四百六十話 髑髏のリキュールグラス
「……シュウヤ殿の使役している精霊様が子供を産んだ!」
「ポロン、声が大きい。精霊様だから、ありえるだろう……ありえるのか?」
冷静なオフィーリア隊長も若干、混乱しながら語る。
微かに小さい体が震えていた。力の象徴であるセルリアンブルー色の魔力がマントに乗り移っていく。水色に包むカーテンから突然、上半身だけの姿で妖精のヴェニューの誕生だからな、皆も驚くのも分かる。
「……隊長、興奮しているのですね」
興奮しているのか。
オフィーリアの高鼻が若干、ひくひくと動いて可愛らしいが。
「……」
「ふふ、オフィーリア隊長の睨み顔は、可愛さが増すだけなんだから」
「興奮するわよ! 意識のある精霊様の子供よ?」
「妖精を産んだ精霊様は、不思議な輝く紐も使われていましたね」
「わたし、それに縛られて……でも、気持ち良かった」
恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めるソプラさんが、そう喋る。
ソプラさんは腕から生えた羽毛を広げて、そんな頭部を隠していた。
「ふふ、また、お尻ちゃんを輝かせますか?」
常闇の水精霊ヘルメがソプラの表情を見ながらオカシナことを語る。
そのヘルメは妖精のようなヴェニューを出した影響か?
霧に変化していた下半身をいつもの美しいモデルさんのような長細い足に戻していた。
すると、カーテン越しから
「妖精さん! こんばんは!」
「こんば、こんばーん。こんばーちょん♪ お水を上げる♪」
ヴェニューの歌声だ。
「きゃッ、あれ、温かい~」
反対側のカーテンにも出現している上半身だけのヴェニューが水をアリスに飛ばしたらしい。温かい水のようだ。
「カーテンに水の幕が掛かったが、妖精も産まれるとは……」
「これも気になるー」
「あ、魔道具に触れては」
「泡が浮かんできたー」
カーテン越しからエルザとアリスの声が響く。
「こ、これは洗い草と、違うのか、狼を象った牙の先端から出ているが……」
「でも、狼と月の人形っぽいし、ギュザ草の塊はないよ?」
アリスが魔道具を作動させたようだ。泡を見ているらしい。
しかし、自動で石鹸の泡が出るとは、近代的な魔道具だ。
そんなカーテンの越しの秘境が気になっていると、
「そもそも、シュウヤ殿はどうして精霊様を使役できるんだ?」
ツラヌキ団の一人がソプラさんではなく……。
自身のお尻を輝かせていたヘルメをチラッと横目に見てから俺に視線を寄越してから語っていた。
「見たところ、腰の魔造書とあの指輪以外に精霊様を使役できそうな魔道具はないよ?」
「左手に特別そうな紋章のような傷が見えたけど」
「でも、魚のマークに覆われていた」
「右手のアイテムボックスとか?」
「両手首に竜のような鎖マークもある」
「親指の爪にも竜のようなマークもある!」
「頬の金属のようなマークは?」
と、ツラヌキ団のメンバーが俺を注視ながら喋っていく。
「シュウヤさんは、魔神具系相当に値する、古代魔法技術を無詠唱で扱えるということでしょうか」
ツラヌキ団を代表する形か不明だがオフィーリアがそう聞いてきた。
まだ風呂に入らないらしい。
「無詠唱は水だけなら使える。そして、見て分かると思うが、この俺の右肩も特別だ」
指摘を受けなかったハルホンクをアピールした。
「竜の頭を象ったような肩防具でしょうか」
オフィーリアの言葉に頷きながら、
「その通り――」
肩の竜頭装甲の蒼眼を意識――。
刹那、魔竜王バルドークの蒼眼から氷礫が飛び出た。
氷礫は、燭台の灯す炎を打ち消すと、陶器製の机に突き刺さる。
「ん、何か貫くような音がしたが」
カーテン越しに、エルザが語る。
「大丈夫だ」
と、水幕、水の膜かな、その《水幕》に覆われているカーテン越しのエルザに話をしてからまだ風呂に入っていない皆に向けて、
「こういった神話級と伝説級のアイテムなら多数持っている。そして、今回、この都市で手に入れたというか、預かったことになるのかもしれない月狼環ノ槍もある」
と、多少、自慢げに机に立てかけてある月狼環ノ槍に視線を向けた。
「……装備も実力に似合う」
「うん、暗緑色が基調とした防護服も素敵……」
「わたしたちはとんでもない方々に捕まったということだ。これもアラハの強運か?」
アラハは、小柄獣人らしい小さい人差し指を、自身の小鼻を当てながら『わたし?』といった可愛い表情を浮かべていた。
「……この不思議な巡り合わせも強運といえる」
ツブツブの言葉に、オフィーリアが、
「ツブツブの線が濃厚ね。ペルネーテの【梟の牙】の拠点から『木船の髑髏遊び』と『血布』の呪いの品を盗め。と、指示があったけど急遽『ペルネーテに関わるな』とケマチェンたちから指示があった」
指示か。遠距離から指示できる?
それとも監視役のような存在が居るのか? 聞こうとしたが、
「たぶん、ペルネーテで、その梟の牙が槍使いによって、一日で潰れたからでしょう」
ツラヌキ団のメンバーたちの語りタイミングだ。
後で聞くとしよう。
そう思っていると、ソプラさんが改めて俺の姿を注視してきた。
「……だから強者なわけよ……」
と、小声で呟く。
沸騎士の召喚はしないが、この指輪も見せるか。
「魔神具ではないが、魔具の闇の獄骨騎もある――」
髑髏模様が特徴の指輪というか指防具を見せた。
その時、魔界セブドラから『閣下ァァ』と、『私たちを使ってくだされい!』
と、悲しげな声が響いたような気がした。
「おぉ……」
「魔界セブドラと繋がりを持つということか!」
「……主、それは普通の魔具に見えませんが……」
バーレンティンがそう呟くように、質問してきた。
「確かに私も色々と地下で見たことはあるけど、指を覆うほどの大きさの髑髏模様は見たことない」
イセスも発言。
この闇の獄骨騎。
そういえば、魔迷宮を管理していた闇神の七魔将が一人〝紫闇のサビード〟も……。
『形状が変化しているが……使いこなしていると見える……』
と、話をしていたな。あのサビードは、まだ迷宮に居るのだろうか。
「盗んできた秘宝の中にそれらしき魔神具と呪品もあったけど」
「魔人系装備の特徴。闇ギルドの幹部クラスが持つ品でもある。大商会の幹部組織とか」
「闇ギルド……」
俺も【月の残骸】こと【天凜の月】の総長というか盟主の位置だ。
ヒヨリミ様はリョクラインから伝わっているだろう。
ハイグリアも知っているが、多分、忘れているだろうし。
……オフィーリアは兎人族のレネを見た。
「そうよ。貴女を狙ったようにわたしは弓専門の暗殺者。過去は闇ギルドの人員だった」
「姉は色々と渾名も持ってたの。【梟の牙】の幹部だったんだ」
「暗殺のために、シドからわたしの情報を知り得たということは……」
「うん。たぶん、ツラヌキ団の情報を手に入れたバーナンソー商会のシド会長は、わたしたちの存在を利用し金儲けを謀ったのでしょう。貴女を騙していたようにトラさんごと貴女も一緒に始末するつもりだったようね。ひょっとしたらだれがレースで優勝しようと、貴重な百皇狐と賞金を渡すつもりはなかったのかもしれない」
「……」
レネの言葉を聞いたオフィーリア。
ヒヨリミ様に報告していた時もショックを受けていたが、同じように項垂れてしまった。
「その百皇狐のリンさん、解放しちゃったけど……」
と、レネ&ソプラさんの言葉を受けて、皆から、俺に視線が集まる。
「それは、ヒヨリミ様が対処するだろう。ただ、バーナンソー商会はかなりの規模と予測できる。だから、古代狼族の権力機構が踏み込めるかどうか。ヘヴィル商会の店は古美術商として機能していたからな」
「バーナンソー商会だな。追っ手の【死の踊り子】のメンバーを尋問した時に聞いたことがある」
カーテン越しに話を聞いていたエルザの言葉だ。
ヒヨリミ様の時にもバーナンソーと呟いていた。
「死の踊り子。駄菓子屋で聞いた話か」
「わたしも覚えていますよ。シジマ街のヒミカ・ダンゾウが率いる【死の踊り子】という組織ですね」
ヘルメも指摘する。
シジマ街で仕事をしていたユイとカルードも知っているかもな。
モガ&ネームスもそこで鳴らした剣術がどうとか話をしていた。
だが、ユイが先だな。その血文字に関することは告げず、
「……ヴィーネの推測にもあったが、東方の商会繋がりが強い説が濃厚か」
宵闇の女王レブラとは関係がない?
まだ不明だ。そこで間を空ける。
「で、そのバーナンソーは、ともかく、ヘヴィル商会は血の気が多い者を抱えているようだし、古代狼族の権力機構に楯突くかもしれない。そのことは念頭に置いてくれ」
「分かりました」
「承知した」
「商会なんでしょ? 人族だった頃にわたしも経験あるけど、商会ならそこまで思い切ったことはしないと思うけどね」
墓掘り人のイセスが語る。
「だな。だが、末端の奴らの気持ちは分からない。そして、レネ。俺がペルネーテで解放したあと、無事にセナアプアにたどり着いたんだな」
「うん。定期船が利用してね。だから、このペンダントに感謝ね。ソプラへの想いがシュウヤの心に響いたんだし」
「ふふ、わたし?」
「そうよ」
姉妹は微笑むと、互いに持っていた菓子を手渡す。
手首の羽毛が重なったところから、魔力を纏った羽がこぼれて、ひらひらと舞う。
「それで、セナアプアではどんな生活を? 【白鯨の血長耳】も放っておくとは思えないが……」
「わたしたちは兎人族の評議員の護衛をしたり飛び石を磨く仕事をしたりして食いつないでいた」
「うん。だけど、【白鯨の血長耳】の幹部、乱剣のキューレルが戻ってきたって聞いたんだ。だから、急いで南に向かうキャラバン隊にお世話になったの」
「うん、乱剣のキューレルはあまり知られていないけど、単独で仕事ができる一流の剣士だからね、接近戦は苦手だし狙われたらまず、助からない……」
「わたしも姉のサポートに自信はあるけどね、このソルブレイカーもあるし」
レネ&ソプラさんのそう語りながら、自らの装備を見せていく。
その態度に、皆が注目。
弓類を縛るエクルヴェージュ色の紐も特別製か。
短剣と手裏剣のような武器が刺さっているボディバックも特注と見た。
ソプラさんは紐が結構多い。
俺と戦っていた時もガーターベルトに付随する紐を引っ張ってから特別な巨大なバリスタを展開させていた。
その時、外で遊んでいるロロディーヌとジョディの声がBGMとなった。
ロロディーヌのクラッキング音が気になって、視線を逸らそうかと思ったが、
「妹の護衛があっても乱剣のキューレル、戦闘妖精クリドスス、風のレドンドのような存在と戦いたくないしね。盗賊ギルドでさえ、その情報を扱うことに慎重になる相手だし……」
「でもさ、姉さんを助けてくれたくれた人と、ここで会うなんてね」
「うん。そして、シュウヤは暗殺を防いでくれた。何も知らず、オフィーリアさんを殺していたら……」
「……」
レネとソプラは気まずそうな表情を浮かべていた。
オフィーリアに頭を下げながら「ごめんなさい」と、謝っていた。
「いえいえ、というかわたしもシドに担がれたとはいえ窃盗団の隊長ですから。殺されても仕方がない」
皆の正直な告白を聞いた俺はロロへと視線を移さず、踏みとどまった。
「……でも、梟の牙を潰したシュウヤだからこそ、できた芸当ね」
「梟の牙といえば、マカバイン大商会が表の顔よね。聞いたことがある。オセベリア王国の海運事業が大混乱したと……ガゼルジャン繋がりの十二大海賊団も余波があったと……そして、〝とある槍使い〟に潰されたと……あ……」
オフィーリアは言葉の途中で、ハッとした表情を浮かべる。
そして、俺の姿と月狼環ノ槍を見て、気付いたようだ。
〝とある槍使い〟の存在に。
同時にツラヌキ団たちも俺を再び凝視してきた。
「……もしかして」
「また、アラハの強運と繋がった……」
「闇ギルドを潰した……シュウヤさんと神獣様を引き当てた?」
梟の牙の会長のマカバインは俺が殺した。
邪神ヒュリオクスにとりつかれていた……娘も。
頷きながら、吸魂した時を思い出す。
「……」
ツラヌキ団のメンバーたちはキョロキョロしながら呟いていく。
しかし、アラハは強運の持ち主らしい。
俺が鳩尾を拳で突いたセロちゃんは元気だ。
因みに『アラハの強運と繋がった……』と、呟いていた小柄獣人が、セロだ。
思えば、気配察知が得意な彼女に悪いことをした。
手加減はしたが、かなり痛かったはず……。
すると、
「ただの強運持ちとは思えない。やはり、アラハは神々に導かれているのではないのか?」
と、ツブツブがツラヌキ団たちに尋ねた。
「宝物庫を狙う時もだが、隊長は必ず難しい任務の時、アラハを補佐に任命していたことも符合する」
「強運に関しては験担ぎよ。だいたい、ケマチェンとフェウに紋章を埋め込まれた時点でね……」
オフィーリアは優しく微笑んでから、表情に翳を落とす。
その言葉を聞いたツブツブとセロにポロンという眉毛が長い小柄獣人が涙を流していった。
「はい。そうですよね、隊長……ぅぅ」
「セデル、フェレン。アイ……」
「……うん。仲間たちが、同胞たちがたくさん死んだ」
ツラヌキ団は元々が小さい小柄獣人だ。
余計に悲しく見えてしまう。
まだ彼女たちの紋章を取り除けるか分からないが、フォローしよう。
「……今を見ろ。紋章がどうであれ、生きていることが何よりも重要だ」
俺はオフィーリアたちの表情を見て、ツラヌキ団の一人一人を見ながら語った。
「……はい」
オフィーリアは瞳を震わせていた。
「……今を見ろか……確かに、窃盗団として生きて、皆さんに出会えた……」
「希望を得られる温かい言葉です。ありがとうシュウヤさん」
「……アラハの強運があるから、シュウヤさんと神獣様に出会えたのかもしれない」
ツラヌキ団たちの言葉に頷く。
「おう。そうだ。こうして俺たちと会えた。前向きに行こうや」
銀鼠のトラさん風に喋った。
あのトラさんと百皇狐のリンさんは、この部屋に来ないのかなと、改めて周囲を見る。
和のテイストを活かした美意識のある樺色の棚は時代を感じさせる。風呂場と繋がるカーテンと色が違うが、仕切りの江戸紫色の布カーテンはおしゃれだ。
天井にぶら下がるような南瓜に蔦が絡んだ飾りと繋がっている琥珀色に輝くカーテンロッドは月の形をしている。
その細かい部品の一つ一つは高級品だと思う。
江戸紫色の仕切り布に備わる真鍮っぽい、はとめも豪華だし。さすがにカーテンとカーテンロッドを結ぶ麻ロープは安物かもしれないが。
しかし、この陶器製の机に合う椅子と寝台たちは、確実に高級品だろう。
そんな内装と、ウッドデッキにテラスが並ぶ部屋が、ここだ。外の沼を眺める光景は最高なんだが……。
あ、まさか、トラさん……。
盗んだ品物が露見して牢屋に……。
「……その通りです」
トラさんが牢屋に入った。
と、考えた俺の思いと同調するようなヘルメの言葉を実際に耳にして驚く。
ヘルメを見た。
常闇の水精霊ヘルメは微笑んでいる。
「貴女たちは〝閣下〟と出会えた。それは、なによりも幸運なこと。今はそう実感を得なくても時期に分かると思います。しかも、皆、女性という。ふふ、これには運命を感じます。そこの吸血鬼たちとは違いますが……」
ヘルメは、トラさんのことではなく、〝前向きに行こうや〟の部分に反応したようだ。
ヘルメの視線を受けていたバーレンティンは、外を飛ぶロロディーヌを凝視していた。
もふもふしたいんだろうか。
だが、途中からヘルメの言葉を聞いて、俺たちを見てから、頷いていた。
今の話を血文字でヴィーネに報告をしながら……。
オフィーリアたちを見て俺は机を叩く。
皆の注目が集まったところで、
「――そこで提案がある」
と、言葉を発した。
「ツラヌキ団たち、俺はお前たちを助けたい。そして、正直に話をするが、ツラヌキ団もバーレンティンに対して軍門に降れと、俺が偉そうに勧誘をしたように人材として欲しい」
そのタイミングでヘルメを見る。
今度は『俺風に皆を誘うからな』と、意識を込めた視線だ。
彼女は頷いていた。そして、皆に視線を向け直し、見据えながら、
「……何度も述べたが、キッシュという名の眷属が再建中のサイデイル村、もう街か。その防衛、発展のために協力して欲しい。バーレンティンは俺に従うと決めたようだが、他の墓掘り人たちも同様だ。お願いする――」
と、丁寧に頭を下げた。
「……はい! 丁寧な態度に感動すら覚えます。こちらこそ、お願いします」
「うんうん、ありがたいお話だよ」
「うん! わたしたちは後がないんだから」
「そう……死が待つだけだった」
「起死回生のチャンスね。シュウヤさんならあのケマチェンたちを……」
ツラヌキ団たちは、嬉しそうに了承してくれた。
「……承知」
「さっきと違い随分と丁寧ね。でも、わたしたちもあの場で戦っていたら……死んでいたことは確実」
「だな……あの場で交渉して正解だった。蝙蝠になって逃走していても、死んでいた可能性が非常に高い」
顎髭が特徴的な大柄の吸血鬼が語る。
「得体の知れない俺たちといきなりの交渉ができる器の大きい方だ。そして、ヒヨリミ様に宣言した『責任を持つ』って言葉を聞いた時、正直、抱かれてもいいと思った」
「トーリ。真面目な顔して変なことはいうな」
「はは、たまに変なことを話すからな。だが、バーレンティンの判断は正解だった。そして、死蝶人を眷属にできる方なぞ、そう居ない。というか、聞いたことがない」
「スゥンのいうとおり。これは俺たちにも、チャンスだってことだ」
「おうよ。分家、異分子、十二支族からはぶれた俺たちが、必要とされているんだぜ?」
「たまんねぇな……」
「あぁ、地下を流離い、お宝をかすめ取る以外は、怪物たちから逃げる日々でしかなかった、俺たちが、だぜ?」
「サルジン、スゥン、イセス、ロゼバトフ、トーリ、キース、皆、付いてきてくれるんだな?」
墓掘り人たちにそう尋ねるバーレンティン。
「当たり前だろうが、元ダークエルフ。お前に救われた命だ。どこまでもついていくぜ」
「キース……」
キースと呼ぶ方は細身の体型。
全体的に渋い燕尾服系の鎧服が似合う。
隻眼で顔の右半分が傷だらけで頬骨の一部も見えている。
吸血鬼なら回復していると思うが、吸血鬼でも回復しない傷はある。眼帯もないから非常に怖い相貌だ。
そんなキースも魔刀を扱う。
バーレンティンが持つ骨喰厳次郎のような魔刀使いか。
「ま、そこは同じ吸血鬼系の好意も入っているんだろうよ」
と話をしたのが黙っていたロゼバトフさん。
厳つい、見事な顎髭を生やしている。
メイスと拳のガントレットを持つ。
ザ・破壊者という感じだ。キースとは体格的に対象的だ。
「そうね。神々戦争の墓土を荒らし、古代の墓を荒らして、お宝ばかり集めていたわたしたちでも、成り上がりができるってことを世に示すチャンスよ。十二支族たちの追っ手に終われないで済むし」
プランジング・ネック的の革鎧が似合うイセスがそう喋る。
指でチャクラム系の武器を回していた。
背中の巨大なチャクラム武器は机に立てかけてあるから、小型のチャクラムも使えるようだ。
程よい大きさの乳房を揺らしているし、いいね。
紅色のブーツも良い感じ。
その美人吸血鬼のイセスの言葉に頷く赤髪の男サルジン。モッヒーらしく、モヒカンを揺らしてから、
「地下の街でも地上の街でも、厄介者な俺たち墓掘り人。血を好む俺たちを必要としてくれている……」
サルジンも泣きそうな面を……。
ツラヌキ団の言葉を聞いていた墓掘り人たちもそう喋りながら頷く。
あの地下で遭遇した場面を想像しているようだ。
墓掘り人たちは、鑑定を弾く相手を地下で何度も経験しているようだしな。
そんな俺たちと戦えば死が待っていたと思っているんだろう。
「主の告白を聞いて、皆、素直になったようだ」
「そりゃ良かった」
と、墓掘り人たちを見て、頷く。
「主よ。言葉だけでは不安でしょう。だから、改めて地下で得た秘宝を使い主に対して血の忠誠を立てようと思う……古から続く血と魂の系譜を……受けとってくれないか?」
「賛成、光魔の種族ルシヴァルの血は、わたしたちは受け取れないけど、その秘宝を使った魔力を含んだ血なら契約交換できる」
「シュウヤ殿なら……捧げよう」
「秘宝か。確かに便利だが……古の外魔だぞ……?」
「ふむ。シュウヤ殿に託す思いなんだろう」
「悧巧なバーレンティンだ。その判断を信じるさ」
何か、曰くがあるようだが。
興味深い。
「どんな感じなんだ」
皆の視線がバーレンティンに注がれる。
話を聞いていたエルザとアリスもカーテンを横にずらして顔を出していた。
というか彼女は裸だと思う。
だが、紳士を貫く痴漢はしない。
ということでバーレンティンに集中した。
バーレンティンは頷くと、自らの手首に嵌めていた小手を外した。
そして、反対の指の爪をカッター状の刃物に変えると、即座に、自分の手首を切る――。
手首から血を流していく。
すると、墓掘り人たちはバーレンティンの行動に続いた。
同じように、防具を外して袖を捲り手首を切っては血を流していく。
血を流したバーレンティンは血ぬれた指を頬で拭くと……。
懐のアイテムボックスらしきボディバックから髑髏のリキュールグラスを取り出す。
その髑髏のリキュールグラスに自身の手首から流れていく血を注いでいった。
バーレンティンは自らの血がある程度グラスの底に溜まったことを確認すると、隣のサルジンにそのリキュールグラスを渡した。
受け取ったサルジンは「おうッ」と返事をしてから自身の手首から流れ落ちていく血を、その髑髏のリキュールグラスに注ぐ。
そうして、サルジンは隣のスゥンに、スゥンはイセスに……。
イセスはロゼバトフにトーリはキースにリキュールグラスを渡していった。
不思議と血が溢れることがない髑髏のリキュールグラス。
魔力もそれなりに内包したマジックアイテムだと思うが……。
最後のキースがバーレンティンにその髑髏のリキュールグラスを戻していた。
バーレンティンはそのリキュールグラスを持ったまま俺の傍に来る。
すると、墓掘り人たちもその場で起立。
吸血鬼らしく素早い機動でバーレンティンの背後に並んだ。先頭のバーレンティンは、俺に一礼し、
「――主。永遠の忠誠を、墓掘り人の血を主に捧げる……」
片膝で床を突いて頭を下げてから、そう述べると血がたっぷりと入った髑髏のリキュールグラスを俺に差し向けてきた。
同時に墓掘り人たちも片膝で床を突く。皆、跪いてきた。
その髑髏のリキュールグラスを受け取り、
「受け取ろう」
と喋ってから髑髏のリキュールグラスを口につけて墓掘り人たちの血を飲んでいった。すべての血を飲み干そうとするが、どういうわけか……血が無くならない。グラスは俺の魔力を吸い取っていく。
同時にグラスの中からバーガンディ色の血が湧くと紅赤に変化し、またバーガンディ色に変化して、グラデーションが美しい。
不思議だ……バーレンティンたちは王でも崇めるように頭を下げたまま。
この髑髏のリキュールグラスの中はバーレンティンたちの以外の血もあるようだが、糧になるのなら頂くか。魔力も豊富だ。
不思議な髑髏のリキュールグラスへと逆に魔力を注いでいくと髑髏面が拡大し、グラスが破裂音を立てた瞬間――。
※称号:外魔ノ血ヲ刻ム者※を獲得※
※称号:闇血ノ誓願者ヲ受ケシ者※を獲得※
※称号:魔雄の目覚め※を獲得※
※称号:覇槍ノ魔雄に統合されます※
※ソレグレン派の系譜※恒久スキル獲得※
※吸血王サリナスの系譜※恒久スキル獲得※
※血の統率※恒久スキル獲得※
おぉ、称号とスキルを獲得。
力も漲った感じだ。
称号は今までと違い、覇槍ノ魔雄に取り込まれたようだが……。
そんな感想を持った直後、沼の方から急激に動く魔力を察知。
『――血の臭いぞ』
サラテンの思念が響く。
外の宙を飛んでいたロロディーヌとジョディも反応し身構えるが、遅いぐらいの速さだ。
視線をその魔力の方に向けたところ……。
天井を突き抜けてきた長剣が視界に映る――。
攻撃か? 咄嗟に<導想魔手>を発動――。
グラスを持つ左手から<鎖>を射出。
<鎖>製の小型盾のイメージをしながら反対の手のひらで床を突く――。
月狼環ノ槍から離れる形の側転機動だ――。
だが、俺の回避運動に長剣は合わせるように追尾してきた。
俄に<導想魔手>の歪な魔力の拳を目の前に展開。
<鎖>製の盾も振るうように、その迫った長剣を弾こうとした。
同時に右手に魔槍杖バルドークを召喚――下から紅斧刃で打ち上げるか?
と、思ったところで――血色の長剣は、不自然に回転しながら止まる。
長剣に攻撃の意思はないのか?
しかし、なんでいきなり……血色に輝きを放つ長剣が……。
輝きを放つ長剣からは血が垂れている。
更に長剣が突き抜けた天井から煌々たる月光りが俺たちを射す。
『夏は、夜。月の頃はさらなり、闇もなほ、蛍の多くとびちがひたる』
月は出ているが……。
混乱したせいか、清少納言の有名な枕草子の趣がある言葉を思い出す。
あ、これ……ヒヨリミ様に返した秘宝の中にあった剣だ。
「閣下……」
「あぁ」
常闇の水精霊ヘルメが側転してバーレンティンたちを超えると横に立ってくれた。氷槍を束にしたものを浮かせて、俺を守ろうとしてくれていた。
その勇ましい常闇の水精霊ヘルメの肩にグラスを持っていない手を置いて〝大丈夫だ〟と頷く。ヘルメは険しさを僅かに顔に残しつつも、微笑を浮かべてから安心したように肩の力を抜いていた。
続きは土曜日です。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1ー20巻」発売中。




