナスの系譜の恒久スキルは獲得したが……。
古い血の歴史という感覚の理解しかできない。
バーレンティンは古代のヴァンパイアを知っているようだ。
俺は四つの血の人型に向けて、
「血の魔導師たち。俺に何か用か? 吸血王サリナスの系譜を得たが」
と質問したが、雷でも落ちたような音が響く――。
古代狼族の祭り囃子めいた音じゃない。
空間を引き裂くような音だ。
「きゃっ」
「ひぃ」
「何!」
墓掘り人とエルザと俺の眷属以外は空間を裂くような音に驚きの声を上げる。
同時に髑髏のリキュールボトルが俺の手元から離れた。
血の魔剣は血を吸引。
引き寄せられた髑髏の杯。
そのまま血魔剣の柄と重なり合体した。
四つの穴は点滅。
四人の血の魔導師たちは俺の質問に答えず――。
剣の中へと収斂する形で消えた。
「にゃ――」
神獣ロロディーヌは鳴くが、合体した血剣ではなく夜空を見た。
疑問符を頭部に浮かせるように首を傾げている。
何か、空に居るのか?
鯨、くらげ、いや、霊とか見える?
一方、肝心の机に突き刺さっていた血剣は柄と剣身を基点に上下に広がる。
輝きも増すプラズマのような光となった。
プラズマは逆さの十字架を模した柄を作る。
ムラサメブレードのような武器なのか?
血剣の変化、この逆さの十字架の柄も、気になるが……。
やはり、相棒の視線も気になった。
こんな時に、鯨か大量のクラゲでも居るのか?
と、天井の裂けたような穴から夜空を見る。
月の残骸と小さい月が見えるだけ、特に……ん?
夜空の空間が歪んだような気がしたが気のせいか。
「にゃご!」
もう空を見てない気まぐれロロディーヌ。
警戒音を発してから机に近寄っていった。
血の輝きが増した剣に向けて噛みつくそぶりを見せながら口を広げて両前足を机の上に乗せる。
喉の奥から炎を覗かせていた。
空は何だったんだろうと思いながらも相棒に、
「ロロ、攻撃はだめだぞ」
と、伝えた。
ロロディーヌはすぐに口を閉じてくれた。
が、牙の間から紅蓮の炎がこぼれていく。
不思議と口元から漏れた炎はロロの髭と首下の黒毛に燃え移らない。
しかし、鍛冶屋が炉で鉄を溶かしているような熱さを感じた。
「……ロロ様、盛大に炎を吹かないでくださいね……」
ヘルメも熱を感じたようだ。
動揺してジョディの背後に隠れる。
「精霊様、沼に入れば安心ですよ」
ヘルメは<珠瑠の紐>を指に引っ込めながら、
「いえ、閣下の側を離れるわけにはいきません」
ジョディにそう話すと、再び、俺の側に来る。
すると、逆十字の形の柄となった血剣が異音を発しながら震え出す。
血剣から異音めいた、言語か?
「――ドュッカ! ドュッカ! 百代の過客である不死者よ。吸血王サリナスの力を受け継ぐ証しを見せろ!! この特別な血魔剣を引き抜くのだ――」
古い地下言語を無理に翻訳しているのか、理解があまりできないが、血剣は『血魔剣を抜け』と、そうハッキリとエコーが掛かったような尊大な口調で述べてきた。
鷹揚な雰囲気で喋る血魔剣に口のような部位はない。
あのプラズマのような輝きを発している血から声が出たのか?
と、思った直後――。
柄の形が薄いモーブ色を帯びて変化。
持ちやすそうな形となっていた。
一瞬、魔剣ビートゥの柄巻きの形を思い出す……。
しかし、この血魔剣を抜けか……。
岩盤に突き刺さった誰にも抜けない伝説の聖剣を勇者が引き抜く。
といったような感じだろうか。
「証しか……皆、血魔剣の言葉は聞いたな?」
と、皆に聞く。
「聞きました! 閣下が引き抜くのですね!」
「あなた様は光魔ルシヴァル種の頂点。それにふさわしい魔剣を手にするのも一興かと」
「閣下、ご用心を!」
「何があるか不明ですぞ、代わりに私が!」
「毒味なら我が!」
興奮している沸騎士たちだ。
胴体から絶賛噴出中のぼあぼあ煙が頭部を包む。
あれで視界は保たれているようだ。
「ゼメタスとアドモス、大丈夫だ。俺に任せろ」
「はッ、しかし、この魔剣と似たアイテムはホルレイン卿が持っていた物と似ています」
「……似ているだけだ。魔界八賢師製とは違うだろう」
ゼメタスの言葉を即座にアドモスが否定した。
俺は頷きながら、バーレンティンたちを見る。
「主ならば主の血魔剣となるはずです。吸血王の証し。我らの新しき血脈の主……」
バーレンティンは秘宝を預けたように、心底、俺という存在を信じているらしい。
彼の大事なゼルウィンガーのこともあるだろう。
何か、運命を感じたのかもな。
「バーレンティンが信頼した俺たちの主だ。主の判断に従う。そして、それは、吸血王の証しとなる魔剣。確か伝承では、使い手を選ぶと聞く……」
キースがバーレンティンに対して頷きながらそう発言した。
露出している頬の骨から血が漏れている。
渋くカッコイイがゾンビ系の吸血鬼なんだろうか。
「呪いもあり苦痛もあると古文書に記されていたぞ」
トーリが語った。
彼は、時々、俺を熱い視線で見つめてくる方だ。
片眉がない代わりに変な魔力を纏う記号が片眉にある。
彼と距離を縮めることは永遠にないだろう。
「幼竜を連れたキュイズナーの血が流れている〝探検家セル〟と長老パドロオロからも聞いたことがある。吸血王の証しの魔剣が〝魂喰らい〟だと」
大柄ヴァンパイアのロゼバトフさんが語った。
「俺たちの血とアーヴィンの髑髏杯の血を飲みきった主なら、十層地獄の闇のエルドラドだろうが、神界の聖剣アヴェリルに貫かれようが、獄界ゴドローンの地底神セレデルの不浄の書に包まれてリッチと化してもついていくぜ」
熱い口調で話すのは赤髪のモッヒーことサルジン。
獣人系らしいが人族に見える。
「……でも、その烈日を思わせる血魔剣の柄、握り手の部分は変化したけど……血の炎のようなものが渦巻いているわよ? 握れるの? 怪我しそうだけど」
オフィーリアが聞いてきた。
「邪神シテアトップの一部でさえ、取り込んだ俺だ。知っての通り不死系の種族。まだ灰になったことはないが大丈夫だろう」
「異界の邪神と対決した話ね。迷宮都市ペルネーテも凄い場所よ。魔界、神界、邪界、それだけでなくセラの多種多様な勢力が入り乱れて戦っているんだから、そして、平和なところもあるし、カオスするぎる」
「灰って死んでいるような気もしますが……」
ツラヌキ団のセロが発言。
「シュウヤさんは、いえ、新しい大隊長は、灰となっても身体を再生する自信があるってことでしょ」
アラハは俺を大隊長と呼んだ。
普通にシュウヤでいいのだが……。
「通人を気どったわけじゃないけど。定命の範疇の神格を持つ種ってことかな」
「閣下は神聖ルシヴァル軍を統べる魔帝王となる方。神格は当然です!」
水飛沫を周囲に発散しながらヘルメが指摘した。
「そうですか。精霊様の言葉なら本当なのでしょう」
神格か。あまり意識してないが……。
「ケマチェンも神格を持つかもしれない。魔力量も豊富で、杖の力を用いずとも、不思議な大魔法を無詠唱で駆使していました」
「うん。わたしたちは白い紋章と化す同胞たちをこの目で見ているからね」
ダオンさんとハイグリアも同じようなことを言っていた。
死の旅人のグループは人数も多く、リーダーは狡猾そうだ。
あとで、眷属を集結させるとしよう。
「しかし、ヒヨリミ様たちを待った方が……」
「突然、秘宝が飛んできたんだ。向こうも秘宝を失って騒ぎになっていると思う」
血を滴り落としながら建物を貫いての登場だからな。
キコとジェスも笛を吹いて結界とかやってるかもしれない。
だが、
「ツラヌキ団たち。この喋った血の魔剣は古代狼族たちが保管していた物だ。だから、一応は待った方がいいかもしれない。が、待たない。この血魔剣は俺の手元にわざわざ来た。そして、吸血王サリナスが関係した武器。俺も吸血鬼の範疇ということで今のうちに挑戦したい――」
そう述べながら跳躍――。
机の上に着地した。
血魔剣にゆっくりと近付いていく。
視界に映るは……逆さ十字の形をした血の柄。
握り手は細くなっている。
真っ赤なプラズマ光から燃え滾るような音が不思議と脳を刺激する。
ブゥンと音が鳴るムラサメブレードとは違う音。
この不思議なジリジリとした刺激は……警告か?
俺は<真祖の力>を含む<大真祖の宗系譜者>を内包した<光魔の王笏>がある。
光魔ルシヴァルの種が警戒を促す?
それとも水神アクレシス様か呪神ココッブルゥンドズゥ様の警告かな。
墓掘り人たちもリスクがあることを述べていた。
……少し覚悟するか。
「ン、にゃぁ」
神獣ロロディーヌの心配そうな声が響く。
ロロに視線を向けて、笑みを意識。
撫でてあげたいが、我慢。
そして、再び、腰の魔軍夜行ノ槍業の書が蠢いた。
闇系、血に関する剣だ。
腰の槍の師匠たちも警戒するのは、当然だろう。
が、無視だ。
『妾は何もできんぞ』
『分かってる』
『フンッ、器よ、王としての気概を妾に魅せるつもりなのだな……』
『……そんな気概はない。槍使いの気概ならあるつもりだ』
『……かっこつけよって!』
サラテンの思念はそこでシャットアウト。
「……これで引き抜けなかったら、お笑いだな」
と、皆に向けて呟き、笑いながら、その血剣の柄に手を伸ばす。
逆十字の血の柄に指が触れた瞬間――。
眩しい――赤の点点点、赤光で目を瞑った。
「――シュウヤさん! 額に十字の光が突き刺さった!? え? 血の赤き目が?」
「閣下! 不敵な目が無数に――」
「目? あなた様――」
「にゃ?」
「ニャア?」
「ニャオ??」
「ええ!? 赤い目がいっぱい!」
「カーテンの水膜で弾けたが……」
オフィーリアの声と皆の声が聞こえた直後、鐘の音が響く――。
どうやら、周囲に血の目が無数に出現しているようだ。
俺は、目蓋の奥に熱いモノを感じた。
※称号:血魔道ノ理者※を獲得※
※<血獄道・序>※恒久スキル獲得※
※<血外魔・序>※恒久スキル獲得※
※血道使いの条件が満たされました※
※血魔術師の条件が満たされました※
※血獄道の魔術師の条件が満たされました※
※血外魔の魔導師の条件が満たされました※
※<血道使い>と<血魔術師>が融合し<血外魔の魔導師>へとクラスアップ※
※血獄道の魔術師※戦闘職業を獲得※
※<血外魔道・暁十字剣>※スキル獲得※
※<血獄魔道・獄空蝉>※スキル獲得※
※<血外魔道・石榴吹雪>※スキル獲得※
おお、称号と戦闘職業にスキルまで獲得した。
そして、目蓋を開くと……まだ、輝く血で眩しい。
が、分かった。
血魔剣の逆さ十字の血柄から伸びた切っ先のような血が俺の額に伸びている。
プラズマのような血が俺の額と繋がったようだ。
端からは、突き刺さっている状況に見えるだろう。
実際ひたいに痛みもある。
しかし、僅かな痛み……。
その直後、視界が揺らぐ――。
天と地が逆さまのような視界に移り変わり、見知らぬ鏡面世界のような世界が一気に広がった。
鏡面に護符のような魔術結界が見えたが――。
一転して迷霧の世界に――。
巨大な坂茂木に突き刺さった者たちが――。
突然、目の前に出現するや否や――せせら笑う声が脳内に木霊してくる。
『――時は真っ赤に熟した血の稲穂なり!』
幻惑か? 声が――。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~18」発売中。
コミックファイア様から書籍「槍使いと、黒猫。1~3」発売中。




