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三百七話 影翼旅団との激闘

「ノウン交代」

「了解」


 クリドススは声をかけメイス使いのノウンと手を合わせて交代。ノウンは後退すると四腕の猫獣人(アンムル)と戦いを始めていた。ノウンと代わり鋼の甲冑が覆う人型と対峙したクリドススはダブルブレードの魔剣を右手に召喚、俺と遭遇した時には見せていなかったダブルブレードの魔剣。瞬時に武器を出現させたクリドススもアイテムボックスは持っているか、腕輪か指輪かな、ネックレスか? 銀チェーンで繋がった指輪と手甲かもしれない。その右手の甲に魔力溜まりがある。

 ダブルブレードの刃の先端と後端は黄色い刃と青い刃でブロードソードの形に似ている。鋼が覆う人型は魔力の宿る鋼の拳だ。当たれば、ビッグなインパクトがありそう。

 拳頭からクリスタルの鋲のような小型の刃が飛び出て<魔闘術>と連動する仕組みのようだ。クリドススを粉砕しようと鋼鉄製の腕がぶれるような速度でリズムよくストレート、フック系のパンチを繰り出した。踊るように動くクリドススの頭部と腹部に鋼の拳が向かう。が、クリドススは舞うように身を捻り鋼の拳の攻撃を躱した。幾度も迫る鋼の人型振るう鋼の両拳と両腕と甲冑の胴にダブルブレードの青い刃と黄色の刃を衝突させていく。鋼の人型もクリドススの細い体に鋼の両拳をクリーンヒットさせようと奮闘するように両腕を振るい突き出す。しかし、鋼人の動きは硬く直線的で読みやすい。更に怪しい魔力操作だ。甲冑の節々から不自然な魔力を外へと排出している。その怪しい鋼人より小柄の可愛らしいクリドススのほうがフットワークがいい――体重の差は普通戦いでは重いほうが有利に働くがクリドススの場合は違うと分かる。

 動きだけで鋼人を翻弄していく――妖精を思わせる自然体な機動。

 綱渡りでもするように爪先立ち――ばね仕掛けの人形のように左、右、と小刻みに足を華麗に交差させながらステップを踏む。妖精というよりダンサーかな。ダブルブレードの扱いが巧みだ。

 クリドススはまたも鋼人との間合いを潰す。

 そのまま切っ先を見せつけるように頸部の急所を狙う突き技から、鋼の人型の体を横に引っ掛けるような斬り払いを腰にぶち当てていた。しかし、相手は鋼の怪人で全身が鋼製。

 頸と腰部の表面に僅かな剣刃の傷跡を生み出しているのみ。

 見た目通りに鋼の人型は硬くて防御能力が高い。

 ダブルブレードも魔剣だと思うが、あまり鋼の人型に効いていないようだ。鎧の下に直接的なダメージを与えるようなモノが必須かもしれない。

 

 すると、鋼の人型にダメージを与えられそうなメイス使いと戦っていた猫獣人(アンムル)が鋼の人型のフォローに回り、クリドススと二対一の状況を一瞬の間に作り出す。

 そのクリドススは状況が不利になりながらも敢えて接近戦で対応した。

 

 クリドススは、爪先で細かくトントン、トンと跳躍を繰り返しリズムを取る。そんなリズミカルなダンサーを思わせるクリドススを猫獣人(アンムル)の四腕に持つ魔剣が襲う。四腕の魔剣はそれぞれ角度の違う位置から凄まじい速度でクリドススの体を捉えたかに見えたがクリドススは、四つの魔剣の刃を紙一重で躱し避けていた。鋼の人型もクリドススを狙うが右のストレートをクリドススは仰け反り避けては体を横に捻って脇腹へのパンチと頭部に迫る連続としたすべてのパンチを絶妙な間で避けている。クリドススは身を捻りつつ横に跳び、地面を片足の爪先で捉えて着地、追撃しなかった鋼の人型と猫獣人(アンムル)を見て、

 

「その四腕は四剣のリーフで、鋼の人型は、魔鋼の怪人パルダですネ」

「ちょこまかと、すばしっこい!」


 怪人パルダの頭部は鋼の兜に覆われているせいで、くぐもった声だった。

 

「ふふ、影翼の成功裏に、影翼のバカップルあり。との噂がある方でも、成長したワタシを捉えられないようですネ。しかし、疑問なのですが、その鋼の内部は、人なのですかネ? もし鋼の命なら、獣人とどんな風にエッチを行っているのでしょうか、謎です。純情可憐なワタシは、変なことを想像して興奮しちゃいました」


 クリドススは相変わらず、エスプリに富んでいる。

 昔アンジェをからかっていたことを思い出した。その言葉に鼻で笑って対応した猫獣人(アンムル)猫獣人(アンムル)らしい髭を動かしながら、


「鉄塊ブリアントのように、そう都合よくは仕留められないか」

「反実仮想のしすぎで頭がイカレている女だが……さすがに数百年は生きた血長耳の幹部というところだろう。ピンキリな冒険者上がりとは違う」

「うん。パルダ。このままこの口が軽い妖精女を任せるわ。わたしはあそこで見学している生意気な槍使いに向かう」

「了解した」


 猫獣人(アンムル)の名はリーフか。

 あの奇怪な鋼人の名はパルダ。

 三の目のリーフは俺に興味があるらしい。

 四つの腕に握る妖刀の類いを構えながらにじり寄ってきた。


 猫獣人(アンムル)の女性……。

 猫は大好きだが、少し前にムカツク野郎(ホクバ)と遭遇したからな、丁度いい。

 魔槍杖に魔力を込めてメンテナンスを行うと、


「わたしがやる」


 ユイがやる気を示し、一歩、二歩、ユイ流の歩法で前に出ていた。

 <ベイカラの瞳>を発動させつつ神鬼・霊風の太刀に風刃を纏う。

 

 ユイは過去……。

 猫獣人(アンムル)の扱う刀のような剣について語っていた。


 ユイは瞳から銀色の魔力を放出させつつ前進。

 早速、リーフの猫獣人(アンムル)へと神鬼・霊風の突きを繰り出した。

 リーフは二腕が握る刀か、剣か、判断できない業物で、ユイの神鬼・霊風の太刀の突きをいなす。

 と――ユイの足を掬おうと、下段蹴りを繰り出していた。

 ユイは半歩後退。蹴りを避けた直後――魔力を込めた両足で床を蹴り、前進。

 リーフとの間合いを潰し神鬼・霊風の太刀の切っ先をリーフの胸元へ伸ばしていた。

 先ほどよりも鋭い神鬼・霊風の先端が分裂したような鋭い突きでリーフの胴体に風穴が空くか? と思われたがリーフは余裕の間で神鬼・霊風を凝視したままリーフの腕がブレて剣を盾にした。ユイの神鬼・霊風の剣突を剣の刃先で受けたリーフは「ふっ」と嗤いつつ――ゆらりゆらりと小舟に乗ったような体の動きで、ユイの連続とした剣の突き攻撃を見事に避けていく。

 ユイの突きを初見で躱さず、受けて対処か。それで、剣の間合いを掴んだらしい。動きが一流だ。

 褐色男もリーフと同じように受けていれば……が、それは、たらればだな。リーフはかなり強い。前衛同士で、ユイとの相性はいいと思うが……眷属のユイでも苦戦はするかもしれない。

 激戦になると予想。


「……では、わたしは稲妻女を」

「ヴィーネ。雷精霊を操る危険な相手です。フォローします」


 ヴィーネはヘルメの言葉に頷くと――。

 ラシェーナの腕輪を発動。


 敵の動きを押さえてからの光線矢のパターンか?

 

 影の小人のような黒い小さい精霊(ハンドマッド)たちが腕輪から這い出た。

 生意気な小さいおっさんたちだ。

 踊るようにステップを踏みながらラライと呼ばれた稲妻女に近寄っていく。


 しかし、ラライは小粒の稲妻を連続放射。


 黒い小さい精霊(ハンドマッド)を近寄らせない。

 小さいおっさんが焦げていく。

 もとい、黒い小さい精霊(ハンドマッド)は焼け焦げていく。

 ヘルメも宙に浮かびながら、左右の手に氷繭を作り、その手から交互に氷礫と氷槍をラライへ向けて放ち遠距離攻撃を加えていく。


「近寄ってくるな!」


 が、ラライは放射状に放った稲妻の群で迎撃を行う。

 凄い、あの魔法使いも、すこぶる優秀だ。


 尊敬の念を抱きつつ、


「……ならば、俺はガルロと戦うか。ロロは、あの漆黒獣が目当てかな」


 と、俺が言うと、相棒の黒豹のロロディーヌは、


「ンンン」


 と、喉声で返事を寄越す。

 その喉声の質は……。

 なんとなくだが『待っていたにゃ』といった気持ちが込められてると分かる。


 黒豹(ロロ)は駆けた。

 走りながら、首から数本の触手を漆黒獣へ目掛けて伸ばす。

 

 その触手のすべての先端から象牙色の骨剣が出る。


「セヴィスケル、対抗しろ」


 視線を鋭くしたガルロが指示を出す。


「ピュァァァン」


 漆黒獣セヴィスケルは鳴き声をあげながら、黒色の両翼を大きく広げた。

 翼の形を刺々しい槍の刃を持つ翼へと変化させる。

 

 胴体から出た翼が槍っぽい?

 不思議な形だ。


 漆黒獣セヴィスケルは、その黒槍刃の群れを扇状に展開させた。

 巨大扇子、エリマキトカゲ?

 だが、基本は翼だからな。


 迫ったロロディーヌの触手骨剣を、その黒槍刃が捉える。

 黒槍刃と触手骨剣が、衝突を繰り返した。

 ほとんどが、相殺、セヴィスケルも強い。


 遠距離戦の牽制は互角のようだが、神獣ロロディーヌを、相棒の実力を信用する。

 

 そう思った瞬間、ロロディーヌとセヴィスケルが遠距離合戦を止めていた。

 飢えた虎が獲物を求めるように大きな体をぶつけ合い戦う。

 互いに、鋭い歯牙、前爪を絡め合い、壁を壊しながら転がった。

 巨大な竜虎が雌雄を決するような戦いへの移行だ。

 

 ロロディーヌの身体に黒槍刃が突き刺さって血が流れている……。

 相棒に傷を……イラッとした怒りがセヴィスケルに湧いてきた。

 ロロが心配……だが、ここは相棒を信頼しよう。

 

 俺の相手はあいつだ。ガルロへ視線を向けた。

 神獣と漆黒獣が転げ回る最中、俺自身もガルロ目掛けて、一歩、二歩と、前進。


「――レザライサ、そいつは貰う」

「好きにしろ」


 レザライサは俺の言葉を受けて安堵した表情を見せてから、鷹揚な態度で頷く。

 

 血長耳の了承を得たところで、魔脚を行う。

 床から煙が上がるほど強く蹴り――前傾姿勢でガルロとの間合いを詰めた直後、腰を捻り右手に握る魔槍杖へ力を伝えた<刺突>を繰り出した。

 ガルロは自身の脇腹を守るようにクレイモアの魔剣を下段に構えて対応。

 斜めに維持したクレイモアの上部で、紅矛の<刺突>を滑らせつつ、その受け流しているクレイモアの角度を急に変えた。

 

 受けた紅矛を跳ね返してきた。

 

 ガルロは、十字剣の柄巻きの握り手を変えて、クレイモアの闇刃を持ち上げてくる。

 魔槍杖バルドークを引きながら顎も退く。

 顔に流れたクレイモアの闇刃が鼻先を掠めながらも寸分の差で避けた。

 片足を軸に回転避けに移行し、体を僅かに捻って右腕を背中側へ回した。

 半身のまま、背中に回しておいた左手が持つ魔槍杖バルドークを右手に移し、右腕を少し上げた。

 その右手が持つ魔槍杖バルドークで首を薙ぐ軌道の闇に灯る返し刃を弾きながら、相対するガルロの首を殴るイメージで魔槍杖バルドークを振るう。

 紅斧刃がガルロの頭部に向かうが、ガルロは屈んで紅斧刃を避けると左へと体を回転させながら素早く退いていく。ルリゼゼの受け売り、後退は愚――の言葉通りに前進しながら逃げるガルロの足を刈ろうと魔槍杖バルドークで下段払いを行が、魔槍杖バルドークの機動が読まれていた。斜めに前に差し出されたクレイモアに紅斧刃は弾かれた。

 一々、カッコイイから参考にしたくなる剣の動きだ。

 あの下段構えは特に――。

 そんなことを考えながら、右手に持ち替えた魔槍杖バルドークの紅斧刃で、ガルロの肩を狙う。

 斜め下の胸の半ばまでを両断するイメージの力を込めた気合いを込めた斬り下げだ。

 

「速い連撃だ――」

 

 ガルロは俺を素直に褒める言葉を漏らしながらも、両腕が反応している。

 クレイモアの刀身を斜め上に掲げるように扱い紅斧刃を防いでいた。

 火花が散る中、コンマ何秒もかけずに爪先を軸とした横回転(ルーレット)を行う。


 そして、魔槍杖バルドークを握る左手を前に押し出し、右手を引く。

 下から弧を描くように掬い上げた竜魔石の石突をガルロの下腹部へ向かわせた。

 が、蒼い軌跡を描く竜魔石の塊は、僅かに上下にブレる魔剣でいなされる。

 重い音と共にしっかりとした手応えはあるが、ガルロは表情を変えない。黒い眼は確りと俺の姿を捉えていた。構わず、その場で魔槍杖バルドークを縦回転させた。

 両手をクロスさせるように変幻自在に柄の握りを変えながら魔槍杖バルドークを振るう。

 ガルロは紅斧刃と竜魔石の攻撃を避ける。

 そのまま緩急をつけるように魔槍杖バルドークを振るう。

 ――狙いは急所。

 ガルロの胴を裂いて潰そうとガルロの防御剣術を分散させるため、先端の紅斧刃と後端の竜魔石の薙ぎ払いを上下に打ち分けていく、が、ことごとく、ガルロは対応してきた。


 闇の炎を灯すクレイモアの魔剣に弾かれる。

 風槍流の技は把握しているようだ。


「地底の亜神を屠る魔剣デュミナスでさえ、俺の手が痺れるとは――」


 連撃を防ぎきったガルロは魔闘脚と見られる動きで、大きく距離を取る。

 そして、あのクレイモア系の剣の名前は魔剣デュミナスと名前らしい。


「風槍流の武術は言わずもがな、その武器はいい武器だ。魔槍斧、いや、杖か?」


 時間稼ぎのつもりか、俺と武器を褒めてきた。

 その手には乗らず、一呼吸の間を取らせずに追う――。

 ガルロ目掛けて走りながら真っ直ぐ伸ばした魔槍杖の紅矛を天凛堂の床面へ突き刺した。

 両手に持った魔槍杖で身体を支えて、その縦長のハルバードの魔槍杖に身体を重ねるように両足を揃え真っ直ぐと上空へ伸ばす。

 

 月が隠れるイメージで背中をガルロに晒しながらの一点立ちとなる。

 

 ゼロコンマ何秒後。

 魔槍杖と重なった俺は、慣性機動で距離を取ったガルロ目掛けて、勢いよく落下していく。

 

 その途中、身体を横回転させて脊柱起立筋を意識した。

 

 腰を軋ませるほどに魔槍杖を握る右手を背中へ回す。

 そして、ガルロを視線に捉えたまま、彼の頭を一刀両断するイメージで<豪閃>を彼の頭に振り下ろした。

 しかし、ガルロは闇の炎を灯す魔剣デュミナスの上部で、獄一閃の火炎を伴う紅斧刃を受ける。


 耳が痺れるほどの凄まじい炸裂音と共に空気が振動した。

 周りから溜め息とは違う感心する声が聞こえてくる。


 すると、重い紅斧刃を受けている魔剣デュミナスの十字柄を握り持つガルロの両腕が異常に膨れあがり闇色の魔力に包まれた。

 更に、魔剣デュミナスが爆発的に加速。

 俺の紅斧刃をデュミナスで右に払い弾くと同時に、ガルロは身を回転させて上段後ろ回し蹴りを空中に居る俺に対して繰り出してきた。

 急ぎ、弾かれた魔槍杖を動かして金属棒の上部で、ガルロの蹴りを受け止める。


 ――重い。紫の金属棒が打ち震える。

 そして蹴りの衝撃で俺の身体が浮かされた。

 しかし、その浮いた衝撃を利用し、宙の位置で前回転を行う。

 右手に握る魔槍杖に、その回転している運動の力を乗せるイメージで、ガルロの頭部へ目掛けて紅斧刃を振り下ろす――が、またも弾かれた。

 続いて、その弾かれた反動を利用。

 持ち手を替えながら魔槍杖を斜め下から掬い上げるように蒼い水晶の石突、竜魔石をガルロの下腹部へ向かわせる。

 

 だが、さっきと同じように、闇の魔力を纏い膨れている両腕に握られたデュミナスの幅広刃で竜魔石の石突は防がれた。

 

 俺が着地した瞬息、ガルロは魔眼を発動させたらしく瞳が闇色に包まれる。

 その瞳から闇の魔力が扇状に照射された。

 嫌な予感がしたので、床が焦げるほど強く蹴り、ガルロの姿を捉えながら後退。

 

 すると、彼の周りの床と空の極狭い範囲の空間が裂かれた。

 アンフォルメルな空間の景色が変わっていく……。

 

 <始まりの夕闇(ビギニング・ダスク)>系か?

 今は狭い範囲のみだが……。

 夜空とは違う淡い明るさを保った暗い地下空間らしき地面に苔が付着した岩が転がり、紫色と漆黒色の薄い霧が漂う中に……。

 

 黒い甲羅皮膚を持ち、頭の後部から腹下までが左右に割れるように裂けた、二つの手と二つの足を持つモンスター。人のような片腕だけのモンスター。

 鬼のような角を頭に生やした腹が異常に膨れたモンスター。

 獰猛そうな肉食獣を思わせる太い四肢を持つモンスター。

 巨大な唇の中から、小さい口たちが無数に飛び出しているモンスター。

 

 他にも見たことのないモンスターたちが群がる洞窟空間が映し出されていく。

 その異質な魑魅魍魎たちが映る地下洞窟の宙で目立つ存在がいた。

 煌びやかな魔法と闇の蜂を交互に放出させている女? の姿が映っている。

 上半身は人型で下半身はない。額は縦に拡がり短髪に奥行きが広い頭部。

 両の側頭部から巨大な珊瑚が横や上へと伸びた枝のような角を持つ。

 顔には眉毛がなく、深く窪んだ眼窩の中に小さい魔法陣が浮かぶ。あれが眼なのか? 奇怪だ。鼻筋は高く唇は青白い。普通の女性らしい細い顎だ。

 細長い首から胸の上に黒い花が装飾されている布当てを身に着けていた。

 両肩はスケイルアーマー系の肩防具で青銅を思わせる大杖を握っている。

 その杖の先端に闇色の蜂の意匠が施されたマークがあった。

 蜂の複眼は極彩色豊かなガラス水晶のようにも見える。

 大杖も目立つが、やはり注目するのは膨らんだ胸部だろう。

 しかし、俺が好きな、おっぱいさんではない。

 女性らしく膨らんでいるが、普通の乳ではなかった。

 胸の一部から腹の下までが左右へ裂かれている。

 裂かれた胸の中に宝石のような光り輝く心臓が蠢いていた。

 腰は黒塗りのベルトと裂けた胸から続く黒布の切れ端と革のタセットだけで、足がない。

 腹の下から白い骸骨状の白霧をジェットのように無数に生み出して浮いている状態。

 一瞬、幽霊系のモンスターを思い出す。


「……槍使い、それは地底界の秘宝ロルガの闇炎。またの名を、ロルガの地底蜂という秘宝を元にした力の一部だと思われる。気をつけろ」


 レザライサが忠告してくれた。

 彼女は肩に乗せた魔槍杖の紅矛と、黒いガトランスフォームの格好から、俺の顔を熱心に見つめてくる。瞳は熱っぽい印象を抱かせた。

 女の顔を浮かべているレザライサだ。可愛いかも。


「そうなんだ。ありがと」


 素直に礼を返すが、ガルロが生み出した裂けた空間からどんな攻撃が飛んでくるのか、予想ができない。


「血名の盟約通り、わたしに力を貸してもらうぞ、ロルガ様」


 ガルロは俺を見つめたまま、血名の盟約と語る。

 地下空間に映る女の怪物へ語っているようだ。


「小僧、妾に生意気な口を利くようになったな? だが、血名通り、力は貸してやろう」

 

 裂けた空間に映る地下空間から、得も言われぬ香しい匂いが漂うと同時に、エコーが掛かった声が響き渡る。

 見た目は怪物だけど、この魅了されるような香りからして、女神なのか?



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