三百九十九話 魔槍杖バルドークの変化
日本語を用いて皆に分かりやすく上で起きた争いの顛末を報告。
「君が助けてくれたのは分かったが、何を話しているのかさっぱりだ」
「わたしも分からない。だいたいなんで空を飛べるのよ? 巨大な獣も重力を無視して空を飛んだり近くをのしのしと歩いたり、怖いんだけど。肉球は可愛いけどね」
と、皆の言葉は前に説明した時と変化がない。
時折、軍服が似合うサナとヒナが俺の説明を分かり易くするため彼女たちなりの転移に関しての考察を加えてくれていた。
しかし、柔軟性のある思考を持つ方は少ないようだ。
受け入れようとしない意見が大半だった。
異世界だし無理もない。が、現実を受け入れ適応できなければ……。
彼も彼女も死が待つのみ。
と、思った直後――。
添乗員の服を着た女性とスーツを着た男性が不自然に宙へと持ち上がる。
すると、ふくよかな胸の搭乗員とスーツを着た男性が絶句。
搭乗員とスーツを着た二人の胸から植物の枝が生えていた。
「え?」
「ぐあぁぁ」
「いやぁぁぁぁぁ」
「なんだあれはぁぁ」
皆、悲鳴を上げた。
しかし、魔素の動きが分からなかった。
攻撃の気配もなかったが……。
『枝? 閣下、未知の攻撃です、皆が……』
左目に宿るヘルメが指摘するようにサナとヒナ以外の全員の胸元から先端が鋭そうな枝が生えている。樹の触手か?
背後を確認――。
そこにも放射状に展開されていた枝のような触手の群がいた。
今も蛇の頭のような先端がこちらを襲おうとしているように動いている。あれで皆の背中を貫いたのか。
『樹と同じ魔素の質、これは分からない!』
『警戒していたが、奇襲を喰らうとは』
サナとヒナは無事だから良かった。
二人の前に居る半透明の又兵衛が、今も見事な槍捌きで此方に飛来してくる触手の枝を斬っていた。
武人としての技量は高い。
又兵衛の前で、木の屑が舞い散っていた。
乗客たちを死に至らしめた触手のような植物の枝の遠距離攻撃は、俺と相棒には来ていない。
「ん、魔素の気配がなかった」
「エヴァは何ともないな?」
「うん。見ての通り」
エヴァが言うように、エヴァの能力、紫色の<念動力>の魔力が、植物の枝の触手を掴むように防いでいる。
背後に放置気味だったアイアンメイデンと化した女魔界騎士にも遠距離攻撃は飛来していない。
左と右に並ぶ沸騎士たちにも攻撃はなし。
キサラはダモアヌンの魔槍を構えつつ、
「不可解ですね」
「あぁ、あいつは不気味だ……」
右後方のキサラ&ロターゼが警戒しながらの言葉。
そのキサラたちにも、植物の枝による遠距離攻撃は来なかった。
すると、助けた方々の体を貫通していた枝の触手たちが引いて一つの太枝になるように融合しながら樹に収斂し同化すると、その樹の太い幹から女性の頭部が生えた。
植物の葉と樹皮と人肉で構成されているような印象。
女性の一対の眼球が剥いた瞬間――。
モデルのような長細い足が一瞬で形成された。
全体の皮膚の色は茶色系。
表面がネームスの樹皮と少しだけ似ている。
二本の足で歩きながら樹から離れた女性は、植物魔族。
ひび割れたような自らの樹の唇が、
「――ふふ、この人族たちって力がないのね。変わった服を着ていたし変な言葉を話していたから興味を持ったけど、つまんないわ」
甲高い声だ。
カメレオンとか蛸と同じように姿を樹に擬態化していたのか?
あ、もしかしてトレント系の亜種か?
魔境の大森林に棲んでいた〝タマタマ欲しい〟とか語っていた樹木生命体系の種族か?
だが、違うな。
女性の頭部だし、魔族を捕食していた樹木モンスターとは姿が違いすぎる。
「それはそうと槍使い。そこの黒い獣は凄いのね。姿を小さくもできるみたいだし? さっきも空から私しか使えない古代魔法をぶち当てようとしたんだけど、あっさりと避けられちゃった」
女性の姿の植物魔族はそう話をしながら、片腕の枝触手を斜め下へと伸ばす。
添乗員の死体に先端が鋭い枝触手を突き刺していた。
そのまま突き刺した搭乗員の死体を自身の真上に持ち上げると、「あーん」と声を発しながら、ひび割れた唇を余計に裂くように口を拡げて死体を飲み込む。
それは蛇が獲物を飲み込んだ直後のような姿だ。
喉元を膨らませて「ごくッ」と音を響かせていた。
「……血肉はあまり美味しくないけど、まぁ肉だし、いいかな」
悪びれる態度じゃない。
ごく自然にでた言葉だと分かるニュアンスだ。
しかし、『古代魔法をぶち当てようか』か……。
俺たちに向けて巨大土礫を放ってきた植物系の魔族だな。
そういえば、土礫を周囲に発生させながら、巨漢黒兎シャイサード、時獏と骸骨魔術師のハゼスやら、キャタピラー脚を持つ魔族と戦っていた。
ホフマンの部下たちと神界のブーさんたちにも土礫を衝突させていたし、気まぐれな死蝶人タイプの魔族か。
女性の姿の植物魔族の行動から、そんな心理的分析をしたが……。
そう思考した直後、うつ伏せ状態で倒れていた男性の死体がゆらりと立ち上がる。
それは上から無数の透明な糸が死体に付着して上に引っ張るような……。
マリオネット人形のような動き。
死体の男性は俯いていた青白い顔を上向かせた。
死んでいる男性の目が怪しく輝く。
男性が着ている服は汚れたスーツ姿のまま。
しかし、全身に茶色を帯びた魔力を纏うとスーツの服の一部を突き破って樹皮が出現した。
それはドラゴンの鱗を思わせる樹皮。
先端が尖っている、その異質なドラゴンのような樹皮はウェーブした。
死んだ男性は不気味な樹皮を持つ人型魔族に変身したらしい。
他の方々も蘇るように立ち上がってきた。
「……おい。皆の死体に何をしたんだ?」
「変化よ。わたしの樹液は知記憶の王樹キュルハ様の力と破壊の血が混ざっているからね」
「……キュルハ様の力? ハーヴェスト神話に登場する王樹キュルハの根と同じ血を持つというの? では犀湖の地下にある根と関係が……」
キサラは動揺を示す。
「犀湖の奴とは直接は関係ない。でも親戚? と言えるのかな?」
「キュルハに破壊の血が混ざっている?」
と、俺が尋ねると植物系の彼女はゆっくりと頷く。
そして、嗤うように口が裂けて拡げる。
拡がった口から「ぺっ――」と唾を吐くように、飲み込んでいた搭乗員の体を吐き出した。
吐き出した搭乗員の死体も濁った茶色の血が混じり魔力を纏っている。
すると、その搭乗員の死体は背筋が曲がり、不自然な姿勢でゆらりと立ち上がった。
その不自然な動きは、皆と同様だ。
やっぱり、人形師の扱うマリオネット人形のようにも見える。
この女性も立ち上がった男性と同じように……樹皮が変質していた。
植物の枝のようなモノを体のあちこちから伸ばしては、双眸に魔力を宿す。
「……そう。破壊の血よ」
「なんだよ、その破壊の血って。ヴァンパイア系の力も持つのか?」
女性の姿の植物魔族が語る破壊の血がこの蘇った死体たちを動かす力なのか?
ゾンビか?
「ん、もしかして……」
エヴァは感づいたようだが。
「死体たちが蘇っていきますが……」
「一掃していいんだよな?」
キサラとロターゼは戦う準備を始めていた。
闇鯨のロターゼは、俺たちが食事を提供しながら一生懸命に説明を続けていた人々と知っているだけに『この人たちのことを本当に殺していいのか?』と暗に聞いてきた。
「まだ、手は出さないでいい。だが、やるときはやっていい」
と、俺は制止させるが、一応、準備はしとく。
「……ゾンビ映画をリアルに見るとは……」
「ヒナ、側から離れないで、又兵衛なら切り抜けられる」
サナとヒナはそう語りながら、互いに頷く。
彼女たちの瞳には、生き延びてやるといった力強い意思が強く感じた。
「破壊の血とは、破壊の王ラシーンズ・レビオダよ」
俺たちの行動を見つめていた女性の姿の植物魔族は、素直に語る。
「ん、魔界の神々の一柱……【牙城独立都市レリック】のさらに東の……ママニの故郷があるフジク連邦内で、その破壊の神の使徒が暴れていると聞いたことがある。使徒は〝侵略王六腕のカイ〟と呼ばれているとか」
「虎獣人の故郷を破壊した奴か。確かに<従者長>のママニが戦場の経験を色々と語ってたな」
「だから、その関係者?」
エヴァはそう分析したらしい。
というか、思い出した。
ドナーク&ジクランの英雄の話を。
俺とヴィーネが市場街でバニラビーンズを買った時だ。
東マハハイム地方で起きた英雄話を店の主人から聞いていたんだった。
「……お前は、破壊の王の眷属か。使徒の一人ということか」
「違うわよ? だれにも従うつもりはないし、使徒じゃない」
え? 違うのかよ。別種か。
しかし、この一瞬でゾンビのような眷属を作り上げる力を持つとなると……。
「匂いがあってもキュルハの使徒ではない?」
キサラは呟きなら魔女槍を構える。
そういえば、黒魔女教団の信仰の対象にキュルハの存在があったな。
しかし、植物といえば……邪霊槍イグルードだが、やはり、
「トレントか?」
「なにそれ、種族なんてどうでもいいじゃない~」
この女魔族も『つまらない~』という感じに喋る。
こいつはイグルードが繰り出したような……。
精神か、空間系を把握し、相手に混乱を植え付けるタイプの能力を持つんだろうか。
「確かにどうでもいいが、人を殺す理由にはならねぇな?」
と、召喚していた魔槍杖バルドークの紅矛を差し向ける。
色合いはイグルードと少し似ているが形は異なる……。
古代魔法を使ったと語っていた。
あの魔法は自由度が高く、高度な魔法だ。
そして、先ほどの遠距離攻撃を気取らせないサイレントの触手攻撃……だからどんな魔法かスキルを繰り出してくるか、予想はできない。
「は? 何様よ。ふざけた思考ね――」
機嫌を悪くした植物の女性魔族は細長い左腕を右上へと振ると、その腕の動きとリンクするように魔力を帯びた死体たちが蠢く。
俺たちに襲い掛かってきた。
――死体の動きは速い。
急ぎ魔槍杖バルドークを傾け紅斧刃の角度を調整した。
角度を変えた魔槍杖バルドークから、かすかな金属の音が発生。
その魔竜王バルドーク下から上へと振るう――。
目の前に迫った搭乗員女性ゾンビの臀部に紅斧刃が衝突した。
そこから一気に搭乗員だった死体を紅斧刃で持ち上げるように縦に真っ二つ。
ざっくりと左右に分かれた肉塊から首元をチェック――。
蟲が現れることはなかった。
『閣下、出ますか?』
『いや、まだいい』
血を吸いながら――。
こいつらは邪神ヒュリオクスの眷属ではない。
と、考えた瞬間、
「――シュウヤ、ごめんね。せっかく、助けた人々だったのに――」
エヴァがサージロンの球を展開――。
五つのサージロンの球は神剣サラテンを彷彿とさせる凄まじい勢いで、宙を行き交うと死体たちへ向かう。
エヴァは悲し氣な表情を浮かべている。
今まで生きていた助けた方々だからな。
エヴァの扱うサージロンの球は、スロザのアイテム鑑定では伝説級だが、神話級の武器のように強烈なモノだった。
<筆頭従者長>の血魔力もサージロンの球の威力が上昇している結果だろう。サージロンの球は横に並び立つ樹ごと中年男性ゾンビたちを潰すように圧殺。
エヴァは飛翔したゼロコンマ数秒の間に、己の足と靴を溶かし、別種の生き物のように操作する。
靴のバックファスナーの金属と銀の鋲も溶けて部品と化した。
骨の足に、わずかに付いていた金属も溶けると、部品と化した。
それら金属の部品が一瞬で魔導車椅子の部品と成る。
骨の足の魔印が煌めいた瞬間、金属が部品が組み合わさっていく。クリスタルの振動を活かしたような動きを繰り返していた金属と樹製のパーツが車輪にはめ込まれると、魔導車椅子が完成した。
魔導車椅子が完成に至るまでの経過は一瞬だったが、面白い。
セグウェイモードをショートカットした金属が組み上がる動きはモビルアーマーが飛行形態に移り変わるように見えてカッコ良かった。
エヴァは今までとは異なる新品の魔導車椅子に座ると、ひじ掛けに両手を当てながら紫魔力を体から発して、その紫魔力を上下左右へと拡げた。
そして、新しい魔導車椅子の翼のハンドリングの内の若干盛り上がった両側の車輪に細長い溝が発生した。
その細長い溝の中から、次々と円盤のような金属が勢いよく宙へと飛び出ては、車輪から白色杭刃、緑色剣刃、割れたガラスのようなモノ等の様々な形の金属も飛び出た。
それぞれの飛び出いく金属の形は異なるから、それに似合った穴が車輪に生まれていたが、直ぐに閉じている。
それぞれにバラバラだった金属の刃が動きを揃える。
エヴァは紫魔力を纏った金属の刃の群を形成。
まるでイワシの小魚が集まった姿。
そう、ベイトボールのような塊にも見えた。
その意識があるような金属群が、死体たちへと襲い掛かっていく。
エヴァの<念動力>で操作している金属の刃は速い。
しかし、ベイトボールとは捕食者から逃れるために作る球形の群れだったが、エヴァの扱う金属の群れは逆だな。
完全なる捕食者側だ。
獰猛なシャチの姿を彷彿とさせた。
腹が減ったシャチが、鮫や鯨を襲うように蘇った死体たちを貫くどころか、血肉をすり潰しながら衝突を繰り返す。
凹凸した根が広がる地面を削り、土を掘り下ろし、耕す勢いだ。
俺の白炎仙手が可愛くみえる規模。
あっという間に、蘇った死体たちは金属の刃に貫かれまくって、全滅した。植物の女性魔族にも、紫魔力の金属の刃の群が向かった。
植物の女性魔族は片腕を盾状に変化させて対応。
<筆頭従者長>としてのエヴァが扱う<念動力>が包む金属の刃を一つ残らず、盾で弾くように防いでいた。
「ん、硬い」
エヴァが珍しく不満を漏らす。
植物の女性魔族は盾を横にずらし、俺たちに茶色に濁った鈍い光を宿す双眸を向けてきた。
すると、エヴァの真下から植物の枝が地面から突出し、人型を形成しながらエヴァへと向かう。
エヴァは魔導車椅子に座りながら反応した。
「甘い――」
と、紫の瞳を鋭くさせながら涼し気な表情で語る。
<血魔力>を強めたのか魔導車椅子に血を纏わせていた。
血と紫色の魔力が煌めく魔導車椅子に座りながら一気に急降下。
瞬きもする間もなく魔導車椅子で枝の人型を上から押し潰す。
樹の攻撃を逆に圧殺していた。
「ん、どうして、わたしにだけ枝を伸ばしたの?」
「その椅子よ。グドラ樹の匂いが漂ったからね。でも驚き。神殺しの槍使い。知記憶の王樹キュルハ様のような匂いを漂わせる存在の槍使いだから、その眷属もやっぱり相当な強者……」
植物の女性魔族は語る。
奇襲染みた樹の枝のようで触手の攻撃を防いだことが、驚きだったようだ。
しかし、俺はキュルハと関係がないぞ?
それともこいつだけが嗅ぎ取れる何かが、ある。
知記憶の王樹キュルハと俺に何かがある?
多分、邪神シテアトップの一部の力を取り込んだことの影響を感じ取っただけか。キサラといい、植物の女性魔族も勘違いしているようだ。
一方、サナの前に居る半透明な武者が、左に移動し、植物の女性魔族の裏取りを行っていた。
十文字の矛を下に向けながらの歩法だ。
植物の女性魔族も鈍く光る双眸を武者へと向けている。
「不思議な恰好ね、何者? 魔力の質も見たことない、槍使いの親戚なのかしら」
又兵衛をそう評価したが、俺は黙っていた。
「ンン、にゃ」
黒豹型のロロディーヌは喉声を鳴らす。
相棒も皆と合わせるように地上戦を想定したらしい。
その黒豹の頭部を俺に向ける相棒。
可愛い紅色と黒色の瞳には、意思がある。
そんな可愛い相棒と視線を合わせてから『よし』と、頷いた。
その直後「ンン」と喉声を発した相棒。
触手骨剣で樹木の幹を刺す。
幹に突き刺した触手を胸元に収斂させ一気に体を幹に運ぶと、その幹を後ろ脚で蹴って、右の大きな枝の上に跳び移る。四肢の躍動感が半端ない。
黒豹のしなやかさを持った素晴らしい動きだ。
そして、あの枝の上なら、植物系の魔族を急襲できる。
その女性の姿の植物魔族が、
「……でも変ね。貴方たち見た目は人族? 魔族? 吸血鬼? でも魔力の匂いも他と違う。神界の戦士たちという感じでもないし、未知ね。破壊の血が疼いちゃう……」
光魔ルシヴァル。とは名乗らない。
「お前の言葉を借りるわけではないが、そんなことはどうでもいい。で、お前自身は戦わないのか?」
「どうしようかなー」
女性の姿をした植物魔族は、魔力を内包した双眸を斜め上に向ける。
考えている素振りか?
俺は魔槍杖を召喚し、左の掌を植物系の魔族へ向けて翳す。
右手の魔槍杖を斜めに構えて……半身の姿勢を取った。
風槍流の構えだ。
「うあ、変な武器! 古代竜……ううん、姫魔鬼メファーラ? あれ? 魔界の神々? 身の毛がよだつ古代神の紋章魔力もあるし、虎の形のした魔力もある……」
女性の姿の植物魔族は魔槍杖をそう分析した。
俺は、
『ヘルメ、〝目〟を貸せ』
『アッン』
ヘルメの精霊の目で見てもあまり変化はないか。
回りに生えた樹木と温度の差はない。
こうなると……。
さっきの奇襲、エヴァにも繰り出した枝触手の攻撃は有視界で察知するしかないか。
「……怖い、皆が……」
「ヒナ、わたしの側から離れないで」
「はい」
サナなら十二名家とやらの魔術師だ。
美爪術とか俺の知らない魔術や御守様の又兵衛で対処は可能と判断するが、
「ヒナとサナ、素直に助かりたいと思うなら、もっと下がれ」
二人はそそくさと俺たちの後ろに移動していく。
高い位置にいた黒豹姿のロロディーヌが跳躍――。
ヒナたちの下に着地すると彼女たちを守るように側を歩く。
半透明の武者も、サナたちが後退する動きに合わせて、彼女たちを守るように女性の姿の植物魔族の左の位置から離れ距離を取った。
又兵衛は、近くを歩くロロディーヌを視認して頷く。
「ンン」
相棒は鳴くと、触手の数本をサナとヒナが歩く方向へと伸ばす。
又兵衛に対して指示を出したのか?
俺も、
「沸騎士たちも防御を意識しながら、サナとヒナを頼む」
「承知。ロロ殿、待ってくだされ。その半透明の生意気そうな槍使いは、我らの新しい部下ではありませんぞ」
「ロロ殿、指示には私たちにお願いしますぞ! お忘れなきよう――」
骨盾と骨剣を衝突させながら歩く沸騎士たちは気合を入れるように喋る。
その沸騎士たちと黒猫の行動を観察しているようにも思える又兵衛の視線。
又兵衛にも意識がある?
又兵衛は半透明の姿で面頬も装着。
だから、尚のこと表情は分からない。
目の下に備えた頬当てが少し盛り上がった形で特徴的だ。
一方、女性の姿の植物魔族は又兵衛を興味深そうに見ているだけだ。
距離を取ったサナとヒナやロロディーヌたちに追撃はしてこない。
女性の姿の植物魔族は、『どうしようかな』と語っていたように、本当に攻撃を迷っているのか?
が、さっきエヴァに対して攻撃を仕掛けてきたことは事実。
サナとヒナがいるが、助けた人々も殺されてしまった。
だから、今度は俺から奇襲してやるか。
と思った時――。
魔素を右から感知。
思わず、右の端を注視した。
そこは樹木の葉が茂った場所、魔素の反応はその奥、幹と幹の間からだ。
『閣下、右から新手でしょうか?』
「右の敵はわたしにお任せを」
「ん、シュウヤ、右」
キサラとエヴァの指摘通り、その幹と幹の枝を切り取るように人族たちが現れた。
「新手か、潰そうか?」
潜水艦のような闇鯨ロターゼが、その分厚い胴体で圧し潰すか、聞いてきた。
キサラじゃなく俺に許可を求めてくるところは、ロターゼも一応は俺のことを認めているらしい。
ロターゼは額を膨らませていた。
「いや、敵じゃないようだ」
俺はそう話して皆の行動を止める。
「あの巨大鯨より、植物女の新魔族!」
「横取り王道! 〝刃状の型〟で攻めるわよ。」
「了解、貰っちゃう~!」
「いくぞ――」
人族たちが各々宣言を行いながら突進。
その中の男性の一人が、薄青色の魔力に包まれた二つの灰色短剣を<投擲>した。
灰色短剣の柄頭の先端から魔線が伸びて直進する。
女性の姿の植物魔族の体に、その特別そうな灰色短剣が突き刺さった。
それを合図といったわけじゃないが――。
穂先が二つある鋼鉄製の槍を両手に持つ男性。
短杖を持つ女性。
長剣と丸盾を持つ女性。
戦士と魔法使いの集団が一糸乱れぬ動きで――。
ボス的な、女性の姿の植物魔族へと襲い掛かっていく。
杖を持った女性は後詰の形だ。
中衛、強襲前衛の位置にいた薄青色の魔力を纏った灰色短剣を手に持つ男は、その灰色短剣と自身の魔力と繋がっている魔線を操る。
女性の姿の植物魔族の体に突き刺さった短剣にロープはないが、そのロープ的な魔線を引き戻すように手元に引く。
自身の周りに薄青色の魔力を纏う短剣を展開させた。
二つ短剣と繋がるロープ的な魔線は<導魔術>か?
「え、体が……」
女性の姿の植物魔族は呟く。
青白い紋様が、短剣が突き刺さっていた場所に浮かんでいる。
魔法の短剣の効果か?
女性の姿の植物魔族は動けなくなったようだ。
「お前たちは何だ?」
俺は自然とそう聞いていた。
「……魔獣使いの槍使い。それはこっちの言葉だ」
疑問気に答えてくれた人族さん。
イケメンの男性だ。
兜は鉢と顎当てだけの特別仕様。
茶色の前髪と眉毛も茶色。片方の眉は切り傷でちょんぎれている。
双眸は綺麗な碧眼だ。その碧眼は俺の魔槍杖をチラッと見ていた。
鼻筋は普通ぐらいかな。
目元から頬にかけて、眉と同じ縦へと伸びる傷がある。
首の襟元には一対の鋲金具と繋がった綺麗な層の厚そうな鎧を着こむ。
革鎧と小札鎧の中間ぐらいだろうか……。
魔力を宿した鎧だから特別だろう。
雰囲気もある。
AとかS級の冒険者かもしれない。
まぁ、C、Dにも優れた者がいるから、こればっかりは指標にならないが
「……済まなかったな。まずは名乗ろうか。シュウヤ・カガリ。冒険者だ」
「ほぉ、冒険者ねぇ……」
「リックス? そこの槍使いより、今はこの人族たちを殺した魔族でしょう?」
茶色髪の男は、その女魔法使いの言葉に頷く。
「あぁ、そうだな。何もないよりはマシ!」
自身の灰色短剣を構え直す。
すると、女魔法使いが両手を中空へ掲げると、指先に魔力を込めながら魔法印字を描く。
その瞬間、植物の女性魔族の下に魔法陣が出現した。
「――貴公子の反応は消えてしまったし、こいつを捕まえないと、左長に何を言われるか……」
愚痴気味に話す女魔法使いより、魔法陣を注目。
魔法陣から網状の小さい環が発生し植物の女性魔族に付着した。
その付着した小さい環からエネルギーが放出されていく。
植物の女性魔族は、
「何これ、味わったことのない感覚~」
と、発言しながら自らの体を調べる。
余裕めいた喋りだが……体に浮かぶ青白い紋様と環の強引な動きは止まらない。女性の植物魔族は小さい環の力で持ち上り、背後の樹に移動し、幹と衝突すると、樹の太い幹に左右の手と両足が引き延ばされる形で磔にされていた。
リックスと呼ばれた茶色髪の男性が、
「さぁ、そのまま大人しくしてろよ」
と、発言すると、浮いていた灰色短剣を磔状態の植物の女性魔族へと向かわせると、女性の魔族に灰色短剣が突き刺さった。
続けて、二つの魔槍を扱う男が植物の女性魔族へと突進し、<刺突>系のスキルを繰り出し、胴体に槍が突き刺さる。
槍使いのスキルは鋭い。
デルハウトとは異なる二槍の<刺突>系の技術。
体を巡る魔力操作はかなりの域。
槍を握る左右の腕に流れている魔力をスムーズに魔槍に伝搬させている。相当に修練が必要なはず。
「……」
槍の連撃を喰らった植物の女性魔族は悲鳴を漏らさない。
痛みはない?
どころか魔槍の攻撃を喰らい続けながらも、体内の魔力が激しく行き交っては逆に力を溜め込んでいるような気配が窺えた。
植物の女性魔族の怪しい動きに感づいたのか、二槍を扱う男は退いた。
その退いた二槍使いの男に、
「……あんたらは何なんだ?」
と、聞くと、植物の女性魔族の眼窩に魔力が集中した次の瞬間、六芒星と五芒星が双眸に浮かぶ。
眼窩の奥から小さい魔法陣が回転しながら積層されていく。
『閣下、気を付けてください。魔力に樹木系の闇精霊、見たことのない精霊ちゃんたちが集まっています。先ほどの無音の枝の扱いといい亜神と同等の力を持つ魔族かと』
『了解した。<精霊珠想>だ』
『はい――』
左目から警戒を発してくれたヘルメの一部が浮かび上がる。
ヘルメの神秘模様が俺の左視界を埋め尽くす。
いつ見ても、<精霊珠想>は不思議だ。
……<仙丹法・鯰想>はまだ使わない。
そして、左目に宿るヘルメの力を見知らぬ人族たちに見せる形となったが……。
これは仕方がない。
「……わたしたちは【未開スキル探索団】。その組織の〝左長〟の直下組織【樹海狩り】リーダー。名はウノ」
「俺の名リックス。同じく【未開スキル探索団】に所属している【樹海狩り】のメンバーだ」
「俺は二槍使いのマレガ。同じくメンバーだ」
「アレイザよ。同じく【樹海狩り】メンバーよ」
ノーラが語っていた組織か。
エヴァと絡んだ黒髪のヴァンパイアを追っていた?
前に、ノーラは俺が新種のルシヴァルという種族と分かれば、【未開スキル探索団】の連中が、俺を追ってくる可能性があると語っていた。
「それで、その探索団の方々が、なぜ、そいつを捕らえる? 殺そうとしている?」
「その疑問に答える前に、貴方の左目から出ている液体。ただの魔獣槍使いじゃなさそうね? それに槍使いの女性も普通じゃない。優秀なスキルを持ってそう」
「まぁな」
「だから、何なのでしょうか? それよりも――」
キサラが魔女槍を回転。
髑髏穂先を探索団の連中に向け直したが、突然に、女性の姿の植物魔族に視線を向け直しながら、宙へと逃げるように飛び上る。
彼女の四天魔女としての勘は正しい。
「――こんなマガイ物の力で、わたしを封印とはお笑いぐさね?」
女性の姿の植物魔族が、そう発言したように両手を振り回して、体を解放させていた。
どうやら、双眸の魔眼から積層型に浮かぶ魔法陣の力を発動したらしい。
自身の体に突き刺さった灰色短剣を溶かす。
同時に短剣を纏っていた青白い魔力が散っていく。
足元の魔法陣も、女性の姿の植物魔族の足が触れた個所が、蒸発し、消失。
足形が魔法陣に現れる形となった。
「フフ、アァァ、破壊の衝動がァン、もう、我慢できない」
女性の姿の植物魔族を拘束していた小型の環も溶ける。
女性の姿の植物魔族は頭部に両手を当て、髪らしき枝をオールバックに整えるように両の掌を後頭部へと動かす。
その瞬間、金と銀が混ざった冠が頭部に出現。
そのまま恍惚とした表情を浮かべて、一歩、二歩と歩き出す。
「――チッ、こいつ、普通の魔族じゃねぇな。<スキル喰い>と<環封印>の二連を強引に打ち破りやがった」
「〝ハム底〟に展開」
「おう」
「了解」
すぐさま一定の間隔で距離を取り、間合いを確保する【樹海狩り】のメンバー。
アレイザと名乗った剣と盾を持つ女性が先頭に立つ。
彼女はアマゾネス系の格好だ。
そして、スキルか魔法を発動したのか、アレイザの肩の上に神らしき幻影が映る。
幻影の姿は今まで一度も見たことはない。
一瞬、正義の神シャファの姿を思い出したが、違う。
「へぇ、神界の使徒が混ざってたの?」
女性の姿の植物魔族がそう語りながら、両手を左右に広げた瞬間。
その歪な指先から、フランベルジュ型の剣が無数に出現し、扇状の方向へと、そのフランベルジュ型の剣たちを飛翔させる。
その瞬間、アレイザと名乗った女性が魔力を備えた盾を前方へと突き出す。
彼女の上に浮かぶ幻影も彼女と同様に盾を構えるポーズを取ると、フランベルジュ型の剣に対抗するかのように幻影が前進した――。
幻影は丸形の盾でシールドバッシュを行うように左から右へと盾で横殴ってはフランベルジュの剣を弾き飛ばしていった。
当然、俺たちの方にも、少数だが、そのフランベルジュ型の剣が迫る。
精霊珠想と化している液体ヘルメも帯状に左目から展開。
フランベルジュの剣を一端体内に吸い込むが、取り込まず、外へと剣を排出していった。
俺はそれを視界に捉えながら、魔槍杖を下から振るい上げる。
目の前に迫ったフランベルジュの剣の切っ先を弾いた。
俺たちに迫った剣のすべてを弾いたところで、女性の姿の植物魔族から濃密な魔力が溢れ出る。
そして、体が急拡大し――周囲の樹木を打ち倒しながら巨大な姿となった。
頭部の冠のようなモノも若干形が変わっている。
蜘蛛の多脚を連想するシンメトリーの角が生えていた。
「破壊、破壊、破壊ィィィィ」
強烈な閃光を魔眼から発生。
さらに裂けた口から中から、太杭の群れを飛ばしてきた。
太杭は数が多いうえに――速い。
<仙丹法・鯰想>を意識――。
左目を中心に左肩の一部を覆うヘルメ<精霊珠想>が鯰型の防御層へと変化しながら展開した。
ターコイズブルーの神秘的視界だ。
最初に迫った太杭を魔槍杖で切り上げてから、両断――。
左側に分かれた切り裂いた太杭だったモノは鯰想に吸い込まれ消失。
もう半分の太枝だったモノは地面に突き刺さる。
俺は身を回転させて、太杭の連撃を避け続けた――。
避けながら観察。
杭の形もあれば、さっきのフランベルジュ型の剣も混ざっている。
そして、爪先回転の勢いを魔槍杖に乗せるように、その魔槍杖を眼前に運ぶ。
――風車のように魔槍杖を乱回転させて後退した。
回転する魔槍杖が太杭を弾き潰し、杭やらフランベルジュやらの大連撃を防いでいく。
その間に左右の手首から<鎖>を展開。
俺の周囲に<鎖>の盾を作り、太杭とフランベルジュに衝突させていった。
背後の女魔界騎士は一応守ってやろう。
まだ、朦朧とした表情だ。
その間にも、ナマズのような形の<仙丹法・鯰想>からヘルメのような手が伸びていた。
太杭とフランベルジュをターコイズブルーの内部へと引き込み取り込んでいく。
『ヘルメ、あまり無理をするなよ』
念話は返ってこない。
ま、ヘルメには意思は通じている。
俺のすべてを守ろうとはしない。
左の上方部を担当する鯰の盾だ。
少し防御に余裕ができたから周囲を確認。
相棒は神獣の姿に巨大化。
無数の触手網を展開し、太杭をすべて撃ち落として相殺していた。
サナとヒナを守っていく。
半透明の又兵衛も、彼女たちの前に立ち守ろうとしている。
又兵衛は、圧倒的な存在感を放つロロディーヌと巨大女性の姿の植物魔族の姿を下から眺めているようにも見えた。
エヴァとキサラとロターゼも、それぞれの能力&武器を使い防御に専念。
スキル探索団の連中は知らない――。
「エヴァ、ここは俺が突っ込む。この魔界騎士のことを頼む」
「ん、了解」
エヴァに視線を向けずに<魔闘術>を全身に纏い駆けた。
<仙丹法・鯰想>の防御層と<鎖>の盾を生かす。
風車のように回転させている魔槍杖バルドーク
端から見たら飛行機のエンジンに付いたプロペラに見えるかもしれない。
そのまま風車を作るように回転させた魔槍杖バルドークを全面に押し出すように巨大な植物の女性魔族の足に近づいた。
走りながら足下に生活魔法の水を展開――。
<朧水月>の回転避けから<水月暗穿>を繰り出した。
屈んだ姿勢から、垂直蹴りを零距離から植物の女性魔族の足に喰らわせる、アーゼンのブーツの甲の痕が残るように凹ませた。続けて、反対の足裏で跳躍――。
上昇しつつ下から半円を宙に描く軌道の紅斧刃が、植物魔族の巨大化した片足を斬り上げた。
同時に<脳脊魔速>を発動――。
切り札で加速した俺は<導想魔手>の魔力の拳で、植物の女性魔族の腰と腹を殴りつつ頭部を目指した。
女性魔族は<脳脊魔速>の切り札に対応するように触手針的な多段連撃攻撃を寄越してきた。
が、――速度は<脳脊魔速>の加速のほうが上だ。
植物の女性魔族の体を障害物に利用しつつ余裕の間合いで避ける――避けたところで<邪王の樹>を意識。
<夕闇の杭>を発動――。
足場の宙に樹を作り、樹を蹴って跳躍――。
ゼロコンマ数秒の間に――。
点々と宙を跳ねるように、跳躍を続けながら――。
<夕闇の杭>を巨大な植物の女性魔族の体に衝突させていく。
「速い――」
植物の女性魔族は、反応している。
構わず全身の筋肉と切り札の加速した勢いを両手持ちの魔槍杖バルドークに乗せた。
前転しながら植物の女性魔族の頭部へと近付き――。
<豪閃>を発動――。
強烈な回転と力の紅斧刃を植物の女性魔族の顎にぶつけた。
そのまま顎から唇に鼻と一気に斬り上げ、冠と紅斧刃が衝突した――ここで異質な不協和音が轟いた。
空間が震動するような悲鳴的な鳴き声が轟く。
紅斧刃が冠の一部を裂くと、その裂いた部分から茶色の血が噴出――。
顎やら全身を攻撃していたが、初めての血か?
その血を浴びた魔槍杖バルドークが震える――。
ぬお――。
眩暈が――。
頭を振りながら、鐘の音が響くのを感じた。
紅斧刃が魔槍杖バルドークが悲鳴的な喜びか、異質な音を発する。
髑髏模様の閃光も発した。
同時に<脳脊魔速>の切り札タイムが切れる。
巨大化した女性の姿をした植物魔族の頭部を裂いたところで、
「グァァァァァ、メファーラなのか? でも、破壊の血を吸うなんて……」
「あぁぁぁ!!!! シュウヤ様ぁぁ、それはダモアヌンの魔槍技の一つ!」
え?
斬り裂いた植物魔族の頭部が喋る姿にも驚きだが――。
キサラが指摘するように、紅矛と紅斧刃の形が変化していることにも驚いた。
魔槍杖バルドークの変化。
が、今はじっくりと武器を見ている余裕はない。
<光条の鎖槍>を五つ発動させる。
続いて上級:水属性の《連氷蛇矢》発動。
植物の女性魔族の頭部は完全に分断されている。
断面図を露出していた頭部に光<光条の鎖槍>と腕の大きさの《連氷蛇矢》が突き刺さった。
ドドドッ――と重低音を響かせながら、巨大な植物の女性魔族は樹を薙ぎ倒しながら樹海の地に背中から倒れた。
が、頭部が裂かれても声を上げていたように、生きている。
その証拠に枝と葉と植物の網を全身から放出していた。
それらが樹海一帯を侵食すると、女性の姿の植物魔族は姿を収縮。
体が元の大きさに戻していた。
先ほどより、頭部の角の冠が小さくなった。
が、あまり効いてないようだ。
そして、彼女の周囲に植物系の魔族たちが大量に地面から沸くように出現。それら植物系の魔族を見ながら着地した。
キサラとロターゼが、その新しく誕生した魔族に攻撃を仕掛けて、蹴散らす。沸騎士たちも骨剣を左右に振るい両断しては、植物魔族を蹴り飛ばした。
しかし、敵の様子がおかしい。
神獣ロロディーヌも火炎息吹を繰り出す。
近くに沸いた植物魔族たちを燃やし、一掃。
――どういうことだ?
新しく出現した魔族たちは反撃をしてこない。
皆、片膝を地面に突けたまま、植物の女性魔族に対して、頭を下げたままだ。
「女王サーダイン様――」
「破壊と樹木の女王サーダイン様――」
植物魔族たちはキサラの<魔嘔>のように歌う。
あの角が左右に並ぶ冠が女王の印なのか?
『魔族の女王にそんな名は聞いたことがないですが』
『……セブドラの神絵巻に乗っていない奴というか、魔神のような存在は、どのぐらいいるんだ?』
『精霊ちゃんのように、無数に存在すると思います』
左目に戻っていたヘルメと念話しながらエヴァへ視線を向ける。
彼女も『知らない』と語るように頭を振った。
エヴァの足元には、紫魔力が覆うアへ顔を浮かべている女魔界騎士がいた。
ちゃんとエヴァは守ってくれている。
「シュウヤ様、女王サーダインから犀湖の下に眠るキュルハ様の根と似た匂いが強く匂ってきます! やはり親戚なのは間違いないかと」
キサラはそう喋ると後退しながら魔女槍の柄から放射状にフィラメントを展開。
ロターゼはイッカクの角を生やすと、その角に炎を纏わせる。