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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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292/2112

二百九十一話 プランBが大好きな槍使い

2022年12月29日 修正

 

 神獣に乗った俺たちは海月(くらげ)がふわふわと漂う空を飛ぶ。

 女の膨らんだ胸の形の雲を抜けた――。


 眼下に広がるはペルネーテの大平原。


 巨大な猪の群れが駆けている地上の景色だ。

 ティラノサウルスのようなモンスターもいる。

 それらの景色を堪能しながら戦場へ向かった。


 迷宮都市の近隣地域だが、見知らぬ土地だ。

 そして、平原の名だが峡谷が多い……。


 さて、この辺りの筈だが……。

 <血鎖探訪(ブラッドダウジング)>の先端が差す方向は同じ。

 神獣ロロディーヌの背中を撫でてあげてから、旋回を促す。


 眼下の光景を眺めていると、見つけた! 

 白っぽい真珠めいた太陽の反射光と共に土煙がもうもうと立ち上る地図に記されていた砦。

 しかし……壁の一部が崩壊している。

 砦の外を囲む帝国の兵士たちが、矢と土魔法の礫、風魔法の塊を、崩落した壁の間から、砦の内部に送り込んでいた。


 砦から絶叫の声が、ここまで響く。

 血も飛び散っていた。だが、王国側も黙っていないようで、次々と矢を雨のように壁の外へと放っていた。

 矢の攻撃後、王国側の魔法使いの隊長が号令。

 風の魔法を砦の外へ飛ばしていく。

 砦を攻めようとしていた帝国兵は、逆に多数の矢と魔法の反撃を受けていた。

 一応、王国側の反撃は成功のようだ。

 しかし、壁の一部が崩落している現状は変わらない。

 このままだと砦内へ帝国歩兵が入り込むのは……。


 時間の問題か?


 と、思った矢先、帝国の重装歩兵に守られた先頭集団が矢と魔法の攻撃を防ぎながら砦の内部に突入していくのが見えた。

 雪崩を打つように帝国兵が砦の内部に侵入する。


 こりゃ、呑気に見てられない。


「……あそこね。わたしたちの存在は、敵も味方も気付いていないようだけど」


 砦の様子を見ながらレベッカが語る。


「砦についたら全員散開、王国側に参加だ。帝国兵を倒せ。俺が血鎖を用いてフランを探しながらフォローする。フランの安全を確保したら血文字で連絡をする。血獣隊はいつものようにママニの指揮で動け」

「畏まりました」

「「はい」」

「もう一度確認だ。第一にフランの安全確保は俺がやる。第二に、お前たちは敵兵を排除しながら王国側をフォロー。勿論、状況を把握しながら臨機応変に対応だ」

「「了解」」

「「分かりました」」


 よし、皆の顔を見て頷く。


「ロロ、あの砦の中へ向かえ」

「ンン、にゃあぁぁ――」


 その瞬間、神獣ロロディーヌは下降していく。

 砦内に到着した瞬間、各自、散開。

 俺はヴィーネを抱えながら跳躍。


『ヘルメも出ろ』

『はい』


 液体ヘルメは外に出ると一瞬で人型に変身。

 彼女は精霊らしい可憐な動きで全身から水飛沫を発生させながら、氷の繭を両手に生成し、上空へ浮かび上がる。


 二階の屋根上に飛び移っていた。

 両手に生成した氷の繭から礫を放ち始めている宵闇の水精霊ヘルメの隣には、同じく浮いている魔導車椅子に乗ったエヴァも居る。

 そんな浮いているエヴァは膝の上にミスティを乗せていた。


 守ると話していた通り、エヴァとミスティは一緒に行動するらしい。エヴァは、白銀宝箱で獲得した伝説級武器のサージロンの五つの鋼球を魔導車椅子の左右の位置に漂わせて展開させている。


 ミスティはその浮いている鋼球を興味深そうに見つめながら細い指先で、その球を突いていた。

 それを見ていたエヴァは、小声でミスティに話しているようだけど、聞き取れない。

 その間にヴィーネを降ろす。

 下から帝国兵が鉄槍を彼女たちへ投擲していく。


 しかし、エヴァの足元から出た紫魔力に捉えられて宙の位置で止まっている。


 エヴァの隣に居たヘルメは空中を駆けていた。

 そのまま下から攻撃してきた帝国兵たちへ向け、両手の氷繭から氷礫魔法を発動させていく。


 エヴァも宙に浮かぶ五つの鋼球を帝国兵の弓持ち小隊へ向かわせていた。

 弓持ちの小隊員の腹に鋼球が直撃。

 あれは鎧も意味がない。

 最初から胴体がなかったように爆発。


 帝国兵の下腹部が吹き飛んでいた。

 突き抜けた鋼球は地面に嵌りこんでいる。

 土煙も上がっていた。エヴァはその地面に埋まっているサージロンの鋼球を操作。

 振動を始めた鋼球たちは、何かに引っ張られるように勢いよく浮上するとエヴァの周りに戻っていった。


「――上だ、上の魔法使い共を狙え!」

「矢を射てぇ!」


 多数の帝国の弓持ち、魔法使い部隊たちの声だ。

 遠距離攻撃がエヴァたちに向かう。

 エヴァたちを脅威に思ったんだろう。


 そこに、ミスティの生み出した簡易ゴーレムが空中の位置で壁となって矢と魔法を受け止めていった。

 そのまま地響きを立て砦の内庭に着地。

 簡易ゴーレムに視線が集まる。


 浮いていたエヴァは左の方、ヘルメは右の方へ円を描くように飛んでいった。


「――にゃおおぉ」


 神獣ロロディーヌは黒豹タイプに変身。

 壁を横走り躍動する。

 崩落したところから侵入してきた帝国兵へ向けて無数の触手を繰り出していく。

 触手剣で帝国兵を突き刺して、砦内部から出てきた王国の兵たちを守る相棒は頼もしい。


 黒豹(ロロ)にとって帝国と王国の詳しい違いは分かってないだろうけど、指示されたことは忠実にこなす。


「新しい獣は我らの味方だぁぁぁ」

「おおお!」

「というか、獣使いはうちの部隊に居たか?」

「新手の援軍だろう」


 壁を器用に伝い走る黒豹(ロロ)の動きは王国兵士たちを歓喜させた。

 彼らから様々な賛辞の言葉が行き交う。


「ロロ様!」

「ロロちゃん、わたしも拳で――」


 レベッカが細かなステップワークを踏みながら、ジャハールを装着した右腕を真っ直ぐ伸ばす。

 見事な正拳突きを重装歩兵の胸元へ喰らわせていた。

 拳から伸びているジャハールの鋭い剣刃が、相手が手に持っていた鋼鉄斧の柄を弾き、胸元に帝国の凝った意匠が入った分厚い鋼鉄鎧を貫いている。

 突き刺した直後、ジャハールを引くと、金髪を靡かせながらスムーズにバックステップを行い間合いを取るレベッカ。


 こけていない、華麗な動きだ。

 そして、オーラのようなゆらゆらと揺れる蒼炎を身体に纏いながら左右へ白魚の手を伸ばし、指先からシャープな一対の蒼炎の槍を作り出す。


「――このエリアの血はわたしが貰う」


 レベッカはヴァンパイア系らしい小悪魔風の笑みを浮かべながら呟く。

 そのまま、ママニとビアが戦っている帝国兵へ蒼炎の槍を投擲し、兵士の頭と足に槍を喰らわせていた。


「ギャァ」


 兵士の叫び声は水の中に落ちたラジカセの如く萎んだ音を立て消えていた。

 原因は液体化したヘルメだ。

 倒れた兵士の口の中に潜り込んでいた。


 血ごと吸い取って殺している。


 しかし、レベッカ、やるじゃないか。 

 まだ訓練期間は短いのに、クルブル流拳術は彼女の力になっている。


 そこに、黒豹ロロの側で戦うフーが視界に入った。


 土魔法を唱えて円型の防御陣を構築。

 そこを基点にママニ、ビア、サザーが連携して帝国兵を倒し、屍を作り上げていく。


 その連携した血獣隊の動きに感心したユイが、


「――ふふ、お父さんの稽古が生かされている――」


 八双に似た構えから振り下された太刀。

 宙に残像を残す太刀筋――帝国兵たちが一人、二人と、首、腰、足、から血が迸り、地面に倒れゆく。


「ユイ姉さん! ボクも負けない!」

「素晴らしい太刀技、わたしもガドリセスで――」


 二人の凹凸剣士は鏡写しのように動きを揃えながら左右へ駆けて胴抜きを繰り出す。

 左右に居た、槍持ちの帝国兵の腹の半分を裂いて倒していた。


 サザーとヴィーネは呼吸が合っている。

 ヴィーネは妹たちと共闘している頃を思い出してそう。


 二階の屋根に乗ったり浮いたり、旋回中のエヴァの膝上に座るミスティも簡易ゴーレムを操作。

 簡易ゴーレムはフーが作り出した防壁を守るように第二の出城、もとい、動くミスティ丸の要塞と化して、強烈な鋼鉄右フックを重装歩兵の小隊に喰らわせて吹き飛ばす。


 重い一撃で敵の隊列を乱していた。


 そこからフーの防壁とミスティの簡易ゴーレムが柱となった防御型陣形が自然と構築された形となった。

 その中を血獣隊&選ばれし眷属たちが縦横無尽に暴れまわる構図となっていく。


 ――戦いやすそうだ。

 俺は<邪王の樹>で樹槍を作り、帝国兵に投擲を繰り返しながら味方のフォローを行いつつ、


「フラン! 何処に居る!」


 と、血鎖の後を追いながら、声を上げて探していた。 

 そのまま皆と少し離れ血鎖探訪が示す砦内の奥へ向かう。


 砦の内部は乱戦気味だ。

 様々な声が乱れて多重の剣撃が掻き消える。

 近寄る敵と王国兵を間違えないように気をつけながら、ダイザブロウバルドークの紅矛を目の前に迫った帝国兵の腹へ喰らわせた。


 紅矛にぶら下がる帝国兵を薙ぎ払ってから――柱が続く場所を進む。

 時には、ヴァンパイア系らしく柱の影から帝国兵を襲い<吸魂>を行いながらフランを探した。


 そこに、 


「――シュウヤじゃないか! まさか、シュウヤが助けにきてくれるとは――」


 あっさりと見つかった。<血鎖探訪>を解除。

 彼女は喋りながら、バスタードソードを使い華麗な剣捌きで一人、二人と帝国兵を切り伏せる。

 続いて、血塗れた刀身から血を飛ばすように、素早く右から左へバスタードソードを振り抜く。

 左から迫ったスケイルメイルを着た両手にカトラスを持つ帝国兵の首へそのバスタードソードの刃を吸い込ませていた。


 小気味よい音を立てながら敵の首を跳ねあげる。

 帝国兵の首から間欠泉のごとく血が噴き上がっていた。


 俺は勿論、瞬間的に<血道第一・開門>を意識。

 宙に噴き上がる血の全てを吸い込む。


「よかったよかった」


 血を吸い込みながら話しかけていた。

 彼女は赤髪の形が刃に切られたのか、形が変わり、身体も数箇所、切り傷を負っているがちゃんと生きている。


「喜んでいるところ悪いが状況はこの通り……プランBどころじゃない――」


 彼女は笑いながらバスタードソードを振るい駆けよってきた帝国兵を両断。

 壁を横走りしながら、


「そのようだが――」


 無造作に左へ伸ばし<刺突>を繰り出す。

 フランを突き刺そうとした槍兵の頭部を穿った。


「俺はプランBが大好きなんでね――」


 そう喋りながらも、フランの周りを巡る衛星のように身体を回転させ魔槍杖を横へ振るう。

 彼女の背後から迫っていた帝国兵の胴体へ紅斧刃を衝突させて吹き飛ばした。


「――ハハ、それは冒険者ランクBになったからか?」


 フランは正面から突っ込んできたフランベルジュを下段に構えた強そうな帝国兵に対して、半透明な左手を翳して対処。

 左腕の形が分かるぐらいに左腕の表面に浮かぶ無数の眼球が蠢く。

 その気持ち悪い左手から毒々しい魔力波を放出させていた。

 放出された魔力の波に包まれた相手は、目がぐるぐると回り、


「うあああおおお」


 混乱したのか叫びながら、フランベルジュを振り回し始めて仲間の帝国兵に衝突させていた。


 そのまま肩で息を始めたフランと背中合わせとなる。

 帝国兵に囲まれている状況は変わらない。


 血文字で『フラン確保完了』と皆に伝えてから、正面から突貫してきた帝国兵の槍矛を、紅斧刃で受けた。

 受けた魔槍杖バルドークを斜め前方に小さい円を描くように回転させる。

 帝国兵の槍を、穂先と螻蛄首で巻き込むように上方へ弾いてから、背中のフランから離れて、魔脚で前進。


 帝国兵との間合いを詰めてから、回転させていた魔槍杖バルドークの柄で相手の足裏を引っ掛けるように衝突させた。


「ぎゃぁ」


 足を折った帝国兵は前のめりに突っ伏す。

 その顔面へアーゼンブーツのトレースキックを喰らわせた。

 蹴りを喰らった帝国兵は仰け反り背骨が折れてひしゃげた。


 伸ばした足を元に戻しつつ――。

 片足の爪先を軸に回転しながらフランの背中に戻った。


「室内戦だというのに器用だな……」


 横目で見ていたらしい。

 それとも、フランの左手に蠢く眼は視界を共有しているのか? 

 

 と、考えながら、


「師匠のお陰だよ――」


 <鎖>を射出し――。

 左からきた四人の弓持ち帝国兵の頭部を<鎖>で仕留めてから、その体に<鎖>を絡めて、その死体を引き寄せた。


 血塗れた肉壁を生成。


「これで方向が限定される。各個撃破といこうか?」

「ふっ、了解した」


 向かうところのすべての敵を――。

 二人で薙ぎ倒しながら進むが、敵の数は減らない。

 フランは疲れた表情を見せたから、両手首の<鎖の因子マーク>から<鎖>を射出させて、バリアをイメージしていく。

 瞬く間に、フランを守るように<鎖>製の半円の防御層を作りあげた。


 重なった<鎖>と<鎖>には隙間が僅かにある。

 が、矢も風魔法も通さないはずだ。 

 この<鎖>の簡易的なカマクラのような防御層は、魔毒の女神ミセアの手鏡を使った特別な魔法も防いだ実績がある。


「そこで休んでいろ」


 ついでに、中級魔力回復薬ポーションをプレゼント。

 回復魔法も掛けてあげながら――。

 手足も冷えてはいけないと思い、毛布もついでに出して使ってもらった。


「……」


 フランは頬を紅く染めながら肩から毛布で身を包む。

 <鎖>で作り出した円形の防御陣は、出入り口用として、正面が空いていた。

 俺はその正面を塞ぐように立つ。

 近寄る帝国兵を倒し続けて、背後に一兵も通さずにフランを守り続けていった。

 そして、背後で休むフランに、


「……フラン、血長耳の連中はどうした?」

「途中で逸れた」

「そいつを探した方がフランの任務的にいいんだろ?」

「済まない。その通りだ。彼は敵の機密情報を握った状態だ。生きているならば守らねば……」

「そいつの名は?」

「キューレル、乱剣のキューレルと呼ばれている」

「聞いたことがある」

「血生臭い仕事もキューレルは多いと聞いた……」


 暗い顔をして話すフラン。

 回復はまだなのか? 彼女を凝視。

 どことなくやつれたようにも見えるが……。


「なぁ、さっきの左手のスキル、リスクのある技だったりしたのか?」

「……正解だ。もう少しで回復する」

「了解」


 仙魔術以上に胃が捩れる感覚とかだったり?

 或いは、魂、精神の犠牲を強いられる特殊スキルのせいかもしれない。

 そして、魔力回復スキル、体力回復スキル、精神力活性スキルといったスキルがないと、普通はこうなるわけだ。

 神王位のレーヴェが持っていた魔剣があれば……違うかもしれないが。


 昔サーマリアで出会い戦った槍使いアッシマーも回復スキルを持っていた。

 そんな事を考えながら血文字で皆に連絡。 


『……今、砦内部でフランの回復待ちだ。王国兵を守りながら敵の殲滅を続けろ』


 血文字でメッセージをやり取りしながら、暫し時が経つ。

 帝国兵の死骸が積み重なって俺たちの前に兵士たちが現れなくなったところで、


「お待たせ、行こうか」


 フランの顔色は元に戻っていた。

 顔に付着した返り血が化粧のように見える。


「……それでキューレルと別れた場所、または、行きそうな場所は?」

「こっちだ」


 フランと共に足早にその場所に向かう。

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