四百二話 吠えるロターゼ※
2021/02/11 18:32 修正 02/14 10:37 02/25 14:44 22:39 修正
2021/02/28 19:19 修正
2021/03/02 14:13 19:01 修正
2021/03/03 9:35
2021/03/05 20:18 修正
2021/03/07 8:58 修正
2021/03/08 18:00 <紅蓮嵐穿>の説明文、修正。
2021/03/09 13:31 16:14 修正
2021/03/10 13:41 15:52 21:48 修正
2021/03/11 13:27 21:56 修正
2021/03/21 19:09 修正
2021/03/23 20:26 修正
2021/03/24 21:18 修正
2021/03/30 19:43 03/31 20:30 修正
2021/04/07 14:17 修正
2022年12月14日 16:38 修正
小川の囁きのような風切り音。
相棒は空飛ぶクラゲをえり好みしながら狩りを行う――。
空を突進する速度は急激に速くなるが構わない――。
喉音を響かせながら楽しい気持ちを寄越しては、美味しそうにクラゲを食べていった。
俺も楽しくなったから、サラテンの訓練がてら、空飛ぶ狸を――その神剣サラテンで撃ち落としていった。
そのサラテンの訓練の後。
銀の棺桶を調べるかと――。
蝶と人が交ざった模様の溝を触った。
棺桶は俺の魔力を通さない。絶縁体的な物質かな。すると、
「……キ、ゼレグ」
棺桶の内部から葉に覆われたような不気味な声が響いた。
アイテムボックスに入らなかった銀の棺桶。
やはり、中身のキゼレグは生きている。
亜神ゴルゴンチュラが残した卵型の宝石を使えば復活させることは可能だと、水神アクレシス様は仰った。
時空属性と水属性を持つ俺に向けた言葉だと思う。
そして、『我ならばしない』という水神アクレシス様の言葉に従うわけではないが……今は、キゼレグの解放をしない。
あの夜、混沌の夜の日。
サナさんとヒナさんから異世界日本の話を聞いた。
サナさんの鳳凰院家は、この箱の中身のキゼレグを古代兵器と判断した。
この銀色の棺桶は魔術を遮断したようだからな。
鳳凰院家は激戦地のアラスカの地に大金を投じて銀色の魔術を遮断する銀の棺桶を回収し、銀の棺桶の中身と棺桶の金属を分析しては、東日本国内と外国との戦争に銀の棺桶を利用しようと考えていた。
十二名家たちは他の名家たちと仲良しというわけではないことも聞いた。
……魔術師同士の因縁の争いがあるようだ。
サナさんより、ヒナさんの眼鏡越しに歴史を語る表情は、正直怖かった。
『……鳳凰院魔術家族会議での採択ですからね。特に家長であり偉大な魔術師の力を継ぐお父様の言葉は絶対です』
と、この時のサナさんの言葉は鳳凰院佐奈としての、次女としての言葉だった。
しかし……転移者の皆を救えなかったのは残念だ。
キッシュなら、受け入れてくれたはずだしな。
生きる意志があれば新しい生活に挑戦できたはずだ。
そのサナさんとヒナさんのご両人が視線を向けてくる。
「そのキゼレグとやらを解放するのですか?」
「理由があるとは思いますが、激しい戦いを見た範囲では、危険だと思います」
「いつかはするかもしれない」
何事も絶対はない。
と思ったところで、彼女たちの軍服に注目。
炭素系繊維質の黒色を基調に銀色と黄色と赤色の細かな線が入る。スタイリッシュで、全体的にスマートな衣服。
腕に簡易ディスプレイとウェアラブルコンピューターを内蔵しているのかもしれない。
前世の日本でも見たことがない服だ。
膨らんだ右胸に槍と魔術紋のエンブレムがある。
左胸には心臓を守る小型のプロテクターもあった。
プロテクターと繋がる肩ベルトには銃器を想定したスリングスイベル用の金具もある。
細く引き締まった腰と分かるところから、背中へと繋がる紐も見えた。
銀色で縁取った黒色のベルトもいい。
バックルのデザインも槍と魔術紋のエンブレムだ。
鳳凰院家の象徴なのかな。
腰の左右には小銃と携帯棒が収まる専用のケース。
コスメ道具が収まる小型のバッグも備えている。
時々、エヴァとキサラが、その女性らしい道具に視線を向けていた。
女性ならではの感覚かな?
異世界の化粧道具に興味を持ったようだ。
そんなサナさんとヒナさんの恰好を見ては、彼女たちとの日本語の会話を思い出していると――。
突如、巨大な怪物が前方の空に現れた。
頭部は小さい眼鏡猿だ。
そして、巨大な蝶が持つような一対の触覚があり耳はない。
両腕もなく、分厚い歪な胴体に異質な太い脚。
分厚い胴体は親指のようにも見える。
異質な脚は、ビーチパラソルのような皮膚だった。
あれも魔族の一種か?
あの巨大怪物の標的は神獣ロロディーヌと俺たちか?
そう疑問に思った直後――。
黒猫がさっそく反応。
相棒は両足が特徴的な巨大な怪物を狩ろうと、
「にゃ~」
と軽快に鳴きつつ神獣らしい両翼と胸元から無数の黒色の触手を発射した。
無数のミサイルが宙空を突き進むような光景だ。
いつ見ても圧巻だな。
「神獣! 待った。あれは俺がもらうぜぇ」
近くを飛んでいた闇鯨ロターゼの声だ。
相棒は触手群を止める。
その止まった触手群を確認したロターゼは、
「よーし!」
元気のいい喜びの声を上げる。
「<愚角光突>――」
と、巨体を輝かせながらスキルを発動。
マッコウクジラらしい潜水艦のような額から伸びたイッカク角を中心に、自らの巨体を錐揉み回転させるように宙を突進――真っ黒い闇鯨の体が――。
太陽からの光の屑を集結させたように赫いた。
自らを『光子魚雷』化か。
巨体が巨体だし魚雷のように突進するさまは怖い。
放屁も出ているし……。
ロロディーヌもロターゼの尻の方を見ているようだ。
感覚を共有している相棒のロロだが、何を見ているのかまでは分からない。
そんな一瞬の思考の間にも――。
光を帯びたロターゼ自慢のイッカク角が、巨人の親指にも見える、巨大な怪物の腹を貫いた。その一撃はパワフルその物、怪物の分厚い体を容易く引き裂き、内部から緑色の体液が噴き出す。
そのロターゼは、
「フハハハッ――キサラのほうが強いぞ!」
そう叫びつつ、貫いたイッカク角で巨人の親指的なモンスターの胴体をかき混ぜる。
「ギャオォォ――」
はらわたを撒き散らす巨大な怪物。
触角を左右に揺らし、悲鳴のような声を発しながら反撃した。
ビーチパラソルにも見えた皮膚の、両足の付け根から足先にまである縦溝が、自動的にファスナーが開くように左右へと裂けた。
裂けた内側には、熱水噴出孔のような形の牙がびっしりと並ぶ。
それらの牙の孔から炎を纏う熱水的なモノが一気に噴き出た。
炎を纏った熱水がロターゼへと降りかかる。
が、デコトラ風のロターゼには、巨大な炎を纏った熱水は効かない。
ロターゼの体の表面には空力特性があるようだ。
巨大な炎を纏った熱水は流れていく。
ロターゼは光を帯びた巨体から蒸気のような煙を出した。
「んなもんは効かねぇ! デスラの一柱が吹いた火炎のほうが痛かった――」
自ら拡声器にでもなったように大声で叫ぶ。
ロターゼは潜水艦のような頭部を上方へと振るった。
――イッカク角で重そうな巨大怪物の胴体を引き裂くと、跳ね上げた。
空を舞う巨大怪物が血を撒き散らす。
それは巨大な渓谷にも見えた。
巨大な渓谷から流れ落ちる滝のような血と内臓の肉片がロターゼに降り掛かる。
怪物の腹はイッカク角によってかき混ぜられていたからな……。
ロターゼは口を拡げた。
「――お前はどんな味だぁ?」
そう激烈に吠えつつ――。
血塗れのまま落ちてくる巨大な怪物を飲み込もうとした。
しかし、血塗れの巨大怪物はまだ生きていた。
「ギュアァァ――」
眼鏡猿の頭部の左右にあった蝶のような触角が光る。
まだ残っていたビーチパラソルのような皮膚にある縦溝が裂けて、その避けた部分から、墨色の蛇のような細い炎がドバッと噴出。
が、ロターゼには効かない。
反撃の蛸墨スパゲッティのような炎ごと巨大な怪物を飲み込んだ。
ロターゼは口の中も丈夫だ。
そのロターゼは、コブラが獲物を飲み込んだ時のように喉元を大きく膨らませる。
そのまま「ゴックン」と音を響かせてきた。
「ンン、にゃ、にゃお~~」
相棒のロロディーヌがロターゼを褒めるように鳴く。
見事に怪物を飲み込んだロターゼだからな。
その相棒から上顎と下顎の鋭い牙を噛み合わせた激しい音が響いた。
神獣ロロディーヌ的に芸を仕込んだ親分気分なんだろうか。
しかし、腹を壊しそうなビーチパラソル足を持つ巨大な怪物を食べてしまったか……。
また変な放屁を繰り出さないだろうな?
それ以降も闇鯨ロターゼは活躍。
『まだまだ暴れたりないぜぇ!』
といった勢いで、モンスターを屠り続けた。
『安全機動の神獣ロロディーヌが動く必要はない』
『俺が活躍する番だ』
そんな風にハッキリとは喋らないが、あのロターゼの行動にはそんな意味がある気がする。
ロターゼの口調は荒いが……。
神獣ロロのことを考える優しさがあるんだろう。
いい奴だ。
時折、神獣ロロディーヌに媚を売るように喋りかけていたから……単に遊び相手になるのは勘弁だ。
と思っているだけかもしれないが。
神獣ロロディーヌはゆっくりと飛行。
頭部はネコ科の巨大な黒虎風。
胴体は馬か、ドラゴンか、グリフォンか、獅子か。
ま、神獣だな。
獣を統べる女王のように凛々しい姿で飛翔する。
喉声を響かせては、触手を上下左右に伸ばして、ロターゼに指示を出していた。
ロターゼは空のモンスターを喰らう。
そうして、空はクラゲばかりとなった。
「ンンン――にゃおお」
相棒は楽し気だ。
いつも空を飛びたがっているからなぁ。
だから今ぐらいは自由に飛行を楽しんでもらおう。
俺の首に付着している相棒の触手手綱から、
『リンゴ畑には少し遠回りになるが、構わず飛んでいい。ついでに樹海の空の掃除だ』
そんな気持ちを伝えた。
勿論、背中の上にはサナさん&ヒナさんがいる。
だから、ゆったりとした飛行を優先だ。
そんな俺の気持ちを汲み取ったロロディーヌ。
「ンン」
と短く鳴いてから、甘えるように「ゴロゴロ」と喉声を鳴らしてくれた。
さらに、俺の姿を見ようと、頭部を斜め上へと動かす。
同時に首下から小さい触手を数本、俺の頬へと伸ばして触ってきた。
「ん、いいなぁ。ロロちゃん甘えてる」
隣のエヴァが微笑を湛える。
そのエヴァは細い指を伸ばしつつ、俺の頬を撫でていた小さい黒触手をツンツンと小突いてから、黒触手を触っていた。
「ふふ」
キサラの微笑む声だ。
キサラは魔女らしくダモアヌンの魔槍に腰掛けていた。
彼女は口元に手を当てて笑みをこぼし、魔槍を扱うその姿は優雅さと力強さを兼ね備えている。
「……シュウヤ様も楽しそうです」
黒色のアイマスクが似合うキサラ。
その言葉に頷いた。
そのまま首に付着している、相棒の触手手綱の握りを強めた。
――肉球の肌触りが少し変わる。
微妙に肉球の感触を変えてくるロロさんだ。
面白い神獣様だな?
と、心の中で相棒に語りかけながら一緒に飛行を楽しんだ。
暫し、ロロディーヌの意志に任せて飛翔する。
――体勢をかがめて、神獣ロロディーヌの頭部を撫でた。
頭部に生えたふさふさした黒毛。
後頭部の毛根を直に撫でた――毛穴の周りの皮膚は柔軟性が高い。
もみもみと、手のひらで、その頭部と黒毛をマッサージ。
相棒は炎と触手骨剣を使いサナさん&ヒナさんをちゃんと守ってくれたからな。
しかし、そんな神獣ロロディーヌをもってしても……。
樹木と一体化しつつ気配殺しからの不意打ち攻撃を繰り出してきた女王サーダインのことは察知できなかった。
本当に世界は広い。
弓矢や礫といった遠距離からのスナイパー系の能力もある。
もっと違った魔力の感知に人智を超えた急襲もあるはずだ。
そんなことを考えながら立ち上がり、空を見ようと思った瞬間――。
黒毛と触手を操るロロディーヌが俺の意志を汲み取ってくれたのか――。
――空の景色を堪能できるように足場を持ち上げてくれた。
偵察用のお立ち台か。便利な黒毛と触手ちゃんだ。
「ロロ、ありがと」
「にゃお」
お豆型触手の裏側にある肉球をモミモミしながら……。
後頭部の台座の上から空を確認――。
清冽な空を独り占めしたような気分になる。
そんな気持ちのいい快晴の空だったが……。
途中から、猫の目のような雲の切れ目が増えてきた。
神獣ロロディーヌの双眸が影響したとか?
それはないか。
空には螺旋を描く雲の渦が広がり始めていく。
その隙間から射し込む光線が、眼下の樹海を幻想的に照らし出す。
そして、神界勢力とホフマン側の戦いを確認。
かなり遠くのバルドーク山……。
山脈の向こう側へと主戦場は移っている。
戦いは間延びして小さい戦場が各地に散らばっている。
方角は樹海の南東かな……。
割物の花火が爆発したような血飛沫が見えた。
断続的な爆発音も山に反響したように轟いてくる。
「ん、神界勢力が優勢? 前にシュウヤが話していたブーさんたち」
「黄金環の頭が目立つが、戦いの詳細は遠くて分からない」
「シュウヤ様、こちらはこちらで……」
「あぁ、戦っているのは、ドラゴンの群れと……熊、鳥、蛸?」
キサラの視線と言葉に同意しながら、指を向けた。
その指先の空では、ドラゴンの群れと、大きな鳥と熊が融合したような巨大なモンスターが戦っている。
鳥熊は、ムラサキダコ風に体を拡げ、叫びつつ爪を振るう。
ドラゴンの一体も応えた。
雄叫びを発しつつ腕から伸びた爪を振るって、鳥熊の爪を弾いた。
勇ましい声を発したドラゴンと鳥熊は、牙と四肢の爪で、互いの体に噛みつき合うと、取っ組み合いを狙う。
その二匹ではドラゴンのほうが強いのか、鳥熊の蛸染みた胴体に尻尾の強烈な一撃を喰らわせていた。
「熊のような胴体にも見えますが……」
「ドココさん……ううん。あんな巨大な熊が空を飛んでいるところを今まで見たことはある? 背中の翼も鷹のようだし」
「……猿人のようなのなら見たことがある。翼を持つ熊は初! あれが、王熊ギュオンダンかもしれない。魔物本に載っていた」
そういや、エヴァはそんな本を持っていたな。
「その名は聞いたことがあります、ゴルディクス大砂漠にも砂漠王熊が生息していました。大型蠍兵や錦大蛙竜グオンと同様に子供のワームを好みます。そして、子供を取られまいと大暴れする大型のワームは、砂漠の住民にはおおいなる脅威となります」
「へぇ」
弱肉強食はどこにでもあるな。
すると、
「ンン、にゃぁ~」
『たのしい』『あそぶ』『かる?』『あそぶ』『くまたべる?』『くも』『くも』『くもたべる?』
神獣ロロディーヌが気持ちを伝えてきた。
戦う熊は分かるが、雲も食べたいようだ。
「ロロ、雲は綿飴やシャーベットじゃないぞ」
それとも水が飲みたいだけか。
「にゃぁぁ」
「今はサナさんとヒナさんがいる。ササミをくれたヒナさんは大事にしないとな?」
「ンンン、にゃおお」
ロロディーヌは頭部を上げて鳴き声を寄越す。
熊も雲も食べず――。
相棒は俺の指示通り、ゆったりとした飛行を続けていった。
その間に能力を確認しよう。
ステータス。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:亜神殺しの槍使いnew
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:霊槍血鎖師:白炎の仙手使いnew
筋力26→26.3敏捷26.3→27.6体力24.0→23.8魔力30.1→29.3器用24.1→24.7精神31.8→30.7運11.6→11.5
状態:普通
体力に、魔力、精神、運が下がった。
他は僅かに上がった、というか進化を遂げた魔槍杖バルドークが俺のすべての能力を吸い取った結果か?
代わりに魔槍杖が覚醒し、形状も変化して<紅蓮嵐穿>を獲得したが。
続いて、スキルステータス。
取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>:<言語魔法>:<光条の鎖槍>:<豪閃>:<血液加速>:<始まりの夕闇>:<夕闇の杭>:<血鎖探訪>:<闇の次元血鎖>:<霊呪網鎖>:<水車剣>:<闇の千手掌>:<牙衝>:<精霊珠想>:<水穿>:<水月暗穿>:<仙丹法・鯰想>:<水雅・魔連穿>new:<白炎仙手>new:<紅蓮嵐穿>new
恒久スキル:<天賦の魔才>:<光闇の奔流>:<吸魂>:<不死能力>:<暗者適応>:<血魔力>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<精霊使役>:<神獣止水・翔>:<血道第一・開門>:<血道第二・開門>:<血道第三・開門>:<因子彫増>:<従者開発>:<大真祖の宗系譜者>:<破邪霊樹ノ尾>:<夢闇祝>:<光邪ノ使徒>:<仙魔術・水黄綬の心得>:<封者刻印>:<超脳・朧水月>:<サラテンの秘術>:<武装魔霊・紅玉環>new:<水神の呼び声>new
エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>:<ルシヴァルの紋章樹>:<邪王の樹>
まずは称号:亜神殺しの槍使いからタッチしようか。
※亜神殺しの槍使い※
※セラにおいて神と称される圧倒的存在の肉体を屠りし槍使いの称号※
※全属性魔法効果微上昇、神性現象促進、全ての成長補正+※
超異現象促進から神性現象促進に変化しているが、タッチしても詳細はでない。
次は<仙技見習い>から進化した戦闘職業の確認かな。
※白炎の仙手使い※
※神界の〝白蛇竜大神〟を崇める【白炎王山】に住まう仙王スーウィン家に伝わる秘奥義<白炎仙手>を獲得し、竜鬼神グレートイスパルの洗礼を受けて、他にも様々な条件を達成後に獲得する希少戦闘職業の一つ※
※仙技系の戦闘職業は数多あれ、水神アクレシスの<神水千眼>に棲む八百万の眷属たちと、小精霊たちを通して、視界を共有していた水神アクレシスの親戚である白蛇竜大神インが見守る中、【白炎王山】に住まう仙王家の秘奥義<白炎仙手>を獲得するという条件を満たした者は他にいない※
<白炎の仙手使い>は、かなり珍しい戦闘職業なのか。竜鬼神グレートイスパル様なら海光都市関係と分かる。しかし、白蛇竜大神イン様? 白蛇竜大神イン様は知らない。そして、仙王スーウィン家も知らないが、俺は、その一族に伝わる秘奥義とやらを獲得してしまったらしい。さて、次は、その戦闘職業を得ることになったスキルを調べよう――ウィンドウに浮かぶ文字に指の腹を当ててタッチ――。
※白炎仙手※
※仙王流独自<仙魔術>系統:仙技亜種※
※貫手系と<仙魔術>系に連なるスキル※
※使い手の周りの狭い範囲に白炎の幕を発生させると共に、魔法防御上昇効果と物理威力上昇効果に物理防御弱上昇効果を使い手に齎す。その白炎に触れた者を仙魔の水炎で燃焼させる。白炎は水属性と物理属性を貫手に齎す※
画面の文字のタッチを続けた。
※水属性と<魔技>系を軸とした高位能力or高位戦闘職業が求められる※
※<魔手太陰肺経>の下地に仙丹法:独自系統の習得が必須。<白炎の仙手使い>獲得が条件※
※<脳魔脊髄革命>、<仙魔術・水黄綬の心得>、<精霊珠想>、<古代魔法>も必須※
デルハウトの頑丈そうな魔鎧を貫いた理由か。
トン爺とキサラの貫手をヒントに、俺は俺のイメージで作り上げたと思ったが。
<脳魔脊髄革命>の効果と水神アクレシス様の力が少なからず作用していたと言うことか。そして、ゴッドなパンティだったなぁ。
しかし、水神アクレシス様の幻影が出現した時、あの湖の周囲にはデボンチッチの姿は見えなかったが、何故だろう。神界セウロスに関わることでは、大概、デボンチッチが出現するんだと思っていたが……。
続いて調べるのは、<水雅・魔連穿>だ。
※水雅・魔連穿※
※水槍流技術系統:烈槍級独自多段突き。亜種を含めても極少数※
※<刺突>系に連なる独自多段槍スキル。水属性が多重に付加され物理威力が上昇。水場の環境に限り体躯の踏み込み速度と槍突速度が上昇し、三連続の多段突きとなる※
二槍流を意識した技だったが、水槍流に分類される烈槍級の多段突きか。
風槍流より水槍流で先に烈槍級の技を覚えてしまうとは……。
アキレス師匠、すみません。
俺はひねくれた槍使いです。
さてさて、次は……。
魔槍杖バルドークを用いて獲得した<紅蓮嵐穿>をチェックだ。
※紅蓮嵐穿※
※魔竜王槍流技術系統:魔槍奥義小~不明※
※<魔槍技>に分類、魔槍杖バルドーク専用、<嵐穿>系に連なるスキル※
※魔槍杖バルドークと精神が繋がった使い手は能力が活性化し、魔竜杖バルドークが吸収してきた魔力を纏う。しかし、使い手は精神と魔力の一部を魔竜杖バルドークに喰われる※
※その魔槍杖バルドークから、身の毛もよだつ紋章や、獰猛な魔竜王などの、今まで吸収した無数の魑魅魍魎の魂が魔力の嵐として異常に噴き出す。その魔力の嵐は使い手の腕をも喰らうように周囲に吹き荒れると、使い手は突きのモーションのまま標的へと次元速度で加速し、標的の中段へと魔槍杖バルドークの紅色の嵐雲の矛を喰らわせる※
魔槍杖バルドーク専用か、武器固有技だな。
奥義小~不明か。中、大、とかあるのか?
それとも王級とか神級とかかな。
<闇穿・魔壊槍>のような防御を相手に意識させる一手間はない。
それに、女王サーダインが反応できないほどの加速から壊槍グラドパルスのような破壊力のある一撃が繰り出せるのは大きい。
今度はこれだ。
単眼君こと、魔侯爵だったアドゥムブラリに関することだと分かるが、詳細は不明。
――調べる。
※武装魔霊・紅玉環※
※武装魔霊アドゥムブラリとの契約の証※
※アドゥムブラリの額部位に独自の紋章を自由に刻むことが可能。刻んだ場合、その刻んだセンスにより指輪を装着した持ち主の能力がランダムに上がる※
※紅玉環の指輪を常に装着しているとアドゥムブラリの成長を促す。アドゥムブラリが成長すると独自の武具、防具へと形態変化を起こせるようになり、指輪を装着した者が<早口>を取得できる可能性が上昇する※
額に独自の紋章だと……。
しかも、刻んだセンスって……いいねぇ! 今度刻んでみようか。
やはり最初は、肉とか中がいいかな?
今度、エヴァに聞いてみようか。
<早口>は無視だな。いや、待てよ、<早口>で詠唱を短くできるのか?
言語魔法の詠唱は長いから、レベッカ、エヴァ、ヴィーネに渡して覚えてもらうのもいいかもしれない。
俺も水属性以外は詠唱が必要だし、何気に<早口>を覚えたら試してみる価値はありそうだ。もし予想通りだったら戦闘用アドを新しく用意してあげよう。
そして、もっと良いモノも作ってもらえるようにヴェロニカとミスティにお願いしてみるか。あのウィップスタッフはいい出来栄えだったしな。
っと、次のスキルを調べるか。
次は感覚で理解しているスキル。
※水神の呼び声※
※水神アクレシスの力の一部を武具に纏わせる。武具にも相性はあるが、様々な効果を使い手に齎す※
そうして、亜神ゴルゴンチュラが封じられていた場所に到着。
監獄は以前と変わらず。
上からだと、歪なナイフか、岩稜にも見える。
――神獣から飛び降りて、レベッカたちと合流した。
「――主ぃ~っ、俺を置いていくなんて!」
俺が着地すると、可愛い単眼球体の元魔侯爵アドゥムブラリが飛翔してくる。
背中の小さい羽をバタバタと忙しなく動かすさまは……。
竜母、もとい、竜お姉さんサジハリの下で訓練中のバルミントの存在を思い出した。
「使者様♪ おかえりなさい~」
ココアミルク色の肌を持つイモリザの声だ。
銀髪の形をビックリマークに変えて両手を左右に伸ばしていた。
<魔骨魚>の上に乗っている。
「お帰り、こっちは亜神ゴルゴンチュラの監獄の場所だけ……平和だったわ」
レベッカがそう話す通り……。
魔素の反応をリンゴ畑の反対側というか監獄の先から感じた。
あのリンゴ畑の奥は、斜め下へと続いている洞窟のような場所。
すると、元魔侯爵アドゥムブラリが視界にちらついた。
頭部の周りを飛び回っていたアドゥムブラリを常闇の水精霊ヘルメが追いかける。
肩に戻っていた黒猫は大人しいのに。
「……皆、ただいま。アド、周りを飛ぶなよ。レベッカが見えない」
「おい、そこの金髪のハイエルフから聞いたぞ! 俺も上空に集まっていた魔界の奴らを見たかった!」
元気なアドゥだ。
「アドゥムブラリもその姿なら空を飛べるが、もう戦闘用アドは壊れたし、壊れていなくても空は飛べないだろう? そして、魔界で楔となっている闇の獄骨騎と繋がる沸騎士たちのような存在じゃないとな?」
闇の獄骨騎の指輪を見せる。
「クッ……その通りだ。俺は魔界に帰れるタイプではない。しかし、嫉妬を覚えるぜ」
「そうか? まぁ、沸騎士たちは特別だからな」
すると、話を聞いていた沸騎士たちが、
「――眷族の宗主たる閣下は唯一無二。我、赤沸騎士アドモスは閣下と繋がった魔力によって生きております」
「――同じく、この黒沸騎士ゼメタスも閣下の魔力が大本」
「はい。閣下固有の沸騎士。特別な繋がりを持つ、<召喚術>で呼び出す基準を超えた存在が我ら! 閣下の沸騎士としての誇りがありますぞ!」
片膝で地面を突いた沸騎士たちも元気だ。
膝頭の周囲の地面には罅が入っている。
相変わらず熱い。ぼあぼあと迸る魔力の煙か蒸気は、その噴出具合から怒りを感じるほどに激しい。
「……固有か、確かに」
そう語りつつアドゥムブラリに視線を向ける。
単眼球体のアドゥ。寂し気な雰囲気を醸し出すように斜め下に球体を傾けていた。
「アドゥムブラリ、お前は紅月の傀儡兵の頭部に乗り移ったように、素晴らしい合体する能力を持つ!」
そう褒めると、俄に単眼球体を持ち上げた。
単眼の虹彩に光が宿る。
その光の拡がりと、皺のような血管の群れが、単眼球体に明るい雰囲気を作った。
単眼球体だが、感情の表し方が豊富で面白い。
その単眼球体の下に備えた口が、パッと喜ぶように、
「――フハハ、主! おだてても涙しかでないぞ! そして、武装魔霊の力はまだまだあんなもんではないのだ」
そう早口で喋る。アドゥムブラリの姿はコミカルだ。
「武具と防具だろう?」
スキルを調べて知ったからな。
「主には心読みの能力でもあるのか?」
「いや」
「あるように感じたぞ。で、今は無理だが、主固有の、主と俺だけの武具や防具の一部や、武具その物へと変身ができるようになる」
「シュミハザーが扱っていたようにか」
「……あれはイグルードにも繋がるから、いやだった」
「ま、楽しみにしとく。今は指輪に戻れ」
「おう~」
元魔侯爵アドゥムブラリは背中の翼をバタバタさせて急回転させ、体を溶かすように赤い魔力の粒子状に変化し、そのまま赤い粒子状の魔力は指輪の中へ収斂して戻る。
沸騎士たちにも闇の獄骨騎から魔界へと戻ってもらった。
そこから、レベッカとイモリザにかくかくしかじかと経緯を説明。
説明の途中で、イモリザは「ツアンにお任せ~♪」と喋ってから、黄金芋虫経由でツアンにチェンジしていた。
「激戦だったようね。ここは平和だったけど」
「警戒していましたが、上の方が騒がしいとしか分からなかったです」
レベッカとツアンがそう語る。
続けてツアンが口を動かした。
「旦那がいない間に、この亜神ゴルゴンチュラの監獄を、封魔の刻印扉とやらを調べてみましたが、外側は硬い金剛樹を用いた金属らしいとしか分からないです。そして、内側が……」
そこで言いよどむツアン。
「内側? 中か?」
「はい、酷いありさまでしたぜ……」
ツアンは目をそらす。
「……うん」
レベッカも小声で呟く。
「どういうことだ?」
「亜神ゴルゴンチュラはシュウヤが倒したけど、その亜神ゴルゴンチュラが、急いで身を犠牲にして次元を裂く魔法を繰り出した理由が分かった気がする」
そう話したレベッカは、気まずそうにシェイルを見る。
死蝶人シェイルは雰囲気を変えていた。
痩せて尖った肩先が目立つ。
視線を下に傾けて地面の草をずっと見続けている。
いや、地面ではなかった。
ジョディの心臓部だった白い石を見ていた。
白い石は、アンチモンの宝石にも見えた。
その白い宝石の表面に、俺の名前が蒼い文字で浮かび上がる。
誓約か。
ジョディがここまで案内しようとした時に浮かべていた表情を思い出す。
『うん。それじゃ、こっち』
と喋っていたジョディ……。
それは『永きに渡る宿願を得た』といったような……。
本当に嬉しそうで幸せそうな表情だった。
白銀に近い白色を基調とした蛾人間だが、人型に極めて近い女性で美人だからな。
印象深い。
『槍使い様! この扉を開けてください! お願いします』
扉の前で、その美人な白蛾の死蝶人ジョディは必死だった。
『……ゴルゴンチュラ様ーーーーーーーーー』
亜神ゴルゴンチュラが現れた時、ジョディとシェイルは子供の頃に戻ったように、ゴルゴンチュラに抱き着いていた。
それは母の愛を求めるような幼げな印象だった。
それが、今では……。
虚ろで力のないシェイルは対照的だ。
そんな見ているだけで胸に来るシェイルから視線をそらして、
「……少し見てみる」
と、皆に話しかけながら、監獄のような封魔の刻印扉を潜った。
幅が狭い階段を下りていく……。
肌を刺すような冷気が全身を包み込む。
アーゼンのブーツの靴底から感じる階段の感触はコンクリートのようだ。
硬い感触の階段はすぐに終わり、広い空間に出た。
――腐敗臭が漂う、どんよりと淀んだ冷たい空気。
カビと鉄錆が混じり合ったような腐敗臭……。
粘りつくような湿気が壁から滴り落ち、視界の奥には歪んだ影が蠢いているかのように見える。
俺は暗緑色防護服を半袖状態に移行していたから、余計に寒く感じた。
床は灰色で、針一本でも落としたら音が反響しそうな作り。
天井からは奇妙な形状の石筍がいくつも垂れ下がり、その先端からは得体の知れない液体が滴り落ちていた。すると、ポケットが震える。
ホルカーの欠片ではない、卵型の宝石が蠢いたようだ。
『……魔素はあまり感じません』
視界の左隅で、注射器を持った小型ヘルメが警戒するように喋る。
「ンンン――」
肩で大人しく休んでいた黒猫が反応。
ポケットが盛り上がって動いていたからな……。
肩に乗った黒猫は興奮。
自らの触手を俺の首と腕に引っ掛けつつ、前屈みの姿勢のまま俺の胸元のポケットに向けて猫パンチを繰り出す仕草が可愛くて面白い。
「ロロ、気持ちは分かるが、これはボールじゃない。今は我慢な」
猫パンチを止めた黒猫さん。
そのまま俺を見つめてくる。
紅色の多い虹彩を黒に染めるように散大している黒い瞳だ。
その瞳で、ジッと俺を見つめてから、またポケットに瞳を向ける黒猫さん。
また猫パンチを繰り出そうとした――。
が、その小さい黒色のお手手を、ぎゅっと握って止めたった。
そして、肉球をもみもみと揉みしだく。
そのままマッサージを続けて、
「モンプチ風のデザートを考えていたんだけどなぁ」
甘い声音を意識して、相棒に語り掛けた。
その黒猫は、美味しいデザートを想像したようにピクッと頬を動かすと、
「ンン、にゃ」
と、髭を動かしつつ鳴いた。
『こやつできるにゃ』と侍風の反応を寄越す相棒が面白い。
その黒猫は猫パンチも止めた。
俺の背中を長い尻尾でぽんぽんと叩くのみとなった。
さて、肝心の、この亜神ゴルゴンチュラの監獄を……。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1巻~17巻が発売中!
2020年6月にノベル版「槍使いと、黒猫。」11巻発売予定。
2021年1月にノベル版「槍使いと、黒猫。」13巻が発売しました。
2021年4月19日にノベル版「槍使いと、黒猫。」14巻が発売予定。
2023年1月19日にノベル版「槍使いと、黒猫。19」発売予定。
漫画版「槍使いと、黒猫。」1~3巻が発売中。




