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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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294/2000

二百九十三話 勝鬨

2021/03/30 22:00 修正

 今回は白黒のゼブラ模様の大きい虎のヒュレミにしよう。

 ヒュレミの背を跨がって乗ると「ニャオオォ」と、嬉しそうに鳴いていた。「ニャ……」隣に居る黄毛と黒毛の大きい虎の黄黒虎(アーレイ)が悲しげな声で鳴いた。

「アーレイ今度乗ってあげるから、な」

「ニャァ」

 黄黒虎のアーレイは白黒虎(ヒュレミ)に背と腹に跨がっている片方の膝に大きな頭部を寄せてきた。そのアーレイは、ヒュレミの頭部にも頭部を寄せて、目元を細めながらもフガフガと匂いを嗅ぐ。髭袋が膨れて上唇毛が上に向いている。ヒュレミは『止めろニャ』と鳴きながら片足を振るう。フック気味に肉球パンチをアーレイの頭部に当てていた。アーレイも『なにするニャ』と、お返しの肉球パンチをヒュレミの頭部に繰り出す。そこから猫もとい大虎同士の「ガルルルゥ」と唸り声をあげる喧嘩に発展した。

「――こら、止せ、イモリザと戦っているキリエの場所へ進むんだから、向こうだ」

 指を差すとヒュレミは走り出す。少し遅れてアーレイもついてきた。

「何よ! 溶けたと思ったら変身したの? 男だし!」

「急な男で悪いな――」

 キリエの声が響いてくる。イモリザはツアンの姿に変身していた。

 どうやったか分からないが、変身の途中に間の時間を上手く稼いだらしい。ツアンは逆手に光を帯びたククリを持ち、そのククリの刃から無数に光糸が放出されていた。

 そのククリを放っては握り直し振るい回す。

 キリエが目から白色の杭状の礫を飛ばしているが、それをククリの刃で物の見事に斬っていた。そのツアンはククリの持ち手を離し、横回転させては握り直し、そのククリを上下に動かしては横にも動かした。宙に乙の字をククリで作るように腕を動かしまくる。と白色の杭状の礫を、そのククリの刃で三枚下ろしに切断。そのまま器用にククリを何度も振るって、白色の杭の礫を斬り落としながら前進。

 ツアンの斬るモーションは忍者のような渋い動きだ。キリエは顔色を悪くしながら、白色の杭状の礫をコンパクトな振りで斬りつつ近付いてくるツアンから逃げるように後退。そんな、キリエ目掛け、ヒュレミから飛び降りた俺が突っ込んだ。

 キリエの背中にフライングクロスチョップをお見舞いしてやった。

「――ぐえっ」

 キリエは唐突のプロレス技を喰らって体が()け反って呼吸が止まったように動きを止めた。その際、左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出してキリエの体を囲った。そのキリエの体をがん字がらめ状態にしてから宙へ持ち上げる。

「――きゃぁ、何よこれは! わたしの<白蛇溶解>が効かない?」

 キリエは体が<鎖>で拘束されながらも、左の眼球から白色の杭状の礫を飛ばし、<鎖>に衝突させていたが、<鎖>は溶けない。ツアンは「旦那、俺も活躍したかったぜ」と発言すると、ククリの刃から生み出した光糸で薔薇花のようなマークを腕の表面に幾つも作り出す。そして、得意げな表情を見せながらククリを握る掌を離すと、そのククリをクルッと回してからククリを消失させていた。ナイフトリックに見えた。その手品師か、奇術師にも見えるツアンに「すまんな」と謝ってから、<鎖>に体が拘束されて、宙にぶら下がっているキリエに顔を向けた。

「名前はキリエでいいのかな?」

「そうよ……わたしに何をする気?」

「期待しているようで悪いが、何もしない。少し話してみようかと」

「舐めないで、これでも第三黒髪隊の副隊長なのよ? それにタケはどこよ」

「俺がここにいるんだから倒したに決まっているだろう」

「……嘘よ、黒き戦神だってタケのことを殺せなかったのに! 無双のタケが死ぬわけがない!」

「そんなことを言ってもな」


 キリエは俺の表情から気持ちを読み取ろうと左目の魔眼に魔力を込めていた。


「無駄だと思うが」

「……タマキは?」

「この虎たちが喰った」

「オェェ」


 うは、吐きやがった。<鎖>が……。


「敵の古龍に傷を与えたタマキも……」

「……第三黒髪隊の副隊長さん、俺を恨んでくれて構わないぞ」

「恨み? 何甘っちょろいこと言ってんの。これは戦争よ? タケもタマキも黒髪隊の前からの付き合いだけど、それ相応のことはやってきたからね。ただ、一方的にやられる立場を味わってみると……きついモノはあるけど」

 強がって話していると分かるが、気持ちは嘘ではないようだ。

「では、まだ戦うか? それなら解放して戦うが、どうする?」


 戦うならとことん戦おうホトトギス。の武道精神で語り掛ける。


「え? 戦う? 殺すとか拷問は? 情報を得ようとするものじゃないの?」

 そんなことを言うキリエに向け、目に魔力を込めて、厳しい顔色を意識しながら睨む。

「しない。殺戮が目当てではないからな。抵抗せずに降伏をするなら、綺麗な女だし助けるよ」


 キリエは魔眼に魔力は込めていなかったが、俺の瞳を見つめて、本心か探ろうとしている。


「……分かりました。魔眼も使いません降伏します。帝国辞めます。体も自由にしていい、だから、どうか命だけは助けてください」


 キリエの命乞いを聞いたツアン。

 切り傷が目立つ片方の眉をぴくりと反応させていた。


「旦那、いいのか? 厄介事が増えると思うぞ。仲間が死んで動揺を示した辺りは普通だが、この変わり身の早さは……」

「いいさ。命が懸かってるんだ。当たり前の反応だろ? 堪忍は無事長久の基というし」

「それは表面上でしょう。信用に値するかどうか……それに階級に貴族籍に煩い帝国貴族たちが、特殊部隊の裏切り者を許すとは思えない……帝国に残っているキリエの家族、親類を人質に取り、オセベリア王国の内部情報を流すように仕向けてくる可能性もあります」


 残地諜者となりえるか。


「確かにあり得るが、目の前での命乞いだ。受け入れる」

「……」


 すると、突然、ツアンは歌舞伎をやり始めた。目を寄り目にしている。


「……ツアンは、このキリエを信用できないと?」

「はい、今は信じられない。イモリザの声が煩いのもありますが」


 イモリザは初見で戦い、キリエに体が溶かされたからな、ツアンの頭の中で煩く喚いているのだろう。


「忠言、ありがとう。しかし、今回は、水清ければ魚棲まずの精神でいく」

「……女に親しみを抱き、その女に暗い殺意があろうが、受け止めてやろうという気概がある旦那らしい心得ですね」

「そういうこった。で、キリエ、お前の魔眼の力はどんな効果を持つんだ?」


 黙って聞いていたキリエへ視線を移す。


「防御能力のある玉、相手を溶かす効果の礫と、人物鑑定、弱っている相手の魂を取り込んで魔力を得る魂喰いもある」


 結構豊富だ。


「鑑定か、物に鑑定は可能か?」

「無理。鑑定も事細かく分かれているからあまり万能じゃない。あなたのように弾く人も居るし」


 なるほど。スロザの親父はかなり貴重なのかもしれない。


「人の心理、精神操作が可能とかはあるか?」

「……ないけど<心化物>、<精神破壊>、<洗脳>、<感応>とかあるのは知っている。フロルセイルで見たし、帝国でも使っている屑は知っている」


 洗脳……精神破壊とは怖すぎる。


「その帝国に家族と親類は?」

「いない。わたしはフロルセイル湖の西方サキュルーン王国に集団転移してきた元日本人。転移してきた者たちも……今はバラバラよ。途中で出会い共に帝国へ逃亡したタケとタマキも貴方に殺された。今回の戦で帝都に帰り報酬を得ていたら、他にも転移者、召喚者は多数居たから、家族、親類ができていたかもしれないけどね? 少なくとも、現時点では身寄りはいない」


 エヴァが彼女に触りながら話を聞けば詳細は分かると思うが……今はいない。そして外に出たら直でフランへ身柄を預けることになるだろう。


 だから、今は彼女の言葉を信じる他ない。


「……わかった。現時点では、信用しよう」


 キリエは俺の率直な言葉を聞いた瞬間、瞬きを繰り返し、


「……あなたの名前は教えてくれますか?」

「シュウヤだ」


 キリエはジッと白く濁った左目と黒色の瞳の右目で俺の顔を見つめてくる。

 信用という言葉が嬉しかったのかもしれない。


「旦那も罪深い男だ……」


 ツアンは溜め息。


「教会騎士様、わたしは罪深い男です。と懺悔が必要か?」

「いえ、旦那、そんな目付きで見ないでください」

「……何を話し合っているか分からないけど、わたしは助かるの?」

「助かるさ。しかし、ツアンが言うように帝国の追っ手、王国側の尋問が待っていると思うが」

「うん、リスクは承知」


 彼女は無駄に命を散らすより生きる道を選んだということだな。


「身柄はフランという赤髪の女に預けることになると思う。そして、口添えして命は助けてやろう」

「……ありがとう」


 そこで鎖を消失させる。

 床に落ちたキリエは小さい悲鳴を上げていた。

 大虎アーレイがキリエに近付いて猫パンチを当てている。


「ひぃぃぃ」


 先ほど仲間を食ったと教えていたせいか、彼女にトラウマを植えつけてしまったようだ。

 キリエは失禁して昏倒。少し色っぽい姿で倒れている。


「ニャァ?」

「アーレイ、猫パンチはもう止めだ。ヒュレミと一緒に陶器に戻れ」

「ニャ」

「ニャォ」


 二匹は俺の足元に来ると、その場で陶器の人形と化した。 


「ツアンも指に戻れ」

「了解」


 ツアンは全身が溶けるように身体が萎んでいく。

 小さくなると、黄金芋虫の姿となった。


「チュイチュイ♪」


 黄金芋虫イモリザ。

 彼女は可愛く鳴いてから、うねり起伏、くねくねと進んで軟体生物のように身体が伸びて右甲の部分にくっつく。

 そこからぐるりと掌側へ回ると、新しい指に変身していた。


 その新しい指がある腕で、アーレイとヒュレミの猫型の陶器人形を拾い、胸ベルトに仕舞う。

 気を失っているキリエの身体を持ち上げ、肩に優しく担いで仲間の下に戻っていった。


 彼女から尿の匂いが漂うが、我慢。


 俺は柱がある回廊を通り、床で死んでいる兵士たちの姿を見ながら血濡れた床を歩いた。


 砦で行われていた戦は終わったようだ。

 

 砦の居館が繋がる近辺は通らず、別棟が地続きに繋がり穴が空いていた外壁にある場所、皆が戦っていた内庭へ向かう。


 内庭に出て、ヘルメとエヴァが浮いていた壁に突き出た鼻型の出窓が見えてきたところで、


『粗方、片付けました。血獣隊の動きは血の奪い合いで連携が乱れたところがありましたが、選ばれし眷属たちとの連携も卒なくこなしました。そして、王国の兵士たちが騒いでいます』


 と、ヴィーネから連絡があったように内庭に出ると、あちらこちらで、王国兵士たちの勝ち鬨が響いてくる。

 負け戦と思い込んでいた王国の兵士たちは喜びを爆発させていた。


 そして、黒豹(ロロ)の周りは人集まりができている。


 黒豹(ロロ)は兵士たちから、撫で撫でとマッサージを受けて喜んでいた。

 頭をぶるぶる震わせて『そこをもっと掻いてニャ』という顔色を浮かべている。


 数本の触手も上方へ伸ばして湯気のマークを作るように踊らせていた。

 白髭もピンっと張って、すこぶる機嫌がよさそうな顔だ。


 そこに、ヘルメが水飛沫をあげながら近付いてくる。


「――閣下、主塔の外、城壁の外へ逃走中の敵に追撃を仕掛けますか?」

「いや、十分だ」

「分かりました。では、左目に戻ります」

「おう」


 左目にスパイラルして入り込んできた。


「ご主人様、お帰りなさい、フランは確保しています」

「ヴィーネもよくやった」

「はいっ」


 光沢が美しい銀髪が太陽の明かりでキラキラと輝いている。


「我等、血獣隊が一番に活躍した!」

「勝利です!」

「ううん、一番はロロ様!」

「確かに、惚れ惚れする機動だった。壁を走り魔法使いを翻弄する場面は、思わず、興奮して巨大化してしまった」

「あれね、ゴーレムを扱いながらも、その場面を見ていた」


 ミスティもママニの巨大化を見たか。


「ママニが興奮して敵兵をぶん殴ったところ? あれは突然だったから驚いた」


 ユイは刀を肩に掛けて、ママニの顔を見ながら語る。


「そうね、でも、ユイの美貌で相手が見惚れてから、そのユイが扱う凄い太刀技を見て逃げていく様は面白かった」


 ユイの技は確かに見てしまうよな。

 その見ちゃう行為が仇となり、ばっさりとやられてしまう野郎は過去に居たはずだ。


「ありがとう。レベッカも可憐な流れるような動きから正拳突きの連打はカッコよかったわよ。いつもの蒼炎の技も種類が増えていたし、近距離、遠距離ともこなせるのは、憧れちゃう」

「憧れる~? ふふ。分かってるじゃあない!」

「ん、調子に乗ってる」

「エヴァっ子だってさっき褒めてくれてたのに」

「さっきはさっき」

「ユイお姉様とレベッカお姉様はどちらも凄いですよ。特に、レベッカお姉様の武器は硬い重装歩兵を一撃で貫いてしまうんですから」


 サザーが犬耳をふりふりさせながら語る。


「サザーちゃん。特別にもふもふしてあげるからこっちにきなさい」

「え? レベッカ姉様、目が怖い」

「確かに蒼く燃えているわね……」


 ユイが呟く。


「ふふ、サザーちゃん。こっちに……」


 彼女はムントミー装備と似合う赤革の鎧と小さいタセットが付いたスカートを穿いている。

 そして、蒼炎に全身が包まれていく。


「え、それは」

「レベッカ、妹が怖がっているだろう。向こうへ行け」

「サザーちゃん怖がっていないわよね?」

「ハハ……ハイ」


 サザーはヴィーネの太腿に抱きついている。

 ヴィーネはサザーを持ち上げて胸前に抱っこしていた。


「……震えて怖がっているではないか」

「ヴィーネ姉様の柔らかいー」


 むむ! ヴィーネのおっぱいさんにサザーが埋もれている!


「……そう、そうなのね……皆、どうせ、行き着くところはおっぱいなのよ、ふん」


 いじけたレベッカは纏っていた蒼炎を薄くさせていく。


「レベッカ、その結論は早い」

「――何? また茶器がなんとか?」


 エヴァ並みに心を読んできた。


「……当たりだ」

「ふふ、ありがと。変なとこで優しさを見せるんだから」

「ん、シュウヤ、わたしも肩が凝って辛い」


 隠れ巨乳のエヴァさん。肩を上下に揺らしている。


「おう。揉んでやろう。肩もみ委員会の技も高レベルだ。期待していいぞ」

「肩といえば、シュウヤ。その肩の女性は?」


 エヴァが質問してきた。


「肩の女性は捕虜だ」

「捕虜……黒髪隊のことは、フランから少し話を聞いた」

「そっか、その黒髪隊のリーダーは強かったけど、倒せたよ」


 エヴァの隣にフランとミスティが居る。

 血長耳のキューレルも居た。


「シュウヤ。ありがとう」


 赤髪のフランが笑顔で礼を言ってきた。


「シュウヤ殿、あの黒髪を倒したのだな……さすがは噂に聞く槍使いだ」


 キューレルの双眸から尊敬の眼差しを感じられた。

 彼は片腕だけなので、今後の闇ギルドの戦いでハンデとなるだろうな。


「……無事に倒せたよ。それで、この女性は捕虜ということでフランに身柄を預ける。彼女の名はキリエ。俺は命を助けるとキリエと約束をしたから命は決して奪うな。反抗したのなら別だが……きつい尋問もなしだ。彼女が知る帝国の内情は貴重だろうから大切にな」


 キリエをフランに預けた。

 フランはキリエの両腕、両足を拘束。

 口も布で塞いでから、振り向く。


「……分かった。今回の仕事は、貴重どころではないのだけど……」

「……」


 俺は意味を込めてかぶりをふる。


「……ふ、分かった。何も言わない。だけどペルネーテに帰ったら、たっぷりと個人的(・・・)に礼をするから」


 彼女は笑みを浮かべてそんなことを言うと、拘束したキリエを馬に乗せている。

 自らも魔獣に乗り込んでいた。


「キューレル、ペルネーテに急ぎ戻るぞ」

「了解した」

「シュウヤ。またね」


 フランは魔獣に乗り込むと俺に向けて可愛らしくウィンクを繰り出す。

 そして、キリエを乗せた馬の手綱を片手で引き連れて、砦の入り口へ向けて進んでいく。

 片腕のキューレルが乗った魔獣もフランの後ろに続いた。

 血長耳の彼も、俺に対して丁寧に頭を下げていた。神獣に乗って帰れば直ぐだが、彼女たちは急ぐ様子だ。何か、事情があるのかもしれない。

 そこに、


「シュウヤ殿! ひさしぶりです」


 お供を多数連れたイケメンが話しかけてきた。

 彼は見たことがある。戦士の人だ。


「あ、貴方はルカ様?」

「はい。五層で火遊びが過ぎていたルカ・ゼン・サーザリオンです。この度は、第二砦を救っていただきありがとうございました。小さい砦とはいえ、落とされていたらオセベリア軍が挟撃される恐れもありました」

「そうでしたか……偶然とはいえ助太刀が重なりました」

「はは、わたしは多重に救われた形ですな。伯爵家として感謝の極み……」


 頭を下げてきた。

 俺もお返しに頭を下げる。

 ルカ様は頭を上げると、


「いきなりだが、サーザリオン伯爵家筆頭騎士長として正式にお迎えしたい」


 光栄だが、正直、フランを助けにきただけなので……。


「……いや、気持ちだけで結構。たまたまこの砦に知り合いが居ただけですから」

「そうおっしゃると思ってました。シュウヤ殿の気質は前回の件で学んだので十分理解しているつもりです。しかし、公爵様、王太子様がシュウヤ殿を放っておかれるとは思いませんが……」

「……答えは変わりません」

「はは、分かりました。では、もう一度、ありがとうございました。と、率直な気持ちを述べておきます。感謝です英雄殿!」

「ありがとうございました」

「「英雄殿!」」


 ルカさんの部下が言葉を連呼してくる。


「どうも」


 無難に頭を下げておいた。


「それじゃ、俺たちは帰ります。ルカ様、まだまだ戦は続くと思いますが頑張ってください」

「はい、これからが正念場。大騎士ガルキエフ殿が率いるホワイトナインの一隊と紅馬騎士団が奮闘している戦場へ戻るつもりです」

「そうですか。では――」


 ルカさんたちから眷属たちへ視線を移し、


「んじゃ、帰るか」

「ンン、にゃお」


 俺の言葉に反応した黒豹(ロロ)は兵士たちから逃げるように四肢を躍動させて戻ってきた。

 ごろごろと音を鳴らして、膝に頭を衝突させている。


 兵士たちに負けていられない。

 可愛い黒豹(ロロ)の喉元を入念に撫で撫でとマッサージしてあげていく。


「にゃん、にゃぁ」

「頑張ったみたいだな、ロロ。偉いぞ」

「ンン、にゃ」

「了解。ふふ、ロロちゃん、砦の兵士たちを魅了しちゃったみたいね」


 ユイも黒豹(ロロ)の喉元を撫で撫でしながら笑みを浮かべていた。


「ロロ様の触手が……」


 ヴィーネの腰に黒触手が巻き付いている。

 そのままピクピクと動いている鼻先の前にヴィーネを引き寄せていた。

 黒豹(ロロ)は、そういや、ヴィーネの匂いが好きだったな。


「あ、クルブル流の訓練があったけど……サボっちゃった」

「ん、サーニャさん怒ったら怖そうだけど、今度一緒に謝ってあげる」

「ふふ、ありがと」

「ついでに拳の技の見学をしたいから」

「え? エヴァも?」

「うん、夢中になってるレベッカを見ていたら興味が湧いた」


 魔導車椅子に乗りながら、細い手を前に突き出すエヴァ。


「いいわねぇ~若いって、わたしは帰ったら、書類を整頓しないと」


 眼鏡姿のミスティも十分若いと思うが……。


「わたしはお風呂に入りたい」

「そうか? 血の跡はないし、ユイの汗の匂いは好きだぞ」

「もうっ、スケベ」


 そんな呟く彼女たちを連れて、普通に砦から外に出た。

次話は18日の予定です。

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