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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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三百八十六話 新たなる契約・魔侯爵アドゥムブラリ

2022/05/17 20:57 修正

 しかし、丸い単眼だな、可愛いモンスターにしか見えない。

 その丸い単眼君の魔侯爵アドゥムブラリは単眼を下へと傾けている。ひび割れて光を失った紅色の玉を残念そうに見つめていた。喪失感を露わにした様子に……地下オークションの競売で売られていた単眼種族の存在を思い出した。すると、アドゥムブラリは下に傾けていた単眼から薄い紅色の魔力波をひび割れた玉に放つ。もう一度放つ気か? ひび割れた紅色の玉に魔力波が熱波のように伝わっていくのが見て取れた。瞬時に紅色の玉は流れる溶岩流のように変化すると、二手に分かれながら魔侯爵アドゥムブラリの眼球と両腕の車軸マークの中へと収斂していく。柔らかそうな粘土が融合するような印象だったが、戻しただけか。


「……先ほどの紅玉からの光は攻撃か?」


 と聞きながら、アドゥムブラリの襟を掴んで持ち上げる。

 襟の感触は金属っぽさを備えた布で、小さいくせにずっしりとして意外に重かった。

 体の重さは超合金の玩具のようなズッシリとした重さといえばいいか。

 背中に生えた二つの翼は小さくて可愛らしいが……。

 今、アドゥムブラリと語っていた、そのアムシャビス族の名は覚えがある。確か、あれはペルネーテ地下二十階層空の上で出会った魔族で名前はスーク、神獣ロロディーヌに乗って周囲の偵察をしていた時だな。スークもアムシャビス族と名乗っていた。

 轟毒騎王ラゼン、狂眼トグマ、四眼ルリゼゼたちと同じように邪界ヘルローネに飛ばされた魔族。


「放せ、放せぇ!」


 長い襟にぶら下がる形の魔侯爵君は丸い体を揺らしながら叫ぶが、無視。

 この元魔侯爵アドゥムブラリとは違い、スークは女性で美形な魔族だった。共通項は翼が生えていることぐらいだ。ハンマーフレイルのような武器を持っていたスークのことは聞かずに、


「……聞いていることに答えないと……」

「……ギク! ち、違うんだなァ」


 魔侯爵君はコミカルな眼球の動きで、焦ったように声を震わせる。

 ごまかそうとしているようだ。そんな肉団子にも見える魔侯爵アドゥムブラリを凝視した。肉厚な瞼だ……その瞼が、眼球の表面を滑りながら閉じたり開いたりするさまは面白い。着ている服はミニチュアだが、高級感のある仔牛紙色の貴族服。

 半透明なユキノシタ模様の記章と三日月型のワッペンも胸元に並ぶ。

 三日月は魔皇シーフォに似ていた。二の腕の表面模様は車軸にホイールと壺ヤナグイが重なり合わさったマークがある。車軸の中央には赤宝石が嵌まっていた。何かの王を意味するかのような煌びやかな赤宝石。その王のような赤宝石を空から祝福でもするかのように様々な形の宝石群が上に並ぶ。全体的にコミカルな球体生命体だが……腕の模様といい身に着けている豪華な衣服だけは、魔侯爵という名にふさわしい。

 

 とりあえず、胸元の三日月のアクセサリーについて聞いてみようか。


「……なぁ、魔皇シーフォを知っているか?」

「シーフォ様の名を……お前は魔界の神々に連なる眷属でもあるのか?」

 疑問風に聞き返すアドゥムブラリ。俺が魔界の神々と連なる眷属か。

 違う。と、言いたい。しかし、俺の首には<夢闇祝>のマークがあるんだよな。

 豊穣祈願をするように水垢離をしていた悪夢の女神ヴァーミナから<夢闇祝>を授かってしまった……首の表面に傷のような凹凸で構成された<夢闇祝>(マーク)を指で触る。この皮膚を盛った皮の具合がなんとも……。


 ステータスでは、


 ※夢闇祝※

 ※本来は悪夢を植え付け悪夢の女神ヴァーミナに連なるモノ共を呼び寄せる道具と化す<悪夢印>。だが<光闇の奔流>効果により悪夢の女神ヴァーミナの力の一部を吸収<夢闇祝>としてスキル化※

 ※悪夢の女神ヴァーミナに連なるモノが近くにいると、僅かに痛みと血を流して感知する能力※

 ※そして、神意なる巨大な魔素を持つモノの真なる姿を映し出す可能性が向上し、眠った際、悪夢の女神ヴァーミナの波長が届くこともある※


 こんなモノがあるからな。だから俺は魔人ナロミヴァスと同胞?

 悪夢の女神ヴァーミナの眷属に?

 しかし、最近はヴァーミナは夢に出現しないし……。

 魔界の知り合いと思っておけばいいか。

 と考えたところで、シーフォのことを混ぜて魔界のことを聞いてみるか。


「……魔界の幾つかの神とは知り合いといえるかもしれない。そして、シーフォからアイテムを預かっている。だからいずれは魔界へと向かう予定だ。魔王の楽譜とハイセルコーンの角笛を持っているからな」

「本当か! 俺も魔界に戻りたいぞ……」

 元魔侯爵君は元気よく語る。

「しかし、あの魔界大戦で有名な魔皇から託されたアイテムを持つとはな……魔侯爵の俺でさえ、三日月刃のレプリカしか持っていないのに……」

「レプリカとは、その胸のアクセか?」

「その通り! これはただのアクセサリーではないのだ!」

 自慢気なアドゥムブラリだ。単眼からビームを発しそう。

「このレプリカの名は〝偽魔皇の擬三日月〟レプリカだが、大量に魔力を注ぎ込めばブーメラン型の武器となる! が、俺には重くて使えないうえに魔力量が足らない」


 要はただの飾りか。

 魔侯爵君の腕周りの飾りマークを見ながら、


「そちらの腕の車軸とホイール形のマークに紅色の宝石も何かのアイテムか?」

「……そうだ」

アドゥムブラリは可愛らしい単眼で俺を睨みながら喋る。分厚い瞼が蠢くさまはコミカルすぎる。ぬいぐるみとして売ったら人気が出そうだ。が、偽魔皇の品と違い、紅色の宝石のことはあまり喋らない。次は肝心なことを聞くとする。

「……そもそも魔侯爵とはなんだ? アドゥムブラリが名前なんだろう?」

「魔族での魔力量の位みたいなモノだ。低い方から魔兵級、魔騎士級、魔将級、魔侯爵級、魔公爵級、魔元帥級、魔王級、魔神級。となる」

 冒険者ギルドと同じような感覚か。

「へぇ、強さみたいなものか?」

「いや、あくまでも一見した魔力量のみ。大雑把だ。暴虐の王ボシアド様の配下で有名な死海騎士が一人ヘーゼファン・ロズナルドは魔力量が魔騎士級しかないことで有名だ。勿論、魔力量が強者の一つの指針であることにかわりはない……が、魔侯爵が一人ナイトメア卿のように魔王級へと突然と魔力量が増えたりする魔族もいるからな?」

 ホルなんとかの名は、前に、沸騎士から聞いたことがあるが、死海騎士の名は初めてか?

「……魔界騎士、ボシアドが有する死海騎士か。その〝死海騎士〟の名は何回か聞いたことがあったが、名前は初めて知ったよ」

「オカシナ奴だ。魔界の神と知り合いじゃないのか?」

「俺は魔界の神と話をしたことがあるだけだ」

「……驚きだ。シュミハザーと戦って勝つような野郎が……正式な神々の使徒というわけじゃないんだな」

「そうだよ。槍使いと黒猫だ。な? 相棒」

「にゃ」

 近くで顔を洗うように前足の肉球を噛んでいた黒猫(ロロ)が挨拶してくる。

 よし、次は……コンタクトレンズから紅色の玉に変化しては、俺に対して攻撃しようとしてきたことについて聞くか。

「で、アドゥムブラリ、先ほどはごまかそうとしていたが、紅玉を用いて俺を攻撃しようとしたよな? お前が戦いたいなら戦うが……どうする?」


 <サラテンの秘術>を使うわけではないが、左の手の内を魔侯爵に見せる。


『ちっこい目玉を貫くのか? 器として認めてやったのに矮小なことを』

『……サラテンには聞いていないから』

『ぐぬぬぬ』


 サラテンは呻くが、神剣は飛び出したりはしなかった。


「……お前は樹木を用いて、俺を閉じ込めていただろうが! だから怒っていたんだ」


 アドゥムブラリは単眼で掌を確認してから俺を睨んでくる。

 コミカルに背中の翼をばたばたと動かして、抵抗を示していた。

 攻撃の意志はありそうだが、もうアドゥムブラリは力もなさそうだ……。

 普通に戦って、滅するのもなぁ……。

 そうだ! 猫たちに食わせちゃうか。魔力の足しにはなるだろう。


「――ロロ、こいつを食べる?」

 と、掴んでいるアドゥムブラリの元魔侯爵君を黒猫(ロロ)に見せた。

『にゃん公に食わせるなら、妾に……そろそろ血が』

『サラテンよ。お前は外に出て、自由になりたいだけじゃ?』

『……チッ、バレたか。だがしかし、甘い血がないと妾は……』

 神剣サラテンは駄菓子が好きなのか分からないが、甘い血が欲しいらしい。

 だがしかし、無視だ。

「ンン、にゃぁ?」

 寝台の上で休んでいた黒猫(ロロ)は疑問風に鳴いて、頭部を上向ける。

「デザートみたいで美味しいかもしれない」

 俺の言葉に同意したか分からないが、黒猫(ロロ)は耳をぴくぴくと揺らすと、猫パンチを元魔侯爵君に食らわせていた。

「にゃにゃにゃ、にゃ~」

 やはりスーパーボール化したか。と、思ったがアドゥムブラリの眼球の端に片足を置いていた。猿芸の反省しろ? というように肉球を元魔侯爵君に押しつけている。上半身をぬっと持ち上げては、アドゥムブラリの単眼球へとのしかかるように両前足を乗せる黒猫(ロロ)はアドゥムブラリの眼球に、鼻をくっつけるように頭部を寄せて鼻孔を拡げ窄めてクンクンッと一生懸命にアドゥムブラリの匂いを嗅いでいた。

 黒猫(ロロ)には、あの元魔侯爵のアドゥムブラリの単眼の虹彩が、湾曲したガラス玉に映る不可思議な獲物に見えているのかもしれない。ゴロゴロ音とは違うカカカッとしたクラッキング音を喉から響かせている。

 だから、たぶんそうなんだろう。黒猫(ロロ)は二つの黒触手を首元から伸ばしていく。先端が御豆の形のした可愛い触手たち。

 御豆の裏側にあるピンクな肉球さんは柔らかくモミモミしたくなる。

「にゃ、にゃ、にゃ~」

 とリズミカルに鳴きながら肉球を活かすように御豆の形をした触手の先端で、元魔侯爵の単眼の頭部を叩いていく。そんな楽し気な黒猫(ロロ)さんの行動を間近で見たアドゥムブラリは怖がって眼球周りの魔族らしい皮膚から冷や汗らしきモノが吹き出ていた。血管らしきものが脈うつのも見える。ギョロッとした単眼球が百八十度の黒い隈線を縁取るようにぐるりぐるりと時計回りに回り出していた。

 

「……うう、ま、まてぇ! 待ってくれえぇ食わないでぇ……」


 眼球をぐるぐると回しながら、わめき声というか情けない声を早口で喋り出す。

 先ほどの強気な態度は消えている。もう戦う意思はない。魔侯爵君の視界には黒猫(ロロ)のドアップな頭部が映っていると思うが、怖いようだな。


「にゃおん――」


 黒猫(ロロ)はその情けない声を上げて眼球を回している魔侯爵の思いに応えたのかどうか分からないが、ぷいっと顔をそむける。俺に頭部を向けてきた。

 瞳から『こいつは、このみじゃ、にゃい』といった意志があるようにも見える。

 魔侯爵君の臭いは気に入らなかったらしい。

 黒猫(ロロ)は俺を見ながら、ふさふさな毛の尻尾で魔侯爵君の単眼球体を撫でていた。その動きは化粧道具の小筆のようだ。左右に尻尾が可愛く動く。

 尻尾でアドゥムブラリを撫でることを止めた黒猫(ロロ)さんは、尻尾を真上に立てた瞬間、ぷぅ~とした空気が洩れる音が聞こえてくる。

「――くそおおおお、放屁しやがった!」

 あはは、オナラかよ。

 ロターゼの影響か?

「……俺様は落ちぶれたとはいえ、元、魔侯爵なのだぞ……」

 アドゥムブラリは表情で、相棒のおならの臭さを表す。

 一方、おならをした黒猫(ロロ)さんは、満足気な表情だ。

 尻尾を傘の柄のように曲げてピンと真っ直ぐ立たせていたが、その尻尾の先端を魔侯爵の単眼へ向けて降ろしていた。それは攻撃ではない。

『オナラをかけてごめんにゃ』

 と謝るように黒猫(ロロ)は尻尾の先端で、アドゥムブラリの単眼をくすぐるように、優しく撫でまわしてから、元魔侯爵アドゥムブラリから離れた。

 黒猫(ロロ)は俺の肩に戻ってくる。

「あはは、神獣の放屁だぞ。御利益があるかもしれない?」

「くっ……」

 俺たちのふざけた態度を見た魔侯爵君は、単眼の虹彩を散大させる。

「だが、俺は食われたくない……」

 黒猫(ロロ)のおならを浴びた魔侯爵アドゥムブラリ君は怒りはあまりないようだ。

 怒りを抑えたというか、この状況で抵抗するわけがないか、すると、


「ニャオ」

「ニャア」


 邪界ヘルローネ製の樹木で作った屋根上の猫道を歩いていた黄黒猫(アーレイ)白黒猫(ヒュレミ)たちが鳴いてくる。

 黒猫(ロロ)のおならを体感したレアな魔侯爵君に興味を持ったらしい。

「ロロはお前を食わないらしいが、あの通り、遊んでいるアーレイとヒュレミは分からない」

「――ン、ニャオォ」

「ンン、ニャア――」


 ところが……。

 童顔の黄黒猫(アーレイ)と渋顔の白黒猫(ヒュレミ)は魔侯爵には興味がないらしい。互いに猫パンチを頭部に浴びせると、猫ボクサーと化していた。

 黄黒猫(アーレイ)は両足を滑らせるように屈んで白黒猫(ヒュレミ)のフックパンチを器用に避けつつ白黒猫(ヒュレミ)に背中を見せつける華麗なターンを見せた。そのまま、オセロットのような四肢を伸ばし屋根の猫道を駆けていく。

 黄色毛を周囲に散らしていった。

 それを見た白黒猫(ヒュレミ)は『逃がすかニャ!』

 と言うように口からキラリと光る牙を覗かせて「ニャオォ~」と鳴いてから黄黒猫(アーレイ)の背中を追いかけるように走り出した。

 樹の間縫うような小道を走る二匹の子猫たち、もとい魔造虎たち。

 猫軍団たちはそのままブロックの端から跳躍――。

 アスレチックジムを楽しむように違うブロックへと移っている。

 はは、意気衝天のごとく楽しんでいるな。

 俺が屋根上に作った猫道は屋根上を隅々まで探検できる仕組みだ。

 柱と柱の筋交いの上に続く垂木の間には、横に飛び出る形の塊がある。

 そのウォールシェルフのように横に出ている樹木の塊群は、猫たちが飛び移ることを念頭においた四角いブロックのような樹木だ。

 そして、屋根を構成する母屋と落とし掛けの内側と下側にも……。

 猫たちが木材の形や模様で楽しめるように、魚と鳥に似た形の板を取りつけてある。

 端には擬宝珠をモチーフにした先端が尖がった棒飾りも作った。

 その棒飾りは……。

 猫軍団の爪により、ねこじゃらしと化して傷だらけだが……。

 近くのブロック木道の途中に爪とぎも用意したんだけどな……。

 あのねこじゃらしと化した飾りの方が気に入っているらしい。

 今も付長押の上に設置した長い猫道を楽し気に走っては、点々としたブロックの上に飛び移る猫たち。華麗な内腹を見せての飛び移り……。

 ムササビにも見える。

 二匹の子猫たちは元気よく屋根上を駆け続け、猫用の木窓から外に出ていくのが見えた。

「……良かったな? ()は興味がないらしい」

「今はか……」

 怯えたように肩で休む黒猫(ロロ)を見る魔侯爵君。

 黒猫(ロロ)は俺と魔侯爵を交互に見てから、

「ンン、にゃお?」

 と、意味があるように俺に鳴いてきた。

「この魔侯爵アドは俺の新しい部下か? と聞いたか? それとも喰わないのか? と聞いたのかな?」

「ンン」

 喉声のみの返事。

「さて、このアドゥムブラリ君をどうするか」

 俺を攻撃しようとしたよなぁ

 と思いながら、その元魔侯爵君アドゥムブラリを見る。

「それで魔侯爵アドゥムブラリ。お前はどうしたい?」

 単眼君こと魔侯爵アドゥムブラリは……棚に視線を向ける。

 棚にはイグルードの樹の塊があるが、それを凝視するアドゥムブラリは、

「こいつは、どうするつもりだ?」

 と聞いてきた。

「動いていないが、お前と同じく接触は試みる」

「倒したイグルードをわざわざ取り込む気か? 俺を武装魔霊として使役していたシュミハザーと同じ目に遭うぞ」

「そういえば、キサラが前に武装魔霊と語っていたな」

「――シュウヤ様、お呼びでしょうか」

 キサラの声だ。

 屋根上の窓からキサラが顔を覗かせていた。

「お、ちょうど良かった。武装魔霊のことをこの魔侯爵アドゥムブラリから聞いていたんだ。しかし、まずはキサラに礼を言っておこう。ムーを含めた皆との訓練を見ていてくれて、ありがとう」

 そう話をしながらキサラに頭を下げた。

「いえいえ、シュウヤ様のためですから、当然です。精霊様と一緒にムーちゃんの訓練を見ていましたが順調です。オークの二人は踊っている紙人形たちに驚いていましたね」

「モガ&ネームスとハイグリアもオークとは打ち解けたようだ」

「はい。オークたちは相変わらず言葉は通じないようでしたが……」


 キサラはそう話しながら部屋に入ると、手に持った魔女槍を窓の横に立てかけていた。


「子供たちも怖がってこなかったしな。アッリとタークが率先して挨拶してくれたのは助かった」

「キッシュさんも説明していましたからね。そして、オークたちの実力を見たハイグリアちゃんも納得していました。あのクエマの槍は中々使えます。独特の捕縛術があるようです。もう一つの骨笛を用いたスキルはまだ見せていませんが……一方のソロボも銀太刀を器用に扱います。魔力刃を飛ばしてくるので遠距離戦も対応できる優秀な剣士です」


 まぁ、そのオーク二人相手にキサラは余裕で対処していたが。

 ソロボも妖刀ソエバリを用いた見たことのない歩法からの銀太刀の剣術は凄かった。


 あの剣術歩法は摩利支天を思わせるぐらいに見事だったが……。


『――素晴らしい! ですが<邪足譚>!』


 と、叫んだキサラの足技で踏みつけられた妖刀ソエバリ。

 そこから回し蹴りをもろに喰らったソロボは降参していたな。


「そのオークの二人はシュウヤ様に心酔しているようで、今もこの家を守るように入り口で待機していますよ。波群瓢箪が時々血色に輝くので、その度に恐慌状態に陥っていましたが……」


 今は玄関の飾りとなった波群瓢箪。あの中身がどうなるか……気になる。

 そのオークたちは一階に部屋を用意したから馴染んでくれればいいが。

 紅虎の嵐のことも聞いてみるか。

「紅虎の嵐の面々も中々強いだろう?」

「そうですね。ハイグリアちゃんも、とくに獣人の双剣士サラさんに注目してました。確かに剣術云々の前に動きが素晴らしい。虎獣人(ラゼール)と似た変異体の力も使いこなしているようです。サラさん曰く『父は人族よ、母は猫耳を持った獣人』と語っていましたが……わたしはライカンスロープ系か豹獣人(セバーカ)の亜種の血を引くハーフと睨んでます……しかし、一番に注目したのは……あの動きを封じる光の魔法を駆使する魔法使いルシェル・アドキンスさんですね。氷礫を無限に放つ素晴らしい魔杖を持ち、雷系のスクロールも魔術総武会の幹部たちのように大量に備え持っている……美人ですし、彼女は何者なのでしょうか」

 隊長のサラよりも紅虎の副長ルシェルが気になるようだ。

「古代竜の魔竜王にも効いていた光魔法だからな。そんな特別な魔法を神聖教会経由ではなく冒険者クランの副長が使える。気にはなる……」


 ルシェルの能力、魔法書、スキル、戦闘職業が複雑に絡んだ結果、覚えた魔法とかスキルかもしれないとは予想ができるが……。


「が、今は、この魔侯爵アドゥムブラリと話を続ける」


 キサラは頷いた。俺も首を縦に振り、


「……今は見ての通り、シュミハザーが使っていた魔侯爵アドゥムブラリを解放させたところだ。そして、この魔侯爵から武装魔霊のことを聞いてな」

「そうでしたか。そこの魔侯爵アドゥムブラリとは契約を?」

「いや、まだだ」

「……俺と契約しろ。契約できたらお前を新しい主として認めてやる」


 先ほどの俺の『どうしたい?』の返答が、〝俺と契約しろ〟か。


「不遜な態度ですが、シュミハザーに弄られる前……嘗ては魔界の侯爵級に上りつめたほどの魔族。シュウヤ様の眷属となれば、あのシュミハザーを超える武装魔霊に成長する可能性も。今思えば、わたしとロターゼが吸収しないで良かったです」


 キサラはそう話し、胸元の巨乳さんを揺らしながら俺の側に近付いてくる。

 単眼君こと魔侯爵アドゥムブラリはキサラが話している中、「そうだそうだ、契約してやる契約してやる」と、早口で捲し立てていた。


「ロロに喰われたくないからか、先ほどとは態度が変わったな」

「当たり前だ。イグルードとシュミハザーに俺の殆どの力を奪われたからな?」

「で、先ほどの紅玉は?」

「アムシャビス族の力だ。それも満足に撃てない俺……」

「なるほど」

「これで分かっただろう。先ほどは単に閉じ込められていたことに怒っただけ、やるだけのことをやっただけだ。だから、あとはお前の裁量に任せる」

 と、単眼君は恭順の意思を示すように、背中に生えた一対の翼をコンパクトに纏める。

 まさに「運は天にあり」の態度。意外に潔い。

「主となれば、主専用の武装魔霊と化すだろう。契約にはそれなりな魔力が必要だが……」


 一気に契約の流れとなったが……。


「待った。契約云々の前に俺は束縛するつもりはない。その小さい翼を広げて、外の世界に旅立ってもいいんだぞ」

「え? 使役せず、俺の意思を尊重して解放する?」

「そうだ。好奇心からお前を捕らえたが、俺と戦う意思もないようだし、それに魔界に戻りたいんだろう?」

「……」

 アドゥムブラリは眼球の瞼を閉じた。沈黙してから、

「ここに残る。嘗て魔侯爵と呼ばれた俺は魔改造されたあげく、そのシュミハザーは蒸発しやがったからな。自由になったところで、俺は……魔界に戻れるなら戻りたいが……戻ったとしても……」

 単眼球のアドゥムブラリは重そうな瞼を震わせて大粒の涙を一つ、二つ作ると、その大粒の涙を零していた。両前足を内側に畳むように香箱で休んでいた黒猫(ロロ)だったが、触手をそのアドゥムブラリの涙に向けて伸ばし、大粒の涙を掬うように拭いてあげている。

「ロロ、優しいな?」

「にゃ」

「……ありがとな、ロロ様。本当は言いたくなかったんが……俺は、見た目があまり変わってないが……ホフマンとシュミハザーのせいで、実はもう昔の俺……魔侯爵でもアムシャビス族でもないんだ……本当は魔力が吸収されやすい、ただの武装魔霊の成れの果て……でしか、ないんだ」

 魔族らしくない泣き方と喋り方だ。

「分かったよ。契約しようじゃないか! そして魔界に戻った時、アドゥムブラリが故郷に戻りたかったら戻ればいい」

「……お前は俺を泣かせる気か!」

 もう泣いているだろ! と思いながらの槍組手のプレゼントは繰り出さない。右背攻のツッコミをあの単眼球にぶち込んだら潰れてしまいそうだし。

「……シュウヤ様、言葉だけで魔族を……凄い」

 キサラがおっぱいを両腕の肘で押しつぶすように胸元で手を組みながら、そう語る。

 俺ではなく黒猫(ロロ)が単眼の目ん玉を舐めたお陰かもしれない。

「……契約するとして、どうやるんだ?」

「これを触ってくれればいい――」

 魔侯爵アドゥムブラリはそう語った直後、眼球を剥く。

 本当に剥くように白目になると、そこに紅色の血管の触手群が蠢き、魔法陣を形作る。

 立体的な魔法陣だが紅色がさらに薄まり、白とピンク色の蚯蚓が作ったような魔法陣が浮いていた。気色が悪いが……。

「罠に見える……」

「大丈夫かと思いますが、精霊様なら」

 キサラの忠告通り、ヘルメを呼ぼう。

「ヘルメー」

 と大声でヘルメを呼ぶ。外の訓練場での会話は賑やかだ。

 黒い甘露水が気に入ったのかサラ、ルシェル、ベリーズ、ブッチの声が響いてくる。


「ふふ、ムーちゃん。そんな急いで飲まなくても……」

「でも、ムーちゃんは糸を使って器用ですね。小さい槍使いさんです」

「……」

「喋らねぇな? でも、隊長、これうめぇぇ!」

「……ペルネーテで狩りをするなら黒飴水蛇(シュガースネーク)が優先だからね」

「ベリーズが真面目に語るなんて……でも、分かる気がする」

 紅虎の嵐の面々が、ムーに黒い甘露水を飲ませてあげているようだ。

「わしにも飲ませてくれ」

「博士、わたしのを……」

 ドミドーンにミエさんか。続いて、

「甘露水か。懐かしいな! ネームスが一晩で飲み干したんだよなぁ」

「わたしは、ネームス!」


 モガ&ネームスのそんな声が聞こえると、クエマ&ソロボが


「これが……ヘカトレイルで採れた野菜か美味い……」

「地下の品質とはまた違うのだな」


 ヘカトレイル産の新鮮野菜を夢中になって食べているようだ。

 さらに、魔界で伝説の巨大ソンリッサを見かけた話をして盛り上がるゼメタス&アドモス。そこに、ヘカトレイル産チーズ、パンが気に入ったイモリザの「キュピューン」といった声が響く。

 

 皆、黒い甘露水とヘルメのおっぱい聖水を混ぜた液体が入ったゴブレットを片手に持っては、お菓子を楽しんでいるんだろう。

 トン爺製のお菓子は美味しいし、リデルの菓子も美味い。

 彼女は失敗したと語るが……意外に美味しいリンゴ菓子だった。


 その美味しいリンゴ菓子を食べているようだ。

 

 レベッカに血文字で連絡したら、


『いいなぁ、そのお菓子を食べたい! 十六面の鏡はもうシュウヤの家に設置したんでしょ? だったら早く屋敷に戻ってきなさいよ。保存用魔道具は少し前に、ヴィーネが買ったんだから保存が利くし! これは最優先事項よ!』

 

 血文字でも分かるぐらいに興奮していたレベッカ……。

 内蔵したお菓子センサーが発動してしまったらしい。

 エヴァもリンゴ菓子を気に入るはず。エヴァはエヴァで、

 

『血星海月連盟のお陰で、自前に農場を持つフルーツ商会の提携が上手くいった』


 から始まり……ドワーフのドナガンが作る野菜畑と、イモリザが発見した天然のリンゴ畑を報告したら凄く喜んでいたなぁ。しかも普通のリンゴではないってのが最近分かったからな。そして、最後に


『ん、その普通じゃないリンゴを活かしたお菓子で、丸いお菓子で有名になったタナカ店に抵抗できるかもしれない。だから、そのリンゴをディーの店に卸してほしい……』

『リンゴは天然だから難しいかもしれない。ま、今度サイデイル村に見に来いよ。イモリザに案内させる』

『ん! 行く!』

 と、気軽に血文字でやりとりをしていた。

 ユイはリンゴの話はあまり展開せず……。

『【象神都市レジーピック】に近い宿場街道を牛耳る盗賊を倒したのよ?』

『三刀流の餌食か』

『うん。その背後関係が怪しいと思ったわたしたちは酒場に直行。そこで父さんが『サボテン肉と酒を頼む』と酒肴を注文して席に座り、瓶子に入った酒を皆で口に運び酒を楽しむ素振りを見せながら、情報を得たのよ。でも、辛煮のサボテン肉は美味しかったな……』

『それで、ちゃんと情報は得たんだな』

『そう。同盟相手の【星の集い】の伝手がある盗賊ギルド員と連絡を取ったんだ。土地鑑がないのに鴉さんは仕事ができる。父さんも『運用の妙は一心に存す』と語って協力していたけどね。そしたら案の定! 【竜金照】と【ゼーゼーの都】という【星の集い】と仲が悪い闇ギルドが裏で暗躍していることを掴んだの……繋がりがある宿を探索してると、向こうから襲い掛かってきた』


 ユイとカルードのルシヴァル親子の暗殺道に掛かっては、どの闇ギルドだろうと無事には済まないだろう。


『殲滅か』

『当然。返り討ち! 神鬼・霊風を使い父さんから学んだ赫機ノビを意識した剣突を繰り返したからね』

『だろうな。それで街道を襲っていた盗賊を抱えていた闇ギルドだ。商隊から奪い続けていた資材やら貨幣はたんまりとあったんじゃないか?』

『ううん。なかった。潰したのは【竜金照】だけだから、納屋で違法に監禁されていた奴隷たちを解放しただけ。【ゼーゼーの都】は消えたように居なくなった。なんでもウェンから聞くと、人工迷宮の一部と繋がりがあるようなの。異端者ガルモデウスが作ったという』


 そこから【星の集い】幹部である流剣使いウェンと、剣術勝負をする話に発展した。

 カルードは『若造が! マイロードの嫁であるわたしの娘に手を出すとは千年早い!』と、ウェンを一蹴した話を自慢気に聞かされた。

 

 そこからカルード&鴉さんとのちょめちょめ話の愚痴を娘の視点から聞かされるはめに……。


「――閣下! 遅れてしまい申し訳ありません」


 カルードの春を想像していたらヘルメのツッコミ声が。

 違うか。普通に呼んだからな。

 <珠瑠の花>を指先に収斂している最中だったヘルメ。


 足下から水飛沫を発生させているから、木製の窓が少し濡れていた。


「いいよ。こい」

「はい」


 と、返事をした微笑むヘルメ。

 常闇の精霊らしい姿のヘルメは、おっぱいを揺らしながら部屋の中に入ってくる。


「このアドゥムブラリと契約しようと思うんだが……見た目的にな」

「トン爺が持っていた物ですね。なるほど。見た目はミミズの集合した……確かに……でも大丈夫ですよ。邪悪な精霊ちゃんも居ませんし、魔力を集結させているだけですね」

「分かった」

 皆に向けて意を決するように、頷いてから……。

 魔侯爵アドゥムブラリの単眼球を凝視。紅色のミミズのような触手群が構成している魔法陣へと勇気を出して手を伸ばす。ミミズのような触手の群が、俺の指に触れた直後――ぬおッ――と魔力をかなり吸われた感覚。


『フフン! 妾から魔力を吸うのは無理ダ! フハハハ』


 左手に棲んでしまった神剣サラテンの声は無視。

 というか、サラテンの声が響いた瞬間、触手が溶ける。

 アドゥムブラリが溶け――いや、粒となった?

 ――細かな紅色の粒たちとなった魔侯爵アドゥムブラリ。

 粒たちは自由を得た紅き翼を形作るように宙に弧を描くと、俺に向けて急カーブしながら向かってくる。思わず避けようとした――が、紅色の粒たちは中指に集結してきた。

 だから動かず手を伸ばした状態を維持すると、指に集結した紅色の粒は、指輪となった。壺ヤナグイのマークに囲まれた中心に紅い宝石がある。

 紅い宝石には紅い翼があった。真新しい紅い指輪。


 ※ピコーン※<武装魔霊・紅玉環>※恒久スキル獲得※


 おぉ、スキルだ。


「魔力を吸われたが、スキルを覚えた。これがキサラの話していた武装魔霊の標準タイプか。沸騎士のような契約タイプのようだな」

「おぉ、閣下の新しい指輪! 脱着も可能のようですね」

 ヘルメが語るように紅玉環を指から取り黒猫(ロロ)に見せていく。

「ンン、にゃ」

「匂いは先ほどと同じか?」

「にゃ~」

 香箱の姿勢を崩すように両前足を前に出して背筋を伸ばした黒猫(ロロ)は体を横に回し、尻を見せたかと思いきや、後脚を持ち上げて尻尾を指輪へと当てるように尻尾をふりふりと動かし始めた。また放屁か?

「ロロ、それはだめだ。ロターゼから影響を受けたのか?」

 と注意。黒猫(ロロ)は耳を凹ませて、頭巾の中に入っていく。

「……ふふ、ロロ様。反省している様子も可愛いです」

 とヘルメに抵抗の意思を示すように、俺の横に来ていたキサラ、キサラの香水の匂いはいいな、キサラは頭巾の横からヒョコッと頭を出していた黒猫(ロロ)の小さい頭を撫でてあげていた。と、キサラの腋を見てしまった。しかし、今はエロタイムではないと頭を左右に振ってから紅玉環を嵌め直して、その紅い指環に魔力を注ぐ――すると、紅宝石の紅い翼の周りに並ぶ壺ヤナグイのマークが煌めくと、中心の紅い翼がバタバタと動き、本当の翼のように大きくなると中心の紅宝石も、ぐにゃりと湾曲して形を変えた瞬間、その指環と繋がった状態のアドゥムブラリが出現した。先ほどの魔侯爵アドゥムブラリより半分ほどに縮小した姿のアドゥムブラリが、

「――主、契約は完了した。今後ともヨロシクたのむ」

「おう」

 さて、次はイグルードだな。

 こちらはどうなるか予測がつかない……。

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