二百五十五話 宴会とメイドたち
2022/05/31 23:45 修正
ゆっくりと都市の中を進んで、屋敷に到着。
アメリと彼女のお父さんを、中庭へ案内し、使用人を側に付かせてフォローさせる。
酒飯雪隠の心得で、
「それじゃ、宴会が本格的に開始されるまで、リビングで寛いでいてください。厠は、屋敷の廊下奥に、中庭にも一つありますので。俺は準備を手伝ってきます」
「はい」
「分かりました」
俺は二人へ頭を下げてから、準備の手伝いに回った。
中庭に設置された調理台へ向かう。
アイテムボックスから袋を取り出し、中に入っていたグニグニ肉を出していく。
調理台の上でグニグニ肉を叩いて、塩とセリュの粉をまぶしていった。
このセリュの粉……。
山椒の実、胡椒の実、と、少し似ている小粒のぴりりと辛い香辛料だ。
師匠とラグレンが好きだった香辛料だな。
この粉をグニグニ肉の外側へと入念に……すりこんでいく地味な作業を、使用人たちと笑顔を交えながら行っていく。
そして、夕方になる頃――。
ベティさんを連れたレベッカとリリィ&ディーさんを連れたエヴァが到着。
彼女たちは中庭を通り、屋敷の中へ案内していく。
調理中だが、その皆が連れてきたお客さんたちへ頭を下げといた。
少し遅れてカルードが戻ってきた。
メル、ベネット、ポルセン、アンジェを連れている。
ロバート・アンドウ、ルル、ララの姿も見えた。
【月の残骸】の幹部たち。続いて、シャナ、白猫を足元に連れたヴェロニカも中庭に入ってきた。
一瞬、ここに集合して彼らの縄張りは大丈夫なのか?
と、心配するが、一時間ぐらいは構わないか。
その中でエルフ姿のシャナが、調理している俺を見つけたのか、手を振ってくる。
笑顔で走り寄ってきた。
彼女は肌に密着した絹製の服を着ていたので、メロン級の双丘がダイナミックに揺れている。
ブラジャーをしていないのか? ヌーブラか?
見事な物理法則、星の力は凄い。
いや、魔素、もとい、おっぱい神のお力だろう。南無。
「――シュウヤさん! 今日はここでパーティーが行われるとか、カルードさんという方から、お金を頂きましたので頑張りますよぉ」
エルフ姿のシャナが元気よく語る。
ちゃんとカルードが金を払ったようだ。
「うん、今日はよろしく頼むよ。シャナの歌声は癒やされる」
「ふふ、ありがとう。沢山癒やしてさしあげます」
前にも見たが、人差し指を胸の前に出すポーズだ。
「……仲が宜しいところすみませんが、総長。自ら調理ですか?」
メルだ。
シャナとの会話に割り込む形で、聞いてきた。
「そうだよ。意外か?」
と、そのメルの顔へキスする勢いで顔を寄せる。
「――あ、いえ、そういうわけでは。ただ、調理している姿も様になっているので……」
メルは俺の吐息を身近に感じたらしく……。
小花が風で揺らいだような弱々しい微笑みを浮かべる。
頬に桜色のヴェールを刷いていった。
「……す、素敵、い、いや、カズンが知ったら悔しがりそうですね」
と、ぽろっと女の気持ちが口から漏れていたメル。
途中で、大人の女を感じさせる態度で、俺から離れながら語っていた。
「……カズンか、この間も忙しそうに宿屋で調理していたから、今日は無理だろう」
「厨房は、部下が居るから少しくらい平気よ?」
メルとのやりとりを睨んでいたヴェロニカが、話に加わる。
「そっか、でも、もうそろそろ始まるし、カズンには悪いが……」
調理を手伝わせた方が喜んだかもしれないな。
すまんな、カズンさん。
「うん、わたしが自慢気に報告しといてあげる♪」
「……いえ、わたしが無難に説明しておいてあげましょう。ヴェロニカは余計なことをしないようにね? 変異体の拳が向かってきてもしらないわよ?」
「了解〜」
笑いながらメルの言葉に応えるヴェロニカ。舌を出している。
彼女に鑑定をした指輪のことを話してみたいが……今は宴会の準備で忙しい。
ヴァンパイアから人に戻す指輪の件は、また今度かな。
「総長様が料理を……」
「肉だぁ。総長は、カズンと同じ?」
ルルとララだ。
彼女たちの背丈と変わらないぐらいの調理台なので、両手を乗せて覗く姿勢だ。
「沢山、肉と野菜を焼くから後でな」
「わかったー」
「楽しみだね、ララ」
「うん♪」
ルルとララは頷き合う。
「ねね、あそこ、楽しそうっ」
「凄いっ。魔獣と猫ちゃんたちと小型竜が居るっ!」
「ロバート、あそこにいこー」
「あ、俺は、まだ総長に挨拶を……」
「変な顔ー。総長はそこよ?」
ララの言葉に釣られるようにロバートの顔を見た。彼は少し緊張しているらしい。そんな緊張するような態度は出しているつもりはないんだが、俺から話し掛けるか。
「……よっロバート、元気にしているか? なんか、ルルとララのお兄さんに見えるぞ」
「総長、元気ですよ。はは、しかし、お兄さんですか、そんな風に見えます?」
「ふふっ、ロバート兄ぃ」
「にぃにっ」
ルルとララは互いに頷き合い笑い合っている。
「見えているらしいぞ」
「兄ぃ~。総長に挨拶はもういいでしょーあそこいこ~」
「あ、あぁ、わかった。では、総長失礼をっ」
ルルとララに腕を引っ張られていくロバート。
そこに、
「ねね、その調理、あたいも手伝った方がいいのかな?」
ベネットが使用人たちに混ざりたいようだ。
「手伝いなら歓迎だよ」
「べネ姉、それは止めて、料理オンチが炸裂して不味くなるかもしれないから」
「なにさっ、ヴェロっ子。あたいだって、野菜を切るだけならできるんだからね!」
ベネットとヴェロニカは喧嘩を始めている。
そんな折、白猫マギットが、ヴェロニカのもとから離れてルルとララとロバートが向かった厩舎の方へ走っていく。
ポポブムと猫たち、バルミントに合流か。
猫同士、鼻を突き合わせて匂いを嗅ぐ。
髭の根元の小さい毛穴からフェロモンが出ているのかな? アーレイとヒュレミと白猫は鼻を合わせていた。
中庭で猫の誓いってか? 続いて、互いのお尻の匂いを嗅ぎ合う。
猫、獣同士の挨拶だ。その匂い合い、お知り合いの最中だが、魔獣ポポブムの頭部は大きいから不思議なダンスに見えた。バルミントも小型な竜だったが、猫科のように鼻で白猫と挨拶をしていた。
しかし、挨拶の次は尻尾でじゃれだす猫たちであった。
「……総長様自ら調理とは、楽しみです」
次に話しかけてきたのは、ポルセンとアンジェ。
「パパが食べるなら食べるっ」
「ポルセン、期待してくれていいぞ。この肉、実は迷宮産だ。まず、他では食えない特上の肉の筈」
「なんとっ」
ポルセンは口ひげを触りながら、仕込み中の肉を注視。
目が血走り、唾を飲み込むように、喉仏が動くのが見えた。
「パパッ、目が」
「ああ、総長様、失礼を……」
吸血鬼らしい血走った双眸となったポルセンの表情は怖いってよりは、かなり渋い。端正な顔立ちだ。
そして、肉が好きらしい。ならば、きっと気に入るはずだ。
これは、地下二十階層の巨大牛、俺も眷属たちも嵌まった代物の肉。
タレも数種類用意しよう……卵系もいいな、甘露水を少し足して、塩と混ぜて麺つゆがあったらなぁ……そういえばアンチョビも作ろうとか思っていた。
ま、今はこれに集中しよう。
と、肉の仕込みに集中しようと思ったが、ポルセンとアンジェとの会話が続く。
闇社会の縄張り争いと、ポーカーのようなカード遊びの話題を隠語と交えて続けた。アンジェがその時のパパはカードに夢中でつまらないの……とか、呟いていたが、知らんがな。
「……では、総長、本格的にパーティが始まるまで、周囲を見回ってきます」
「わたしも見回りをしてきます」
「おう」
ポルセンとアンジェは離れていく。
仕込みの調理を続けながら、動物たちが触れ合うアニマルセラピーな光景を遠巻きに眺めていった。アーレイとヒュレミとロロとマギットで自分たちの尻尾を巡って争いが起きている。ルルとララも混ざっている。
それを止めようとバルミントが胸元を大きくしたように小さい翼を広げた。
鱗を囲う端からちょびちょびと生えている毛が可愛い……。
ロバートは厩舎の建物に興味があるのか、動物園には参加していなかった。
そこに大門から近所のトマス・イワノヴィッチ氏と、その奥さん、八槍神王第七位リコ、八剣神王第三位レーヴェを含めて武術互助会の関係者たちが次々と屋敷内に入って来た。
そして、多数の人々が中庭に集まり出す。祭りらしく賑やかな雰囲気となってきた。
本格的に宴会が始まろうとしている。
中庭の中心に、薪が沢山集められ積み上げられていた。
最後にエヴァが浮きながら大きな薪を上に載せると、周りから拍手が起きていた。
その積み上がった薪を囲うように続々と知り合いたちが集結。
……何か、壮観だ。いつの間にか、この都市で出会った人々がこんなにも増えていたんだな。他にも、ここには呼んでいないレムロナとフランがいるが……。
彼女たちは、王子と大事な立身出世の最中。さすがに呼べない。と、考えていると、
「いくわよー」
火つけ役を自ら申し出たレベッカ。
レベッカは白魚のような手にグーフォンの杖を握る。
その魔杖からドォンッと耳朶を振るわせるほどの炎のスパークが放出された。
それは大砲から撃たれたような爆発音、薪が吹き飛ぶのじゃないか? と、思ったが、無事に火が点いて盛大な焚き火となった。さすがは火の精霊に好かれているレベッカ。魔法の才能は優れている。山椒は小粒でもぴりりと辛いってか。
焚き火から離れた位置に、土の固まりを土台とした簡易の竈が数個できている。
土台の上には、ミスティが用意した大きな鉄板も置かれてあった。
調理していた材料をそこに運んでいく。使用人たちも続く。土台の底に集められた沢山の薪にも、火が炊かれていった。火力が増す調理用の魔石が使用されたようだ。
「食材を焼くのに丁度いいですねぇー」
「おう、じゃんじゃん切って、焼いちゃおう」
ミミも元気よく参加している。
「「――はいっ」」
使用人たちが、準備した食材を運び大量に焼いていく。
仕込んでおいたグニグニ肉も焼いていった。
戦闘奴隷たちも、その調理に参加して、酒も用意。
そうして、タレ作りを含めたある程度の調理をやり終えた。
残りの野菜と肉の調理は使用人たちに任せて……。
俺は魔煙草を吸い、休んでいると、
「襲わないでェ~、ロロ様がァァ」
いつもの光景だ。
「あはは、またか」
黒猫が、僕っ娘のサザーを襲い、彼女の犬耳を舐めていた。
あの、もこもこっとした膨らんだ毛が大好きらしい。
「主人、酒を大量に飲んでいいのだな?」
蛇人族のビアが、酒樽を片手に持ち聞いてきた。
「大量……程々にな。周りに迷惑をかけない範囲で、だぞ」
「承知」
しゅるるると音を立てる蛇舌を形のいい唇の中に仕舞うビア。
あれはあれで、色っぽいかもしれない。
しかし、あの酒樽、巨大なんだが……。
まさか、酒に別腸あり。というように、本当に酒専用の腸があるのか?
蛇人族だけにありえる。
「ご主人様、ありがとう~。こんな楽しい行事に参加させて頂いて、幸せですっ」
エルフのフーだ。
細い手にゴブレットを持ち、酒を飲んでいた。
隣に居たママニと寄り添いながら一緒に笑顔を浮かべている。
「はい、本当に。故郷のボルカヌの滝祭、ミグッシュ川で行われていた大祭りを思い出します……。そして、アルガンの丘に……六腕のカイさえ現れなければ……」
ママニは感極まって、望郷の念が出ているようだ。
そうして、皆で、楽しく酒を飲み食べて談笑していく。
「南東にある大きな市場の一つで、植物の祭典市場が行われているらしいけど」
「聞いた聞いたー花々だけでなく砂漠地方の植物もあるとか」
アンナと使用人たちだ。
つい、聞き耳を立てる。
「アンナはいくの?」
「ううん、お掃除当番と夜間勤務があるから、植物の祭典もいいけど闘鶏の大会も気になるの」
「闘鶏かぁ……そんな趣味があったの? 闘鶏ならベンラックに続いて、ペルネーテでも大きい大会があるのよね」
「趣味というか、植物の祭典も闘鶏大会も、どっちも見たいのよねぇ」
「闘鶏というと、アンナも闘技大会とか好きなの?」
「そういうわけじゃないの」
「そう? わたしは闘技大会の方が好き。その闘技といえば、ご主人様もいずれは闘技大会に出られるのかしら」
「どうでしょう。訓練は毎日欠かさず、凄まじい勢いで行っているのは、お見掛けしてますが……」
アンナは流し目で語る。
「うん、凄いよねぇ。エロい視線以外は本当に尊敬しちゃう。槍の他にも剣とか斧を扱う激しい訓練だけど、洗練されたダンスのようで、見惚れちゃうし」
「そうね。美しさも感じられます。太陽の光を浴びながら、槍のポーズを取るところなんて……絵画のようでした……」
「でしょう? 優美さも感じるもん。上半身が裸の時もあるから、ドキドキしちゃう。アンナはお傍付きだからいいなぁ」
アンナは笑窪を作ると、
「ふふ、イコルったら、でも、その気持ちは凄く分かる。普段のご主人様はとてもお優しい。わたしたちの生活と体調をいつも気にしているようで、会う度にわたしの顔色を見て……『ちゃんと食べて寝ているのか?』、『いい匂いだな』、『休んでいいんだぞ』、『おっぱいの管理は大事だ』、『ここの掃除は俺がやっとく』といったように……とにかく笑顔を絶やさない方。そして、こないだも、『いつも部屋の掃除と洗濯をありがとな』とか、洗濯はアメルちゃんが主に担当なのですが、わたしに仰ってましたし」
そりゃ、おっぱいの管理は大事だ。
おっぱいはな。二度いう。〝おっぱいの管理は大事〟だ。
おっぱい体操という偉大な体操がある。
血液、リンパ液の循環をよくしなければ、ならないのだ……おっぱい委員会、研究会、特別顧問の御業でケアを……。
しかし、何か深い意味がある格言っぽい。
「……へぇーわたしは買い物が多いから、あまり声を掛けられたことがないのよね。時々、洗濯物を干しているときにお話をしてくれるけど」
「あ、だからなのね、アメルちゃんの仕事を代わってあげていた理由……」
「てへ」
「ちゃっかりイコルっ」
「えぇー、だってミミなんて、お傍付きじゃないのにさ、最近、ご主人様の側の仕事を増やしているし、わたしだって、少しぐらいはいいじゃないっ」
……使用人とメイドのアンナがそんな会話を行っていた。
あまり気にせず、そのメイドたちの話を興味深そうに聞いていたヘルメの側に歩み寄っていく。
18日まで連続0時更新中です。
「槍使いと、黒猫。」ついに書籍化です! 正式タイトルは「槍使いと、黒猫。1」出版社ホビージャパンのレーベル、HJノベルスより、2017年2月22日発売予定。
イラストレーターは「市丸きすけ」さん。です。




