三百三十二話 夢闇祝
ブックマーク2万到達を確認したので、記念です。
気付いたら、目の前に白濁した湖が広がっていた……。
途中からノーラが失神してしまうほどの激しい一夜に発展したのは否定しないが、そのノーラがいない。ベッドの横で寝ていたはず……まさか、この白濁した湖の下に……な、わけがねぇ! これは夢だ……首筋にかすかな痛みを感じた。首に印されたマーク、<悪夢印>、いや、<夢闇祝>だな。首のマークから血が流れて鎖骨に伝っていた。岸辺では、巨漢黒兎と綺麗な女の子が水浴びをしながら遊んでいる。悪夢の女神ヴァーミナが魅せる映像……リアルな夢。その女神が振り向く、濃厚なエメラルドの瞳と闇がコラボした虹彩。鼻と首にある特徴的な傷も変わらず。
「美しい黒い瞳を持つシュウヤぞ……」
「ヴァーちゃんの夢アタックが、ついに成功か! <淫魔>系の力が増したからかな?」
「当然だ。だが、槍使いが普通ではない精神状態だったのかもしれんぞ」
女神と会話している巨漢黒兎、あいつは前に倒したはずだ。魔人ナロミヴァスが呼び出した黒兎は、分身だったのか? が、ここは魔界セブドラだ、神の眷属ならば当たり前なのかもしれない。他にも、白銀の湖の上には、魔界版子精霊のような白い炎を宿した小人たち、闇の炎を宿した小人たちが湖面の上でスケートをするように遊びながら現れて、競争に満足した様子を見せては、消えているからな。
伎楽面の黒兎、能面顔、般若顔、変わった顔立ちの白くもあり黒くもあるばかりの小人。
見たことのないあばら骨を用いた楽器を使い、妙な謡曲を奏でていく。
骨に人の皮を使った膜を張った太鼓を叩く不気味なデボンチッチ。
楽器を持っていない小人たちが塗り笠を被っているのも変わらず。
黄心樹と弓張り提灯を手に持ち、傀儡廻しで踊る人形のような小人もいれば、念仏踊り、田楽的な踊りを続けて、古式な盆踊りを踊ったりしている不思議な小人たちだ。
墨痕淋漓とした筆で、三玉宝石の絵を湖面に描いて遊ぶのも前と同じ。
「ヴァーちゃんの魅力が槍使いに届いたんだな。魔界の神々でも神域では強いのだから」
「うぬ、だが、宵闇の女王レブラには負けるかもしれん。が、神格落ちした淫魔の王女ディペリルには優っているつもりぞ……」
ヴァーミナが鷹揚に語る。その宵闇の女王レブラなら魔界セブドラの神絵巻で見たことがある。淫魔の王女ディペリルってのは聞いたことがない。
眷属か使徒にコレクターという巨乳がいた。
が、淫魔の王女ディペリルはしらない。
神格落ち関係なら、勇者ムトゥが討伐した堕落の王魔トドグ・ゴグなら知っている。
魔界を目指し地上を放浪中のルリゼゼが話をしていた。
「<悪夢印>を取り込んだシュウヤ」
「……取り込んだと分かるのですか?」
「当たり前であろうが。妾の見た目はこのような姿だが、魔界の神ぞ」
単衣が似合う女神さん。美しいが迫力がある。
一瞬で背筋が凍るような寒気を齎した。魔界セブドラの神絵巻で見た椅子に縛られていた絵を思い出す。
が、今は前と同じく白濁液を浴びた状態だ。
濡れた衣が肌に悩ましく密着中。
桃色の肌が透けて、若干膨らんでいるお胸様が覗く。
黒兎が<淫魔>の力と話していたが……まさに淫だろうよ。あれは男なら魅了されてしまうだろう。
さて、胡乱な視線で、表情がエロに染まっていると自覚はあるが、質問しようか。
「……それでヴァーミナ様、俺をこの世界に呼び出したわけは?」
「妾の力が、水膜のようなものに防がれているような感覚はあったからだ」
ん? 水膜とはヘルメの力が未然に悪夢の女神ヴァーミナの力を防いでいたのか? 今、ヘルメは左目にいない。
だから、たぶんそうなのだろう。
ノーラとの流れから空気を読んだヘルメ。
賢い精霊さんは、お尻を輝かせながら黒猫と不満を漏らしていたピュリンを連れて宿の外に出ていた。
ということからして……。
力を増した精霊さんが俺の体内にいる限り……。
悪夢の女神ヴァーミナとの繋がりがあろうとも、接触しにくくなるようだ。
「……それは、この夢のことで?」
「その通り、妾と直接繋がる行為は夢とはいえ、滅多にないことなのだぞ……妾は毎回、毎回、魔力を消費しているのだからな」
「そうだ。ヴァーちゃんのお気に入りの槍使い! 幸せに思え!」
黒兎が、大剣を手に出現させながら語っていた。
あの黒兎の戯れ言につきあう気はない。
質問は済んだし……失神してしまったノーラのケアがある。彼女は妹のことで、まだ色々と葛藤があるはずだ。
抱いている最中にも優しく語りながら攻めていたが、もっと喜んでほしいし、労りたい。
……新事務所の様子を見ようとする総長としての仕事より、女を取る俺はまずいかもだが、ノーラは魅力的だからな。よし、夢ならさっさと目覚めよう。
「……幸せとおっしゃっても、俺はこんな世界は望んでいないので、そろそろ帰ります」
「ま、まてい」
悪夢の女神ヴァーミナはそういうと、近付いてきた。
「槍使い……ヴァーちゃんをこけにするな……」
「そんなつもりはないですが、現実に用事があるので」
「むむ」
黒兎は怒ったのか、胸を張り、前と同じように右手の人差しを中空へ伸ばす。
あの胸板の黒毛は柔らかいが中身はまったく違う。肉厚の鋼鉄布団だ。その黒兎は、また俺と戦いたいのか、赤い魔法文字を宙に描いていく。
前に戦った時、近接戦もこなしていた巨漢黒兎。戦闘が好きなようだ。それならそれで構わないと、魔槍杖バルドークを右手に召喚しようと思ったが、
「――シャイサード、だめだ、退け」
「……」
「シュウヤは妾の使徒のベラホズマ・ナロミヴァスを、妾が感知できないほどの密度で完璧に存在を消失させた槍使いぞ。欠片が残っているのなら、否……そして、妾の力をも吸収している……魔人武王を超えるような槍使いだ」
「ヴァーちゃん……了解した」
戦いは止めるらしい。ここは夢というか、俺が精神体という感じだと思うから、直に戦えば精神的な修行となるかもしれない。
「今後、魔公爵ゼン、魔界騎士ホルレインとの戦いもあるのだ。力は温存ぞ」
「わかったよ。眷属が屠られた魔眼の悪神デサロビアも、境界付近で怪しい動きをみせていたっけか」
魔眼の悪神デサロビアか。目玉のモンスターなら戦ったことがある。
魔境の大森林の前線砦での戦いは覚えている。
仲間のモンスターも巻き込んでレーザーを照射していたモンスター。
「うむ、わかればいいが、槍使いシュウヤと妾には繋がりがあるのだからな……手出しは許さぬぞ」
「ヴァーちゃんはそこまで気に入っているのか……」
「そうだ。妾は、シュウヤを見ているだけで、体が痺れてきちゃう……のだ」
正直、悩ましい姿で、魅力的だが……夢は夢。
「……お話をしているところ悪いですが、戻ります。では、ヴァーミナ様」
<夢闇祝>を意識。
その途端、鳥の囀りで目覚める――。
目の前には俺の顔を見つめている美人さん。
――笑みを讃えたノーラだ。
「ふふ、あ、おはよ」
「ノーラ、笑っていた?」
「うん、だって寝顔がかわいいんだもん」
「はは、寝顔かぁ、俺の寝顔はあまり見る機会はないかもしれないぞ」
「え、どうして? ――あっ」
悩ましい姿で聞いてくるノーラの腰に手を回して抱き寄せていた。
「……あんっ」
「そんな姿を見せられちゃな……」
「吸っちゃだめ、もう……だって、あれ、シュウヤの首に血? 胸以外にもマークがあるのね」
「そうだよ、それは……」
と、自らのマークのことは語らず。
ノーラのマーク、もとい大事な秘宝さんを中心に色々な奥義を披露したった。
次話は15日を予定してます。




