二百七十三話 迷宮の主の黒髪の女魔術師
2022/10/07 修正
2022/10/20 21:49 加筆
◇◆◇◆
黒髪の女性は、大きな鏡に映し出されている映像を見て、溜め息をついた。
その女性の髪形は前髪が耳に流れたクラシカルな髪形。
太い眉に切れ長な目。鼻筋と唇は小さい。顎は小さい三角。
可愛らしい顔だろう。格好は魔術師系統の茶色のローブを身に纏っていた。
その黒髪の女性は鏡を見ながら、
「この分だと、迷宮周りの斥候ゴブリンと簡易スライムたちは全滅したみたいね……もう一階層に突入されている」
そう暗い雰囲気を醸しだしながら語る。すると、洞窟の隙間からスライムが現れ、
「ご主人様~古竜様は来られないようです」
スライムの報告を聞いた黒髪の女性は、ハッキリとした沈痛な色を表情に出しつつ、
「えぇ、そんなァ……」
と、発言。スライムの報告を聞いて嘆く黒髪の女性。
スライムのスラ吉に対して、『慰めてほしい』とでもいうようにスライムを眺めていた。スライムのスラ吉は、黒髪の女魔術師のことを心配し、
「ご主人様……」
と呟く。黒髪の女魔術師は微笑んでから瞳に力を取り戻し、頭部を左右に振ってからスライムを見て、
「……スラ吉、報告ありがとう。持ち場に戻っていいわ」
「はーい、ソジュー。ボクねー役に立った!」
スラ吉は主人に褒められて喜ぶと、黒髪の女性の傍に控えている他の側近たちと会話を始めた。女魔術師の黒髪の女性はスラ吉と己の部下たちを見て、
「古竜様はいないことが多いから仕方がない。危機は危機だけど、わたしたちは、なんとかここまで生き延びてきたのだから、ね! 最後の最後まで粘ってやるんだから! その対策を考えないと……もう一度情報を整理しましょう」
真面目にそう語りかける。そして、目の前の大きい鏡に映っている一階の状況を確認。
「武装している魔人もいるのね……千年帝国ハザーンの連中! この規模だと、軍団長も来ているのかもしれない……」
表情が青ざめている黒髪の女魔術師がそう分析。
その黒髪の女性の魔術師が、迷宮一階の防御用に配置した蛾型モンスター、灰牙狼型のモンスターたちが、ハザーン帝国のモンスターたちによって一方的に蹂躙されていく光景が大きい鏡に映し出されていた。
黒髪の女性は、魔術師としての立場で……。
ゲロナスと違い魔人帝国ハザーンの軍は精強。
わたしの一階に設置したモンスターでは歯が立たないわね。と思考しつつ、
「一階のモンスターでは抵抗が無理なのは分かっている。肝心なのは二階層。落とし穴とつり橋。この罠のコンボから騎士スラと侍スラ子の攻撃からの必勝パターンが要。今まで通りなら、そのエリアでモンスターの大半は仕留められるはずよ! でも、問題は軍団長……そのコンボ攻撃でも軍団長の場合は止められないかもしれない」
「ご主人様、私が前線にでましょうか?」
黒髪の女魔術師を、ご主人様と呼んだのは、黒マントを羽織る血色の骨騎士だ。
四本の骨の腕を胸に当てながら頭部を下げている。
「そうね……ミレイ。でも、まだそのタイミングではないわ」
「分かりました」
頭を下げた血骨騎士ミレイ。骨の腕を下げた。
腰の剣帯には四つの骨剣がぶら下がっている。
このミレイ、今は骨騎士の姿だが、元々は十二支族ハルゼルマ家の<筆頭従者>の一人ヴァンパイアロードだった女性だ。
世界を放浪していた吸血鬼ロードのミレイ。
ミレイ・ハルゼルマとわざわざ名乗っていた。
ミレイには深い歴史がある。
ゴルディクス大砂漠と隣接したエイハブラ平原とゼルビア山脈の近くの、この迷宮に侵入したことで<筆頭従者>の吸血鬼の歴史は幕を閉じたが……紆余曲折の後、ミレイは迷宮核にて様々な物と融合され『血骨重魂騎士』という未知種に生まれ変わっていた。
その証拠に、血の骨鎧の胸から墨色の心臓のような立体波紋が浮き上がっている。秩序を持った血の循環と律動が起きている円環の心臓。その墨色の心臓から魔力の波紋が周囲に溢れていた。
それは呼吸を表すように薄く濃く点滅を繰り返す。
「ミレイ……血に飢えているの?」
そう血骨騎士に質問しているのは、黒髪の女性の魔術師ではない。 スラ吉と会話をしていた片腕と脳で構成された特異な生命体からの発言だ。見た目は、妖怪や傘おばけを連想させる姿で、右腕の肩の上に脳が繋がっている。
血骨騎士ミレイは「ソジュ、わかりきったことを」と片腕と脳だけの生命体をソジュと呼ぶ。ソジュは、
「いつもより敵の数が多いし、血が沢山生まれているからね」
異質な怪物のソジュは、片腕の掌に裂けた口を持つ。
その掌の口から不気味な声が響く。
「……そんなことより、その〝頭〟を生かしてハザーンの対策を考えろ」
「もう司令室の前に幻惑の森は設置済み。それに、前回と同様に貴女が前線に出るのかと思って、ここに〝手〟を運んだのだけど?」
「そうであったか。だが、ご主人様が事前に仰られたように、私は前に出ないぞ」
「……指示には従う。でも、やっぱりわたしの幻惑を使っての、戦力集中が全てだと思うのだけどぉ」
ぷかぷかと浮くソジュは胴体と思われる腕を上方へ動かした。脳が下に移動し、腕が上に、掌の裂けた口から小さい嗤い声を漏らしている。
その二人の側近の会話を聞いていた黒髪の女魔術師は、
「……貴女たちは、この三階の守護者で司令室とわたしを守る要でもある。同時に最強の戦力だから使い所は重要なの」
「ソジュは不満があるようだが、私はご主人様の判断が正しいと考える」
「わたしは前と同じように……スラ子たちがいる二階層での総力戦を希望します」
「……総力戦の判断はまだ早い。今回も敵には軍団長クラスがいるから。その軍団長が前に出た時が勝負」
「だから、時間稼ぎ戦術を取る」
黒髪の女魔術師はそう発言し、大きな鏡へと、切れ長の目を向けていた。胸元が開いたローブを左右へ広げた。
右腕の篭手のようなアイテムボックスから、左手で魔線と繋がる薄い鋼板を取り出す。
その薄い鋼板はディスプレイ型端末。
表面には魔力量、魔石数、魂数、迷宮核、などの細かな数値がグラフで表示されている。
黒髪の女魔術師はディスプレイに映し出されているオブジェクトを細い指でタッチしドラッグを行いながら操作を始める。
薄い鋼板に表示されている情報と大きい鏡に映し出されている情報はリンクし、大きい鏡と同じ光景が薄い鋼板の上にも映し出されていた。
端末を操作している黒髪の女魔術師は焦りが顔に出ていたが、細い指の動作は落ち着いていた。
爪はミステリアスカラーで染まっている。
その指が触れている端末のディスプレイには、狼のグラフィックの下に、消費魔力、はいorいいえの項目があり、『はい』を指でタッチして選択していた。
すると、大きい鏡に灰牙狼の姿が立体表示される。
その瞬間、一階の壁に不可解な次元穴が開き、そこから大きい鏡に映っているモンスターと同じ姿の狼型モンスターが大量に現れた。
突如現れた狼型モンスターの軍団。
バッタの下半身と気色悪い人の上半身を持つモンスターは驚いて転倒していた。
しかし、杖を持った魔法使いの集団から、風と火の魔法が続けざまにその出現した狼型モンスターに浴びせられていく。
一階層に突然登場した灰牙狼はあっけなく倒されていった。
女魔術師は気にせず、端末を操作。
小型のゴブリンも違う次元穴から出現させていく。
その新しく出現した小型のゴブリンたちもハザーンの兵士たちにより簡単に倒されるが、女魔術師が時間稼ぎと語っていたように、時は確実に過ぎていった。
そして、数時間が経ったところで巨大鏡から警告音が響く。
巨大鏡に『二階に侵入されました』と文字も表示されていた。
「ついに二階に……」
女魔術師は巨大鏡を見ながら呟く。
二階の落とし穴ゾーンにハザーン帝国のモンスターが突入していく姿が映る。
一階の女魔術の配下である迷宮モンスターを易々と屠ってきた多数の魔人千年帝国ハザーンに所属する大型ゴブリンたち。
だが、その見た目通りの力任せな思考を持ち、思考力、判断力が欠如しているモンスターたちに変わりはない。
彼らは目の前にある不自然な窪みに気付かない。
そのままハザーンが誇る大型ゴブリンたちは落とし穴の上を通りトラップに掛かる。
断末魔の声を上げて叫びながら落下していった。
落とし穴の下は、剣山。
落下した大型ゴブリンたちは、その剣山に突き刺さり串刺しとなって死んでいく。
しかし、バッタ型モンスターは落とし穴を回避するように飛び越えて先を進んでいた。
「我らが一番乗りだ、奥へ向かう」
「おおぉ――」
魔人千年帝国ハザーンが合成させて誕生させた下半身がバッタで上半身は人のモンスター。
当然、人と同じように頭があり口がある。
その口から周りの味方へ言い聞かせるように気合いの声をあげていた。
そのタイミングで、女魔術師の有能な配下の一つ『騎士スラ』が動く。
『騎士スラ』は槍を両手に持ったスライムの身体を持つ人型の槍使いだ。
その騎士スラが、飛びながら気合い声を発しているバッタ型モンスターたち目掛けて持っていた槍を<投擲>していた。
バッタ型のモンスターはその投擲された槍に胴体を貫かれて壁に運ばれる。壁に衝突していた。
騎士スラは、その結果を見ず、次々と槍の<投擲>を行う。
壁にバッタ型の彫刻が作られていった。
更に、女魔術師の有能な配下の一つ『侍スラ子』こと、侍の兜を被るスライム状の人型が、自身のスライム腕を長細いカッターの刃に変形させて前進。
侍スラ子は機敏に動きながら、落とし穴に落ちてもまだ息のあったモンスターの首を刎ねて止めをさしている。
そこで、落とし穴を回避していた豚の頭部を持った黒毛に包まれたゴリラ姿のモンスターとスラ子は遭遇した。
「ブォボォッ!」
豚ゴリラは興奮したのか声をあげた。
「……」
侍スラ子は無言で、カッター腕を振るいながら豚ゴリラの横を駆け抜け、太い黒毛に包まれた胴体を一閃。
豚ゴリラの胴体を切り伏せていた。
侍スラ子の名の通り、ゼリー質の腕をカッター状の剣刃に変化させているスライム。
彼女の胸元はメロンのように膨らんで揺れているので、豚の頭部を持ったゴリラ姿のモンスターも、一瞬、その巨乳に気を取られていたようだ。
「うんうん、いい動き。騎士スラと侍スラ子たちならいけそう!」
「強い、ボクは突進だけだからなぁー」
「スラ吉だって、その突進は充分凄いわよ。古竜様が気に入るだけはあるわ! でも、今頑張っているあの子たちは、わたしの魂の欠片と魔石を沢山注いで進化を促して育ててきた生え抜きだからね」
大きい鏡が映し出されている配下たちの行動を見て、黒髪の女性は喜んでいた。
そうした二階層の激戦は続いて時間は過ぎていく。
◇◇◇◇
朝日が昇り地表の明るさが迷宮の出入り口を照らす。
そんな日の明かりも、この迷宮を巡る争いに関係はなく、迷宮一階層、二階層での戦いは続いている。
騎士スラ、侍スラは昼夜をわかたぬハザーンの猛攻により、二階層の奥の空間で身体に傷を負っていた。
しかしも、迷宮の主の女魔術師から簡易スライム、蛾型モンスター、兵士型ゴブリンの増援を受けて、なんとかハザーンのモンスターたちの猛攻を押さえ、一匹たりとも三階層へ突入させずに踏みとどまっていた。
しかし、もう落とし穴は全て埋まり、吊り橋エリアは無視されている。
事態の推移をおろおろと気を揉みながら見ている女魔術師。
彼女の表情が物語っているように、今まで越えられたことがない二階層が突破されるのは、もう時間の問題かと思われた……その時――。
迷宮の入り口付近で、高・古代竜サジハリの姿が巨大鏡に映る。
「やったぁぁっ! 古竜様が来てくれた! やはり持つべき友は、偉大な竜よね?」
「はい、ご主人様!」
「スラ吉を送っておいて正解よっ」
女魔術師は余程に嬉しいらしく、スラ吉を抱きかかえて、柔らかいスライム肌を味わうように頬ずりを行う。
「ご主人様ぁぁ……痛い」
「ふふー」
一階の出入り口付近での戦いは静かになる。
女魔術師は、当然、古竜が後詰めの部隊、今まで姿を見せていなかった軍団長もやってくれたと判断していた。
「後は一階、二階に侵入しているモンスターのみね」
「ぬぬ?」
「あれれ……古竜様以外にもいるようだけど……」
腕と脳のソジュは、脳の一部を変化させる。
魔眼のような双眸を、脳の表面に幾つも作りだして大きな鏡を見つめていたが……その様子は、いつもの分析好きのソジュではない。
明らかに狼狽していた。
その様子に気付いた黒髪の女性は、抱き締めていたスラ吉を離してソジュの視線の先に映る大きな鏡を見る。
「あれ、もう一人……え?」
暫し、呆然となる黒髪の女性。
大きな鏡には、三本の槍と光刀を使いこなす鬼神のような機動力で無双している槍使いと、大きな黒豹が映っていた。
同じ黒髪!? 腕が三つ? 魔力の手? どういうことなの!
顔は好み……黒髪の女性は、夜の瞳を持つ槍使いを直に見たわけではないが、その芸術染みた槍使いの妙技を見て虜になっていた。
紫色と暗緑色が基調の鎧が似合うことも拍車をかけている。
その槍使いの傍にいる黒豹も美しく凛々しい。
黒いビロードのような毛を身に纏う洗練された黒き獣。
黒き獣の首元から四つの触手が生えている。
その触手の先端から白銀色の骨が飛び出ていた。
黒豹は眼を鋭くさせると体から無数の触手を孔雀の羽のごとく拡げ、それらの触手をモンスターに向かわせる。
黒髪の女魔術師は、その黒豹の動きに驚きを示す。黒豹は、魔族の足に触手を絡ませ転ばせていた。
次に近くの大型ゴブリンの体に触手の骨剣を突き刺して倒す。
と、次の標的の魔族の足に触手を絡ませる。
そのまま触手を収斂させるように魔族を引っ張り持ち上げるや否や他の魔族たちが集合している場所へと、その足を絡ませた魔族を放り投げていた。
複数の魔族と魔族が衝突し、複数の魔族たちを一度に転倒させている。
刹那、黒豹は体から無数の触手を、転ばせた魔族たちへと、ガトリングガンを彷彿とさせる勢いで向かわせていった。
伸縮自在な触手の一つ一つの先端から骨剣が飛び出ていく。
その骨剣が刺さりまくりの魔族の体は一瞬で穴だらけとなって倒れた。
その圧倒的な攻撃力に満足したような黒豹は壁際の洞窟を走り始めると、走りながら、首下から斜め前方に伸ばした触手から出た骨剣で大型のモンスター腹を突き刺し、直ぐに触手骨剣を抜き、足を突き刺しては、その刺した足に触手を絡ませて勢いよく触手を収斂させて、大型モンスターを引っ張るように前掛かりに転倒させていた。
大型モンスターを転倒させた触手は潰れたように地面と大型モンスターに挟まれていたが、頑丈な触手は潰れていない。黒豹は、そのゴムのようで蜘蛛糸の数百倍は硬度を持つと分かる触手を体に収斂させる。
触手骨剣が深く突き刺さっていた大型のモンスターも同時に黒豹の下に運ばれていく。
足下に触手骨剣と共に引き寄せた大型モンスターに頭部を向けた黒豹は、その大型のモンスターの左右に割れている頭部の匂いをクンクンと嗅いでから口を拡げ、その頭部に噛み付く、ムシャムシャと食べていた。
黒豹は大型モンスターの頭部を食べ終わると、己の頭部を上向かせて咆哮を発していた。
すると、後ろに眼でもあるかのように、背後へと跳躍。
槍のような一対の後ろ脚が、下半身がバッタのモンスターの胸へ伸び、その胸を突き破る。
黒豹はバッタのモンスターの胸元を貫いた血塗れの後ろ脚を引き戻すように前進。そのまま猫がよくやる動作のように、後ろ脚を震わせる。脚についたゴミを取るようにブルブルを後ろ脚を振るっていく。
後ろ脚にこびり付いていた死骸の血肉を周囲に吹き飛ばしていた。
黒豹の凄まじい活躍の傍で戦っている槍使いも鬼神のような動きを繰り返していた。
両手に持つ槍と、第三の腕が持つ光刀と手首から突如として発生している<鎖>を使う。
一階の洞窟を侵入していた魔人千年帝国ハザーンのモンスターと、その兵士たちを蹂躙していく槍使い。
槍使いは、尋常ではない速度と急激に速度を落とす緩急を活かした槍武術で、標的を正確に駆逐する。
無双の槍武術を駆使しながら、一階を駆けている槍使いの姿を、大きい鏡にズームアップされて映し出されていた。
「黒豹も凄い、けど、この黒髪の槍使いも……素敵」
胸が自然と高鳴る。
……どうしよう。見てるだけなのに。
女魔術師の黒髪の女性は、自分の胸を手で押さえていた。
「なんだァ? あの槍使い、異質すぎる」
「うん。槍使いは、あたしの幻視で見られない。見える範囲だと、魔力が不自然に足に集まったり腕に集まったり……うあぁ、ナ二アレ、魔力操作が常人ではない……武具も普通ではない。敵の軍団長ではないことが救い? あ、魔人帝国と対決している魔界ゼブドラ側の使徒かもしれない」
脳と片腕だけのソジュが饒舌に語る。
「そういえば……古竜様が、槍を使う客のことを仰っていました。ご主人様のことを見たいと」
スラ吉が古竜との会話から、そのことを皆に告げる。
黒髪の女魔術師は、ただ、黙って頷き……。
「カッコイイ……」
と、短く呟いていた。
わたしを見たいの? 嬉しい! 仲良くしたい! あんな黒髪の男子なんてここんとこずっと見てないし!
あぁぁ……ここんとこじゃない、この世界に来てからずっとじゃないの……あんなカッコよくて強い男子が古竜様とお友達?
信じられない! しかも、しかもよっ、わたしの危機を助けに来てくれる展開? こんな王子様風の登場なんて……。
もうこんな機会は二度とないかもしれない。いや、確実にない。ひゃくぱーない。
あぁぁ、このままいけば、強い戦国武将を感じさせる彼とお話ができる? ふふふ、よーし、ぜったい、この機会は逃がさないわよ、こんな訳の分からない戦いに巻き込まれてからというもの、ずっと鬱憤は溜まってるんだからね!
腕が三本? そんなの構わないわ。
近くに腕と脳が合体した変な部下のソジュもいるし。
なにより、スライムだらけだし、スラちゃんたちは可愛いけど、やっぱり清涼剤のイケメン男子は絶対必要なのよ。うん、確信した。
緊張するけどお話をしてもらおう……できれば友達になってほしい……。
その、できれば、あの槍を持っている手に触れてみたいな、ふふ。
と、黒髪の女魔術師は、封印していた女としての気持ちを思い出し勝手に興奮しているのであった。
「ご主人様が……今まで見せたことのない笑みを……美しき女の顔だ。私も遥か昔、血を吸う化け物になる前に好きな男に対してあんな笑顔を浮かべていたのだろうか」
「魔眼の魅了にでも掛かったような顔ね……ご主人様が心配だわ。って、骨頭のミレイまで顔を赤くしているし」
「美しい頬が赤く染まっています! ボクの知り合いのスラ赤君と同じ色ー」
黒髪の女性の魔術師は死線を共に潜り抜けてきた部下の言葉は聞いていなかった。大きい鏡に近付いて、目を見開きながら槍使いの動きを追っている。
ところが、天井に移動していたその槍使いが、大きな鏡を突如として睨む。
槍使いは、闇の杭のような物体を射出しては、一瞬で、画面は真っ暗となっていた。
大きな鏡の映像は二階に移り変わっている。
「え、あの槍使いは、一階の監視に気付いたの? 微弱な魔力の波動でも見えているのかしら? なんという感覚の鋭さ。でも、警戒させてしまったかも……どうしよう」
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発売日を跨いで2月23日まで連続0時更新を予定してます。
HJノベルス様より「槍使いと、黒猫。1」
2017年2月22日(水)発売予定です。各書店様、Amazon様で予約出来ます。




