四百四十八話 聖王国の事情
発売日ということで、急遽書きました。
「槍使いと、黒猫。6」発売記念SSです。
ここはアーカムネリス聖王国聖都サザムンド。
シュウヤが白亜の城と評した聖城サザムンドの場内の奥の廊下を足早に進む一人の女性がいた。
右頬に傷がある彼女の名はエルメス・イングヴェイ。
アーカムネリス聖王国第三王女護衛騎士百花団団長である。
エルメスは思案を巡らせながら第三王女が居る政務室の扉を叩く。
「エルメス、扉は開いています」
「はい」
エルメスは姫の言葉を聞いて扉を押し、素早く部屋に入った。
アウローラ姫は仕事の要件を済ませて戻ってきたエルメスの表情を見て笑顔を見せる。
しかし、羽根ペンを握る手に力を入れると、机に向かった。
アウローラ姫は手を動かしながら筆記作業を続けていく。
彼女が羽根ペンを使い魔紙に書いているのは日記だ。
そんな執筆作業を続けているアウローラ姫に一礼したエルメス。
「エルメス、やはり第二王女イエリ様に関することでしょうか」
アウローラ姫の横に立つ金髪の女性がエルメスに聞いていた。
彼女は魔術師長のクロエ・リフ・ティグリだ。
錦色の目と左目尻に黶を持つ女性。
アウローラ姫はエルメスに視線を向けず、
「エルメス。まずはそこに座ってください」
日記を書き続けながら、そう告げていた。
「はい、では失礼します」
エルメスはクロエにも視線を向けて頷くと、ビロード張りの椅子に座った。
そのまま思案を巡らせていたことを告げようと口を動かす。
「そのようです。サザムンド川流域戦で魔族たちに勝利を収めたこともありますが、イエリ様の側に居る謎の治療師の存在もあるでしょう。シュアネ姫様は一時的に聖都に戻ってくるようです」
エルメスの言葉を聞いたアウローラ姫。
羽根ペンの動きを止めていた。
エルメスとクロエに青い双眸を向けながら、
「はい。王室政務室長ウルハムから聞きました。合同作戦に参加したローガン辺境伯フアン様と一緒にご帰還なさるようですね。やはり、謎の治療師の存在が大きいのでしょうか」
と、問うように話をした。
「そのようです。西方の賢者の弟子と名乗った謎の治療師」
「癒えたイエリお姉様の元気な姿を、再びこの目で見られて凄く嬉しかったのですが……わたしのことを忘れていたり覚えていたりと……」
そう語るアウローラ姫は表情に翳りがあった。
机の上にある日記にも、シュウヤ以外では、姉のイエリに関することばかり書かれてある。
クロエは優しいアウローラ姫に対して厳しい顔色を作ると口を動かした。
「オカシイだけではないのですよ……魔力も身体能力も急激に強まったのです」
「クロエの<魔方眼>は頼りになります」
「ありがとうございます。しかし、イエリ様のお体は……神聖回復薬を何度使用しても効かなかった。そのお体の治療をどのようにして……」
「謎の治療師は、光神ルロディス様の眷属……」
「それはないはずです。神聖書を読んだことがない。と、聖堂前のターリウム広場ではっきりと話をしているところを聞きました」
「ロロリッザ方面に向かう聖ルカルド騎士団の視察の場ですね」
「はい。しかし、クルード卿がこの国を去り、ヘスリファートの影響が減ったと思ったら今度は謎の治療師の登場とは……」
エルメスは考えるように顎先に指を当てる。
「そのクルード卿ですが、宗教国家で変革を起こしたと聞きました……」
アウローラはシュウヤとの経緯を思い出し、溜息を吐く。
「聖王に殴られた漢ですね」
「ゴルガン大司教も行方知れずに……」
「シュウヤ様が居なくなった次の日に、お父様に対して、直談判したようですし、何が、彼に起きたのでしょうか……」
「姫、あれほど、嫌っていた相手のことを覚えていたのですね」
「クロエ。分かっていて聞くな」
「……良いのです。エルメス。わたしはもう気持ちを隠したりしません。シュウヤ様に会いたいのです。クルード卿の探している聖王とは……もしかすると……」
その桃色髪のアウローラ姫が恋をする相手の現在は……。
狼月都市ハーレイアの地下洞穴で美女の二人を脇に抱えて<鎖>製のスケボーを楽しんでいた。
明日、0時いつものように最新話アップ予定です。
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