三百八十二話 オークの神々に懐かしい声
髑髏仮面をかぶるクエマは魔槍杖バルドークを見た瞬間――。
一歩下がり、
「――まて、まってくれ。シュウヤに命を救われたことは分かっている」
かぶりを振りながら語るクエマ。
クエマと並び立つソロボは手に持つ三度笠に魔力を注いだ。
ソロボの小さい仮面から覗かせる片目の虹彩に環状に小型の蛇の模様が浮かんでいた。
――魔眼か?
その瞬間――三度笠の鬼顔に墨色の脈筋が幾つも浮き上がり、それが生きた動脈のようにドクドクと脈打つ。
墨色の動脈が蜘蛛の巣を張るように三度笠の表面に広がり色合いを変化させた。
表面が脈打つ度に不自然に盛り上がった凸が増えていくと、鬼顔の絵柄は崩れて、神話に登場しそうな頭部を模ったモノに変化。その頭部の数は八個もあった。
ソロボの片方の魔眼からは精神波のようなモノはない。
だが、あの三度笠は飛び道具か防御系の能力がありそうだ。
「……大オーク氏族がどうたらと語っていたソロボさんは戦いたいようだが?」
八個の頭部の模様を持つ三度笠を構えているソロボのことを指摘した。
三度笠の墨色の顔模様から強い魔力を感じる。
やはり、飛び道具系の能力の線が濃厚か。
八個の神性めいた頭部にある双眸らしき位置から、怪光線を放ってきそうだ……。
ヘルメと黒豹は攻撃する気配を見せない。
だから大丈夫だと思うが……。
「……違う。その紅色の斧矛が目立つ魔槍を出現させたからだ。だいたいオレは背中に持つ〝妖刀ソエバリ〟を抜いてないだろう?」
魔力刃を放っていた銀太刀の名前か。
「確かに。しかし、あなたたちが俺たちの村を襲ったことは事実」
二人は黙る。間が空いた。クエマは装着している仮面から覗かせている視線を強めてくる。
大柄のソロボも仮面が小さく見えるが、鬼髑髏模様の仮面を装着していた。
顔の輪郭を作っている分厚い顎骨の動きから、表情を強張らせているんだろうとは想像がついた。
戦って死ぬのを覚悟したとか? そのクエマとソロボは……。
互いに視線を合わせてから阿吽の呼吸で頷いて、
「……これもライヴァンの世に繋がる八神のお導き……シュウヤ。いや、シュウヤ殿……我々【鬼神の一党】は正式に降伏を申し入れる」
「……クエマ様の言葉に従おう」
ライヴァンの世とは何だろう。
しかし、意外だ。二人はあっさりと恭順してきた。
樹怪王の軍勢が一方的に殲滅される現場を生で見たとはいえ、俺の見た目は人族だ。
オークからしたら敵対どころか食われるかもしれない側のはず。
そんな俺に話し合いを望む姿勢から、この短い時間で俺の思考……。
自分たちが救われる理由を読んできたか。
そこに自分たちの生きる術を見出したんだな。
やるねぇ、このオーク、感心だ。感心なだけに韓信の股くぐりの言葉を思い出す。
が少し考えるか。
「……降伏か。少し考える」
「分かった」
「承知」
クエマとソロボはそれぞれ持っていた三度笠と骨笛を地面に落とす。
クエマは背中に装着していた長柄も落としていた。
慣性で落ちた槍と衝突した骨笛。
キラキラ輝く骨笛は跳ねる。
そして、地面から飛び出ていた木の根にもぶつかった。
その反動で寝転がっていた黒豹の足下へと転がる。
黒豹は――それを逃す神獣ではないと、いわんばかりに反転しながら起き上がると――フック気味の黒豹パンチを繰り出した。
目の前に転がってきた骨笛に前足を衝突させる。
そのまま黒豹の長い両前足を生かすように、右足と左足のフックパンチを骨笛に連続で当て続けて、キラキラと光る骨笛を前へと転がしていく遊びを始めていった。
だが、転がった骨笛は三角形の葉が茂った先にある木の根と土の間に嵌まり込んでしまう。
黒豹は狩りの体勢になりながら「ンンンン――」と喉声を鳴らして、その嵌まった骨笛の下に向かった。『しまったニャ~』と鳴いているのかもしれない。
黒豹は骨笛が嵌まった狭い間に自らの頭を突っ込んでいる。逆に頭部が嵌りそうな感じになっていた。面白いから、猫型に小さくなればいいのに、とは言わなかった。
片足も僅かな隙間に突っ込む。だが、きらきら輝く骨笛は取れない。
そして、首元から伸ばした二つの触手で、木の根の下にある土の地面を掘りだしていく。
しまいには、両前足も使い、トイレの穴を作るように掘り出しては、土と根に挟まった骨笛を取ろうとしていた。
いつものアイスホッケー遊びとはまた少し違う。
爪は出していないから骨笛のことを壊す気はないようだ。
そんな猫らしい面白い様子には動じていないクエマとソロボの両者。
二人は俺の言葉を待っているようだ。
ここで鬼畜な将軍なら「首を刎ねよ」とか片手を伸ばして、命令を下しそうだが、今はしない。
受け入れたらキッシュだけではなく古代狼族のハイグリアも文句を言いそうだが……。
まぁいい。
「……二人とも降伏には条件がありますが、それでも良いですか?」
「構わない。戦神グンダルンも認めてくれよう」
「オレもだ。道神セレクニも認めてくれるはず。先にライヴァンの世で戦い続けているトクも認めてくれるはず」
潔く散る桜の花を思わせる。
「精神の美」をこのオークたちから感じた。
「ならば、クエマとソロボの降伏を受け入れよう」
俺の言葉を聞いたオークの二人は両膝を地面に突けて、胸に手を当てる。
降伏の意味と忠誠を誓うといった意味のありそうなポーズを取っていた。
「……この方はやはり普通の人族ではない……もしや<鬼幻の音灯>で見たのは……」
「あぁ、クエマ様」
ポーズを取ったオークたちは俺の様子を窺いながら、そう小さい声で呟く。
クエマはそう小さい唇で呟きながらも黒豹が遊んでいる骨笛に視線を向けていた。
その視線から、骨笛に関連した<鬼幻の音灯>というスキルをクエマは持つのかな? と、推測。
名前的に笛の音を用いた先見、未来視といったスキルだろうか。
そのクエマは装着していた鬼髑髏仮面を外していく。
時が引き延ばされる感覚で彼女の頭部を凝視。
気になっていた頭部を晒した。
「……シュウヤ殿。あなたは「左は勝手、右は得手」の存在と判断した。だから我ら【鬼神の一党】の忠誠を受けとってくれ。その証拠に髑髏鬼の仮面を……」
僅かに靡く紅い髪を揺らしながら語るクエマ。
どんな豚頭なのだろうと思ったが……意外だ。
豚と人族が合わさってはいる。が、かなり美形のオークだった。
大柄剣士ソロボの強烈な分厚い骨格を持つ豚顔とは対照的。
正直、美しい。
その大柄なソロボの頭は丸いツルツルだ。
頭頂部に遊牧民のような髪型の辮髪があった。
その辮髪の上に鬼髑髏仮面を乗せている。
ソーセージほどの厚みがある唇。
その両端に、ザ・オーク! と呼びたくなる
見事な歯牙があった。
急角度に上向いた歯牙。
曲線を描きながら自身の巨大鼻の端に突き刺さっている。
珍獣バビルサの姿を思い出す。
『自らの死を見つめる動物バビルサ』といえば有名だ。
まさか将来的に口元から生えた角が頭蓋にまで突き抜ける……。
なんてことで、ソロボ本人が自身の歯牙で死んだりしないだろうな?
クエマも小さい唇の端から牙が生えているが、それは小さいアクセサリーのような牙だ。
洗練された牙の形といいお洒落な牙だ。
ソロボとはあまりにも違いすぎる。
そこに、
「……ふふふふっ! 何を語っているのかまったく分かりませんが、オークたちが平伏したのですね。やはり閣下のご威光です! 村の兵数が増えます」
宙から嬉しそうなヘルメの声が届く。
きっと樹海戦国時代をモチーフとした『ヘルメの野望』を脳内でシミュレーションしているんだろう。
「……状況が状況だからな」
「ンンン――」
骨笛を口に咥えた黒豹だ。
無事に取れたらしい。
咥えていた骨笛を俺の足下に落としてから、紅と黒の点が織りなす双眸を俺に向けてくる。
髭が生えた頬には土の汚れが目立つ。
だが、何ともいえないドヤ顔だ。
「ンン、にゃ」
『骨笛を回収にゃ、わたしを褒めろにゃ』と、紅い双眸が語ったような気がした。
相棒は凛々しい黒豹の姿だが、相変わらずの可愛いネコ科神獣だ。
黒豹は「ゴロゴロ」と喉音を鳴らして俺の膝に豹頭を当ててきた。
尻尾をピンと真上に立て、天鵞絨のような美しい黒毛を靡かせるように軽やかなペースで甘える仕草を続けてくると、「イタッ」と、反応したように左手をガブッと噛んできた。
『何すんじゃ! 妾の匂いを辿ったな! 器が痛がるだけじゃ! 無駄無駄無駄無駄ァァ、フハハハ、この、にゃん公めが!』
同時に左手の内部が疼く。サラテンが反抗したいようだ。
というか納めた状態でも意思を飛ばせるのかよ。
血が流れたら、黒豹はぺろぺろと血を舐めてくる。
傷はすぐに回復したが、黒豹は獣らしい息遣いで一生懸命に舐め続けてくれた。
『ふん、可愛いやつだ。舐め続けよ! にゃん公め!』
黒豹にはサラテンの声は聞こえないようだ。
すると、左手を舐めるのに飽きたのか俺の背後へと回って一周。
そのまま黒豹らしいスマートだが鍛え上げられた四肢を生かすように、柔らかい歩法のストライドを俺に魅せつけながら前進。
オークたちの下に向かう。
豚顔を晒して両膝を地面に突いているオークたちの姿に興味を持ったらしい。
オークたちに近付いた黒豹は鼻をクンクンとさせて匂いを確認。
そして、フサフサしている黒毛が生えた首元から二つの触手を、そのオークたちの眼前に伸ばしていく。
ぷっくりと膨らんだ二つの触手の先端からは、骨剣が出たり入ったりしている。
「……ひぃ、条件とはまさか……」
「くっ、俺は大柄だから美味しそうに見えるのだろう。ここまでか。トク……」
と、目の前に迫ったリアルな骨剣を見たオークたちは怯えたように声を出す。
降伏の条件にロターゼの尻をぶっ刺していたように、黒豹からオシオキを?
な、わけがねぇ。
ソロボも死を意識したのか、トクと呟いていた。
ま、黒豹に恐怖を抱く気持ちは理解できる。
突然の巨大神獣の登場から、姿が小さくなったとはいえ黒豹が躍動しながら樹怪王の軍勢を蹴散らしていたからな。
鹿狩りでも楽しむように野性味あふれる喰いっぷりだったし……。
「ぷゆ! ぷゆゆ~」
黒豹の触手自慢に小熊太郎も混ざってきた。
そのぷゆゆは黒豹の隣で、杖を持った手を含めて諸手の状態だ。
「ぷゆっ! ぷゆゆゅ~♪」
と、軽快な口調で口ずさみながら、オークの前で「グリコポーズ」を取っていた。
……意味が分からない。
ミニチュア恐竜の飾りを持つ小さい捻じられた杖の自慢かな。
ぷゆゆなりの自己紹介のつもりかもしれない。
「中々素晴らしいぷゆゆ立ち! しかし、くるくるのお毛毛に包まれてお尻ちゃんが見えません! 残念です」
そう語るヘルメは宙の高い位置から少し下降してきては、くびれた腰を左右に揺らして綺麗なお尻を微かに震わせている。
あのままだと、新しいヘルメ立ちを作りそうだ。
俺は少し頭を振ってから、オークたちに視線を移す。
不可思議なことを繰り返す仲間の様子を見たオークたちは不安に思っただろう。
「……二人とも大丈夫だ」
安心させようと、フランクにそう語り掛けたが……。
黒豹の動きは止まらない。
クエマとソロボを脅すわけではないと思うが……。
ぷっくりと膨らんだ触手の先端から、にゅるりと音を立てていた、銀に輝く象牙フォルムの骨剣を出し入れする速度が上がっていく。
次第に高速のシャキシャキとした音に変化していった。
ここからだと黒豹の長い両耳から生えた柔らかそうな黒毛と、傘の柄のような真上に立てた長い尻尾しか見えないが……。
きっと、先ほどと同じくドヤ顔を浮かべているに違いない。
「……ロロとぷゆゆ。分かったから下がりなさい」
「ン、にゃ」
「ぷゆ~」
黒豹は鳴きながら振り向くと、軽やかに反転。
俺の足下に素早く戻ってきた。
足に寄せてきた頭から続く柔らかい胴体を撫でていく。
黒毛の感触がいい。
黒豹の黒毛の感触を楽しんでいると、ぷゆゆも杖を背中に回して踵を返す。
短い足で、その足をクロスさせつつ、モデル歩きをしながら戻ってきた。
……くっ、あの短い足が、むかつくぐらい可愛い。
黒豹は俺の膝に頭をぶつけて甘えるといった「アロラビング」を一通り楽しむと離れていった。
少し離れたところに生えていた巨大茸に向かうようだ。
ぷゆゆもトコトコと黒豹のあとをついていく。
そのまま一緒に太い根っこからニョキっと斜めに見事なサイズで生えていた巨大茸を食べ始める始末……一瞬、ぷゆゆは大丈夫か?
と、思ったが、この樹海に棲む生物だ。
毒キノコかどうかの判別はつくだろうし、放っておこう。
「……今は黒豹の姿だが、先程は、黒き巨大獣の姿だったロロディーヌ殿……と、その珍しい樹海獣人はシュウヤ殿と繋がりが? もしや、獣神ライクラッシュ様のお力を宿しているのか?」
二匹の可愛い様子に釣られないクエマが俺に質問してきた。
獣神ライクラッシュとはオークの神々の名か。
「……使役というか、さっきも話をしたけど黒豹のロロは相棒だよ。そのボルチッドという種族の小熊の方とは……最近一緒に過ごしているだけだ。獣神ライクラッシュの名は初耳だ。それよりも気になることがある」
「八神の一つが初耳……その神より気になることとは……」
「気になること?」
オークの二人はそう呟きながらも、自らの骨笛と三度笠へと視線を向ける。
確かに、その武器と防具も気になるが、俺が気になることは違う。
「【髑髏鬼】という闇ギルドは知っているか?」
と、気軽な口調で聞いていた。
あのソロボとクエマがかぶっていた鬼髑髏仮面を見ると、どうしてもな。
昔、【月の残骸】&<筆頭従者長>たちが衝突した闇ギルド【髑髏鬼】の存在を想像してしまう。
メルの父親の魔人ザープと犬猿の仲らしい紅のアサシンが所属している闇ギルド。
髑髏と鬼。たまたま、偶然かもしれないが……。
「ララーブインの髑髏鬼の名なら昔から知っているぞ。この仮面の通り、我ら【鬼神の一党】の名にも関係がある」
やはり……。
「その仮面の意味とララーブイン。さらに髑髏鬼に関する【鬼神の一党】のことを教えてくれ」
「承知した。まずは鬼神キサラメ様の戒律の下で暮らしていたトトクヌ支族のことを話そうか」
「できるだけ短く」
「くっ……分かった。大昔、トトクヌ支族の故郷はララーブイン山の奥地である秘境と地下にあり、オーク八神の鬼神キサラメ様を祀っていたとされる。だが、そこに人族の集団が押し入り、我の祖先たちを殺しては、その鬼神キサラメ様の神像を含めた数多くの秘宝を盗んだ。と、聞き及んでいた」
予想は当たりか。
ララーブインの闇ギルドが【髑髏鬼】。
カズンさんも何か因縁があったようだが。
「……盗みか。冒険者がやりそうなことだ。俺もその一人だが」
対オーク戦云々の前に、ララーブイン山の地下遺跡探索依頼とか……。
冒険者依頼は豊富にありそうだしな。
「……そうなのか?」
「ガッカリか? 詳しく言えば俺は人族じゃないんだが」
俺の言葉に驚いたのか瞬きを繰り返すクエマ。
目を見開くソロボ。
先に気を取り直したクエマは唇を動かした。
「……別にガッカリとかはない。シュウヤ殿が人族ではないことが驚きだ。それに我らオークに捕まった人族は悲惨な目に遭う。男は家畜へ女は孕ませる……といったように生きる螺旋の上で人族を食い物にしているのは我らとて同じなのだ。違う目的のためとはいえシュウヤ殿の村を攻めたようにな?」
オークの文化や法を理解するつもりはまったくないが……。
生きる螺旋という言葉からオークの中にもオークの深い哲学があるのだと感じさせる。
「……なるほど。その鬼神様の秘宝についての続きを頼む」
「承知。鬼神キサラメ様は、ライヴァンの世でも戦神グンダルンに匹敵するぐらいに魂兵を持ち戦いを好む神と呼ばれている。その力が宿ると云われる神像には、様々な能力があると言われていた」
人族社会では戦神の名はヴァイスだったが、オークではグンダルンという名なのか。
「たとえば?」
「……素材を用意し、とある術法を用いて魔力を多大に消費すれば赤い特殊な三角模様を額に刻む優秀な兵士を作り出すことが可能になると。これはある種の呪われた力かもしれない」
素材とは人族だな。
メルから聞いた闇ギルド【髑髏鬼】の話と一致する。
ということは……。
秘宝に宿る鬼神キサラメの力を使える者が闇ギルド【髑髏鬼】の幹部に存在するということか。
メルの父である魔人ザープと争う紅のアサシンは血層を使うらしいから違うのかな。
「仮面の鬼模様は鬼神様繋がりか……では【鬼神の一党】も鬼神キサラメ様を信奉している集団だった。ということかな?」
「名目はそうだ。その鬼神様を信じる【髑髏鬼】の勢力が地表の各都市やララーブイン山の一部に存在することは昔から知られていた。我は鬼神様だけではなく、漠然としてだが、オーク八大神様のすべてを信じている」
クエマは鬼神だけではなく、八大神の全部を信じているのか。
「だから知っていたのか。オークは地下と地表に拠点を持つのか?」
「そうだ。主に地下だが」
その辺りは想像できる。
「神像以外に盗まれた秘宝で知っているものは?」
「有名なのが〝キサラメの怪書〟という書物。だから、我らの支族に関係するオークたちは人族のことを、食人の他に盗人と呼ぶこともあるのだ」
怪書か。それも曰く付きなのだろうな。
しかし、クエマが語るオーク側の視点……。
今までは人族側の一方的な視点からしか判断できてなかったが、こういう情報は貴重だ。
「納得だ」
「そこから【鬼神の一党】の話に繋がる……」
「なぜ話をそこで止める?」
「長くなる」
「この際だ。いいよ」
クエマは俺の言葉に頷く。
彼女の紅い前髪が靡いた。
「……我らが弱き小さい支族のオークなのは重々承知している。が、我らも天蓋のある地下で生きている一族。誇りはあるのでな?」
天蓋という響き、ヴィーネの話を思い出す。
「トトクヌ支族の中で父のビマエレが中心となり、鬼神キサラメ様を信奉する【鬼神の一党】を作り上げたのだ」
「なるほど、クエマの御父上か。目標や指針とかは、秘宝の奪還?」
「うむ。いずれは地表に進出し、古の故郷を奪還。そして、秘宝を取り戻すと……しかし、その偉大な父ビマエレは……亡くなった」
「……そりゃ気の毒に」
「うむ……大氏族ドドンの新しい後継者争いから派生した支族グングと支族アヤロクが、要塞アレアガニムで起こした反乱に巻き込まれて……あっけなく死んだ。賢女の母もだ。だが、ライヴァンの世でしっかりと神々の闘いに貢献をしているはずだ。最近ではクイーン・グル・ドドン支族の第五の狩人夫人の卵が失われた結果、ドーレ支族、ブルグ支族、ガンレ支族といった各勢力に、他のドドン支族の夫人たちの勢力が鉱山等の利権や狂戦士伝説を巡って、各自拡大を狙う内戦が始まってしまい……我らも巻き込まれたのだ」
クエマは強気な態度で語るが、戦国か……。
鉱山の利権と聞くと、影翼旅団の盟主のガルロもタンダールの鉱山の利権争いがあったようだし、それ関係で地底神と繋がったのかな……。
「……大変そう」
「我らは小さい支族だ。仕方がない」
オークたちも壮絶な歴史の中で生きている。
にしても、クイーンの卵か。
オークって卵を産むんだ。
そういえば……。
死骸の中に胃やら内臓が複数個あったような気がする。
ま、反芻動物とか哺乳類とか考えてもな。
そんなことより今はサイデイル村に攻めてきたことに対して、クエマ側の視点を加えて話をするか。
「……君たちトトクヌ支族は、そのドドン支族やグング支族との兼ね合いで俺たちの村の襲撃に参加して、敗北したんだな」
司令官キッシュ率いる精霊ヘルメ、門番長イモリザ、大虎に乗った沸騎士たちの活躍でオーク軍を撃退した。
「そうだ。秘宝をとうの昔に失い遊撃隊としての活躍もできず。あっけなく敗北した我ら一族に力がないと判断したヘクザ・グル・グングの支族の軍隊に見捨てられたのだ。そして、樹怪王の軍勢にも追撃を受けた結果……我らトトクヌの【鬼神の一党】の部隊が退いた先の樹海で完全に孤立し……」
クエマは苦虫を食ったような表情で語る。
「クエマとソロボの今があると……しかし、仲間を見捨てるとは冷酷だな」
俺の同情した声を聞いたクエマは、意外だったのか、動揺したのか、目が少し点となっていた。
そして、
「……オークは力が求められる。負ければ当然だ。ヘグサの自慢していた虎の子の秘術部隊が壊滅したらしく混乱した部分もあるだろう」
今クエマが語ったグング支族の秘術部隊が牢獄に封じていた透明オークかな?
透明オークを使おうとしていた部隊かもしれないが。
「そうして、ここが我らの最期かもしれぬ……と、考えた時、シュウヤ殿に救われた……」
唇の両端から生えている小さい歯牙を震わせている。
「が、しかし、誉れある戦いとはいえ、トトクヌの生き残りは我のみ……と、なってしまった……のだ、よ……。あの世、ライヴァンの世で活躍といっても、我をこの世に一人残すとは……ぐぐぐァァん」
クエマは今まで気丈だったが……。
悲しみの表情を浮かべて涙を零すと、咽び泣いてしまった。
髑髏仮面はもう脱いでいるが、本当の硬い仮面は今脱いでいるんだな。
まぁ分かる。
救われたとはいえ、その救った相手が敵対し秘宝を盗み食われるかもしれない人族側だからな……。
余計にやるせないモノがあるんだろう。
彼女の思いをくんで、
「……「供養より施行」という言葉もある。分かっているとは思うが、今を大切にするんだな」
俺の言葉に頷いていた大柄のソロボがソーセージの唇を動かす。
いや、ソーセージではない、フランク、もとい……。
ま……いいか。
両端の見事な歯牙が気になるし、歯牙が鼻を突いて見える。
「……しかし、シュウヤ殿がこうして救いに現れたのです。だから、まだオレたちは『ライヴァンの世に向かうべきでない』との、神々の思し召しでしょう」
「……そうだな。我らの行灯はまだまだ続く」
「はい」
泣いているクエマの代わりに補足するようにソロボが話をしていた。
鬼神についても聞くか。
「オークは支族ごとに宗派が違ったりする?」
「……当たり前だ」
冷静だった大柄のソロボが少し怒ったような口調で答えていた。
「……ソロボ、慎め」
ソロボに注意するクエマ。
泣き止んでいたが、目が充血していた。
鼻水が垂れているので、皮布を渡してあげるとする。
「す、すまない」
「いや、かまわんさ、話を続けてくれ」
鼻水をすするクエマは俺の宥める言葉に頷くと、
「しかし、ソロボの言う通り、オークにとっては当然の話。クイーンの眷属でもあるドドン大氏族たちが主に信奉しているのはオーク八大神の老神セゲレレウ様。他にも、豊かな黒壇鉱床を握っているヴェン大氏族たちは八大神が一神、焼神レギュイェ様を信仰している。道神セレクニ様を信奉している一派もいるな。支族によってはトドグ・ゴグ様、ザンスイン様、リヴォグラフ様、破壊の王ラシーンズ・レビオダ様といった魔界の神々を信奉している派閥もある。支族の中だけをとっても色々だ」
オークの八大神が基本として……。
そこに魔界の神々までとは。
「オーク八大神という神々が居るのに、魔界の神々も信奉している支族がいるのか? 纏まりがなさそう」
「そうでもない。八大神以外を信奉するのは一部のみ。中には獄界ゴドローンに連なる地底神トロド、地底神ロルガ、地底神キールーなどを信仰し、取り引きを行う邪悪なオークたちも存在する。さらには旧神ゴ・ラードとは争いがあるので信じられぬが、その旧神を信じるグループも居ると思われる。そして、ドワーフとノームと通じたオークも存在することからして、神界の神々だけでなく祖先をも信奉している一族たちも存在するだろう」
旧神ゴ・ラードなら古代狼族のハイグリアから何回か聞いている。
樹海のあちこちに古びた遺跡があり、そこでは蜻蛉系のモンスターが比較的多く湧いていると。
しかし、地底神だけでなく旧神=荒神と呪神……に加えて祖先までとは……。
信仰の自由? いやオーク支族というカテゴリーが巨大過ぎるのか?
支族の中でもそうした神々を信奉する派閥があるところは人族と変わらずか。
やはりオーク社会もかなり複雑そうだ。
ペルネーテとは違い邪神は関係がなさそうだが……。
案外邪神の使徒も加わって地下社会での勢力拡大とか、混乱を起こしているのかもしれない。
いや、それはないか……。
ペルネーテの地下十五階層と二十階層も別世界がある。
イモリザも前身は邪神ニクルスの第三使徒リリザだったからな。
その邪神といえば、鍵を持つ【蒼海の氷廟】の双子とか……。
どうしているんだろう。
ま、怪しい双子はおいておくとして……。
そう考えるとオークの人口規模を考えたら凄まじい勢力なんじゃ……。
転生前に、ゴブリンの帝国があるとか表示されていたのは覚えている。
※人族並みに人口も多く、大陸中に散らばり各地域に生息※
※微妙に姿、形、習慣も違うゴブリンたちも存在する。多種多様なゴブリン族は基本的に纏まりがない。地域によってゴブリンたちの王である、ゴブリンロード、ゴブリンキング、ゴブリンカイザーたちの群雄割拠な軍閥が発展している戦国乱世な地域もあるだろう※
※ある地域ではホブゴブリンやハイゴブリンが人族や亜人などを完全に駆逐し“ゴブリンによるゴブリンたちの政治”が執り行われている特殊な地域も存在する※
これはゴブリンだが、オークにもオークの政治があるんだろう。
そこから、ヘグサが率いるグング支族とトトクヌ支族の確執を聞いていった。
「グング支族が支配する地下都市グドーンから追放されそうになったのだ」
オークにはオークの地下都市か。
「追放は厳しい、引き受けるしかない状況か」
「そうだ。しかも、かつて地表に故郷があったというだけの理由の招集命令。ただでさえ時間が経ったというのに……そのようなことはグング支族には通じない」
「滅茶苦茶だ」
「それがヘクザ・グル・グングの強さでもある。その支族の命令で村を攻める遊撃隊として参加を余儀なくされた」
地下から追放なんてされたくないだろうし、当然の選択だ。
んじゃ、ソロボのことも聞いてみるか。
「そうだったか。話を変えるがソロボは支族が違うのに、何故、クエマを様と呼んで従っているんだ?」
「……オレは幼馴染みのトクと同じく大氏族カイバチの親戚といえど、所詮は剣の腕に自信があるだけのオークでしかない。ハイオーク、伝説のハイオークキングに憧れる、ただの下賤の身だ」
「ソロボ……」
「いいんだ、言わせてくれ」
大柄のソロボはクエマに言い切る。
そして、話を続けた。
「カイバチの親戚といってもオレのような存在はごまんと居る」
「地下都市のゴロツキか。他にもオークが多い地下都市はあるのか?」
「勿論だ。多すぎるといったほうがいいか。ララーブイン山の地下から近い場所から大回廊が続く地下にも幾つかある都市から溢れるほどにな。当然、都市とはいえない街や村も地下にはあるだろう。……餌は豊富だ」
ペルヘカラインの大回廊にはオークたちがたくさん居た。
ソロボの説明には納得だ。
語尾の餌の部分が小声だったのは、俺の見た目が人族だからだろう。
「……そして、オレが憧れたオーク支族たちには、身内同士の戦いの他にも戦いがある。ノームやドワーフたちの地下独立都市の軍。ダークエルフの地下都市ゴレアや地下都市ダウメザランの魔導貴族の軍勢。【黒き環】から来訪した【獄界ゴドローン】の地底神を信奉している魔神帝国の連中。キュイズナー、蟲鮫、アービターといった無数のモンスターたち……地表にも、樹怪王の軍団たちに……古代狼族、死蝶人、吸血鬼共、魔神の使徒、多種多様なモンスター……」
俺はソロボの言葉に頷く。
地下だとアムたちハフマリダ教団との争いか。
そして、俺が一番初めに遭遇した知的生命体ドワーフのロア。
彼が【副王会】との権力争いで負けたと語っていた地下都市もある。
ドワーフのラングール帝国だったっけか。
地上でベファリッツと争っていたハンカイは、ラングール王国と話をしていたが。
そして、ヴィーネの故郷に住むダークエルフの魔導貴族たち。
「……人族たちもだな?」
「あぁ地上の主だった敵の一つ。オーク支族たちはそれらと戦い結果を残してきた。そして、もう一度いうが、オレは無数に存在するオークたちの最下層の下賤の身。「下衆と鷹とに餌を飼え」といったことを地でいくオレ。だから、オーク支族たちが活躍する戦場に徴集されることは一度もなかった……しかし、クエマ様の父上様は、オレの一家が争っていたゴロツキを始末したところを丁度良く見ていたのか、『お前は特殊な力を持つ。力を放つと蛇目になる』と語ってくれて、オレの一家に対して特別な支援をしてくれたんだ。そこから、幼馴染みのトクとオレの一家はトトクヌ支族に加わり数々の戦場に出れるようになり、トトクヌと敵対するモノたちを蛇目の力を使い屠り続けた……結果、クエマ様の護衛に抜擢されて、今がある」
蛇目……一瞬、魔毒の女神ミセアが脳裏に浮かぶ。
が、気にしても仕方ない。
「……そうか。恋人とかではないんだ」
「違う。樹怪王の軍勢にやられて死んだトクとオレは【鬼神の一党】の一兵士」
「トク・グル・カイバチも剣士として優秀だったぞ。護衛として雇った父の判断は間違いではなかった」
「ありがとうございます」
クエマの言葉にソロボは嬉しそうに頷いた。
死んだトク・グル・カイバチとは沸騎士が衝突した奇兵剣士か?
てっきり奇兵剣士とはソロボのことだと思っていたが、トクとソロボは幼馴染みだったのか。
「ところで、シュウヤ殿は人族ではない?」
「そうだよ。ルシヴァルという種族。君たちも吸血鬼系と呼ぶか分からないが、その系統側の亜種といえる種族だ。そして、ヘルメは精霊」
「な、精霊様だと!?」
「……」
クエマとソロボはルシヴァルよりヘルメの存在の方に驚く。
そのヘルメに向けて、
「ヘルメのことを精霊と簡単に話をした。女性の方の名はクエマ。大柄の男はソロボという名前らしい」
「分かりました――」
宙の位置に居たヘルメは俺に向けて頭を下げて長い髪を靡かせると、下降してきた。
オークの二人に向けて鋭いまなざしを向ける。
「では、降伏したクエマとソロボ。ちゃんと閣下の命令には従うのでしょうね?」
「……」
「精霊様の言葉は……」
オークの二人にはヘルメの言葉は理解できないか。
「ヘルメは俺の命令に従うか? と君たちに確認している」
と、訳した。
「……当然だ。もとより樹怪王の軍に潰されていただろう、命だ……鬼神キサラメ様、いやオーク八大神に誓う。シュウヤ殿の命令に従うと!」
クエマは高ぶりながら語る。
胸元に手を当て、片目を瞑り頭を下げていた。
続いて、クエマの行動に頷いていた大柄のソロボが視線を寄こす。
ソロボは厳つい相貌を生かすように、カッと目玉を剥くように見開いた。
彼は怒ったように俺を凝視して、
「――精霊様を従えるシュウヤ殿! オレも道神セレクニに誓うぞ! ライヴァンの世でも、強者のシュウヤ殿に従うと!」
「わ、分かった」
熱いな……。
沸騎士タイプか?
「しかし、まだ出会って間もないんだが……」
「そんなことは関係ない! オークというだけで殺す者たちが常な日常の世において、オレらを見捨てずにシュウヤ殿の目的がどうであれオレたちの命を救ってくれたのだ! これは大恩! そして、精霊様がご不満なら俺の妖刀ソエバリと、この魔傘ガラササも捧げよう」
ソロボは自らの大切な武器と防具を……
「いや、充分だ。気持ちは理解した。それじゃこの笛をクエマに返すよ。その長柄は自分で拾ってくれ」
「……口約束に過ぎないのだぞ? いいのか?」
先ほどとは違う一転したクエマの言葉だ。
彼女は長柄の槍を拾い背負う。
「裏切ったら、どうなるか予想はできるだろう?」
そう喋りながら、骨笛をクエマに手渡す。
俺はアルカイックに微笑みながら語っていた。
「も、勿論だ」
クエマは頬を引きつらせている。
基本はオークが混じっているとはいえ、やはり結構な美人さんだ。
オークの中では、さぞやモテただろうな。
それともトトクヌ族を含めたオーク特有の雌と雄のルールがあるんだろうか。
バビルサのように立派な牙でないと女を抱けないとかあったり。
「ソロボも大切な傘なんだろう? 拾え。そして、背中のお前の相棒のような魔刀も大切にな?」
「……承知! 君主たる器を示すシュウヤ殿……トクの分までシュウヤ殿に仕えよう」
真摯な豚顔のソロボは嬉々として語る。
しかし、俺が偉そうに語ったせいか、ソロボは勘違いをしている。
「俺は君主じゃない。冒険者だ。そして、村の責任者でもないんだ。今からその村に戻るぞ。ヘルメ、彼らを縛れ」
「はい」
一瞬で、<珠瑠の花>を伸ばしたヘルメはクエマとソロボを縛る。
「会話しといてなんだが、キッシュの村に連れていくから捕虜として預かる。そこでお前たちの命は俺が預かったと、村の責任者であるキッシュに報告する」
俺の言葉を聞いたオークたちは瞬きを繰り返した。
「……シュウヤ殿が責任者ではないことは、さらに驚きだ。が、裁きは受ける」
「当然だ。命は預けたのだから……」
一気に不安が襲ってきたような表情となったクエマとソロボ。
「安心しろ。どっかの王国のような軍事法廷はないし、裁くことはしない。お前たちの命は俺が預かったんだからな。大船に乗った気でいろ」
「大船が分からぬが、気持ちは伝わった」
「承知した」
しかし潔い。
ソロボはモガというより、沸騎士と意見が合うかもしれない。
んじゃ、オークの神々や歴史もある程度知れたし、サイデイル村に帰るか。
そこに魔素の気配――。
神獣ロロディーヌが打ち倒した森の外から近付いてくる複数の魔素の気配を感じた。
背丈の高い樹木の向こう側か。
樹怪王の軍勢が戻ってきたのか?
「はぁはぁはぁ――」
走っている人?
「……隊長、樹怪王の軍勢が丁度良く大挙して出現して助かりましたね」
「――うん。しかも、わたしたちに遭遇しても無視して逃げてくれたし、不思議。それより、蜻蛉系のモンスターにルシェルの魔法が効いたのが……ん? あそこ、森の一部が打ち倒されている!」
「あ、もしかして、樹怪王の軍勢が逃げてきた理由って……まさか、ワイバーンの亜種? 近衛大蟻のような巨大モンスター? 隊長、わたしが先に出て偵察しようか?」
「ベリーズ、頼むといいたいところだが、少し待て。博士、大丈夫ですか?」
「……わしは大丈夫だ。しかし、蜻蛉と兎が合体したようなモンスターが持っていた黄緑のブレードの斬撃を喰らったミエが……」
「博士、ミエさんには毒消しも使い、サーマリア製の回復丸薬に、フェニムル村の神童が作った疲労回復の効果のあるスーパーふとし君の人形型の薬も飲ませましたし、ミエさんは寝ているだけですから大丈夫ですよ」
「そうか。やたらにエレガントな匂いがするが……良かった良かった……」
「隊長、村で買った紐腕輪、結局シュウヤさんにあげられなかったプレゼント。まだ持っているね」
「当たり前だ」
「ブッチ、ミエさんのお尻を触ってる?」
「ルシェル、見れば分かるだろうが、背負ってるんだから、触ってるが……変なことはしてねぇぞ」
「ふふ、えっちなブッチ。でも、そう睨むように背後を確認しないでも大丈夫ですよ。魔素の気配はもう前方だけ。不自然に樹木が打ち倒されている先以外にはないですから」
「前に反応か……」
「その背中の助手さんはまだ寝ているのか?」
「はい、回復魔法も効いて、ぐっすりと」
「しかし、わしの不注意が……」
「……博士、助かったんですから、そう落ち込まず、元気をだしてください。次の機会があれば、また遺跡探索に挑戦しましょう」
「サラ、ありがとう。しかし、敵の多さに夢中になって撤退したが、ここはどこだ? あの打ち倒された樹木といい、わしの地図の範囲外だぞ……」
「樹海には詳しいつもりだったけど……」
「隊長、まさか迷子ってことですかい?」
「なんだ、その面は……」
「ブッチがそんな表情を隊長に向けるなんてねぇ……昔じゃ考えられないわ」
「そうですね、シュウヤさんに嫉妬していた頃が懐かしい、ミエさんの太腿も触ってますし……」
「だから、これはちげぇって、不可抗力だ!」
森の向こうから懐かしい声が聞こえる。
一部知らない声が混じっているが、この懐かしい声たちは忘れもしない……自然と歩き出す。
明日も更新予定です。




