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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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245/2113

二百四十四話 魔造虎の置物

 リラックスしながら常歩の速度で開放市場に到着。

 市場は賑やかだ。円卓通り以上に混んでいる気がした。

 馬に近い姿の神獣ロロディーヌから降りて――周りを見回すと、


「混んでいるけど、わたしに任せて。こっちよ」

「了解」


 レベッカに案内されるがまま、混雑している通りを歩く。

 長剣の柄を巻くサメ皮が綺麗な冒険者。

 籠一杯に荷を背負うロバを連れたドワーフの皮商人。

 腰に無数の短剣をぶら下げて、片腕が剣となっている不思議な人族。

 眼鏡をかけたエルフの学者。

 不細工な男同士が殴り合いの喧嘩をしている。

 血が辺りに飛び散っていた。だれも止めようとしない。

 虎獣人(ラゼール)の馬喰、魔獣とカバ?

 見たことのない大きなロロディーヌのような黒獣を連れた者もいた。

 肩で休む黒猫ロロも興味深そうに、その獣たちを見ている。

 そんな彼らの間を縫うように進む。レベッカは地元なだけはある。

 『デラーズ店』と『星の屑通り』といった地名を教えてくれた。


「あそこは、隼トムさんよ。少し料金が高いけど、飼っている隼で、手紙とかを届けてくれる便利屋」


 と、教えてくれた。的確に誘導してくれる。リズムよくスキップしながら、先を歩くレベッカの時々こちらを振り向く仕草が可愛い。自然と和やかな気分となった。

 本人は否定していたが、魔法学院では、かなりモテたんではないだろうか。と、レベッカの過去を考えていると、その途中で雑貨屋が視界に入る。


「レベッカ、ちょい待った」

「フルーツはこっちだけど」

「うん、その前にな」


 雑貨屋に立ち寄った。鉄屑、釘、トンカチ、フライパン、水晶、陶器のカップ、ポーションの空き瓶、羽根、香料、糸、皮、七草かご的なものが売られていたりする雑貨屋。その店で道具の木製ボウルと空き瓶を幾つか買った。瓶とボウルは屋敷の台所にもあるが、これはディーさんへあげるつもりだ。


「シュウヤ、それでいいのね」

「うん、次を頼む」

「直ぐ近くよ。こっちがフルーツ売り場」

「了解」


 案内されたフルーツ売り場で、イチゴーン、ココナッツ、バナゴも買った。前に買った黄色いキウイかアボカド類も使えるが、今回はイチゴーンを使う予定だ、このヤシの実のココナッツ。地球の環境なら赤道近くの南国産が原産なんだが、ここでは異なるか。とレベッカに聞くと、


「ココナッツは広く栽培されているの。海沿いほどよく育つらしいけど。南のリーリア海岸沿いにあるココナッツが生えるヤシの木畑は聞いたことがある。【王都グロムハイム】、【海流都市セスドーゼン】、【鉄角都市ララーブイン】の各都市では、リーリア海岸に比較的、近いから、ここの都市よりもココナッツの値段も安いみたい」


 気候はあまり関係がないのかな。

 割とポピュラーなフルーツだった。

 そこで、ふと、箱で仕切られた一つの青梨を注目した。魔力に魔素が多いし魔力の質が高いようだ。値段も他の青梨と変わらない。他の青梨にも魔力は勿論あるが一般的な魔力の反応だ。一つの青梨は美味しい青梨なのかもしれない。食べたら肌が瑞々しくなって健康になるような青梨かもしれない。買っておこう。店主に金を払い買ったけど、何も言われず。


 この魔力がある青梨、アイテムボックスの中へ単独で入れておこう。

 後々……俺が食うか、誰かにあげよう。


 そこから肉屋を通り過ぎた先にある開放市場の西、香辛料の売り場へ移動。前と同じスリ集団を見かけたが、彼らが近寄ってくることはなかった。前にも見たことのある平幕の店に到着。上に紐からイカの乾いた物が吊されてある。下は敷物の上に、口の開いた麻袋が並ぶ。

 色とりどりのカラフルな粉や粒が詰められた袋ばかりだ。

 値段も高い。金貨、白金貨の値札が多い。

 レベッカと話しながら、塩、砂糖、シナモン的な香辛料を買った。


 この高い香辛料を買う客は他にも居る。

 使用人、商人、冒険者らしき人たち。

 カレーを作ったりしているのかな?


 まったく違う料理に使っているのかもしれないが。


「シュウヤ、目当てのものはそれで最後?」

「あぁ、最後だ」

「それじゃ、案内はここまで。わたし、ベティさんのところで仕事をしてくるー」


 レベッカは可愛らしい笑みを浮かべながら話す。


「楽しそうだな」

「うん、ふふ、実はベティさんにお土産があるの」

「お土産?」

「そうよ~。魔力を溜められるイヤリングとネックレスをね?」


 宝箱から出たやつか。


「なるほど」

 レベッカは満面の笑みだ。

 その可愛い笑顔は、周囲の者を振り返らせるだけの魅力ある輝きを持っていた。

 ベティさんが彼女を売り子にするのも分かる。

「喜んでくれるかな?」

「レベッカのなら喜んでくれるさ」

「そっか。ありがと♪ 少し勇気が出た。それじゃ行ってくる」

「おうよ。買い物に付き合ってくれてありがとな」

 礼を言うと、頬を少し膨らませたレベッカ。

 左手を細い腰に添えて、右手を俺に伸ばす。

 人差し指は真っ直ぐ、親指は下。

 レベッカは指で、銃を作ってから、バンッと本当に小銃を撃ったような仕草をする。

 俺は実際に撃たれたぁ~といった感じの動作。

 レベッカは微笑んで、


「何言ってんのっ、わたしも楽しかったんだからいいの!」


 と発言。レベッカは笑みもあるが、どこか怒ったような態度でもある。

 デートみたいなものだったしな。

「俺も楽しかった」

「にゃ」

「――うん、ふふ……ロロちゃんも、またね――」

 レベッカは足下の黒猫(ロロ)の小鼻を人差し指でツンツンと触り、挨拶してから踵を返すと、スキップしながら開放市場の中へ消えていく。


 あの後ろ姿は……。

 相棒ではないが、人なつっこい小動物を想像させる。


「さ、ロロ、屋敷に戻ろう」

「にゃあぁ」



 ◇◇◇◇



 屋敷の大門の屋根上に神獣のロロディーヌが着地。


「にゃぉぉん――」


 神獣の凜々しさを示すようなロロディーヌ。

 両前脚を上げてウィリーを行う。

 

 喜びをアピールした。

 元気いっぱいだ――。


 触手手綱を掴みながら、そのままのウィリーの姿勢でロロディーヌの後ろ脚を意識。

 ロロディーヌの二本の後ろ脚だけで、中庭へ向けて跳ねるように跳躍を行った。


 華麗に空を舞う。

 力強い四肢の動きを意識しながら、石畳の上に着地させた。


 中庭の左から剣戟音が響く。

 まだ激しい模擬戦が続いていた。


 ビアの背後で詠唱していたフーが、土の魔法をヘルメへ向けて放つ。

 ヘルメは千年植物の歌を聴きながら華麗な動きを見せる。

 右の腕に生み出した氷剣で、胸元に集結するように迫った土の塊を華麗に一斬り、二斬りと斬り伏せてから、更に集まる土塊を、長いスラリとした細い片足で、踏みつける。


 水飛沫を足下に撒き散らしながら空へ跳躍していた。


 常闇の水精霊ヘルメは、聖母が着る蒼い衣のような色を発しながら、宙に浮く。

 長い睫毛はいつにも増して、キューティクルさがある印象。

 森の陰を蒼く湛える湖のような瞳は美しい。

 水の聖母を感じさせる蒼い双眸だ。

 

 そのような双眸で、中庭の皆を見下ろす。

 常闇の水精霊として、全員を威圧するような厳しさがある。


「……眷属たちは言わずもがな、奴隷たち、素晴らしい連携です。閣下が買われたことに間違いはなかった」


 人ならずモノ、まさに、常闇の水精霊様の口調だ。

 彼女は、氷剣を消失させてから、その片手の掌を覆う氷の繭を作り出す。


 さすがに片手に抱えるように持っていた千年植物は、凍ってしまうから、左腕はそのままだ。

 掌が氷の繭と化した右手を斜め下の中庭へ向ける。


「次はこの魔法ですっ」


 氷の礫魔法をビアへ向けて放っていた。

 ビアはいささかも動じる気配がなかったが、


「我の新しい盾の出番だっ!」


 気合いの声をあげると、新しい魔盾を頭上に掲げる。

 魔盾の生きた複眼がギョロギョロ蠢きながら魔力を放出――。

 スプレーで吹きかけたような魔力の粒が魔眼から周囲へ展開されると、粒同士が連結しだして円の形を作る。

 その円の表面には石油を流したような光彩が光り輝いていた。


 あれが、円系魔力バリアのセボーの魔帯か。


 その綺麗な光彩を保った円系魔力バリア(セボーの魔帯)に氷礫が次々と刺さる。が、魔法が刺さる度に、何条もの美しい縞をバリアから発生させてビアは防いでいた。


 しかも、魔法を吸収しているようにも見えた。

 そして見事に氷の礫魔法の全てを吸収する形で防ぎきる。


 魔眼の力の盾、使えるな。


 しかし、先ほど放ったフーの魔法は上級魔法か?

 中庭にある周囲の土も混ざり浮きながらヘルメへ向けて集結していたので、興味深かった。

 彼女には装備類よりあのクラスの魔法書をプレゼントした方が強くなるかもしれない。


 たまには、魔法通りへ魔法書を見に行くのも、ありかな。

 ま、都合よく覚えていない土属性の魔法書があればの話だが……そんなことを考えながら馬獅子型黒猫(ロロディーヌ)から降りる。


 俺は俺で明日の準備をしないと。


 中庭の石畳から右辺へ歩く。

 芝生を移動しながら買ってきたボウルを取り出した。


 少し盛り上がった芝生の上で立ち止まる。


 ボウルを、その芝生の上に置いてから堅いココナッツも取り出した。


 そのココナッツを生活魔法の水で洗い固い皮を剥いていく。

 次に、皮を剥いて現れた白い果肉を握力で潰しボウルへおとしていった。


 ボウルに白いミルクが溜まっていく。


「にゃぁぁ~、にゃん」


 黒猫(ロロ)だ。


「この果肉を食べたいのか? 大量にあるからあげる」


 小さいボウルへ新品の果肉を分けて下に置く。

 黒猫(ロロ)は白いココナッツの果肉を食べていった。


「美味しい?」

「にゃあ~ん」

「そかそか」


 微笑みながら水を少したして濾す作業を繰り返す。

 黒猫(ロロ)は美味しそうに果肉を食べ続けているので、少し興味が出た。


 濾したミルクへ指先をつけて、その指を口に運び舐める。

 味を確かめると……美味い。

 想像していたよりも甘い味が濃厚な気がした。

 名前はココナッツだが成分は違うのかもしれない。


 と、考えながら濾す作業を続けていくと、右後ろからドダドダと足音が迫ってきた。


「ガォォ――」


 バルミント。ポポブムは来ないのかな。


「バルミント、起きたか。甘い匂いに釣られたようだな? お前も少し舐める?」

「ガォガォ」

 バルミントは可愛い黒い瞳でアピールしてくる。

「よし、ちょい待っておけ」


 大量にあるので、黒猫(ロロ)と同じように果肉から絞ったココナッツミルクを大きいボウルへ移してから床に置く。


「ガォガォーン」


 お礼を言う小型竜。その姿は可愛らしいが、少なからず竜の威厳を感じさせた。

 バルちゃんは高・古代竜ハイ・エンシェントドラゴニアの亜種だからな。

 今は、木のボウルを壊すように竜らしい嘴をボウルの中へ突っ込んだ状態で、がぶがぶとミルクを飲んで、果肉を食べている。しばし作業を止めて、その可愛く食べている様子を眺めた。

 いかん、作業の続きをしないとな、空き瓶に濾したココナッツミルクを注いでいく。

 そうして、ミルク入りの瓶を大量に作り上げた。

 木製ボウルとミルク入りの瓶を持ち、バルミントと黒猫(ロロ)が居る場所から離れ、本館へ向かう。


 <導想魔手>にもボウルを持たせて運んだ。

 この歪な魔力の手は、目に魔力が溜められないと見えない。


 使用人には、ぷかぷか浮いているように見えるかも?


 と、玄関を入ると、


「ご主人様、何を御作りに?」


 使用人を連れたイザベルが聞いてきた。


「あぁ、ミルクだ。明日使うからこの素材は使用人に対して、勝手に使わないでくれ。と、話をしておいてくれ」

「了解しました。それを運ぶのを手伝いますか?」

「いや、いいよ。各々、仕事を頑張ってくれ」

「畏まりました」


 イザベルは浮いている木製ボウルを見ても、特に指摘はせず、頭を慎ましく下げている。

 頭を直ぐに上げた彼女は使用人たちへ指示を出していた。


 そのプロらしい態度に感心とトキメキを感じながら、リビングの右辺にあるキッチンへ向かう。

 ボウルの中に、氷と水を少々注ぎ、その中にココナッツミルクの瓶を大量に入れた。

 その冷やしたボウルを冷蔵庫の中へ保存。


 リビング経由で廊下に向かい、自室の部屋へ戻る。


 保存していたバニラビーンズ……は、あったあった。 

 瓶を掴み、これを数個だけ回収しておく。

 よし、前準備はこれで完了。

 明日まで何をしようかなぁ。庭での訓練に混ざるのもいいが、


 鑑定してもらったアイテム群を一つだけ試すか。

 暴喰いハルホンク、神槍、剣、斧、魔造虎……。

 やはり、最初に試すのは、猫科大好き種族であるルシヴァルの代表者として……。


 魔造虎は外せない、か。


 ヒュプリノパスと魔王種の交配種も気になるが……。

 とんでもないことになるかもしれないので、まだまだ先かな。


 ということで、魔造虎をアイテムボックスから取り出した。

 この陶器の置物の名前は、アーレイとヒュレミ。

 見た目は陶器製の置物だから、部屋のオブジェにも使えそう。


 だが、あくまでも見た目は見た目。

 これは未知なる古代魔法で製造された魔道具と……スロザの店主は粛々と語っていた。

 この大虎の置物へ大魔術師級の魔力を送り、契約とやらを実行する。


 わくわくする。魔力を込めればいいんだな。

 と、右手と左手の掌を二頭の虎頭へ当てた時。


「ンン、にゃぁぁ」


 黒猫(ロロ)が部屋に入ってきた。

 髭と口元が、若干ミルク色になっている。

 足元に来ると『何をしてるニャ』的に、下から俺の顔を見上げてきた。


「もしかしたら、ロロの仲間が増えるかもだぞ? この大虎を使役する」

「にゃ? にゃ、にゃぁにゃぁぁぁ」


 黒猫(ロロ)は喜んだのか長めに鳴く。

 俺の脛足へ小さい頭をぶつけて、行ったり来たりして甘えてきた。

 そのまま首元から触手を伸ばし俺の首下へ、先端を平たくした触手を当ててくる。


 『仲間?』『遊ぶ?』『楽しい』『大好き』『遊ぼう』『遊ぶ』


 途中から思考が遊ぶことだけになった黒猫(ロロ)

 俺は笑いながら片膝を床に突け、視線の高さを黒猫(ロロ)の視線に合わせてから黒毛の小さい頭を撫でてあげていく。


 黒猫(ロロ)は新しい指の効果か? 

 分からないが、気持ちがいいらしい。

 首元から伸ばしていた触手を引っ込めて、俺の掌へ寄り添うように、目を瞑りながら頭を斜めに傾けていた。


 その求愛のジェスチャーがたまらなく可愛い。

 ゴロゴロと音も鳴らしてきた。


 最後にその可愛いロロの耳を引っ張るようにしてから、撫で終える。


 黒猫(ロロ)は終わり? もっとっ。


 という可愛いアピール顔を向けてきたが、俺が立ち上がるのを見て、ナデナデが終わったと悟ったらしく、二頭の大虎の置物へ紅い視線を向けていた。

 そして、ぽんぽんっと右フック気味の猫パンチ、もとい、肉球タッチを大虎の置物へ繰り出している。


「はは、ロロ、楽しみなんだな? だが、今は少し下がってて」

「ンン、にゃ」


 聞き分けのいい黒猫(ロロ)は前足を引っ込め、俺の足の後ろに移動していた。

 なぜか、尻尾の先を足に絡めてきたが、注意はしない。


「よし」


 二頭の大虎の頭へ掌を置いてから、魔力を直に送り込む。

 すると、大虎の置物と魔力が通じた不思議な感覚を共有した瞬間、颱風の風を身に浴びているような感覚で、俺の魔力が大虎の置物へ吸い取られていく。

 同時に胃の中に重りが入ったような感覚も味わった……。

 <仙魔術>どころか、この間の<光邪ノ使徒>を生み出した以上に魔力を吸われた感覚だ。陶器の置物はほの白い魔力に包まれる。その、ほの白い魔力が陶器の中へ沁み込むと……大虎の陶器に線が走り、陶器から本当の毛が飛び出た。リアルな黄色い毛と白毛と黒毛が波打つように陶器の表面ににょきにょき育ち生える。

 最終的に獣の息づかいが聞こえてきそうな、本物の大虎の姿となる。

 黒と赤が混ざった虎たちの双眸が煌めいた瞬間。

 生命を得たように大虎の胴体、四肢が動く。動いた。


 おぉぉ、迫力がある……。

 黄色い毛、白毛、黒毛の大虎と、白毛、黒毛の大虎。

 その大虎たちは頭を上方へ向けて、


「ギャゴォォォン」

「ニャゴォォォン」


 狼の遠吠えのごとく叫んでいた。

 産声のつもりかもしれない? 

 叫ぶのが終わると、虎たちは左右を見渡していく。

 その様は、自然界の法則を五感でとらえるようにも見えた。


 そして、俺の側に近寄ってくると、目の前で、後ろ脚と両前足を揃えて座る。

 人形のような体勢でジッと俺を見据えてきた。


「……お前たちはアーレイとヒュレミ?」

「ニャァ」

「ニャァオ」


 おぉ、カワイイ、猫声で返事をした。


「ンン、にゃぉ、にゃおお」


 驚いていた黒猫(ロロ)も挨拶をしていた。

 姿をむくむくと豹型へ変えている。

 大虎の大きさに対抗を示すように、いつもの狩りスタイルより大き目だ。


 大虎サイズと同規模。

 大虎たちは黒豹型のロロディーヌに対して、


「ニャア」

「ニャン」


 挨拶の鳴き声を出していた。

 二匹の大虎は続いて、それぞれに頭を垂れる。

 そして、恐る恐るといったようにゆったりとした動作で、凛々しい黒豹姿のロロディーヌへ近寄っていく……。


 獣の縄張り争いか? 

 原生林にいるような野生の虎が放つ剣呑な雰囲気?


 と、思ったが違った。


 二頭の大虎は渋い姿の黒豹(ロロ)へ内腹を見せるように、ドテッと倒れて、その場で寝転がる。


 鋭そうな両前足から生えている爪を引っ込めて、太い両前足を上げての万歳ポーズ。

 大きい肉球をアピールしている。

 これは猫型種族が持つ、万国共通な必殺ポーズ。

 要するにゴロニャンコをやりだしていた。


 はは、面白い。従いますアピールか。


 というか、俺ではなくて黒豹(ロロ)へゴロニャンコのアピールをするとは……。

 魔力を与えたのは俺なんだけどな。


 黒豹(ロロ)は寝転がるアーレイとヒュレミのお尻の匂いを嗅いでいた。

 菊門と共に、大事なところも見せていたので、アーレイとヒュレミは両方とも雌だと分かる。

 魔造虎だから性別に意味はないと思うが。


 ロロのようにおっぱいが出せたりするのかな?


「ンン、にゃ」


 二匹のお尻の匂いを嗅ぎ終えたロロディーヌは、大虎たちへ優しく語り掛けていた。

 母のような顔だ。

 匂いから彼女たちの健康をチェックしていた?  

 その母性溢れる顔付きに、バルミントへおっぱいをあげていた頃を思い出す。


 しかし、この二匹の大虎、どちらがアーレイなんだろう。


「なぁ、黄色と黒色の大虎がアーレイか?」


 と聞くと、その黄色い毛と黒毛を持つ大虎が、ムクッと起き上がり、


「ニャアア――」


 『そうだにゃぁ~』と言わんばかりに鳴いてから、虎らしい力強さを備えた前足の動きで、くるりとその場を回ると、先ほどと同じ、尻尾を丸めながらの後ろ脚を揃えた人形のような体勢となった。


 ふさふさな黄色い毛と黒毛の下にある隠れた筋肉が野性の肉食獣を感じさせる。

 黄色の眼球の中にある黒色の色彩が力強い。

 その眼を縁取る黒毛と、その黒毛を覆う黄色と白が混ざった毛が虎らしい表情を作っていた。

 まぁ、虎だから当たり前だが、鼻も立派な大きさ。

 鼻孔も大きい白鬚も立派。髭の根本は黒い点が無数にある。あの点をツンツンしたい。


 牙もサーベルタイガーのようだ。

 こいつがアーレイ……カッコいい大虎だ。


 虎の中の虎といえよう。

 まさにベンガルトラを超えた大虎だ。

 大虎アーレイは、俺に対し何かを語りかけてくるように見据えてくる。


 この陶器の置物スタイルが基本なんだろうか?


「……そっか、それじゃ、こっちがヒュレミだな?」

「ニャオ」


 もう片方の大虎も渋い……。

 このヒュレミもアーレイと同じようにお尻を床に置いて後ろ脚を揃える。

 両前足を胸前に揃えた体勢となった。

 あの胸元の乳白色のだんだらがいい。

 そのだんだらに黒色が混じり色合いが微妙に変化しているが、二色なので、シンプルなゼブラ模様だ。


 そのだんだらの毛がグリフォンを彷彿とさせる。

 が、そのふさふさ具合が蝶ネクタイをしているようにも見えた。

 顔も羽根のような白毛と黒毛が鋭敏な藤色の眼を縁取っている。

 このヒュレミとアーレイ。二匹の大虎は厚みのある胸を持ち、洗練された筋肉質の下半身だ。

 それは、虎特有の優雅さを感じさせた。


「……二匹とも、分かっていると思うが、俺が魔力を与えたシュウヤ・カガリだ。側に居る黒豹がロロディーヌ。よろしくな」

「ニャァァ――」

「ニャンゴォ――」


 二頭の大虎は、元気よく返事――。

 俺に飛び掛かってくる。


「うぉっ」


 そのまま抱きしめられるように床に倒された俺。

 大虎たちは、澎湃を起こすような凄い勢いで舌を使い顔を舐め回してくる。

 魔造虎といっても、唾が……獣の匂いもそのままだ。

 というか、黒豹(ロロ)も混ざって舐めてくるし、遊びだと思っているらしい。


 三匹とも、撫でてあげてから、


「わかったわかった、離れてな?」 

「ニャアァ」

「ニャンゴン」


 離れていく大虎たち、黒豹(ロロ)はまだぺろぺろしている。


「ロロもだ」

「ン、にゃあ」


 黒豹(ロロ)も離れてくれた。


 立ち上がり、改めて、二匹の大虎たちを見つめていく。

 興奮しているのか喜んでいるのか、見た目は大虎だが……妙に可愛い。

 双眸がキラキラ輝いていた。


「それで、アーレイとヒュレミは、どんな能力を持つんだ?」


 そう聞いた瞬間、大虎は姿が猫と化していた。


「にゃ」

「にゃん」

「ン、にゃああ」


 これには、黒豹の姿だったロロディーヌも喜ぶ。

 黒猫の姿へ戻ってから、二匹の側へ駆け寄っていた。


「猫にもなるんだ。素晴らしい」


 黄色い毛と黒毛の猫はアーレイ。

 眼の色は黄色の眼球の中心に黒の色彩を持つ。


 白毛と黒毛の猫の方はヒュレミ。

 藤色の眼球の中心に黒の色彩を持っていた。


 猫の姿でも虎の姿でも眼の色はあまり変化がない。

 触手もないようだが……。


「……これからはロロの姉妹?」

「ン、にゃお」


『そうだニャ』というように、ドヤ顔の黒猫(ロロ)さんであった。


「ニャアァ」

「ニャンゴン」


 アーレイもヒュレミも、黒猫(ロロ)の顔を真似するように、ドヤ顔を繰り出す。


「……ロロ軍団よ。他に何ができる?」


 その瞬間、アーレイとヒュレミは猫の小型置物と化した。

 見た目は最初と同じ陶器製。

 大虎とはサイズが違うので、ストラップ的なアクセサリーにできそう。


 縹緻(きりょう)よしの猫ちゃんたちだ。


「……ということは、大虎の置物にも、戻れるということかな」

「ン、にゃぁ、にゃん」


 黒猫(ロロ)は置物になったアーレイとヒュレミへ猫パンチを当てる。


「ロロ、壊しちゃだめだぞ、ま、頑丈だと思うけど。姿は自由に戻せるのか?」

「……」


 置物は返事がない。触らないとダメなのかな。

 と、腕を伸ばした時、猫の陶器に線が入り毛が生まれ出す。

 瞬く間に、生きている猫となった。


「ニャアァ」

「ニャンゴン」

「よ、お帰り」


 二匹は黒猫(ロロ)と小鼻を合わせる挨拶をしてから、俺の膝へ頭をぶつけてくる。


 大虎の変身は後で確認すればいいか。

 皆にも紹介しておこうとリビングへ向かった。


 イザベル、クリチワ、アンナに弄られながら中庭へ移動。

 中庭で模擬戦をしている皆へ、二匹の新しい大虎&猫のことを説明した。


「素晴らしい! 魔造虎とは、猫ちゃんでもあるんですねっ。ロロ様と同じくわたしの水を気にいってくれるでしょうか」

「可愛い猫ちゃんたちなので、精霊様の清水もきっと気に入るはずです」


 ヘルメとヴィーネが長い両膝を抱えながら語る。

 アーレイとヒュレミの猫ちゃんたちと視線を合わせていた。


「ロロちゃんの新しい仲間なのね。可愛い~」

「リュリュを思い出すな……素晴らしい毛並みだ……」


 カルードも興奮していた。 

 しかし、リュリュ? 昔飼っていた猫だろうか。


「わぁぁ~、猫ちゃんたちです~」

「親近感を覚える色合いだ」

 ママニが、アーレイの毛並みを見て呟く。

 確かに彼女は虎獣人(ラゼール)だ。

 見た目といい、大虎姿のアーレイと似ている。


「これが主人の新しい魔道具、魔造虎なのか? 不思議だ、猫にしか見えないぞ」

「ニャアァ」

「ニャンゴン」


 アーレイとヒュレミは、やんややんやと注目を浴びている。

 さて、あの可愛い猫ちゃんたちは、ヴィーネ、ユイ、ヘルメ、サザー、ママニ、フー、といった女性陣の中で、誰を一番に選び気に入るのかな? と見学。

 すると、アーレイとヒュレミの二匹の猫ちゃんは、蛇舌を出している蛇人族(ラミア)のビアの足元へ移動していく。


 ビアか。意外。


「我の舌に興味があるのか?」

「ニャ、ニャァ」

「ニャゴ、ニャゴ」


 あの舌へじゃれたいらしい。


「ビア、猫たちの前でその舌は出さない方がいいかもな、猫パンチが飛んでくるぞ」

「ムムム、承知した」

「それじゃ、アーレイとヒュレミ、こっちに来い」


 猫たちを、呼び寄せて頭を撫でてから、


「大虎の姿を見せてやれ」

「ニャ、ニャァ」

「ニャゴ――」


 大虎の姿に変身させる。皆、当然驚いてママニは武器を構えた。

 そこに大虎のアーレイが同じ色合いのママニに親近感を得たのか、飛び掛かっていく。


「ひぁぁ」


 ママニは変な悲鳴をあげながら大型円盤武器のアシュラムを構えた状態で体が硬直したまま地面に押し倒される。アーレイに顔を舐められていた。

 両方とも雌虎だが、なんだろう、怪しい関係に見えた。否、アーレイが大きいからか。


「よし、アーレイとヒュレミ、こっちに来い」

「ニャァン」

「ニャゴ」


 アーレイとヒュレミは揃って俺の前に待機。


「よし、とりあえず、暫くは、この屋敷の門番として頑張るのだ」

「ギャゴォォォン」

「ニャゴォォォン」


 遠吠えのごとく鳴いて元気よく返事をする大虎たち。

 その後は、置物の姿に戻ってもらい、その大虎の置物を大門の横へ設置。


 守り神的に、神社を守る狛犬系だ。


 しかし、自由に活動を許可したので、アーレイとヒュレミは大虎の姿に戻っていた。

 大虎の二匹は滑らかな四肢の動きで俺の身体に頭をぶつけてから、ポポブム、バルミント、ロロディーヌたちが休む厩舎前へ歩いていく。


 ポポブムが起きて法螺貝を鳴らしてから、大虎たちを出迎えていた。

 バルミントが少し驚いて出迎えたポポブムの後ろに隠れる……。


 竜が魔獣の後ろに隠れてどうするよ? 


 と、少しバルミントの将来を心配したが、ま、動物園の新しい仲間として仲良くなるだろう。

 厩舎の掃除を行っていた使用人たちも、大きい虎の姿を怖がってあまり近寄っていかない。


 少しフォローするかと思ったら……小柄なミミが、


「ご主人様の新しいペットたちです、大丈夫ですよ」


 と、気丈に語るミミ。

 胸を張ってアーレイのもとへ歩いていく。

 彼女は手を震わせながらも……大きい虎の喉元を優しく撫でていた。

 ……勇気あるなぁ。アーレイはゴロゴロ音を鳴らし始めた。


 ミミは隣のヒュレミの喉も、撫でていく。


「ニャアン、ニャン」

「ニャオン、ニャン」


 アーレイとヒュレミは撫でていたミミの気持ちに応えたいのか。

 ドテッと、その場に倒れてゴロニャンコをやり始める。

 他の使用人たちも、その可愛らしい姿を見せるアーレイとヒュレミの大虎たちに感動したのか、それとも、ミミの行動に勇気づけられたのか、分からないが近寄っていった。


 門番は無理そうだな。

 泥棒がきてもゴロニャンコで、出迎えて、撫でろと仲良くなってしまうかもしれない。複数の手に撫でられていたアーレイとヒュレミたち。

 やがて、興奮したのか、撫でられていた使用人たちのもとから離れて……じゃれ合いだしていた。先ほどの、のほほんとした雰囲気ではない、大虎のじゃれ合いだ。唸り声をあげながら、噛み付き、抱きつき、猫フックパンチを繰り返す。


 その猛獣VS猛獣の獣染みた様子を見た使用人たちは、顔を青ざめさせていた。逆に安心だ。あれなら門番を任せても大丈夫そうだなと。

 さて、動物園タイムは終わりだ。

 夜までぶっ続けで新しい腕を活かした槍&色々な武器の訓練をやろうかな。

次話、25日、0時更新予定です。

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