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三百五十九話 必乳・双丘雪崩

 常闇の水精霊ヘルメは顔を上向かせて突進してきた。

 その速度はジェット機のような加速力にも見える、ドッ! ドッ――と、空気が膨張したかのような音速加速音がヘルメの機動から遅れて響くと、そのヘルメは一段二段とギアを上げたように加速してきた。液体状の下半身から環状の蒸気を四方へ飛ばすと、それが螺旋回転しながら歯車のような形となって最終的に飛行機雲となっては周囲に水飛沫の雨を降らせていった、 歯車と蒸気に雨はスチームパンクを思い起こさせる――。

 ヘルメの下に降っている雨の勢いが凄い。

 極一部だけだが熱帯地方に降るようなスコール級だ。

 元は水神様の眷属だっただけはある。皆から崇められるのも頷ける御業だ。

 そんな宗教を起こせそうなヘルメちゃんだが……何か切なそうな顔色だった。そんな顔色に反応したわけではないと思うが、俺たちを乗せている神獣ロロディーヌが滑空し、


「ンン、にゃおおお~」

「ぷゆゆ~」

「ぬぬ、傾いた!」


 相棒の頭部と背中に乗っている皆が騒ぐ。

 相棒はゆっくりとした機動で旋回をしていくと、胸から触手をヘルメに向けて伸ばしてきた。

 触手の先端は、御豆型や饅頭型といえる、裏の桃色の肉球は少し膨らんでいてプニプニしているから、俺も触りたくなってくる。相棒は、その饅頭型の触手先端でヘルメを悪戯……否、抱きしめるつもりなのかもしれない。相棒なりの出迎えだろう。

「にゃおおお~」

 神獣(ロロ)は『会いたかったにゃ~』と喋っている?

 ヘルメは相棒の声を聞くと――知恵の環のような水飛沫をブレーキ代わりに動きを止める。 俺たちを見つめてきた。その表情は喜びに満ちていたが途中で泣きそうに切なそうな表情に移り変わる。ヘルメは液体状態の下半身から綺麗な虹を発生させながら、くるくるとサルコウジャンプを行うように横に回転を行う。神獣(ロロ)の触手と踊るのかな?

 と思ったが、珍しく相棒の触手に触れようとしなかった。

 ヘルメは宙をスケートリンクに見立てたように踊る。水の羽根を得たように――。

 華麗な立ち居振る舞いで相棒の御豆型の触手を避け続けた。細長い片脚を横に伸ばしたカメールスピンで滑らかに宙を移動していく、その華麗な姿に魅了された。キャンドルスピンと呼びたくなる体の動きも行う、さすがは常闇の水精霊だ。美しく華麗なキサラ以上の機動。と、ヘルメは必死な顔色となっている。そのヘルメに、


「一足先に降りるぞ――」


 と話をしてから、首に付いている触手の手綱を剥がす。

 そのまま神獣(ロロ)の頭部から生えた黒毛を踏み台に――。

 宙空へと跳躍を行って<導想魔手>を足下に発動させてその魔力の歪な手(導想魔手)を蹴って宙空を駆けた――出迎えたヘルメに近付く。

 ヘルメは泣いていた。特徴的な長い睫毛が垂れる。感情が溢れて、どうしようもないといった精霊らしくない表情だ。疲れているわけではないと思うが……涙を一気に流しすぎて両目を赤く腫らしていた。ヘルメの表情から、その気持ちがよく分かる。寂しい思いをさせたな……と。というか、俺も凄く寂しかった! 視界に水靄が……涙が溜まっていく。

 自然と涙が零れ落ちていた。

「――ヘルメ、ただいま!」

 叫ぶような声を上げながら『ここ()に来い!』と意志を込めて両手を広げる。

 俺の行動を見たヘルメは、涙を流しながらも歓喜の表情を浮かべた。

 そして「――はい!」と音速の声音を響かせ胸に飛び掛かってきた。

 ――ドンッと普通の人族なら吹き飛ぶような衝撃を受ける。

 が、構わないさ……ヘルメを抱きしめる。ヘルメはこわばっていた体を弛緩させていた。

 抱きしめを強くすると彼女の肩の力が抜けていくのがわかる。

 俺の緩やかな鼓動に合わせるように、ヘルメは水飛沫を体の一部から発生させていく。

 ヘルメは「閣下」「閣下」と小声を連発。

 俺の胸にこれでもか、これでもか……というぐらい強く、強く、顔を押しつけてくる。

 その押す行動のたびに、ヘルメが涙を零すのが分かった。

 ……ヘルメ。体と心にヘルメの温もりが染みてくる。お前は闇と水の精霊だが……。

 温かい愛の心を持つ特別な精霊だな……そんな愛しい思いを切に感じながらも……。

 俺は俺だ。ということで、ヘルメの体を優しく抱きながら……。

 ヘルメの巨乳を意識。ふっくらマショマロの先端に向けて指を撫であてていく。

 ボタンのような粒の蕾を指でチェックするのは忘れない。

 ――爪弾きと新指の技に……魔力の波を混ぜながらの指の腹で細かく円を描く。

 必殺の百六十手に進化をした御業必乳系が一つ『必乳・双丘雪崩』を行った!

 両手の掌からあまりまくる、グアテマラ、もとい、グラマラスの感触を楽しむ。

 そして、常闇の水精霊ヘルメ自身が「アティトラン湖」を思い出させる美しい色合いだ。


「閣下あぁン……」


 あいかわらずの巨乳だ……くびれも細い。

 キサラに悪いが、ヘルメの巨乳に顔を埋めていた。

 そして、喜ぶヘルメの顔をおっぱい越しに見つめた。

「……指から直に魔力が伝わったか?」

「――はぁうん、閣下ァァん」

 ヘルメは全身から淡い色合いの水飛沫を飛ばす。

「この御業おっぱい研究会の知識(必乳・双丘雪崩)はたまらんだろう?」

 ヘルメは悶え喜ぶ。ヘルメは蒼と黝系統のグラデーションの葉を瑞々しく煌めかせる。

 その蒼と黝色の葉が靡いてはぶるりぶるりと葉を振動させるようにウェーブを繰り返していた。そのヘルメは抱き合いながら宙空で横回転――。

 水飛沫が周りに散っていくさまは水のドレスを俺たちが纏っているようにも見えるかもしれない。

「――しゅ、シュウヤ様!」

 嫉妬したキサラだ。蒼い双眸には深い激情が感じられた。

 今ままでの余裕を持った喋りと態度ではない。

 歯ぎしりをして、魔女槍のダモアヌンの魔槍を握る手を強くしている。

 ダモアヌンの魔槍の柄の穴からフィラメント状の輝く紐が出ているが、そのフィラメント状の紐の群が妖しい形に変化し、血色の髑髏紋様が刃先から浮かんでいた。すると、どういうわけか……体育座りを行うキサラ。

 ヤンキー座りなら気持ち的にわかるが。宙の位置で……なぜに体育座り。

 が、そんなことはどうでもいい。修道服の少し短めのスカート布から出ているガーターベルトがもろに……おい、デルタゾーンを……そして、まさかの膝おっぱいを作るとは……切歯扼腕(せっしやくわん)な状態だが可愛さと妖艶さを併せ持つ、素晴らしい。 

 興奮したが顔には出さず、口を動かす。

「そう焦るなキサラ、紹介しておこう。彼女の名は常闇の水精霊ヘルメ。俺が使役している精霊だ。普段は俺の左目に住んでいる。今回はキッシュの村の防衛の要に残ってもらっていたんだ」

「えっへん、そうですよ」

「尻好きだから気をつけるように」

 精霊を使役と聞いたキサラは、細眉をピリっと動かす。

 瞬時に体育座りを止めて、背筋を伸ばした。妖艶な雰囲気はあまり変わらないが、嫉妬をさっと心の内に抑えたキサラの心意気を感じた。

 黒マスクの形を少し変形させると、礼儀ある態度を取る。

 修道服の表面を靡いている魔法衣の端が風で揺れていた。

「……分かりました。ヘルメ様。わたしは名をキサラと申します。この度は<闇と光(ダモアヌン)運び手(ブリンガー)>たるシュウヤ様の配下へと、砂漠烏が舞うがごとく末席に加わることになりました。そして、魔女槍ダモアヌンを含めた宝具を用いた姫魔鬼武装を扱える――四天魔女が一人です」

 キサラは槍の扱いに自信があるように魔女槍(ダモアヌン)を縦回転。

 そのままダモアヌンの魔槍を長い足に沿わせるように太股に柔らかく置いていた。

 キサラは自己紹介を終えると、ヘルメに対して丁寧に頭を下げている。

 頭を下げ続けている彼女の礼儀正しさを受けて、ヘルメは鷹揚に頷く。

 微笑むヘルメは目元だけで、俺と離れたくないという気持ちを現すが、離れて、

「ダモアヌンブリンガー? 謎の言葉です。魔女という言葉なら、サジハリのような高古代竜の配下を……」

「違う、キサラは見ての通り人族か、俺に近い種族か、魔族か魔女か」

 俺の予想した言葉を聞いていたキサラは頭部をあげて俺を見つめてくる。

「――その通り。普通の人ではなく髑髏武人ダモアヌンに連なる一族。光神ルロディス様のご威光とメファーラ様の武闘血とキュルハの根が関係しているのです!」

 魔女として、ダモアヌンの名に誇りがあるような感じだ。

 光と闇の運び手のダモアヌンブリンガーと関係がありそう。

「ダモアヌンとはそういうことですか、神界と魔界の神を同時に信仰しているのですね。閣下に似合う存在といえます」

「……嬉しい。わたしの出身はゴルディクス大砂漠。ダモアヌン山麓に潜伏する黒魔女教団の一党が屋敷生まれ、十七高手の下で育ちました。黒魔女教団の総本山があるメファーラの祠と古代遺跡ムーゴが近辺にあります」

 キサラは膨らんだ修道服の胸元に手を当てる。精霊の言葉に感動したような表情を浮かべていた。その十七高手とは、キサラの師父、兄弟子、姉弟子という存在?

 だとしたら稽古の毎日だったんだろうな。

 彼女の槍武術と所作を含めて、動きの質から深い歴史を窺わせるのも納得だ。

 キサラの大砂漠とその態度を見てから、ヘルメは、額に手を当て、

「……北の大砂漠。山脈の向こうとは……遠い」

 上空を見るように周りの山間エリアを見る。マハハイム山は見えないと思うが……。

 ここはバルドーク山から連なる山脈の断崖絶壁と樹海だからな。

 俯瞰すれば、巨人が拳をぶち当てたような峡谷がそこら中に確認できるかもしれない。

「そういえば、黒魔女教団の名はペルネーテで聞いた覚えがあります」

「正義の神殿がある宗教街の近辺だろう。あの辺は色々な宗教団体が集まっているからな」

「……はい、千年ちゃんを持って探索した時を思い出しました……」

 ヘルメは片目(・・)を瞑る。過去に何か(・・)をしていたらしい。

 そのことは聞かず、キサラに視線を向け、

「キサラはシュミハザーの肩のアイテムか分からん物に封じられていたようだが、その時の状況を説明してくれるとありがたい」

「数々の諸勢力同士の争う大戦中です」

「ちょいまった。その大戦が、どの戦を指すのか分からない」

 キサラは『申し訳ありません』とでもいうように片膝で宙を突く。

 厚底戦闘靴から魔力粒子が放出している。

「大戦とは、【鋼砂都市ゼキシア】、【魔霧都市エデン】、【呪縛楼閣エヒム】、【放牧都市テレザビル】を含む各オアシス都市間の争いです」

「へぇ、砂漠の都市の間での争いか、そこには愛憎の関係に同盟や裏切りなどもある?」

「はい、各都市には水の利権を持つ貴族と大商人など、様々に存在しました」

「勢力図などは結構複雑か、そんな砂漠地帯の危険な存在たちのことを教えてくれ」

「はい、まずは、砂漠ワームの襲来が有名です。そして、神人アーメフを信仰する教団、ジェレーデンの獣貴族、ハイグランドの森から越境してきた壁の王、血骨仙女、朧黒蠍兵率いるハザーン帝国の残党たち、吸血鬼十二支族ローレグント家、オーク帝国、モンスターを使役するムリュ族、他にも礫の傭兵団、霧の魔術師、宝貝を扱う魔人帝国の骸王、などが互いに反目する争いを起こしていました。そうした勢力との争いで、メファーラの祠にある黒魔女教団の総本山はボロボロとなり仲間たちも骸に……最後には違う吸血鬼一族、ヴァルマスク家ホフマンを中心とした、その部下たちの襲撃を受けた結果……」

「シュミハザーか」

「はい、シュミハザーの扱う邪霊槍は巧く対処しましたが、魔侯爵アドゥムブラリの飛び道具に加えて、ホフマンの部下が放った無数の暗撃弓矢には対処が不可能でした……」

「諸勢力の争いの連続に加えて、吸血鬼(ヴァンパイア)の高祖からの急襲とは運がないですね」

「……はい、吸血鬼(ヴァンパイア)の高祖だけなら対処はできたと思いますが、その場に居た魔女は疲弊したわたしとアフラ・ベアズマのみでした。わたしが魔女槍、ダモアヌンの魔槍を扱い囮となっている間にアフラは逃げているはずですが……」


 なら、キサラはホフマンに恨みを持つ? 初見だとそんな雰囲気はなかったし、そもそもが争いの結果か。キサラも武人系だからな、負けは負けと素直に捉えているのかもしれない。


「……ゴルディクス大砂漠地方の歴史を感じる。今の大砂漠の状況とは異なるようだな。ツアンやノーラから聞いた範囲だと、現在はアーメフ教主国が大砂漠を治めていると聞いている。そして、大砂漠に住む人族たちは神人アーメフを崇めているとか、各オアシス都市の貿易通商ルートが命綱で盗賊が煩く、血骨仙女やら、宗教国家とは戦争が激しいとも」

「……現状は何が起きているのか、見当も付きません」


 キサラは真面目に語ると、闇鯨が傍にきて、


「俺もキサラと同じで、現状のゴルディクス大砂漠のことはわからんぜ、それと、その神獣は近づけさせるなよ……」

 と発言、お尻が腫れて大きくなっていた。ヘルメは、闇鯨の額の炎の玉を見つめてから尻に視線を移している。闇鯨の膨らんだお尻を凝視して微笑んでいた、水をぴゅっと飛ばして癒やしてあげたいんだと思うが、少し怪しさを感じてしまう。

 と、キサラの()が少し気になった。小さいが角の形には見覚えがある、まさか……が、あえて膝頭をじっくりと見た。巨乳が膝頭に押されている。すると、

「ゴホンッ! 閣下、彼女の魔力操作は素晴らしい。眷属化はまだのようですが……お勧めします。そして、尻の形も中々です!」

 早速、お尻チェックが入ったか。

「……素晴らしいは、完全に同意だ」

「ふふ、ですが、いきなり魔女を部下とは驚きですね」

 ヘルメとの会話でキサラのことを褒めていると、そのキサラが上目遣いで見つめてきた。

 頬が赤く染まり俺の唇を凝視しては……胸に蒼い視線を移して股間を……ヘルメのように股間に手を当てて、何かポーズをするべきだろうか。

 しかし、黒女王の蒼い厭らしい視線は少し怖いもしれない。

「あぁ、キッシュの子供たちを助けることには成功したんだ。その帰り際で色々とあってな」

「なるほど、閣下が時間を掛けたということは、このキサラを含めたロロ様の上に乗っている方々も大事な存在なのですね」

「……大事というか、キッシュの約束のついでだ」

「ふふ、素直じゃない閣下ですね! が、閣下らしい」

 ヘルメの言葉の裏に『わかってますよ』という意味が伝わってきた。

 ん? そのヘルメの背後から煙が……キッシュたちの村がある方から土煙が昇っている。

「なぁヘルメよ。キッシュの村、サイデイル村は、もしかしてオークから襲われているのか?」

「あぁ! そうでした。大規模な軍勢が!」

「おーい、それをはやく言えよ!」

 おもわず、指でヘルメの額を小突く。

「ぁぅ――すみません。閣下の迸る魔力と神聖なる血の匂いに、寂しい思いがボンッと爆発してしまい……とくにお尻(・・)が熱く……」

 そこは心が熱くだろうよ! と水平チョップのツッコミを行いたくなったがスルー。

 華麗なる二度目のツッコミは入れない。

HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1~11巻が発売中。

コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」1~2巻が発売中。

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[気になる点] 今後も鑑定スキル取得は無い方向で進んで行くんでしょうかね
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