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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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四百二十一話 風槍流の一撃

2022年12月31日 色々と修正

 

 洞窟の奥から夜露のような湿った空気が吹き抜けた。

 デルハウトは敵意に満ちた眼差しを向けてくる。


「……槍使いとシュヘリアか」

「神獣様に案内を受けた。お前と会わせるためだろう」

「神獣様とは黒き獣のことか? 槍使いと共に居るということは……」

「そうだ。自ら望んで配下となった」

「……なるほど。そして、黒き獣よ。主を連れてきたということは止めを刺しにきたということ。それならば何故俺を助けた? 何故、生かしたのだ……」


 デルハウトは神獣ロロディーヌを責める。

 すると、


「ガルルルゥ」


 相棒が唸り声を上げて、デルハウトの言葉に反応した。


 それはエブエに対して叱ったようなニュアンスではない。


 『違う』といった否定の声音だ。


「ガルルゥ」

「ガルゥ」

「ガルルルゥ」


 アーレイとヒュレミにエブエも唸り声を上げる。

 怒ったような連呼と神獣(ロロ)の表情を確認したデルハウトは、


「……俺を助けた黒き獣たち。その鳴き声と態度から推察するに、お前たちの主……槍使いは、俺の命を奪いにきたのではない? ということか?」

「――ンン、にゃお」


 神獣(ロロ)は肯定するように可愛く鳴いた。


「……そうか。そうなのか……」


 デルハウトは少し安堵したように表情の筋肉を緩めた。


 ……逡巡していく。


 彼の顔は大きい。

 オークのソロボ系とはまた違うが……

 全体像を短くいえば、厳つい魔族。

 薄青い鋼のような質感を持つ肌色だ。


 傷が生々しい。

 魔界騎士だ。歴戦の強者は当たり前だが、シュへリアとはまた違う迫力がある。


 デルハウトは額当てと一体化したようなアイマスク系防具を装着している。


 額当てのこめかみの中心には宝石が嵌まっていた。


 アイマスク系の変わった防具だ。

 キサラのメファーラの姫魔鬼武装とは似ていない。


 目元の幅が小さく縦も横にも極端に狭いが長細い……。


 目尻と頬骨の溝を走るような横へと伸びているアイマスクの先端は、海老や蝶の器官。

 

 触角のようにも見えた。

 その細長いアイマスクの端から伸びている触角のような器官は両耳を超えて背中まで伸びている。


 全体的にフェイスガード、アイマスク、額当て、形容が難しい。


 細長い器官の肩から背中に出ている先端は、今も揺れているし、変わった防具だ。


 いや、防具ではないのか。

 額と鼻を覆い頬と耳の上から横に伸びているのは……魔族の特徴的な器官なのかな。


 表情の筋、天然の皮膚防具でもある?


 全体的に皮膚の色と防具の境目もここからだと分からない。


 その魔族らしいデルハウトの双眸には、漆黒の毛が凛々しい神獣ロロディーヌが映っていたが、金色に髪の女性が映る。


 デルハウトは、


「お前は本当にあの(・・)シュヘリアか?」

「そうだ。デルハウト」


 シュヘリアは胸を張った。

 魔界騎士としての態度で答えている。


「まさかあの夜の戦いで生きていようとは……闇の精霊ベルアードが魅せる幻影ではないのだな?」


 デルハウトはシュヘリアの存在を信じていないのか?

 曇りガラスを隔てた先を見るような表情を浮かべている。

 幻影かと疑っているようだ。


「幻影なわけがない。だいたい、それはわたしの言葉でしょう。タフ(・・)なあなたでも、さすがに、ね……あの夜の、様々な勢力が争っていた状況下で、何があるか分からない樹海の地に墜落して生きているとは思ってもいなかったわ」


 シェヘリアの言葉を聞いたデルハウトは瞬きを繰り返す。

 薄い眉の毛をピクピクと動かした。


「……確かに俺も死を覚悟した。だが生きた……」


 両の掌を見るデルハウト。

 紫色の魔槍にも視線を向けている。


 「魔界の神々(セブドラホスト)にとって俺の命にはまだ意味があるらしい……」

「……魔槍グルキヌスも失わず、片足の回復が追い付かないほどの激戦を生き抜いたようだからね……分かるわ。貴方も生きている意味(・・)が、あるのよ。そして、貴方自身の黄金律と貴方が信奉している神の黄金律も関係があるんでしょう。逆境に震えた者ほど、太陽は暖かく感じるというもの……」


 騎士然としたシュヘリアの言葉は難しい。

 そうデルハウトに語りながらも意味(・・)のところで、俺に視線を向けていた。


 ……寒さに震えた者ほど、太陽は暖かくといったホイットマンの言葉なら知っているが、魔界にも似たような有名な名言があるんだろうか。


「……そうだな。セラ、セブドラ問わずこの魔槍グルキヌスの<武槍技>を用いて『魂を、そして、美味しい魔素を我に寄越せ!』という闇神アーディン様の強い神意の表れが……きっと、俺を生かしたのだろう」

「……神意か。神格を失ったからこその願いだな。わたしに加護を齎した魔神ソール様も……あ、魔蛾王ゼバルには……」

「……一応は魔次元の紐の魔力を残していたようだが、ハッ、あの主だぞ。失敗を赦すとでも?」


 デルハウトは片頬を上げて醜く嗤うように答えた。

 シュヘリアは鷹揚に頷く。


「しかし、わたしの廃れた神格様に魅入られた魔人種族ハーシクはいつ捨てられても当然の格だが、生きて忠実に報告をしたデルハウトを捨てるとはな」

「アーディン様とて廃れた神格。所詮は、俺たちが賭してきた地上の任務とは、ゼバル様にとって〝軒の魔燕〟という認識だったということだ」


 シュヘリアはデルハウトの〝軒の魔燕〟との言葉を受けて、微妙に間を空ける。

 苦虫を食ったような表情を浮かべた。


「〝軒の魔燕〟か。いい得て妙だ。忠実に任務を続け煮え湯を飲んだ結果が、ハハ、あ……」


 彼女は乾いた嗤い声を響かせていた、その途中で、『ハッ』と気付いたように、


「いや、それで良かったのよね……陛下と出会えたんだから」


 シュヘリアは自身の胸元を手で触りながら、数回『うんうん』と、頷いて、俺を見る。

 彼女の瞳の奥に熱が帯びているのを感じた。


「……陛下? 槍使いは魔界と関わりを持つ方なのか?」

「ふ、聞いて驚くなよ……」


 シュヘリアがそう静かな口調で語ると、デルハウトは息を飲むように唾を飲み込む。

 そこで、突然、片膝の膝頭で地面を突くシュヘリア。


「陛下、わたしがご紹介しても?」


 頭を下げながら聞いてきた。

 金色のポニーちゃんが揺れている。


 すると、視界の端に常闇の水精霊ヘルメが現れた。そのヘルメが胸元で細い腕を組みながら、


『いいでしょう! 許可します』


 と、偉そうに伝えてきた。


『ヘルメ、シュヘリアには聞こえてないぞ』

『ふふ、分かっています』


 微笑むヘルメは、その場で、くるりと回転。

 小さいが、いつにもましてセクシーだった。

 上着と中上着の羽衣は透き通った色合い。

 深い襟ぐりから覗かせる鎖骨の肌と密着している岩群青色のドレス衣装がいい!


 妖精的な小さいヘルメなんだが、乳房の膨らみが、ある種の芸術を現すようなセクシーな衣装だった。


 手足の先から中空に散って消えゆく水飛沫たちの芸術性も高くなった。


 燐灰りんかい石の色合いが強まってからトポロジーな知恵の環を作ると、小さい粒の群れに縮小しながら大気の中へとにじみ入るように消失していく。


 そんな美しいヘルメの姿を眺めながら、


「……手短にな」


 と、高貴な騎士の雰囲気を醸し出しているシュヘリアの気持ちに応えた。

 そんなシュヘリアから礼を受けていると、何か、今まで意識してこなかったプレッシャーを感じるんだよな。


 俺も『ちゃんとしなければいけない』といった……。

 ま、そんなプレッシャーには負けない、俺は俺だ。


 そのシュヘリアは頭を上げて嬉しそうに微笑む。

 小さい唇を動かす。


「はいッ!」


 シュヘリアは元気良く喋ると、デルハウトに勢いよく頭部を向けた。

 ポニーテールを揺らしながら、


「デルハウト、陛下の種族は光魔ルシヴァル。光と闇の属性を持つ御方。そして、選ばれし大眷属たちを束ねる血の宗主様である!」


 シュヘリアの早口気味な「助さん格さん」風の言葉を聞いたデルハウトは目が見開く。


 俺は彼らの問答より可愛い大虎たちの動きを注視。


 アーレイとヒュレミは、興奮している。

 瞳を散大させて、地べたに頭部と胴体をつけての、低く構えた狩りの体勢だ。


 後脚と尻尾を揺らしている。

 大虎だけに……。

 まさに、虎視眈々といったスタイル。

 シュヘリアの束ねた金髪を狙っている。


「光と闇……? 光魔ルシヴァル。吸血鬼系種族の亜種か」

「そうだよ」


 と、今にもシュヘリアのポニーテールに飛び掛かりそうな大虎たちを腕で牽制しながら、デルハウトの言葉に同意した。


「その答えが意味するモノは……」


 シュヘリアはもったいぶって喋っているが、何か、こそばゆい。


「吸血鬼の血の支配構造を覆す……」

「その通り! 吸血神ルグナド様の血の支配を超えた存在が、陛下なのだ!」

「おぉ! まさに真の吸血鬼。それが光魔ルシヴァル! 見た目が完全に人族なところが、また珍しい」


 シュヘリアの音頭に乗るように、洞窟内で沸騎士たちと似た気合い声を放つデルハウト。


 沸騎士たちとは見た目が違うが……。

 確かにデルハウトの見た目は、ザ・魔族だ。

 先ほど観察したが、天然の鋼甲のコスチューム肌を持つ。

 鱗人(カラムリアン)とはまた違う。

 どちらかといえば……高古代竜ハイエンシェント・ドラゴニアの荒野の魔女こと、サジハリ系だからな。


 シュヘリアはそんな武将のようなデルハウトの言葉を聞いて、頷く。


「血の大系譜を背景に持つ偉大な御方。ルシヴァルの紋章樹という聖域もできた。わたしも陛下直属のルシヴァルの騎士として、大眷属たちの末席に加えていただいたばかり……戦闘職業も<血双魔騎士>に進化したのだ。専用剣技の<血双技・隼返し>も獲得した」


 へぇ、そんなスキルを獲得していたのか。

 あの片腕がぶれるような、剣速が異常に速くなる技かな?

 黄色い閃光のような剣捌きは、正直、真似ができない。


 ユイ、ヴィーネ、カルードも彼女の剣術を見たら……。

 いや、そうでもないか。

 ユイたちは八剣神王のレーヴェの技術を直で見ているし、今も、実戦の経験を積み重ねているはずだ。


「……ほぅ。眷属の進化を促す力も持つとは……偉大な血脈系スキル、偉大な血の系譜スキルを持つ証拠……そんなお前と戦うのも面白そうだ。しかし、魔界なら分かるが、地上でそのような希少な血を持つ方が居ようとは……」


 デルハウトはそう語りきったところで――。

 シュヘリアと同じく片膝の膝頭を、洞窟の地面に突けた。


 そんなデルハウトの片膝にロロディーヌが尻尾を乗せる悪戯をする。

 悪戯を受けているデルハウトさんは頭を上げた。


 思わず、彼に〝さん〟付けをしたが……。

 別段に怒ってはいないようだ。

 良かった。

 ただ、瞬きを繰り返して、眉の位置の皮膚が微妙にピクピクと動いている。

 ロロの尻尾の毛で、痒くなったのかもしれない。


 ロロディーヌは、最近お気に入りのシュヘリアのポニーテールに手を出していなかった。


 お気に入りのパンチングマシーンのポニーテールは、親分として子分のアーレイとヒュレミたちに譲ったらしい。

 俺が牽制したが無駄だった。


 アーレイとヒュレミはシュヘリアの金髪のポニーテールに猫パンチを放っている。


 ねこじゃらしでも打つように肉球パンチをビシバシと連続で当てていく。

 爪は伸ばしていない。

 だから、金色の髪に傷はついていないと思うが……。

 大虎の姿なだけに少し不安に感じる。


 束ねた髪の毛を大虎たちに遊ばれているシュヘリアは動じず、


「そして、陛下は認めようとしない謙虚な方だが、偉大な魔人武王のような実力を持つ槍武人なのだ」


 その言を聞いたデルハウトは動揺したように金色を帯びたブラウンの瞳を散大させた。

 だが、すぐに武人らしい気質で、ニヤリと笑う。


 それはなんとも得難い微笑みだった。

 そんな笑みを繰り出しているデルハウトの顔に、また、ロロディーヌのふさふさとした黒毛が……。

 その黒毛尻尾の悪戯を、我慢している表情を見て、一瞬、ガチムチ系の渋い猫好きおっさんこと、オセベリア王国の大騎士ガルキエフの表情を思い出した。


 ペルネーテの西のサーザリオン領を巡るオセベリア王国とラドフォード帝国の戦争では第一王子たちと合流し活躍を続けているらしいが。


「魔人武王とは……それは興味深い」


 魔界騎士というか魔武将のようなデルハウトは俺に興味を持ったようだ。

 そして、この元・魔界騎士たちの言葉をエブエの黒豹は黙って見ている。


 ロロディーヌ軍団はネコ科の習性通りに悪戯を続けていたが……。

 エブエは悪戯に加わっていない。


 見た目は黒豹と化しても、彼の心は獣ではないらしい。


「では、シュヘリアも、あの夜の乱戦で槍使いと戦って負けたのだな?」 

「……あの夜か。あの夜は……陛下とは戦っていないのだ。陛下が使役している精霊様と戦って負けた。しかも、なにもできずに完敗というていたらく」


 その瞬間、小躍りする小型のヘルメ。

 手に持った小さい注射器をくるくると回して、先端から水をぴゅっぴゅっぴゅ~と飛ばしていた。


『たん、たん、たた~ん、たんと、さけて、ぴゅっぴゅーと、やっつけました!』


 小さいヘルメが飛ばしている水は幻影だが、リアルだから困る。

 そして、その言葉は幼いが、華麗に舞いながら精霊としての秘奥を感じさせる機動でシュヘリアと対峙しているところはしっかりと想像ができた。


「精霊様を使役、それも驚きだが、お前が負けるとはな。完膚なきまでやられたというのか……」

「それはいささか語弊がある。デルハウトのような半死半生といった姿ではない。完膚というか、まぁ完膚ない状態で囚われた」

「魔双剣シュヘリアを無傷で捕らえた!?」


 洞窟内で反響するデルハウトの武人声。


「その通り、あまり、思い出しくないから大声は出さないでくれ……」


 シュヘリアは金色のポニーテールを揺らしながら頭部をそらす。

 そらした髪の動きにまた釣られる二匹の大虎。


 釣られるが、その釣られた際にアーレイの前足が、ヒュレミの前足に衝突した。

 そこから大虎同士の喧嘩が始まってしまう。


 互いの首筋に噛み付いて魔力の血が散った。

 転がりながら洞窟の奥に向かう二匹の魔造虎。


 狂暴な野性味のある大虎たちのアルティメット対決。

 前足から鋭そうな爪が伸びているから、少し心配だ。


 ロロディーヌも心配そうに「にゃぁ~」と鳴いていた。

 そんなロロディーヌに、


「ロロたちは、デルハウトを助けていたんだな?」

『ロロ様が気に入った魔界騎士。もっと後ろから見なければ分かりませんが……お尻の筋肉の付き方が強者のソレと推測できます……お尻将軍……』

「ぶはっ」


 はは、お尻将軍ってのは何だよ。

 真面目な表情を浮かべてフザケたことを語るヘルメに、思わず笑ってしまった。


 周りから突如笑った奇人に見えただろう。

 だから、デルハウトとシュヘリアだけでなく、ロロとエブエから注目を浴びた。


 一瞬、ヘルメのポーズを取ってボケようとしたが止めておいた。


 視線を巡らせて「あの天涯の鍋を取って料理の火力に使えないかな……」とか無難に呟く。

 そして、ヘルメに注意を、


『……「尻毛を抜く」とかやるなよ? デルハウトでも驚くだろうしな』

『毛は抜きません! それよりも、樹海戦線拡充のために、是非ともお尻将軍を、閣下の部下にすべきかと!』


 また笑いそうになったが、我慢。


『……彼に失礼だ。勝手に変なお尻の綽名をつけるな。だが、俺の部下というかキッシュの魔将軍風の部下には推薦したい人材だ。シュヘリアに続いてデルハウトのような武人が居ればキッシュも楽になる』

『……フフフ、閣下らしい言葉です』


 お尻を褒めるところを見ると、ヘルメも本気か。


「にゃ?」

「ガルル……」


 そう短く鳴いた神獣ロロディーヌは、黒触手を俺の首に当ててくる。

 突然、吹くように笑ったからな。


 黒豹のエブエも頷くように低い唸り声で返事を寄越してきた。


 そして、


『助けた』『楽しい』『遊ぶ』『魚』『遊ぶ』『美味しい』『魚』『好き』『くちゃい』『遊ぶ』『臭い』


 といったロロが気持ちを伝えてきた。

 俺が突然、笑ったことではないらしい。


 そのロロディーヌの気持ちを分析すると……。

 デルハウトを助けてから一緒に魚を食って美味しかったということか。


 遊びは、魚を捕まえる遊びかな。

 臭いのは分からない。

 ロロディーヌは触手の裏側にある肉球で俺の首をポンポンと叩いてから、自身の首元に収斂させた。


 ロロディーヌは紅色の双眸を俺に向けてくる。

 お前がここに俺たちを案内した理由は……。


『デルハウトを村の家族に迎えるにゃ~』かな?

 それとも『エブエとデルハウトを、血の眷属に勧誘にゃ!』とか?


 どれも違って、この独特の〝臭い〟匂いが漂う戦馬谷の大滝に案内したかっただけか?


 しかし、奥にあるという異界の軍事貴族の間が気になる……。


 だが、今は魔界騎士デルハウトのことだ。

 ヘルメの言葉に従うわけではないが、彼はサイデイル村の防衛には打ってつけの人材。

 シュヘリアと同様に魔蛾王ゼバルから放逐を受けたのなら、俺たちに興味を持ったようだし、サイデイル村の陣営に誘ってみよう。


 三顧の礼といった気分で、勇気を出して口を動かした。


「……デルハウト。俺の名はシュウヤだ。そして、この樹海に、眷属が建設した村がある。村は着々と戦力が増している状況だが、まだまだ防衛に優秀な人材は欲しい……だから、俺たちのルシヴァルの拠点の一つでもあるサイデイル村で働く気はないか?」


 笑みを意識した。

 俺の魅力と智謀の値がどれほどか、分からないが、彼に通じるか……。

 少しドキドキした。


「それはシュヘリアと同じく軍門に下れということか?」

「そうともいう」


 俺が頷きながら喋ると、シュヘリアも、


「この樹海の地は敵ばかり。デルハウトも魔獣ムグも失った状態では、さすがに単独で生き抜くのは非常に厳しい地域……だからこそ、信頼できる仲間が必要ではないか? この機会に陛下の麾下に加わるべきだと思うが」


 シュヘリアが説得に参加してくれた。

 小型ヘルメも参謀としての言葉を奪われたが、気にしないで、頷いている。


「そうだな」


 おぉ、デルハウトはあっさりと了承。頷いた。

 彼の背後に後光を感じた。実際にはないが。


 そして、双眸を煌めかせながら口を動かす。


「だが、俺も元魔界騎士としての自負がある。簡単に主として認めるわけにはいかない。あの時の戦いでは、<武槍技>の技を使用せず敗れたのだからな……」


 魔眼のような力を解放したデルハウト。

 魔界騎士らしい言葉だ。


 あの夜の戦いでは<武槍技>とやらを使わなかったようだ。


「武槍技か」


 俺はそう答えながら、シュヘリアをチラッと見た。


「陛下、デルハウトは不遜な態度ですが、お許しを」

「シュヘリア。お前もそうだったろう。気にするな」

「はい」

「……デルハウト。俺も戦いは大好きだ。だから、戦いたいなら戦う。だが、足の傷はどうするんだ? 回復魔法を唱えてから、俺の村に戻ってから――」

「――気にするな。優しき魔君主よ。魔力は回復している――<瀝青の闇>」


 歯を剥きだして嗤ったデルハウト。

 それは喜悦めいた嗤い。

 肩幅が広がったように諸手の構えを取り、腕を伸ばす。


 濃厚な光沢を帯びた闇の魔力が、彼の背から噴き出した。


 同時に魔力と生命力を活性化させたのか?

 足の失っていた部分から、シュバババといった奇妙な音を響かせながら骨と肉が乱雑に回転しながら生まれ出る。


 回転は一瞬で終了すると、あっという間に片足を形成していた。


 凄い回復力だな……魔力をかなり消費したようだが、足が生えるとは……。

 地に足をつけたデルハウトは、足元で跳躍を繰り返す。


 ごつい爪のような硬い皮膚が集合しているような足の裏を確認していた。

 嬉し気な表情を浮かべたまま俺を見ると頷く。


 すると、紫色の魔槍の壁に移動。

 その魔槍を手にした。


「さて、戦うとしてエブエ。ここで戦っても大丈夫?」


 ここはエブエのキルモガー部族の聖域のはず。

 念のために聞いておかないと。

 奥には異界軍事貴族の間という場所もあるようだし、荒らすことになるのではないかという心配から、そう聞いていた。


 俺の言葉を聞いたエブエは黒豹から人型に戻る。

 戻り方が、闇のオーラを纏っているからいちいちカッコいい。


「英雄様、気にしないでください。先祖の英霊たちもきっと豪勇同士の戦いを見届けたいと思っているはずです。戦いが終わり次第、奥の広間に案内いたします」

「そうか、ありがとう」


 俺の言葉に礼儀正しく頷いたエブエ。

 そのまま落とした魔斧を拾っていた。


 ロロディーヌもシュヘリアも側から離れた。


 俺は頷いてから、デルハウトと相対する。

 右手に魔槍杖バルドークを召喚。


「ヘルメ出ろ」

『はい』


 左目から液体ヘルメが飛び出た。

 ゼロコンマ数秒も掛からずに地面に着水した瞬間、女体化する。


「話をしていた精霊様か。左目に宿して戦う気はないようだな」

「俺の通り名を知っているだろう。師匠から受け継いだ風槍流が基本だ」

「……槍使いと、黒猫。だな? そこの黒き獣と、この間の上等戦士のような骨騎士を使ってもいいぞ?」


 デルハウトは冗談を語った。

 その厳つい表情から、冗談とは思えないが。


「ガルルルゥ」


 ロロディーヌが怒るように唸る。

 『わたしが戦えば、お前を喰うぞ』というような珍しい迫力ある声音だ。


「ロロ、お前が助けたんだろう?」


 俺の言葉を聞いて、耳を少し凹ませたロロディーヌ。

 ロロは俺の代わりに怒ってくれたことは分かっているが、あえて話をしていた。


「ン、にゃ~」


 その場でくるくると尻尾を追いかけるように回りながら丸まった体勢となる。

 眠るわけではないが、大人しくなった。


「というわけで、俺はできるだけ、槍使いとして相対しようってことだよ――」


 そう喋りながら、真っすぐ伸ばした左の手の内をデルハウトに晒す。

 そして、右手に握る魔槍杖ごと半身をずらすように右足を後方に移した。


 風槍流の構えを取る。


「……魔傀儡人形イーゾンが扱うような特殊な魔槍か。鋼の柄巻と魔剣に魔造書のような力も使わないのか?」


 デルハウトは、俺の腰にぶら下がる魔軍夜行ノ槍業を魔造書と勘違いしている。


 いや、まだ詳細をチェックしていないからそうなのかもしれない。


 昔、ユイと初めて会ったころ読んだ本を思い出す。

 タイトルは〝魔法基本大全〟。


『それと、消えない魔法書も存在するが、それは正しくは、魔法を覚える書ではなく“使う魔造書”のはずだ。(魔造書、所謂……禁書の類いは、神聖教会がうるさいのでここでは書けない。すまんの)魔法書は基本、長持ちするが、紙質の劣化に加えて書物その物が魔力に反応を示さなくなる場合がある。魔力に反応しなくなった書物は読んでも魔法は覚えられず、書物も消えない。ただの書物となるのだ。魔力に反応しなくなるのは、主に古い魔法書に多い。


 魔軍夜行ノ槍業は、奥義書とラビウス爺さんは語っていたが。

 そんな本の内容を少し思い出したところで……。


 デルハウトを強く見る。

 元・魔界騎士とはいえ、槍使いだ。


 武人として正々堂々と戦おう……。


 俺は師匠のことを思い出すように、ラ・ケラーダのマークを作り、礼をしてから、正直に、


「……安心しろ。二槍、三槍と水に<導想魔手>と<血魔力>もあるが槍使い(・・・)として全力を尽くす。防具はこの半袖だが、神話(ミソロジー)級だ」


 布石のことを告白。

 <鎖>も闇杭に光槍と手札は無数にあるが、まぁいいだろう。


「……<白炎>もだろう?」

「あ、それもあったな……」


 ヘルメが「そうですよ! わたしを救った仙魔術の進化バージョンです!」と何故か中空に浮かびながら水飛沫を発しながらそう発言していた。


 その行動にデルハウトは、額に粒大の汗を生み出す。

 ……焦らなくても大丈夫なんだが、彼はヘルメとは戦いたくないらしい。

 シュヘリアに視線を向けていたから、多分そうなんだろう。


 そのシュヘリアは、


「常闇の水精霊ヘルメ様!」


 と平伏していた。

 神獣ロロディーヌの瞳はポニーテールに向かう。


 が、戯れは我慢したようだ。

 

 大きい黒い獣ロロディーヌは迫力があるから、戯れたら大変なことになる。


 デルハウトは逡巡し、俺を見る。


「……誇りある槍使いなのだな……失礼した」


 騎士らしくポーズを取ってから、頭を下げるデルハウト。

 そして、


「俺も魔人武術の愚王級と称された男。魔槍雷飛流の教えから<闇雷の槍使いルグィ・ダークランサー>として誇りがある――」


 デルハウトは左手一本で持った紫色の魔槍を払う。

 彼の足元の中空に淡い紫の弧を描く軌跡が残った。

 闇と雷か。


「ふっ」

「俺も滾る気持ちは同じだ。すべてを賭す! いざ、尋常に勝負――」


 喜びを露わにする大声を発したデルハウト。

 ――手負いの猪のように一直線に向かってきた。


 槍を学べるという血が沸き立つ思いは、同じらしい――。

 三角刃の杭刃の穂先が胸元にくる。


「――<闇眼・闇紫電>」


 魔眼系のスキルを発動したようだ。

 闇と雷がせめぎ合う魔力を纏うデルハウト。


 ばちばち音を立てながら、動きが急加速。

 俺は地を蹴りながら魔闘術を全身に纏う。

 加速した風を纏う三角刃を避けながら、下から振るった魔槍杖の石突、蒼い竜魔石の塊をデルハウトの腹に差し向けた。


 だが、デルハウトは紫の柄で受けず――。

 地を蹴り横に移動して石突をかわす。

 半身の体勢から流れる動きで連続した<刺突>の突技を繰り出してきた。


 ――速い。魔闘術の配分も絶妙に変えながらの<刺突>。

 <生活魔法>の水をばら撒きながら、爪先回転避けの進化版<超脳・朧水月>を繰り出してデルハウトの三角刃の突技を避け続けた。


「美しい、湖面に半月が浮かんでいます」


 ヘルメの言葉が耳を突き抜けながら反撃に移った――。

 左足の踏み込みから<闇穿>を繰り出す。

 だが、螺旋状に直進していく闇を纏う嵐矛は、紫の魔槍に弾かれた。


 視線でフェイントを互いに行う。

 そして、魔槍杖を引くと同時の縦回転させた魔槍杖を下から掬い上げた。

 デルハウトの股間に石突が向かう。

 しかし、これも紫色の魔槍を上部に構えて防御してきた。


 魔槍杖を左手と右手に交互に移し替えながら、逆手に握った短く握った状態で<水穿>を放つ。

 デルハウトは水蒸気のような煙が発生した<水穿>の嵐型の矛を弾く。

 

 俺は構わず半身の体勢を維持しながら少しタイミングが遅れた下段蹴りを繰り出した。

 しかし、箒で塵でも払うような仕草の蹴り技で俺の下段蹴りを弾く。

 

 その蹴りを放った勢いのまま横回転すると、体の動きを止めるデルハウト。


 視線のフェイントと同時に魔槍の構えを微妙に変えた。


 そのフェイントに引っ掛かるように、俺は動きを止める。

 デルハウトは、地を蹴り土を飛ばしてきた。


 突進か? と、俺は身構えたが、杞憂だった。

 デルハウトは突進せず槍を投擲するようなモーションを取った。

 動きを止めているが、また、フェイントだろう。

 

 <投擲>ではなく、何をするんだ?

 すると、デルハウトはニヤリと嗤う。


「さすがだ、これではあの魔双剣も屈しただろう」


 と、喋りつつも、自身の魔槍を見ては、刃こぼれが起きていないことを確認していた。

 また強く嗤うと俺を見た。


「お前もな。影翼旅団の団長、ガルロのような動きだ」


 またはタケバヤシ!

 そう過去の戦いの経験値を生かすように<闇穿>から<豪閃>のクリティカルな背中に魔槍杖を通したフェイント斬りにも、彼は対応してきた。


 やるな、デルハウト!

 素直に称賛。

 数十と打ち合いを続けた俺とデルハウト。


 デルハウトは両手を掲げるように紫色の魔槍を古い戦闘機のエンジンを回すブレードのごとく回転させては、宙に紫色の円の軌跡を無数に作る。


 自身も俺のような爪先回転の技術を使い、回避に踊るように避け続けた。

 ――凄い。大柄なのに。

 回避は師匠級か?


 そして、背中を晒しながらの左手一本で握る下段薙ぎを繰り出してきた。

 俺は跳躍しながら、弧を描く軌道の三角刃を避ける――。

 その直後「掛かった!!」と、デルハウトは喜ぶ声を発すると、彼は右手で対空砲でも撃つ構えを取ると、右腕の一部に四角いモノを出現させる。

 そこから、闇色と紫色の雷の刃をその右手から無数に突き出させてきた。


 げげぇ――というか形は小型の盾か?

 額の中央にある宝石も明滅していた。


 <鎖>で防御しようとしたが、間に合わない――。


 ――イテェェェ! 目に突き刺さった。

 痺れる、目つぶし効果か!

 無数の闇と紫の刃を受け続けながら、俺は宙を後退した。


 血飛沫が視界を埋めながら、デルハウトが中空から接近していることが分かる。


「――<魔人武術・重打>」


 急遽、魔槍杖バルドークを上部に掲げて、紫色の三角矛を受け持った。

 ――重い。不協な金属音が響く。


 ハンマーを受けたような衝撃が全身を貫く。

 まさに魔界騎士の豪の槍技だ。


 上からの圧力によって魔力波が弾けている。


 両足が地に着いたところで、地面が窪む。

 そんな凹みなんて、気にしていられない――。

 続けざまに頭部に迫る回し蹴りを屈んで、避けてから、反撃の<牙衝>を放った。


 下段突きの<牙衝>を捌くデルハウト。

 半身の体勢で側面に移動する。


 デルハウトの厳つい視線は、俺の牽制で放った<刺突>を捉えていた。


 凄い反応だ――。

 が、正直、楽しい――。

 デルハウトが睨んでいたように螺旋した嵐雲を纏うような矛の<刺突>は、あっさりと避けてきた。が、予想済み!


 デルハウトからは、血を味わうように嗤って見えているかもしれない。


 そんな笑みを意識した俺は――。

 右手を引きながらデルハウトの側面に移動――。


 そのまま魔槍杖バルドークを縦回転させる。

 柄を上げる魔槍杖バルドークの石突をデルハウトの下腹部に向かわせた。


 下段の防御を意識してもらう――。


 デルハウトは、斜め下に紫の魔槍を伸ばして竜魔石の石突を防ぐ。

 

 ――そこから魔槍杖バルドークを穂先に握り手を移しながら魔槍杖バルドークの穂先をデルハウトの魔槍に当てて、衝突させる。衝撃力を活かすように、握りの掌を緩めて魔槍杖バルドークの柄の握りの位置を下げた。そのまま魔槍杖バルドークを掴み直し、普通の突きをデルハウトの腹に突き出す。


 デルハウトの胸元を突いて、突いていく。

 踏み込みを行わない迅速な魔槍杖バルドークと右腕だけの<刺突>も織り交ぜる――。


「温い、緩い! 鈍いぞ――」

「――そんなことぁ、わかってるさ――」


 デルハウトの防御と回避の技を称賛しながら、ふっと笑みを意識。


 時折、重い一撃の<闇穿>を混ぜた。

 微妙に防御を意識させる。


 そこからデルハウトの鋭い眼差しを受け流すように、反撃の紫の魔槍の<刺突>を華麗に避けつつ直進しながら水飛沫を操作――。


 デルハウトの目を潰す――。

 同時に<血道第三・開門>を開門――。


「ぐぬお?」


 血液加速(ブラッディアクセル)を発動。

 間髪を容れず<水月暗穿>の蹴りを放つ。


「ぐっ」


 変幻自在の槍武術に対応が遅れたデルハウトは、腹に<水月暗穿>の蹴りを喰らう。

 体が持ち上がった――足先から肉を抉ったような感触を得る。


「ぐはぁ」


 血を吐くデルハウト。

 そこから下から上の斬り上げ機動の追撃の弧を描くような水月連携斬りが紫の魔槍の柄で防がれた。

 紫の魔槍の柄を押し返す。

 正確に弾いてきた。

 腕と魔槍を豪でありながら柔く動かし、魔槍杖バルドークの機動に合わせてくる防御槍技術――。

 槍を扱う技術の高さが窺い知れる。


 デルハウトは、その<水月暗穿>から続く薙ぎ払いの衝撃を活かすように己の紫色の魔槍を踏みつけて跳躍を行った。


 宙空で体を開くと軽功の技を披露するような動きから一回転――。


「<悪式・魔踵落とし>」


 魔力の軌跡を生む踵落としを繰り出してきた。


 俄に神槍ガンジスを左手に召喚。

 魔槍バルドークと神槍ガンジスを眼前でクロスさせ、ハンマーを思わせる振り下ろし踵落としを受けた――。

 

 ドッとした鈍い音と共に衝撃を感じた。目を瞑ったままのデルハウトの連撃蹴りを両手の槍で受けに回る。


「<悪式・暴れ魔馬刺し>」


 デルハウトは紫の魔槍を掴むと、両足の蹴りと魔槍の穂先と石突を活かすような連続とした連続打撃を繰り出してくる。


 蹴りというか一つ、一つの打撃が重いし、硬い――。


 デルハウトの足の皮膚が鋼のように変化していた、両の足が地に降りきった瞬間――。


「<武槍技>……」


 デルハウトは囁く。

 重心を下げた直後、腰を捻る。

 波動砲でも撃つために力を溜めていそうなポーズで紫色の魔槍と一体化するような闇色の雷を体に纏った。

 嫌な予感……バチバチと音が響かせている闇雷を体に纏ったデルハウトが大きく見えた。


 <刺突>系の奥義か――。


 デルハウトの背後から神々しい闇の幻影が現れては槍を持つデルハウトと同じポーズを取ると、そのデルハウトと重なった。


 魔力波が弾けて、強力な衝撃波のようなモノが周囲に飛び散っている。

 素直に防御を優先だ。


「喰らえ、<魔雷ノ愚穿>――」


 デルハウトの恐怖を感じる勢いを<水神の呼び声>を意識して打ち消す。

 蒸発する魔槍杖バルドークとは違い神槍ガンジスから祝福するような水音が弾けると同時に両手の槍をクロス――。


 闇雷を纏ったデルハウトの身を投げ出すような強力な<魔雷ノ愚穿>を防ぐ――。


 衝突した箇所から烈しい火花が散った。

 魔槍杖も神槍も、はこぼれしそうな勢いだ。


 鈍い不協和音が多重に響く。

 衝撃を受けて水蒸気が吹き飛ぶと同時に背後に運ばれた。

 両足が地面削り、二つの足線を作ったが……防ぎきった。


 逆に魔槍杖バルドークと神槍ガンジスから衝撃を受けたデルハウトの魔槍。

 ぶるりぶるりといった音を立てながら、紫色の魔槍が弾け飛んでいった。


 無手となったデルハウト。


「水神の加護とは……太古の闇に通じる槍の極技を防がれてしまった」


 悔しそうな面だが、どこか清々しさもあるデルハウト。

 すると、近々距離戦に移行してくる。

 デルハウトの背中向こうに彼の魔槍が突き刺さるが、デルハウトは接近戦も自信があるようだ――。

 俺は槍組手『十手拳』の両拳をハンマーに見立てた技を彼の拳に衝突させる。


「魔人武術・魔擒拿――」


 デルハウトは技名を発して、器用に俺の腕を掴み取る。

 身体を横回転――くるっと回り、背中を俺に当てながら反対の腕から伸びた雷刃で俺の首を引き切ろうとしてきた――。


 まじか、首にヒンヤリした刃を味わう――。

 急遽、掌をその雷刃に当て、掌から激しい痛みを味わうが対処した。


『妾が……孔の線が』


 サラテンは左手の掌にある運命線が増えたとでも言いたいのか?

 と、ツッコミを入れる余裕はない。


 背中と背中が鏡映しのような状態となった俺とデルハウト。


「素晴らしい近接技術……この魔擒拿拳からの暗雷剣で首を刎ねられなかったのは、今回が、初めてだ」

「そうかい――」


 ヘルメが反応するような尻を突き出す。

 背中をデルハウトに衝突させてから、振り向きざまに左拳を放つ。

 彼は手のひらで、俺の拳を往なす。


 俺は構わず、肘を主体とした槍組手の技術(薙膝・黒掌鋼)を繰り出す。

 猿臂の如くの裏拳がデルハウトの鼻に命中――。

 鼻血がだらりと流れ口が血で染まった。


「お尻ちゃんアタックがお尻将軍に一撃を!」


 一瞬、ヘルメの言葉を受けて、俺が逆に沈みかけたが!

 その一瞬の隙を逃すわけがない――。

 デルハウトの影響を受けたと分かるように、電撃のような身のごなしを意識。

 <魔手太陰肺経>の技術を意識した掌打をデルハウトの全身に繰り出す。


 それは<白炎仙手>の彷彿させる勢いだ。

 最初にドドッと鈍い音が二つ。

 続けてデルハウトの全身からメキメキといった不気味な音が響く。

 全身の骨が粉砕するような多重音。


 デルハウトはふらりとよろめいた。

 普通は立っていることは不可能だろう。

 さすがは、凄まじい回復能力を持つだけはある。


 しかし、手加減はしない。

 <牙衝>の神槍ガンジスの方天戟でデルハウトの足を貫く。

 右手の魔槍杖バルドークで<闇穿>を繰り出した。


 両手から槍を消失して瞬時に再召喚と同時に<水雅・魔連穿>を発動――。

 交互に打ち出される連撃の突き。

 水を纏う螺旋の水飛沫が周囲を浄化させるようにも感じた。


「グアァ――」


 連撃を浴びたデルハウトはあまりの痛みが涙を流しながら叫ぶ。

 血飛沫も周囲に飛んだ。

 俺は勿論、その血を頂いた。

 が、デルハウトの身体にできた穿った孔や弾け飛んだ肉が逆再生でもするかのように引き戻りつつ収斂。


 肉体が再生しようとしていた。

 ヴァンパイアのような回復速度はないが、確実に身体を再生するスキルか。


 反対の足もバルドークの嵐矛の<闇穿>で貫いたところで――。

 丹田と<魔闘術の心得>を意識。

 <血魔力>が加わり濃密な魔力操作の域と化す。


 その体躯の内の秘奥に眠る魔力を引き出すイメージで、もう一度強く魔力を纏った。


 その瞬間、右手の魔槍杖バルドークが共鳴。

 かと思ったら、紫の柄が恐慌をしているように震えている。

 穂先の髑髏模様から、カラカラと嗤い声が起きたが、「煩い――」と怒気を発しながら、両手から魔槍杖と神槍を消失させた。


 そこから、回転回し蹴りを下腹に入れる。苦痛に歪むデルハウト。


 彼は自分の愛槍はどこかと、左手で虚空をさまようように動かした。


 しかし、その双眸は一瞬で、活力が漲る。

 すげぇタフネス――。


 尊敬の意思を込めて、自然と右手に魔槍杖バルドークを召喚していた。

 一歩踏み込んでの、全身全霊の一槍風槍流の<刺突>を深々と胸に食い込ませる――。

 デルハウトの肋骨らしき部位から折れた音が響いた。


 そこで、ようやく目元から力を失くすデルハウト。

 ぐらりとゆらめくと口から鮮血を吐き出す。


「……素晴らしい一撃……心に響いた」


 力なく聞き取りづらい声音で、そう語ると、双眸の光が弱まる。

 そのまま体を震わせてからデルハウトは倒れていった。


 風槍流の一撃が、彼の武人としての心を断ったか。

 師匠……。


 俺は師匠の一撃に近付けただろうか。


 魔槍杖を払い、ラ・ケラーダのマークを作ってお辞儀した。

 そして、その場で回復魔法を倒れたデルハウトに向けて繰り出すと、ヘルメも回復作業に加わった。

 シュヘリアは沈黙を続けている。

 ……よく見たら全身を震わせているが大丈夫かな。

 微笑んだら、微笑みを返してくれたが。


 さて、


「エブエ、異界軍事貴族の間。そのような洞窟の奥とは、どんな感じなんだろう」

「中央に、黒き環のザララープを模った石の巨大彫刻があります。黒豹の刺青近くの黒い粒の模様がそうですね」


 え? と黒き環だと?

 エブエの指元、胸元を思わず注視した。


「本当だ。うっすらと円の形となっている。気付かなかった」


 黒き環(ザララープ)も関係しているとは……。


「その巨大彫刻の前に、巨大石筒があります。そして、獣貴族キルモガーの儀式に必須な、獣貴の戦士魂の石筒もそこには存在しています」


 石筒か……巨大石筒とは、ゴルディーバの里にも存在した。


 地下と地上を繋ぐ〝神具台〟ということか?


 エブエの祖先は……キルモガー族たちは……。

 師匠たちゴルディーバ族と同じく黒き環(ザララープ)の前で、神獣ロロディーヌの前身ローゼスたちと一緒に戦った一族たちということなのか。


 だから、相棒はここに……。

HJノベルス様から最新刊「槍使いと、黒猫。19」が2023年1月19日に発売します。


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