四百十八話 <紅蓮嵐穿>
「まぁいい。我ら第六軍団が、すべからく滅スル――」
ヘルメの念話に応える前に、歪な唇が主体の怪物は前進した。
八本の腕の動きは速い。
武器を揮う速度は尋常じゃない。
が、腕の動きとは対照的に……。
緑色の霧状の下半身の動きはゆっくりだ。
そして、一つの腕が握る魔剣を斜め下へと振るい落とした直後――。
その魔剣の剣身から黄土色の魔力刃が生まれ出た。
黄土色の魔力刃は速い――その刃はぶれる速度で、キゼレグに向かう。
「ふっ」
キゼレグは嗤うと片腕を銀色の剣に変化させつつ僅かに跳躍しながら銀剣の腕を右上方へと運ぶ。
三日月を宙に描く軌道の銀剣の腕が――。
黄土色の魔力刃を宙の位置で捉えて綺麗に切断した。
キゼレグの左右へと分かれ散った魔力刃は――地中から生える根と衝突。
「――キゼレグ! 大丈夫!?」
小さい姿のゴルゴンチュラは心配気な声を上げた。
ゴルの声音は、俺たちと相対していたころとは違う。
可愛らしい女子の声音だ。
まぁ、キゼレグは夫でイケメンさんだからな。
「魔力は消費した――」
キゼレグはそう呟きながら銀剣と化した腕を横に払い、
「だが、まだ少しの間だけならば、戦える。そして、歪な口の塊は、ただの尖兵ではない……ぞ。ゴルゴンチュラ……」
ゴルにそう語り掛けたキゼレグ。
彼が身に纏う白銀の衣はくすんで見える。
「うん……でもわたしは……力が……」
キゼレグに頷いたゴルは俺を見る。『助けて』と、言わないあたりは……。
神だったプライドを感じる。
だが、彼女の瞳には『助けてほしい』というメッセージが込められていることは分かった。
しかし、キゼレグのさっきの動きは速かった。
彼の一対の蝶羽は、卍の紋様が示すように封じられた状態だ。
それなのに尋常じゃない速度だった。
やはり亜神だ。
さて、ゴルの視線に応える訳じゃないが――。
この場は彼と共闘しようか。
エヴァとレベッカはシェイルを連れて距離を取る。
「わたしもシェイルを守ります」
ジョディはそのエヴァとレベッカとシェイルが退いた後詰めの役割を担当するようだ。
彼女はまだ誕生したばかりだ。
戦う必要はないと思うが……。
もうレベッカから大きな鎌と天秤を受け取ったらしい。
大きな鎌と天秤のアイテムは彼女が本来持っていた物。
大きな鎌を振り回して、返す刃の一閃は凄まじい技術。
サージュを振るうだけだが、熟練した鎌術の極みの一端を感じさせる。
天秤は彼女の腰に巻き付くような小さい白蛾マークが可愛いロープベルトと繋がっていた。
俺は、そのジョディに、
「あまり無理はするな」
と、ジョディに告げた。
彼女は頷く。
「はい、あなた様……」
白と黒に血が混ざった色合いの瞳の力は強い。
俺も頷く。
そして、歪な口が主体の八腕を持つ怪物に視線を戻した。
八腕と、緑色の霧で構成された下半身は要注意か?
二つの霧状の足を注視しながら、この場の皆に向け、
「……皆、個々の判断で叩け」
と、指示を出した。
すると、監獄の向こう側の枯れた植物が目立つ場所から、単眼の頭部を二つ持つ新手が出現――。
達磨のような胴体には腕がない。
腕がない代わりに短い多脚があった。
その脚には巨大な爪が生えている。
新手は先鋒の、魔力刃を飛ばす八本腕を持つ怪物武将的な存在とは、造形が異なる。
丸い達磨もロルガの尖兵と判断していいだろう。
多脚から伸びた巨大な爪をぐるぐると回す。
ヘリコプターがブレード的な回し方で、周辺の枯れた草花を切り刻みながら前進していた。
達磨モンスターは空を飛べそうなぐらいに、多脚の回転速度が速い。
足のブレードを除けば、ハフマリダ教団と旅をした時に遭遇した戦獄ウグラというモンスターと似ている。
さらに、枯れていないリンゴの樹木や果樹たちを打ち倒しながら、その多脚を持つ達磨たちが続々と現れた。
数は最低でも中隊規模。
この戦力……谷間の奥の地下から攻めてきたのか。
古代狼族のハイグリアたちが加勢してくれれば、楽になるが……。
ま、俺たちが気張ればいいだけのことだ。
「シュウヤ様! 五十、百を超えた、丸い胴体を持つモンスター軍の出現が続いています」
空からキサラが報告してくれた。
「陛下! 魔界の【朗々の大滝ケルン】を支配するエルレシア・ケルン大公が率いていた怪物軍団と似ています!」
二振りの魔剣を構えたシュへリアが語る。
大公?
魔界には公爵の上にそんな階級があるのか。
公爵より強いクラスの名は魔元帥とかだったはずだが。
魔界の【朗々の大滝ケルン】を支配しているエリアが特別なのかな?
だから、そんなニュアンスで話をしたのかもしれない。
「ンン、ガルゥゥ」
唸り声を上げたロロディーヌ。
姿は山猫に近い姿から、一回り大きくした集団戦仕様の姿となっている。
口から炎は吹かない。
集団戦でも使える指向性の高いレーザー風の炎を吹くことは可能なはず。
だが、今回は炎を吹くつもりはないらしい。
「ンン」
喉声を鳴らしたロロディーヌは頭部を向けてきた。
俺は『暴れていいぞ』という意志を込めて相棒に合図を送るように頷く。ロロディーヌは「ンン」と微かな喉声を発しつつ即座に怪物たちの出現が続く方向に頭部を向けた。
――走り出すロロディーヌ。
力強い膂力の躍動する走りだ。
その相棒は――歪な唇が主体の八本腕の怪物をスルー、迂回する。
神獣ロロディーヌは標的を新手の達磨のような丸い姿のモンスターに決めたようだ。
多分、あの達磨の胴体が丸くて肉厚だから美味しそうに見えたんだろう。
ロロディーヌは走りながら首下から触手群を伸ばした。
達磨の身体に骨剣の群れが無慈悲に突き刺さる。
瞬く間に、奥に出現したばかりの達磨モンスターは孔だらけの肉塊と化した。
ロロディーヌは、達磨の胴体に数本の触手骨剣を突き刺した状態で、その触手を収斂。
達磨が持つ多脚に生えた巨大なブレードのような爪が乱雑に回転し、地面と仲間の達磨たちと何度も衝突を繰り返す。
他の達磨たちの多脚と胴体を巻き込みながら、無数の達磨の肉塊が、ロロディーヌの下に転がり込んだ。
多数の達磨を一度に屠ったロロディーヌ。
目の前に運んだ肉塊と化した達磨を睨む。
肉塊から毒々しい血飛沫が迸っているが、
「ガルルルゥ――」
と、唸り声を上げながら、目の前の達磨の怪物だった肉塊を喰らっていた。
意外に美味いらしい。
神獣ロロディーヌは奥歯で噛むこともせず、あっという間に肉塊を噛み砕く。
新手の達磨の怪物たちはロロディーヌに任せよう。
「我は、この先頭の八本腕の怪物を貰い受ける!!」
「前衛の敵は前衛に! 私たちにお任せあれ!!」
大虎に乗った沸騎士たちは魔界の武将らしく力強く宣言した。
そんな文言には興味を示さない八腕を持つ怪物。
上半身を構成している口という口が裂けるように広がると、その口から、毒のような臭そうな魔力の息を吐き出した。
そして、細長い腕が握っていた魔杖を上方へと揮う。
その瞬間――八本腕を体に持つ怪物の頭上に闇を主体とした毒々しい防御膜が展開した。
続けて、
「ジ・ルド・ラナ」
「大いなる」
「ファグラダキュラス――」
「鳳花盾」
歪な口々から、独特なエコー音と共に、スキル名のような魔法名が叫ばれた。
その直後、頭上に展開した防御膜だった魔力の盾がぐにょりぐにょりと蠢く。
蠢いた防御膜は、綺麗な桔梗と似た花を模った。
しかし、その桔梗のような魔力の花は……。
一瞬で腐ったように萎れた。
その萎れた魔力の花は、再度、蠢くと、また形を変えていく。
最終的に、何重もの襞を持つキンポウゲのような魔力の花となった。
「見た目の姿からは、想像もできない美しい花……」
キサラが語尾に怒りを滲ませながら語る。
「ですが……」
すると、キサラの目元の黒色のアイマスクが変化。
壮大なレース模様や端、付け根にぶら下がるブラックトルマリンの黒い宝石が揺れながら一気に縮小。黒のアイマスク防具だったが、今は細い線を瞼に残すのみとなった。
というか黒いアイシャドウのように変化している。
美人だから凄く似合う化粧だ。
そして、白絹のような綺麗な髪の中に普段見えにくい小さい角を覗かせていた。
しかも黒い角が点滅している?
もしかして……。
ゴルディーバ族が持つようなあの黒色の角の中にアイマスクを格納したのか?
あのアイマスクは姫魔鬼武装の一つ。
砂漠鴉ノ型ではコンドルような兜にもなるアイテム。
すると、頬の表面に蛸足で吸引したかのような紋様が浮かぶ。
あの紋様は、模擬戦の時に見た覚えがある。
彼女が近々距離で、掌底スキルを繰り出してきた時だ。
目尻から頬にかけて伸びている蚯蚓腫れのようなマーク。
そのキサラは魔女槍の柄に親指を押し込む。
痛みを感じたように表情を歪めながら、
「……シュウヤ様。その歪な口の怪物から濃い闇を感じます。霧の足がこの周囲に入ってから、百鬼道ノ八十八の<飛式>たちが作った防御陣も壊されました」
<飛式>の紙人形たちはもう消えている。
<魔倶飛式>の侍の紙人形の十兵衛と忍者の紙人形の千方は踊りながら後転を繰り返すと亜神たちの周囲を回っていた。
「妾の近くで踊る小さき者たち……この独特の衣装を身に纏う片方からは、妾の強い魔力を感じるぞ……まさか」
亜神ゴルゴンチュラが忍者衣装を身に纏う千方を見て指摘する。
すると、キゼレグがキサラを強く睨んだ。俺のことも凝視してきた。
敵対するそぶりは見せていないが……。
亜神だったゴルゴンチュラと戦ったことがバレたか?
ま、今はどちらにせよ戦う相手は〝ロルガの尖兵〟だ。
俺は視線と同時に顎先をクイッと、そのロルガの尖兵へと向ける。
……キゼレグは俺の意図を感じ取り頷いていた。
その動作はイケメンなだけにカッコ良い。
そのロルガの尖兵の怪物はキサラの感覚から得た情報だと濃い闇の持ち主らしいが。
見た目がな……。
そこでもう一度、怪物を凝視。
唇で構成された上半身。
その上半身からは様々な大きさの八本の腕が生えている。
下半身に至っては緑色の霧状の二つの足だ。
位置的に、威力偵察を担当する部隊長だろう。
あらゆる耐性を備えていそうな気がする。
ま、光が弱点なら<光条の鎖槍>で先制するパターンが有効かもしれない。
または<導想魔手>が握る聖槍アロステの出番か。
素直にこの身に纏う血鎖鎧で吶喊しようか。
だが、宙から様子を窺う戦闘経験豊富な四天魔女キサラが、キンポウゲのような魔力の花の盾を見て、何か怒っているような感情を面に出しているし……。
様子を見るとしよう。
だが、一応は警告しとくか。
「キサラ、臨機応変と言いたいところだが、無理はしないでいい。相手は毒持ちだ、警戒しろ」
余計なお世話かな?
彼女は犀湖十侠魔人たちとの犀湖の覇権をかけた八星白陰剣法を巡る永きに渡る戦いを経験している。
血骨仙女たちとの砂漠仙曼槍を巡った戦いでは苦戦しながらも一部では勝利したと聞くし。
俺の言葉を聞いたキサラは、うっとりと嬉しそうな表情を浮かべてから、
「はいっ! それでは、血鳴矛ノ型を用います――」
お? 血鳴矛ノ型? 砂漠鴉ノ型以外にもあるのか。
キサラは巨乳さんを揺らして魔女槍ダモアヌンを横に振るう。
そして、下の八腕の怪物を睨む。
「怪物! 姫魔鬼武装最高宝具ダモアヌンの魔槍の血を味わうといい……百鬼道ノ二なりや、百鬼血ノ八法、炯々なりや、ひゅうれいや――」
彼女の近くに浮いていた魔導書も煌めく。
手にした魔女槍も不気味な音を立てると、髑髏の穂先が粘滑に蠢く。
瞬時に八角の血濡れた髑髏刃がポコポコと音が聞こえるように、無数に生まれ出ていた。
思わず凝視した。
八角の血濡れた髑髏刃が幾重にも球体を形作るように刃が重なった形の穂先に変化。
球体の穂先だが、小型の八角の髑髏刃群が四方八方へと無数に飛び出ている。
その新しい髑髏穂先から、双曲のタイリングパターンの魔力の波紋が宙に放たれていった。
キサラはその魔女槍から視線をそらして、怪物を見据える。
そして、変化した魔女槍を握る右手で弓の弦でも引くように腰を背後へ捻りながら腕を後方へ運んだ。
左手も真っすぐ魔女槍に沿う形で、標的に向けて伸ばす。
<投擲>モーションを取る。
黒紫色の小さな唇から魔息が零れると、
「……いざ、四天魔女キサラが参ります。貴方を極楽浄土へ誘いましょう……瘴気の海の中で朽ち果てるといい……<補陀落>を喰らいなさい――」
痺れる……彼女独特の研ぎ澄まされた謳い声だ。
ロックボーカルが凄く似合いそうな<魔嘔>を披露したキサラ。
右手に握る魔女槍ダモアヌンを振るって、投げつけた。
下の怪物が放ったキンポウゲの花の防御膜に向けて直進するダモアヌンの魔槍。
その魔女槍の血濡れた八角髑髏穂先から獲物を求めるような唸り声が宙に響いた直後――。
怪物の頭上に広がった花の防御膜と魔女槍ダモアヌンが衝突。
衝突した箇所から、夜明けを告げる鐘が鳴るような音が響き渡った――。
と思ったら、爆音のような凄まじい不協和音に変化。
爆音と一緒に魔力風が一気に空に広がる。
歪な口を主体とした怪物は動じていない。
魔女槍ダモアヌンと花の防御膜の衝突した箇所から、華々しい煌びやかな閃光も発生した。
魔女槍ダモアヌンの八角髑髏の重なった血濡れた刃は、キンポウゲの花の襞を喰らうかのように花の防御層を何層もぶち抜いていく。
しかし、魔女槍はキンポウゲの花に包まれるように防御層の途中で止まった。
「え! <補陀落>を防ぐなんて――」
キサラが驚く。というか俺も驚いた。
四天魔女の強烈な<投擲>系の上位技と推測する特殊スキルを防ぐとは。
やはり、ただのロルガの尖兵じゃないな。
歪な口で構成した上半身から生えた八本腕が持つ武器類も特別だろう。
緑色の霧の足もそうだが、やはり、普通じゃない。
こいつは強敵と判断。
頭上の<導想魔手>が握る聖槍アロステは、まだ取っとくか。
すると、その怪物は八本腕を揺らす。
歪な口たちを醜く動かしながら、
「ぐふぉふぉふぁぁ」
「げふぇふぇふぇぇ」
「げふぇえふぁあ」
変質な声を響かせて、嗤い合う。
白蛾のジョディの蛾の合間にあったモノと似ていた。
さらに、
「おおいなる鳳花盾を何層も撃ち抜くとは、生意気な攻撃ぞ! 蝶の眷属めが――」
歪な大きい口が、そう喋っていた。
そして、黄土色の魔力刃を蝶の眷属と勘違いされたキサラに向けて放つ。
宙の位置のキサラは華麗な動きで、魔力刃を避けた。
<投擲>系の技が防がれて動揺しているとはいえ、ロロディーヌの触手連撃をあっさりと避けたキサラが喰らうわけがない。
そこで、ロロディーヌが奮闘している場面を見た。
新手の数は多い。
『ヘルメ、<精霊珠想>は今回はなしでいい。新手を屠っているロロ側に加勢しろ』
『は、はい』
ニュアンスが緊張した感じだったヘルメの念話。
彼女は左目から細い水の線のような状態でスパイラルしながら外に出た。
俺が血鎖の兜を装着しているから慎重になったようだ。
地下で一本槍と化した俺のことを見ていたヘルメだ。
とてつもない破壊力を知っているからな。
血鎖に触れたくはないだろう。
そして、飛翔しながら女体姿に戻ったヘルメ。
腕先を氷の繭で包む。
そのままロロディーヌの方へ飛翔を続けながら腕を揮った。
腕先の氷の繭から、人の腕の大きさの氷槍を放つ。
『器よ。妾が、外に出れないのだが?』
『血鎖鎧中だ、試しに外に出るか?』
『……フ、フンッ、う、器よ。わ、妾に恐怖を抱かせるとは……』
『少しの間だけ、封印ということで』
『……妾を封じるとは、百万年早い!』
サラテンとの念話をゼロコンマ数秒も掛けずに行っていると、
「滅スルのは、我らだ!」
「覚悟!」
大虎に騎乗している沸騎士たちが叫びながら突進していた。
歪な口で構成した上半身から八本腕が生えた怪物と間合いを詰めた騎兵の沸騎士たち。
骨剣を横から振るう――。
怪物もすれ違い際を狙う。
脇腹らしき位置から生えた三本の腕が持ち上がる。
その幅広の大剣と、沸騎士たちの骨剣が衝突した。
剣と剣から、互いを忌み嫌うような、硬質な音が響き、火花が散る。
怪物は三本の腕で握る紺色の大剣を、パンチでも繰り出すように前へと動かす――。
大剣の剣身に乗った形の沸騎士たちの骨剣は、上方へと弾かれた。
沸騎士たちはバランスを崩したが――。
すんでのところで持ちこたえていると、体勢を維持した大虎ヒュレミとアーレイが、後脚の蹴りを怪物の背中辺りへと繰り出した。
その間にキサラが宙から急降下。
しかし、怪物は背後に目があるように二つの腕が動く。
一つの腕が握るのは、歪な剣身が目立つ魔剣。
もう一つの腕が装備していたのは、歯が集合した異物な魔棍棒。
怪物は、その魔剣と魔棍棒の武器を盾代わりに、
大虎たちの、カモシカのごとく伸ばした後脚の蹴りを完全に防御。
騎乗攻撃が通用しなかった沸騎士たちは、枯草を振りまきながら矢のように走り怪物から離れて駆けていく。
歪な口で構成している怪物には眼球らしきものはない。
繊細な八腕を動かす質の高さから死角はないと判断した。
急降下したキサラ。
キンポウゲの花バリアの中心に嵌まって、朱色の閃光を発していた魔女槍の回収に成功。
その魔女槍を振るいつつ練達の深さを感じさせるような機動で上空を翔ける。
天女のような足さばきで美妙のさいたる動きを示しながら回転。
身を翻すと両手から黒数珠を生み出した。
衣装もノースリーブの巨乳を強調したような修道服にチェンジ。
その修道服の上から纏う黒く透き通った長衣も形を変えている。
飛翔しながら片手でヤゼカポスの短剣を引き抜く。
<投擲>しようか悩んでいるようだ。
すると、下の怪物が、キサラの華麗で素早い動きにイラついたように、歪な口たちを動かす。
その口からガスめいた魔力の息を発しながら、
「……蝶の眷属が、わらわらと……ごふぇふぁふぇあ」
キサラと沸騎士たちを蝶の眷属と勘違いしたようだ。
そんな歪な口の集合体の八腕を持つ怪物は、霧状の二つの足先を、亜神キゼレグと小さい亜神ゴルゴンチュラが居る方向へと差し向ける。
頭部がないから前後が分からない八腕の怪物の姿だが……。
あの霧状の二つの足先の細い方が、一応は正面といえるのか?
「……小さい亜神を潰せばすむ。この領域をロルガ様に捧げてヤル!」
プレッシャーのような魔力を周囲に放ちながら喋る怪物。
「眷属ごと消え失せろ――」
周囲の草花を腐らせていた霧状の脚が前に突き出る。
緑の爪のような指向性の高い緑霧が小さい亜神ゴルゴンチュラへと向かった――。
「ゴルゴンチュラ! <蝶銀散手・堕花網>」
亜神ゴルを庇う形で、前に出た亜神キゼレグ。
腕を掲げると分かりにくいスキル名を叫んでいた。
掲げた彼の無手の腕が、銀色の輝きを示す。
銀色の腕は散形花序を作り放射状にうねうねと動き分裂。
その銀色の腕は、僅かに残る腕を本体とした繊細な風貌の毛の群れとなった銀の花びらと化した。
周りに銀色の蝶々の群れが飛ぶ。
キゼレグに迫った緑霧とその綺麗な銀花が衝突。
その瞬間――蝶々の群れが緑霧と混ざると、緑霧は蒸発するように消失した。
凄い防御技だ。
銀花と化したキゼレグの片腕はエリジウムの銀花にも見える。
イギリスで『Miss Wilmott’s Ghost』と呼ばれることがあるようなゴーストな花だ。
「――キゼレグ、ありがと」
惚れ直したとでもいうように、女っぽいゴルゴンチュラの言葉が響く。
「我の霧を消すとは、その銀花の腕の力……蝶……亜神系の能力か!?」
「力を持つ地底の者よ。俺の名はキゼレグ。荒神大戦ではお前らのような力ある地底のモノをたらふく喰った覚えがある神の一人ぞ?」
威厳のある口調で喋るキゼレグだったが、彼の体には幾つもの亀裂が入っている。
片腕の銀剣化に加えて、反対の腕も、銀花のようなモノに変化させたからな。
それに、長いこと銀箱と化していた。
彼は力を失っているから、無理をしているのかもしれない。
「知らぬ名だ。この領域はロルガ様が貰う。消えろ――」
八腕の怪物は複数の武器を揮うと前進を開始した。
すると、その怪物の背後から沸騎士ゼメタスとアドモスが現れる。
大虎たちから飛び降りたらしい。
沸騎士たちは、八腕の怪物目掛けて大上段から骨剣を振り下ろしている。
横からシュヘリアも突進していた。
一方、アーレイとヒュレミの大虎コンビは甘えた声で鳴く。
神獣ロロディーヌが大車輪のごとく活躍している現場に向かった。
彼女たち猫軍団にとって、ロロは母だからな。
ロロディーヌも動きを止めて、母性愛を見せる。
アーレイとヒュレミの大虎を守るように、出迎えていた。
俺はその親子を思わせる行動に思わず笑った。そして、
「キゼレグ、一つ貸しだぞ」
と、イケメンさんであるキゼレグに告げる。
俺も前衛の戦いに混ざるとしよう――。
視線を八腕の怪物と戦う沸騎士たちとシュヘリアに向けた。
俺はゆっくりと歩いていく。
振り下ろしたゼメタスの骨剣とアドモスの骨剣は、三つの腕が握る大剣と衝突していた。
「――魔眼<魔靭・錦帯花>」
魔眼を発動した双剣のシュヘリアも自身の腕がぶれる速度で魔剣を振るう。
だが、魔剣とメイスによってシュヘリアのサーマリア伝承に伝わる魔剣は弾かれた。
ゼメタスとアドモスが横回転しつつ連鎖的な下段斬りを八腕の怪物の霧状の足に向ける。
しかし、歯が集合した異物な魔棍棒で打ち払われていた。
八腕の怪物は戦士としての技術がかなり高いし純粋に強い。
霧状の足といい、ヤヴァい奴か。
シュヘリアも沸騎士の動きに合わせてブランコよろしくといったように飛び掛かりながら片方の魔剣で突いてから側面に移動――。
そこから二振りの魔剣を片方ずつ上方に運ぶ。
時間差を利用するように二振りの黄色い魔剣で交互に斬り上げを狙う。
だが、
「ちょこざいな――」
と、語った歪な怪物は魔剣と魔杖を握る腕で八の字を宙に描く。
滑らかな軌道でシュヘリアの剣術と相対した。
シュヘリアが扱う二振りの魔剣の黄色い刃に黄緑色の刃を合わせる。
続けて、魔杖の柄頭を速い黄色の剣閃と衝突させた。
硬い柄頭を盾代わりに使い、刃の軌道をずらす防御剣術を繰り出していく。
怪物は、魔剣の斬り上げと斬り下げの連携斬りを確実に弾き処理した。
器用な怪物だ。
前後の動きは鈍いが、八腕の対応は速い。
表情を引き締めたシュヘリア。
元魔界騎士のプライドに刺激を受けたらしい。
双剣術の扱いにエンジンが掛かる。
「<双剣・蛇鷺拿>」
彼女の綺麗な声が響くと同時に――。
二振りの魔剣を持つ腕の肘を上下から斜めへと、ずらす。
そして、金色のポニーテールを振るうように、魔剣を払いながらのタイミングを狂わせる剣術を繰り出していく。
シュへリアはフェイントを駆使。
幾度となく蛇のような剣閃を生み出す。
続けざまに、鳥のような魔力の軌跡を宙に生み出した。
金色の閃光のような凄まじい剣術を受けた怪物は、たまらず八腕を駆使しながら受けに回っていく。
そのタイミングでシュヘリアは両腕の肘を起点とした腕の動きに切り替えた。
魔剣と魔剣を縦と斜めに構え十字架にさせつつの回転垂直斬りを敢行――。
その瞬間、魔剣の刃が交差した宙の位置から、魔力の渦が巻き起こる。
刃の軌道は違うが、俺も喰らった技だ。
その生み出した渦が弾け、うねる衝撃波を周囲に飛ばす。
同時に無数の魔刃も散る。
至近距離から鋭いナイフ群の突風が、ショットガンの弾のように怪物へと降り掛かった。
これはさすがに防げない。怪物は無数に傷を負う。
歪な口も裂け、霧状の足も鋭い魔刃と衝突し、欠けに欠けて大欠損。
形を大きく崩した。
やるな、シュヘリア。さすがは元魔界騎士。
「ぐっ、ぎゃぁぁ――」
喉の詰まった声のあと、悲鳴を出す怪物。
口が構成する上半身と下半身には痛覚があるらしい。
それら口々が無数の魔刃を喰らい、怯えて叫ぶように裂かれていった。
黄緑色の塵が無数に散る。
そこに、怪物が弱ったと判断したキサラ。
彼女が放った鴉群が怪物へと向かう――。
しかし、怪物の頭上にはキンポウゲの鳳花盾という積層型の対空防御が残っている。
その大いなる鳳花盾の魔力の花に、鴉の群れが衝突していった。
やはり鴉の群れも通用しない。
遠距離戦の相性は悪そうだ。
<導想魔手>の聖槍アロステの急襲も防がれそうだな。
すると、地上からゼメタスとアドモスが、
『接近戦ならば、我らが』
とでも語るかのように蒸気の煙を全身から燃え上がらせて突貫していく。
「<悪式・愚烈骨斬>――」
「<悪式・亜連骨突>――」
沸騎士たちは骨盾と骨剣を使い回転連撃を繰り出す。
連携武術か。
左から骨盾のシールドバッシュのゼメタス。
ゼメタスの骨盾の隙間から骨剣の連続した突きを繰り出すアドモス。
シュヘリアも強襲前衛としての役割をこなすように、沸騎士の攻撃に交ざった。
弾く切り払いの衝撃を逆利用した側転機動からの反転――。
「<悪式・蹴双武>――」
側転しながらも顔を顰めたシュヘリアがそう叫ぶと、片手で地を叩いた反動を利用。
前転に切り替えつつ、巧みな方向転換。
シュヘリアが体を捻って跳んだ先は沸騎士たちの骨盾だった。
その骨盾を踏み台にしたシュヘリア――。
前傾姿勢で防御に回った怪物に襲い掛かる。
上半身と両腕を突き出す魔剣の突技を怪物の下半身に向けて繰り出した。
が、歪な口を持つ怪物は反応。
傷を負った状態で、シュヘリアの動きに合わせた。
ゼロコンマ数秒も掛けず――。
三つ腕が握る大剣を真横に振るう。
二振りの魔剣ごとシュヘリアを吹き飛ばした。
近くの沸騎士たちをも、その大剣で牽制する怪物。
沸騎士が纏う煙が大きく揺らめき煤のように見える。
吹き飛んだ勢いを利用する形のバク転を繰り返して後退したシュヘリア。
動きを止めると、振り向こうとするが、よろめいた。
スタミナを消費したのか? 片膝を地に突けて肩で息をしていた。
というか顔が青白い。あ、緑の血を吐く。
毒を喰らっていたのか。
だが、シュヘリアはルシヴァルの眷属だ。
回復が遅いとはいえ、みるみるうちに元の顔色を取り戻していく。
しかし、一時とはいえ毒に苦しむ様子を見ると……。
何にも感じていない沸騎士はやはり強い。
まぁ、頭蓋骨と重厚な鎧だからな。
そして、自らも黒と赤の異質な蒸気を発して纏っているし、当たり前か。
さすがは闇の獄骨騎なだけはある。
ヘルメが側に居たらインペリアルとか言ってそう。
「素晴らしい連携です……しかし、あの金髪の方は大丈夫でしょうか」
間合いを取った前衛組だったが、今の連携した攻撃を見ていたジョディが呟く。
「シュウヤーーーーいけーー」
さらにずっと後方の位置から、レベッカの甲高い大声が耳朶を震わせる。
その間にも、紺色の模様が綺麗な大剣を三本の腕に持って振るう怪物。
霧状の足の前進は止まらない。
形を崩していた足は元に戻っている。
「お前たち、今の俺に近づくな! そのまま退いてロロディーヌたちの戦いに参加しろ――」
俺はテラー効果がありそうな叫び声の指示を出した直後――。
<血液加速>を発動。
続いて、<導想魔手>の聖槍アロステを急降下させた。
聖槍アロステの十字矛が幾重にも重なるキンポウゲの鳳花の盾と衝突。
烈火のごとく火花が散る。
層を幾つか、ぶち抜いたが……やはり、ダモアヌンの魔槍と同じく途中で止まった。
キンポウゲの鳳花の襞が十字矛を包む形。
近距離から仕留めるしかなさそうだ。
怪物は毒を持つ足があるし、口から吐く息が臭そうだが……仕方ない。
沸騎士たちとシュヘリアの前衛強襲組と交代するような形で怪物に向かった。
――血の踏み込みの軌跡を残す。
八腕を持つ怪物との間合いを瞬時に詰めた。
槍圏内に入った直後――。
怪物の霧状の二つの奇妙な足が地に溶けているのを視界に捉えた。
さらに、とてつもない腐臭が鼻孔を刺激――。
ぐあぁと悲鳴を上げたくなるほどの、喉が焼けるような感覚を味わう。
血鎖鎧とて匂いは防げない。
思わず「臭い――」と叫びながら左足で踏み込む。
右腕を捻り出すように、右腕が握る魔槍杖を怪物目掛けて押し出した。
嵐を纏うような矛の<刺突>が螺旋回転しつつ怪物へと直進。
しかし、怪物は三つ腕が握る大剣を振り戻して対応。
紺色の剣身が嵐雲の矛の<刺突>と衝突――。
その衝突した箇所から狂焔染みた火柱が四方へ飛び散る。
魔槍杖の嵐雲の矛の<刺突>は下方へと、ずらされる形となった。
そこに左上と右下から魔剣とメイスによる攻撃が身に迫る。
俺は構わず血鎖鎧を操作し<血鎖の饗宴>を意識。
両肩付近の厳つい血鎖の肩防具の先から専用の血鎖を伸ばして対処――。
肩口から突出した二つの血鎖は螺旋した血の蛇のように見える。
血蛇に触れた横から迫った魔剣とメイスの部位は、一瞬で溶けた。
溶けた金属は血鎖の蛇が喰らい尽くす――。
残りカスは、血の蝶と化して舞うように消失した。
「な、なんだ――」
警戒した化け物は残りの武器を防御に回しながら退く。
「……我の武器ヲ溶かす血の鎧だと!? 魔界騎士か……」
臭い息を浴びた俺は鼻をつまみたくなる思いを我慢。
引き戻した右手が握る魔槍杖に魔力を込める。
魔槍杖バルドークと一体化したように魔力と精神が繋がった。
紫金属の柄を握る手の内から肉が食い込むような感覚を受ける。
ま、怪物には怪物で対応だ……。
そして、その引き戻した右手の指に装着したままの紅玉環の飾りを見た。
一対の小さい翼を見て、アドゥムブラリの力を思い出す。
魔大竜ザイムの炎だったか。
あの炎を纏った状態で殴ってもな。八腕の唇お化けに試す技じゃない。
忘れなきゃ今度、<武装魔霊・紅玉環>を使うとしよう。
今は……俺の魔力と一体化した魔槍杖バルドークを使う。
鼓動する魔槍杖。
右腕ごと右半身が侵食を受けたように魔力嵐が吹き荒れた。
血鎖鎧を身に纏っているだけに、周りからは、異様な槍使いの姿に見えるはずだ。
鐘の音が脳内に響くと同時に、
『喰エ、喰エ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星……』
と、かすれて聞き取りづらいが、どこかで聞いた念話が響く。
さらに土耳古玉のような夏を感じさせる魔力風が――。
魔槍杖と血鎖鎧の内部の、俺自身の体から吹いたような気がした。
すると、血鎖鎧の胸元が光十字の形に変化した。
血鎖の表面が光を帯び始める。
同時に右腕の肘頭に生えている小さい肉芽が蠢く。
第三の腕予定だったイモリザだ。
たぶん、俺の<光の授印>に、彼女と同居しているツアンの精神が反応したんだろう。
その直後――。
鼓動を感じる魔槍杖バルドークが光り輝く血鎖鎧へと反旗を翻すように異質な禍々しい魔力を噴出させる。
さらには、その魔槍杖の穂先も別の反応を示す。
バルドークが放った異質な魔力を嘲笑うかのように、嵐雲状の表面の刃紋に髑髏模様が浮かんでは、その髑髏たちは、どくどくと鼓動音を響かせつつカラカラと嗤った。
それは相反した魔力のせめぎ合いを望んでいるかのような嗤い。
腰が、ゾクゾクする感覚を味わう。
闇遊の姫魔鬼メファーラか?
「今度は何だ? 凶悪なルグナドの加護を持つ魔鎧かと思いきや、光神ルロディスの強き威光を感じる……神魔の騎士とでもいうのか? 何者だ……」
神魔か。光魔ルシヴァルだから近いかもしれない。
「見た目は怪しいが、槍使いだ」
「……ふざけるナ……武器ヲ溶かす槍使いがどこにいル!」
「ここにいるじゃないか」
両手を開くジェスチャーを取る。
その瞬間、ビクッと反応して怪物は退いた。
「……だいだい、その異質な魔力を纏う魔槍は何だ……絶巓から螺旋しながら続く紅色の斧刃の表面に浮かぶ嗤ったようナ、髑髏模様の魔力……」
距離を取った怪物は俺を分析しているようだ。
しかし……臭い。
口の多さが相まって、息で人を殺せるぐらいに濃厚な臭い息が漂ってくる……。
これは完全に毒だ……あぁ、だからロロは避けたんだな。
俺は血鎖鎧で大正解だったのかも。
しかし、この八本の腕を持つ怪物は視界を持つのか?
俺の姿が見えているようだ。
「なぁ……唇と唇の間に黄緑と緑の皮膚しかないお前の何処に眼球があるんだ?」
「ここにあるゾ。蝶族の一つアーグロンド族のな!」
八本腕の一つが持っていた歪な魔杖の後端に備わっていた血濡れた眼球を見せてきた。
……へぇ、あの眼球で見てたのか。
眼球の表面から小さい降魔印の印相が浮かんでいる。
どこかで見たな。
牛顔を思い出しつつ、腰を落とし右手を引く。
<刺突>のモーションを取りながら、その眼球を睨んだ。
ゆったりと肘を少し曲げた左手を怪物に差し向けた。
さて、これ以上……歪な口たちに臭い息を吐かせるつもりはない。
<血鎖の饗宴>を意識。
「そうか、それじゃ、そろそろ終わりだ――」
真っすぐ怪物へと向けていた左手を覆う血鎖の籠手を崩す。
その左手から数本の血鎖を怪物目掛けて伸ばした――。
怪物は八本の腕を動かそうと僅かに反応を示す。
だが、魔槍杖に気を取られていたようで、反応は遅い。
八本の怪物の左わき腹と推測できる位置と霧状の片足を血鎖が貫いた。
「ぐぁぁ――」
そのまま八本腕の口の怪物が逃げないように血鎖で固定。
そのタイミングで<紅蓮嵐穿>を発動――。
左手に血鎖を引き込み収斂――。
その血鎖を消去しながら身体速度を加速させる。
そして、魔槍杖を握る右手を捻り丹田から魔力を爆発させながら怪物との間合いを次元速度で詰めた。
血の嵐雲が螺旋した魔槍杖バルドークが唸り声を上げながら直進――。
八腕の怪物が盾代わりにした大剣と嵐雲の矛が衝突――。
紅色の嵐雲の矛は、『つまらん敵だ』とでも語るように、紺色の剣身を粉砕し、破壊。
そのまま歪な口の集合体の怪物を魔槍杖バルドークが貫いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ」
沸騰したやかんまがいの悲鳴が轟く。
嵐雲の魔力から血煙の魔力を纏う顎を広げた魔竜王の頭部が出現。
さらに魔竜王の顎の中から、凶悪な顔貌と乱杭牙を持つ虎邪神の頭部が出現。
虎邪神の頭部は魔竜王の顎を喰らう。
その虎邪神の背後から見たことのない身の毛もよだつ魍魎が出現。
虎邪神を魍魎が喰らっていく――。
無数の魑魅魍魎の幻影が互いに混ざり合いながら凄まじい魔力嵐を起こす。
魔力嵐は八腕の怪物の霧の足ごとすべてを飲み込むように喰らい合った。
口で構成した八本の腕も――。
歪な口の集合体の胴体も――。
武具たちも――。
緑色の霧状の片足も――。
瞬時にすべてが――宙に舞いながら粉砕、塵と化す。
塵は、元素の海に帰るような凄まじい魔力渦となって魔槍杖バルドークの中へとゼロコンマ数秒も経てずに収束する。
その瞬間、魔槍杖バルドークから紫の魔力を纏った朱色の閃光がぱっと上がった。
八腕の怪物は塵も残さず、消失。
余韻を払うように満足そうな光を発した魔槍杖を振るってから右手から消した。
すると、見ていたシュヘリアと沸騎士たちから歓声が上がる。
亜神の夫婦は完全に沈黙した。
<紅蓮嵐穿>は強烈だからな。
ジョディの声も聞こえた。
遠くからレベッカとエヴァの声も遅れて響いてくる。
<血液加速>と血鎖鎧を同時に解除。
血が一気に引くのを身に感じながらスッパマン状態となった。
同時に聖槍アロステを離してから<導想魔手>を消去。
落ちてきた聖槍アロステを右手で掴む。フルチンだが、ポーズは取らない。
すると、
「……シュウヤ様。お胸の十字も光ってますが、あそこも光って立派です……」
急降下していたキサラが、俺の股間を凝視しながら、そんなことを語る。
その問いには笑みを浮かべたが、答えない。
肩にハルホンクを生み出し、暗緑色の布防護服を瞬時に展開した。
七分袖の銀の枝模様が綺麗な防具服を身に纏う。
腰には専用のベルトを装着。
そのベルトには鋼の柄巻のムラサメブレードが納まる。
紐にぶら下げていた〝魔軍夜行ノ槍業〟もちゃんとあった。
喰わずにちゃんと格納したらしい。
さすがは神話級のハルホンク。
すると、血文字で、
『臭そうなのを倒したのね! ここからでも見えたけど、魔槍杖バルドークの技が凄まじい竜巻を起こしてたわよ!』
『ん、シェイルもシュウヤが戦っていることは分かったみたい。一生懸命に叫んでいた。でも、ちんちんは出しちゃだめ!』
レベッカとエヴァにそれぞれ血文字でメッセージを返してから、俺はヘルメとロロディーヌたちが活躍している現場に向かう。
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