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三百八十一話 サラテンの悲鳴

 サラテンは神様なのか?

 神だろうが、じゃじゃ馬だろうが無視だ。

 <サラテンの秘術>を意識。


 左手の中にサラテンを呼ぼうと操作するが――。


『くッ思念操作か! 負けん! 魔剣ぞォ! それに妾は魔剣じゃないからな!』


 そんな駄洒落テレパシー的な音声を発してくると、サラテンは神剣の刃をスライドさせるように分裂した。

 それは十徳ナイフが重なりミルフィーユと化したような刃の分身。

 重なった刃の上には羽衣を纏った女の子の幻影が影を重ねたように浮いている。


 幻影の女の子も分裂している?

 あれがサラテンなのか?


 女の子の幻影はスライドしているサラテンの上に立っている。

 それはサラテンをサーフボードに見立てたような動きだ。


 そのまま空の波に乗ったサラテンは綺麗な魔力の軌跡を生み出しながら翔けていった。


 また俺の意識に反逆しやがった。


『下等といえど、血は血ダ!』


 横へスライドした三枚の刃を持つ神剣サラテンが念話を飛ばしてくる。

 そして、近くの鹿モンスターへ向け猛然と直進し――鹿モンと衝突。

 サラテンは鹿モンスターの体を突き抜け、風穴をあけるどころか、三枚におろししていた。

 

 分厚い骨ごと綺麗に切断した切れ味のある突剣の三枚刃の攻撃。

 その突剣三枚刃の攻撃はまだ続く。

 

 左へ右へと縦横無尽に行き交う神剣サラテン。


 鹿モンスターたちを穿ち、貫き、倒す。

 中空に舞い散る血飛沫を神剣は吸い取り続けながら、螺旋し飛翔を続けていた。

 神剣らしい凄まじい速度で飛翔したサラテンは一定の範囲の鹿モンスターを全滅させると、満足そうに血を飲み干す不気味なエコー音を周囲に轟かせてくる。


 だが、今は戦いの最中――。

 まだ他にも樹怪王の軍兵士は居る。巨人のような鹿モンスターの姿も確認できた。

 前に対峙した樹海槍軍の連中かもしれない。

 俺は気合を入れ直すように魔闘術を全身に纏う。


 そして、僅かに左の掌に魔力の塊をぶつけるように意識してから、


「いいから戻ってこい!」


 と、強気にサラテンへ言い放つ。

 サラテンは俺の意思に抵抗を示すように、剣身を直立させて震わせる。

 『ぐぬぬぬ』と思念も飛ばしてきた。

 そして、俺に引っ張られるように傾くと、サラテンは勢いよく俺の左手の中に――。

 戻らなかった。


 目の前には神獣ロロディーヌの姿がッ。


「がるるるぅ――」


 唸る声を上げて、サラテンに噛み付いていた。


「ぷゆゆぅ!」


 ここからじゃ見えないが、ぷゆゆの声も聞こえる。

 どうやら神獣(ロロ)はぷゆゆを捕まえてから、俺を追いかけてきたらしい。


 そのロロディーヌが通ってきた道を見ると……。


 森の一部は破壊されていた。

 左右に打ち倒され潰された樹木群。


 あれはあれでサイデイル村の道から樹海への中に続く一本の街道に見えるか?

 村に続く坂道には岩場と曲がりくねった隘路があるから、難所に変わらないが……


 ――『あひゃァァ、妾ガ、悪カッタァァァァァ』


 サラテンの悲鳴。

 神獣の鋭い歯牙に挟まれた神剣はガリガリと削れるような音が響いてきた。

 ロロは噛み砕くことはしないが、サラテンはかなり痛いらしい。


 天照大神のようにサラテンを噛み砕き三つの運命の女神を生むのも一興かもしれない。


「……はは、面白い。だがロロ。離してやれ、そいつは一応味方だ」

「にゃあぁ~」


 口を上下に広げてサラテンを解放するロロディーヌ。

 そのまま姿を黒豹タイプに変化させていた。


 突如として現れた巨大な姿の神獣。

 そして、黒豹に小さくなったロロディーヌの存在は目立つ。


 オーク側は元より鹿のモンスターの動きも止めていた。

 樹海が静かに。

 わずかな神獣の息遣いが、荒々しく聞こえてくるぐらいの静寂。


「ぷゆぅ? ぷゆゆゆ!」


 神獣ロロディーヌの頭に乗っていたと思われる小熊太郎のぷゆゆも驚いたような声を発していた。


 柔らかそうなモッフモフの毛に包まれているので表情は読めない。

 くりくりした双眸と長いくるくる毛の眉毛。

 犬鼻と剥きだした白い歯は愛くるしいが……。


「ぷゆ! ぷゆゆ~」


 その可愛らしいぷゆゆは反転。

 スタタタと素早く短い足を動かしては、軽快な動きで杖から蝶々たちを飛ばすと、樹木の上に避難している。


『よーし、解放! さすがは妾が、神器と認めただけはある!』


 ぷゆゆの動きと同時にサラテンが念話を飛ばしてきた。


『調子がいいやつだ、いいからここに戻ってこい』

『――フンッ、下等の血だが満腹にはなった。今は神器のいうことを聞いてやろう――』


 その瞬間、左手の中に納まる神剣サラテン。

 黒豹(ロロ)は左手に吸い込まれたサラテンが不思議らしい。


「ンン、にゃぁ~」


 鳴きながら俺の足下に来ると、その場でむくっと上半身を起こしては、俺の左手に鼻をつけて匂いを嗅ぐ。

 肉球も押し当ててきた。

 ロロに掌を見せてやると、その左手を舐めてくる。


「……剣を操る槍使い? それにその黒き獣は――」


 オークの大柄剣士はそう語ると、自分の周囲から敵の数が極端に減ったのを確認したのか、肩の力を抜いて血濡れた銀太刀を振るい血を払っていた。


 そのまま黒豹姿のロロディーヌを見て、俺たちの様子を窺う大柄剣士。

 至って冷静なオークだ。


「……黒髪の槍使いと闇と氷の魔法を操る女は味方か?」


 この大柄剣士オークの言語は古代ドワーフ語に少し似ている。


 片手に持った長い鞘に、今しがた血を払った煌びやかな銀太刀を納めていた。


 鞘の中へスムーズに銀太刀を納めた瞬間、鯉口の金属音を響かせる。

 そして、背中の三度傘とその銀太刀を交換。

 銀太刀を背負う代わりに、三度笠を手に持つ。


 その武器を仕舞い交換する何気ない所作は侍を感じさせた。

 ユイとカルードの姿も思い出す。


 彼が奇兵剣士と呼ばれていたオークだろうか。 

 手に持つ三度笠には赤い特殊な三角模様を額に宿す鬼の顔が描かれてある。


 周りに死体となって転がっている髑髏仮面をかぶるオーク兵とは違う。


「この盗人と食人が蔓延る天蓋無き地表において、我らに味方など、ありえぬが……」


 骨笛を持つオークの言葉は女性だ。

 見た目も被衣を羽織っているからな……。


「黒髪の槍使い……紅色魔槍の扱いだけなら樹怪槍軍の炎槍のディーンの姿を思い浮かべる……」

「樹怪王の軍勢を倒している槍使いの強者が、炎槍や烈塵に連なる一族なわけがない」

「ではクエマ様はオレたちを喰らう人族……オレらと敵対している人族が……オークの味方だというのですか?」


 剣士はリーダー格のオークをクエマと名を呼んでいた。

 骨笛を持つそのクエマは腕を出す。


「……ソロボ。我ら食い物にしている人族とはいえ、今も、こうして我らに攻撃をせず、沈黙していることが何よりの証拠といえるのではないか? そして、あの鬼神様を髣髴とさせる凄まじい槍捌きを見ただろう?」

「確かに、あの槍使いなら……あの大きい樹怪王の追撃部隊の隊長も潰せるかもしれねぇ」 

「そうだ。小さくなった黒き獣が非常に気になるが……まだ樹怪王の兵は残っているのだからな。我らは仄かに息づいている行灯……だが、このまま素直に消えるわけにはいかない! キサラメ様の像と書をこの手にするまでは……生き抜いてやる。だから、人族だろうと、今の、この状況を利用する」


 甲高い声音だ。

 やはり女性なのかな。


「……了解した」


 三度笠を手に持つ大柄のオーク剣士ことソロボは、クエマの気迫を感じたのか、武者震いをしながら、頷く。

 大柄の剣士ソロボはゆっくりと首を傾けながら、俺を見てきた。


 ざらついた雰囲気ある剣士だ。

 剣士といえば、最近仲間になったモガだが……。

 いい勝負かもしれない。


 しかし、ソロボとクエマのオークたちは俺がオーク語を理解してないと思っているのか、色々と語ってくれた。


 今は何もせずお望み通りに……。


 ヘルメに向けてアイコンタクトをしながら、樹怪王の軍の掃討を開始した。


 視線を受けたヘルメが花のように美しい唇の端を上げて微笑む。


 そして、<珠瑠の花>を樹木から生えた枝へ伸ばし引っ掛けると、足下から水飛沫の小さい環を幾つも作りながら素早く宙を移動していった――。


 俺は地上から前進。


「ロロは右を頼む、ぷゆゆはそこで見とけ」


 俺は宙を華麗に移動中のヘルメと一緒に樹木の枝に引っ掛かっていた大型モンスターを狙う。

 肩にぶつぶつのいぼを連想させる気色の悪い頭部が生えているモンスター。

 しかも、多腕と多脚を持った大型モンスターだ。


 すぐさま、魔脚で地面を蹴り、その大型モンスターとの間合いを詰める。


 <刺突>から下段突きの<牙衝>を繰り出す。

 神槍ガンジスを召喚して魔槍杖を消去しながらの連続撃だ――。

 時間差をなくすイメージで左手に握る神槍ガンジスと交互に右手の魔槍杖の槍突連撃を繰り出す。


 ゼロコンマ数秒後に、鹿頭の下半身に生えた多脚の根本を潰す。

 と、宙から<珠瑠の花>を用いながら高速移動しているヘルメが、その動きを止めた鹿頭モンスターをすり潰す勢いで、連続した氷槍魔法を衝突させていく。


 雨あられのごとく降り注いだ氷槍だった。

 が、大柄の鹿は無数にある太腕をすべて防御に回して、巨大な頭部の一つを隠す。


 まだ生きていた。


「ヘルメ――」

「はい」


 合図でヘルメの氷槍魔法の連射が止まった直後、俺が<豪閃>を繰り出す。

 氷が突き刺さっている太腕ごと切断だ――。


 大上段の構えから力の紅斧刃を振り下ろす。


 紅斧刃は思った通りに、氷槍が突き刺さった太腕ごと巨大頭部をも、縦に両断。

 二つの肉塊は分かれて倒れていく。


 その倒れゆく二つの肉塊にヘルメの氷槍が突き刺さっていくのが見えた。


「ベ・ザ様が※られた! オークに味※※る人の槍使いと魔法使いだ」


 まだ、生きていた鹿頭を左右の肩に持つ歪なモンスターたちが叫ぶ。

 言葉が訛っている。


「こっちには豹だ。さっきの黒き獣がァァァァ」


 黒豹(ロロ)に首を噛み付かれていた鹿モンスター。

 前足から伸びているやすりで磨かれたような鋭い爪が深く鹿モンスターの胴体に喰い込むと、首からは鈍い音が響く。


 次の瞬間、鹿モンスターの首が噛み砕かれ、頭部を引っこ抜かれていた。


 そうした黒豹(ロロ)の野獣としての狩りの動きが、きっかけというわけじゃないが、まだ生きていた樹怪王の兵たちは士気を失う。


 どうやらオークたちが会話していたように、俺とヘルメが倒した巨大鹿モンスターは隊長クラスだったらしい。


 多腕と多脚の鹿怪物の名はベ・ザという名前だったようだ。


「※怪七※に所属するベ・ザ※※……強すぎル! ※た目※人族だガ、あれ※オークに伝わる鬼神キサ※メの再来か?」

「それか古代プレモ※王ノ化身※」

「女※方か? あの蒼髪に魔法力……ありえる! だが、ベ・ザ様が死んだんだッ逃げ※!」

「おうよ! にげ※※おおおお」

「ひけぇひ※ぇ! オーク※放※て、にもろおおロ―」


 樹怪王軍団の言語は、この間より訛りが多い。

 ある程度は理解はできるが、翻訳が追いつかない。


 その樹怪王側の軍勢は退いていった。

 魔槍杖を一応、消去。


 クエマと呼ばれていたオークを注視した。


 髑髏仮面から覗かせる双眸は、俺を威圧するように睥睨してくる。

 警戒してくるのは当然だ。高い知能がある証拠。


 ヘルメに視線で合図をして宙の位置で待機させた。

 俺はそのオークたちに一歩近づき、頭を下げてから、


「オークさんたち、こんにちは」


 と、笑顔を意識しながら挨拶した。


「な!? 言葉を……」


 大柄の奇兵剣士ソロボは驚く。


「わたしたちを食う人族のくせに頭を下げた?」


 クエマも当然、同じように驚いていた。


「何かを企んでいるかもしれません……」


 ソロボは俺を警戒しているのか、三度笠を構えた。

 鬼髑髏仮面をかぶる骨笛を吹いていたクエマを守ろうと前に出ている。


 クエマは必要ないというように、さらにソロボの前に出た。

 彼女は衣の下に胸元が膨らむ胸甲を身に着けている。

 髑髏仮面を被っているので、頭部は把握できないが。


 ま、どうせ豚の顔だ、期待はしない。


 見たいような見たくないような。

 腰ベルトには様々な収納ボックスがあり、他の兵士と同じ長柄槍を背中に差していた。

 足下も古風なキュライスから一式セットな脚絆系防具で覆われている。


 そのクエマが、


「……言葉が理解ができる人族なら他にも居る。だが、まずは我ら【鬼神の一党】を、そもそも何故、敵対している人族がオークを助けたのだ? 答えてもらおうか」


 このクエマさんは頭が良さそう。

 前に立つ大柄奇兵剣士の方は、双眸を鋭くさせて俺を睨んできた。


「理由は単純。ですが、まずは名を名乗っておきましょうか。俺はシュウヤ。槍使いです。そして、今、俺の足下で寝転がっている黒豹がロロディーヌ。上で見ているのは、ヘルメ」

「ンン」


 黒豹(ロロ)はオークたちを警戒してないのか、内腹を見せていた。

 背中がかゆかったのか、すりすりと背を地面で擦っている。


 ぷゆゆは放っておく。


「ぷゆ?」


 と、聞こえたが降りてこないしいいや。


「……はい。ヘルメですよ。オークさんたち閣下に攻撃の意思を示したら、村を襲った時がお遊びだったと思わせるように特大な恐怖を感じさせるように滅しますので、よく考えて行動してくださいね」


 ヘルメは涼し気な表情で語ると、魔力を両腕に溜めていた。

 さっきの魔法連撃を見ているクエマ。


 鬼髑髏仮面をかぶって表情を把握できないが肩を揺らしていた。

 動揺していると分かる。


「浮いている女の言葉は訛ったドワーフの言葉? 理解できない」

「地底語の部類か? 人族が使う言葉にも似ているな……」


 骨笛の先端でヘルメを指しているクエマ。

 武器を構えた剣士はヘルメを警戒しているのか、二、三歩、後退していた。


「シュウヤとヘルメか。わたしの名はクエマ・グル・トトクヌ。これでも小さいが、オーク支族トトクヌを率いる者である。そして今しがた話したように【鬼神の一党】の代表者だ」

「オレは大オーク支族ソロボ・グル・カイバチ。大将軍カイバチ一族の遠い遠い親戚だ……」


 大将軍の遠い遠い親戚か。

 遠い親戚ならペルヘカラインで遭遇した覚えがある。


 だが、過去は過去。

 俺は、夕凪が作る海の景色を作るように、穏やかで涼しい目を作り、


「……これはご丁寧に。では、助けた理由をお話しします。あなた方オークが、俺たちの村を襲った理由が知りたいと思いまして、樹怪王の方では、話が通じるか不安だったこともあります」


 透明オークのことは置いておく。

 丁寧に話をするが……。

 いつでも戦闘は可能だという意思を示すため……。


 キサラから習い途中の掌法の構えを取る。

 膝と丹田を意識し左足と右足を前に少し出して、力を抜きリラックスした体勢だ。


「襲った村というと、ヘグサ・グル・グング支族の一派が狙っていた【蜂式ノ具】に通じる道が存在する小高い山にある村か……」 


 肩を揺らし髑髏仮面に手をやるクエマ。

 彼女の手から生えている指は人に似ている。


「遊撃作戦に参加を強いられていたが、その戦いに敗北を喫した。銀髪のバケモノが居た村……」

「……ゼメタスとアドモスという煙を出す骨の騎士……」


 やはり、ゼメタスとアドモスと戦っていたオークだったか。

 イモリザとも戦っていたようだな。


「そうだよ。理由はそれか。まだ、村を落とそうと狙うのならここで俺たちと戦うか?」


 そう話してから、魔槍杖を出現させる。


次話は20日の予定です。

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