三百四話 闇の饗宴
2021/02/23 14:13 修正
◇◆◇◆
ピエロが踊るように足を捌く機動を見せて、華麗に二振りの短剣を扱う男。
彼の名はカリィ。
言わずと知れた影翼旅団で随一の戦闘狂。
いや、変態でもある。
その戦闘狂のカリィは天凛堂ブリアントの地下でアシュラー教団が雇った手練れと戦っていた。
その名は金棒師のシロク。
カリィは不自然な体重移動を繰り返しつつ前傾姿勢で攻撃モーションに入る。
シロクの首と胴体を一度に斬ろうと左右の手が握る短剣をコンパクトに振るった。
シロクは斜めに掲げた長棍で一対の青白い短剣の刃を防ぐ。
カリィの腕と連動した短剣が小刻みに震えるスキル<連振指>を、長棍が弾く度に斑の火花が散った。
チェーンソーの刃を弾くような金属の硬質な音が響く。シロクは続けて体を退かしつつ棍棒を上へ打ち出す『挙棍軍貴』の型で、頭に迫った導魔術の短剣の刃を弾いた。
シロクは連続した防御の棍の動きから反撃の突きをカリィの胸元へ伸ばす――。
――カリィは、ゆらりゆらりとした機動で、その反撃の金棒の突きを避けた。
更に<導魔術>で操る宙に浮かせた短剣が舞う。
その短剣でシロクの金棒師のスキル<打連突>を見事に防いだ。
カリィは金棒の打撃を自身に触れさせない――。
悪態笑顔の嗤いと同質の不気味な細い目が、シロクの正中線を捉えながらも、<導魔術>の魔線で繋がる青白い短剣は別の生き物の如く動いた。
その短剣を扱う導魔術のレベルは非常に高い――。
カリィはダンサーのような動きで、シロクの棍棒の打と突と薙ぎの三連撃を避けつつ、シロクの周囲を衛星の如く回る導魔術の短剣を操作。
涼しい表情を崩さずカリィは攻撃線を維持する。
シロクの隙を窺うように<導魔術>の短剣を操作を続けた。
両手に持つ短剣の間合いを維持。
すると、カリィは、突然歩のペースを変えて、シロクの横を歩き始める。
「――それ、金剛とかいう特殊金属?」
「そうだ」
「ふーん」
カリィは悪態笑顔を浮かべながら宙に浮かせていた剣刃の位置を調節。
その短剣を僧侶の衣を着たシロクへ向かわせた。
「これが導魔術。もう一人の優秀な短剣使いと相対している気分だ――」
シロクは警戒を続けながら喋る。
迫る短剣を注視しながら魔力を身に纏う。
オーラのような魔闘術を体から発しつつ両手が握る金属棒を前方に出す。
身に迫った導魔術が操る短剣と金属棒を衝突させた。
シロクの棍棒術は熟練されている。
棍棒術が発展して得られる金棒師系の〝金棒魔砕師〟という戦闘職業を獲得していた。
シロクは、カリィの導魔術が扱う短剣を三度、四度、と、華麗に防ぐ。
「だが、この程度の鋭さならば、人外より楽だ」
カリィはシロクの言葉を聞いて、にやりと片頬で嗤った。
「まだまだこれからサ――」
嗤いつつ特有の二剣術の構えを示すと――。
見事な棒術を見せるシロク目掛けて前傾姿勢を取り、突進を開始していた。
「速い」
カリィはシロクの言葉通りに速い。
二本の青白い刃の短剣をシロクの胸元へ伸ばしてから、フェイントを交えた短剣術で腕を交差させた。
それは飛剣流進行性の剣法『神崩し』の構えだ。
刃をクロスさせて、半円の形と半円の形を短剣の刃で描く。
その短剣を握る両腕を捻り、剣刃を返し、手前に片腕を引きながら、もう片方の手首を逆側に回す。
そのまま片方の腕が握る短剣で残心しているシロクの肩口を狙う。袈裟斬りを行った。
シロクは頭部と衣が斬られながらも、何とかカリィの袈裟斬りに対して金属棒を使い対処――。
しかし、カリィは速度をもう一段階、引き上げる。
斬り、突くといった連携の剣術から、宙に浮く導魔術の短剣をもフェイントに使い始めた。
カリィは新体操選手のように体幹を意識した動きで腰を捻り両足を動かす――。
蹴りと短剣の斬り払いを同時に連続で繰り出した。
スキル<短剣・荒四肢>を発動。
シロクは連撃をまともに喰らう。
体勢を崩し、両手で握る金属棒が弾け飛んだ。
その刹那――。
「――イイ棍棒術だったけど、ボクは槍使いと戦ったことがあるんだヨ」
カリィは体を駒のように回転させつつ前進。
「な、何だと!?」
シロクは驚愕の表情を浮かべる。
彼は動こうとしても動けない。
それはカリィが魔力を薄くさせた導魔術系スキル<影導魔>をシロクに気取らせずに絡めていたからだ。
「ヒヒヒッ、ハハ――」
駒のように回転しながら無気味に嗤うカリィ。
宙に青い剣閃の軌跡を生み出しながら、両手に握る青白い短剣の刃を、動けないシロクの首へ吸い込ませ、シロクの首を刎ねていた。
回転を続けて前進していたカリィは背後で倒れていくシロクの胴体の姿を確認しない。
ブリアントの地下を駆けていく。
ゼインは一階を制圧したころかな。
ボクもこの地下の道を守る他の護衛たちを始末したら一階に合流しよう。
と、カリィは悪態笑顔を浮かべながら分岐した地下通路の一部を守るアシュラー教団の護衛たちへと襲い掛かる。
◇◇◇◇
ここは天凛堂一階。
褐色の男が一階広間を席巻。
彼の名はゼイン。
ゼインは絶剣流を軸とした独自の剣術を扱う。
影翼旅団の中でもトップクラスの実力者だ。
今も両手で握る柄巻の幅広の剣身をぎらりと黄色く光らせながら護衛の一人の腹を斬り二人目の護衛の喉笛を斬り裂いて倒した。
続いて、三人目の槍使いが、剣魂を発するゼインの胸元へ<刺突>を伸ばす。
ゼインは体を捻り避けた。
続けざまに胸に迫った槍穂先をリズミカルに避けた直後――耳朶を震わせた。
更に猛然とした武人としての魂を現すような剣術で幅広剣を巧妙に扱う。
槍の穂先ごと槍使いの腹を捌く。
妙なる剣技に腹を切り裂かれた槍使いは、力なく倒れていった。
「メリュウがっ!」
「隙ありだ――」
叫んだ双剣使いも、ゼインの三羅剣の突技により、胸元が抉られ倒される。
「……おい、吸血のメリュウと双剣使いが斬られたぞ」
「八頭輝に喧嘩を売るとはな……」
「おもしれぇ。闇の饗宴だな? 俺たちも混ざろうぜ」
「いいぜ、コンロン。俺も血が滾った」
彼らは【雀虎】に所属する獅子系の獣人のコンビ。
「二人とも、あの褐色の剣術家と戦うのは止めておけ。二階に上がった奴らといい、その実力は本物だ」
「八頭輝に手を出した影翼旅団をこのまま好きなように放っておくのか?」
「そうだ、力を示す」
「リナベル様に危害がない以上、放っておく。これは八頭輝というより【血星海月連盟】に対する喧嘩だ」
獅子種族とは違い冷静に話をする人族のトクマン。
そのトクマンは掌から魔力を宿すカードを出す。
そして、観客に手品を披露するマジシャンの如く……。
周囲に四角いカードを泡の如く展開させた。
このトクマンも【雀虎】の幹部。
〝鬼面奇想のカード使い〟と呼ばれている。
「標的がクラゲだろうが、血星クラゲだろうが、この宿を襲撃するのは、顔に泥を塗る行為だ。俺たちが舐められていることに変わりはねぇ」
獅子種族のウジテ。
獅子らしく唸るように語る。
彼は凶悪な表情を浮かべながら、背中から胸ベルトと連結している巨大なハンマーを腰に重しでも巻き付けているような緩慢な動作で取り出していた。
「……あの新しい連盟か。海は最初からいない。星は教団関係者に守られながら脱出したのを見たぞ。血はまだ三階に残っているようだが」
「月の残骸もここにいない」
「トクマン、悪いが、獣の血が疼く。あの褐色とやるぜ――」
ウジテは足音を立てながら一階を駆けて褐色の男に走り寄っていった。
「俺も行く」
「……人を呪わば穴二つ」
夜空の昴のような冷たい視線を持つ中年男トクマンの不吉な言葉は獅子種族たちには届かなかった。
◇◇◇◇
一方、ブリアントの二階。
カリィは地下で、ゼインは一階で、戦いを繰り広げている最中、一階の大階段を上がった二階の大広間でも戦いは起きていた。
普段は大勢の客で人いきれするほど賑う大広間。
現在の天凛堂ブリアントの大広間はアシュラー教団の貸切状態だ。
そんな、がらんどうの広間で壮絶な殴り合う二人。
「硬い拳だ。ここの主人か――」
「――お前たち、ここがどこの宿か分かっているのか」
一人は鉄塊のブリアント。
赤鱗の鎧を着た大柄の人物で、拳の先端が三尖状の鉄塊武器を装備していた。
彼はここの主人。
元Sランク冒険者でもある。
それに対するは、魔鋼の鎧が全身を覆う人型。
不可解な魔力を周囲に撒き散らす怪人だ。
彼は影翼旅団に所属している。
マハハイム東部の闇社会で魔鋼のパルダと呼ばれていた。
パルダは魔鋼の兜だ。
それゆえ、対峙するブリアントは、ただの鉄仮面。
パルダの表情が読めない。その表情が読めないパルダが、
「……当たり前だろう」
と、兜越しにくぐもった言葉を発し、話を続けた。
「アシュラー教団が大金を払い指定した宿だ。調べれば簡単に分かる。呪神の化身ソーティンバンを倒した鉄塊のブリアント率いる冒険者パーティ【怪王潰し】。その元パーティメンバー。今は従業員の金棒術のシロク、無魔法のアイ、吸血のメリュウ、双剣のトルガ。それ以外にも教団が、蒼海の氷廟、愁いの皹、といった連中を雇い入れたとな」
「そこまで調べたか、何者だ?」
「影翼旅団――」
「ぐあぁ」
パルダが組織名を喋った瞬間、鉄塊のブリアントの胸に四つの怪しい光を放つ刃が突き出ていた。
「鉄塊と呼ばれた俺の体を……」
いつの間にかブリアントの背後に回った四剣・厳眼流の使い手の猫獣人のリーフだ。
ブリアントが完全にパルダに集中しきった瞬間を狙った<暗剣殺>での急襲。
リーフはブリアントの背中へ突き刺した四つの妖刀を引き抜いた。
ブリアントの胸から鮮血が迸る。
苦悶の表情を浮かべながら血を吐きつつ倒れた。
「――この暗殺型で仕留められなかったのは、レザライサのみ」
「そのレザライサたちは最上階だ。団長たちが護衛を倒しているなら、そろそろか」
リーフとパルダが語るように血長耳の集団は最上階の部屋に戻っていた。
他の八頭輝たちが率いる闇ギルドはブリアントから退出していることは、既に確認されている。
標的を血長耳に絞った影翼旅団。
他の闇ギルド員が攻撃してこない限り手を出していなかった。
そこに、福耳を垂らす褐色の男が姿を見せる。
耳朶にある特殊なピアスが振り子時計のように揺れていた。
「パルダ、リーフ、鉄塊を仕留めたようだな」
「うん。ゼインも一階を制圧したようね」
「……見ている奴ら以外、双剣と吸血を含めて、我に喧嘩を売ってきた闇ギルド員は始末した。そして、念のため落葉鳴りを発動させてある」
ゼインの片耳が蠢く。
耳朶に嵌るピアスの数が少ない。
穴が空いている。
ゼインが語っていたように特殊能力<落葉鳴り>を発動させていた。
この能力は簡易結界。
侵入してきた者を感知する。
一番の効果は、戦いにおいて彼の耳と独自の感覚を共有した落ち葉群が、三羅剣の間合いを確実な物とする効果があることだろう。
彼の種族と剣豪であるが故に発展した特異能力の一つと言えた。
「うん。アルフォードの結界もあるけど一階は緩いからね。部外者が侵入したらゼインに任せるわ。ところでカリィは? 合流予定だったはず」
「まだ地下のようだ。地下の護衛の中に強者がいたのかもしれんな。例のごとく股間を滾らせ楽しんでいるんだろうて」
ゼインは笑う顔なのだが、他人には陰気な迫力を感じさせる不快な表情でしかなかった。
「変態は変わりないか。なら放っておいて上に行きましょ」
「ふむ」
三つの目をゼインとパルダに向けたリーフ。
彼女は四つの手が握る妖刀を肩口の鞘と腰の鞘に華麗に納めると階段に向かう。
パルダとゼインも頷く。
猫獣人の背中を見ながら絨毯の上を歩いていった。
◇◇◇◇
ここは天凛堂ブリアント最上階の広間。
左右に大きな部屋がある。
高級な広間だ。その広間で、白い容姿の双子が魔法障壁を目の前に展開させつつ影翼旅団の千雷のラライと対峙していた。
双子は頭に白い霙のようなシンボルマークを持つ。
その魔法合戦を見守るように階段側の手すりには……。
影翼旅団の団長ガルロとドワーフがいた。
ガルロは魔造生物を使用していない。
魔法戦を展開しているラライと双子の戦う様子を黒い眼で眺めていた。
玉葱頭の眉毛が濃いドワーフも金剛樹の胴鎧のでっぱり部位に組み直した両手を置いている。
ドワーフの手の甲の中心に八角形の魔宝石が填まり幾何学模様が周囲を縁取っていた。
「いい加減に喰らいなさい!」
ラライは両手の指から稲妻を放つ。
稲妻は、鋏、剣、槍、棍棒と形を幾重にも変化。
それら、凄まじい稲妻の攻撃が、虹を曳いて空間を切るように双子たちの下へ向かっていく。
しかし、双子は目の前の空間に透明な防壁を幾重にも重ねるように張り巡らせる。
空間が歪んで見えるほど重なった透明な防壁はラライの強烈な稲妻魔法を浴びて表面がひび割れた。
が、防壁の何層かが剥がれ落ちただけで、ラライの稲妻魔法を防ぐ。
「あの女の人強い」
「うん、障壁が第三段階まで削れている」
「魔竜王のブレスでも第二段階までだったのに」
硝子が罅割れたような跡を残す壁越しに、愉快そうな口ぶりで双子たちは語る。
それを見たラライは綺麗な顔を歪ませて、
「……白の双子たち、わたしの稲妻を防ぐなんて生意気」
ラライは指貫きグローブの指で双子たちを指差す。
「ぼくの名前はアレン、こっちが妹のアイナ。しろの双子ではない」
アレンの言葉を聞いたラライ。
イラつきを面に出して口を動かす。
「……そう、アレン君、アイナちゃん、邪魔しないでくれるかしら」
「お金貰ったから仕事しないと」
「うん、わたしたちは、邪神と強くなることを約束したからお金を稼いで、未知のアイテムを買うの」
「邪神? 何のことかしら。それより、お金を払えばそこを退いてくれるの?」
「白金貨五枚くれるなら退く」
「仕事のお金は五枚だった。五枚以上のお金と未知のアイテムをくれるなら退くわ、兄さんもいいでしょ?」
「うん」
双子は頷き合う。
「――総長、どうしますか?」
ラライは背後で佇む眉目秀麗なガルロに聞いていた。
「金と何かのアイテムを渡してやれ」
「分かりました」
ガルロの言葉を受けたラライはローブの中から小型のアイテムボックスを出す。
中から、聖櫃、円形スクロール、甲に紋様が浮いている萎びれた腕、緑色の片足、白金貨十枚を取り出した。
「このアイテムとお金をあげるから――退いてくれるかしら?」
ラライはアイテムと金を投げつける。
「それは知恵の聖櫃?」
「あら、分かるの? 鑑定眼も持っているなんて」
ラライは双子へ尋ねながら双眸に魔力を込めた。
瞳が黄色に光り表面の色彩の中に小型魔法陣が幾つか浮かぶ魔眼。
彼女は、この場にいない同じ影翼旅団メンバーの千里眼アルフォードと、とある有名な外界術師の能力により、雷精霊ボドィーと雷精霊ゲ・ラの眼球を融合させた特殊な魔眼を備えていた。
「〝知恵のない神に知恵をつける〟ことができるという……」
アレンは呟く。
魔眼を使用しながらラライは眉を動かして反応。
「双子さん、知恵は万代の宝よ?」
そう言葉を返すが、アレンは無視。
「兄さん、知恵の聖櫃より、あの紋様は精霊封じよ。緑色の足は分からないけど」
「そのようだ。やったぞ、アイナ」
「はい、兄さん。未知のアイテムです」
双子はラライが投げたアイテムと袋に入った白金貨を確認すると喜び合う束の間――。
はしゃぐ双子の下に魔法陣が出現していた。
「バイバイ――」
アイナはラライに向けて可愛らしく手を振る。
床の紋章魔法も発動――。
アレンとアイナは半眼に開くと姿を消す。
シュウヤが前回に見た時より、その消えゆく速度は確実に増している。
そして、廊下の端にあった木窓が開き風が廊下を吹き抜けていく。
ラライは普通ではない子供を見て……。
アレン、アイナ……。
不可視の無詠唱でアルフォードの結界を破るなんて、しかも、迅速に空を飛ぶ魔法を同時展開させている……。
このペルネーテには、まだまだ隠れた実力者が潜んでいそうね。
と、掌に稲妻の人形を作り出すラライは双子が消えた空を眺めながら背筋を寒くしていた。
「索敵にも反応がない。姿を消した双子って何者かしら? 闇の仕事ではあまり聞いたことがないけれど」
「アルフォードの結界は元通り。それから判断すると一瞬で魔法侵食する能力を持つ者たちか。金で動くタイプでよかったな」
ガルロは率直な感想を述べた。
俺の力なら、あの双子をやれるだろう……。
しかし、レザライサを含めて血長耳と対決する前にすべてを晒すのもな。
と、ガルロは考えていた。
「……そうね、少しプライドが傷ついたけど」
双子の高等を遥かに超えた魔法技術の腕を見たラライの表情は複雑だ。
稲妻の精霊を扱う者として、負けてはない。
と思う反面、自分にない技術を持つ双子に悔しさも感じていた。
「気を落とすな。これからが本番だ」
「うん」
「もうじき仲間も上に来る頃だろう」
「俺はさっさと古のエルフ共を屠りたいんだが」
ガルロの隣にいたドワーフの言葉だ。
もう障害がないなら早く戦わせろという感じに視線を鋭くさせていた。
「まぁ待て、蘇り。あの大部屋に血長耳たちがいることは確実だ」
「だからだ。この金剛樹が呻いているんだよ!」
蘇りのドワーフは威嚇をするように金剛樹の斧を掲げた。その斧刃からドワーフの気魄を感じたガルロ。
思わず、額のサークレットに手を掛ける。
サークレットは触れたガルロの指先に応えるように自動的に金属の形を変えて、彼の指に絡む。
「……指示に従う約束だろう?」
ガルロの声色は厳しく、相手を威圧する眼光。
容赦しないという意思を込めたように目を細めてドワーフを見ながら語る。
「……了解した」
玉葱頭を持つドワーフはガルロの言葉に頷く。
彼の心は、エルフを始末したい、俺の家族を奪った古きエルフたち、ベファリッツの生き残りのすべてを根絶やしにする……と憎しみを心に抱いていた。
◇◇◇◇
一方で、最上階の大部屋の中にいる血長耳たち。
「総長、外が騒がしいようですが」
「……護衛が暴れているのか?」
「襲撃ですかね?」
「だとしても……」
レザライサは腰に差す魔剣ルギヌンフに手を当てながら、仲間を見ていく。
軍曹メリチェグ、戦闘妖精クリドスス、ツイン兄弟、魔弓ソリアード、風のレドンド、血雨のファス、木斛のノウン、九式ミセブ。
エルフの兵隊は少数だが、血長耳の幹部の殆どが、ここに揃っている。
「はい、療養中の乱剣のキューレルとセナアプアに残っている幹部以外の全員がここにいますからネ」
「しかし、我等に喧嘩を売る阿呆がいるとは……」
「レドンド、阿呆がいるからこその闇ギルドよ?」
眼帯のレドンドの隣のエルフ女性の名はファス。
彼女は白鯨の第十分隊長だった。
赤い珊瑚の髪飾りが綺麗な細身のエルフ女性。
「今宵は、ファスお姉様がいます。エセル界ではなく、この天凛堂に血の雨が降るでしょうネ」
ファスは昔からクリドススに何故かお姉様と呼ばれている。
「分かっている、いつもの隊列だな」
レドンドは冷静に話す。
彼は左手に透明な反った刃を持つ風魔の三日月の刀を召喚していた。
すると、彼の金の長髪が逆立ち始めていく。
額から眼帯を越えて頬にまで続く大きな傷痕を晒していった。
「風のレドンドもやる気のようだな。丁度いい、俺も暴れたかったんだ。ぴょんぴょん跳ねるエセル界での戦場経験を生かすぜ」
ツイン兄弟のロッグの言葉だ。
眼帯エルフのレドンドの言葉に頷きながら、慙愧の魔斧を掲げていた。
「おうよ、ロッグと共に暴れてやる。雷鳴剣が唸るぜぇ」
兄弟の片割れ、グッチも片手に持つ黄色い長剣を掲げロッグの手斧に合わせていた。
「総長、護衛の気配が消えたようです。音も静かになりました」
大扉の向こうで行われていた魔法合戦を察していた軍曹メリチェグが報告を行う。
レザライサは無言で頷く。
片手を上げてマントを翻しながら、その片手で暗号の指示を出していた。
軍隊式の指示を受けた血長耳のメンバーたちは、整列するように動きを揃えてから、各自武器を抜いて大部屋の隠れやすい場所を探していく。
弓を持った魔眼持ちのソリアードが、魔眼から魔力を放出させながら大部屋から外に続くベランダに出ていった。
彼は天凛堂の空上から外へ出ようと逃走経路を確保しようとするが、
「総長、空も封じられたようだ。この建物の二階から上は外へ出られないように物理障壁が掛かっている。下も飛び降りられない多重結界だ。リュグインの<顎命殺>を放てば……この結界を壊せると思うが、建物自体と周囲に被害が出るかもしれない」
魔眼を発動させているソリアードの報告だ。
銀色の魔力を僅かに身に纏っていた総長レザライサは、ソリアードの報告を聞きながら、中央のソファの奥へとやおらに歩く。
「ふっ、下の建物を壊したら、わたしたちも無事では済みそうにないな。だが、上なら壊しても……」
と、ファスに顔を向ける。
「総長、任せて。定式通り<閃光>から征く」
「了解した。皆、ファスの能力を久々に見ようじゃないか」
「そうですね」
「了解っす」
「お姉様、ぶちかましてくださいネ」
「このままファスの射線を維持」
レザライサは言葉短く指示を出す。
その間に、魔道具が付随した両手を出しているファスが、長細いモデル足を動かして指示を出したレザライサの手前に立つ。
ファスの手首から掌にかけて歪な魔道具が自動展開されていた。
掌の位置の丸形宝石から千紫万紅の色を放出。勿論、魔力を多大に内包している。
レザライサは頷く。
クリドスス、軍曹もレザライサの左右に立っていた。
ノウンは魔鬼のメイスを構え、ミセブも九環刀で絶剣流の『軒霰』の構えを取り、レドンド、ツイン兄弟はファスの攻撃射線に入らない位置で<隠身>を発動して影に潜む。
ゲリラ戦、室内戦、急襲戦に備える【白鯨の血長耳】。彼ら彼女らは元ベファリッツ特殊部隊。非常に手慣れた動きだった。
◇◇◇◇
血長耳が戦闘態勢を整えた直後、部屋の外側の影翼旅団にも動きがあった。
「お待たせ」
「ゼインとカリィはまだか?」
「うん、ゼインは途中で、嫌な予感がすると言って二階に戻った。一階に動きがあったようね」
「だから俺たちだけだ」
魔鋼のパルダと四厳流リーフが語る。
「おい、揃ったのなら、しかけていいんだな?」
蘇り、狂犬と揶揄されたドワーフが自慢の金剛樹の斧で語るように影翼のメンバーたちへ武器を向けながら話していた。
「ゼインは暗黙知か。いいだろう。ならば、ラライ」
「うん」
ラライは頷く。
雷の魔力を指先から放ちながら、血長耳たちが中に居る部屋前の大扉に移動しようとした一弾指。その部屋の内側から、爆発的な魔力が生み出されるのを感じ取った影翼旅団のメンバーたち。
蘇りドワーフも両手に展開させた斧刃を胸前でクロスさせた。
大扉から不自然に煙が出た直後、真一文字に大扉が切断される。
扉の横にある机、飾り布、机の上の花瓶、壁に飾られた絵と魔法のランプも切断。
視界も暗くなる。
「ちょっ!?」
部屋の内側から放たれた魔力刃は一直線に横壁、渡り廊下の壁を切りながらラライたちにも襲い掛かった。扉の近くに居たラライは、瞬時に稲妻の防御フィールドを目の前に張り、桃色に輝く閃光刃を防ぐが、衝撃に負けて後方へ吹き飛ばされる。
扉、廊下の壁を、真横から真一文字に切断する魔力刃。
魔力刃は桃色を帯びた閃光のような色合いだ。
そのまま直進する魔力刃は暗くなった三階ごと切断する勢いで大部屋の壁をも切断していった。
ガルロは落ち着き払った態度で、額のサークレットから黒翼が生えている魔造生物セヴィスケルを瞬刻の間に召喚する。
出現した漆黒の大鷲獣セヴィスケルはガルロの目の前に凜々しく立つと、大鷲を彷彿とさせる頭部を上向かせ、
「ピュァァァン――」
と、鳴いてから胴体の横から生えている黒翼を、蜘蛛が巣を作るように展開させる。
その展開させた大きな網目模様の黒翼で吹き飛んできたラライを優しく包み、パルダ、リーフ、蘇りのドワーフ、ガルロたちのことを守るように細かな影翼が覆っていく。
桃色の魔力刃が、そのセヴィスケルが作り出した影翼結界に衝突――結界の影翼は弾力性がある動きで凹むと、反動を見せて急に膨らむ。そのまま魔力刃を斜め上へ弾き、影翼旅団のメンバーたちを守りきっていた。
しかし、天凛堂ブリアントの建物の一部は守れずに地響きと共に建物の一部が斜めにズレ落ちていく。
ブリアントの天蓋がなくなり、夜空に浮かぶ大月の満月と小月の残骸の月明かりが、赤茶けたアルフォードの結界越しに新しい屋上に注がれる。
セヴィスケルが作り出していた結界も消失。
舞い落ちる大量の埃が、銀雪のごとく煌めきを示し、瓦礫が落ちる音だけが、屋上に鳴り響く中、白鯨の血長耳と影翼旅団の強者たちが、しずしずと互いの顔を視認し、武器を確認し、相対している相手を睨みつけながらも、不吉な神託を思わせる明かりを身に浴びて、脈搏が不自然に昂進していくのを感じていた。
ノベル版「槍使いと、黒猫。」1巻〜13巻が発売中。
漫画版の1巻~2巻も発売中。




