二百六十四話 魚人海賊【油貝ミグーン】
2022/04/30 16:42 修正
空中を飛翔しながら着地して、戻ってきたヘルメ。
その彼女が疑問顔を浮かべながら、
「――閣下は追わないのですか?」
俺が追わないでも大丈夫だろう。
「今はな、ヴィーネ、ルル、ララ、ロバートが頑張るだろう」
「彼女たちに活躍の機会を与えるのですね」
「そうとも言える。しかし、眷属たちが来る前に粗方、片付いてしまった」
「大丈夫です。まだ船が残ってます」
「船の戦いか。なら、次は見学かな。ヘルメも目に戻ってこい」
「はい」
常闇の水精霊ヘルメは頭部を下げて体を崩すように液体と化した。
水溜り状態の液体ヘルメの表面が波を打つと、中央部が膨れて拳を模った。その拳の形を長細く変化させながら放物線を宙に描くと、俺の左目に収まってくる。
目薬を差したような気分の左目。
その左目の瞼を、何回も瞬きさせていると……。
倉庫の屋根上からユイとカルードが降りてきた。
「やっぱり、もう終わっちゃったみたいね」
ユイは残念そうに、神鬼・霊風の刀を鞘に戻す。
「マイロードの役に立てず、残念です……」
カルードも魚人の亡骸を確認しながら呟いた。
「すまん。最初は普通に交渉をして、長引かせようとしたんだけどね」
「それで、魚人たちはシュウヤの持つエレメントスタッフが目的だったの?」
「いや、多分、違うと思う。【海王ホーネット】ではなかった。ガゼルジャン魚人海賊【油貝ミグーン】と名乗っていたな」
ユイは綺麗な片眉を、細い指で掻きながら、
「へぇ、違う海賊か。海光都市も色々と魚人同士のいざこざがありそうね」
「だろうな」
そのタイミングで、
「シュウヤー、この惨状だと終わったようね」
「ん、戦いは終わった?」
レベッカとエヴァだ。
「まだ船にいると思うが、この辺の戦いは終わった」
「そっか。ウォーターエレメントスタッフに関係するものだったの?」
レベッカはユイと同じことを聞いてきた。
「いや、直接は関係ないようだ。海光都市からきた違う海賊だった」
「ん、違う海賊?」
トンファーを仕舞いながらエヴァが聞いてくる。
「そそ、【梟の牙】との盟約が消えた余波が、海の向こうにある海光都市でも起きているのかもしれない」
「シュウヤの敵なら、どんな敵だろうと、わたしたちの敵――」
エヴァは絵にも描けない美しい微笑を作ってから、魔導車椅子を変形させた。
綺麗な金属足の状態で抱き着いてきた。
「にゃおん」
黒猫は鳴いてから俺の肩に戻るのかと思ったが、エヴァの踝の横に付いている車輪へと頬を擦りつける作業を行っている。
車輪に匂いをつけて縄張りを主張、拡大を狙っているのか?
一心不乱に擦っている黒猫の姿を見ながら、エヴァの背中を撫でていった。
「……そうだな、皆の敵なら、俺の敵だ」
「ん」
エヴァは顔を上げて天使の微笑を見せた。
もっと抱きしめてあげたいが、エヴァの両肩を持ち、身体を離す。
「――メルたちに、この港近辺の倉庫街を見てもらっている」
「うん。他にも魚人たちがいるかもしれない。どこかに隠れている魚人が――」
「にゃ」
黒猫はレベッカの言葉に同意したのか、匂いつけ作業を中断。
レベッカの近くに移動すると、触手の先をレベッカが向けている倉庫の扉へ向けて、尻尾をふりふりさせていく。
「ううう、ロロちゃん! その悩ましい動きは危険よっ! 敵どころじゃなくなるっ――」
「にゃあ?」
黒猫は背後からレベッカの抱き着き攻撃を受けていた。
あっという間に胸前に抱っこされる黒猫。
両前足をモミモミされながら前片足を裏返され、柔らかそうな肉球へふがふがと匂いを嗅ぐように肉球へキスされていた。
最後に柔らかい内腹へ彼女は顔を埋めていく。
黒猫もまんざらじゃない。
おっぴろげの全開モード。
ゆったりとリラックスしていた。
「あはは、ロロもでれーんと、身体を伸ばしているし」
「ん、マッサージされて喜んでる」
「綺麗な金髪のレベッカに抱っこされているロロちゃん。何か絵になるわね」
ユイがぼそっと褒めていた。
「ふふっ、聞こえたわよ。ユイっ、綺麗だなんて嬉しいことをいってくれるじゃない! 今度、お菓子をおごってあげる」
黒猫の内腹に顔を埋めていたレベッカが、ガバッと上向かせて、ユイを見る。
彼女の口元には黒猫から抜けた黒毛が幾つもついていた。
「あ、う、うん、ありがと」
ユイはレベッカの興奮した顔に少し圧倒されながらも、微妙に頷く。
「ロロちゃん、ふさふさな癒しをくれて、ありがとね」
レベッカは黒猫にお礼を言いながら地面に降ろす。
「にゃぁ」
黒猫は、『別にいいニャ』というようにレベッカの周りを楽し気に回っている。
そこにヴィーネが戻ってきた。
「――ご主人様、魚人たちは船内に逃げ込みました。ルル、ララ、ロバートが【月の残骸】を率いて船に乗り込もうとしているところです」
「そっか、ご苦労。やはり船か、さっきもそれらしいことを話していた。ということで、俺たちも混ざる?」
「うん」
レベッカは瞳に蒼炎を灯し頷く。
「ん、行く」
エヴァも両手からトンファーを伸ばしやる気を示す。
「最初の切り込みは、わたし担当ね」
「二番手はお任せを」
ユイとカルードも新しい刀を握りながら話していた。
「にゃおん」
俺たちの話を聞いていた黒猫。
超・巨大という感じではないが……。
いつもの馬獅子型よりも少しだけ姿を大きくさせて、より神獣を感じさせる凛々しい姿となっていた。
首元から均等に触手たちを生やしている。
早速、その触手たちで、俺たちの体を絡ませて掴むと、自身の背中に乗せてくれた。
エヴァは馬獅子型の後頭部の位置。特等席だ。
金属足なので跨いだ状態だと思われる。
柔らかそうな黒毛が彼女の背中辺りまで包んでいるので、エヴァのお尻は見えない。
「――ふふっ、ロロちゃんいつもありがとう」
エヴァは巨大な頭の上を撫でている。
「ン、にゃぁー、にゃおん」
馬獅子型黒猫は『気持ちいいにゃぁ』風に鳴いていると思われる。
「……マイロード」
ロロの可愛い声反対するように渋く呟くカルード。
独りぽつねんと佇むカルードの姿がそこにあった。
忘れていた訳じゃないのだろうが、神獣ロロディーヌは触手を伸ばさなかった。
カルードは残念そうな表情を浮かべているが、ここは厳しく、
「カルード、お前の<従者長>の力と足なら余裕だろう。ついてこい」
「はいっ、マイロード!」
直接、カルードへ声をかけてやると、カルードは頬を朱色に染めて、機嫌を直してくれた。
俺の前に座るヴィーネの背中を見ながら、
「ヴィーネ、相棒を誘導してやってくれ」
「はい。こちらです」
ヴィーネが指示を出し、神獣ロロディーヌが進む。
すぐに、倉庫街からハイム川に連なる港が視界に入った。
板が敷き詰められた場所に変わる。
足もとから板が軋む響く音が大きくなる中……。
魚人たちが犇めいて乗っているキャラック船の姿も見えてきた。
その船に乗り込もうとしているロバートが、狭いタラップの上で魚人を切り伏せている姿も確認できる。
「ロロ、あそこに飛んで乗り込むとして、最初は手を出すな。ヴィーネもな」
「分かりました」
「にゃ」
港の手前にまで進んだところで、
「――飛んでいいぞ、右甲板の上辺りを希望」
「にゃお――」
指示をちゃんと聞いた神獣ロロディーヌ。
港の端からキャラックの船の上部に飛び乗ってくれた。
「怪物だぁぁぁぁ」
「糞ッ、乗り込まれたぞーー」
船に飛び乗った俺たちは神獣ロロディーヌから飛び降りた。
ロロディーヌも馬獅子と似た姿から黒豹の姿へと体を縮ませると指示を守る。
何もせず俺の背後に隠れるように移動してきた。
少し遅れて、カルードも船の端に着地。
「準備はしておきます」
とヴィーネがカドリセスの剣を抜き鞘も反対の手に持つ。
剣と鞘を胸元でクロスさせながら、俺を守るように左前に立つとガドリセスから僅かに漏れ出たような炎の膜を体に纏っていた。
そんな俺たちの様子を見ていた甲板の真ん中に集結している魚人たちが、
「クソッ、拿捕する気か……船長が戻ってこないが……」
「お頭、副船長も全員がやられてしまいました」
「船長がやられただと?……なら【油貝ミグーン】で残っているのは俺とロックの旦那だけじゃねぇか。海光都市で一暴れできたと思ったらこれだ、ついてねぇ」
「ブエさん、どうしやすか」
「どうもこうもねぇ――」
魚人たちは混乱しながらも海賊らしいカトラス系の反った剣を片手に持ち、近付いてくる。
「ミグーンの意地を見せてやるっ、上部に居座っている奴等を一掃するぞ、掛かれ!」
「おおおお――」
「やらせないわよ――」
海賊たちの気合を一閃するような声を発したのはユイだ。
日本刀の神鬼・霊風を引き抜きながら甲板を蹴り、前傾姿勢で走るユイ。
肩に抱えるように持った美しい波紋の魔刀を身をコンパクトに畳ませながら振り下げようとしていた。
魔刀の波紋の表面に闇の靄が纏い付く。
その闇の靄を纏った神鬼・霊風が魚人の肩口へ斜めに吸い込まれる。ざっくりと胸まで薙ぎ、返す刀で、左から迫った魚人の頸を突いて、首エラを横へ引き斬りながら仕留めていた。
シャワーのような血飛沫がユイの顔に掛かる。
仕留められた二名の魚人海賊は、斬られ突かれた後から、二重、三重の黒い刀傷を何処からともなく受けて、何も発することなく、甲板上に崩れ落ちた。
ユイはそのまま船の端へ軽々と飛び上がり、狭い縁を白い綿毛の柳絮が飛ぶように走り抜けながら近くにいた魚人たちを連続で斬り伏せていく。
『ユイの動きが速くなってますね』
『あぁ、あれは常人な相手じゃ、対処できないだろうな』
ヘルメが素直に褒めていた。
「ユイ、わたしも続きます」
娘の華麗な剣術に、カルードも影響を受けたのか、両刃刀の幻鷺を引き抜く。
片手にもう一つの幻鷺を発生させると、ユイと瓜二つの前傾姿勢の二刀流のスタイルで、その娘のフォローを行うように、走り出す。
甲板にいる魚人たちへ斬り掛かった。
「わたしもこの新しいジャハールで」
ユイとカルードの動きに刺激を受けたレベッカ。
蒼炎の炎を全身に纏いながら素早く、左の甲板へ前進。
両手に装備している新武器ジャハールの剣先を、魚人の胴体に突き刺し吹き飛ばしていた。
その吹き飛んだ魚人の死体が、背後の魚人たちに衝突。
彼らはドミノ倒しのように樽やらロープやらを巻き込んで狭い甲板の上で転倒している。
「ん、レベッカ、凄い力……」
エヴァの声は俺の頭上からだ。
全身から発している紫の魔力を楕円状に展開させている。
俺たちが居る上甲板の一部を覆うように、紫魔力を展開させながら金属足を見せていた。
というか、絹製と思われる白パンティっ!?
素晴らしい。その空中に浮かぶ彼女の周囲に、五つの鋼球も浮いていたのを視界に捉えた。
あれはこないだ手に入れたサージロンの鋼球。
エヴァは銀腕輪を嵌めた腕を動かしてその鋼球たちを操作。
その瞬間、紫魔力に反応した鋼球たち。
球体が金色の膜に包まれて震え出すと、一気に急降下。
空間、船体を突き刺す勢いで、魚人たちの頭部へ向かう。
五つの鋼球が、魚人たちの頭部に直撃し、めり込んだ瞬間、その頭部は爆発していた。
西瓜割りを超えた破壊。
あの鋼球威力あるな……。
「エヴァ、ナイスフォロー!」
「ん、レベッカ、いいから前見てっ!」
「きゃっ」
魚人たちが持つ三つのカトラスの刃がレベッカに迫っていた。
彼女は急ぎジャハールの刃を頭の上にクロスさせて三つの刃を防いだが、細い腕に切り傷を負う。
「くっ、痛いじゃない! ふんっ――」
レベッカは三人の魚人が扱うカトラスをジャハールを持つ両手を広げるように扱い、剣刃を弾いてから、すぐに後退。
威勢ある言葉と違い、走って逃げてきた。
「やっぱりまだまだ駄目ね。今は、前線よりこっちのが向いてるっ」
彼女は蒼炎弾を身の回りに、二、三個作り出す。
その蒼炎弾を追い掛けてきた魚人たちへ投げつけていた。
「ぎっ」
「ぎゃぁ」
「燃えるぇぇぇあああ」
先頭にいた魚人は蒼炎弾を正面から喰らう。
身体に穴が空いた魚人、一瞬で絶命だろう。
背後にいた魚人たちも蒼炎弾により腰と足が貫かれていた。
更に、蒼炎が近くに居た魚人たちへ燃え移る。
阿鼻叫喚の声があがっていく。
というか、物理攻撃に拘らずにこの蒼炎の技術だけで、殆ど勝てるんじゃないか?
とは、思うけど、彼女のやりたいことだしな。
船のタラップがある中央部辺りの戦いも、ロバートたちが制圧していた。
魚人たちは上下から挟まれる形となる。
その瞬間、戦っていた魚人たちは、各自武器を捨て、
「――皆、逃げるぞ」
「こんな都市っ、二度とこねぇぇっ」
船の外へ身を投げ出して逃げていく魚人たち。
「泳いで帰れるものなのか?」
「……魚人だから泳ぎは得意でしょ?」
「ん、あの魚人、違う船にぶつかっている」
「あ、本当。気を失っているし……」
……確かに、魚人の何人かが、港に新しく入ってきた船にぶつかって巻き込まれていた。
ぷかぷかと死体のように浮いている。
「ご主人様、追撃はしないのですか?」
「必要ないだろ」
そこにロバートの声が響く。
「――総長っ、魚人たちはもういないようです。船を拿捕しました! そして、下の営倉には、魔薬だけでなく奴隷にされていた人族、エルフ、獣人たちがいました」
捕まった人たちか。
「総長~、あの泳いでる魚人たち追い掛けたいっ」
「ララは泳げないでしょ」
ルルとララは船の端に手をかけて泳いでいる魚人たちを見ていた。
「泳げないなら放っておけ。それより、ロバート、その捕まっていた人たちを、ここに連れてきてくれるか?」
「お任せを」
ロバートは頭を下げてから、船の下部へ下りていく。
暫くして、数十人の奴隷にされていた人たちが甲板の上に集められてきた。
「……魚人たちがいない?」
「……どういうことだ」
「ここはどこだ?」
「売られるのかしら……」
制服を着ている男、元は船乗りと思われるエルフ、ビロードの袖なし衣服が乱れた女、犬耳を持つ髪がほつれた獣人、紅絹のプラトークをかぶるエルフ。
様々な種族たちだ。
そんな右往左往している彼らを見据えて、
「ここは【迷宮都市ペルネーテ】、港がある場所だ。お前たちを捕らえていた魚人海賊は、俺たち【月の残骸】が始末した。この船を拿捕したのも俺たちだ。そして、お前たちを奴隷にするつもりはないし、助ける義理もない。ということで、解放するから自由に出ていくがいい」
シーンと、静寂な間が開いたが……。
「おおおぉぉ」
「ここはペルネーテなのか、随分と内陸部に進んだのだな……」
「自由だとっ! やったああああ」
「海じゃなくハイム川か……」
「わたし、行く当てがないのだけど……」
「解放されるだけ、ましよ」
囚われていた人々は喜びと困惑の声が広がった。
一部の人たちは船から続々と降りていく。
「港だとすると、おれたちの船は売られてしまったのか……」
「奴隷にされないでもマシだろう」
「……船長、苦汁を舐める日々、ご苦労様でした……解放するといってくれた、あの方ならば、雇ってくれるかもしれませんぜ?」
「ふむ……」
船長? 顎髭をぼうぼうに蓄えている元船乗りたちの中に、がっちりとした体格の眼窩が深く目つきが鋭い男がいた。
着ている上服の胸には記章らしき物がある。
そこに、メルたち幹部を含めた【月の残骸】の兵士が戻ってきた。
メルは解放されている人々を見ながら、捕まえたであろう敵の幹部の背中を突っついて、タラップの上を歩かせている。
ヴェロニカ、ベネット、ポルセン、アンジェも続いた。
【月の残骸】の兵士たちは整列して船の外で待機している。
「総長、敵の幹部と思われる魚人を捕まえました」
その幹部の魚人は船の惨上を見て、驚愕な表情を浮かべていた。
「ご苦労」
「総長、船から出ていく人々は、この魚人たちに捕らえられていた方々ですか?」
「そうだよ。解放した。一部の船乗りは、どういう訳か残っているが……」
「総長、総長、戦いを挑んできた魚人たちを、たっくさんっ、始末したよぉ~」
ヴェロニカが甲板の上で優雅にステップを踏みながら知らせてきた。
「総長、あたいも弓でかなりの数をやった」
ベネットも報告してきた。
「ヴェロニカさんに負けますが、倉庫内の戦いではアンジェと共に奮戦致しました」
「パパと一緒に倉庫の魚人をやったわ」
報告を受けた俺はメルに視線を向けながら、
「激戦だった?」
「いえ、ヴェロニカが、新しい血剣、大剣を使い大暴れしましたので凄く楽でした。それで、この魚人の名はロック。こいつの話を聞くに、倉庫街の責任者だったようです」
ロックという魚人を睨みつける。
「おい、ロックという魚人」
「は、はい……」
「他に魔薬とかおいてある倉庫はないんだな?」
「ありません、そこだけです」
確認するか。
「エヴァ、こっち来てくれる?」
「ん、分かった、わたしが尋ねる」
「よろしく」
エヴァはゆらりゆらりと身体を浮かせた状態で、ロックの側に近付く。
そのまま魚人の皮膚へ手を伸ばし指を触れていた。
「……ロック、この都市の他に拠点はあるの?」
「ない、俺が居たとこだけだ」
エヴァは俺の方を向いて黙って、肯定の意味で頷く。
嘘はついてないか。
なら次は……ムラサメを<投擲>して殺した魚人が話していたことが少し気になる。
エヴァに触り続けてもらいながら……。
「……魔薬作りの魔調合師はどこだ?」
「ハイゼンベルクか? 逃げられたよ」
ハイゼンベルクだと?
名前的に転生者か?
「なぁ、そいつの顔立ちはどんな感じだ? 俺に似ているか?」
「似てないな。頭は禿げていたし青目の男だ」
ま。見た目は関係ないか。
迷宮で手に入れた石に外国人の名前らしきものが刻まれていたから本当に外国の方かもしれないが。
「……そのハイゼンベルク、どのタイミングで逃げられた?」
「海光都市だ。魔薬を作らせた後、【海王ホーネット】との争いの最中に、魔法か何かを爆発させて俺たちの縄張りから逃げていきやがった」
「爆発か」
「そうだ。まだ残っていた魔薬があったから、王都、ララーブインを避けてこの都市に売りにきたんだが、裏目に出た」
エヴァに顔を向けると、彼女は頷いていた。
ロックが語っていることに嘘はない。
「メル、もう話は聞いた、そいつの管理は任せる」
「畏まりました。それで総長、側で待機している船乗りたちを雇うのですか?」
「お願いします、我々を雇ってくださいっ!」
目つきが鋭い男が叫ぶ。
「貴方、さっき船長と呼ばれていたようですが、この船を任せたらちゃんと働きますか?」
「お任せください。働きますっ」
雇って【月の残骸】に組み込んでおけば、いつか見知らぬ海の冒険、海光都市、船でまったりと移動したい時に使えるかもしれない。
それに、俺は使わずとも、メルなら使いこなすだろう。
『あの船長、顔が迫力あります』
『確かに、クック船長みたいだ』
『クック?』
『……俺が知る船長の名だ』
『閣下のお知り合いでしたか』
微妙にお尻愛に聞こえるが、指摘はしない。
ヘルメとの念話を終わらせてから、
「……メル、皆、こういってるけど、雇っていいか?」
「わたしは構いません。【月の残骸】の専属船としての利用ならば価値はありますね」
メルは即答。
「ん、雇って何をさせるの?」
「まさか海光都市に乗り込む気?」
エヴァとレベッカはそう聞いてきた。
「シュウヤ、船で冒険?」
ユイは頭を傾げながら聞いてくる。
「マイロード、【月の残骸】に預けるのですね」
カルードが的確に発言。
「船での冒険に使えるけど、今のところはメルに任せる。【月の残骸】で運用しろ」
「分かりました。総長の指示があるまで、この船はハイム川黄金ルートを使い、貿易を含めて様々な手法で利益をあげてみせます。収支の管理はお任せを、では、早速……そちらの方々、こっち側に集まってください」
副総長メルが船乗りたちを集めて、話を始めていく。
「んじゃ、俺たちは家に帰るか」
「ん、帰る」
「はい、帰りましょう」
「にゃ」
黒豹から馬獅子型へ変身したロロディーヌ。
皆を触手で背中に乗せていく。
「総長~ばいばいー」
「いいなーララも、ふさふさな黒獅子に乗りたい」
ルルとララが大きいロロディーヌを見上げながら話す。
「寂しい~行っちゃうのねぇ、同じ眷属なのに」
メルの側にいたヴェロニカは悲し気な顔を浮かべていた。
「ヴェロニカはメルの仕事の手伝いがあるだろう?」
「うん」
「ということで、またな」
俺は【月の残骸】のメンバーたちへ腕を振ってから、
「戻るとして、どっか寄り道はする?」
皆に話しかける。
「ううん、もう買い物はしたし、家に帰って美味しいものチェックね」
「ん、レベッカ、新しい胡桃パンを食べる?」
「勿論、紅茶を飲みながら食べる」
「わたしも、エヴァが話している新しいパンが欲しい」
「ん、ユイにも、みんなの分も買ってあるから大丈夫」
「そっか、ありがと、エヴァ」
「ん」
相棒の背中に乗りながら談笑している、皆。
カルードに、
「カルード、また歩きだが、すまんな」
「お優しきマイロード。気になさらないでください。普通の人族ならいざしらず、わたしは<従者長>です。走れば付いていけますので」
カルードは雰囲気がある。
立派な執事のような態度で頭部を下げていた。
馬上からだが、カルードに礼をする。そして、
「分かった。んじゃ、ロロ、行こうか」
神獣ロロディーヌの横腹を足で軽く叩いた。
「にゃおおお」
高らかに鳴き声を上げた神獣ロロディーヌ。
黒馬と似た相棒が駆けた。
端から、相棒を見たら、黒獅子っぽい胸元の黒毛が靡いて見えていることだろう。
そのまま港へ向けて高く高く跳躍した。
土曜日、2月4日更新予定です。
書籍化決まりました。「槍使いと、黒猫。1」
出版社ホビージャパンのレーベル、HJノベルス様より、2017年2月22日(水)発売予定です。
各書店様、Amazon様で予約出来ます。
2022/04/30の現在「槍使いと、黒猫。17」まで発売中。買ってくれたら嬉しいです。




