三百七十三話 ヴィーネとの血文字連絡
日課の訓練と風呂を終えた。素っ裸にはならない。
暗緑色のインナーと外套がセットになっているような服を着ている状態だ。
いつものように、屋根の上の窓から魔煙草を吹かし魔力を充実させる。
丹田を軸に体幹を強化するように魔力を巡らせる。キサラに教わった「天地推掌」に似た構えの「魔漁掌刃」の構えを取った――ふぅ……冷たいが、いい風だ……少し横になるかな。魔力を巡らせたまま水面蹴りを行う機動から真新しい寝台の上へダイブ――寝っ転がった。両の手のひらを枕代わりにして、うひゃ――真上、屋根上と重なるように幽霊のラシュさんがいた。驚いた……が、透けた胸といいスタイルがいい……。
胸を凝視していると……キッシュに怒られそうな気がしてきたから寝返りを打つ――。
よし、ヴィーネと血文字の連絡だ。修行を重ねて魔霧の渦森の探索をしているかな。
『よ、ヴィーネ、元気にしているか?』
『再臨か!』
ぬぁんだ。この反応は。
『な、なんだいきなり……』
『……はうあ、すみません、くりすますと一緒にご主人様のことを考えていたら血文字で急に連絡があり……』
はは、驚いたのか。再臨はあれか、クリスマスだとすると、イエスキリストのことか?
ホフマンなら……十分にキリスト教としての説教をしてくれそうだが……。
さて、それよりも報告をしないと、まずは……。
キッシュの村から<血鎖探訪>を用いて子供たちの探索に向かい、<従者長>ユアと古代狼族ハイグリアとの対決に遭遇したぐらいからかな。そこに居合わせたノーラの件もヴィーネに伝えよう。
『……サーマリアのオッペーハイマン地方。ノーラの家族たち、代々生き続けている吸血鬼ハンターの一族に興味が湧きました』
『分かる。何かしらのマジックアイテムの作用で長生きしているか、実はヴァンパイアの力を取り込んでいる可能性もありか。まぁ、彼女から聞いている範囲だと、普通の家族ではないのは確かだろう』
吸血鬼ハンターの一家。興味がある。
『吸血鬼ハンターの一家ですか、ノーラがわたしたちの存在をハンターの家族たちへ報告した場合……彼らは素直に静観するでしょうか』
しないだろうな。ノーラの爺とか強そうだ、十字のまきびしを<投擲>してくるらしいが……。
『……俺だったら静観しないな。興味を抱く』
『ノーラは吸血鬼を追えるスキルを持ちます。だとすると、家族たちがどんな能力を持っているか……教皇庁八課対魔族殲滅機関の一桁のような存在かもしれないです。ご主人様、気を付けてください』
『狂騎士のような存在だっけか。ツアンからも聞いているが、俺の心配より自分の心配をしろ』
『すみません。それとノーラの妹ですね。まさかポルセンの従者アンジェが、ノーラの妹だったとは……数奇な運命です』
『数奇な運命。はは、そりゃ皮肉だ。ヴィーネも俺もルシヴァルの眷属になった者たち全員が、数奇な運命を辿っているぞ』
ママニ、ビア、フー、サザー。彼女たち<従者長>も過去を持つ。
『ふふ、それもそうですね、皆、何かしら過去がある』
『うん、その美人なノーラは妹に会いにペルネーテに向かっている。ヘカトレイル経由だとすると、まだまだ時間は掛かるかな。船旅ならすぐだが……陸経由ならホルカーバムや宿場町で冒険者の依頼を受けているかもしれない』
『……はい。エヴァ、レベッカ、ヴェロニカ先輩には報告はまだなのですか?』
『まだだ。あとでメッセージを送る』
『……どちらにせよ。一波乱ありそうです……樹海は魔霧の渦森よりも勢力が混沌としている』
『本当に色々だな、魔霧の渦森も地下を経由して何かしらの繋がりがあるかもしれない』
死蝶人、樹怪王、古代狼族、地底神、旧神……カオスだ。
『可能性は高いです。遺跡の場所らしきところは複数遠くから視認できました』
『だろうな、呪神やら旧神やら……』
ココ様は元気かな。
『……まだまだ探索できていませんが。そして、この魔霧の渦森にも金玉が百個あるゴブリンテルカの群れは現れます。ヘカトレイル近郊で仕事をしている冒険者たちが減ることはなさそうです』
魔霧の渦森はエルフの領域にオセベリア王国とレフテン王国にも近い。ファダイクの不屈獅子の塔を含めて冒険者が必要とされるところはそこら中にあるからな……思えばキッシュだけではないノーラ、紅虎の嵐、八乙女のエリス・ファフナード、竜殺しを持ったドワーフ。皆、ヘカトレイルで活躍している冒険者たちは優秀だった。
『……話を戻す。俺たちが<血鎖探訪>で到着したところは吸血鬼の大規模な基地だったんだが……実は破壊されていた』
『え?』
『白蛾と赤紫色の蝶の身体を持つ二人の死蝶人が暴れていたんだ』
『死蝶人? 蝶々の体を持つとは、また奇怪な怪人ですね』
『その白蛾の死蝶人は強い。吸血鬼の大半はやられ岩窟の入り口は血の海だったんだ。そして<筆頭従者>のホフマンとその死蝶人が戦っていた現場だった。そのホフマンも、また強い。流石は女帝ファーミリアの直系の<筆頭従者>。そして、その戦いを見学してから、子供たちの反応があった洞窟に向かおうとしたが、赤紫色の蝶々の身体を持つ死蝶人シェイルに邪魔をされて、その死蝶人と戦うことになった』
膨大な魔力を有した凄まじい強さを持った死蝶人。
大きな鎌の使い手。近距離と遠距離関係がなく強かった。
口が尖り変形してはアソコから化け物を生み出した。
仰け反りながらの踵蹴り、サマーソルトの蹴りを繰り出してダメージを与えたと、詳しい戦闘模様をできるだけ細かくヴィーネに伝えていく。続いて、俺の持つゴルゴンチュラの鍵に靡いてきた死蝶人たちの様子から死蝶人たちが信仰しているゴルゴンチュラ神についても血文字で語り合った。聡明なヴィーネは地底神、旧神との繋がりを予想した深い考察を聞かせてくれたが、
『この間、信仰したばかりのココッ……ドィスズイン様との関係はなさそうですね』
と呪神ココッブルゥンドズゥ様の名前を間違えて血文字で送ってきた。
ヴィーネが珍しい。あの名前を覚えるのは困難だからな。俺は信者だから覚えている。略して、呪神ココ様。ココ様に祭司のネックレスを捧げたが……あのネックレスに力を蓄えるのはどれくらい時間が掛かるんだろう。ココ様は、古代ハルモデラ時代とか語っていたが……。
地球の年代なら恐竜時代とか?
俺が捧げたネックレスに力が溜まるのは数千年、数万年後? そんなことを考えていると、
『……しかし、濃密な経験ですね』
『実はまだ序の口なんだ』
吸血鬼たちの巣である洞窟の中へと潜入し、モガ&ネームスと遭遇したことを告げた。彼らがアッリとタークだけではなく沢山の囚われていた人々を連れていたことも血文字でヴィーネに伝えた。
『迷宮にいた方々! あの小さい動物剣士と……鋼木巨人』
『そう、ギュンター・モガとネームスだ。んで、モガとネームスと合流して外に脱出して、キッシュの村に皆と話をしながら移動していたんだ』
続いて、川が流れ景観がいい場所で休憩でもしようかと思った時に、川の上から異質な巨大な棺桶が現れたこと。その巨大な棺桶から白髪の赤肌を持った巨人シュミハザーが出現し、巨人と会話をしながら戦ったことを血文字で伝えた。
『邪霊槍イグルードと魔侯爵アドゥムブラリを配下に……』
『いや、まだ分からない。まだトン爺に預けたままだ』
『不思議な木の実好きな爺さんですね。しかし、樹木で囲った石と魔侯爵の生き物がどうなるか……楽しみです』
『まぁな』
『そして、魔女槍を操るキサラのことは助けたのですね』
魔女槍、ダモアヌンの魔槍の中に封じられていたキサラ。
死体解剖されたように……頭蓋と胸元が裂けていた。脳と内臓が晒されていた状態だったキサラ……今思えば、とんでもない状況だよ。
『助けた理由はさまざまだが、彼女は凄いんだ――』
……キサラと槍を交えて仲良くなったことから、キサラが黒魔女教団を代表する四天魔女の一人だとか、ダモアヌンの魔女槍を使う武人だったことを告げると、長らく沈黙してしまうヴィーネ。すると、
『……異質な世界を内包する巨大な棺桶を操るホフマン。ヴァルマスク家の<筆頭従者>とのことですが、相当な強さだと予想できます』
彼女はキサラのことは聞かずにスルー。逆にシュミハザーを送り込んできた、大本のホフマンのことを聞いてきた。
『だなぁ。<従者長>とは雲泥の差だろう。光にも耐性を持つかもな。ホフマンだけかもしれないが……他の<筆頭従者>もかなりの強さを持つのは確実だろう。さすがは始祖の十二支族だ。上に立つ女帝も強者だろうな。女帝の家の名前がないことが不思議だが』
『はい、ヴァルマスク家。女帝は名が違います。しかし、ホフマンといい、精霊様もかつて語っていたように、伊達に永く続いていませんね』
ヴェロニカも【大墳墓の血法院】からよく逃げおおせた。そのヴェロニカには荒神マギトラの白猫のマギットがいたこともあると思うが、そのヴェロニカのことを思い出しながら、ホフマンの情報を血文字にしていく。
『……ホフマンは転生者。他のヴァンパイアとは少し違うだろう』
『テンセイシャ、テンイシャ。ご主人様が要注意だと、危険な種族たちと思えばいい。と忠告をしていた者たちですね』
『そうだ。そのホフマンは四天魔女キサラの頭蓋を切断し脳から能力を盗んだ。そして、盗んだ能力を部下か眷属に分け与えることもできるようだ』
『……能力を盗み与えられる。恐ろしい相手です……』
確かに……盗むといっても、そう都合よく自分のモノにできるとは思えないが……数百年、数千年の時間がそれを可能にしているか。
『……キサラは胸元の皮膚を死体解剖でもされたように、左右に開かれた状態で魔女槍と一体化させられていた。シュミハザーが愛用していた武装魔霊とやらも、ホフマンがシュミハザーに授けた武器と融合させる能力の一端かもしれない』
息を呑むような音は聞こえないが、血文字をすぐに送ってこないからヴィーネが驚いた顔付きを浮かべていることは簡単に想像がついた。
『……そんなシュミハザーのような強い部下を、ご主人様だから倒せたようなシュミハザーを、そのご主人様の力を測るためだけに……無駄死にさせる。そして、自ら戦わず観察に回るという慎重さ。実に強者らしい印象を持ちます。同時に、その行動の裏には……「ご主人様と敵対したくない」という意思が垣間見えます』
血文字だけのやりとりで、そう読んできたか。厳密にいえば、シュミハザーを倒したのは俺ではなく……相棒の炎であり、キサラとロターゼなんだが……だが、やはり優秀だな。早く会いたい。しかし、我慢だ……。
『……『争いがない、真の神が支配する、千年王国の実現のため』とか、シュミハザーはホフマンの言葉を伝えてきた。そして、光と闇の矛盾した神々を信奉する四天魔女キサラを、あえて、シュミハザーを犠牲としながらも、光と闇の属性を持つ俺に衝突させてきた可能性もある』
『……キサラがご主人様への手土産だと?』
『あくまでも可能性の一つ。他には、シュミハザーの肩にあった宝具では、キサラを内包した魔女槍を抑えることが難しくなったとか? と、推測はできるが、ま、こればっかりはホフマンから直に聞かないと分からないだろう』
そこから小熊太郎ことぷゆゆの存在に、キッシュの村へと無事に帰還できたが、既に激しい戦闘が起きていたこと……半透明のオークと樹怪王の軍勢と戦ったことを告げていく。
『……ご主人様、ハイグリアと小熊太郎のぷゆゆのことは、さておき、キサラとキッシュのことを、そこまで信用しているのですね』
ヴィーネの血文字が浮かんだ。
『信じている。いずれ、キサラとキッシュを<筆頭従者長>に誘うつもりだ』
『はい。その、古代狼族のハイグリアは? 彼女も選ばれし眷属に取り込めば、樹海に於いて一大勢力と……』
『……ヘルメの影響か?』
『すみません、神聖ルシヴァル大帝国の響きは忘れられないです』
ヘルメが聞いたら喜びそうだ。ヘルメは俺の左目から離れている。
今はもうここからでは見えないが……。
先ほど、ヘルメは知恵の輪のような水飛沫を足下から幾つも発生させながら、
『ぷゆゆ太郎ちゃん。千年ちゃんの実を食べたらどうなるでしょう?』
と下乳の谷間で挟むように抱いているぷゆゆに話しかけていた。
そのぷゆゆは、
『ぷゆゆ! ぷゆゆ?』
ヘルメの言葉は無視したぷゆゆ。
変な飾りが付いている小型のねじれ杖をキサラの乗っているロターゼに向けていた。
『あぁ、ロターゼに変な生き物を飛ばさないで!』
キサラが修道服の膨らんだ胸元を片手で隠しながら叫んでいたな……。
乳房が晒された記憶はまだ新しい。
修道服と似た服を切り裂いた小型恐竜はロターゼの額に噛み付いていた。
そのままヘルメ&小熊太郎は逃げているキサラと一緒に空を散歩していった。真下ではムーが空を見上げていたっけ。近くにモガがいたことも関係はあると思うが。と脱線した。ヴィーネに血文字を送る。
『ハイグリアの眷属入りか。彼女が望めば、ありえるかもしれない。だが、古代狼族の姫だぞ?』
『分かっています。ルシヴァル帝国の話は冗談です。ご主人様が望まれていないことは理解していますので』
『俺をからかうな。村が拡大しているから冗談に聞こえなくなる』
少し間が空いて、
『ふふ……意地悪をしてしまいました』
と気持ちを伝えてきた。ヴィーネも寂しいんだな……だが、まぁあえて思うまい。
『そのキッシュの件ですが、故郷の再建と、キッシュの祖先の秘宝の奪還は大変そうですね』
『……地底は、道標として黄金の道が地下深くへ続いているから大丈夫だとは思う。しかし、パレデスの鏡というアイテムを俺は持つ。だから、意外に地底神の側とか、聖域の真下とかに埋まっているかもしれない』
『あ、鏡という選択肢もありましたか。確かに埋まっているとしたら地下の可能性が高い。案外あっさりと……』
『そうだが、ま、可能性の一つ。大砂漠にも向かいたいし魔界に向かう予定もある』
『その大砂漠。キサラの話に登場したハイグランドの森から越境してきたというダークエルフの件が気になります。が、それよりもご主人様です。地下へ挑戦する際は付きます!』
そうだな。地下にはヴィーネが居た方がいい。
『もとよりそのつもりだ。お前たちとの合流が先になるか、後になるかはまだ分からない。が、どちらにせよ。地下へ向かう際はヴィーネを連れていく』
『はい! 嬉しい……』
地下にはアムたちの独立都市に設置した鏡もある。
とはいえ、黄金の道が、ノームたちが暮らす独立都市に繋がるわけがない。
黄金の道が続いているとしたら……。
アムたちと戦争をしている魔神帝国の勢力下にある地下都市側だろう……。
『ご主人様、その……まだ気になることが……』
『なんだ?』
『キッシュの妹、ラシュとやらはご主人様の近くに?』
『あぁ……今も浮いているよ……』
……そう、ラシュさんは可愛いし、おっぱいは透けているし。
最高なんだが……触れられない。あの先端にそびえる櫨豆を、ツンツクツィーンと正義のリュートでもひくように、爪弾きたい……残念。
『ご主人様、まさか幽霊を眷属化……』
「ぶはっ――ははは」
――思わず、ガバッと起き上がり、大笑い。
宙に浮かんでいたラシュさんはびっくりしていた。
いきなりの呵々大笑だ。幽霊とはいえ驚くのも無理はない。
『……笑わせるな。幽霊は手で触れないから無理だ。残念だが』
『ふふ、ご主人様らしい』
『話を地下の件に戻すぞ』
『……はい』
微妙な間は笑っていたのか?
『で、地下の挑戦はまだ先だ。門の修復とか、師匠にも会いたいし、どうせならヘカトレイルで冒険者の地下に関する依頼を受けるかもしれない。ついでに血長耳のイケメン剣士にも会っておこうか。クナの店も調べたい。さらに武術の訓練もしたい。槍使いだけじゃないキサラからは学べるところは沢山ある』
『了解です……武術の鬼神ともいえるご主人様がそこまで語る方。槍の他にも魔術を使い、ダモアヌンの魔人やら……血骨仙女、ご主人様が地下オークションで買われたアイテムに関係している可能性が高いと、聞いているだけで嫉妬を覚えます。が、同時に強い尊敬の念を覚えました。様々な戦闘経験を持つ優秀な魔女。キサラはダークエルフ社会でも充分通用する偉大な武人のようです』
ヴィーネは嫉妬しているが、会いたいだろうな、キサラと。
ダークエルフたちの社会は女性上位。魔導貴族たちが常に争いを続けている過酷な地下世界だ。幼い時から兄弟姉妹たちとの命を削る凄まじい環境で育ってきた。
キサラも同じ女性。それだけではなく黒魔女教団という秘境のような場所で、高手たちと厳しい修行を含めた数々の戦いを経験している。そんな彼女に興味を持ったようだ。というか、俺もまだキサラから聞いていない戦いの話もあるし……気持ちは分かる。そこから、
『……槍といえば、先ほど話をしたように新しい回避技に、槍技も覚えた。<精霊珠想>に関する<仙丹法・鯰想>も覚えたし』
『新しい槍技。水の加護を用いた回避術と聞きました。蹴りを交えた新しい技は、ぜひ間近で拝見したいです。そして、霧の蜃気楼の指輪ではなく<精霊珠想>からの仙丹法・なまずそう……とは、一体どのような技なのか……血文字だけでは、想像が追いつきません! もしや……アドバーンの、幻の地底主の姿……』
ヴィーネは興奮しているようだ。最後のアドバーン?
ヴィーネはずっと前にも<精霊珠想>を見た時に、巨大地底湖の主がなんとかと叫んでいたな。銀の細眉と銀色に輝く瞳が目に浮かぶ。
『……いずれな。ところでヴィーネはどうだ? 魔霧の渦森で、古い石畳が敷かれた不自然な場所を発見した以外に、ハンカイとミスティとは仲良くしているか?』
『最近のハンカイ殿は、地下のはぐれドワーフたちや地下都市を牛耳っている軍閥のドワーフに興味があるようです。そして、アウトダークエルフ、はぐれダークエルフの存在にも強く興味を……わたしが魔霧の渦森の調査&素材集めをする時、一緒に付いてくることもあります。その際は、狩りの邪魔となるぐらいに……地下の話を繰り返し聞いてきます。少し鬱陶しいぐらいです』
『斧振りたい大隊隊長ハンカイ丸。地下の話で、そこまで夢中になるか』
そう血文字でメッセージを送ると、間が空いた。
『……その斧振りたい大隊隊長ハンカイ丸とは、ルシヴァル大帝国の部隊名か、役職の名ですね?』
『その冗談では、笑わないからな?』
『……失礼しました。ハンカイ殿はやはり、ご自分のルーツ、ブダンド族が気になるようです』
『となると、ミスティとは夢で視たという未知の古代文明の話題で盛り上がっている?』
『いえ、ミスティは兄が残した謎の碑文に刻まれた魔法印字の解読に没頭しています。魔導人形の研究も続けているようですが……最近は、その碑文解析の話ばかり……』
『ミスティはミスティで楽しんでそうだ……ま、ミスティらしいといえる。詳しくはあとで聞いてみるとしよう』
『はい、ご主人様でたとえますと、巨大双丘が頭の左右に密着した状態といえるかと』
ヴィーネが珍しく下ネタで冗談を。
『えと……エヴァとヴィーネのような果実?』
『ふふ、そうです』
『ヴィーネさんよ、否定しないところが、また、やらしいぞ!』
『……ご主人様……あの、正直、寂しいのです』
また、少しの間があった。ヴィーネの悲しむ表情が浮かぶ。
『……修行を止めて、このサイデイル村に来るか?』
『……はい。と、いいたいですがご主人様。わたしを甘やかさないで下さい! 一度やりかけたことは最後までやりとおします!』
強がっているところもヴィーネらしいか。が、成長したい思いは本気。
『すまん、そうだよな。俺もつい、な』
『いえ、気持ちは通じていますから。胸が温まりました』
その血文字から特別な感情が感じられた。銀色の髪、顔の片側に銀仮面を装着しているヴィーネの表情を思い浮かべる。仮面越しだが、震えている銀の虹彩は想像できる。
光彩の周りに少し赤みがあるのも変わらないんだろうな。
青白い肌で、繊細さを感じさせるくびれた腰に悩ましい太股からすらりと伸びているモデル足。美しいダークエルフの姿を鮮明に思い出す……昔、寝台で寝ている彼女の耳元で優しく息を吹きかけながら語った言葉を思い出した。
あの時、弱点を攻めたらヴィーネは何回も体を震わせていたっけ……。
『……そか』
『……はい』
その場に居たら腰に手を回して、キスの流れだった……彼女の成長を期待しよう。自らの成長を真摯に願い、命を賭けて努力を重ねた時……何かが起こる。『今後も期待している』と血文字でメッセージを送った。
『はっ、お任せを! 自立した女、ルシヴァルの一員として、<筆頭従者長>として、最初にご主人様に選ばれた大眷属の自負として! 頑張ります! そして、同じようにご主人様を愛しているくせに……弱音を吐かず研究を続けているミスティには負けていられん! ユイも父カルードと鴉殿を追う旅の中、しっかりと三剣流の研鑽を続けている! レベッカは蒼炎の技術とグーフォンの魔杖の魔法だけじゃなく、格闘術とジャハールの使い手として日々成長している。そして、お手玉を頑張るエヴァにも負けたくないぞ! ヴェロニカは<血魔力>の先輩だから負けるかもしれないが!』
途中から素の気持ちを吐き出すように、正直に送ってきたヴィーネ。
『……おう。ヴィーネもそのまま自分のやりたいことを目指せ』
『はい! 強く聡く剣術を基本にエクストラスキルの<銀蝶の踊武>に磨きを! 魔法も語学もミスティには負けません!』
傍に居る研究者のミスティと何事も研究熱心なヴィーネ。
性格を含めて色々と違うが……相性は何気にいいかもな。
『んじゃ、定時連絡はここまでだ。またな』
『……』
『そう寂しがるな。お前は強い雌。強い精神を持つ女。地下世界から地上を長いこと放浪しては生き抜き、見事に一族の復讐を果たしたダークエルフだ』
そこで間を空けてから、
『……ヴィーネ。お前がダークエルフとしてダウメザランに残っていたら、独立した魔導貴族の司祭か、それに近い魔導貴族の地位を得ていただろう。そして、その魔導貴族たちの多くが信奉する魔界の一柱、一神である魔毒の女神ミセア様が認めた英雄が、ヴィーネ……お前なんだ』
『え、わたしが……』
『そうだぞ。魔導貴族の長の女司祭以外で、魔毒の女神ミセア様と直に話をしたことのあるダークエルフは少ないんじゃないか?』
と血文字で伝えた。
『……確かにそうかもしれないです。司祭以外では極めて稀かと……ですが、それはご主人様あっての事柄』
ヴィーネは謙遜してそんなことを返してくる。
『たとえ、俺が関係しようとミセア様と話をしたことは事実」
『はい』
『俺は女神の言葉をよーく覚えている。「……我の民でありながら、我の従属を退ける、強き精神を持つグランバのような特異なる雌よ。ソナタの復讐心は我も心地よかった。混沌の主の行為への対価と思え。そして、我をときめかせた、ソナタの主に対する想いもある特別な褒美だ。その弓は我が祝福の形。翡翠の蛇弓を受け取るがいい――」と、魔毒の女神ミセア様はご機嫌な口調で喋っていた』
寝そべった姿で登場した巨大な姿は忘れないだろう。
『わたしもつい先日のように覚えています。しかし、ご主人様から英雄の御言葉を頂けるとは……素直に嬉しく……感動して、います……。ありがとうございます』
泣いているか、血文字のレスポンスが悪い。
『本心だ』
『はい! では、その言葉に見合う女になるように、狩りと訓練を開始します。そして、渦森の深い場所の探索を続けます』
『おう、で、狩りと探索は当然として……最近はどんな訓練をしているんだ?』
『<銀蝶揚羽>を体に纏った状態やガドリセスに魔力を通し、物理防御を上げる炎の薄膜を身に纏った状態で、剣に自らの血を流しながら、ユイとカルードと似た抜刀の新技<迅暗血刃>を』
へぇ、ルシヴァルの血を邪竜剣に流すか。ヴィーネなりにルシヴァルの血で実験をしているんだな。ん? 光と闇の血を吸った剣身? 古代邪竜とは親和性があるのか?
そういや、バルミントも俺の血を吸ったな。
『……他には、二振り剣術技の<闇虎剣>から<袋谷落し>に続いて<蹴刀乱舞>も。そして、最近は翡翠の蛇弓を用いた<羅迅・弓斬撃>もハンカイさんとの訓練に使用しました。ハンカイさんにはあっさりと弾かれましたが……こうした連撃を基本に新しい技の開発にも取り組みたいところです。狩りは、先程申しました通り、新種のモンスターを探しつつ、古い石畳がある渦森の深いところを中心に探索をしたいですね』
『おう。魔霧の渦森も危険なことに代わりはない、気を付けろよ。んじゃ、今度こそ、定期報告はここまでだ――』
『はい』
さて、次は……誰に連絡しよう。と、考えていると、下に魔素の気配が――。
ブレイクダンスをするように寝台から飛び起きる。
波群瓢箪を正月に飾る門松のように飾った一階に下りた。
門松ってより、クリスマスのリースかな。細かな樹木の紐で波群瓢箪を絡ませた状態、お洒落な銅鑼にも見えるか。玄関口にはムーが立っていた。
「……」
「なんだ?」
ムーは指を玄関の外、訓練場へ指している。そこにはキサラが魔女槍を振るって訓練していた。空から戻ってきたのか。一緒に散歩に出ていたヘルメとロターゼが居ないが……丁度いい、キサラと軽く汗を流すとしよう。
「ムー、訓練の見学だな?」
「……」
無言ちゃんだ。そんなムーの片手にはリンゴが握られている。
それが今日のお昼ご飯か?
あのリンゴはイモリザたちのリンゴ狩りの成果か。
ムーはトコットコッと片足でジャンプしながら俺の横に並ぶ。
……ムーに義手と義足でも作ってやろうと触ろうとしたんだが……ものすごい剣幕で『わたしに触るな……』といった表情を浮かべてから逃げるように離れていった。今は期待しているような表情を浮かべているし、分からない。ドココさんが作ってくれた衣装が似合う。別に誰彼構わず拒否している訳ではないと分かる。ますます、この子の気持ちが分からない。
「……」
ムーは俺の暗緑色コートの縁を掴むと早く訓練をしろと急かすようにキサラが魔女槍を振るっている場所に誘導しようとしている。
「わかったよ」
モガのアイテムにも興味があるし俺の槍に興味を持ったのかな?
まさか、「弟子入りをしたい」のか? 俺が師匠とか想像できない、ムーの紺碧の双眸を見る。
……可愛い女の子だから弟子入りもいいか?
と、すぐに考えてしまう俺も俺か。
「……」
次話は30日を予定してます。
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