三百八十四話 キサラの紙人形とムーの訓練
ムーは義手に嵌まった樹槍の切っ先を俺に向ける。
「やる気は十分だな?」
そう喋りながら足に魔力を纏う。
<導想魔手>から飛び降りた――。
足の指先が訓練場の地面を捉えた瞬間――。
その爪先で訓練場を強く蹴り前進。
ムーとの間合いを一瞬で詰めた。
ムーは風を纏ったかのような俺に対しても動じず。
無言のまま樹槍と繋がる義手を縦に動かしつつ樹槍を回転させる――。
ムーは義手で樹槍を扱うと石突側で地面を突く。
と同時に、義手と義足の孔から出した魔糸を土に刺して自身の体を器用に支えた。
義手と義足の孔から飛び出た魔糸は何重にも螺旋して増えたようにも見えた。
ムーの前髪は揺れる。
髪に隠れた片目がちらちらと覗く。
無手の片腕を左に伸ばす。
バランスを取っていた。
ただバランスを取っているだけだと思うが……小柄ながらも左右の手の動きから何かの武術を感じる。
そして、背筋を伸ばしつつバランスを取っていた腕を太股の横にピタリと付けた。
気をつけの姿勢を取る。
生徒としての意識はあるようだな。
しかし、ムーの扱う糸魔法を見ると……。
色々と良い方向へと発展しそうだ。
その糸の操作技術を見ると、俺はムーのために義手と義足を作ったが……間違いだったかもしれない。
なにごとも型にはめ込もうとしすぎか……義手と義足を使わずに、ムーの糸魔法か、魔術で生成した糸の腕や糸の足を生かしたほうがムーとしての個性が生きる槍使いとなるかもしれない。
そう考えながら、
「……短い間だが、確実に成長しているな」
と、語りかける。
「……」
いつもと同じく返事をしないムーちゃん。
だが、小さいなりに律した姿勢だ。
キリッとした表情を浮かべている。
その姿勢からある種のリスペクトと俺から『槍を学びたい』という強い思いをひしひしと感じた。
すると、その学びたい視線を向けるムーの周りで踊り続けていたキサラの魔術か、魔法か、分からない折り紙製の人形たちも俺に対して頭を下げて挨拶してくる。
侍と忍者のような二体を中心とした小さい折り紙人形たち。
同時にキサラの微かな<魔謳>の歌声が聞こえてきた。
「ひゅうれいや、謡や謡や、ささいな飛紙……」
微笑を湛えたキサラ。
魔女槍を持った状態で謳いながら降りてきた。
腰元にぶら下がった魔導書は光っている。
その光る魔導書か魔術書と、ムーを補佐する紙人形は連動しているのか踊り続けていた。
魔声の謳声は小さい音……。
しかし、不思議と耳に残る。
キサラはそのまま訓練場の壁に腰かけ、手にした魔女槍を胸元に優しく抱えた。
何をするんだろう。
と思った時、魔女槍の柄孔から放射状に伸びたフィラメント群が束となって数本のリュートのような弦に変化をしながらうねり伸びて魔女槍の柄頭と繋がった。
おぉ、魔女槍が弦楽器と化した!
元々フィラメントは繊維質のようだったし……束に変化する動きは何度も見ていたから納得だ。
弦以外にも魔女槍ギターと繋がるストラップベルトに変化したフィラメントの束はキサラの肩へと自動的に回り込む。
ベルトが支える魔女槍ギターは胸元から腹の下にぶら下がる形となった。
キサラは本格的なギターを演奏するスタイルとなる。
しかし、攻撃と防御だけでなく楽器にも変化するとは……万能性が高い。
俺の神槍ガンジスの柄にも似たような嬰があるが、さすがに楽器は無理だ。
キサラは微笑みを讃えた表情から、にわかに切なそうな表情に変えてから――。
細い指で、魔女槍の弦を弾いていく。
「飛魔式、ひゅうれいや……」
爪弾くたびに<魔謳>と合わさった弦音が響いた。
ギターと三味音が合わさったような切ない音。
続いて、ムーの周りでお辞儀を繰り返していた紙人形たちも連動した。
弦楽器と<魔謳>の声音に合わせて一斉に踊っていく人形たち。同時に、半透明色の薄い魔力波をムーに向けて放っていた。
魔力波も不思議だが、その旋律に圧倒される。
和のテイストに西洋のロックが合わさったような……。
踊りの中心を担っていた侍と忍者のリーダー格の紙人形たちは、ムーの左右に並び立つと、ムーに動きを教えるように型を取る。
他の紙人形たちはムーが持つ樹槍に絡んでいた。
柄に紙の一部をひっかけては、ぶら下がったり巻き付いたりと、自らの紙の胴体を折り曲げて遊んでいる。
楽し気な紙人形たちだ。
面白い……<魔謳>と弦音楽の連動魔法。
いや、魔術か、どちらでもいいか。
あの魔力波を発している人形たちの指導のお陰で、ムーは僅かに成長したのか?
これも四天魔女キサラの力か。
魔導書と関係している手首の数珠マークの変化から接近戦用の匕首武器と鴉の使い魔の召喚も見せてくれたが……。
この不思議な紙人形たちも同じ系統の魔術か魔法なんだろうか。
キサラはまだ歌っているが……。
気になるので聞いてみよう。
「……キサラ、演奏中悪いが、ちょっといいか?」
「はい、何でしょう」
キサラは演奏を止めて壁から降りた。
弦と化したフィラメントの柄孔から煌びやかに伸びているストラップベルトが下方に伸びてキサラの下半身を隠すように魔女槍ギターが臀部の位置にぶら下がる。
立ったスタイルに自動的に対応か。
立った姿でもギターは弾けそう。
有名なギタリスト『ジミー・ペイジ』がギターを弾くような感じだ。
音楽が止んでも紙人形たちは踊っていた。
スタンドアローンでの運用も可能なようだ。
「……音楽が止んでも踊っている紙の人形たちも百鬼道の一つなのか?」
「勿論。特別な百鬼道ノ八十八の<魔倶飛式>たちと<飛式>たちです。【魔術総武会】の一級魔術師たちだけでなく、霧の魔術師、大魔術師アキエ・エニグマ、などの対魔術師戦には必須でした」
その二名はキサラの過去話に出てきた魔術師たち。
「その<魔俱飛式>たちは、ムーの教育の他にも、ロターゼとの模擬戦でも使っていたように……」
「はい。防御膜と目眩しだけでなく、受けた傷を<飛式>が受け持つ形で術者の傷を徐々に回復させる効果もあります。尚、シュウヤ様の使役している精霊様には遠く及びませんが……ムーの側で踊っている<飛式>たちのように自律活動も可能です。特に<魔俱飛式>のジュウべェとチカタの姿は小さいですが、かなり有能です」
侍がジュウベェ。忍者がチカタか。
「やっぱり。ムーの動きが良くなったけど、その<魔俱飛式>たちの効果かな?」
「そうですね。人形たちが扱う天魔女功の一部を使って、外側から使い手の体内魔力を刺激する形で、魔手太陰肺経の活性化を促します。この場合の使い手はムーちゃんですが」
魔力の巡りを良くするような感じかな。
「魔力操作が上手くなる?」
「はい。ムーちゃんの素質が非常に高いのもあるかと。今現在も、義手と義足にある孔から伸ばしている糸と魔法書から伸びている糸を繋げては、着実に秘術書の糸と自分の糸の融合を果たしているようですし」
ムーの糸と繋がる魔法書の欠落は確かに大きくなっていた。
腕と足を失った代わりに生えている三角錐の中に……。
魔界八賢師が作ったか愛用した秘術の魔法書を構成している魔糸を取り込んでいるのだろうか。
義手と義足があるから、糸と繋がる三角錐は見えていないが。
「……ムーの素質云々の前に、あの片足と片手の代わりに生えている三角錐の先端から放出している魔糸が特別だな。糸でできた魔法書とはいえ、魔界八賢師製の秘術魔法の書を取り込んで、自分の糸と融合しているんだから」
「……そうですね。魔界八賢師が作ったアイテムと融合。尋常ではないです。ホフマンたちが捕らえていた理由が分かるような気がします。ムーちゃんの糸が起因したのかは分かりませんが、ただ血だけを欲する理由ではないのは明白。わたしを封じスキルを盗んだように糸だけではない。他の何かがムーちゃんにはあるということでしょう」
ムーを見るキサラ。
黒仮面から覗かせる蒼い瞳は厳しい。
が、そこには仄かな優しさが宿っている。
「この間、厳しいことをムーに話していたが……」
「言葉を話そうとせずに偉大な<闇と光の運び手>であるシュウヤ様の槍武術を学ぼうとしているのです。厳しく育てませんと」
黒魔女教団の代表者、四天魔女らしい言葉だ。
「それに、ムーちゃんの覚悟を見たかったのもあります。わたしも黒魔女教団で過ごしていた幼い頃、ある高手から……この<飛式>を使った訓練を受けていましたから……」
あ、そういうことか。
黒魔女教団の訓練とは厳しそうだ。
ゴルディーバの里にあった【修練道】のような場所をイメージする。
そして、なんだかんだいって、ムーと自分の境遇を照らし合わせていたのか。
キサラもあのままだと標本のただの槍アイテム状態だったからな。
高手と語ったキサラの蒼い双眸の奥には深い悲しみが宿っていた。
「……っ」
ムーはキサラに向けて頭を下げる。
紙人形たちも頭を下げていた。糸のことを考えて、
「ムーに義足と義手は必要ないようにも見えたが、お前はどうしたい?」
「っ――」
ムーは獣のような息を吐きながら、激しく頭を振る。
そして、義手と義足を自らの糸で囲い出した。
最終的に、その巻きに巻いた自分の糸で体ごと雁字搦めにして、地面に倒れてしまうムー。
「はは、大丈夫だって」
蓑虫のようになったムーへと、手を伸ばすが、ムーは無視して睨んでくる。
『これは絶対に渡さないんだから!』と訴えるような表情を浮かべていた。
「安心しろ――」
訓練をするため、魔槍杖を右手に召喚する。
「そもそも義手&義足は俺があげたんだぞ」
「……」
また頭を振るムー。
「お前が気に入っているなら取るわけがないだろう」
「シュウヤ様から頂いた物ですから、ムーちゃんは大切にしたいのですよ」
「……」
ムーはキサラの言葉を聞いて、頬を少し赤らめて小さく俯いた。
図星らしい。
そこにヘルメが近付いてきた。
「キサラ、紹介します。閣下の新しい常備兵たちです」
「はい、オークたちですね」
ヘルメがキサラにオークたちを紹介していた。
魔女槍の柄孔から伸びて弦と化していたフィラメント群は、瞬時に元のフィラメント状となって散らばる。
ムーの側に居る紙人形たちは自律して動く。
弦から元に戻ったフィラメントは薄いそうめんや白髪にも見えた。
そして、キサラの腰にぶら下がる魔導書が光ると……。
空からロターゼが迫力ある姿で登場。
漆黒の胴体の表面を彩るように回路基板のような白い模様が出現した。
その白い模様は、ニューロンに電気信号が通うように点滅していくので綺麗だ。
胴体に鯨らしい窪みがあるが、キサラから受けていた蹴りのダメージはあまりないようだ。
「キサラー、毎度の訓練か?」
「ううん、違うわ。シュウヤ様が連れてきたオークたちを精霊様が紹介してくださったの」
クエマとソロボにも闇鯨ロターゼを紹介するらしい。
「ほぅ、主殿が連れてきた新人か」
闇鯨ロターゼはそう話しながら、オークたちを見据える。
潜水艦のような額の中心にある火の玉は眩い。
オークのソロボとクエマは、ロターゼの巨大さを見て動揺を示す。
唇の端から伸びている牙が震えていた。
ソロボは厳つい顔だけに、怒っているのか動揺しているのかは分からない。
「にゃあ」
「ニャオ」
ヘルメの足下に居た黄黒猫と白黒猫が鳴いていた。
オークたちを見ながらだから、『餌にゃ?』とか思っているのかもしれない。
「ンン、にゃお~」
黒猫は御豆のような小さい先端が可愛い触手をキサラに伸ばす。
キサラの頬に御豆の触手が触れていた。
気持ちを伝えているらしい。
「あ、ロロ様……。ロターゼと遊びたい? 皆と遊びたいのですか? あ、豚は食べ物じゃないことは分かっています。舐めたら美味しい? ふふ、確かに。でもシュウヤ様が連れてきたのですから、ね? 精霊様」
「そうです! ロロ様、ソロボとクエマを食べてはいけませんよ!」
「……」
ソロボは言葉を理解できてないので分かっていないが。
黒猫さん。舐めたらって、大丈夫だろうな……。
紅虎の嵐のメンバーも紹介したいが……。
今はキッシュから説明を受けては、色々な情報交換をしているはずだ。
彼女の村長としてのカリスマ性と交渉力に期待しておこうか。
あとで、ドミドーン博士と助手のミエさんたちにも紹介しないとな。
ハイグリアたちとモガ&ネームスにも……。
オークのクエマとソロボの姿を見たら、びっくりどころか戦いになりそうな気がするが……ま、その時はその時だ。
クエマとソロボは俺に降伏したからな、ちゃんと面を合わせよう。
と、考えたところで、今はムーだ。
厳しい視線を意識しながらムーを見る。
「……ムー。風槍流の型を軽くやるから見とけ、まずは第一の構えから風槍流〝焔式〟」
重心を低く構えた突きの動作に移行する――。
ムーに風槍流伝統の基礎の型である焔式の<刺突>の連撃を披露した。
……途中、ムーにとって分かりやすいように、師匠譲りのゆっくりとした丹田から大腰筋を含む下半身の動きを見せていく。
重心を低く構えて、魔槍杖を前に突き出す。
紅矛の先端を見せるように――。
突く、突く、突く。
三度の突きのあと、魔槍杖を胸前に素早く引き戻しながら斜めに紅矛を向ける。
紅斧刃の波紋を夢中になって見ている碧眼の双眸。
毛細血管のような無数の糸のようなモノで構成された髑髏の印を見ているのだろうか。
俺はそんな一生懸命なムーを見て、微笑みながら、そのまま右足で地面に半円を描き半身をずらし退く。
そのタイミングで、ムーと視線を合わせ頷いてから、退いた半身の身体を元へ戻すように腰を捻りローキックをイメージしながら右足を前へと押し戻す。
同時に、魔槍杖の竜魔石でかち上げを行った。
――今度は逆向きだ。左斜めに魔槍杖バルドークを動かし、半身の姿勢に移行――。
先ほどとは逆の動きを繰り返した一通りセットの動き。
最後は〆――跳躍し、魔槍杖バルドークを振り上げ海老反りに移行し、体躯に溜めた力を大上段に構えた魔槍杖バルドークに乗せながら一気に魔槍技バルドークを振り下ろした。
力の乗った穂先の紅斧刃は地面と衝突し、地面を裂く。
亀裂の間から血色の火柱が立った。
紅斧刃の……髑髏たちが嗤って見えたが、気のせいだろう。
「――っ」
土煙が起きてもムーは何のそのというように、荒い息を吐いては興奮。
すぐに俺の動きの真似を始めるが……樹槍の動きはぎこちない。
だが、一生懸命に俺の槍を学ぼうとしてくれている。
その姿勢を見て、心が熱くなった……。
しかし、俺が槍を教えるなんてな。
アキレス師匠……俺はまだまだ甘い未熟者ですが……。
師匠の気持ちが少しだけ分かった気がします――。
尊敬するアキレス師匠の姿を思い浮かべながら抱拳の態度を取り、ラ・ケラーダのマークを胸に作る。
「……」
ムーは俺の動作が気になったのか、訓練を止めて不思議そうに俺の姿を見ていた。
「これの意味か?」
「……っ」
ムーはこくこくと頷く。
「これは〝ラ・ケラーダ〟だ。〝ゴルディーバに伝わる一種のまじない言葉だな。神獣様の加護を祈り故郷を想う心や、感謝の意味もある言葉だ〟」
アキレス師匠の言葉をそのままムーに伝えていた。
その師匠たちはどうしているだろう……。
そんなことを考えながら……。
寂しさと照れを誤魔化すように、ムーから視線を逸らす。
ヘルメが連れているオークの二人組はキサラに挨拶している。
大柄のソロボは手に持つ三度笠へと魔力を注いでいた。
ソロボが持つ魔傘に浮かぶ八個の顔の模様はオークの神々の顔なんだろうか。
彼は魔傘ガラササという名の魔傘について説明をするようだが……。
いかんせん言葉が通じない。
ソロボは太い腕を広げた。
盾とか飛び道具の能力を説明しようとしているらしい。
大げさなジェスチャーを取り、筋肉を生かした肉体言語でコミュニケーションを取ろうとがんばっている。
万国共通運動を見たキサラはなんとなく筋肉言語を理解して笑みを浮かべる。
クエマはその笑いを侮辱と捉えたのか……。
キサラのことを睨む。
しかし、ロターゼの「生意気な視線だな?」との声が響くと、クエマは牙を震わせて、俺に視線を向けてきた。
『シュウヤ殿、お助けを……』
と、クエマの声が聞こえたような気がしたが、俺は無難に笑みを返す。
ハイグリアではないがクエマも小さい支族を代表する姫? のようなもんだしな。降伏したとはいえプライドが高そう。
だが、ロターゼを従えている四天魔女キサラの実力を知ったら素直に従うだろう。
クエマは手に握る骨笛の説明をしていない。
俺にも話をしていないから当然か。
すると、横にいたヘルメがソロボの肉体言語に対抗するつもりなのか、皆に向けて後ろ向きに立つ。
くびれた腰を生かすヘルメ立ちを繰り出した。
ぷるるんっとしたお尻を揺らしながら足元から水飛沫を発生させる。
と、シュッと音を立てるように腰を捻り華麗にスピンを敢行。
そのまま両手を左右に振り指先から氷を目の前に敷いては――。
その敷いた氷を利用してスピードスケートを行うように滑り出していった。勢いよくスピンと跳躍を繰り返しながら、
「――今は閣下の訳がないので、代わりにぴゅっぴゅーですよ!」
楽しげなヘルメは指先から水を放出。
地面に魔法印字のような文字を氷で描いていく。
キサラは普通にヘルメの言葉は聞こえているから、ぴゅっぴゅーをしても意味がないような気がするが。
放っておこう。
小山の下に広がるサイデイル村の様子と、樹海の自然を眺めていった。
このまま景色をつまみに魔煙草でも吸うかと、思った時……。
「……っ」
と、背後からムーの荒い息遣いが聞こえた。
それはまるで、『こっちに向け』と言わんばかりの荒い息。
「なんだ?」
といいながら振り向く。
ムーは笑顔満面、しかも胸元にラ・ケラーダを作っている。
幼い純粋な笑みだ。それはまるで……俺を励ましてくれたようにも感じた。
ムーは俺の表情から素の感情を読んだのかな?
妹のように思っていた小さいレファの姿とムーが被る。
レファも元気にしているといいが……その瞬間、不覚にも涙が零れてきた。すると、
「……っ」
ムーが片足を器用にぴょんぴょんと使いながら抱きついてきた。
はは、かわいい奴だ。
ムーのメッシュの髪を撫でてやった。
「顔に出ていたか?」
「……っ」
頷くムー。
よく見たら、ムーも泣きそうな表情だった。
「すまんな」
「……」
ムーは頭を振る。
「よし、もう少しだけ訓練をするか?」
「――しっ」
お?
今、しっ、と言葉が聞こえたような気がした。
師匠と喋ろうとしたのか?
それとも俺の名前か?
喋れるならその内に喋ってくれるだろう。
チャイルドカウンセラーではないが、そんな面もちでムーを見つめる。
樹槍を持ち走る姿が微笑ましい。
義足から糸が出ている、あの糸でムーは己の体を支えている。
キサラの言っていた紙人形たちもムーの傍に集まってきた。
ジュウべェとチカタもムーの行動に倣う。
「準備はいいな?」
「――っ」
自分の身長の倍はある樹槍を持ち上げるムー。
いい笑顔だ。
明日も更新です。




