二百三十五話 相棒のマッサージとツアンとピュリン
さて、大魔石と様々なアイテムを回収だ。
この……十天邪像もな。
「わたしも拾います~」
<光邪ノ使徒>リリザも手伝ってくれた。
「邪神の使徒は体内に物を仕舞っていたが、お前も可能なのか?」
「はい、邪神の使徒だった時のような巨大な袋は無理ですが、小さい肉箱なら生成が可能です」
彼女は浅黒い腕の皮膚を左右へ拡大させると、本当に小さい箱のような腕の形に変化させてきた。
肉箱……か。
「……少しでも便利な能力だ」
「荷物はお任せください、使者様♪」
「俺はアイテムボックスがあるから平気だ。その肉箱は自身で使うといいだろう」
「はーい」
そんなやりとりをしながら彼女が拾っていた魔石を手渡される。
魔石が大量に入った皮袋をアイテムボックスの中へ仕舞った。
そこに、
「ン、にゃお、にゃ~」
黒猫だ。黒豹から猫の姿に戻っている。
『倒したぞお、あいぼうよ』といった調子か分からないが、そんな調子で鳴きながら傍に寄ってきた。
まん丸お目目は勝り顔。
「ロロ、あの大型の犬魔獣をよく仕留めたな。偉いぞ~」
黒猫は上向いた視線を維持しながら、
「にゃん」
と、小声で鳴いてくるりと回って跳躍。
肩の上に飛び乗ってくると、俺の肩と首に引っ掛けた触手を使って姿勢を直す。
最後に耳朶を触手の肉球でパンチする悪戯を寄越す。荒い鼻息が可愛いから許した。
黒猫は俺に甘えたいのか、顎や頬へ小さい頭を擦り当ててくる。
そのまま舌でペロッと頬を舐めてきた。
ざらついた感触を頬に受けた。
それが、また可愛い――。
お返しに黒猫の喉を指で持ち上げるように、喉の毛を伸ばすように、撫で撫で――。
ついでに、頬を摘まんでやろうって感じで、撫で~と毛を横に広げつつの、小さい黒猫の頭部で変顔を作るように、その黒猫の頭部を両手でギュッと横からサンドイッチ。
「あはは」寄り目気味になった黒猫の変顔が完成~と、頭部の薄い頭部の毛を指の腹で伸ばしては――耳を引っ張るマッサージ。そして、耳からまた、頭の天辺に指を戻して頭部を撫でていった。
この頭に生えている短い黒毛ちゃんの感触も――。
また、たまらない。
黒猫は気持ちよさそうに目を細める。
ゴロゴロとした喉の音を鳴らしてくれた。
俺のごろにゃんこテクニックは上がっていると自負がある。
黒猫も『至福にゃお~』といったように眠るように目を瞑った。
撫でている指に体重を預けて寄り添ってくるのが、また可愛い。
ゴロゴロの喉音が大きくなった。
そして、再び、耳のマッサージに移る。
と、リリザが満面の笑みを浮かべつつ、まったり顔の黒猫を見て、
「……犬っころを倒した可愛い猫様ですね」
彼女はココアミルク肌を持つ美人さんだ。
しかし、今さっき倒した邪神側のリリザとまったく同じ顔だから複雑な気分。
ま、新しい仲間だ。慣れていかないとな。
そういえば、彼女に対してちゃんと名乗っていなかった。
とりあえず、名前だけでも教えとくか。
癒やされる自らのアニマルセラピスト活動を中断。
「……そうだ。可愛い相棒のロロ。そして、俺の名はシュウヤ・カガリ」
「ン、にゃ」
黒猫も肩の位置から挨拶。
肉球を見せるように宙へ猫パンチを振るう。
黒猫なりの挨拶だ。
「ロロ様と使者シュウヤ様ですね。ご存じの通り、わたしは新たに生まれ出ました<光邪ノ使徒>。そして、リリザ、ピュリン、ツアン、という三つの名を持ちます」
三つの名前か。
「<光邪ノ使徒>か。名を三つということは、その三つへ変身が可能なんだな?」
「はい、可能です」
彼女の能力は気になるので聞くか。
少し遅くなるが、金髪女性を守っているヘルメのとこに戻るのは後にしよう。
「変身は三つだけか? 一日どれだけとか回数制限は? デメリットとか」
「人型は三つのみですが、回数制限はないです。形もある程度弄れます。デメリットは他の魂、能力を取り込めなくなりました」
へぇ、邪神系の力は失った?
いや、ピュリン、ツアン、リリザ、の三人へ自由に姿を変えられるのだから完全に邪神の力を失った訳じゃないのか。
それでいて彼女とは特殊な繋がりも感じる。
<光の授印>の干渉を受けて<鎖の因子>から派生した<霊呪網鎖>で邪神の力を一部奪い光邪ノ使者としての称号と戦闘職業を得たように、彼女も俺の眷属の<光邪ノ使徒>になった。
新しい眷属の知的生命体が誕生したということだろう。
「……<光邪ノ使徒>よ。お前と繋がりを感じている。が、あえて聞こうか。邪神ニクルスの第三使徒として、力を振るえないのは、いやじゃないのか?」
「いやじゃないです。邪神の使徒だった頃の記憶は僅かに残っていますが、特に何も感じません。<光邪ノ使徒>として、力を振るえることの方が重要です。使者様♪」
語尾にウィンクしてくる。
「……そか。それで、さっきの話に戻るが、その変身は、人以外にも可能なの?」
「はい、可能といえば可能です。元、昔の姿に戻れたり……使者様の魔力が必要ですが、他にも……」
昔の姿?
「……それは、どんな姿だ」
「はい、では、使者様に初披露しますっ。こんな姿なのです――」
嬉しいのか明るい口調で変身を行う<光邪ノ使徒>。
そのまま顔が崩れるように身体が萎んでいくと……。
うはっ、驚き。
妙に肌艶がいい黄金色の小さい芋虫、毛虫? になっていた。
「……それが真の姿か……元は黄金色の芋虫だったのか?」
「チュイチュイ」
<光邪ノ使徒>の芋虫は、上半身をくねらせて上向かせる。
頷くように動いていた。
「にゃぁ、にゃんあーーん、にゃお」
肩で見ていた黒猫さんが芋虫に反応してしまう。
素早く地面に降りた黒猫。
肉球パンチは繰り出さないが、黄金色の芋虫へと鼻先を寄せた。
興味津々というように、くんかくんかと、小鼻を忙しなく動かして黄金色の芋虫の匂いを嗅いでいる。
「……ロロ、食べちゃだめだぞ、一応は俺の部下? みたいなもんだからな」
黄金色の芋虫こと<光邪ノ使徒>は黒猫に匂いを嗅がれて、恐怖したのかダンゴムシのように固まった。
「にゃお」
黒猫は『分かってるにゃ』的に鳴く。
しかし、猫パンチを黄金色の芋虫に当てたいようだ。
ウズウズしているように見える。
「……その状態だと、言葉は話せないようだが、俺の言葉は理解できているんだな?」
「チュイチュイ」
イモムシは固まっていた身体を柔らかく動かす。
上半身をくねらせ返事をしていた。
芋虫の先端をよく見ると、小さい複眼と小さい円形の牙を生やしたモノがついているので、イモムシも可愛いかもしれない。
口から糸とか吐けそう。能力的なことを聞いておくか。
「その状態だと、どんなことが可能なんだ?」
「チュイチュイ~♪」
その瞬間、イモムシこと<光邪ノ使徒>は毛虫の機動で胴体を間延びさせる。
俺の右手から甲の部分にくっ付いた。
くっ付いたイモムシは俺の指を象り擬態。
え? 指だと?
「にゃぁ~」
黒猫も驚いている。
突然手の甲の上に指が生えたからな……。
指が一本立ちしている。
しかも本物の指の感覚があり、操作も可能という……。
すげぇ。俺は確実にミュータントだ。
しかし、指が一本だけなので、魔法の指輪が余分に装備できるぐらいか?
まぁいい、とにかく、新しい力なのには変わりない。
「……他にはどんなことが可能だ?」
「……」
指と化したイモちゃんこと<光邪ノ使徒>は喋れないが、指を上下に動かして、可愛く返事。
お、いいねぇ、まだ他にも能力があるようだ。
人差し指に擬態した<光邪ノ使徒>のイモちゃんは、さり気なく俺の魔力を吸い上げる。
むくむくっと膨れて、もう一つの腕に変化を遂げていた。
……マジか。すげぇ、指よりすげぇ。
右手の甲の上に右腕が乗っているという。
さすがに<鎖の因子>のマークは再現されていないが、それ以外は完璧に俺の右腕だ。
……これは嬉しい。ついに三つ腕の槍使いになれる……。
この手首は長さを伸ばせるのだろうか。だとしたら、背中に生やすか?
それとも手首の上あたりから生やしてギミック的な分岐腕を作るか。
悩みどころだ……。
宴会芸として額から腕か指を生やして、驚かせるのは、十分ありかもしれないが。
「……しかし、魔力をかなり消費するな……この腕化は……」
「……」
クイクイッと手首までしかない第三の腕を動かす<光邪ノ使徒>イモちゃん。
今、思えば、邪神の第三使徒だったが、俺の第三の腕のイモちゃんになる運命だったのかもしれない。
他にも能力があるのかな。
「イモちゃんよ、他にはどんなことが可能なの?」
彼女は五本の指を使い指パッチンを行い、小気味いい音を響かせる。
それだけ? と、思ったら、その指が萎み腕が変形して人の頭に……。
さっきの男だ。ツアン。口が動いていく。
「……これはいったい……俺の体はどうなっちまったんだぁ? 何で、頭だけなんだよ? しかも、さっきから不思議な声が頭に響くのは、何なんだぁ」
俺のほうこそ、どうなっちまったんだ。
と、言いたいんだが……。
右腕から男の頭を生やすという構図……。
宇宙人よりヤヴァイ。
黒猫も腕から人の頭を生やした光景に吃驚。
背中の毛を逆立てて触手から骨剣を出し入れしている。
「……えーと、ツアンさん? ですよね」
「そうだ。俺の名はツアン。そういう旦那は……光邪の使者であり、シュウヤか、頭から響く声がウザイ、今は黙れっ、怪物が!」
……ツアンさん、自分の脳に語り掛けようとしているのか、目が、寄り目に……アンタも怪物だ。と、素直に突っ込めない俺がいる。
「……ツアンさんの精神意識か脳内の松果体にいるイモちゃん。暫く黙っててやれ」
意識は脳にあるのか?
と、タイムリープのφ理論で考えると、意識が三つだと膨大な情報量のはず……。
情報統合理論の小難しいことが一瞬、脳裏に浮かぶが、流した。
「……はいー。とか声が内部から聞こえた……。ふぅ、静かになったのか。ところで旦那、俺はなんで頭だけで、旦那の腕から生えているんだ?」
「あぁ、その前に……」
彼はイモちゃんと脳内で話せるようだが、イモちゃんことリリザ経由の視界と心の全てを共有しているわけじゃないらしい。
別の魂だからかもしれないな……主軸で動いているのはイモちゃんことリリザの方だと思うが。
「……ツアンさん」
「敬語はいいよ、旦那」
「わかった」
俺の了承に、ツアンの頭部は頷く。
「イモムシのリリザが表に出ている場合は、その内容を覚えていない?」
「腕、指、黄金芋虫状態だと、外の内容を知れる場合と知れない場合があるようだ。その時々で変わるらしい。この身体の主導権は、その芋虫ことリリザが握っている……」
語尾が不満気だ。
つまり主人格がリリザ、副人格がツアンとピュリンということか。
そこでツアンに自己紹介してから、経緯を話していく。
「道理で黒猫を連れているわけだ……旦那は、あの槍使いと黒猫か。魔槍使い、紫の死神と呼ばれていた……狂騎士を倒した槍使い。俺たちの【夕闇の目】を潰した【月の残骸】の新たなる総長。皮肉だ、皮肉すぎる……愚痴っていた相手の腕に生えるとは……俺は更生しようと、少し、頑張ろうとしたんだよっ。でも、なんで化け物に喰われて、死んで、旦那の腕に生えているんだよぉ! あぁぁぁ、これは悪夢か? そうだ、悪夢なんだろ?」
ツアンは泣いている。
可哀想だが……そこも皮肉だ。邪神ニクルスの使徒リリザが相手だったからな。
クロイツと三つ巴。いや、ナロミヴァスもいたから少し異なるか。
「申し訳ないが、現実だ。ツアン、悲観せず、新たな生を得たと思え。俺の眷属だが<光邪ノ使徒>としての力はお前にも宿っているのだからな」
「……そうだが、そうだがよぉ……俺は頭だけになっちまったんだぞ……俺の体は自由になるのか?」
「そこは、お前自身が主導権と言ってたように、お前の脳にいるイモちゃんことリリザに聞いてくれ」
「わかった……」
ツアンはまた目を、寄り目にして脳内会話を始めていく。
ヤヴァイ……面白い顔なので、笑ってしまう。
「……なるほど、離れることはできないが俺の身体はちゃんとあるのか。安心した。そして、旦那に対しても、家族を超えた不思議な繋がりを強く感じる。これが<光邪ノ使徒>……旦那、俺は元闇ギルドだが、元教会騎士でもあったんだ。その経験を生かせる方面なら旦那の手助けができる。旦那は強いから必要ないかもしれないが、ま、これからも宜しく頼むよ」
ツアンはイモちゃんと話をして落ち着きを取り戻したらしい。
「おう、これからも宜しくな、ところで、もう一人ピュリンとかいう女性も居たよな」
「そのようだ。一旦リリザに戻そう」
ツアンの頭部は一瞬でリリザに変化した。
「――ただいまです♪」
可愛らしい声だが、腕から生える銀髪の女の頭部だ。
「おかえり、で、もう一人変身が可能なんだろ?」
「はい、変身します――」
銀髪から金髪に変形。
額にも入れ墨がある。薄青い瞳。
明るい頬紅、この子も美形だ。
頭だけだけど。
「こんにちは、ピュリンです」
「やぁ、ピュリンさん。君も<光邪ノ使徒>の一部なわけだけど、理解はできているかな……」
「理解といいますか、絆、貴方とは深い絆を感じます。先祖を超える……絆。不思議です。それから頭の中から説明してくれる声が響いてきますので、ある程度は……」
「リリザ、今は静かに」
「あ、聞こえなくなりました。でも、わたし食べられて死んじゃったのに……生きている? しかも、今は頭だけという……」
辛そうだが、俺が知る真実を。
「……そうですね。ピュリンさんは邪神の使徒に喰われ取り込まれていたが、偶然、俺の<光邪ノ使徒>として復活できた。ということです」
「……はい。丁寧にありがとう。でも、使者様と感じる方からの敬語は恐縮します」
「了解。ピュリン、これでいいか?」
「はい。でも、偶然とはいえ、こうして生きていられるのは嬉しい。そして、先ほど言いましたが、貴方様から今まで感じたことのない、セレレ族の家族を超えた……特別な繋がりを感じます……」
本心で語っていると分かる。
温かい感情らしきモノが微かに伝わってきた。ツアンとはまた違うのか?
「わたしにできることがあれば何でも言ってください。どんなことでもします。戦いならセレレ族特有の骨針を使った技術と、Bランク冒険者としての経験を生かし頑張りますので」
どんなことでも……か。可愛いピュリンに言われると嬉しいな。
そして、冒険者のBランクか。あの試験を通過したのなら、個人としての強さはまぁまぁといえるのかな。
「そうか、ツアン共々、宜しく頼む。ではリリザへ変わってくれ」
「はい」
ピュリンの顔が蠢き変形――。
イモちゃんのリリザの顔ではなく、新しい腕となって表れる。
「人型になっていいぞ、リリザで」
親指と人差し指を合わせたOKマークを作るイモちゃん。
腕状態からにゅるりと肉を蠢かせて地面に降り立つと人型へ変身していく。
変身に時間は少し掛かるが、リリザの姿に戻っていた。
「使者様、ただいまです」
彼女は邪神の第三使徒だった頃の僅かな記憶があると語っていた。
なので少し聞いてみるか。
邪神ニクルスとはどんな奴なのか、興味がある。
「おう、それで邪神の第三使徒だった時の記憶の件だが、その邪神ニクルスとは、どんな神だったんだ?」
「カブトムシのような頭蓋を持ち、全身が分厚い骨を基礎に、腐肉のようなモノで覆われているんです。普段は邪波霊布衣で身体を巻いています」
カブトムシのような頭蓋か。五階層、十階層と、俺たちが進んだ二十階層にあった邪神像の遺跡の邪神像にそんな形のがあった。
「ママニたちを襲った理由的な記憶は残っている?」
「はい、中々の強者だった虎獣人と遭遇したのは、冒険者集団を騙し喰った直後だったと思います。単純に美味しそうな匂い、能力を吸収したら強くなれるかも♪ という思考でした」
なるほど。想像できる。
「……第三使徒は魔石とかアイテムを回収していたようだが、何か目的があったのか?」
「はい、魔石は魔力の源にもなるので邪神ニクルスの好物でした、魔石は鉱物のように見えますからね♪」
ウィンクは癖か? 洒落も無視した。
「他に覚えている記憶は?」
「はい、二つ。一つはわたしの原初、最初の記憶。昔はただの黄金芋虫型モンスターのゴールドセキュリオンでした。フバーフの森で、葉、実、昆虫を食べる日々を送る生活をしていた時です。突如、到来した邪神ニクルスにより様々なモノたちを食べて吸収する不思議な力と、その吸収して強さを得られる喜びを獲得しました。その直後、近くで狩りをしていた冒険者であった人族を食べて吸収したのですが、その相手がリリザだったのです。そのリリザとわたしが強く融合しました。今もその癖を含めて色濃く残っています」
リリザの元か。
「もう一つは?」
「二つ目の記憶は、迷宮十五階層で起きた三つ巴の争い」
「三つ巴?」
さっきの戦いが脳裏に浮かぶが……。
「はい、魔王級モンスターのエグワードメタルVS邪神の使徒たちVS多数の人族の冒険者たち。三グループの乱戦の記憶です。第一使徒ケルビムは無事でしたが、第四使徒アザハトと第五使徒ド・アル=デレルは石化、石板の中に閉じ込められてしまい、第二使徒のマアムドも右腕を石にされて負傷するという大激闘でした」
なんで戦っていたんだろう。
「何で十五階層で戦いを? 魔王級とは? そもそも十五階層とは?」
ココアミルク肌を持つ銀髪のリリザへ矢継ぎ早に質問していく。
「十五階層はニューワールドと呼ばれています。魔王級とは、エグワードメタル、バルバロイの使者、その他、無数に居るニューワールドで影響を与えている邪神ニクルスの大いなる敵の一つ。冒険者たちも敵です。冒険者側も魔王級のエグワードメタルとは争っているので、三つ巴の戦いになりました」
十五階層も二十階層のように別世界か。
ということは二十階層にもニューワールド的な名前があるのかも。
ニューワールドで暮らす人々も二十階層で暮らす邪族の方々のように三つ目の姿なのだろうか? その人族のことが気になる。
「……その冒険者の人族、見た目は俺のような? 三つ目とか四つ目は居た?」
「使者様と同じ二つ目ばかりだと思いますが、全てを知っているわけじゃないので分かりません。人族は、十五階層における主だった勢力の一つ、とだけ」
なるほど、十五階層も地球のような星がそのままあると思えばいいか。
邪神シテアトップも言っていたからな、広大と。
「その邪神ニクルスの使徒の数は?」
「邪神ニクルスの使徒は全部で六。現在はわたしが抜けたので、第一、第二、第六だけかと思います」
その使徒たちにも別の争いがあるなら、俺にちょっかいを出してくる確率は低いか?
いや、どうだろう、リリザの記憶にはないが、彼女と仲が良い使徒がいたかもしれない?
だから、探しに来る可能性はあるか。
話せるなら話してもいいが、戦うなら……。
「……そういうことか、話を聞かせてくれてありがとう。とりあえず、指に擬態してくれ」
「はーい♪」
リリザは黄金色のイモムシに変身すると、バネが伸びるように右手の掌に移り、親指と人差し指の間に移動。
そこでまた、指へ変身。新しい指となってくれた。
感覚もある、真新しい指。
――思わず目元に運び、マジマジと見た。爪といいリアルだ。
「……ロロ、ヘルメのとこに戻る」
「ンン、にゃ」
肩に黒猫を乗せてからヘルメが守る金髪女性の場所へ戻った。
◇◇◇◇
ヘルメは俺が戻ってくると笑顔で出迎えてくれた。
彼女が守っている金髪女性はまだ寝ている。
しかし、この状態だと水牢魔法により逆に捕らわれているように見えてくる。
「閣下、お帰りなさい」
「ただいま。【悪夢の使徒】の首謀者を潰した」
「邪教徒を率いていた魔族を滅したのですね。わたしも氷杭でお尻を突き刺したかったです」
あぁ、君子はその罪を憎んでその人を憎まずというが、無理だな。
俺も血を好む濁側の怪物だが、無実の女性を捕らえて犯し、喜んで食い殺すという者たちは許せない。
「……もうこの都市で如何わしい儀式が行われることは当分ないだろう。邪神の使徒の方は、一部を吸収して仲間にしたが」
「仲間とは……さっき、分裂していたモノですね?」
「そそ、この指のように変形もできる」
ヘルメに新しい指を見せる。
「えっ、指が六本に!」
「さらに、腕化、頭を生やしたり、銀髪の分裂していた女を含めて、人系の三人に変身が可能だ」
「そ、それは……驚きです」
「ンン、にゃん、にゃぁ~」
黒猫もドヤ顔で鳴く。
少し見せるか。指を意識して腕化を起こす。
「わぁ……本当に閣下の手にもう一つの腕が……凄い。より強く進化を果たされたのですね。嬉しい……身が震える思いです」
彼女は本当に全身の黝い葉と蒼い葉を震わせてウェーブを起こしている。
何か、前にもこのやり取りをした覚えがあるぞ。
「皮膚が本当に震えているんだな」
俺の問いにヘルメは何度も頷く。
そのまま興奮して水飛沫を全身から放出しながら近付いてきた。
俺の新しい手を触りだす……彼女の掌は柔らかい。
そのまま掌を握ってあげた。勿論、恋人握り。
「ふふっ」
精霊さんらしいビューティな笑顔を浮かべる。
あの長い睫毛と大きい目はいつ見ても綺麗な女性だ。蒼い葉を持つ精霊さんだけど。
癒される。
「ん……」
そのタイミングで地面で寝ていた女性が目を覚ました。
「……ここは? ついに、セウロスへ至る道に辿りつけたのだろうか……。正義の神シャファ様のもとへ……あれ……生きている? 身体が回復、だと? 喰われていなかったのか?」
俺はヘルメへ視線を向ける。
彼女との恋人握りを止めて、新しい腕を指へ戻してから、
「魔法を解け」
ヘルメへ指示を出した。
「はい」
金髪女性を覆っていた水牢が消える。
「起きたようですね、俺はシュウヤという冒険者でBランク。貴女を傷つけていた男、【悪夢の使徒】の首謀者と思われるナロミヴァスを殺しました」
「何だと!? あの魔人を……貴方、シュウヤ殿とそこの女性だけで倒したのか!」
興奮して喋っている女性は、立ち上がりながら周囲を見渡す。
「にゃおん」
肩に居た黒猫が鳴く。
『わたしも頑張ったニャ』かもしれない。
「おぉぉ、なんという可愛い黒猫……。つぶらな紅い目」
「戦いに参加していた相棒のロロ。ロロディーヌが本名です。そして、左で見ているのがヘルメ」
「……了解した。ロロ殿は強い猫なのだな。そして、ヘルメ殿もありがとう」
「いえ、わたしは何も。閣下の指示に従ったまで」
常闇の水精霊ヘルメは見た目を服を着ているように変化させている。
「閣下……? ヘルメ殿はシュウヤ殿の部下か。Bランク冒険者ということは何処ぞの大規模なクランなのか?」
「いえ、パーティで仲間も居ますが、そこまで大規模ではないのです」
イノセントアームズは小規模。
だが、迷宮の二十階層の地を踏んでいる冒険者は俺たちのみだろう。
「シュウヤ殿は獣魔使いか、スキル系の使い魔か。どちらにせよ……この服といい身体を……命を助けていただいたのは事実。本当にありがとう。ああぁ、失礼したっ。名前を名乗るのを忘れていたぁ」
そこで頭を抱える金髪の女性。
「気にせずに……」
「いやぁ、とんでもない。わたしの名はイヴァンカ。正義の神シャファを祭る神殿にてシャファの戦巫女を務めている者。そして、命の恩人であるシュウヤ殿にお礼がしたい。ここでは何もできないので、是非とも、シャファ神殿に来てくださらないか?」
そうは言うが、今は家に帰って報告したいからな……。
「……お礼ですか、お気持ちだけで十分です。俺たちは仲間のところへ戻ります」
「……そこを何とか、このままでは忘恩のそしりを免れない。それに、わたしの滾る思いを……」
碧と金を混ぜたような瞳を潤ませる。女らしい表情だ。
……顔に傷が残る美女にそう言われると、断れないな。
「……分かりました。シャファ神殿までお送りする形として、ですが……よろしいですか?」
「それではお礼にならん。だが、いい。とにかく、お礼がしたい……」
「分かりました。では出口まで行きましょう。ヘルメ、左目に。ロロも変身」
「はい」
「ンン、にゃ~」
肩から跳躍し地面へ着地した黒猫。
むくむくっと身体を大きく成長させる。
馬と獅子とを併せ持つ流線形の凛々しい頭部を持つ、頼もしい黒き獣の姿へ変身していた。
ヘルメは一瞬で水化。
俺の左目の中へスパイラルしながら納まった。
「なにぃ、変身とは……凄腕の獣魔使い系なのは確実か。久しぶりに見たぞ、変身する獣を。それにしても黒毛が綺麗、艶やかそうだ……そして、シュウヤ殿の左目の中にヘルメ殿が……」
イヴァンカは口をわなわなと震わせて、呆気に取られていた。
「できたら内密にしてくれたら嬉しい」
「勿論! ――きゃぁ」
突然、おっぱいをぷるるんと揺らし悲鳴をあげるイヴァンカ。
そう、彼女は馬獅子型黒猫の触手に腰を巻かれて持ち上げられていた。そのまま黒毛がふさふさな背中へ運ばれる。
俺も鞍馬競技を行うように馬獅子型黒猫へ跳び付き、黒毛がふさふさな背を跨ぐ。
触手の手綱を掴む、と、同時に感覚を共有する。
「シュウヤ殿、その……」
彼女は背後から遠慮がちに、俺の背中に抱き着いていいのか聞いてくる。
「いいよ」
そう、クールな顔で答えたが……。
背中にあるおっぱい研究会の素子たちが蠢いている。
「そうか、ではっ」
彼女が腕を腰に回して抱き着いてきた。
いいねぇ、おっぱいの弾力がたまらない……隠れ巨乳のエヴァ並みとみた。
背中にあるイヴァンカの柔らかい感触を楽しみながら、
「……ロロ、出口は覚えているな? この陰気な場所とはおさらばだ」
「にゃぁ」
馬獅子型黒猫は力強い四肢の動きで地面を蹴ると、飛ぶように駆けだしていく。
――茜色の洞穴を突き進む。
彼女がいるから爆発的な速度じゃない。
大丈夫だとは思うが、かなり速い。
――シャファ神殿の戦巫女とはいえ、失神しちゃうかもしれない。
ぐいぐいと洞窟を突き進む相棒は速い。
他から見たら、狭いトンネルをジェット機噴射を備えた巨大バイクに騎乗している印象かも知れない。
駆けていく洞窟の中の視界は狭まったようにさえ感じる――。
そんな視界だが、俺の動体視力は光魔ルシヴァルとして格段に上がっている――。
ステータスの筋力、体力、敏捷、魔力、精神、器用、どの範疇に入るか分からないが――単に魔眼を備えた双眸ってだけか?
そんなことを考えながら――。
洞窟の隅に邪教徒が残っていないか――と、入念に視線を巡らせていった。
2020年9月14日0時22分、修正




