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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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401/2112

四百話 人外喰らいの魔槍杖バルドーク

ついに四百話!

長い物語ですが、これからも宜しくお願いします。

2022/06/10 16:29 修正

2023年4月12日 0:33 修正

2023年11月22日 11時33分 修正

2024年9月8日 19時49分 修正


『ヘルメ、<精霊珠想>を展開させてくれ。もう一度<仙丹法・鯰想>を行う』


 魔力を左目に宿る常闇の水精霊ヘルメに注ぐ。


『――アンッ』


 ヘルメは強烈な喘ぎ声を響かせる。

 そんな<精霊珠想>のヘルメが影響したわけではないと思うが――。

 興奮した闇鯨ロターゼは低空を鯰のような機動で飛ぶ。


 イッカクの角を振り回しつつ――。

 そのイッカクを思わせる角で、多数の樹木系魔族たちを薙ぎ倒すように吹き飛ばす。


 エヴァもシャチを形成した金属の群れを操作して、攻撃。

 あちこちの地面から生えるように出現する樹木魔族たちを屠り続けた。


 神獣ロロディーヌは紅蓮の炎を少し吐いたが、大規模には展開させない。

 サナさん&ヒナさんを守護する半透明の槍使い又兵衛と沸騎士コンビとの連携を重視し、樹木魔族たちごと背丈の高い樹木の群を薙ぎ倒していた。

 圧倒的な殲滅速度だ。

 周囲の景色を変える勢いにも見えた。


 が、樹海の左側は樹と地面は多くが破壊されている。主にエヴァの<念導力>の紫色の魔力を帯びている金属の刃、その金属の刃の群れの動きが凄い。

 金属の刃の一つ一つが繊細で豪快だ。

 金属の刃が突き抜けた樹の魔族と普通の樹海の樹は木っ端微塵に破壊され、地面をも掘り起こされている印象だ。破壊された地面は畑として利用できるかもしれない。

 しかし、地面の根から湧くほうも湧くほうだ。

 と、呑気に考えるのは、止そう。

 サーダインに<光条の鎖槍シャインチェーンランス>はあまり効かなかった。

 単に巨体から元の姿に収縮した結果、光槍から逃れたのかもしれないが。


 魔界の神々(セブドラ・ホスト)の血が混ざっているからタフなんだろう。

 光属性に耐性があるのかもしれない。

 魔界セブドラの存在すべての弱点が光属性と考えるのは早計か。

 今も、そのサーダインは……。


 地面から蟻のような、多数の樹木魔族を生み出し続けている。


 もしかして、樹海から力を得ている?

 そのサーダインは宙に避難していたキサラを睨むと、


「……元々はキュルハ様の根だし? でも、わたしと同じで鼻と目が利くようね? そこのメファーラの魔印を刻む特別そうな魔槍を持つ者」

「――黒魔女教団の教義が一つ、〝知記憶の王樹キュルハの根の恩恵と神意の樹木の匂いを忘れるな〟がありますから」

「そんな人族のことなんて知らない。わたしは樹海道でここに来たばかりだし? それに、セラに弾き出されて間もないから教団とかアピールされてもね? あ、でも、血の匂いが違う。そこの紫色の瞳を持つ血を纏う車椅子に乗った眷属とは違って、貴女は槍使いの眷属ではないのね!」


 キサラはサーダインの物言いに、少し間を空けてから、俺を切なそうに見る。

 そして、


「……そうよ。破壊の血を受け継ぐ女王。四天魔女の名にかけて、知記憶と破壊の血を得ている軍だろうと、ダモアヌンブリンガーの魔槍使い、教団の救世主であるシュウヤ様と敵対するのならば、滅します」

「ふふ、わたしを滅するって? 嗤わせないでよ。小生意気な黒い雛鳥ちゃん。そして、そのメファーラの魔槍の柄孔から出ている糸か髪? 綺麗だけど、異質ね……瘴気、邪気、魔霊でも宿っているのかしら?」


 嘲笑する口調だったサーダインだが、目は細めている。

 キサラが持つ魔女槍の柄孔から放射状に展開しているフィラメント群を警戒したようだ。


「……瘴気。魔眼の質は高そうですね。しかし、炯々なりや、砂漠鴉。ひゅうれいや」


 キサラも睨みを強めると、超自然的な<魔嘔>を披露。

 古語めいた歌声を響かせながら両手首の数珠とリンクした鴉の群れを周囲に出現させた。

 鴉の群れの中には踊っている紙人形たちも混じっている。


 そして、特徴的な模様がある黒マスクからコンドルをモチーフにしたような兜に変化。

 面頬と鉢で構成された兜。顎当てはない。

 腰の魔導書も煌めいて魔導書の表紙の模様も変化した。

 凛々しさのあるキサラの四天魔女としての姿だ、その醸し出す雰囲気はまさに強者のそれ。

 女王サーダインと引けを取らないところは頼もしい。

 まだ光魔ルシヴァル()の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ではないのに凄い女性だ。


 キサラは鴉と紙人形たちで防御陣を宙に張ってから、魔女槍ことダモアヌンの魔槍の髑髏穂先の切っ先をサーダインへと差し向けた。


「ふーん、綺麗な歌声。でもでも、偉そうに武器を向けてくれちゃって、メファーラの匂いでわたしがビビるとでも?」


 サーダインの挑発めいた言葉だ。

 キサラは、その言葉を無視。


 四天魔女としての魔術か魔法かスキル的な、鴉と紙人形を操作。

 その紙人形の群れが、瞬く間に防御陣を敷いた。


 キサラは顔の上半分を覆うコンドル風の兜をかぶっている。

 表情は分かりにくいが、蒼い視線は鋭いと分かる。


 警戒度MAXだ。


 キサラの修道女の衣装の一部を覆う魔法衣の端がヒラヒラと漂う。

 揺れた端から黒い魔力粒子が散る。


 キサラは仙女のように飛翔を続けた。


「――サーダインの右辺、左辺の位置から現れた新たな魔族たち。魔力を不自然に外に放出していない存在が気になります」


 キサラが警告を発した。

 彼女のいう通り女王に対して跪く魔族の中に樹木系とは異なる存在もいた。

 先ほど空で戦っていたような強者と似た雰囲気の植物魔族が誕生したようだ。


「何だ、こいつらは――」

「――反撃しないし、数が異常だよ!」


 【樹海狩り】のメンバーたちの声だ。

 サーダインの太い杭の飛び道具とフランベルジュの多段攻撃を凌いだ。


 樹海狩りのメンバーは俺たちの下に近付きつつ新しく出現した樹木系魔族たちへと攻撃を繰り返している。

 そのメンバーたちは湖畔に置きっぱなしだったキゼレグが封じられている銀箱へと視線を向けていた。


「あの銀色の棺桶のような箱は何だ? 模様が気になる」

「――魔素は出ていないが、宝箱は放っておきましょう。今はあの冠魔族でしょう?」


 アマゾネス衣装のアレイザが光を帯びた剣を横から振るい魔族の首を刎ねる。

 アレイザの頭上に浮かぶ戦士姿の幻影が輝いている剣を凄まじい速さで振るうと、眩い扇状の閃光が宙に発生していく。


 前方の魔族たちの首が刎ねて飛んだ。

 戦士のアレイザの身に付けたアマゾネス風の衣装から戦巫女のイヴァンカを思い出した。


「――了解した。あの冠を備えた植物魔族はただの新種ではないことは確実だ。しかし、槍使いは水神の眷属だろうか? 巨大化した植物魔族を倒す動きが速すぎて捉えられなかった。左目には(ナマズ)型の液体を宿しているし、その鯰と左目と連なる液体は、槍使いの半身を守る液体で構成された魔法の鎧となっている?」


 リックスという名のイケメンが俺の容姿を語る。


 液体系の不思議な鎧部位?


 と、自分の姿を確認――。

 ハルホンクの防護服には、今まで気づかなかったモノがあった。

 それは、蒼と黒の輝きを放つ釦と金具とベルト的なモノ。

 トレンチコートから伸びたようなベルト類に近いか。

 ヘルメの成長の印?

 

 亜神ゴルゴンチュラの一部を吸い取ったからな……<精霊珠想>もそれに伴い進化したようだ。


「そして、あの疾風のような槍使いが巨大化した植物魔族を倒したと思ったんだが……」

「うん。樹剣を大量に振り撒く遠距離攻撃といい、新しい眷属を無数に生み出すとか……」

「魔力量もとんでもない規模。完全にS級クラスだな」


 リックスの言葉に二槍使いが反応。


「まさか、樹怪王のようなモノと当たるとはな――」


 マレガは喋りながらも套路(とうろ)の型のような技を繰り出す。

 両手に持った双頭双槍を凄まじい速度で縦回転。

 魔族たちの体を縦に分断していく。

 続けて、左足を斜め前に出すような鋭い踏み込みから――。


 右手の肘の内側を、自らの側頭部にぶつける勢いで体勢を左へと傾けた。

 マレガは両手に握る双槍を左へと伸ばし、右脇腹も斜めに伸ばす。

 体と槍で三角形を作るようなポーズ。


 ヨガポーズの一種にも見えるが、二槍流の技だろう。


 左斜め前方の魔族の背中を双槍の穂先が貫いていた。


「マレガ、いい動き。でも、中央の冠の植物魔族は、貴公子とはまったく違うタイプね」

「あぁ、しかし、どうするよ――対吸血鬼用の装備は使い切ったぞ――俺の愛用していたパルハンマの短剣も消えちまったし……」


 リックスと呼ばれたイケメンは【樹海狩り】のリーダーと名乗ったウノに対して話しかけながらも、両手首の位置から銀色の剣身を伸ばし、魔族たちを攻撃している。

 銀の剣身に太さはない。

 しかし、銀色に光る切っ先は鋭そう。

 今も、樹木系の分厚そうな魔族の頭を貫く。

 そして、銀剣に付着した脳髄か分からない小麦色の血を払ってから、宙に銀色の弧を描くように手首を動かすと、左辺の魔族をも切り裂いた。


 彼はサラテンのような秘術も使える? 

 側転と前転の機動が速い。

 独自の剣術をマスターしているアサシン系の能力者か。


「スキル喰いも効かなかったし、<オアネスの紐>――! 【未開スキル探索教団】として、捕まえたいけど……」


 ウノは金色の瞳を輝かせながら、両手から赤紫色の焔を宿す紐を周囲に展開。

 その紐に触れた魔族は、触れた部分が赤紫色に変色。


 魔族は動きを止めていた。


「――職の神レフォト様もお望みってか?」


 動きを止めた魔族に、リックスの<導魔術>だと思われる魔線と繋がる短剣が突き刺さる。

 リックスは柳の葉が揺れるようなしなやかな動作から、前傾姿勢になると、前転しながら短剣が突き刺さった魔族に近付く。

 そして、銀剣が生える手首を前に押し出し魔族の頭部へと、その銀剣を向かわせる。

 銀に煌めく刃が、魔族の頭部を捉えた。


 魔族の頭を豆腐でも突き刺したように貫く。

 彼専用の兜といいイケメンが作る表情と動作は素直にカッコいい。


 俺も神剣サラテンを手首から中途半端に出して、真似をしようか。


『器よ。余計なことは考えるな。それより、あの植物魔族の血を妾に捧げよ』


 俺の思考を読んだようにサラテンから突っ込みが来た。


『そうアピールすると、逆に出番はないかも』

『ぐぬぬぬ、器なんてしらない!』


 急に可愛らしい口調でいじけるサラテン。


「――リックス! わたしは探索教団に所属はしているが、レフォト様の眷属になった覚えはない!」


 アレイザが剣を振るいながら叫ぶ。

 リックスは側転からの後方回転中だ。

 両足を伸ばして魔族にドロップキックを喰らわせてから、華麗に立ち上がりつつ、左右へと両手を伸ばす。

 左右の位置に居た魔族の首に彼の手首から生えていた銀剣が突き刺さっていた。


 そのままリックスはアレイザへと顔を向けるように体を横回転。

 二人の魔族の首を捻り切りながら――、


「――アレイザ、そう怒るなよ。神界の神々(セウロス・ホスト)に連なる仲間だろう? ちゃんと戦神教の戦巫女だってことは分かってるさ」

「戦神イシュルルの戦巫女だ。宗派があることは知っているだろう?」


 ヴァイス以外にもイシュルルという戦女神が居るのか。


「それよりも、この樹海の根から次々と出現が続く魔族たち――いっこうに反撃しねぇし、殆どが、頭を下げ続けたままだが?」


 にやりとしたリックスはアレイザに向けて、片目を瞑りウィンクを繰り出した。

 口説いている最中だったりするんだろうか。


「リックス、動きは止めないでいいから。あの槍使いたちが掃除をしているように、わたしたちも逃げ道の確保をしないと! このまま敵の掃除を続けるわよ――」


 睨みを強めたリーダーのウノが後方へスクロールを放り投げると、そのスクロールが閃光を発し爆発。

 爆発以外にも中空に小型の円環体が現れる。

 小型の円環体は、地中から虫が湧くように出現する魔族たちを、上から押さえつけると、逃走ルートができていた。


「おう」


 彼らは巧みな連携で周囲の魔族を一掃しながら逃走ルートに向かう。


「しかし、湧くのが速いぞ。この不可思議な樹木魔族たちは、左長に要報告だ」


 リックスが語った刹那――。

 樹木系とは違う魔族が、油断していたリックスへと拳を突き出した。

 しかし、二槍使いのマレガが、その動きに対応し、拳を繰り出してきた魔族の腹に回転蹴りを喰らわせて吹き飛ばす。


「――マレガ、ありがとう」

「当然だ。しかし、あの冠を頭に備えた植物魔族は、普通じゃない。退くのを急ぐぞ」

「水と巨大魔獣を操る槍使いはどうする」

「非常に気になるけど、さすがについでに捕まえられる相手じゃないのは分かるでしょ? だからマレガの考えに賛成。貴公子の件も含めて左長に報告しないとだし」


 【樹海狩り】たちの撤退する動きを察知したサーダイン。

 両手にフランベルジュ型の剣を召喚する。

 そのフランベルジュの切っ先を【樹海狩り】のメンバーたちに差し向ける。


 新しく誕生し続けている樹木魔族たちはモーゼの十戒を起こすように左右に退き、サーダインに道を作った。


「小生意気な人族! 眷属たちを屠っておいて逃げられると思わないことね――」


 サーダインは叫ぶと、魔族たちが作った道を前傾姿勢で駆けだしていく。

 【樹海狩り】のメンバーたちは絡んできたが、中には美人さんたちがいる。


 助けよう――と、魔闘術を全身に纏う。

 血を纏う魔脚の<血液加速>で駆けた。

 同時に<鎖>を操作――。

 両手首の<鎖の因子>のマークから飛び出た<鎖>が、梵字の文字を輝かせながら、上下左右の宙空のあちこちで交差しながら、頭部が前のめりに項垂れているような魔族たちの胴体をそれぞれ貫き切断していく。


 梵字の輝きを発している二つの<鎖>を消去した。サーダインに向けて跳躍しながら魔槍杖バルドークを<投擲>――。


 不意を突くことに成功。

 サーダインの腹に紅矛が突き刺さった。

 その女王サーダインに向けて前進――。


「――ぎゃぁぁ」


 悲鳴を発しているが構わず――。

 サーダインとの間合いを詰めた直後――。

 そのサーダインの腹に突き刺さった魔槍杖バルドークの後端を蹴るように右足の裏で押す。

 更にサーダインの腹に深く突き刺さった魔槍杖バルドーク――。

 蒼い竜魔石の石突が目立つように魔槍杖バルドークがサーダインの腹に埋まったことを視認しながら、その魔槍杖バルドークの竜魔石を掴んで、魔槍杖バルドークを引き戻した。

 が、女王サーダインの腹にできた円形の傷は瞬時に塞がる。

 そのサーダインは睨みを強めながら俺の右肩辺りにフランベルジュを向かわせてきた。


 そのフランベルジュを下から迎え打とうと、コンパクトに魔槍杖バルドークを斜め下に振るった。

 新しい形の紅斧刃がフランベルジュと激突――。

 金属の不協和音が周囲に轟く。


「――その武器、わたしの剣を削ってる。だけど――」


 反対の手に握るフランベルジュで、俺の足を斬ろうとしてきた。

 跳躍し、フランベルジュの下段斬りを回避したが、サーダインは俺に合わせるように体を横回転させつつもう片方のフランベルジュを振り下ろしてくる。

 着地しながら魔槍杖バルドークを斜めに掲げて、そのフランベルジュの斬撃を左へと受け流す。

 そのまま魔槍杖バルドークの後端と軸足のバランスを意識した中段足刀蹴りをサーダインの胴体へと向かわせた。


 しかし、サーダインは中段蹴りに対応。


 そのサーダインは、下から上へと半円を描く軌道のフランベルジュで蹴りを往なした。

 体が右にずれたが、強引にサーダインの頭部を狙う、あの冠をまたぶった切る! 

 体を捻りつつ、その強い思いと回転の勢いを魔槍杖バルドークに乗せ、魔槍杖バルドークを振り下ろした――。

 サーダインは両腕の手が握るフランベルジュを眼前でクロスし防御を固め、魔槍杖バルドークの紅斧刃を、その×で受けきる。

 紅斧刃とフランベルジュの衝突面から激しい火花が散って、俺とサーダインを照らす。

 火傷を負うが構わず、引いた魔槍杖バルドークで素早く<水穿>を繰り出した。


 水蒸気を纏う新しい紅矛と紅斧刃がサーダインの胸元に向かう。

 が――横にサーダインは嗤ったように表情を変化させながらフランベルジュと衝突し<水穿>は防がれた。


 サーダインは、フランベルジュを縦から斜めへと動かして魔槍杖バルドークを往なす。


 しかし、螺旋状に変化を遂げている水蒸気を纏う魔槍杖の穂先が、火花の散るフランベルジュの機動を追いかけるように螺旋した刃の一部に引っ掛かった。

 そのフランベルジュを外へと弾き飛ばすことに成功。

 即座に魔槍杖を握る右手を引いて、下段の<牙衝>の突きを繰り出す――。

 が、サーダインは笑みを浮かべながら凄まじい速度で前進。


 魔槍杖の穂先が、大腿部を掠める。

 が、前進してきやがった――<牙衝>を避けたサーダイン。


 難なく俺の懐に入り込んだサーダインは片手で握るフランベルジュで、俺の腹を狙う。

 急ぎ<鎖>を纏った左拳で対処――。


 え? 目論見が外れた。

 サーダインは波の形をしたフランベルジュの剣身に魔槍杖の中部を引っ掛けてきた。

 サーダインはフランベルジュを回し、逆に、俺の魔槍杖を強引に回転させてくる。

 無手の片腕でパンチを繰り出すモーションを見せてから、魔槍杖を掴んできた。


「――ふふ、剣だけじゃないの!」

「そうみたいだな」


 俺は、拳に巻き付けた<鎖>を消去。

 迅速に、魔槍杖の柄に左手を添えて、紫色の柄を両手で握る。

 サーダインが握るフランベルジュをルシヴァルの力で押さえようとした。


 サーダインの視線とかち合いながらの力と力の勝負だ。


 女王サーダインの剣術と近々距離戦の技術は高い。

 周りの魔族が女王と畏怖し平伏するだけはある。


「わたしに傷を負わせた槍斧は貰うわよ!」


 しゃきしゃきと喋るサーダインの銀と金の煌びやかな冠角が眩しい。

 彼女は、俺の魔槍杖が欲しいらしい。

 力で押さえ回転した運動力から俺を投げ飛ばし、そのまま魔槍杖を強引に取ろうとしているようだ。


 だが、そうやすやすと武器を取らせるわけがない。


「俺の槍組手は――」


 魔槍杖を消去すると同時に、「え?」と驚く声を発したサーダイン。

 拮抗したバランスが崩れたサーダインの胴体に、突き上げ気味の左拳から、右肘の打撃を喰らわせる。


「――げぇ」


 と、サーダインは口から魔息めいたものを吐き出す。

 続いて、心臓を狙う――。

 <白炎仙手>のモデルとなった魔力を集結させた貫手を繰り出した。


 魔力を纏った貫手が、サーダインの胸元の鎧の一部を貫く。

 ところが、サーダインから出血がない。


 貫手からもあまり肉のような感触はない。

 最後に、左回し蹴りをサーダインの鳩尾に喰らわせる。


「ぐッ」


 くぐもった声を上げたサーダインは頭を下げて、後退。


 俺は、


「師匠も驚いていたからな――」


 と、槍組手を自慢するように喋りつつ駆けた。

 モーションはドロップキック。だが、違う――。


 よろよろと後退したサーダインの角冠をへし折るイメージだ。

 サーダインの首に延髄蹴りを喰らわせた。


 アーゼンのブーツ越しの感触は硬い。

 サーダインは吹き飛ぶ。

 横回転しながら、多数の魔族たちと衝突。

 そんな魔族たちに支えられるようにサーダインは立ち上がった。


 そのサーダインは首の部分が、アーゼンのブーツの甲の形に窪んで変化していた。

 しかし、その首薙ぎを防ぐような首防具が、変化。


 白鳥の翼を模るように斜め上へと伸びていく。


 そのままサーダインは両腕を胸元へと掲げるように動かす。


 指で宗教印のマークを作った?

 ――攻撃か? いや、違った。


 サーダインの眼前に小型の魔法陣が浮かぶ。

 胸元にも釦の大きさの魔法陣が出現。

 続いて、臀部の前にも煌びやかな小さい魔法陣が現れた。


 縦に並んだ小型魔法陣たちの内側からサーダインへと魔力の雨が降り注ぐ。

 全身に魔力の雨を浴びたサーダインは樹皮鎧の胸部が膨らむ。


 首防具も含めて鎧と一体化したような新しい魔鎧となった。

 鋼とセラミックが融合したような材質だ。

 更に、両足から新しい鉄骨のような樹木が誕生し地面に突き刺さり、樹海の地と繋がる。

 サーダインは回復するつもりか。


「そんな回復を素直に見ているつもりはない――」


 そう喋りながら、キサラとエヴァへ向けて視線で合図。

 相棒はサナさん&ヒナさんを守っているから視界にはいない。


 俺は魔脚で地を強く蹴り前進――。

 同時に上級:水属性の《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を発動。

 続けて、懐から魔竜王製の短剣を取り<投擲>――。

 古竜の短剣の周りを《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》が巻き付くように螺旋回転しながらサーダインへと向かう。


 が、サーダインを守るように魔族が現れた。

 幾つもの角が飛び出ているようなヘルメット状の兜をかぶる魔族だ。


 牽制で放った《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》と短剣は、その魔族が振るった巨大な鉄槌と衝突し、あっさりと防がれた。


 ――構わず前進だ。


 鉄槌ごと大柄の鎧魔族を貫くイメージで牽制の突きから<刺突>を放つ。


「――女王様には触れさせない」


 魔族は左下から鉄槌を振るい上げた。

 牽制の紅矛の突きと合わせてくる。

 新しい紅矛を祝うように互いの衝突した箇所から火花が散った。


 ――だが、嵐を纏うような螺旋する紅矛の<刺突>は防げない。

 魔力を内包した鋼鉄か、樹木か、分からない巨大鉄槌を削った瞬間――。


 鉄槌は悲鳴を上げるように粉々となって弾け飛ぶ。

 その砕けた破片を、ヘルメがフォロー。


 鯰想の一部から無数に手が伸びて、その破片を掴むと体内に取り込んでいく。

 すぐに鯰の口から破片を飛ばし、ヘルメットが特徴的な魔族に衝突させた。


 ヘルメが巧くアシストしてくれた。


 その間に魔槍杖を右手から消失させる。

 続けて右手に魔槍杖を再召喚しようとした。


 が、武器を失った大柄魔族の動きは意外に速い――。

 ヘルメが放つ破片の礫を喰らいながらも前進してきた。


 俺との間合いを零とした大柄魔族。

 魔力を纏う右拳を繰り出した――。

 分厚い肩がぶれて見える。

 ――この近々距離戦に移行する速度は、他の頭を下げているだけの魔族とは一味違う。

 俺は体を左に移動させながら――。

 左手から<鎖>を射出。

 魔族の右拳を<鎖>でぶち抜く。

 更に<鎖>を絡ませた。


「ぐあぁぁ」


 <鎖>を収斂。

 当然、<鎖>が絡む右腕が真っ直ぐに伸びた大柄魔族。

 俺は、その魔族の右腕を掴むと、両膝で地面を突くように腰をわざと落とす。

 大柄魔族も右腕が引きずられる形で、突っ伏すように体勢を崩した。

 俺は<鎖>を消去しつつ、魔族の右腕を握りながら樹海の地に背中をつけるように横回転。


 回転した勢いで、大柄魔族の右腕を捩り折る。


「ぐおッ」


 大柄魔族は背中から地面と衝突――。

 俺は立ち上がりながらインステップ蹴りを繰り出した。

 アーゼンのブーツの甲部分が、大柄魔族の脇腹を捉える。


 感触は凹ませたと分かるが、硬い。


 大柄魔族は蹴りの衝撃で地中の根を削り飛ばしながら転がった。

 サーダインの足元で止まる。


「……」


 部下が攻撃を受けたサーダインは双眸を光らせる。

 念のために少し間合いを保った。


「ん、サージロンが通じない? この新しい二人の魔族はサーダインの側近?」


 エヴァの声だ。

 俺が戦っている間にサージロンの球を飛ばしていたらしい。

 黒雲から黒雨を浴びたのか、色が変わったサージロンが地に落ちていた。


 頭に小型の黒雲を浮かせた魔術師魔族が不思議な防御技を繰り出したらしい。


「だろうな、あの鉄槌魔族と同じだろう」


 黒雲を扱う魔術師系の魔族は、頭の上に小型の奇妙な黒雲を浮かせていた。

 すると、その黒雲の一部を盾状に変化させると、女王を守ろうと前に出る。


 俺は魔槍杖を召喚。魔術師魔族をやるか?

 と、思ったタイミングで、中空から急角度で降りてくるキサラが見えた。


 魔女槍の<刺突>系の技を魔術師魔族の頭へと繰り出した。


 しかし、魔術師魔族は鶴のような細い首を伸ばし、避ける。

 魔女槍の後端が迫っても、体を回転。

 華麗に四天魔女のキサラの攻撃を躱した。


 魔術師系魔族は、ひょろい体を活かす機動だ。

 黒雲を体に纏いつつ、キサラが次々と繰り出す鋭い突き技を避けていく。


 髑髏穂先が悔しそうに微かな金属音を響かせた。

 ダモアヌンの髑髏穂先から血が舞う――。

 空振りが多いのは、珍しい。


 避け続けている魔族から樹木と黒雲が散る。


 突技と薙ぎ払いを黒雲の盾で弾きながら、キサラの連撃を防御。


 体がくねくねと動きつつも、器用に退く動きは、魔族ならではだ。

 その魔術師系魔族とキサラは右辺へと離れていく。


 ロターゼも虎視眈々と上空から攻撃の機会を狙うが、攻撃は加えていない。

 闇鯨ロターゼは図体がでかいうえに範囲攻撃が多いからな。

 キサラを巻き込むわけにはいかないのだろう。


「女王様から頂いた破壊の槌が、逆に破壊されるとは……」


 俺の蹴りを喰らっていた大柄魔族は立ち上がった。

 サーダインが手を翳し、枝の模様の魔力をその大柄魔族へと与えている。

 そのサーダインは回復を終えたようだ。


「回復したか」


 俺の問いにサーダインは頷く。

 彼女は女王らしくない怯えた眼差しで魔槍杖のことを見つめていた。


「……当然でしょう?」


 サーダインの声は震えている。

 蜘蛛の多脚のような角冠を確認するように指で触りながら、


「でも、その混沌(カオス)な武器は何? この角冠を斬り、知記憶の王樹キュルハ様と破壊の王ラシーンズ・レビオダ様の血と魔力を吸収して、形も変化? そして、ドゥルガーの武器をも破壊するなんて……」


 驚き桃の木、なんとやら。

 違うか、魔槍杖バルドークだな。

 俺の精神をも喰らう勢いで成長している愛用の武器――。


 ――魔槍杖バルドークを持ち上げ、新しい形の穂先を凝視。

 紅矛は様変わり、紅斧刃の幅のまま、その刃が螺旋している。漏斗雲的か。


 螺旋した刃が渦を巻く、ドリル的でもある。

 嵐の雲ような矛か。

 嵐雲といったほうがいいかもしれない。

 凄まじい具合の武器となった。


 神話(ミソロジー)級に進化したかもな。


 穂先は変化したが、魔槍杖バルドークの握り手の位置と後端は変わらない。杖的な意味もある竜魔石の大きい水晶の塊もそのままだ。


 すると、大柄の魔族が、


「女王様は俺が守る……」


 そう発言。

 その大柄の魔族は、ヘルメットのような兜と鎧が繋がった一体型のコスチューム鎧を身に着けていた。


 武器は、鉄槌の柄を左手で握るが、右腕を力なく下げている。



 彼の頭はヘルメット状の塊だ。

 眼球らしき位置は窪んでいるが、なんとなく視線は分かる。


 硬そうな全身を覆う樹鎧。

 厳つい魔族は、魔力を外に放出していない。


 デルハウトのような強者?


 その格好から、天凛堂の屋上で戦った影翼旅団の鎧男を思い出す。

 

 そこにキサラから距離を取った魔術師系魔族が、サーダインの下に戻ってきた。


 大柄魔族の横に並び立つ。


「ドゥルガー、ネウレウル、横にずれなさい」


 威厳のある氷を宿したかのような女王サーダインの声。

 部下たちはそんな声を発した後ろに根をおろしているサーダインへ向けて頭を傾けた。


「……」


 サーダインの命令に素直に従う助さん格さん風の魔族たち。


 サーダインがネウレウルと呼ぶ魔術師タイプの魔族を少し注目。


 エヴァの攻撃を凌いだ黒雲から黒色の俄雨を樹木製の頭蓋骨に浴びている。

 意味があるのか分からないが、人に近い体を左右にゆすっていた。

 長細い四腕もゆらゆら揺れている。


 指の数は親指を含めて四本……。

 一つ一つの指は歪で太い。エイリアンっぽい魔術師系か……。

 襟には煌めく魔宝石が嵌まっているのか、石が水色に輝いている。

 そして、布と木材を接ぎ合わせたような不体裁な服装を着ていた。


「――シュウヤ様、仕留めきれず、すみません」


 キサラがそう語りながら戻ってきた。


「ん、気にしない。わたしも同じ」


 エヴァとキサラは頷き合う。

 エヴァは眷属だから当たり前だが、友というか、恋人というか、同志という感じで頼もしい二人だ。


 さて、観察は終了だ。

 まずはサーダインの質問に答えようか。


「……これは魔槍杖バルドーク。魔竜王の素材に造られた。禿げの優秀なアイテム鑑定師によると、伝説(レジェンド)級だった。それからも色々な血と魔力を吸収し続けていたようだ。で、お前の血と魔力がきっかけで、魔槍杖バルドークは更なる進化を遂げたようだ」


 この新しい魔槍杖バルドークの力を引き出すとしようか……。

 俺の精神を喰らう魔槍杖に語り掛けるイメージを持ちながら、<瞑想>を意識。


 その途端、魔槍杖バルドークの嵐雲の矛の表面から髑髏模様と魔竜王と似た魔力を発した。


 続けて、鱗を纏ったオーラの形は、俺の魔力を吸収しながら次々に形を変えていく。


 邪獣セギログンに一尾の邪神シテアトップの姿……。

 見たことのない歪な怪物たち。

 更に集中したところで、


「シュウヤ様、魔槍杖バルドークの魔力と一体化……」

「ん、血鎖鎧のようなシュウヤ! あの幹部たちはわたしたちが担当するから、女王を倒して」

「あぁ……」


 と、力のない言葉をエヴァとキサラに返す。

 吸血鬼(ヴァンパイア)の血の枯渇を覚えながら、力を魔槍杖バルドークから感じた。

 不思議だ。


「ンンン、にゃぁぁ」


 ロロディーヌの大声も背後の遠くから聞こえた。

 ロロは顔を上向かせて、朝になろうとしている明るい空に向けて、吠えているのかもしれない。


 よし、()()(テン)を使いこなせたんだ。この真・魔槍杖バルドークもスムーズに扱ってやる。


『妾に何か言ったか?』


 サラテンの声が響く中、無視して歩む。


 その瞬間、魔槍杖バルドークから血と紫が混じる魔竜王の幻影と闇色の魔力が拡がった。


 腐葉土のような匂いが鼻につく。


『人外ヲ喰ラワ、セロ』


 と、脳内で声が聞こえたような気がした。


「何だ? 闇の古竜だと?」 


 <始まりの夕闇(ビギニング・ダスク)>とは違うが、似たようなものか?


 その魔竜王の幻影に身を委ねるわけではないが……。

 魔槍杖バルドークに俺自身が喰われる感覚を維持。


 鼓動を感じる魔槍杖バルドークから……。

 俺の右前方を血煙のような闇と紫と紅の魔力嵐が、旋風となって吹き荒れる。


 魔槍杖バルドークに魔力を吸われた。

 自然な動作のつもりだったが、腰を捻り、右手をも捻りつつ……。

 丹田を意識した魔槍杖バルドークを打ち出すモーションを取った状態で――。


 瞬時に女王サーダインとの間合いを詰めていた。


 唖然とした女王サーダイン。

 女王サーダインの部下たちは紅蓮の嵐に巻き込まれ吹き飛んでいた。

 闇色の魔力の魑魅魍魎群と、紫魔力の魔竜王の頭部が互いに互いを喰らい合うように、無数の紅蓮火炎の嵐を巻き起こす螺旋した紅矛がサーダインの胴体を穿っていた。


 女王サーダインは悲鳴を上げることなく――上半身が消失。


 下半身の樹は溶けて、地面と繋がった。

 その途端、周囲から沸いていた樹の魔族たちは消失。


 ※ピコーン※<紅蓮嵐穿>※スキル獲得※


 おぉ、魔槍杖バルドークの新技だ。

 まさに人外喰らいの魔槍杖バルドークだな。


HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。20」発売中。

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