二百五十一話 エンチャントッ!
闘技場エリアを駆け抜けて、ザガ&ボンの店に到着。
着いた途端、ウィリーを行うように両前足をあげる神獣ロロディーヌ。
――俺はナポレオンじゃねぇぞ!
と、サン・ベルナール峠を越えるナポレオン・ボナパルトの絵を想像しながらロロディーヌに突っ込みを入れたかったが、俺はヴィーネを両手で抱えている状態だ。
そのエンジョイ気分全開の両前足を上げているロロディーヌさんの黒毛の背中を太股でマッサージ! 股間の金玉アタックだ! 相棒は「にゃおお? にゃあ~」と喜んだような笑ったような声で鳴いた直後、ヴィーネを抱えたまま片足の裏で、相棒の背中をちょんっと押すように跳躍。
大通り沿いへ回転しながら飛び降りた。その時、
「あ、シュウヤ様!」
ルビアの声だ。
ヴィーネを支えるように目の前に立たせてから、振り向く。
ヴィーネは俺に寄り添ってきた。
通りの端には、手を振るルビアがいる。
ちょうど、冒険者活動の帰りだったようだ。
胸元を微かに露出したネックウォーマーが付く朱色の軽装鎧だ。
銀糸の服も着てくれている。
――いいね、麻生地の半袖衣装と合わせていた。
細身の彼女に良く似合うな。
美人でお洒落さんだ。
ひらひらが付いたスカートもチャーミング。
かわいいスカートの上には、細い括れをアピールする腰ベルトがある。
ベルトと革紐と繋がる剣帯には、俺がプレゼントした古竜の長剣があった。
彼女は神官戦士系と聞いている。
ちゃんと主力の武器として古竜の長剣を使ってくれているようだ。
そんなルビアの肩口には……。
小さい背嚢を飛び出る形で覗かせている。
迷宮のモンスターの素材かな?
ザガ&ボン用の素材がいっぱい回収できたようだな。
【蒼い風】の活動は順調そうだ、よかった。
笑顔を見せるルビアを見ると……助けてよかったってより俺自身が救われた気がする。
ルビアに感謝する気持ちで、
「よっ、ルビア」
「――こちらに来てくださったのですね。ヴィーネさんも、こんにちはです」
ルビアはハキハキと元気よく挨拶。
ヴィーネは黒馬っぽいロロディーヌから降りてきたばかりだ。
萎れた長耳だったが、急にピンと長耳が伸びた。
長耳が元に戻る瞬間、一瞬の間があったが、その耳の動きは面白い。
『ふにょ~ん』から『ぷにょ?』といったようにスライムに空気が入って膨らんだ感じだろうか。
どんな感触なのか、耳を触った状態で確かめたいが、今は難しい。
今度ベッドの中でお願いしてみようかなぁ。
と、いかん、自分に自分の胸板を叩くようなツッコミを入れる。
吉本新喜劇のおっさん的な気分を想像して笑ったが、
「……こんにちは――今日は、ご主人様とデート気分で寄らせてもらった」
と、そのヴィーネは女としての、牽制パンチ。
少し乱れた銀髪を、片方の耳の裏側へと手櫛で流して整えた。
「そ、そうですか」
ヴィーネの女の色気を感じさせる物言いに、金色の眉を微妙に反応させながら喋るルビア。
早速、動揺している。
「にゃお」
子猫姿になったロロが鳴く。
挨拶するように、ルビアの足下へ移動して、見上げている。
「ロロちゃん――嬉しい! 最初に挨拶してくれたっ。いつも最初は必ずボン君だったのに! 今日はわたしでいいの?」
黒猫は、ルビアの脛に何回も頭を擦りつけてから……。
彼女に神獣としての匂いをつけるように、尻尾をピンと立たせた状態で、背中というか胴体と太股をルビアの足に擦りつけていく。
尻尾はぷるぷると小刻みに震えていた。
オシッコしそうな勢いだが……。
ルビアはそんな黒猫と視線を合わせようと……。
重そうな背嚢を地面に降ろし、両膝を可愛く畳む。
「その荷物、持とうか?」
「いえ、もう目の前ですし大丈夫です」
「そっか」
「ン、にゃ」
黒猫はルビアの言葉を分かっているのか、分かっていないのか、分からない。
んん? ルビアにお尻を、菊門を見せている?
まさか、本当に……。
「ふふふー、柔らかそうなお毛毛ですねぇ。それに可愛いお尻ちゃん! もうっ、たまりませんっ」
「にゃぁー」
黒猫さん、面白い。
太股の毛をふりふりしている。
続いて、頭部を足に当てては、ルビアの掌に自らの頭部を寄せて、甘えていく。
更に、後脚で立つように頭部をルビアの頬に当てていた。
甘え上手だが、ただ甘えている訳ではなく、ルビアが持ち帰った迷宮帰りの見知らぬ匂いを、自分のフェロモンに染めたいだけかもしれないが。
「と、ロロが可笑しな挨拶をしているように、俺もルビアに会いに来たんだぞ」
「え、わたしに……」
「おう。ま、ザガとボンにも会いたいが。あ、これをルビアに渡しておこう。土産だ」
アイテムボックスを操作。
鑑定済みのカシーンの剣を取り出す。
「この剣は伝説級。エセル界とかいうところで、英雄カシーンが使っていた剣らしい。渋い店主のスロザ氏曰く、属性関係なく、魔力消費で風を刃に纏わせることが可能で、身体速度を微上昇させる効果があるとか」
「れ、伝説級!? わぁぁぁ」
ルビアは畳ませていた両膝を急ぎ戻して立った。
背筋を伸ばす。
「嬉しいです!」
敬礼するように姿勢を正すルビア。
カシーンの柄巻は、黄ばんで赤茶けている色合い。
刃先の丸く太い部分に、丸い小円の模様が入った長剣だ。
小円の中にある細かな模様は、翼が幾重にも絡みあっているので何処かの軍隊の紋章にも見える。
地球で例えるとコラに似ていた。
インドのグルカ族が使っていたとされる剣。
ルビアは、緊張しているらしい。
体を硬直させたように両手両足を揃えながら歩いてくる。
そして、両手で賞状を受けとるように、丁寧に頭をさげながら、俺が持つカシーンの剣を受け取っていた。
「英雄の、カシーンの剣……」
ルビアはうっとりと刀身を見ていく。
刀身に、彼女の澄んだ青い目が映り込んでいることだろう。
そのまま感触を得るように、カシーンの剣を振り下げたり、振り上げて構えたり、虚空へ伸ばして突いたりしている。
へぇ、結構、さまになっていた。
神官戦士として成長しているようだ。
「……ルビア、身のこなしが中々です。今の『起こし受け』の型は、迷宮での経験で?」
ヴィーネだ。
ルビアの剣の腕を見て、感心しているらしい。
「あ、はい、【蒼い風】のカシム団長が素晴らしい剣使いなんです。片手剣、二剣術、飛剣流と、絶剣流を習ったこともあるそうで、その団長が、中型ゴブリンを倒す姿を真似するうちに……自然と」
「なるほど、素晴らしいぞ。独学で剣術のそこまでの動きを身につけるとは。この間の魔力といい、ルビアは戦闘センスがあるのだな」
ヴィーネは率直に褒めていた。
「そ、そうですか? ありがとう――」
ルビアはヴィーネの屈託のない褒め言葉を聞いて、意外だと思ったのか、目を見開いて驚いていた。
そして、金髪の頭頂部を見せるように深々と頭を下げている。
頭をあげたルビアは、早速というように素早い所作で、腰にぶら下がっている古竜の長剣を取り出して二剣状態に。
新しいカシーンの剣と、俺があげた古竜の長剣を見比べている。
そこで、ヴィーネに視線を送った。
彼女はルビアから視線を外して、頷く。
「ザガのところへ行くぞ」
「はい」
そのヴィーネを連れてザガとボンがいるだろう工房に足を踏み入れた。
黒猫も足元から付いてくる。
ザガ&ボンは、工房の奥の作業場だ。
金床に載せた熱い黒鋼をハンマーで叩く。
『鍛錬』の作業と似ている。
その鍛冶屋感溢れるドワーフ職人ここにあり状態のザガの横では……。
恍惚の表情を浮かべたボンがいた。
ボンは、両手からエンチャント魔法を、その鍛えている黒鋼へと繰り出す。
お仕事中だ。少し見学かな。
と、その鍛冶&エンチャント作業を見守っていく。
伝説級を作る職人さんだ。
ハンマーを打ち下ろす仕草が、渋すぎる。
顎の毛に炎が燃え移っても構っていない。
あれは、前にも見たな。
黒猫も珍しくボンの側に向かわない。
アーレイとヒュレミたちのように、両前足を揃えての、陶器の人形スタイルで、ボンが両手から放出している不思議な魔力光を眺めていた。
少しして、鍛冶&エンチャントの作業が落ち着くと、
「――お、シュウヤじゃないか!」
「――エンチャ? エンチャッント!!」
「にゃああ」
待ってました、とでもいうように、ボンの側へ走っていく黒猫。
「エンチャント!」
「ン、にゃおん、にゃ」
「エンチャーン」
「にゃ」
いつもの、メルヘンファンタジーが始まった。
ボンとロロは放っておこう。
俺は、燃えて変な形となった髭が目立つザガのほうに向かう。
ザガの髭の形が……みょうちくりん。
んだが、指摘はしない。
頭を一度下げてから、そのザガに近付く。
俺は、時計を見るように、アイテムボックスの小型の風防をタッチ。
水晶っぽい風防のアイテムボックスから――。
プレゼント用の、特殊インク、野球帽子、釣竿を取り出した。
「……迷宮で、またお宝を無数にゲットしたんだ。この特殊インクはザガへの土産。これはスロザの店主曰く、名は魔秘インク。ある一定の魔力量に反応し、色が変わるという特殊なインクとか。貴族、王家、に関わらず、秘密の連絡用に用いられることが多いらしい」
と、ザガへインクを手渡す。
「おぉ、この間の魔柔黒鋼でさえ、物凄い儲けになったというのに……またもや珍しい物をくれるのかっ。ありがとう、シュウヤ!」
ザガはインクを受け取る。
中身の匂いを嗅いでから瓶を覗くように液体を確認。
「次はボンに……」
「エンチャ?」
黒猫と遊んでいたボン。
動きを止めて、勢いよく振り向いてきた。
そのくりくりのまん丸のお目めの双眸の中には、何か、くれるの? という文字が浮かんでいるようにも見えた。
ボンは期待の眼差しを向けた状態で、俺とザガのところへ、とことこと走り寄ってくる。
「……ボンには、この帽子と釣竿をプレゼントしよう」
「エンチャントッ!」
ボン君は早速、帽子を無理にかぶっていた。
帽子から下に伸びた紐が、顎下の肉に喰い込んでいる。
そして、天然アフロを感じさせる耳の横の、もみあげの毛が、帽子の横から溢れ出ていた。
何か、可愛いかもしれない。
オイサッ、ボンバイェ♪ ハッハッ、ボンバイェッ♪
と、いったように、帽子を被ったボン君は、新しい釣竿を片手に持って踊り出す。
黒猫も踊りに釣られた。
後脚で器用に立つように、ボン君の足下から跳躍を繰り返す。
猫パンチを放っている?
狙いはきっと、ボンの大仏さんのような福耳か?
帽子からはみ出た髪の毛だな。
「ボンは、帽子も気に入ったようだ」
「――エンチャッ、エンチャッ、エンチャント!」
ボン君の楽しそう。
エンチャというたびに、やった、やった。と踊っていく。
そのまま俺に走り寄ってくると、太腿と腰辺りをぎゅっとハグしてきた。
……心が温まる。
俺もお返しに、彼の背中を軽く撫でていった。
「……その青白い釣竿も説明しとくと、餌がなくても、魚を捕まえることができるとか。針先にあるブヨブヨが、疑似餌になるんだろう」
「エンチャ? エンチャ……」
一度顔を上向かせたボン君。
よく分かってないようだ。
再度、俺の腰に顔を埋めて抱きしめを強くしてくる。
「――ありがとうございます」
工房の中に戻っていたルビアも、ボンの行動に釣られたように抱き着いてきた。
彼女は、胸元を小さく露出している服だから、胸の感触が直に当たって心地いい。
「ご主人様っ」
さり気なくヴィーネも混ざってきた。
その影響か、ハグを実行中のルビアは、少し遠慮気味に体を離す。
顔を上向かせて、
「……シュウヤ様っ。前に頂いた、この魔竜王製の武器をメインに使っていますが、このカシーンの剣も使いこなして、二剣流も学んでいきたいです」
笑顔のルビア。
二剣流に挑戦か。
剣を扱うヒーラー神官戦士なだけに、彼女の戦闘職業が少し気になったが、質問はしなかった。
彼女の将来が楽しみ……。
と、ボン君とヴィーネの手を離してから、店の様子を見ていく。
店の内装が少し変わっている。
飾りの装飾品が増えて豪華になっていた。
商売が軌道に乗り、儲かっているようだ。
壁に、見たことのない細やかな金属の象嵌が施されたタペストリーの商品も展示されてあった。
「ザガ、あの壁飾りは……」
「気付いたか。それは新しく作った商品の一つ。金具のデザインを弄っていたら、ルビアが指摘してきてな」
「へぇ……ルビアが? だが、鎧にデザインといい、この造形センスは抜群だよな」
「よせやい、照れるだろうが」
「ザガさんが本当に照れてる! 珍しい~」
にこにこ顔のルビアが指摘する。
「むむ、ルビア。これはお前のデザインが大本だろう?」
「あ、うん」
大本? これをルビアが?
やるじゃん、ルビア。生産系の能力もあったりして。
そういえば、タペストリーの金属の縁にあるふさふさの毛の表現の加減といい女性らしい細やかな感覚があるのかもしれない。
色を塗って版画を刷ったら面白いかもと思ってしまった。
「……ルビアも才能がある?」
俺が呟くように尋ねると……。
ザガは同意するように、何回も首を縦に振りながら、
「あるな」
「そうかな~? ザガさんとボン君の影響が大きいと思います」
謙遜するルビア。
「これをルビアが……素晴らしい才能だ。美しい……」
ヴィーネも率直に感想を述べる。
この言葉を聞いたルビアは、さっきと同様に褒められたことに驚く。
「……ヴィーネさん、ありがとう。凄く嬉しい……です」
ヴィーネも微笑んでいる。
ルビアとヴィーネ、女としての戦いはあるかもしれないが、大丈夫そうだな。
「影響か、それは確かに……あるかもしれんな」
ザガは自慢気に語る。
確かに、職人中の職人だ。ルビアが興味を持つのも頷ける。
「エンチャントッ」
ボンもサムズアップで答える。
「ボンもそうだってさ」
「はいっ、ボン君もありがとう」
「にゃぁ」
黒猫もルビアを褒めるように、小さい脛へ、頭を当てて甘えていた。
「さっきの続き? ロロちゃんは可愛いんだからっ」
ルビアは黒猫を抱き上げる。
と、相棒の白髭のある頬に自身の頬を寄せた。
スリスリと頬を擦り当てていく。
そして、黒猫の頬に『ちゅっ』とキスを行うルビア。
相棒は「にゃ~」と鳴いているが、嫌がる素振りは見せず。
んだが、金髪にじゃれる黒猫さんだ。
ルビアは微笑みながら、また、その相棒の頬に、自らの頬を当てて、またスリスリとやり始めた。
どっちが猫なんだ、とはツッコまない。
そこで、スロザの古魔術屋で、愛用の武器を鑑定してもらったことを思い出す。
「……ザガ。これ、愛用している、ザガの作品でもある魔槍杖バルドークなんだが……スロザの古魔術屋で鑑定してもらったんだ。そしたら、造り上げた者の名が、ザガ・アウロンゾと聞いたんだが」
と、何となく聞いたが、驚くザガ。
「――何、鑑定だと……アウロンゾの名前を聞いたのか……」
「エンチャント! エンチャッント!」
ザガ&ボンの様子が一変した。
「……どうしたザガ。アウロンゾに何かあるのか?」
「あまりその名は……」
「エンチャント」
「しかし、ボンの<賢者技師>の魔力を鑑定しきるとは、噂には聞いたことがあったが、スロザの鑑定士……凄腕だな」
二人はそわそわして落ち着かない様子。
ザガとボン、自分たちの工房の店の中なのに、そのまま周りを窺うような視線を作っていた。
アウロンゾの名に秘密がありそうだ。
「……理由を知りたい」
「……どうする、ボン。シュウヤが知りたいそうだ」
「エンチャン、エンチャンターン」
ボンは腕を組んで考えてから、人差し指を顎下に置く。
可愛い考えるポーズを取っていた。
そして、微妙なエンチャント語は初めて聞いたような気がする。
「そうか、ボンがいいなら話してみるか、友のシュウヤだしな」
「エンチャントッ」
納得したらしい。
ルビアへ視線を向けるが、彼女は頭を左右に振る。
「わたしも聞いたことがなかったので」
ザガ&ボンのドワーフ兄弟は、娘みたいな存在であるルビアにも話していないようだ。
ついでにヴィーネにも視線を移す。
勿論、かぶりを振っている。
「……シュウヤ、友のお前だから話そう。ルビアは俺たちの娘。そして、シュウヤが好きな従者だからダークエルフにも教えておこう。俺とボンの一族の名に由来する話を……」
「エンチャント……」
「娘……ザガさん、ありがとぅ」
ルビアは娘という言葉に感動したのか、涙ぐむ。
「ああ、ルビア、そんなつもりは」
「エンチャント!」
背の低いザガとボンが、とことことルビアへ走りより、ルビアを抱き締めている。
本当にもう親子なんだな……。
俺まで思わず、涙腺が……。
「……よし、話すぞ」
ザガは優しくルビアの背中を叩いてから離れて、皆を見つめていく。
「……アウロンゾ、身の毛もよだつアウロンゾの名は聞いたことがあるだろう?」
はて、聞いたことがないが……。
ヴィーネならば……と、銀の瞳を見つめる。
「旧神、身の毛もよだつ旧神アウロンゾ……ドワーフ関連の本、その名がついた本を見たことがあります。読んだことはありません」
さすがはヴィーネだ。
「凄い、ヴィーネさんは物知りです」
ルビアも知らなかったようだ。
「その通り、ダークエルフは記憶力がいいのか? エルフ系統は頭がいいのが多いからな」
「エンチャント!」
ボンもヴィーネを褒めるようにサムズアップを繰り出して、ぐーぐーぐーをしながら近寄っていった。ヴィーネは助けを求めるように俺を見てきたが、
俺は、笑顔を見せるのみ。
というか前にも同じようなことがあったような……。
肝心の中身を聞いていないので、ザガに視線を向ける。
「で、その旧神と関係があると」
「そうだ。アウロンゾ、古代神、旧神、呪神、そして、古代から続く血脈の一族の名でもある。ドワーフ氏族アウロンゾ一族の成れの果てだ。遥か昔は、鍛冶の腕を受け継ぐ偉大な名でもあったそうだが、ある祖先がアウロンゾの力に目覚めたせいで、呪いを受けたと。それ以来アウロンゾ氏族は地下を追われたそうだ。権力争いの闘争に巻き込まれたのが事実らしいが、古い古い言い伝えだから詳細は分からない。そのせいもあり、父や母にも不気味に思われたボンは一族から折檻されていたんだ……」
ボンの魔力、紋章の力、アウロンゾが関わってそうだな。
「……そういうことですか」
「エンチャントッ」
俺が表情を暗くしたのを分かったボンが『あんちゃん、そんな顔を浮かべるなやっ』的な態度で、俺の腰を叩いてくる。
「ン、にゃにゃっ」
黒猫も混ざり出した。
尻尾と片足を使ったコラボか。
足がくすぐったいかもしれない。
「……そっか。過去を教えてくれてありがとう」
「いいってことよ。何度も言うが、前にシュウヤから貰った魔柔黒鋼。あのレア金属で、たんまりと儲けさせてもらったからな? それに今回のお土産も嬉しかった」
にやりと皺がある頬を動かすザガ。
硬い表情が多いザガさんだが、こういうギャップがいいね。
「そりゃよかった。冒険者活動の賜物だな」
「がはは、さすがは魔竜王討伐に貢献した、ただ一人の個人参加者なだけはある……なぁ、今思えば、あの魔竜王……ひょっとして、シュウヤが倒したんじゃないのか?」
ザガは笑いながら真実を言い当ててきた。
「……そりゃ、買い被りだ。あれはグリフォン隊の英雄、セシリーの手柄だよ」
「……ほぅ。どうだか、俺の目は誤魔化せんぞっ。ま、そういうことにしておいてやろう。そのグリフォン隊だが、サーマリアとオセベリアの休戦協定が破られ小競り合いがあったらしいな。ヘカトレイルの東南ハイム川沿いの国境近くの伯爵領で何か争いがあり、そのセシリーが活躍したと聞いた」
英雄は英雄か。しかし、東も西も戦争。
オセベリアは戦線を拡大しすぎな面もあるような気がする。
東はシャルドネが指揮を執っているのかな。
その動機は分かる。単純だ。単にヒュアトスが死んで、組みしやすくなったんだろう。
あ、そのヘカトレイルといえば……。
キッシュの故郷が近いんだよな、大丈夫かな。
緑色の髪のキッシュ。透き通る笑顔。
一緒に楽しく過ごした日々が、脳裏を過ぎった。
ロケットおっぱいは健在かな。元気にしているといいが。
そこで、ふと、双子の冒険者のことも思い出す。
「……なぁ、ザガ、冒険者の客で、注目する存在はいたか?」
11日まで、連続0時投稿中です。
書籍化決まりました。正式タイトルは「槍使いと、黒猫。1」
出版社ホビージャパンのレーベル、HJノベルス様より、2017年2月22日(水)発売予定です。
現在、10巻まで発売中。




