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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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三百六十七話 サイデイル村&古代狼族vs樹怪王の軍団

 波群瓢箪を持ってハイグリアたちに加勢しようと思ったが――。


「新手か」


 加勢の連中の殆どが鹿の角を持つ兜を被る。

 細い胴体が前後に二つ重なっているような、歪な形。

 

 前部と後部にある胴体と、その胴体の四腕の手が木製の杭を握っている。


 走りを止めて魔槍杖バルドークの穂先で地面を突く。

 同時に波群瓢箪を地面に置いた。

 

 ずぼっと音を響かせながら重さで地面に沈み、瓢箪の底にあった象鼻の金具が土にめり込むように陥没。


 波群瓢箪は更に重くなったか。 

 キッシュとキサラも新手の出現に動きを止めた。


「ここはわたしたちの村、これ以上の侵入は許さない!」


 キッシュが怒りを滲ませながら叫ぶ。

 盾を懐に畳む所作で長剣の下に、その盾を置く構えを取った。キッシュは、その盾と剣越しに前後に分裂したような二つの胴体を持った鹿系の怪物を睨む。

 

 そのキッシュは間合いを保つと思われたが……。

 <魔闘術>を足に纏った刹那、猛然と駆け出した。


 キッシュは特殊な歩法で軽やかにステップを踏む、怪物との間合いを零とした。

 キッシュは上体を僅かに屈めつつキラリと光る白刃を突き出した。

 長剣の切っ先を敵の分体が反応する前に首元へ吸い込ませていた。その喉を穿った剣を素早く手前に引いたキッシュは、


「突剣・二火」


 と呟きながら前傾姿勢から更に体の動きを加速させる。 長剣がブレた。連続的に長剣を突き出す――剣突技だ。


 その突き技で鹿の角が目立つ兜ごと怪物の眉間を貫く。

 そのキッシュの右から奇怪な鹿の怪物が近付く。

 胴体が前と後ろに分かれている鹿モンスターだ。

 キサラが魔女槍を<投擲>しようと試みる。

 が、俺がキサラを制止させた。

 『違う方向から迫る敵を見ろ』と顎をクイッと動かして指示。


「はっ――お任せを。あの横幅が大きいウジ虫を食べている怪物ですね。鼠と鼬とが合わさった砂漠地方では珍しい種。レグモグ型の亜種でしょうか」


 キサラがどこかで聞いたモンスター名を語ると、魔女槍のダモアヌンの魔槍を構える。


 その代わり、魔法の<氷弾(フリーズ・ブリット)>を放った。

 キッシュに迫った怪物の足下を狙う。



「グヌォォォ――」


 <氷弾(フリーズ・ブリット)>を足に喰らった怪物は痛みの咆哮を上げつつ、キッシュに対して、四つの腕を振るう――四つの杭がキッシュの縦と横から迫った。


 キッシュはスラリとした長足を活かす。


 爪先を軸に体を横回転させる。

 杭の攻撃を紙一重で回避。

 爪先回転系の避け技術と、少し似ている。

 もしかして、俺を参考にしたのか?

 否、それは自惚れか。

 キッシュは左手の盾を動かして肩の防具を活かす。

 怪物は足に魔法を喰らい鈍ったが――。

 前後の胴体にある四腕の動きは速い。

 そんな鹿の怪物が操る木杭へとキッシュは器用に防具を衝突させた。迫る杭の連撃を華麗に往なした直後――。


「<蹴剣・盾崩し>――」


 と呟く。

 そのスキルは膝を伸ばすような前蹴りから始まった。

 蹴りを前部の胴体の怪物に衝突させて、間合いを取ったキッシュ。

 傾けた長剣を左から右へと振り抜く――。

 キラリと光る白刃が怪物の前部の胴体を捉えて怪物の胴体を両断。無事な後部の胴体を残し、輪切りに斬った前部の胴体がズレて落ちた。


 落ちた前部の頭部から「……速すぎる――」と言葉が聞こえてきた。


 斬られた断面図を残した前部の腰から血が迸った。

 キッシュは、返り血を浴びないように血飛沫を盾で防ぎつつ、前に一歩踏み出した。

 残った後部の胴体は木製の杭でキッシュを攻撃しようとするが、その腕をキッシュの長剣が斬り捨てる。更に、左手の盾を横斜めへと持ち上げるように振るった。


 盾で頭を殴る――シールドバッシュだ。


 後部の頭部を兜ごと潰す。頭部は盾の形に陥没。

 圧迫された頭蓋骨は粉砕。<蹴剣・盾崩し>という技は、剣と盾を交えた連撃か。

 剣と盾の所作の突き技に特化したスキルも見事だが……。

 今の蹴りと盾を交えた連撃のほうが凄い技だ。

 背が高いキッシュを活かす剣術。

 

 エルフらしい美しい剣術技だ。

 キッシュは血濡れた長剣を素早く横へ振るった。

 ――剣刃を濡らす血を払う。


 続いて、


「他にも鹿の怪物はいる。古代狼族を助けるのだろう? シュウヤ頼むぞ」

 

 にこやかに語る。白い歯が似合うキッシュだ。


「あぁ」


 と、生半可な返事をしながら……。

 昔もこうやって会話をしていたな?

 と、キッシュには喋らなかったが……。

 キッシュの微笑みを見ながら思い出した。

 ……魔竜王討伐のために、バルドーク山を一緒に駆け抜けていた……あの頃を……。

 懐かしい。同時に……あの時に別れた淋しさが蘇るように胸が切なくなった。

 アゾーラ、パウの思い出だけではない。

 勿論、キッシュの剣術の腕が増している喜びはある。

 が、時間は確実に過ぎていると……キッシュの行動から感じさせるんだ。

 

 子供たちを想う母としての表情と今のように俺を頼る女としての表情も。

 司令長官としての判断力に、農地や取り引きを頑張る姿勢も。

 だからこそ、キッシュとの絆は……別れて離れていても……。

 しっかりと、俺の中で生き続けていたんだ、と。


 キッシュが背負っていた背嚢の中に望んでいた俺の宝物は自分の中にもあったんだと。


 ……強く再認識。


 キッシュの頬にある蜂のマーク。

 バクノーダではないようだが……。

 

 彼女が、一族の魂を救ってくれと頼むなら、俺は頑張ろう。


 そんな彼女への思いを乗せるように――。

 <導想魔手>が握る聖槍アロステに魔力を込めながら<投擲>――。

 キッシュへの愛を感じた十字矛の聖槍アロステ。

 ――光を帯びたようにも見えた。闇夜の森を一直線に切り裂きながら直進。

 森の手前に集結した鹿の怪物(モンスター)を貫く。

 十字矛のアロステは、森の樹木の群れとモンスターの群れを貫いた。

 ――狙いは森の奥でゆっくりと移動しているボス。

 上半身が女で下半身が水棲動物だ。


 水棲怪物は「ヌヌッ! あの槍を防げ!」と叫びながら後退。

 その叫び声に呼応した周りの鹿系モンスターたちが、ボスを守ろうと集結を始めた。


 歪な怪物の肉壁を作り上げる。

 聖槍アロステが衝突――。

 しかし、十字矛にはもう無数の怪物の死体が折り重なった状態だ。


 だから、ルシヴァルの魔力と身体能力が加わった<投擲>とはいえ……。

 光属性の聖槍アロステだったが、さすがに威力は減退している。

 それでも鹿の怪物の体が重なっている肉壁の幾つかを貫いた。

 が、さすがにすべての肉壁は貫けず途中で止まってしまった。

 キッシュへの愛があってもそうは簡単にいかないか。

 肉壁に突き刺さった聖槍アロステを――。

 <鎖>で回収しようと、思ったが、大熊と戦う沸騎士たちの姿が視界に入った。


 足が雁字搦めの痺れた大熊の首に、名が失念したゼメタスの剣が突き刺さる。

 大熊の腹にはアドモスのシールドバッシュが炸裂していた。

 

 大熊は、首から血が迸りながら倒れて沈む。

 勝利を確信したような沸騎士たち。

 鎧から、ぼあぼあとした煙を噴出させるや永久機関的な蒸気を活かすように――。

 そのぼあぼあを纏う鋭い骨剣で倒れた大熊を何回も突き刺す。

 続いて、これまたぼあぼあ(煙の魔力)を纏う方盾を連続的に打ち下ろした。

 

 大熊は肉メンチにされる勢いだ。

 頭蓋と肋骨に大腿骨が粉砕。

 

「――閣下、倒しましたぞ!」

「大熊を討ち取った!」

「おう、だが、まだまだ敵は多い」

「ハイグリア殿のお仲間たちを助けるのですね」

「そうだ」

「承知! アドモス、向かうぞ」

「おう!!」


 大熊を仕留めた沸騎士たちは古代狼族たちへ加勢した。

 

 だが、まだ古代狼族は押されている。


 鹿の怪物が異常に多い。

 サイデイル村と古代狼族vs樹怪王の軍団か。


 軽い戦争だな。

 

 始まりの夕闇(ビギンニグ・ダスク)を使うか?

 <夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を使うか? 

 それとも<血鎖の饗宴>で狙うにしても、ここは樹海だ。


 死蝶人とホフマンが観ている可能性は捨てきれない。

 さらに光側の幻影おっさんも十字魔眼でしっかりと俺の動きを見ている。


 それに始まりの夕闇(ビギンニグ・ダスク)は強力過ぎるからな。

 始まりの夕闇(ビギンニグ・ダスク)は自動的に仲間への攻撃がカットされるわけではない。精神的な破壊とか危なすぎる。

 微細なコントロールが必要な技術を使いながらの魔力消費と精神力の消費は、個人戦か限定的な戦い……。

 

 まぁ、今の状況で使う時ではない。

 ここで奥の手を晒すのは止めておこう。

 

 今は素直に強い相棒と仲間たちにまかせる。

 俺は個別にしっかりと敵を殲滅すればいい――。


 頼もしい神獣と強い仲間のことを考えながら<邪王の樹>を発動。


 ――樹槍を数本作ってから地面に突き刺していく。

 作り上げた真新しい樹槍が目の前に並ぶ。


 その樹槍を右手で掴み<投擲>を行った。


 ――狙いは、古代狼族の女性を襲う獅子型の怪物だ。


 巨大な顎から生えた牙群で古代狼族の女性を喰おうとしている。

 その口の中へと俺の<投擲>した樹槍が吸い込まれた。

 樹槍に貫かれた獅子型モンスターは串刺し状態。

 貫通はしなかったが、串に刺さった焼き鳥のような感じだ。

 

 そんな串刺しの獅子は吹き飛び、背後の背丈の高い樹と衝突すると、樹は倒れていく。

 そんな高い樹の下には他の鹿モンスターたちがいた。

 樹に下敷きにされた鹿のモンスターもいた。

 樹槍の<投擲>を続けた。樹槍で、怪物に襲われている古代狼族を救う――。

 勿論、<投擲>が必要ではない、強い古代狼族もいた。

 名前は知らないが、きっとハイグリア探索隊を率いていたリーダーだろう。

 その近くで戦っていた相棒、神獣ロロディーヌが視界に入る。

 ロロディーヌは古代狼族の匂いが気に入ったようだ。


 黒豹タイプで戦っていた。

 走れば細身に見えるが四肢の爪を出して飛び掛かる姿は勇ましい。

 そして、体毛の黒い毛並みは非常に滑らかで美しい。

 黒豹(ロロ)が奮闘し、古代狼族を助けている。

 その姿は一生懸命で健気だ。

 黒豹(ロロ)は、首の下や、胴体の体毛の間から黒い触手を出して伸ばしているが、その触手の数を増やすつもりなのか、体躯をぶるぶると震わせると、少し大きくしていた。


 馬獅子とはいかないが、大きい黒豹となった神獣ロロディーヌ。

 豹の大きさは圧倒的に超えているが、豹らしさの膂力を魅せるように前進し、前足を振るった。鹿の怪物の体を前足の爪で抉る。

 斜め上の樹へと跳躍したかと思えば、中空で一回転、後脚で幹を蹴っては、三角飛びを行う――反動を活かして、また違う鹿怪物へと襲い掛かった。

 神獣(ロロ)は前足から伸びた爪を鷲の爪のように喰い込ませて、その頭ごと潰していた。

 その潰した死体を蹴っては、また高く跳躍――。


 またまた違う方向で逃げようとしていた怪物たちの頭上から襲い掛かった。

 また頭を潰すか?

 と思ったが、近距離から炎を吹く。


 瞬間的に鹿頭だけを狙う指向性のある炎の息吹で、頭を炭化させていた。


 まさに、神獣だからこその炎。

 

 そんな光景を目のあたりにした鹿モンスターは逃げていく。

 大黒豹こと神獣ロロディーヌは逃がさない。

 鹿狩りの如く、逃げる鹿怪物の背後を追いかけては、前足で押し倒すように薙ぎ倒し――。

 倒れた鹿怪物の背中へ向けて、至近距離から触手骨剣を連続で繰り出していた。


 あっという間に肉ミンチ。

 それを喰うロロディーヌ。


 アーレイとヒュレミも「ニャアァァ」「ニャゴォォ」と吼えてから続く。

 それは母親が鹿を狩り終えて、子供に獲物をあげるような感じだ。


 凄まじい殲滅劇だが、それは獣神家族たちのアットホームな光景かもしれない。


 沸騎士たちも活躍していたが、やはり相棒の神獣の存在感は半端ない。

 

 数で押されていた古代狼族だったが、そんなロロディーヌ軍団と沸騎士の活躍で戦いに余裕が生まれていた。


 ハイグリアも、名前を呼んでいた女獣人と抱き合い喜んでいる。

 すると、俺の視線に気付いたハイグリアが、


「――シュウヤ! 済まない、わたしの仲間たちがここに樹怪王の軍勢を引き寄せてしまったようだ」


 そういうことか。

 だが、オークの軍勢を退けたんだ。

 この樹海に極々小さいが新たな勢力が誕生したと、遅かれ早かれ他にも伝わるはず。


 ヘルメが、ルシヴァル帝国の基盤ですね。とか語りそうだ。

 いやだいやだ……。

 と、俺は頭を振ってから、


「――構わん、というかキッシュに謝った方がいいと思うが」

「別にいい、わたしがここを再生させると選んだんだ」


 キッシュは新手の鹿モンスターと対峙しながら答えていた。

 

 俺は頷いてからエブエを見る。

 キッシュに「大丈夫か? その血は殆ど返り血だったのか」


 と、話しかけられていたエブエは何回も必死な表情で頷いていた。


 キッシュから貰った魔斧はちゃんと使えるようだ。

 オークの小隊長が持っていたと語っていた魔斧にはべったりと血糊が付着している。

 そして、筋肉が目立つ身体とオーク製の腿防具に浴びている血の量からして、実はラグレンのように斧使いとして実力が高いのかも? 


 と、思ったが、ま、武器と防具の性能のお陰だろう。


 その樵のエブエを守るように……。

 <邪王の樹>を用いた、盾を重ねたイメージで簡易的な扇状の小型砦を作った。


 梵字入りの<鎖>の砦の方が頑丈で壊れないが、ま、いいだろ。


「エブエ、ここに隠れていろ」

「――ありがとう、ありがとう! 英雄様!」


 エブエは感動しているらしい。

 盾と盾にある小さな穴から覗かせる表情を見ると泣いていた。


 その必死なお礼に「いいから、静かになるまで頭を抱えていろ!」と、わざと照れを隠すように大声で怒鳴った。


 同時に、波群瓢箪を拾う。

 瓢箪の底により陥没した地面からドッと鈍い音が響いた。


 よーし、この瓢箪さんを使うかぁと、気合いを入れるが……。

 波群瓢箪のこの使い方は正直知らない。


 だが――この重さを使う。

 重い波群瓢箪をキサラの攻撃から漏れて、俺に突っ込んでくる体が前と後ろに分体している怪物たちへ向けて投げつける。


 勢いよく回転しながら直進する波群瓢箪。

 最初に衝突した怪物は前後の胴体から生えた四本腕で立ち向かうが無駄。


 一瞬で腕が撓み潰れて死んだ。

 次に波群瓢箪とぶつかった前後に胴体がある怪物は「あべし――」と叫んで吹き飛び、その次の分体怪物さんは瞬時に胴体が「ひでぶ」と叫んではないが、そんな感じに潰れて肉塊と化した。


 波群瓢箪は前と後ろに胴体を持つ異物な怪物たちを簡単に圧殺していく。

 

 血肉を浴びて色合いがどす黒く変化した波群瓢箪だったが、その瓢箪が煌めいた。

 血を吸い取ったらしい……表面は自動的に綺麗になっていく。


 そして、圧殺する度に血を浴び綺麗になるを繰り返してから樹木の一部に衝突。


 跳ね返ってから地面に突き刺さり、ようやく動きを止めた波群瓢箪。

 土にめり込み波群瓢箪は斜めに傾いていた。


 その波群瓢箪へ向けて手首に刻まれてある鎖の因子マークから<鎖>を射出。

 

 瓢箪の取っ手の出っ張りに<鎖>を絡ませる。

 鎖を手首のマークの中へと収斂させて瞬時に、波群瓢箪ごと<鎖>を引き戻す。


 地面から引っこ抜かれた波群瓢箪は中空で銅鑼でも鳴らすような音を立てながら戻ってきた。


 少し怖いが、その重そうな波群瓢箪を手で掴む。

 同時に瓢箪に絡んでいる<鎖>を解いてから手首のマークに鎖を引き戻していく。


 ついでに反対の手から伸ばした<鎖>を聖槍アロステへ向ける。

 肉塊の壁に突き刺さった状態のアロステに絡ませて、瞬時に手元に引き寄せた。

 

 肉が複数こびりついていた聖槍を振るって肉片を落としてから<導想魔手>で握り消失させる。


 そして、アーレイとヒュレミと一緒に鹿肉を咀嚼していた黒豹型のロロディーヌに向けて、


「――ロロ、そのまま周りの雑魚を喰え!」

「ンン、にゃあ――」


 相棒に指示を出しながら、二足の怪物へ向けて<鎖>を射出。

 胴を貫いた<鎖>を操作し、相棒の近くに居た四足の獣へ<鎖>を直進させた。

 ――四足の獣の体を<鎖>が貫くと、獣の背後にあった樹も貫く<鎖>は直進し、

 樹の背後にいた、数匹の鹿モンスターの頭部をもヘッドショットで倒す。

 モンスターの脳漿を周囲に撒き散らした。その瞬間<鎖>を消す。


「キサラ、付き合え――」


 地面に突きさした魔槍杖バルドークを足場に跳躍。

 そして、キサラの方角へと波群瓢箪を蹴る。

 今、キサラはダモアヌンの魔槍を鹿の怪物たちと<投擲>していた。

 と、巨大なロターゼを盾に利用して、ダモアヌンの魔槍を回収し、近付いた鹿モンスターたちを格闘でも倒していた。

 ロターゼとの連係も巧みなキサラは凄まじく強い。

 古代狼族たちを助けていく。

 

 キサラは、既にレグモグ亜種と猿蝉モンスターを片付けていた。

 猿蝉は強そうだから気を付けなければと思っていたが……。


 さすがは四天魔女キサラ。


「え、あ、はい――」


 そのキサラの声は驚いてはいない。

 

 俺は波群瓢箪がキサラへと向かうゼロコンマ何秒の間に、右手からも<鎖>を射出。

 前方で囲まれていた古代狼族の胴体に<鎖>を絡めて、俺の手元に引き寄せ脱出させる。


「……礼を言う人族……」


 助けた古代狼族から礼を言われた。


 その間に、キサラはモンスターを吹き飛ばしながら自らに迫る波群瓢箪を蒼い双眸で捉えると、笑みを浮かべたまま雀を掴めるような速度で、体を回転させて跳躍――。


 宙の位置で右回し蹴りを行う。

 右足の靴の甲で波群瓢箪の中心を捉えて、足を振り抜く、波群瓢箪を蹴り返してきた。


 蹴りのバレーボール。

 もとい、セパタクローの競技のような蹴りだ。


 俺の方向へ向けて勢いよく飛んで戻ってくる波群瓢箪は、俺に攻撃をしようと集まってきた鹿モンスターを潰しながら直進してくる。


「ははは、キサラ、よく対応した」

 

 さすが四天魔女だな、アドリブが利く。

 と、褒めながら着地していた俺は、再び地面に突きさしてあった魔槍杖を踏んで高く跳躍――。


 俺は空中で身を捻りながら波群瓢箪を待った。

 波群瓢箪はモンスターを薙ぎ倒しながら空中へ浮かぶ魔球のような軌道で向かってくる。


 またも恐怖を味わった。

 だが、そのスリルを楽しむように気合いを入れながら左手を伸ばし、波群瓢箪をガシッと掴んだ。


 ――重い。

 腕が横に持っていかれた。 


 んだが、その勢いを利用して回転を続けている波群瓢箪の上に乗る。

 キサラがロターゼの額に腰かけていたようなポーズを作りながら座った。


 視界がぐるぐると移りゆく。

 これはあれだ。

 遊園地にある遊具「コーヒーカップ」に乗っているような感じだ。


 たぶん、使い方は違うと思うが……。

 これは遊具的な新しい武器だな――。


「奇怪な物を!」


 楽しんでいるように見えたのか、鹿の巨大怪物が叫ぶ。

 茶色毛の剛毛を全身に生やして、三つ矛の紫に光る魔槍を長細い手で持っている。

 頭に生えた鹿角も立派。


 しかも足が多脚ときたもんだ……。


 森の奥から指示を出している水棲動物系のモンスターとは違うが、こいつはこいつで周りに従えている槍を持った鹿兜をかぶった人型たちの隊長なのかもしれない。


 導想魔手も使い、波群瓢箪と共に空中を駒の回転を続けながら観察を続けていると、


「樹怪槍軍ギジェデアが参る!」


 その観察していた鹿の巨大怪物は叫ぶ。


 三つ矛の魔槍をぐるりと振り回した。

 その魔槍の切っ先を俺へ向けると、多脚をわしゃわしゃと動かし始める。


 鹿の巨大怪物の背後には、槍を持った顎が左右に裂けている人型の鹿怪物も見えた。


 動かないな、人型の方が位は上なのか?


 前進を開始していた鹿の巨大怪物は蜘蛛のような多脚を持つ。

 その長い足たちが土を凹ませ土煙を上げながら突進してきた。


 下から俺に近付いた鹿の巨大怪物。

 そのまま対空技を放つように三つ矛の魔槍を上空へ伸ばしてきた。


 その三つ矛の槍軌道は筋肉、歩幅、怪物の双眸の動きから簡単に読める。

 

 回転している俺の胴体を狙うらしい。

 <導想魔手>を消失させていた俺は、重い波群瓢箪と共に駒のように回転落下中。

 当然だ。隙間だらけで弛緩した俺の姿は、まさに隙だらけに見えるだろう。


 そんな俺だが、波群瓢箪は防御に回さない。


 これで対処だ。

 物理属性もあるし、ある程度は効くはず!

 闇のこれを喰らえ――。

 

 多脚の鹿の巨大怪物へ向けて<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を射出していた。


 数発の闇杭は鹿の巨大怪物の扱う魔槍により往なされる。

 そこで、魔力消費を覚悟して<闇の千手掌>を発動。

 

 身体からミリ単位離れた虚空から闇杭が現れていく。

 練られたイメージと膨大な魔力から生成した闇杭の千手観音は瞬時に形成された。


 その千手と化した闇杭たちが滂沱の闇雨のごとく鹿の巨大怪物に降り注ぐ。

 鹿の巨大怪物は魔槍で闇の掌底を弾こうとするが、逆に闇の掌底群に飲み込まれていった。


 闇の掌底は巨大怪物の身体と衝突する度に、衝突音が鳴り響く。

 巨大怪物が持っていた魔槍ごと、その両手は削られる。

 ドドドドッ――と鈍く潰れる音が遅れて轟くと、その巨大怪物の胴体はひしゃげていた。

 

 多脚も削れ飛び、血飛沫と肉片を周囲に弾き飛ばしながら完全に潰れている。

 

 闇の掌底が消えてゼロコンマ数秒後、儚く地面に残ったのは……。

 多数の手形の血溜まりと闇杭のみだった。


 暗黒の次元世界から瞬時の闇杭だ。

 指定範囲は視界の範囲のみだが、強力――。


 重い波群瓢箪が、そんな手形の地面に落下し、形を破壊し潰して着地。

 周囲に血飛沫の波が起こる。

 

 俺も回転しながらその地面に着地した。

 <血道第一・開門>で波を起こした血を瞬時に吸い取っていく。


「閣下~そこで踊りたかったですが、我慢します――」


 血溜まりでスケートがしたかったらしいヘルメ。

 彼女は我慢すると語っていたように、雨あられの如く氷槍(アイシクル・ランサー)の連撃を開始していた。


 こりゃ、オークの軍勢が沈むわけだ……。

 

 気候を操作するといえば大げさだが、氷槍の嵐に見えるぞ?

 樹木も氷槍で打ち倒し自然破壊を起こす常闇の水精霊ヘルメ。


 樹怪王の軍勢を封殺するように次々と氷槍で刺し殺していくさまは圧巻だ。

 だが、そんなヘルメもロロディーヌから離れているのはご愛敬か。


 やはり時々放っている神獣の炎は苦手らしい。

 その時、魔声の謳が聞こえてきた。


「ひゅれいや――」

「ギャァァァ」


 四つ腕を持った鹿怪物の胴体を魔女槍の血濡れた穂先が穿っていた。

 <刺突>系を喰らわせたらしい。


「――覇烏」

 

 キサラは瞬時に魔女槍を引きぬきながら、魔息と共に小声で謳を呟く。

 流れるようなモーションで、魔女槍を両手に持ち<投擲>をしていた――。


 フィラメントが絡まった魔女槍――。


 凄まじい螺旋軌道を描きながら宙を裂くように直進していく。

 それは近距離から中距離を超えビーム砲のような軌道。


 一直線状に存在した数十のモンスターたちは、腹、足、頭を魔女槍に貫かれ絶命。


 最終的に魔女槍は巨大樹木の幹に突き刺さって、その樹木を傾けさせてから止まった。


 俺は波群瓢箪から降りる。

 そこに、キッシュがフェンシングのフレッシュをやるように突きからの突進。

 膝蹴りを相手の鳩尾に喰らわせてから、長剣の打ち下ろしの連撃を繰り出しているところが視界に入った。


 倒したキッシュは背後から迫った鹿モンスターを振り向かずに対処。


 腰鞘に剣を納めるような所作だ。

 長剣を背後へ伸ばし鹿モンスターの腹を突き刺してから、そのままくるっと回り、背面回し蹴りを行い、腹を刺した鹿モンスターを蹴り飛ばしていた。


 その蹴り終わりの隙を狙っていた鹿モンスター。

 キッシュは油断しているわけではないと思うが、回避は間に合いそうもない。


 だから、キッシュに近付いていた鹿モンスター目掛けて氷弾(フリーズブリッド)を数発向かわせてフォローした。


「――シュウヤ、ありがとう!」

「いつものことだ――」

 

 そこで、キサラを見た。


 舞うような機動のキサラは自らの手首に魔息を吹きかけるように違う謳を披露――。


 数羽の闇烏を手首から誕生させる。

 その闇鴉は羽根をばたつかせ空に飛ぶかと思ったが、匕首に変身していた。


 魔力の刃を持った匕首の武器。

 匕首の柄頭には銀の金具があり、その金具から銀鎖が垂れて、その銀鎖の先端には携帯のストラップのような十字架の飾りがあった。


 そんな匕首の武器を両手に握るキサラ。


「四天魔女がキサラの名に懸けて、狼さんを助け、残りの怪物さんたちを滅します――」


 そう語るキサラは笑みを浮かべていた。

 シフトドレスと似合う魔法衣が風で靡くさまは、天女に見える。


 両手に握った匕首を左右斜め下に伸ばすように構えてから、前進――。

 古代狼族の女性は二対一の状況で押されていたが、そこに向かうようだ。


 キサラは疾風の速度で駆けると、両膝で、地面に突ける。地面の草場を両膝の頭で滑りながら、リンボーダンスを踊るかのように仰け反った体勢で匕首を持った左手と右手を素早く振り抜いている――。


 匕首の刃は青緑色の魔力の刃が二段、三段と伸びていた。

 間合いが急激に伸びた魔力の刃は、三つの足の歪な鹿モンスターの腰を捉えて、それを切断。


 鹿モンスターの腰は半分切断される。キサラは滑っていた勢いを利用。

 ブレイクダンスを踊るように体を回転させる。左右に広がった足の間からパンティを覗かせて華麗に立ち上がった。

 続けて、カポエラの格闘技を行うように回し蹴りを繰り出した。

両足の厚底戦闘靴を活かすような強烈な蹴りが、腰が半分切断され背骨がズレている鹿モンスターの頭部や体に連続的に喰らわせて倒す。

 蹴りの衝撃で半分切断されていた胴体が捻じられながら吹き飛び、多数の鹿のモンスターと衝突すると、多数の鹿モンスターは死体に突き刺さって倒れた。


 キサラは地面に転倒していた古代狼族の女性へ手を差し伸べている。


 やるねぇ、キサラ。

 ――と思いながら波群瓢箪から離れて――。

 魔槍杖バルドークを引き抜きながらキッシュの背中を借りる。


「ふふ」


 キッシュの背と、俺の背中が合わさるように、共に横に回転しながら――。

 左手に召喚した神槍ガンジスを上段から振り下げていた。


 左の鹿モンスターの頭部を方天画戟と似た穂先が通り抜けた。

 鹿のモンスターの頭部は左右に物別れ、真っ二つとなった。

 神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを構えたところで周囲を確認。


 俺たちに向かってくる鹿怪物たちはいない。

 まだ奥に居るが、さすがに広場には入ってこようとしなかった。


 いつの間にか、俺たちの周囲には無数の鹿怪物たちの死骸が散らばっている。

 

 そんな状況だが、幽霊たちはまだ歌っている。

 これ、もしかして、俺が承諾しないとずっと歌うつもりなのか?


 そうだとしたら、モンスターより厄介だな。

 だとしたら、了承するだけするか。


 何か報酬があるかもだし、特に害がなきゃ……。

 依頼を受けるだけ受けるか。

 

 それに、まだ探索していない鏡の先に……。

 その聖域が近くにあるかもしれない。


 なーんて、都合がいい話があるわけないか。

 と、まだ戦いは途中だった。


 ハイグリアと古代狼族たちの周辺も勝負がついている。

 残っているのは森の奥に居る水棲動物と口が裂けている槍を両手に持った人型怪物のみ。

 

「キッシュ、キサラ、後は俺がやる、ロロ戻ってこい!」

「ンンン――」


 まだ食べたいといわんばりに、鹿肉を食べていた大黒豹のロロディーヌ。

 俺の方に頭部をムクっと向けてから耳をピクピクと動かしていた。

 その瞬間相棒は――走り出す。

 黒豹から馬に近い魔獣へと変身しながら森を駆けた。

 その姿は荒ぶる馬神、いや、神獣か。

 ――荒々しい神獣として四肢で鹿怪物たちの死体を踏みつけて吹き飛ばしながら迫る姿は圧巻だ。

 助かった古代狼族たちは、皆、息を呑む。

 その戻ってきた神獣ロロディーヌは「ンン」と猫のような喉声を鳴らす、その相棒の俺を呼ぶ声に応えるように、相棒の背に跳び乗った。目の前に来た触手手綱を掴み駆けていく。ボスに向かって直進だ――。

 触手手綱の先端が伸びて俺の首に付着した。


 神獣と感覚を共有できる<神獣止水・翔>を実感する。

 と、そこに、左右から魔素が近付いてきた。

 それらの魔素は、顎と口が左右へ裂けている槍使いか。


 神獣機動に対応している槍使いとか、中々の強者だろう。

 そのタイミングで、ここでまだ見せていない――。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>を四つ発動させた。

 突然の光槍の出現に面喰らった口が裂けている二人の槍使い。

 骨槍と竹槍の穂先を突き出して、俺の体を狙うが、その骨槍と竹槍に先に衝突したのは<光条の鎖槍シャインチェーンランス>――左右の槍使いの頭部に<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が直撃。

 

 二人の槍使いの頭部が爆発し、順繰りに体も爆発して吹き飛んでいた。


 続けて二つの光を帯びた<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が水棲怪物に向かう。


 上半身が人族で下半身がナメクジの水棲怪物だ。

 多大な魔力を持っているのを表すように、網状の触手を展開させる。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>に対抗してきた。

 が、光条の鎖槍シャインチェーンランス>は、あっさりとその触手の網を突き抜ける。

 

 そのまま水棲怪物の上半身に一つの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が突き刺さる。

 少し遅れて、下半身のプラナリアに<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が突き刺さった。

 二つの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>は後部に亀裂が入る。

 亀裂は放射状にイソギンチャック状に分裂しては、瞬く間に、光の網を形成した。


 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>だった光の網は上半身の人族と下半身の水棲怪物のプラナリアを包む。

 光の網に捕まった下半身はなめくじが塩を浴びるように溶けていく。


「ヒィァァァァ――」


 悲鳴を上げている上半身の人型は女性の姿。

 その人の肌に近い色合いにも網目状に、光網の傷は侵食する。


 このまま網目状に崩れ落ちて倒せるとは思うが、素直に倒さない――。

 俺の意思を汲み取った神獣ロロディーヌが触手骨剣を伸ばす――。

 そこに、駆け抜けながら左手を突き出すように神槍ガンジスで<水穿>を繰り出した。


 間髪入れずに――。

 

 右手の魔槍杖バルドークへと送る魔力をいつもより多く送り――。

 必殺の<闇穿・魔壊槍>を繰り出した。

 振動した神槍ガンジスの方天画戟と似た穂先には、水の魔力を帯びた独特な形状がプラスされている。それが人型の上半身の一部を貫いていた。

 小さい水膜がはじけ飛ぶと、周囲の細胞を破壊するような――。

 細かな穴を作りながら穴を拡大。

 更に、<闇穿>の闇を纏う魔槍杖バルドークの紅矛が上半身の女性顔を貫いていた。


 頭部を爆散させて破壊。

 そして、「ワルキューレの騎行」を感じさせるような――。


 ――壊槍グラドパルスが出現。


 地獄から出てきたような雰囲気を出す壊槍グラドパルスは凄まじい勢いで螺旋回転をしながら直進――。

 圧倒的な存在感を放つ壊槍グラドパルスは、水棲怪物の上半身と再生中のプラナリアのすべてを巻き込みながら直進し空間さえも破壊する勢いで突き進んだ。


 壊槍グラドパルスは魔壊槍と言う名もあるように魔界の壊し屋的な勢いだ。

 その壊槍グラドパルスの螺鈿細工が周囲の樹や森林地帯の一部を吸い寄せて破壊していく。


 ――地面を抉り、周囲をぐちゃぐちゃに巻き込む。


 そんな壊槍グラドパルスの先端の宙空に次元に風穴が空いたような大きい渦が発生――。

 

 その大きい渦はブラックホールが蒸発するように縮小しつつ、その中へと壊槍グラドパルスは吸い込まれて消失した。渦は壊槍グラドパルスが見えにくい時もあったが……。


 とにかく凄まじい。


 神獣ロロディーヌ顔負けの圧倒的な環境破壊劇――。

 

 その瞬間、森、樹海に静寂が訪れる。

 相棒のロロディーヌの興奮しているような荒い鼻息音が響いてくるだけだった。


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