四百五話 魔界騎士シュへリアとの戦い
2020/12/23 23:52 修正
2020/12/27 9:00 修正
2021/01/04 23:39 修正
2022/06/24 18:13 修正
挑戦だと思ったが、最初は簡単な文字にしておこう。
そして、エヴァにどんな文字がいいか聞こうと思ったが……。
やはり自分で決める。
好し――指輪へと魔力を注ぐ。
すると、指輪の両側を縁取る一対の翼がバタバタと羽ばたいた。
指輪の表面が風船的に丸く膨らんだ。
アドゥムブラリの単眼球だ。
すると、その丸いアドゥムブラリの全身から炎が噴出。
驚いた。が、熱くない?
俺の顔を掠めた紅色の炎は、指輪から俺の指の皮膚を伝い右の拳を包み込む。
同時に魔力が少し上がったような気が……。
「ん、ブラブラのお目目が炎の目玉になった! かっこいい」
エヴァが驚く。
『閣下、幻影ではなく実際の、魔力の炎ですか?』
『そのようだ』
小型ヘルメが宙を泳ぎながら指摘してくる。
「ブラブラって、アドゥムブラリのことよね?」
「ん、アドだと沸騎士のアドモスとかぶるから、ブラブラに名前を変えた」
「ふふ、いいかも。ぶらぶら」
「ん、ぶらぶら」
二人はぶらぶらと言い合い笑っていた。
漢の大事な部分を思い出す……。
「でも、ぶらぶらの炎、内から外にかけてのグラデーションがとても綺麗ね……」
「シュウヤ様の腕は大丈夫なのですか?」
「確かに……拳が燃えているように見えるけど」
燃えている拳を見せながら、
「平気だ。蒼炎の継承者よ、おぬしの専売特許はこれでなくなったと思え……」
俺のボケの言葉は、無視された。
その燃えているアドゥムブラリはさらにボケをかますように、
「フハハッ、俺の心はいつも燃えている! コスモが熱く滾っているのだ!」
と、早口で喋っていた。
「ん、額の文字も輝いている」
エヴァは紫色の瞳を輝かせて興奮。
ぶらぶらが壺に嵌まったか?
「指輪から肉質の目玉の怪物とは……口も奇妙です。早く動いている……」
「リアルですね。十二名家の魔術師の中で、似たような怪物を使役している人を思い出しました……」
「間月泰斗……」
苦虫を食ったような表情を浮かべたサナさん。異世界日本に、間月泰斗? って魔術師がいたようだ。
ヒナさんはそうでもないが、拙い話題を振ったというように肩を落とす。
「……レベッカさんの蒼炎の質とは違うようですが、近接戦闘の武器に使えそうです」
キサラが細い指先で炎を触ろうとする。
だから「止めておけ」と注意して止めた。
俺の手が燃えている大本のアドゥムブラリが、
「――フハハハハッ! 主よ、俺の能力の一部を使えたようだな? いいセンスだ。誉めてやろう! この炎はアムシャビスの炎と似ているが違う。俺の領域に棲んでいた魔大竜ザイムが纏っていた魔炎だ。そして、ただ主の拳に炎を纏わせるだけではない! 敏捷と魔力を増やす効果もあるのだァァ。そして、今は紅色だが、闇の炎にもなるのだ!」
アドゥムブラリは自信満々に語る。
額にAと刻んでみたが。
それだけでこれほどの効果が……。
そして、語尾の演歌を歌うようなエコーが癇にさわるが、やるじゃないかアドゥムブラリ。
すると、左手の掌が疼く。
『笑い声がうるさいが……器を強化するとは使える奴。しかーし、生意気だ。拳の武具とは妾のような武器にも変身を遂げる気ではないだろうな?』
サラテンが念話を飛ばしてきた。
珍しく褒めたが、警戒しているだけか。
武器なら出番が少なくなると警戒しているらしい。
そんな念話には答えず、
「……さすがはアドゥムブラリ。A、もとい、魔侯爵の名は伊達じゃないな」
「主ィィーー! 嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか!」
涙ではなくて、口から小さい炎を吐き出すAなアドゥムブラリ。
「で、今はどんな感じだ?」
「額と背中が少しムズムズする」
額は言わずもがな、背中の翼の形が変化していた。
「翼の形が変化している」
「独自の武具や防具への変化はまだ無理か」
「成長はこれからだろ。で、能力の一部を解放したアドゥムブラリよ。呼び出したのには理由がある。この魔界騎士シュヘリアを紹介しておこう」
「魔界騎士だとぅ! 金髪の姉ちゃんか。綺麗な金色の瞳に……ん、ほぅ……その腰にぶら下がる魔剣が納まる鞘の質からして相当な魔剣と見た。それに腕の魔道具……魔鎧も……本当に魔界騎士のようだな。どこの配下だ」
「単眼の球体がしゃべっている……」
シュヘリアは指輪と繋がった球体生物アドゥムブラリを凝視。
「主君は魔蛾王ゼバル様だ……しかし、貴重なアイテムの〝魔次元の紐〟の魔力が途切れた。有職故実にうるさい方だ。わたしは放免。馘首は確実。だからもうわたしは魔界騎士ではない。ただセラの地上を放浪する戦士シュヘリアといえるか」
そう喋りながら、金色の瞳を俺に向けてきた。
刺すような鋭さがある。
が、どことなく、烈しさがある瞳。
獰猛な雌猫に狙われた気分となった。
「ゼバルとやらは聞いたことがないが、随分な主だなァ? 新興勢力か? そして、その蛾といえば、だ……ギンセルの偽善魔王が治める堅固な魔城塞ギンセルで、蛾の名前を聞いたことがある」
蛾の魔族か。
「ギンセル……」
「そうだ。〝蛾狼セイコン〟。大市場の催しの奴隷闘技大会で有名だった」
魔界での奴隷闘技大会か。
シュヘリアは眉を寄せてから、思い出したような面を浮かべた。
「思い出したぞ。ギンセルの偽善魔王。淫魔の王女ディペリルの姦計に陥り、数百年前に大市場ごと乗っ取られた笑い者の魔王か。その蛾狼セイコンとやらも、所詮は戦奴隷なのだろう? 知らないな」
と、発言するシュヘリアを睨むアドゥムブラリ。
「地を這う群れを倒しきった蛾狼セイコンを知らないとは……当時の闘技場の戦いは面白かったんだぞォ!」
そう喋るアドゥムブラリは早口だ。
背中の一対のミニ翼をバタバタと動かしながらの喋りだから、楽しそうではあるが……。
「知らないものは知らない」
「ふん。幻魔ライゼンと反逆の傀儡使いグンナリも知らないのか?」
「グンナリは聞いたことがある。グルカンヌ大亀裂地帯での争いだったか」
グルカンヌって名は沸騎士から聞いた覚えがある。
魔界にも色々な地がある。
「そうだ」
「その戦いの最中、罠を好む魔界アリゾン公を裏切った不届き者。傀儡兵を使い、かつての同僚だった魔界騎士ハブソールに背中から大剣を突き刺したと聞く」
「強さは本物だった。傀儡と連動した動きは闘技場を盛り上げていたからな」
「ハッ、それが今や戦奴隷とはな。魔界騎士らしくない者が落ちる先に相応しい」
シュヘリアの怒りと嘲笑を滲ませた言い方だ。魔界騎士には魔界騎士なりの騎士道があるのか?
アドゥムブラリは気にせず、
「……しかし、セラに派遣できるほどの人材を持つ魔蛾王ゼバル。魔界でかなりの領域を確保していそうだな」
「一つの傷場を巡る戦争で勝利を収めたからな。それにしても早口だ……そして、額に文字が刻まれている……」
アドゥムブラリの額に刻んだA。
面白い。
「フハハッ、これか。痺れるだろう? 主が刻んでくれた印なのである! しかもだ、魔大竜ザイムの魔炎の能力を一部とは引き出すことに成功した!」
「魔大竜、地獄火山デス・ロウ付近の山脈には、使役が不可能な巨大竜が棲む。と、聞いたことがあるが……」
魔竜王のような竜族かな。
シュヘリアはそんな魔大竜ザイムのことを知っていた。
サジハリのような高・古代竜が、魔界セブドラにもいるのだろうか。
興味が出たから、
「魔大竜か、強そう。そんな竜が棲む山があるんだな。高・古代竜とは違うのか?」
と、聞いた。
アドゥムブラリは、
「違う種だが、似ている魔竜族はいる」
高・古代竜のような存在ではないらしい。
「その地獄火山デス・ロウには、どんな魔界の神が棲むんだ?」
「地獄火山デス・ロウと繋がる無限地獄の山々は、憤怒のゼア様の大領域とも繋がる」
「へぇ、そのふんどしのゼアとかいう、いや、憤怒のゼアという存在の眷属たちも、また違う神々のような存在が率いる眷属たちと争っているのかな」
と、冗談を交ぜると、アドゥムブラリは不機嫌そうに単眼球の形を歪ませてから、
「当たり前だ。遠くには破壊の王ラシーンズ・レビオダ様と憤怒のゼア様の衝突した影響で、大地の一部が破壊されて次元の闇渦が露出した場所もある……そこは、昔、俺が魔侯爵だった時の領域に近い場所だったんだ。幼馴染が……」
アドゥムブラリの幼馴染は死んだのか。
「……そりゃ災難だったな」
「あぁ……」
「槍使いは魔界のことを知らないのだな」
シュヘリアが呟くように発言。
「知らん」
「わたしも知らない」
「ん、わたしも初耳」
「大砂漠以外の土地の名は、あまり知りません」
皆もそう発言していた。
「主、地獄火山デス・ロウの近辺なら、ある程度、知っているぞ」
「おう。いつか役に立つといいが、魔界も魔界で広そうだしな。で、この拳を覆う魔大竜ザイムの炎だが、その魔大竜と因縁でもあったのか?」
「あった。腐れ縁だ。地獄火山デス・ロウの空を巡り争った仲でな。その魔大竜ザイムと契約をしたことがあったのだ!」
自慢気に語るアドゥムブラリ。
「衣服を着たただの球体にしか見えない。が、魔大竜と契約とは、魔力を相当量持っていた証。見た目からして、悪神デサロビアの眷属だったのか?」
「フザケンナヨ? 嘗ては、空の支配者アムシャビス族だったんだ! そして、栄華を誇った魔侯爵の一人だったのだぞ」
「それは驚きだ。その姿からは想像がつかない。固有魔法のアムシャビスの紅光は〝魔界絶景六六六〟が一つ。メリアディ様もお気に入りだったと聞く」
「驚くのも無理はない。しかーし、今は主専用のアドゥムブラリである! そして魔界の女神の一人……魔命を司るメリアディ様は……俺様が恋した女神様……」
恋とか。
ペルネーテの二十階層の空に住むスークに会わせたらどんな反応をするだろう。
そして、メリアディといえば……。
『閣下、メリアディが産み落とした神の子、ルビアですね』
『そうだ。プレゼントした古竜バルドークの長剣はまだ現役かな。そして、無詠唱の回復魔法は貴重。邪界と繋がる迷宮都市ペルネーテの迷宮へと潜る度に、ルビアは貴重な経験を積んでいくはずだ』
『はい。メリアディの王女と成りえるルビア。彼女が抱く負の感情をメリアディは喜んで食べているはず』
メリアディの王女か。
メリアディはルビアの成長を兼ねて、邪神の使徒でも狩ろうとしているのかな。
『……ザガ&ボンも元気にしているといいが』
『閣下の魔槍杖が進化したことを知れば、興味を抱くかもしれません』
『この嵐雲、嵐を纏ったような紅斧刃の曲線を描く螺旋形の刃を見たら、ザガは驚き、ボンも『エンチャント!』を連発しそうだ』
『はい』
「……そういうことで、アド。今は指輪に戻ってもらう」
「え、これで? は、はえぇ!」
一瞬で、指輪に吸い込まれていくアドゥムブラリの単眼球。
「早口で意味が分からなかったけど……消えちゃった」
「単眼と変な口でしたが、着ている衣装は似合っていました。小さい翼も可愛いのが印象的です……」
「ヒナ、目がギラついてる……」
「ふふふ、コミカルですからね。グッズ化したら欲しい……」
「ふふ、おかしなヒナ。でも、この世界でそれは期待できないかも。家は現代風だけど、時代がね……」
「時代ですか……はい。真新しい家は現代風ですが、古い家屋は、中世から近代建築のイメージを持ちました」
「うん、まだ一つの村を見ただけだから、なんともいえないけど」
と、サナさん&ヒナさんは会話を続けていく。
「それでシュヘリア。今後はどうする?」
「今後だと? 自由にするつもりなのか? わたしを手籠めにはしてくれないのか?」
手籠めか。美人だし、正直そそるが……。
冗談を本気に取ったようだな。
ここらで本気の交渉だ……。
相手は魔界騎士。失礼がないよう真面目に誘う。
といっても、正直にすべてを晒し誘うだけだが。
「自由か。それもまた一つの道……しかし、今は正直に話そう。この村の防衛戦力として、シュヘリアの力が欲しい」
「わたしの力を……」
「そうだ。俺の名は既に知っている通りシュウヤ・カガリだ。そして、種族は人族じゃない。光魔ルシヴァルという種族だ」
「ルシヴァル? 聞いたことがない。見た目通り人族の亜種なのか?」
「基本は吸血。血を好む。ヴァンパイア系の流れを汲むヴァンパイアハーフ。ま、亜種か新種か。<筆頭従者長>や<従者長>という眷属を作れる。<大真祖の宗系譜者>と<ルシヴァルの紋章樹>を持つ者だ……で、俺の配下となってくれるか?」
シュヘリアは俺の言葉を聞いた瞬間――体をビクッと震わせる。
視線を泳がせながら、
「……眷属の長……陛下に当たる存……から直接とは……」
小声でぶつぶつと呟くシュヘリアは俺の双眸を見直すように再び凝視してきた。彼女の金色の瞳が情熱的に輝く。
「……ムグも失い主君からも捨てられた身の上。今となっては、加わるしかない。この地で放浪したとしても、先が見えているからな……」
シュヘリアはそう喋る途中で、目から涙を流しつつ視線をまた逸らす。
目尻の切れが深い。
すると、涙を散らすような勢いで、金色の瞳を寄越し、
「――だがしかし! 配下になるにしても、条件がある」
「条件? 捕虜なのに図々しい」
「確かに、生意気です」
「ん、魔界騎士の流儀?」
『ふふ』
左目に棲む一名を除き、皆、不満そうな声を漏らす。
「その条件とはなんだ?」
そう問うと、シュヘリアはエヴァ、レベッカ、キサラ、虚ろな表情のシェイルへと、視線を巡らせた。
そして、最後にサナさん&ヒナさんを見つめる。
突然魔界騎士から視線を受けたサナさん&ヒナさんの二人は、
「え?」
「なんで?」
から、
「逃げたほうがいい?」
「……怖いですね」
「又兵衛を出したほうがいいの?」
サナさんは管狐マークが綺麗な腕輪を触る。
「それはどうでしょうか……」
小声でヒソヒソと会話を続けた。
シュヘリアは日本語に興味を持っただけかな。
そのシュヘリアは顔を上げる。
一階の広間にある柱と吹き抜けに母屋と梁がある。
家の根幹の重なった木組み機構はスケルトン風味だ。
シュヘリアにとってロフトのような作りの二階は珍しいんだろう。
その見上げていたシュヘリアが、俺に視線を戻し、
「……簡単だ。わたしと戦え」
「内装を見ている間がなんとも不思議だったが……戦いか。いいぞ。表にいこうか」
内装が気に入ったのか?
分からないが、実に魔界騎士らしい言葉だ。
◇◇◇◇
サナさん&ヒナさんを家に残す。
左目に宿るヘルメを外に出してから、目の前にある訓練場にやってきた。
俺の家と訓練場があるここは、サイデイル村の高台だから見晴らしがいい。
ブーンという蜂の音も響く。
「シュヘリア! 閣下に挑戦するとはいい度胸です。ですが、良い人材なのは確か。だから、閣下、彼女を殺さないように気を付けてください!」
訓練場を囲う柵の上に座っているヘルメの言葉だ。
足を組んで衣装の隙間から紺色のパンティを覗かせている。
悩ましいスタイルだ。
そして、スプリンクラーのような水飛沫を周囲へ撒いていた。
シェイルを連れたエヴァとレベッカも側にいる。
エヴァは柵の上に手を当てながら、<念動力>を使っていた。
ヘルメの水飛沫を傘の形をした紫色の魔力が防いでいる。
ムーとオークたちも一緒だ。
すると、
「この異常に太い幹の樹木はいったい……何だ? 中央に手形があるうえに、白い巨大な花も咲いている……」
シュヘリアはイグルードの樹木を不思議そうに眺めながら語っていた。
「それはイグルードだ。元は邪霊槍だった。といっても……信じられないか」
「これが槍だっただと? 魔界のような場所なのか、ここは……」
シュヘリアは声を震わせて驚く。
その間に、ポケットの中へとゴルの卵型宝石を仕舞った。
半袖の暗緑色の防護服のポケットにはレーレバの笛も入っている。
そして、
「一服するが、いいか?」
そうシュヘリアに尋ねた。
シュヘリアは俺を見ずに、
「健康に気を使う? まぁ好きにしろ」
と、発言。
イグルードを見ている。
気にせず魔煙草を口に咥えて火をつけた。
「主と魔界騎士の戦いか」
「あの魔界騎士の姿は人族と似ているが……」
柵の外側から俺たちを見学しているクエマとソロボの言葉だ。
たしかにシュヘリアの見た目はエルフや人族に近い。
エピジェネティクス的に人族の遺伝子が強く作用しているのかもしれない。
俺は、そのシュヘリアから――。
皆がいる方向へ視線を向けた。
すると、キサラが、
「オークたち、ムーちゃんの訓練は順調なようですね」
と、オークたちに話しかけていた。
オークたちは言葉が理解できない。
胸元に手を置くポーズを取って頷くだけだ。
その代わりにムーが動く。
ムーは片手と片足から伸びた糸を使う。
最近の槍の先生でもあるクエマとコミュニケーションを取ろうとしていた。
一生懸命だ、可愛い。
「ん、片手と片足の糸。不思議な魔法書とも繋がっている」
「ムーちゃん。さり気なく、その糸でできた魔法書を使っているけどさ、とんでもないお宝なんじゃ?」
エヴァとレベッカがそう語った。
続けて、オークたちは
<筆頭従者長>たちに挨拶。
当然、皆はオーク語が理解できない。
そんな中、レベッカは、そのオーク語の真似を始めた。
片言のオーク語をオウム返しのように喋りまくる。
変な発音を繰り返すレベッカに、キサラは笑っていた。
エヴァは「ん、オーク語難しい」とレベッカの声を真似している。
ムーも言葉を漏らすように、息を吐いて腹を抱えて笑う。
皆、笑顔を振りまいていた。
楽し気だ。
クエマとソロボは、
「オーク語を学ぼうとしてくれている」
と語りながら、ソロボが気合を入れて、同じ言葉を連呼していた。
俺はソロボの筋肉を無駄にアピールする姿勢に笑いながら魔煙草の煙を吹いた。
……魔力が心地いい。
と、そこで、シュへリアに視線を向ける。
彼女はまだイグルードの樹木を見ていた。
イグルードから生えた花は綺麗だ。
ディープトーン系の深緑色と翡翠色のコントラストが非常に美しい。
白い花も目立つ。
そんな美しい樹木の周りを、蜂を纏った幽霊のラシュさんが飛んでいる。
透けたラシュさんか。
蒼い空に透けている。
幽霊に陽が当たると、目映く輝いたが気のせいか、雲の隙間から漏れる日差しが綺麗だ。
雲の形が空に浮かぶ神殿のように見えて、芸術的だった。
神界の神々たちが雲として飛翔してくるようにも見えた。
そんな神々に向かって……。
紫色の変な煙が……。
あれは黒光りしたロターゼの放屁。
せっかくの景観が……。
が、まぁ、闇鯨ロターゼも普通じゃないからな……。
闇鯨ロターゼは存在感がある。
現実なら未確認飛行物体だ。
『ゴジラ』のような扱いを受けることは確実だろう。
しかし、黒猫がまだ帰ってこない。
黄黒猫と白黒猫を連れて子供たちと遊んでいるのか。それともキッシュたちと一緒か、トン爺の家で摘まみ食いか。
そんなことを考えながら魔煙草を吸い続けて、煙を吹いていった。
再び、カジュマルの根のようなイグルードの樹木を見る。
「ぷゆ?」
そこには、ぷゆゆがいた。
イグルードから斜め上へと伸びた枝に小さい足をぶら下げて、座っている。
ブーンと音を鳴らす蜂を見ていたようだ。
いや、蜂を纏っているようにも見えるラシュさんを追いかけている?
「ぷゆゆ、戦いに混ざるなよ?」
「ぷゆゆ!」
納得したようだ。
短い首を数回縦に動かし、頷く。
本当に理解しているのか?
不安だが、ま、邪魔はしないだろう。
魔界騎士シュヘリアは俺を見つめてくる。
「こんなことにこれを使うことになるとはな……」
そう呟いたシュヘリア。
切れ長の目をさらに細めつつ籠手防具の中に編む形で埋め込んであった長紐を引き千切った。
そして、肩まである金髪を慣れた手つきで、千切った長紐を使い整える。
ポニーテールの髪型にチェンジ。
笑みを湛えているが、女騎士らしい凛々しさを感じる。
そのシュヘリアに、
「武器はどうする?」
「ふっ、得意な物でいい――」
シュヘリアは腰元に差してあった双剣の柄に手を当てると、両手を交差するように素早く魔剣を引き抜く。黄色の魔剣の切っ先が怪しく煌めいた。
そして、凄まじい速度で魔剣を振るう。
それは細い両手首の中にエンジンでも宿っているかのような凄まじい速度。
宙へと円から五の文字を描くようにジグザグと右に左に魔剣を動かし続ける。
そして、腰を僅かに落とし構えた。
――微かな金属音を響かせながら切っ先を俺に差し向けてくる。
隙のない身ごなし……黄色の魔剣か。
その黄色い剣身の表面から墨色の文様のような魔力の文字が浮き上がっていく。
「……最初から戦うことが目的だったのだろう?」
シュヘリアは嬉しそうに話す。
「そうとも言える――」
俺も魔槍杖を召喚した。
右手に召喚した魔槍杖バルドークの柄を、掌の上でペンでも転がすように動かす。
同時に、左足を一歩前へと出した。
シュヘリアを視界に捉えながら体を半身にずらす。
と、魔槍杖バルドークと俺の動きを確認するように金色の瞳を上下させている。
俺は回転させた魔槍杖バルドークの柄を右腕と脇で抱えるように止めた。
そのまま新しい紅矛と紅斧刃をシュヘリアに差し向けた。
少し遅れて左手もゆったりと上げた。
手の内をシュヘリアに晒す。
これは風槍流基本の型の一つ。
ゆっくりとした風槍流の歩法『風読み』の一歩前の基礎技術だ。
……さぁて、魔界騎士との一対一。
気合を入れて挨拶しようか――。
回転させた魔槍杖バルドークの柄を水平に両手で持ち、目の前で抱拳。
そして、
「シュヘリア。槍使いシュウヤだ。よろしく頼む――」
と、頭を下げた。
シュヘリアも頭を下げてから、勢いよく頭を上げると、
「――ふっ、ますます気に入った!」
叫ぶと、片頬を上げニヤリとした。
「槍使い。いざ勝負! 魔双剣シュヘリアが参る!」
シュヘリアは魔剣を交差させると前進――。
魔剣の刃が交差した宙空に魔力の渦が発生した。
シュヘリアの足下の地面からも土煙が舞う。
魔力の渦は魔槍杖バルドークが繰り出した嵐とは違う。
が、似たような技かもしれない――。
――<魔闘術>系統も巧みで魔闘脚の技術も高い。
魔剣の扱いは居合の技術か?
シュヘリアが扱う右から左へと扇状の剣線を描く魔剣の刃を見ながら、ユイの魔刀を扱う技術を思い出す。
<魔闘術>を纏う。
――血魔力<血道第三・開門>。
<血液加速>を発動――。
――後退。
魔剣の刃を避けた。
が、その魔剣から波のような魔力の渦が弾け飛ぶや無数の魔刃が発生してきた。
ハルホンクの防護服を突き抜けて、上半身に大きな傷を負う。
無数の魔刃が体に突き刺さり、血飛沫が舞った。
いてぇ――近距離からショットガンのような刃かよ――。
シュヘリアは攻撃を緩めず――右手に握る魔剣の薙ぎが左から脇腹に迫った
俺は魔槍杖の柄を下方に傾ける。
竜魔石で地面を突いて――魔剣の薙ぎを受ける動作を取りつつ――。
が、実際は違う――俺は屈んだ。
そのままシュヘリアの足を掬ってやろうと水面蹴りを繰り出した。
しかし、シュヘリアは蹴りに対応。
僅かに跳躍。
俺の地面を這う蹴りをあっさりと避けると――いや、避けていない。
側転機動の蹴り技が俺の頭に――。
左手に移していた魔槍杖を急遽、持ち上げた。嵐を纏う形となった紅斧刃で、連続の蹴りを受け持った――。
ドッと鈍い音。
蹴りは重い――。
アキレス師匠の蹴り技を思い出す強烈な蹴り。ドッドッとまた蹴りを受けた。
魔槍杖から振動と同時に鈍い音が響く。
蹴りの風圧で前髪が揺れる。
シュヘリアのブーツは特別製か。
――肩の竜頭金属甲を意識。
暗緑色の半袖防護服をいつもの右腕が露出する長袖外套タイプに変更した。
「――魔人武術・<悪式>系?」
蹴り終わりの所作も隙がないシュヘリア。聞いたことのない武術名かスキル名を訊いてきた。
「いや、風槍流が基礎だ――」
そう発言しつつ――。
『焔式』の師匠譲りの槍突モーションを取った。
美しい残身を<刺突>で突く――。
俺も成長したと自負できる速度を生かした基本の一撃。
螺旋した紅矛と紅斧刃が、シュヘリアの胸元に向かう。
だがしかし、魔界騎士らしい素晴らしい動きで反応してきた。
体と首を横へと傾けたシュへリア。
彼女の眼前を通りすぎる紅矛――。
その魔槍杖バルドークの穂先の形を確認するように、金色の双眸が煌めいた。
そのまま体を横に傾けたシュへリアは――。
片手で地面を突きながら側転機動――。
俺と距離を取った。
「――――魔眼<魔靭・錦帯花>を解放――アルファの戦場に咲く荘厳な白き花々を真っ赤な血に染め上げた……魔界騎士の力の一端を見せてやろう」
シュヘリアは手足をすらりと伸ばして魔剣を回転させながら魔眼を発動。
前傾姿勢で前進してきた。
彼女の両肩がぶれる。
同時に技らしきもの――黄色だった剣線は白色に変化。
剣の軌跡で楕円を作る――。
速い――鼻先を掠めた。
その途中で、剣閃は紅色へと変化。
無数の剣刃が、迫る――。
避けつつ、地面に<生活魔法>の水をばら撒く。
同時に<超脳・朧水月>を発動――。
血を纏った爪先を軸とした回転避けだ。
剣閃を避け続ける。
剣刃が体を掠めたが――。
暗緑色の外套が防ぐ。
防具の力と<超脳・朧水月>の技術に魔槍杖を防御に回す。
避けから受け流すことに集中。
シュヘリアの猛攻は激しい――。
魔双剣というあだ名があるだけに強い。
――左手と右手を交差する技術は、普通の人族には不可能だろう。
スキルだと思われる乱舞を見せてくる。
そして、狂眼トグマを彷彿させる踏み込みが見えないほどの速い連斬り――。
ユイの<舞斬>より、二手、三手、手数が多いうえに熟練した剣捌きだ。
腕が四つあるようにも感じた。
四眼ルリゼゼや猫獣人のレーヴェを思い出す――。
斜め、上、中部、下部、乱雑だが、急所を的確に狙ってくる。
が、<魔闘術>を体に纏い<血液加速>を用いての加速中だ。
徐々に反撃を加える。
俺は中段蹴りと下段蹴りから<水穿>をシュヘリアの胴体に向かわせる。
――防がれた。
だが、想定済み。
続いて防御を意識したシュへリアに<牙衝>を向けた。
中段から下段の連撃だ――。
「速い――フェイクからの下段の連撃とは――」
身体速度を加速したシュヘリアは余裕。
対応してきた。
俺の蹴りを弾きながら素晴らしい防御剣術で水蒸気を纏う紅矛を弾く。
そして、乱舞斬り中の黄色い刃の機動を、突きタイプに変えてきた。
だが、その間合いと癖を見切る――。
右斜め前から来た魔剣の先を、卍軌道に動かした魔槍杖で受け待った。
嵐を纏う形の矛でシュヘリアの魔剣を捉え、その魔剣を嵐雲の穂先の溝で絡める。
回転した黄色い魔剣を持つシュヘリアの腕も捻り曲がった。
「――ぎゃッ」
嵐雲の穂先に溝に刃が嵌まる魔剣を捨てたシュヘリア。
反対の手が握る魔剣で俺の胸を突き刺そうと狙うが、遅い。
俺は左手を体の支えに、左側へと側転を実行――。
側転で魔剣の突剣を避けた。
側転機動中に左手で地面を押すように、地面を叩く反動で体を持ち上げた。
俺は前のめりの姿勢に移りつつシュへリアの体へと自らの体をぶつける勢いで前転へと切り替えながら――自らの回転の勢いを左足に乗せた蹴りを、シュヘリアの首の側面に吸い込ませた――。
変形浴びせ蹴りがクリーンヒット。
アーゼンのブーツの甲の部分からはしっかりと感触を得る。
「――あぁぁ」
蹴りを喰らい吹き飛ぶシュヘリア――。
俺は血を纏う魔脚で、その吹き飛ぶシュヘリアを追った。
シュヘリアは地に足を突けて体勢を立て直すと、まだ片手が握る魔剣に墨色の魔力を集結させる。
ショットガン系の魔刃か?
が、発動してこない。
連発はできないようだ。
フェイクの可能性もあるが――構わない。
槍圏内に入った俺は、魔槍杖の<刺突>を繰り出した。
<刺突>は防がれた。
想定済み。
シュヘリアに防御を意識させる。
右手の魔槍杖バルドークを消去するや再召喚。
魔槍杖バルドークが水蒸気を纏う<水穿>を繰り出してから――。
<水神の呼び声>を意識。
水神アクレシス様の幻影が俺を覆ったと瞬時に理解。
速度が増した。
シュヘリアは<水穿>を魔剣の剣身で防御。
が、体勢を崩したシュヘリアだ。
そのシュヘリアの懐に潜り込む――。
屈んだ姿勢の<水月暗穿>から垂直蹴りをシュヘリアの下腹部に喰らわせた。足の爪先がシュヘリアの腹ごと魔鎧を突く。
蹴りを腹に喰らい持ち上がったシュヘリアの魔鎧は俺の足の形を作るように窪んだ。
「ぐお――」
彼女は血を吐きつつ浮き上がる。
苦悶というレベルを超えた表情だったが――。
構わず魔槍杖バルドークを振り上げた。
魔槍杖バルドークの穂先の紅斧刃が<水月暗穿>の円を描く軌道でシュヘリアの腹と胸を縦に切り裂いた。悲鳴も上げられないシュヘリアは体を反らしつつ宙に舞う。
裂かれた傷口から血飛沫が舞った。
武器も落とした。
俺は<導想魔手>を足場にして魔力を足に集中。
慣性で落ちてくる無防備なシュヘリアへ向け――。
俺は後方宙返り蹴り――。
しかし、シュヘリアは反応。
両腕を交差してブロック。
俺の後方宙返り蹴りは対応された。
しかし、アーゼンのブーツの踵にシュヘリアの体重を感じ取っている。
蹴りの衝撃でシュヘリアは、また一段階、上空へと持ち上がった。
――そこから止めの――。
魔力を纏わせた魔槍杖は使わない。
『血ヲ……』
魔槍杖が唸る声を響かせる。
同時に頭の内部から、鐘の音が響く。
んだが、無視して、俺は訓練場の地に着地した。
ぐったりとしたシュヘリアも落下し、地面に転がる。
右手に移した魔槍杖を消去。
シュヘリアは、地面と衝突した衝撃でハッとした表情のまま起きた。
急ぎ、片膝で地面を突く。
立ち上がろうとするが、体を震わせて、また、倒れた。
「……」
紅斧刃の威力を物語るように切られた胴体の傷は浅くない。
魔界騎士と言えどダメージの回復には時間が掛かるだろう。
血を流し続けているシュヘリアは、諦めたように腕を拡げて大の字となる。
「――勝負ありましたね」
近くに来たヘルメだ。
「……わたしの負けだ。中空に浮いた時には意識が飛んでいた」
シュヘリアは大の字になりながら語る。
「……シュヘリア。満足したか?」
「勿論だとも……ただ、もう動けない」
俺はすぐに上級の《水癒》を念じ、発動。
光を帯びた透き通った水塊が目の前に生まれる。
その水塊は一瞬で崩れシャワーとなってシュヘリアに降り注いだ。
回復したシュヘリアは、立ち上がると、地面に落ちていた二つの魔剣を拾う。
彼女の金色の視線は鋭い。
卍型の文様も浮かんだままだ。
そこに、皆が駆け寄ってきた。
シュヘリアはそんな状態で、にじり寄ってくる。
「ちょっと、まだ戦う気?」
「ん、いい加減に」
「やはり、魔女槍で止めを……」
「ぷゆゆ?」
皆、そう言うが杞憂だった。
シュヘリアは片膝で床を突くと同時に恭しい態度を取る。
二つの魔剣を俺の目の前の地面に置く。
「シュウヤ陛下……誓いの申し出を……」
何だ、申し出?
「いいぞ」
「ハッ、では今日、今、この瞬間からこのシュヘリア、陛下の盾と剣となり命を捧げることを、古今の魔界の神々にかけて誓います」
俺の隣に立つ常闇の水精霊ヘルメは参謀のように鷹揚に頷く。
水の衣装もきらきらと輝いていた。
皆、黙って聞いている。
「いいだろう。俺も誓おう。いかなる時も俺はお前に居場所を与えると。そして、お前の名誉を汚すような奉仕を求めることもしない。自由の精神を大事にする。これを、この魔槍杖と水神アクレシス様にかけて誓う」
「ハハッ! イエス・ユア・マジェスティ――」
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