四十二話 闇ギルド&ヴァンパイアハンター
「おや、貴女はクリドスス。なぜエルフの【白鯨の血長耳】が彼を?」
帽子を被った紳士風の男がそう聞く。
「ふふ、それは――」
とクリドススと呼ばれたエルフが喋ろうとすると、黙っていた青髪の女が急に動いた。
短いパニエスカートをヒラヒラと揺らしながら腰を僅かに沈めると、右手を下げる。
そのまま太ももにぶら下げている剣帯付きの青白い鞘から、きらびやかな水色の長剣を引き抜いていた。
キィィン――と、引き抜いた長剣は不思議な高音を響かせている。
剣自体が振動していた。
あの水色の長剣、かっこよくて綺麗だな。
青色髪の女は、そのままクリドススを睨みつけながら斬りかかった。
「いきなりですネ――」
クリドススはすました余裕顔を浮かべながら水色の剣閃を躱していく。
お互いに足の魔力の運びはスムーズだ。
<魔闘術>の基本は押さえている。
水色の皮パンティ、いや、それにしても、あの水色の長剣……。
特殊なマジックアイテムか。剣を振るうごとに輝いてるし。
それに、剣先がしなっている? 曲がったりする柔らかい金属なのかな?
「アンジェ、止しなさい」
「クッ、はい――」
アンジェと呼ばれた青色髪の女は、紳士風の男に諌められると、すぐに引き、その男の隣に戻った。
「そうそう、今は止めときましょうヨ。……ワタシはこの方に用があるのですから」
うーん、何なんだこいつら、勝手に戦い始めて。
どうやら組織同士の戦いに巻き込まれたようだ。
逃げたほうがいいかな――。
「それじゃ、俺はこれで……」
「待ってヨ、槍使いさん」
動いたのは止めてきたクリドススではなく紳士服を着る男。
逃げようとした俺を止めるように正面に立つ。
「そうです。――お待ちくださいっ!」
大声だが、帽子を脱いで丁寧に頭を下げた。
頭を上げると、
「わたしは【宵闇の鈴】を代表して挨拶に参りました」
そんな丁寧に挨拶する紳士風の男が嫌なのか、クリドススは紳士風の男を睨むと、視線を向けてきた。
「……ワタシは【白鯨の血長耳】から挨拶に来た者です。そこの邪魔な男の話より、ワタシの話を聞いた方が良いですヨ」
女性特有の柔らかい口調だ。
「邪魔だとっ――」
アンジェは青い瞳を細めると、眉間に皺を作り睨みを利かせた。
鋭い視線と共に長剣の剣先をクリドススへ向ける。
「おお、コワイコワイ」
クリドススは剣先を寄り目で見ると、楽しそうに笑う。
両手を上へ向けてくるくると動かし、戦う意思がないよ。とアピールしていた。
「アンジェ」
紳士風の男はカールしている口髭をぴくりと反応させてから、静かに女の名前を呼ぶ。
アンジェはハッとした顔を見せ、剣を収めて一歩後ろに下がった。
「まったく。その氷鈴剣と髪色、アナタ、氷鈴のアンジェですか? 意外に短気なのですネ」
「なんだとッ」
アンジェは語気を強めるが、さすがに剣を握りはしなかった。
「クリドスス、あまり従者を挑発しないでくれたまえ……」
「はいはい、分かってるヨ。さすがに【宵闇の鈴】の懐刀と呼ばれる斬殺のポルセンに氷鈴のアンジェを同時に相手にしたくはないからネ」
ふぅ、さっきから、わけのわからん組織名と渾名が飛び交っている……。
でも、俺を襲うつもりではなさそうだ。
ロロを呼び戻しておくかな。
――口笛を吹く。
すると、後ろから黒猫が現れ、俺の肩へ戻った。
さっきまで剣呑な雰囲気で話し合っていた三人が一斉に動きを止め、俺の何気ない行動に注目し、視線を向けてくる。
――何だろう、この空気感。
奥歯を噛み締めるような緊張感。
それをわざと崩すように、
「……なぁ、どこの組織だか知らんが、俺にいったい何の用なんだ?」
「簡潔に言いますと、貴方を我が組織へ勧誘したいのです」
「ワタシも似たようなもんかなァ」
こいつらは【宵闇の鈴】と【白鯨の血長耳】。
クナが所属してたのは【棘の尻尾】だったかな。
他にも闇ギルドはありそうだ。
その瞬間、
「ふざけるな!! エルフで固められた【白鯨の血長耳】が人族の勧誘など聞いたことがないッ!」
アンジェの甲高い怒りの声が響く。
彼女は青い綺麗な髪を靡かせ、クリドススを睨んでいた。
「あれぇ、バレてました? ですが、最近はエルフ以外の人員も採用しているんですヨ?」
クリドススはアンジェの怒声や厳しい視線を受けてもなんのそのというように、なに食わぬ顔で答えていた。
黒髭の紳士風のおっさんことポルセンも、そのクリドススの言葉に反応。
僅かに目を細めて鋭く睨む。
そのまま口の端を上げて、付け足すように、
「はは、最近ではそうみたいですな」
「そうそう、さすがはポルセンさんだ。でも、我々の基本が少数精鋭なのは変わらないですけどネ」
「そうでしょうな。こちらもあなた方とは何年も争っているのでね。やり口は知っているつもりです――」
ポルセンは帽子に手をかけながら、突如家の壁を歩き出す。
お~い、重力はどうなってんの?
足に魔力が異常に集まっているのは分かった。
靴底が仄かに赤く光っている? 特殊な靴なのかな?
何かの魔法とは分かるけどさ……。
壁には血のような赤い足跡が残っている。
その壁に両足をくっつけた状態のポルセンは、にこやかに話を続けた。
「――今回はさしずめ、【茨の尻尾】の幹部を殺った男を調べ、血長耳の脅威になるかどうかを見定めに来たか。あるいは、他のギルドに入るようなら抹殺、とかですかな?」
えーっと、俺を抹殺ですか?
余裕顔のクリドススと同じようにポルセンも笑顔でキナ臭いことを語っている。
目は笑っていないが……。
クリドススは俺に視線を合わせ、
「その通りでも違っても、別にワタシはどっちでもいいんだけどネ」
その通りなのかよ、めんどくさ。
これ以上巻き込まれたくない――。
「あの、盛り上がってるとこ悪いが、言っておくぞ? まず、俺を誘ってきた壁を歩くポルセンさんには悪いが、そんな組織に入るつもりはないからな? それと、君のエルフの組織にも興味はないし、俺は脅威になるどころか平和を愛する一般ピーポーだから、もう構わないでくれ」
「……ヘェ、興味がナイか」
クリドススはそう呟き、黙ったままニヤッとして寒気がするような表情を俺に向ける。
「……そうですか」
そう力なく言ったのは、重力を無視して壁に立つポルセン。
自身のカールした口髭の先端を摘まむと、ぴんっと音がしそうな感じで真横へ伸ばし、機嫌を損ねたのか、眉間に皺を寄せた厳しい顔つきで、
「しかし、貴方は暗黒のクナを倒し、そこに転がっている【茨の尻尾】のメンバーを殺した。クナを倒したとはいえ、【茨の尻尾】の勢力はまだまだ大きいですよ?」
だから組織に入れと? アホらし……。
このポルセンといい、余裕顔のクリドススといい、
闇ギルドとやらは随分と上から目線で、舐めているんだな……。
「おいおい、舐めた言い方だな? 襲撃が怖いだろうからあんたらの組織の保護下に入れと?」
「いえいえ、貴方は強い。だから保護下ではなく、あくまで勧誘なのです」
勧誘ね。口じゃそう言ってるが、うちに入れば安心ですよってアピールしているようにしか見えないが……。
改めて、壁に立っているポルセンの顔をじっくりと観察。
髪はポマードが濃いどす黒い色。
帽子の跡が残る渋いオールバックの髪形だ。
眼窩の奥にある黒茶の瞳に、頬にある切り傷のような法令線。
その皺加減から、中年か初老ぐらいと判別できた。
トレードマークと言える毛先のカールした口髭も印象的。
しかし、あの口髭、整えるのに時間がかかりそうだな。
そこでクリドススの方を見た。
クリドススは銀と緑が混ざったメッシュの短髪で、中分けワンレンボブのような切り揃えられた髪型だ。
目元には濃い銀色のアイラインが入り、頬には串刺しにされた白い鯨の入れ墨があって、目立っている。
さて、適当にあしらって逃げるか。
「……そうか? 今の話の流れだとそんな感じに聞こえるが……まぁ無理だな。さっきから言っているが、あんたらの話には興味がないし。仮にその【茨の尻尾】が俺に襲いかかってきたとしても、その都度返り討ちにしてやるさ。しつこかったら逆に潰してやるよ」
アンジェは俺の言葉を聞くと目を見開き、馬鹿にするように笑う。
そのまま一歩前に出て小さい口を開き、
「え、潰す? 組織を個人で? パパなら分かるけど、あなたじゃ無理でしょ? 馬鹿なの? それに、折角パパが誘ってるのに断る気なの?」
蓮っ葉な口調だ。
「――アハハ、面白いネ。気に入ったヨ」
クリドススは大げさに腕を広げて手を叩き、アンジェのガサツな言葉を潰すように言葉を重ねていた。
そんな言葉は無視。
「そうだよ。ということで、これで話は終了。俺は帰る。もうついてくるなよ?」
「――そうですか。残念です」
「え、パパ、いいの?」
ポルセンは帽子を被り直し、本当に残念そうな表情を浮かべる。
「あぁ、いい」
潔いのか諦めたのか分からないが、ついてこないならいい、俺は路地を逃げるように走っていく。
「ワタシは諦めないかもヨ~。でもワタシも忙しいからなぁ、しょうがない、ばいばい」
背後からふざけたクリドススの声が聞こえたが――無視。
足早に路地の奥へ向かった。
ロロは肩から頭巾の中に潜っていく。
ゆっくりしたいらしい。
さて、もう不審な魔素の気配は感じない。
追ってくる奴はいないようだなと溜め息を吐きながら、念のため<分泌吸の匂手>を使用――。
すると――女の匂いをキャッチした。
続けて、匂いの情報を後追いするように掌握察の範囲にも一人、俺の後をつけてくる魔素を感じる。
またかよ。追いかけてくるなと警告したのに……。
だんだんとその背後の魔素が近付いてきた。
さっきのクリドススか、アンジェかも知れない。
「ロロ、また誰か来そう。一応注意ね」
黒猫は頭巾の中から顔を出し「にゃお」と軽く返事をしていた。
宿屋まで急ごうかと思ったが、もうこの際だ。
用があるやつは片っ端から会ってやろう。
逆に開きなおった。
そして、背後から来る気配を立ち止まって待つことにする。
現れたのは、やはり女だった。
だが、さっきの生意気なアンジェやクリドススではない。
知らない女が俺を睨んでいる。
女は近付いてきた。一応は<魔闘術>を使うようだ。
足に魔力を溜めている。
女の小さい唇が動き――。
「私を待っていたのか、怪物」
いきなりの言葉が怪物とは。
ん? あれ? この女、何処かで見たような。
黒革鎧を着た冒険者風の人族の女。
背が高い。
あ、背中から武器を抜いてるし、ぬくなよなぁ~。
武器は両手剣系のクレイモアか?
ん~~、あっ、思い出した。
教会前で、俺に睨みを利かせていた女だ。
あのウェーブが掛かった髪。
耳には白いピアス、鼻も高いし。
あの綺麗な女だ、間違いない。
「……待っていたのかじゃないよ、君。いきなり武器を抜いて、それに怪物?」
「そうだ。誤魔化さなくていいぞ――」
女はそう冷たく言い放ち、両手剣の剣先を俺に向ける。
剣を突き出して襲いかかってくる。
「いきなり攻撃か――」
と言って右へ走った。
ロロも頭巾から後方に飛び出すように跳躍。
地面に着地すると、すぐにむくむくっと姿を大きくして戦闘態勢へ移行した。
黒猫は跳ねるように前方へ駆けながら触手骨剣を女へ向けて射出。
女は突然の骨剣に驚きながらも反応していた。
両手剣の半ばを左手で持つ防御の構えから、巧く上下に両手剣を扱い、触手骨剣を弾いて往なしながら後退していく。
「――使い魔だと!? ヴァルマスク家ではないのか?」
そんな聞いたことのない単語を吐きながら、ロロの伸縮自在の触手骨剣の攻撃を防いでいる。
だが、素早い連撃に、女の笑みを含んだ余裕の顔つきが完全に消えていた。
まぁ、まだ何とか毒蛇の構えから両手剣を小刻みに動かして防いではいるが、筋力的にも限界だろうな。
女は完全に防戦一方となる。
このままロロの動きの見学を続けても良いけど、それはまた今度。
今はこの女から情報を入手しておきたい。
「ロロ、もういいぞ、戻ってこい」
「にゃにゃぁ」
黒猫は触手骨剣を引っ込めて触手を収斂させる。
そのまますぐに俺の足元に走って戻ってきた。
「はぁ、はぁ、な、なぜ退く?」
「んじゃ、君はなぜいきなり攻撃してきたんだ?」
「それは、お前が怪物だからだっ!」
――今度は投げナイフですか。
投擲されたナイフを黒槍で打ち落としていく。
「ロロ、下がってていいよ」
黒猫は指示通りに後方へ跳躍して離れていった。
「怪物とはひどいな。その根拠はなんだ?」
まぁ、この女の言ってることは正解なんだけど……。
もしかして、本当に俺の正体が分かっているのか?
「はは、お前、まだしらばっくれるのか?」
「違うからな」
「ふん、ヴァンパイア特有のスキル、<分泌吸の匂手>を使っていただろう」
「えっ?」
びっくり。確かに使っていた。
「わたしは、そんじょそこらの魔道具持ちヴァンパイアハンターとは違い、自らヴァンパイア特有のフェロモンを感じ取る事が出来る<感応>スキル持ちなんだっ。特にエーグバイン家独自のヴァンパイアハンターのな」
な、なんとっ、そんなスキルがあるのかよ。
またまた驚いた。
「……ヴァンパイアハンター?」
内心驚きながらも、表情には出さずに疑問形で返す。
「そうだ。お前は都市のど真ん中で<分泌吸の匂手>を使っていただろう? その時からわたしはお前をマークしていた。昼間に歩けるのはおかしいと思ったが、高祖ヴァンパイアやヴァンパイアハーフならあり得るからな」
女は得意気に語っている。
「んー、それだけか? 似たようなスキルだからたまたま反応しただけかも、とかは考えなかったのか?」
「こざかしい――」
息を整えていた女は両手剣を寝かせた状態で薙ぎ払ってきた。
俺は急ぎ頭を下げ、その剣刃を躱す。
――ブンッと両手剣が頭上を通りすぎる音が耳に響く。
こいつはあくまでも、
女は握り手に力を入れて両手剣を返し、また薙ぎ払ってきた。
――俺を殺したいらしい。
身を退いて大剣を躱す。
女は俺に斬撃を躱されても気にせず、両手剣での水平を維持した薙ぎ払いを連続で繰り出してきた。
この女、まだまだ懲りてないな。
今度は躱すのではなく迎え撃つ!
「無駄だっ」
俺は声を荒らげて横から迫る両手剣の腹を黒槍で打ち上げた。
両手剣は大きく弾かれ金属音が鳴り響く。
女は表情を崩し、一旦距離を取った。
すると、突然地面に両手剣を突き刺す。
戦闘をやめるのか?
と思ったら――。
女は両手を腰ベルトに突っ込み、何かを取り出した。
それを投げつけてくる。
一瞬投げナイフかと思ったが違った。
それは空中で複数に分裂。
蜘蛛の糸のような白い線が、一斉に目の前で拡散して広がる。
俺の手足に粘着糸のような物が大量に付着し、それは地面と繋がった。
「これで動きは封じたわ。対ヴァンパイア用の銀光蜘蛛よ、もう動けないはず。ほんとちょこまかと動いてくれちゃって、聖剣グリュドボルグの刃を味わわせてあげる――」
女は勝ち誇った顔を向け、舌舐めずりをしている。
地面に刺した両手剣を引き抜くと、その勢いのまま吶喊してきた。
糸が大量に付着している右腕を動かせるか確認。
この糸、緩いけど、本当に動きを封じているのか?
俺は強引に糸を引き剥がすように両腕を振り上げ、攻勢に転じた。
「なッ」
女は驚愕の声を挙げ、途中で突っ込んだ体勢を止める。
――隙ありすぎ。
<魔闘術>を全身に纏い、上背を生かすように黒槍を上から打ち下ろしてやった。
女は急ぎ頭上へ両手剣を掲げるように上げ、黒槍の刃を受け止めた。
金属が凹むような鈍い音が響く――。
防ぐことは予想していた。
これで防御を意識しただろう。
後はこっちのペースだ。
そこからは穂先と石突を織り交ぜながら細かく上下に突いてやった。
女は次第に俺の攻撃を受けきれなくなっていく。
ついに、「ハァ、ハァ――」と息を乱し、両手剣を下げた。
――その隙を見逃すわけもなく、
近々距離戦に敢えて移行した。
ウェーブ髪が乱れた女に近寄りながら、腕を狙う。
タンザの黒槍の石突を八の字から円を描くように小刻みに揺らしながら、女の腕の関節を黒蛇の如く絡めとる。
「痛っ――」
女は両手剣を持っていた右腕が捻られ苦痛の表情を浮かべた。
この女にとっては未知の痛みだろう。更に黒槍を動かすと、痛みに我慢できなかったのか、両手剣を落とした。
そこで関節技に利用した黒槍を解きながら引き、下から弧を描くように振るって女の足を掬い、転倒させる。
「あっ――」
そのまま女にのし掛かる。
「ぐ、くそっ」
「近くでみると、より美人だな?」
「なっ、ふざけ――」
「おっと、暴れるなよ?」
完全に女の両手を押さえ、マウントポジションをゲット。
そこに――。
「にゃおん、にゃ、にゃぁ」
離れて見ていた黒猫がいつの間にか俺の側に来ていたようで、柔らかい肉球を女の額へ押し当てていた。
しまいには、女の鼻あたりをぽんぽんっと叩いているし……。
「ちょっ、ちょっと、猫の足、カワイイけど臭いわっ、止めさせてよっ」
「ロロ、肉球が臭いってさ。もっと嗅がせてやれ」
相棒は女の鼻に肉球を押し付けている。
肉球判子は中々の感触のはずだ。
「――なにっ、もう、くっ、くせになりそうな匂いね……」
グッドスメル?
女も猫マニアの一員になってしまったか。
新たな性癖を目覚めさせてしまったようだ。
これ以上お得な気持ちにはさせられない。
「ロロ、離れていいぞ」
「にゃ」
黒猫は小さく鳴きつつ俺の足下に戻ってきた。
「さて、俺はお前をこのまま殺すこともできる。が、やめてやろう――」
「えっ?」
俺は立ち上がり、女に向けて手を差し出した。




