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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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301/2000

三百話 地下オークション第一部開幕

2021/01/19 14:05 修正

2022年 6/10 11:06 修正

2022年 6/30 17:03 18:02 修正

2024年3月8日 14時29分 修正

 ディノさんと会話を辞めてメリッサに、


「よっ、メリッサ」


 メリッサは俺を見た。

 碧眼か揺れて驚いたように、


「え?」


 と発言。

 嬉しくてたまらないような面持ち。

 絹のシャツと丈長のカーディガンが似合う。

 胸元が開いているガーディガンには盗賊ギルドの印がある。

 その襟から続く胸元のヒラヒラが、鎖骨と乳房の一部を見え隠れさせていた。

 メリッサと初めて会った頃を思い出す。

 魅力が増している。そのメリッサは瞳を潤ませながら、


「あぁぁぁっ、シュウヤさんっ――」


 抱き付いてくる。

 懐かしい……いい匂いだ。

 メリッサの部屋でキスをした。

 ……切なくなった。


 妹さんの面影を思い出す。

 妹さんは元気にしているのだろうか。


「元気にしていたか? 妹さんは元気?」

「はい、エリカはシュウヤさんの情報を知りたがって、煩いぐらい元気です!」


 メリッサは、ふふっと笑いながらも、目尻から涙を零す。

 俺の顔を凝視してくる目は切なげだ。


「わたし、会いたかった。凄く会いたかった……」


 メリッサはそう語ると、俺のハルホンクのコートに頭部を埋めてくる。すると、他の盗賊ギルド、闇ギルド、商会などの関係者からニヤニヤとした視線が集まった。


「メリッサったら、やけにソワソワしていると思ったら、シュウヤさんに抱き付いちゃって、そんなに会いたかったのね」


 ディノさんだ。エルフ女性。

 ボーイッシュな髪形で、緑色だ。清潔な印象を抱かせる。

 アイラインも綺麗で美の相貌が際立つ。

 長耳の端に菱形のピアスが嵌まる。

 頬はエルフ種族特有の印で、熊に近い動物の刺青にも見えた。


 そのディノさんは書類を机の上に置く。

 羽根ペンも傍にあった。

 仕事のできる女の雰囲気は相変わらずだ。


 煌めく薄緑色の口紅も彼女に合う。

 そのディノさんに向け、


「ディノさん。約束のお金を払います……メリッサ?」


 紳士的にメリッサの両肩を持ち体を離す。

 メリッサは上気したように白い頬に赤みをのぼらせていた。


「……すみません。感極まって」

「構わんさ、俺も同じ。昔と変わらないメリッサの温もりを感じられて、素直に嬉しい」

「もうっ、相変わらず上手なんだから」


 メリッサの、はにかむ顔を見てから白金貨十枚を取り出し――ディノさんへ手渡した。


 ディノさんは、金貨を指に挟んで、金貨を凝視。

『真剣師』のような世界があることはアキレス師匠から聞いている。

 薄緑色のマニキュアが、また煌めく。


「――確かに受け取りました。しかし、シュウヤさんは八頭輝様、この契約を無視して頂いても構わなかったのですが」


 ディノさんは胸元のネックレスを手に持つと、そのネックレスの飾りの中に金貨を入れた。

 アイテムボックスのネックレスか。


 ドラえもんの道具的な物は多数ある。

 が、そんなありふれたアイテムより、くすみのない透明感の高い肌が気になった。


 デコルテを覗かせる。


 乳房の上部の皮膚には悩ましい血管が薄く浮き出て見えた。


 ディノさんも、また、すこぶる美人さん。


「……いえ、約束は約束ですから」

「……律儀ですね。メリッサがペルネーテの支部を大きくしようと幽魔の門との交渉を張り切る訳です。惚れている理由の一端を見た気がします」

「ディノさん、止めてください……あ、よく考えたら恥ずかしい」


 周りの視線に気付いたメリッサ。

 頬を火照らせている。


「視線は別に気にしない。メリッサの柔らかい感触のほうが重要だ」

「あぅ、もう……恥ずかしいこと言わないでくださいっ」

「ふふ、仲がよろしいことで……あ、中央に教団の方が立たれましたよ。もうじきオークションの第一部が始まるようです。席に座りましょうか」


 ディノさんに促された。

 周りの人々も座る。

 壁にぶら下がるランプの灯りが強まった。

 会場を照らすスポットライト風の魔法の光は中央部に集まる。


 壇上だ。

 一気に会場のボルテージが高まった。


 キャネラスを発見。

 大商会の幹部らしい高級な革の服を着ている。

 複数の使用人に指示を出していた。

 オークションに出品か?

 または買い付けを予定しているんだろう。


「……それじゃ、メリッサ、ディノさん、俺も席に戻ります」

「八頭輝様。これからも、ベルガット本部統括局長ディノ・ヒルデコアをご贔屓にお願いします」


 ディノさん。

 盗賊ギルドのボスとしての顔だ。


「シュウヤさん、あの、お仕事をがんばってください」


 メリッサの表情から嬉しいような悲しいような感情を察せられた。

 様々な感情が綯い交ぜとなっているんだろうか。

 メリッサには盗賊ギルドの仕事があるからな。


 ディノさんは早速、羊皮紙の書類にサインを始めている。


「メリッサもがんばれ」

「はいっ」


 互いに言葉と視線でエールを送る。

 笑顔でメリッサに頷いてから踵を返した。


 ユイ、ヴィーネ、エヴァが座る席に戻る。

 テーブルクロスが綺麗な【月の残骸】の盟主の席。

 八頭輝の席とも言えるか。


 八頭輝ごとに微妙にテーブルクロスの色合いが変わっているのは細かい。


「お帰り。あの女性がメリッサさんね、美人……」

「ん、抱きついてた……」

「要注意ですね。ご主人様の人脈が他の地方都市にもあると思えば嬉しいですが、これからも続くような関係性と睨みました。正直、女として嬉しくないです」

「うん、でも、眷族として慣れていかないと。この嫉妬も成長の糧にしてみせる。刀の技術をあげてやるんだから……誰かを斬ってでもね」


 ユイさん、大人の女を感じさせる言葉だがメリッサを<ベイカラの瞳>で見ながら言うのは止めようか。

 あ、まさか、陰で暗殺する気か? 否、俺と寝るかどうか調べる気か。

 やべぇ、メリッサとの再会エッチは止めておこう。


「……そうですね、血を吸ってでも」

「確かに、美味しそう」

「ん、シュウヤ以外の美人の血……」


 ヴィーネは目を充血させている。左の目尻と頬に血管を浮かばせていた。

 ユイも同意しながら<魔闘術>系統を強めた。

 <ベイカラの瞳>の能力を発動させているから怖い。

 

 エヴァも冷たい表情のまま微笑。余計に怖いがな。

 どうも、いつも以上に過去の女というフレーズに<筆頭従者長(選ばれし眷属)>たちは敏感になっているようだ。


「……三人とも、冷静にな」

「うん。刀が自然と冷静(・・)に動くかもしれない」


 刀でスパッとやる気か?


「ん、鋼球が自然と冷静(・・)に落ちる?」


 エヴァさん、超能力で鋼球を?


「はい、冷静(・・)に、ガドリセスから邪竜の力を感じます」


 ヴィーネさん、<筆頭従者長(選ばれし眷属)>の力を抑えたのか、瞳と頬は元に戻したが、不吉なことを語っているし。

 ま、彼女たちなりの愛情表現だろう。

 少し不安気に彼女たちを見つめていると……。


 ユイは笑っていた。

 エヴァはいつもの天使の微笑に戻して、唇の間から小さい舌を出す。

 ヴィーネは優しい微笑みを浮かべていた。


「はは、シュウヤ、大丈夫よ。何もしないし」

「ん、少し意地悪しちゃった」

「ですね。ご主人様が困ることはしませんから」


 なるほど、俺をからかったつもりらしい。

 まったく……女心で翻弄される身、というか俺のせいか。


 反省はできる範囲でしよう。

 が、少し安心した。

 そこでリラックスするように――背中を伸ばしながら隣のテーブルを見る。


 そこは白鯨の血長耳の席だった。


 魔煙草を吸っているレザライサと目が合う。

 隣に緑と銀のメッシュ髪を持つクリドススと、軍曹と呼ばれていた渋い男エルフも座っていた。

 盟主のレザライサは、煙を口から吹きながら、ニコッと微笑む。

 顔に傷があるが美形の顔だ、つい見てしまう。

 煙草を吸う仕草も似合う。

 その醸し出す雰囲気から長い年月を生き抜いてきた強さと風格を感じた。

 まさに、八頭輝。マフィアのドンだ。


 尊敬の眼差しで盟友のレザライサさんを見ていると、銀色の魔力で『隣だな。少し話をするか?』

 と、魔力操作を自慢するように文字を浮かべてきた。


 ご希望通り、魔煙草を吸うレザライサの隣に移動すると、


「研究資料を拝見しますと、平文が多いですが、暗号の符丁も使われています。間違いなく解読の役に立つ資料のようです」


 渋い男エルフさんが渋い口調で語る。


「総長、シュウヤさんに機密情報を聞かせていいのですか?」

「いい。もう盟友だ。それに何の機密か分からないだろう」


 分からない振りをしておこう。

 エセル界碑文の解読か、それ系の暗号だとは分かるが。

 そこに、


「……皆様、時間です。地下オークションの第一部を開催致します!」


 直径三メートルは超えているステージ台に立っている銀の仮面を装着した女性の言葉だ。

 祭壇にも見えてくる雰囲気。


「それじゃ、隣の席に戻ります」

「了解した」


 月の残骸の席に戻り中央に視線を向ける。


「……いつも通り、机に置かれた札を挙げて頂けたら、買いの注文とさせて頂きます。では――」


 司会の女性が、そう話してから手を上方へ伸ばした。

 その手の先のカーテンで仕切る幕の袖から、最初の競売商品の高級戦闘奴隷が連れられてくる。


 司会の女性は端のほうに歩く。

 連れてこられた奴隷の見た目は、普通の人族……。

 艶のない羊皮紙のような顔色の戦闘奴隷だ。


「最初の商品は、象神都市近辺で見つかったとされるヤーグ・ヴァイ人。別名八鬼族。触った人物限定ですが、その触った人物に変身が可能。最大八人の姿に変身が可能な特殊種族です。それ以外の戦闘系スキルは特に目立ったものはないようです。値段は白金貨三十枚からスタートとさせてもらいます」


 へぇ、変身が可能とか隠密に人気が出そう。

 ヤーグ・ヴァイ人は能力を示す。

 魔力を纏うと姿を次々に変えた。

 変身の仕方から、一瞬、イモリザの姿を想像した。

 しかし、八鬼族の能力は、あくまでも見た目だけのようだ。魔力総量自体に変化を示していない。


 そんな八面相の人物を観察していると札が上がる。


「ハイペリオン、デュアルベル大商会。続いて、ヘカトレイル後援会の方、札が上がりました――」


 司会の女性が商会の名を示し、指を差す。

 次々と札が上がる。ヘカトレイル後援会の方を見たら、シャルドネだった。

 目元が黄金に縁取られた仮面を付けている。

 あんなオペラ座の怪人とかジェノバ風の仮面を付けなくても侯爵だと丸分かりだと思うんだが……。


 誰も指摘はしない。


 あれ、ヘカトレイル後援会とはシャルドネだったのか。

 ということは、魔王の楽譜を買い占めていたのは彼女か。

 第二部は夜だが魔王の楽譜が出品されなくては彼女と交渉の流れか?

 が、まだ出品はされるはず、その際は競争だろう。


「続きましてサーぺリン大商会、白金貨九十五枚です。さぁ……買われる方は居ますか?」


 司会は少しでも値段をつり上げようと周りの大商会、闇ギルド関係者たちへ視線を巡らせながら語っていた。


「現時点で白金貨九十五枚。あ、白鯨の血長耳の方、札が上がりました。白金貨百枚です。どなたか……」


 札を挙げようとしていたシャルドネ。

 彼女はレザライサのエルフ顔を、冷たい眼差しで睨んでいた。


 知り合いなのか? 裏で繋がっていそう。


「……はい、居ませんので、決まりです。白鯨の血長耳の方、落札です」


 八人の姿に変身が可能な高級戦闘奴隷は会場の横から白鯨の血長耳のメンバーたちが座っている席へ連れられていく。

 八頭輝の席に座る盟主のレザライサとお供のクリドススと軍曹が座るところには運ばれなかった。


 血長耳のことだ、各方面のスパイの人員として使うつもりなんだろう。

 埋伏の毒にも使えそうだしな。


「次の商品へ移ります――」

「ぐおぉぉ、離せ、愚民どもがっ!」


 次に運ばれてきたのは……いきなり咆哮。

 怒りの形相だ。金色の短髪で巨躯の男。

 背中に天使が持つような白い大きな翼を生やしている種族だった。


 彼は首だけでなく、両手、両足に鎖が繋がれた状態で抵抗を示している。


「この商品が話す言語の通り言語は未知。そして、地下オークション初。出品元の情報ですと、エセル界の未知の種族らしいです。白金貨五十枚からスタートとなります」


 周りがざわめいていく。


「――あの種族は初めて見る」

「あの背中の翼を用いて空を飛べるのか?」

「だとしたら有能な偵察員、急襲用の兵士に使える。しかし、奴隷の首輪が効き難いのか? だとしたら、こちら側の力と別の拘束方法が必要となるぞ。ましてや空が飛べるのだからな」


 周りの商会、闇ギルドの面々たちは語り合い賑わう。


「なんなのだっ、ここは! 俺は見世物ではないっ! 離せ! 離せ! 離せぇぇぇ!!」


 エセル人は暴れて叫ぶ。

 しかし、それを見ていた周りは八頭輝を含めて笑いが起きていた。

 俺は、彼の言語が分かる分……正直笑えない。


 眷族たちを含めてこの場の誰一人として、彼の言語を理解していない。


「くそっ、俺は、エミィのもとに帰らなきゃいけないんだ⋯⋯」


 彼は敗北感に体を震わせている。


 可哀想だ。しかし競売は進む。同情で買うつもりはない。

 次々と札が上がり、キャネラスの大商会が大白金貨三枚の値段で落札していた。

 彼に扱えるのか? まぁ複数の戦闘奴隷も居るだろうし、余計なお世話か。


「続きまして、注目の品、西方フロルセイル七王国で黒き戦神と呼ばれ、タータイム、レドレイン、イーゾンの戦場で活躍していた人族です」


 連れてこられたのは黒髪の男性だった。

 どうみても日本人系。ただ、目元に隈が残り、不健康に見えた。

 当然、首輪を装着し、エリート将校を彷彿とさせる軍隊の制服を身に着けている。


 彼は無愛想な一瞥を投げてくると、デモンストレーションのつもりなのか、左右の両手から四角い物体を作り出していた。


『魔力操作の質はかなり高いですね、閣下を少し見てましたよ』

『そう? 有能そうだけど、男だからな』


 あれが彼の能力。

 どの程度の大きさまで四角形を作れるんだろう。

 そして、戦場で活躍したという人物だ。当然、力を求める商会、傭兵、闇ギルド、各方面から人気があった。

 次々と札が上がっていく……最終的な落札は、ヘカトレイル後援会。


 大白金貨五枚という大金を投じていた……さすがは侯爵。

 戦争に利用する腹積もりなのは予想がついた。


 オークションは淡々と続く。


 まずは、どうみても戦闘奴隷ではないだろう小人のノーム。

 と思ったら、無数に分裂を始めていた。奇妙な小人だ……。


 次は蛇人族(ラミア)のビアに似た亜種族。

 古代アーゼン朝の生き残り種族とされる獅子顔と蛇腕を持つ亜人。


 続いて剣の状態へ変身が可能な人族、見た目は女性。

 綺麗な女性なので興味は湧いたが買わなかった。


 その次が、アーゼン朝文明圏に住んでいるアマゾネス。

 背が高い金色の肌を持った女性で背中に尾ひれが続いている魚人系の種族。


 その後に登場したのが、背が小さい可愛らしい単眼種族。

 単眼というのも珍しいが、砂利をまぶしたような声はあまり聞いたことがない。


 次いで、壇上に連れられてきたのは、体の一部を雲化できる人族。

 顔は浅黒く彫りが深く渋い。


「彼は舌がなく言葉が話せません。雲人族と名付けました。出品元の情報ですと、軍港都市ソクテリアの海運商会の船が海の上に漂っていた彼を拾ったようです」

『わたしの霧とはまた違います。魔力操作もそれほど上手とは思えないです』


 精霊のヘルメが語るなら、そうなんだろう。

 仙魔術を使えるのかもしれない。

 値段も上がり、最終的に八頭輝の鱗人(カラムニアン)のガロン・アコニットが買っていた。


 その次は、竜の顔を持つ大柄竜人、彼は迷宮で八層を経験済みとアピールされていた。


 こうして、珍しい戦闘奴隷たちが登場しては大商会、闇ギルドたちに買われていく。

 買っている中にコレクターの姿も見えた。

 彼女と目が合うと、にっこりと微笑んでくれる。


 魅了されそうになったが、我慢した。

 そして、視線を中央に戻すと、丁度、壇上に四つ眼と四腕を持つ種族が登場。


 この四腕の魔族系が現れた時、少し驚く。

 思わず顔を注視した。

 ふぅ……よかった。ルリゼゼではなかったので一安心。

 彼女は故郷を目指しながらも、この地上の放浪を楽しんでいるはずだ。


 その四眼の魔族はアドリアンヌの【星の集い】に買われていた。


「続きまして、紺碧の百魔族と呼ばれている極めて珍しい種族です」


 紺碧の百魔族だとぉ。種族の名前がカッコいい。

 期待しながら待つと、連れられてきた種族は……え? なんだあの頭はっ! 

 蒼鱗の滑らかそうな皮膚だが、環状の頭部だと?


 環の真ん中はサッカーボールが入るぐらい丸く空いている。


 脳はどこにあるんだよ。

 と、ツッコミを入れたい奇怪すぎる大型種族。

 環の縁と幅は広くないが等間隔で色彩豊かな目玉が複数個並んでいる作りだ。


 環の下部に唇があるが、鼻と耳がどこにあるのか分からない。

 しかし、脳はどこだ。もしや眼の奥、円の縁の中に脳が詰まっているのか?

 他は、肩幅も広く胸板も厚い。

 長太い腕が四本あり、かなりの大型な種族だで、魔族か。

 乳房は筋肉としての膨らみだから、男性か?

 筋骨隆々だ。エセル界の翼人と違い、大人しい。


 鎖に繋がれた首輪を掛けているが、暴れることもせず、周りの様子を見ている。


 複数の目できょろきょろと見回していた。

 面白い種族だ……あの目玉、眼球たち、全部で幾つあるんだろう。

 あの四本腕の見た目からして、ルリゼゼ、トグマと同じ剣、近接武器を扱う種族だと考えられるが。


 自然体で、長い足も陸上選手のような筋肉質。

 何かしらの武術を身に付けていそうな雰囲気を持つ。


 強そうだ。屋敷専属の警備員にいいかもしれない。

 門番を予定していたアーレイとヒュレミはポケットの中だし。


 そう考えた瞬間、俺は自然と札をあげていた。


「――え、シュウヤ、買うの?」

「ご主人様、魔王の楽譜が幾らするか分からないのですよ?」

「そうだけど、興味を持った。買う」


 俺とハイペリオン大商会が札を挙げ続ける。

 そして、大白金貨二枚と白金貨三十枚の値段となったところで、俺が落札に成功した。


 その買った紺碧君は月の残骸たちが集まるテーブル席へ運ばれていく。

 別段暴れたりはしない。常に自然体だ。

 頭が蒼鱗の環だが、皆で、紺碧の百魔族君を歓迎している。


 自己紹介をしているようだ。後で契約をする時に少し話をしてみよう。

 どんな武器を使うか興味がある。


 眷属たちは紺碧君との会話を終えると、戻ってきた。


「続きまして、最後の商品となります。不屈獅子の塔が出身。白金貨五十枚からのスタートです」


 ステージ台に連れてこられたのは貫頭衣を着た人族女性。

 見た目は普通だが……よく見たら、足先がなく浮いていた。

 足先から魔力と泡のようなモノを放出している。


 スキル、種族の力、特殊な力を持つのは間違いない。


「…………」

「カカカッ」


 距離が少し離れている八頭輝の席に座るのは、ノクターの誓いの盟主ホクバの嗤い声だ。

 ホクバが出品した戦闘奴隷らしい。

 そのホクバは猫獣人(アンムル)らしくない愉悦めいた表情を浮かべながら、昨日も連れていた綺麗な女性を傍に置いている。

 奴隷の首輪から伸びた鎖は、ホクバの手にあった。

 女性を己のファッションの一部のように扱っていた。


 気に食わない野郎だ。

 その様子を見ていると、


「不屈獅子にはあのような種族が住むのですね」


 ヴィーネが不思議そうに浮いている足を見ながら呟いていた。


「ん、わたしに似てる?」


 エヴァは自分の足を金属の足にしている。

 

「エヴァとは違うよ。不思議な足から魔力を放出している」

「ん、買うの?」

「いや、あまり興味ない。美形は美形だけど」


 あの獣人に金を払いたくない。


「という事は、ご主人様が美形ではない、単純に興味を持った紺碧の百魔族……相当なレアですね」

「そうね。シュウヤならまず美人から入ると思った」


 瞳に淡い蒼炎の魔力を灯すレベッカが語る。

 レベッカはエヴァと一緒に月の残骸の席から八頭輝の席に来ていた。


「なんであんな形の頭部で生きていられるのかしらと、疑問でいっぱいだったから、マスターが興味を持つのは分かる」


 さり気無くミスティも傍に来ていた。


「ん、少しお話をしたけど環の頭は面白かった。後で直に触ってみる」

「腕が四つだから猫獣人(アンムル)の神王位とか、ルリゼゼのように強そう」


 そんな会話を続けていると、ヘカトレイル後援会が、足がなく浮いた状態の高級戦闘奴隷を落札していた。

 シャルドネは散財しているな。


「それでは、地下オークション第一部が終了です。第二部は明日の夜。各自落札者の方、お支払いをお願いします」


 こうして、第一部は終了。

 早速、オークションの係の者へ金貨を支払う。

 <筆頭従者長(選ばれし眷属)>たちの【月の残骸】のメンバーと合流してから、その場で新しく買ったばかりの戦闘奴隷の契約を行った者に、


「紺碧の百魔族、これから宜しく頼む」

「主人、宜しく頼む」

「おう、ここから説明を色々と聞く」

「分かった」


 そこから、基本の食事は何を摂取しているのか?

 と、得意武器についても聞いてから――。


 環を触りたがっていたエヴァも、環の頭部が特徴的な紺碧の百魔族へと直に手を当て、百魔族の心を読みつつ会話を続けてもらった。


 エヴァから紺碧の百魔族の心情を解説してもらったが、基本的にビアと同じ。

 嘘はないとエヴァは語る。

 

 紺碧君と短い会話を終えた俺たちは、全員で和やかムードのままオークション会場を後にした。

 階段を上がり赤絨毯が敷かれた廊下に戻る。

 天井に眼球型の魔道具が設置されている玄関口から屋敷の外に出た。


 すると、敷地の右手から……。

 独特の雰囲気を醸し出す大柄な男が現れた。

 額に黒色の鷹のサークレットを身に付けている。

 その背後に、剣を背中と腰に差している猫獣人(アンムル)の女。

 黒鋼の鎧を身に纏った人物に、他にもぞろぞろと、俺たちに近づいてくる。


 何だろう、面子的に、闇ギルドだとは思うが……。

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