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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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389/2112

三百八十八話 一時な帰還と魔人と目玉

2021/02/11 0:12 修正

2021/02/11 16:35 快速FWを追加。

2021/02/14 11:37 修正

2021/02/25 14:22 修正

 二十四面体トラペゾヘドロンを用いてペルネーテの屋敷に帰還。


「ああ~っ、シュウヤだ!」

「ん――」

「総長!」


 パレデスの鏡から出るや否やレベッカとエヴァが抱きついてきた。

 ヴェロニカも混ざっているし。

 俺も皆を抱きしめる。

 ……エヴァの隠れ巨乳さんの柔らかい圧の感触をひさしぶりに味わった。


「ん……」


 エヴァは早速目をつむっている。

 唇を奪ってほしいらしい。

 というか今は……な。


 そこに、不自然な魔素の揺らぎを感じとる。

 メルかベネット辺りか?


 ま、今はいいか。


「……はは、大袈裟だな。何年も離れていたわけでもないのに」


 と、エヴァの巨乳さんを意識しながら彼女の背中をさすってあげた。

 金属の足が俺の足にぶつかっている。


 懐かしい。


「お嬢様……」

「嬉しそうな顔だ……わたしも嬉しい」


 ディーさんとリリィの声だ。

 俺は眷属たちを抱きながらディーさんへ向けて頭を下げた。


 そこに、


「「ご主人様!」」


 片膝の頭を床につけている血獣隊隊長の<従者長>ママニ。

 同じく片膝の頭を床につけた血獣隊隊員の<従者長>サザー。

 同じく血獣隊隊員の<従者長>フーも続いた。

 

「我が主!」


 少し遅れて同じく血獣隊隊員の<従者長>ビアが叫ぶ。

 蛇人族(ラミア)のビアは、蛇腹の太い胴体を揺らして叫んでいた。

 

 そこに仁王立ちしたアジュールが、


「我の、主!」


 ビアの我という言葉に対抗していた。

 あの()の頭部に集まっている眼球群……。

 

 いつ見ても奇怪で面白い。


 さすがは地下オークションに出品されていた貴重な種族。

 紺碧(こんぺき)の百魔族だ。

 百魔族のアジュールにアドゥムブラリを見せたらどんな反応をするだろうか。


 我の目玉になるか? とか言いそう。


 あとで、皆に見せながら試してみよう。


「ご主人様、血文字での定期連絡の通り、大魔石をそれなりに集めました」


 立ち上がったママニが真新しいアイテムボックスを見せながら語った。


 ママニはいつにも増して獣性を帯びている。

 光魔ルシヴァルで唯一の虎獣人(ラゼール)だ。

 

 顎の髭の虎たちも蠢いていた。


「おう、あとで受け取ろう」


 そこで、メイド長イザベラに視線を向ける。

 副メイド長のクリチワとアンナも隣にいた。


「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」


 メイド長たちの所作はやはり一流、それ相応の貴族然とした態度になった。

 彼女たちを雇った立場の俺だ、丁寧に対応しよう。

 そう意識を高めたところで、エヴァ、レベッカ、ヴェロニカから離れメイド長たちを労るように近付き――。


「……留守にしていた間、メイド長と副メイド長たちには苦労があったと思う……よくがんばってくれた、ありがとう。しかし、この短い期間は予行演習だと思ってくれ。むしろ、これからが俺たちの旅の本番となるだろう。だから、そこにいるミミを含めた使用人たちの面倒をよろしく頼む」


 と、話をしながら頭を下げた。


「ご主人さま……」

「は、はい! お優しい旦那様です……」

「その言葉だけで十分ですよ!」


 イザベラ、クリチワ、アンナは感動したように胸元に手を当てながら喋っている。


「まったく、やることが一々男前なのよ!」

「え?」

「え、じゃない! もっと抱きしめさせなさい!」


 そう言い放ったレベッカは突進してきた。

 ――ぐおッ! 倒れはしなかったが……細い体とはいえルシヴァルの肩タックルは強烈だ。が、そのレベッカは、


「シュウヤ、の匂い……」


 と、小さい声で泣きながら話し、俺の腰に手を回し抱き付きを強めるレベッカは、ハルホンクの(ぼたん)と金具を小顔で押しつぶす勢いだった。


「ん、わたしも!」

「わたしも」


 皆を回転しながら抱きしめていく。

 爪先を軸とした回転避けの技術を活かすように横回転を実行――。


「――ははは、分かったから、そう突っ込んでくるな」


 独楽のように回転する速度で、その速度が速かったせいで、レベッカが悲鳴を上げる。と、周りからドッと笑いが起きる。

 そのタイミングで、皆が落ちないように――。

 足と体幹を意識して動きを止めてレベッカの衣装の端を掴む。

 羽根が綺麗なムントミーの衣服だ。細い体のレベッカを優しく床へと誘う。


「あ、ありがと」

「いいさ。あいかわらず、鎖骨が綺麗だな?」

「もう、いやらしいんだから、でも嬉しい……」

 

 乱れた金色の長髪を直すように頭を撫でた。

 すると、ヴェロニカとエヴァが嫉妬の目で俺を睨んできた。

 少し気まずいので、メイド長たちを見る。

 すると、笑顔を見せていたメイド長たちが、一斉に先ほどと同じく頭を下げてくれた。


 何度見ても……華麗な所作は素晴らしい。

 レソナンテ寄宿学校で学んできた一流のメイド術だ。


 皆美しいし、その背後にはミミもいる。

 ポポブムの世話はちゃんとしているのかな?


 さて、次は、メイド長たちの隣だな。

 【月の残骸】から【天凛の月】と呼ばれるようになった闇ギルドの副長メルとベネットだ。

 先ほどから一際目立つ存在としてバリバリと異彩な雰囲気を醸し出していた。

 

 そんな雰囲気を助長しているのが、彼女たちの背後の兵士たちだ。

 例の傀儡兵だろう。他にも、依然としてある不自然な魔素も気になるが……まずはメルとベネットを注視した。


 紅月の傀儡軍団とお揃いの衣装を着込んでいる。

 紅色を基調とした衣装。

 天凛堂の戦いの時に浮かんでいた満月と残骸の月のマークが胸甲の左の位置にある。

 小さな銀チェーン付きの記章が備わっていた。

 満月のデザインは大きい。

 残骸の月のほうも綺麗だった。

 

 細かな銀色の(ちり)が宵闇世界を彩る。

 それは、茄子紺(なすこん)の夜空に輝く星々のようにも思えた。


 いいデザインセンスだ。


 が、俺には肩の竜頭装甲(ハルホンク)とガトランスフォームがあるからなぁ。仮に、新しい衣装を着た状態で突発的な戦闘に入った場合、暗緑色のハルホンクを展開してしまったら……新衣装を破ってしまうだろう。

 肩の竜頭装甲(ハルホンク)が目覚めて、新衣装を食ってくれれば解決しそうだが……そう都合よくハルホンクは目覚めない。


 未来の腕時計のようなウェアラブルコンピューターのようなアイテムボックスの戦闘型デイバスから出したガトランスフォームならば、下着のインナー系やタイツ系と似た防護服だから大丈夫かもしれないが。


「……お帰り、総長」

「総長、お帰りなさいませ」


 ベネットとメルも笑みを湛えた表情で俺に挨拶してきた。


「……よ、久しぶり」


 と、二人と挨拶。

 すると、ヴェロニカが軽やかにステップを踏んでメルとベネットの隣に移動してきた。


 メルとベネットに顔を向けて微笑むヴェロニカも紅い衣装だ。

 ヴェロニカ、メル、ベネット、【天凛の月】の首脳陣。

 似合うな、いや、似合うというか、やはり素直にカッコいい。


 白の九大騎士(ホワイトナイン)の大騎士の恰好に負けていない。


 名実共に闇ギルドの最高幹部の衣装だ。

 デザイナーは誰なんだ?


「総長、樹海の奥地にわたしたち光魔ルシヴァルの新拠点が建設された話はヴェロニカから聞いています」


 ヴェロニカは胸を張りながらメルの言葉を聞いて、「当然」と小声を漏らす。

 ちっぱいの前で偉そうに両腕を組んでいた。


 しかし、この様子だと……。

 キッシュとキサラを何回も抱いている話は……メルたちに伝えていないようだな。


 ヴィーネ同様スルーパスを決め込むつもりらしい。

 まぁ、そんな敵のラインの間を通すスルーパスのボールは、野人を思わせる快速FWの足によって、ゴールへと結びつくと思うが。


「……今更な情報ですが、魔霧の渦森ではヴィーネさんから複数ある地下遺跡に関すること、ミスティさんからは新型魔導人形(ウォーガノフ)に関する情報を得ています。兄の残した研究を活かして様々な素材を付け加えて進展していると。しかし、亜神ムンジェイの心臓の件では愚痴が多くなりました」


 それは知らないな。


「実験の失敗で出現した怪物を倒したことは覚えているが、魔霧の渦森で研究しているミスティからは、そのムンジェイのことは聞いていない」

「はい、魔神具系の亜神ムンジェイの心臓の実験は、周知の事実の通り……その名残の亜神ムンジェイの心臓の力を用いた新型魔導人形(ウォーガノフ)の件です。総長が最近部下に加えたオークたちの手前……あまり強く言えなかったようですが……『シャーマンオークの心臓が欲しい』に『トトラの仮面の在庫が切れた』と呟いていました」


 なるほど。

 だから興味のないフリをしていたのか。


「西ではラドフォード帝国の街道で暴れているユイとカルードさんの話も……そして、我々の報告はちゃんと伝えたんでしょうね?」


 メルはヴェロニカに視線を移しながら語る。


 しかし、亜神ムンジェイを信奉していたシャーマンオークか。

 オークたちは基本、オーク八大神を信奉している。

 だが、クエマの支族トトクヌ支族が鬼神キサラメ様を信奉していたように……。

 他の支族が亜神ムンジェイを信奉しているんだろう。


 現在も信仰を続けているオーク支族が地下には居るかもな。

 地下探検をする時はシャーマンオークたちを探してみるのも一興かもしれない。

 

「……う、その話は……<傀儡廻し>と<専王の位牌>のスキルで造った〝紅月の傀儡兵〟たちのことを報告したの! 総長は『ウィップスタッフとヘビーブレードを扱う傀儡兵は是非見たい。いったいどんな機動なんだ!』と、声が聞こえてきそうなぐらいの血文字を寄越して興奮していたからね♪ わたしもキュンってなってじゅわーとしちゃったけど♪ だから、特別にチューンした逸品たちをここに用意したんだぁ~、ふふ♪」


 ヴェロニカは、その発言の途中で(ほほ)を真っ赤に染めながら語っていた。


 しかしそのうろんな視線は終了。


 (にわか)に射るような視線に変化させたヴェロニカは、踊るように体を横に回す。

 小柄な背中を見せつつ背後に並んでいた傀儡兵たちに近付いた。

 

 俺との血文字のやりとりで、ヴェロニカがアピールしていた親衛隊。通称紅月の傀儡軍団。


 角付きの新傀儡兵の姿は、角の角度といい、中々のカッコよさ。

 

 兜の頭部の輪郭もいい。

 頰骨から顎までが細い逆三角形を意識してある。

 塗装した唇に牙もある。

 この辺の細やかさは女性らしい感覚だ。


 突き出た骨の胸甲から、両肩は渋い四角形だし、マントも紅色。

 各自が持っている武器のウィップスタッフとヘビーブレードも確認できた。

 が……ミスティの肩を持つわけではないが……。

 新型魔導人形(ウォーガノフ)の方がカッコいい。

 ドイツ語の戦士の言葉通りの格好だったしな。

 ま、これは俺の好みの問題か。


 それに材質が違い過ぎる面もある。

 

 そんな感想を抱いた直後――。

 紅色の甲冑(かっちゅう)が震えると、その傀儡兵たちが動き出した。

 魔槍杖(まそうづえ)バルドークと似たハルバード系のヘビーブレードを水平に動かし――鋭そうな切っ先を俺に向ける。


 風槍流ではない構えだ。

 一方、ウィップスタッフを持つ傀儡兵の方は……。


 蛇腹剣を扱うように――ウィップスタッフを扱う。

 

 (むち)のように撓るワイヤーが骨の刃の間を通り繋がれている。

 ウィップスタッフの骨の刃の群れはガラガラ蛇が(うごめ)くように天井にまで伸びていた。

 

 切っ先は鋭そうだ。

 伸縮自在の武器か、やるじゃん、前言撤回。


 刃が伸びたウィップスタッフの間にあるワイヤーと、骨の刃が、リアルな蛇の牙に見えてくる。

 デモンストレーションをしてくれた。

 元魔侯爵の指輪がピクッと動いた気がしたが、気のせいだろう。


「……素晴らしい。正直、想像以上の動きだ。魔導人形(ウォーガノフ)のように自律稼働で動いているとはな……ミスティもショックを受けるんじゃないか?」


 本心で語った。


「それはないでしょう。わたしが近くにいれば、正直かなり強いけど……」


 まんざらでもない表情を浮かべていたが、あまり能力をばらしたくないようだ。距離が離れた途端、ただの木偶の坊と化すのかな。

 まぁ、前の傀儡兵たちも護衛には使える兵士だった。


 だから、ヴェロニカから離れていたとしても、それなりに頭数として数えられるぐらいには使える傀儡兵なんだろう。

 使えるならサイデイル村の兵力にいいかもしれない。

 あとで話をしようか。その前に疑問を……。


「実は中に一流処の武芸者が入っていたりするんじゃないだろうな?」

「失礼しちゃうわねぇ! わたしの技術だけならまだしも、ゼッタの錬金術とミスティの魔導人形(ウォーガノフ)の技術も一応は入ってるんだからね? 二人に失礼よ。そして、血文字でも伝えたように――」


 と、紅色の傀儡兵のウィップスタッフがヴェロニカを襲う。


「わたしが近くにいれば――」


 そう喋りつつ傀儡兵が振るった鞭に付随している刃を屈んで避け、


「こうやって――」


 今度は左から眼前に迫った鞭に付随している刃を指と指で挟んで止めていた。


 すると、またまた、魔侯爵だった武装魔霊アドゥムブラリの指輪が反応する。


 一瞬で展開された戦闘の光景に周りからざわめきが起きた。


「どう? かなり自由自在に動けるんだから」


 ……やはり凄い。

 <血魔力>の第三関門である<血道第三・開門>を既に獲得しているだけはある。


「……ヴェロニカ、十分です。他の情報は伝えてくれましたか?」


 メルは話す仕草といい衣装の効果もあってか渋い。

 メルを感嘆の視線で見つめていると、ヴェロニカは頭をふりふりと左右に振っていた。


「……そ、それはもう、たっくさん! ね? 総長……」


 俺に頭部を向けるヴェロっ子。

 そのまま片目を(つむ)っては、ウィンクを繰り出した。

 小さいピンクの舌も出している。

 あれは、『一緒に誤魔化してね』ということを暗に示すメッセージだろう。だから、


「あぁ……」


 とヴェロニカに協力してあげたが、


「ふふ、分かっていますから総長。ヴェロニカは伝えていないんですね?」

「バレた」


 一瞬、メルは冷たい目でヴェロニカを見つめるが、直ぐに優しそうな眼差しとなった。

 

「それでは、報告をします」

「頼む」

「はい♪ では、まず父、魔人ザープから得た過去の情報を補足したいと思います」


 ヴェロニカから情報は得ていたが?

 まだあるのか。


「父は【黒の預言者ブラック・プロフェット】に所属していたのです」

「え? ナロミヴァスと繋がっていたのかよ」


 驚きだ。


「……少し違います。昔所属していたというだけ。【セブドラ信仰】に所属していた従妹たちの影響で魔人キュベラスと争いを起こし、獣貴族の争奪戦に敗れた父は脱退したと語っていました」

「魔人キュベラスとの争いか。諸勢力の乱戦から傷を負ったとヴェロニカから聞いていたが……そして、俺の仲間になった四天魔女キサラも、〝獣貴族〟を巡ってその魔人キュベラスと戦ったことがあると話をしていた」

「え? 砂漠を守る魔女たちのお話も聞きましたが……てっきり、古典のお伽噺(とぎばなし)の類かと……」

「古典?」

「〝古い魔女と新しい魔女たちと戦う魔術師たちの物語〟です」

「そういえば昔聞いた覚えがある。ヴィーネが蒐集していた本か」


 というか本当に……色々と線が絡み合うな。

 ん? ナロミヴァスは兵を色々な都市へ輸出していると話していたな。

 地下の兵、キュイズナーだっけか。


 その地下といえば……。

 アムたちが戦っているのも魔神帝国。

 たとえ地底神ロルガが絡んでいなくても……少なからず関係はあるだろう。


 カルードが修行場所に選んだ迷宮都市サザーデルリにも魔神帝国の名があった……。


「……で、その獣貴族とは何だろう。ジェレーデンの獣貴族という名はキサラから少しだけ聞いたが……」

「獣貴族……」

「――それは、わたしから話そう」


 そう言ったのは血煙と共に現れた仮面魔人ザープだった。

 不自然な魔素の正体はこいつか。

 コート系の防具を着込み、背中と腰に刀系の武具を備えているのは変わらない。

 衣装も血()れた斑点模様が綺麗だ。

 どことなく、【天凛の月】の衣装と合うのは偶然か?

 

「ザープか」

「そうだ……随分とメルが世話になったようだな。一時は標的にした方がいいのかと思ったこともあったが、偶然とは恐ろしいモノよ」


 そう語るザープは武人の(たたず)まいだ。

 以前にも増して武人然とした姿。


 そんなことより理由だな。


 メルたちは、魔人ザープをメルの父という理由だけで、俺の屋敷に招待しないはず。しかも、パレデスの鏡は転移に必要な重要なアイテムだ。普通は、パレデスの鏡の前には呼ばないだろう。


 ザープが味方となる確証があるからここに呼んだんだな?

 そんな思いから、<筆頭従者長(選ばれし眷属)>のエヴァとレベッカに視線を向ける。

 彼女たちは『大丈夫』と語るように頷いていた。


「それで、獣貴族とは?」

「賢者の石と同じく知恵の神イリアスの【輪の真理】の九紫院が作りだした秘宝の一つとされている。が、内実は違うようだ」


 ザープは理路整然と語るが、分からないことだらけだ。

 イリアス神なら少しだけ知っている。

 長らく愛用していた外套がイリアス神にまつわるアイテムだった。


 イリアス神の聖遺骸布を模した外套。

 だが、結局はハルホンクに食わせたからなぁ。

 銀ヴォルクの素材ごとえらい勢いで食っていた。


『ングゥゥィィ……ツギ、ゼンブ、喰イタイ』


 とか言っていたのは覚えている。

 そのハルホンクも、知恵の神イリアス様の紋章の黒光りする刺繍(ししゅう)部位は吐き出していたが……。


「……その賢者の石を作った【輪の真理】の九紫院は知らない。輪といえば、神界戦士が一人、邪神界ヘルローネを見張る者、魔界セブドラを滅する者、アーバーグードローブ・ブー。それと、俺が買ったアジュールぐらいだ。だから、順に説明してくれると助かる」


 味方だと認めた訳ではないが、仮面を被ったザープを睨む。


「輪の真理とは知恵の神を崇める集団。【ミスラン塔】を本拠にする九人の賢者たちだ。階梯の低い者たちから賢者たちまで皆が紫と黒の法衣を纏う者たちで構成されているが故、【九紫院】と呼ばれている。そして、賢者の石とは、無数の生きる者たちの生命力、魔力を、生きたまま大量に生贄にする形で集結させた極大魔宝石……一つ、二つ、巨大都市が壊滅した話を知っている。浴に魔神具と呼ばれる物だ。一方で、獣貴族とは、名前にあるように、異界の軍事貴族と契約し使役できるという特殊な召喚器具だ」


 異界の軍事貴族と契約か。

 ロロディーヌとか、ロターゼ?

 分からないが、たぶんそんな気がする。


「……なるほど。【髑髏鬼】に所属している紅のアサシンと<血層>の浸透系の技を巡って対決しているのは知っている。で、その闇ギルドの【髑髏鬼】だが……背後に鬼神キサラメ様の秘宝を使う奴がいるはず。名を知らないか?」

「分からない。知っていると思うが紅のアサシンは強い。そして、最近は魔人ナロミヴァスが消えた影響から魔人キュベラスを信奉する者が急増した。彼女は裏武術会とも関わりがあるからな……正直、それどころではない」


 そういうことか……。

 過去の一つ一つの細かな線が一つの太い幹に変貌していく。

 

 不思議な余韻を得ていると、メルが口を動かした。


「総長もご存じのように、ユイ、カルードさん、エヴァ、レベッカに協力してもらった【髑髏鬼】の襲来で、幹部を名乗る者は始末しました。ただ、他の幹部も仮面を被りララーブインに潜んでいるので、そう容易には……」


 そりゃそうか。

 鬼神キサラメ様の秘宝を使う奴は表に出て戦わないからこそ……。

 この間の戦いがあると見た方がいいだろう。


「他の主だった情報はどんな感じ?」

「ヘカトレイルの支部を含めた、ホワイトナイン、【幽魔の門】、【ロゼンの戒】から寝返った者の情報を精査しますと……鉱山都市タンダールと湾岸都市テリアでは【影翼旅団】が消えた影響から闇ギルドの抗争が激化。タンダールでは【大鳥の鼻】の一強かと思われましたが……意外に苦戦を強いられているようです。古都市ムサカと城郭都市レフハーゲンのオセベリアとサーマリアの戦争では、その影響からか、王都ハルフォニアの公爵筋の軍産複合体に分類される大商会がかなりの利益を上げているとのこと」

「ヒュアトスを失くしたサーマリアもやはり一大国家か」

「はい。あの国の王族には、サーマリアの伝承に伝わる魔王級魔族が裏に潜むとも()われていますし、公爵家、侯爵家にも、その血筋は色濃く残っているところがあるかと思われます」


 何か報告するメルの声には嬉々としたものがあった。


「ん、シュウヤ、東の戦争に参加するの?」


 こちらにも予定があるからな。


「いや、気が向けばロロと一緒に参加するかもしれないが、血はエヴァで十分だし?」

「……んッ」


 エヴァは素直だ。

 天使の微笑のあと、頭を傾けて、『吸って』と首を晒す。


「何してんの、エヴァ。血は先輩のわたしが(・・・・)先に吸われるべきだと思うんだけど」

「ん、言葉がなまってる」

「もう、二人とも喧嘩しちゃだめでしょう。蒼炎を扱う唯一なわたしが一番先なんだから」


 レベッカさんも加わると切りがない。


「ゴッホンッ! ヴェロっ子、『報告はわたしからする!』と強く言っていたわりには……自分の好きなことばかり血文字で報告していたようだねぇ」


 ベネットが見事に空気を切断してくれた。

 ニコニコしながら語る。

 あの特徴的なあごは忘れない。


「だって……」

「これからは、わたしからも血文字で総長にしっかり(・・・・)と、報告を行いますから、()?」

「メル……」


 メルもしてやったりと、ウィンク。


 俺の<筆頭従者長>ヴェロニカから血を受け継ぎ<筆頭従者>となったメル。

 【天凛の月】では、副長というより、総長に返り咲いたといえるか。


 皆の表情を見ると嬉しい限りだ。

 そんな感想を持ちながら、エヴァの柔らかい双丘の圧力をしっかりと感じていた。


「さて、今日戻った理由は闇ギルドのことじゃないのは知っているな? ということで二人とも離れてくれ。エヴァとレベッカはこれからリンゴを見に来るんだろう?」

「ん」

「もっと匂いを嗅いでいたいけど……」

「ディーさんとリリィにママニ、他の皆も居るんだ。我慢しろ」

「うん」


 彼女たちの香水の匂いを味わいながら抱きしめていた彼女たちを離した。

 ディーさんとリリィとも挨拶してから、


「とりあえず、ママニ。魔石を受け取ろう」

「はい、では……少々お待ちを……預かっているアイテムボックスから」


 ママニが持つ箱型アイテムボックスは、彼女らが独自に買った物だ。

 イザベラが管理する屋敷の金から使っていいと許可しておいた。


「いや、それはもうお前たちの物だ。お前たちが選んで買った物だからな」


 そう言って、ママニから大魔石を四百個ほど受け取った。

 アイテムボックスにはまだ納めず袋ごと入れる。


「んで、サイデイル村に戻る前に、アジュールだけにじゃなく……皆に新しく契約したアドゥムブラリを見せる。既にエヴァたちには報告済みだが――」


 と、指環に魔力を注ぐ。

 前と同様に紅い翼が蠢き宝石がぷっくりと膨れると、アドゥムブラリが現れた。


「こいつは昔、地下二十階層の空で遭遇したアムシャビス族と同族だったらしい」

「な!?」

「よぅ! 主の仲間たち! アドゥムブラリだ。よろしくよろしくよろピコな。こんなナリをしているが、俺は魔界で魔界付与師のアーゼンに服を作ってもらったこともある魔侯爵の地位にあった者だ。だから、調子に乗るなよ?」


 奇怪すぎる小さい目玉が語る早口言葉に……間が空く。


 ん? 今アーゼンといったが、俺の靴もアーゼンが作った物だ。


 聞いてなかったぞ、そんなことは。

 ま、当たり前か。

 訓練を優先して、指環には魔力を注いでいない。

 

「……ピコ? 指と一体化した眼球?」

「……ご主人様、変な魔道具を手にいれたのですねピコ」

「……随分とピコ、そのピコ、小さいですピコ。役に立つモノなのでしょうかピコ」

「それがピコ。血文字で魔侯爵と呼ばれていたピコ太郎……」


 皆、笑いながらピコピコと喋っていた。

 俺もピコの部分で反応したけどさ……。


 虎模様の衣装を着て、皆と踊るべきなんだろうか?


 ピコの部分で、アドの眼球の筋が微妙に動くから……。


 また、それが面白い。


「……皆、ピコが気に入ったか。というかアドとはまだ契約したばっかりでな? スキルも獲得してすぐに分かるタイプじゃないので不明だったりする」

 

 スキルの<武装魔霊・紅玉環>。

 ステータスでの確認もまだだ。


 正直、眼球なので期待をしていないのもあるが。

 昼はぐんぐんと槍の技術が成長していくムーの相手をしては、新しい門の上で色々な武具の訓練を続けて、夜は夜でサラと熱い夜を過ごしていたからな。

 にゃんにゃんもいいものだ。


 ハイグリアが凄まじく嫉妬していたが……。


「主、こいつは強そうに見えないが……」

「我のシャドウストライクでも斬れそうだ」


 ビアがアジュールに我コンビらしく同意していた。


「わたしも<血魔力>を得て成長しているし、バストラルの頬から出す土礫で、簡単に潰せそう」

 

 フーは冒険者然とした衣装。

 傷痕があったゴッドトロールの白甲殻ブリガンダインではない。

 銀色と黒色の皮が混じったスプリントメイルを身に着けている。

 

 胸元に魔宝石が()まる革細工のアクセサリーがある。

 そのアクセサリーは腰ベルトの金具と繋がる。

 

 鋼と革の素材で編まれた紐を銀のチェーンで連結させていた。


 皆、新しく契約した指環に疑問符だ。


「フハハハ、フザケロフザケロフザケロYO! 俺は弱い! だが、俺の能力を過小評価すればどんなことになるか、見せてやろうではないか! 主よ!」


 指環から生えた単眼のくせにテンションたけぇ。


「どんな力なんだ、元魔侯爵様よ」

「フザケロ、主が俺を信用しないでどうする! いいから魔力を、俺の翼と眼球の中心に(そそ)ぐのだ」

「了解した」


 お望み通り、魔力を注いでやった。

 すると、指環と一体化していたアドゥムブラリはぷっくりと膨れて指環と分離。

 アドゥムブラリは背中から生えた翼を羽ばたかせた。

 しかし、それだけではない、下半身からは球体のような形となってタコのような無数の触手が伸ばす。

 粘り気のある水溶液の触手に見える。基本的な球体の形は変わらないが……。それら触手は、ぐにょぐにょとした蠢いて下方に波を作りながら宙空をゆらりゆらりと漂う。

 上半身が単眼であるために異質なモンスターのように見えるが……ゆっくりと飛ぶその姿は、実は可愛らしいかもしれない。 まるで妖怪「一反木綿」が空を飛ぶような動きだ。

 そのアドゥムブラリは一体どこへ向かっているのだろうか……目的はヴェロニカが作り出した紅月の傀儡軍団のようだ。

 ――え?

 アドゥムブラリは下の球体の体と呼べるか不明な部位から、触手を伸ばしたまま紅月の傀儡兵に突進し、タコのような下半身から更に触手を伸ばす。触手の先端が傀儡兵の角に絡みつくや否や、その触手が収斂するとアドゥムブラリの球体が紅月の傀儡兵の兜の前立てに、くっ付いた。

 紅月の傀儡兵に纏わり付いたアドゥムブラリの単眼球は、


「よーく見とけ――」


 戦国時代の兜飾りにも見えるアドゥムブラリがそう語った瞬間――単眼球体が爆散。

 いや、紅い粒のような形となって分散しながら兜の中に侵入した。


「ひゃぁぁ、わたしの親衛隊がぁ、総長にあげようと思ってたのにぃ」


 ヴェロニカが、オーマイガー! といったように頭を抱えて叫ぶが……。

 『時すでに遅し』という言葉を思い出すと、傀儡兵の額の位置に……不自然な縁取り線が現れた。

 その縁取り線は眼球の形で仏の額の白毫の毛に見えてきた。

 すると、そのアドゥムブラリの眼球は『悟った者』の仏陀やシヴァのように目を開けた。

 パックリと見開く眼球。光線でも放ってきそう。

 元々あった双眸の眼球擬きも意識があるように左右に動いた。

 アドゥムブラリが乗っ取ったということか。

 ペルネーテの地下二十階層で遭遇した三眼の邪族たちのように見える。


「フハハハ、これが元魔侯爵アドゥムブラリの力だ!」


 す、すげぇ、元々角付き傀儡兵が持っていたウィップスタッフを華麗に動かしていた。

 こんな能力を持っていたとは……。

 邪神ヒュリオクスの蟲のようにとりつく……。

 いや、まさに悪霊がとりつくような感じなのか? 

 

 まさかシュミハザーの内なる目か?

 松果眼が進化したとか……これが武装魔霊の能力の一部か。

 どちらにせよ、新しい戦力だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] キャラを思い出すのに苦労した
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