二百二十九話 混沌を進む処刑人
2020年9月13日、色々と修正
四方八方へ蜘蛛の子を散らすように逃げている女性たち。
洞穴通路の奥から松明と魔法の明かりが多数、浮いているのが見えた。
あの明かりは追手か?
追手から逃げている女性たちは必死な顔色だ。
「姉さんっーーーレムロナ姉さん! どこ?」
「レムロナは居るか!」
「レムロナさん!」
「ン、にゃ〜」
逃げている女性たちは、俺たちが叫ぶレムロナの名前に反応を示さない。
その逃げている女性たちの恰好は様々だ。
種族も様々、奴隷の首輪を装着している女性、生まれたばかりの赤ん坊を両手が拘束を受けている状態で胸に抱えている女性もいた。
その女性が転んで赤ん坊を手放してしまう。
急ぎ、足に魔力を溜めて――。
瞬時に前傾姿勢で前進――。
その赤ん坊を両手で拾い上げた。
「おぎゃぁ」と、赤ちゃんは鳴くが、小さい体はどこも痛めてはいないようだ。
よかった……。
頭を直撃していたら死んでいたかもしれない。
赤ん坊を見る。
その赤ん坊は、俺の瞳を見て、ピタリと泣き止んだ。
可愛らしい蝸牛のような拳を開く。
掌を広げて、俺の手を掴んでから、反対の小さい手で俺の頬を触ろうと伸ばしてくる。
「俺の顔に何かあるのか?」
怖がらせないように笑顔を作ったが……。
大丈夫かな。
額に薔薇のマークがある赤ん坊。
「パァパァ、パァパァ」
と、言い出し、可愛い小さい目で瞬きを繰り返した。
「そこの御方、ありがとうございます――」
奴隷の首輪をしている母親だ。
母親の額には薔薇のマークはない。
彼女の両手を拘束する枷を解いた。
まだ「パァパァ、パァパァ」と喋る可愛い赤ん坊を彼女に返してあげた。
「逃げる道は暗いですが、ちゃんとあります。気を付けてください」
「ご親切に、では」
赤ん坊を抱えた母親は、逃げ続けている女性たちに交じる。
あっという間に見えなくなった。
フランは逃げる女性たちの顔を一つ一つ確認している。
逃げている女性の中に、姉のレムロナはいないようだ。
『レムロナはいませんね』
『あぁ、奥だろう』
ヘルメと脳内会話をしている間にも、逃げている女性が上手く走れずに躓いて転んでいる人もいた。
「大丈夫ですか?」
「ひぃぃ」
手を差し伸べるが、逆に怖がらせてしまった。
「大丈夫です。この方は味方ですから」
ユイが俺に目配せした。
ここはわたしに『任せて』とアイコンタクト。
俺は黙って頷く……。
この状況じゃ、俺の存在は逆に女性たちを怖がらせるだけか。
素直に彼女へ任せよう。
ユイは優しく女性に語り掛けながら……。
女の手首に嵌る枷を素早い所作の居合いで両断。
シュパッと女性は気付かない。
――刀の技術だが、俺は刃の軌道が消えているから少し怖かった。
が、凄い刀の技術だ。
フランもその女性にレムロナという名を尋ねる。
しかし、助けた女性は知らなかった。
「にゃ、にゃ~」
黒豹も何かを話しかけている。
女性は猫マイスターの資格はない。
いや、相棒の存在に気付いていない。
そうして、転んだ女性たちを優先的に助けていると……。
奥から魔法の明かりが近寄ってきた。
同時に逃げ続ける女性を捕まえていた黒いローブの集団と遭遇。
見るからに怪しい男たちだ。
魔法の枷らしきモノを腰ベルトに複数ぶら下げてやがる。
あれで拘束して女たちを連行するつもりか。
「何だお前たちは――」
「助けてやがるのか」
「侵入者か?」
こいつらが、女たちを……。
「俺は 処刑人だ!」
怒りからか、思わず脳裏に浮かんでしまったことをそのまま口から出していた。
「な、なんだと?」
「何が処刑人だっ、ふざけやがって」
ローブを着た男たちは俺の姿を凝視してくる。
「よく聞け、怠慢も堕落も許そう。All Hallows' Dayとて、女を攫う者たちは許さん。地獄の果てまで追いつめ……処刑する」
古代魔法のショットガン。
カボチャを吹き飛ばすイメージで喋っていた。
「……」
「……」
彼らは暗黙の了解の如く、剣を腰から抜く。
白刃を煌かせながら、
「ベラホズマ・ヴァーミナ!」
「ヴァーミナ万歳!」
何だぁ?
剣を抜いたやつらが合言葉のごとく謎の言葉を叫び出す。
剣を振り上げた状態で襲い掛かってきた。
しかし、どこぞの山賊かよという動き。
お粗末なもんだ。
剣の間合いに入らせない。
魔槍を握る右手に力を入れて突き刺そうと思ったが、黒豹が先に動いていた。
相手に爪を出した両前足の肉球を見せるように頸元に飛び掛かる。
首を前爪で引き裂いて倒した。
「ガルルルゥ」
そのまま唸り声を上げた相棒――。
リンゴを喰うように頬肉を齧った。
その荒ぶる相棒に遅れて左から迫った漆黒ローブ男へと狙いを絞る。
両手が握る魔槍杖を左斜めへと無造作に出した。
漆黒ローブの胸元へと熱い紅矛をプレゼント。
「ぐがぁッ」
胸が貫かれた男。
口から血を吐いて魔槍杖に寄り掛かり倒れる。
すると、右と左から――。
剣を振り上げた漆黒ローブ野郎たちが、俺ににじり寄ってきた。
俺は魔槍杖で引く。
魔槍杖の握り手の位置を変えた。
紅矛の穂先の位置に、ずらしつつ――。
同時に、右足を前へと踏み出した。
同時に魔槍杖を握る左手を手前に引く。
右手は前に押し出しイメージで、魔槍杖の下部を右辺へ振るった。
宙に扇状の軌道を描くように振るわれた魔槍の竜魔石が、右辺から白刃を冒して近寄る男の喉元に吸い込まれる。
「ごッ」
竜魔石が相手の頸に衝突した。
メリッとした乾いた潰れる音と共に、その男の頸が千切れ飛ぶ。
頭を失くしたローブ男は壊れた人形のように地面へ倒れていった。
俺はそれを横目にくるりと爪先を軸に横回転。
左回し蹴りを行うように、左から迫ってきたローブを着た男の下腹部へリーチある魔槍杖の石突を真っすぐと伸ばす。
股間へ血塗れている竜魔石の一撃を喰らわせた。
ゴリッとした搗き砕いたような感触を得る。
「あひゃ」
彼は変な悲鳴をあげて剣を落とし、崩れ落ちるように両膝を地面につけて呻き声をあげた。
念のため、魔槍杖に魔力を浸透させて竜魔石に魔力を送る。
竜魔石の先端からイメージ通りに白い靄を宿している氷鋒の広刃剣が生成された。
呻き声を出し何かを嘔吐している男の後頭部をサッカーボールのように蹴り飛ばしながら、隠し剣を先端、後端が紅矛と横に付く紅斧刃という逆さまの魔槍杖で正眼に構え持つ。
――周りを確認。
丁度、ユイとフランも素晴らしい剣術を見せているところだった。
謎のベラホズマなんたらと叫ぶ男たちの数人を横殴る太刀でばったばったと薙ぎ倒すように斬り伏せていく。
更に、フランは透明な左腕を使い、まだ生きていた黒ローブ男の首を掴みあげる。
「姉はどこだと聞いている!」
「ぐあああぁ、しらねぇ」
「ならば生きる価値もない! 屑どもが、死ね……<命吸幽眼印>」
フランはスキルを隠すつもりがないらしい。
透明な左腕の複眼たちが光を発した瞬間、生きていた黒オーブ男の顔が透明な膜に包まれたかと思うと、萎れて、骨と化していた。
こわっ、フランさん、こわっ。
あれに吸われたら、俺もヤヴァイかもしれない……こえぇ。
血を飲んでいた黒豹もフランの未知なる技に吃驚したのか、猫の姿に戻ると、逃げ惑う女性の間を縫うように走り俺の右肩へ戻ってきた。
黒猫はフランをジッと見ている。
あの透明な左腕に蠢く複眼たちを警戒したのかもしれない。
紅い瞳の中にある黒い点が散大と縮小を繰り返していた。
単に洞穴の不安定な暗がりに反応を示しているだけかもしれないが。
フランさんとは敵対しないでよかったかもしれない。
思えば、ホルカーバムの高級宿屋で衝突した際も、俺の下段を薙ぐ魔槍杖を難なく避けていた。
盗賊ギルド、闇ギルド、ホワイトナイン、冒険者、どれが彼女の本物の顔か分からないが、隠者であり強者だ。
一つだけハッキリしているのはレムロナの妹ということだけか。
そこで、竜魔石へ送った魔力を止めて隠し剣を解除。
「このまま女性を助けながら奥へ向かう」
「うん」
フランは鋭い目で俺の魔槍杖を見てから、
「……わかった」
この武器は昔も見ていたはずだが、改めて確認でもしているのか?
【幽魔の門】としての盗賊ギルドの仕事はしているらしい。
そんな視線には触れず、俺たちは逃げ惑う女たちを介抱し助けていく。
主にユイが頑張ってくれた。
途中、逃げる女たちを捕まえようとしている漆黒ローブの奴らと遭遇したが――。
その都度、かたっぱしから突き、叩き、薙ぎ倒し、搗いて殲滅させる。
そのまま洞穴の奥へ進んだ。
ふと、この逃げている群衆の中に――。
敵側の女が混じっているかもしれないとか――。
考えたが、こればっかりはしょうがない――。
洞窟通路も終わり開けたところに出た。
中央が窪んでいる。
横に広い大洞穴か。
生暖かい風を感じた。
続けて、鋭敏な嗅覚の分泌吸の匂手が一瞬――。
喜びに震えるような馥郁とした濃厚な血を感じ取った。
胸ベルトのポケットに仕舞ってあるホルカーの木片が振動。
――血の匂いも濃厚だ。何十、何百、何千?
匂いの元凶はあそこからだ。
地下に舞台場? 祭壇か。
巨大魔法陣が敷かれてある。
誰か戦っている。
血の匂いからして魔法陣に関係する魔界の神が穢れているか?
あそこで戦う奴らも、神界セウロス側のサデュラとガイアの敵かもな。
とりあえず、匂いが鼻につく。
<分泌吸の匂手>の感覚を閉ざす。
中央も気になるが……。
外側、円の中央部を囲うように沢山の鉄檻が並んでいた。
逃げている女性の数が多かったのも納得だ。
地下にこんな巨大な収容施設があるんだから……。
逃げている女性の中に奴隷らしき女性もいた。
もしかしたら拉致った女性たちより奴隷として買った数のほうが多いのかもしれないな……。
そこで、濃厚な鉄分の臭み、アンモニア臭、血の匂いを発生させている中央、燭台が灯る魔法陣が敷かれてある中央部を見据えた。
さっきから争いが起きている。
側に、邪教に似合う祭壇と血の匂いの元凶たる生贄台があった。
『閣下、あの地面にある魔法陣から膨大な魔力が外へ渦を巻くように放出されています』
ヘルメが忠告してくる。
カザネ婆が座っていた特殊空間に近いか。
カザネの独特な黒真珠瞳を思い出す……。
机に置かれたタロットカードの黒い太陽のような環と駱駝色の髑髏が繊細な筆使いで描かれてあった絵。
質は全く違うだろうけど、その絵の表面から漏れていた魔力の流れに似ているかもしれない。
魔力の波紋がハッキリと帯状の線となり渦巻いているし、魔力の流れが異質。
『……それだけじゃないな……』
生贄の犠牲になった女性たちの肉片、骨が散乱している。
その血塗れた生贄台の上に、儀式の途中だったと思われる横たわっている裸の女性もいた。
常人なら吐き気を催す奴もいるだろう。
それほどに凄惨な現場だ。
貴重なる女たちをピンポイントで贄にする邪教共……。
神が許そうとも、俺が許さん。
……ん、あれ、生贄台の女性、肩が少し動いてる?
まだ生きているのか。
全身あちこちに喰われたような個所があるが、まだ息あるらしい。
ポーションか回復魔法を急いでかけてあげれば、まだ望みがありそうだ。
というか、おっぱいが大きいぞ。
あんな貴重なる巨乳の女子を……。
傷つけるとは、やっぱりこいつら許せねぇ。
このイカレタ邪教集団のすべて、いや、中枢だけでも潰してやる。
怒りを溜めていると、中央部から声が聞こえてきた。
「……捕まえ飼っていた贄の逃走に続いて、この思いがけない不意打ち……悪夢の女神もさぞ、お怒りでしょう……」
そう呟きながら起き上がった男……。
怪我をしているのか? 戦いでダウンさせられたらしい。
そんな起き上がった男の双眸は碧色で二つ目だが、その目尻から黒角を生やし、口から牙が生えている。
耳の形は蛤だが、整った顔の魔族か? 角張る肩が大きく怒っている。
イケメン魔族は胸元に穴が空いた漆黒ローブを脱ぎ捨てる。
その姿はまさに魔族といえた。ギラギラしい銀色と臙脂の鎧服と一体化したような皮膚コスチューム……。
そんな魔族らしい胸元には闇の炎が縁取る傷の穴が空いている。
やはり、貫かれたようだ。
だが、その傷穴の円が小さく渦が巻くよう自動的に収縮しながら再生されていく。
「……あれぇ、胴体を貫いたはずなのに、生きているの? この間戦った牛顔よりも濃い魔力の匂いを感じるぅ。貴方を食べて吸収に成功したら、わたし、どうなるんだろう~」
銀髪女は穴傷の再生具合を見て、不思議そうな顔を浮かべていたが、一転して、嬉々として語る。
「……ナロミヴァス様、申し訳ありません、この女の名はリリザ。邪神の第三使徒らしいです。どういった手段か分かりませんが……わたしが、後をつけられたようで……」
あの気まずそうに話している牛顔……。
どこかで見たことがある。
というか、あの相対している銀髪のリリザと呼ばれた女も、確実に普通じゃない。喋る言葉に応じて銀髪の形を次々と変えている。
『……あのリリザという女、異質ですね。一瞬ですが、大きな魔力を放出したり縮んだり、チグハグです』
ヘルメの言うとおりだ。
女が使役していると思わる数匹の骨型の魚も漂っていた。
しかし、骨の魚?
まさか……虎美人なママニの顔を思い浮かべる。
そして、牛顔とイケメン魔族と銀髪女リリザが戦う、奥。
中央の向こう側……少し遠いが、逃げる女たちの中に立ち止まっていた人物を発見。
――何故、逃げない。
と、その人物を注視……あ、見つけた。
深紅色の質感の髪色に頬にあるソバカスの美人。
レムロナだ! よくみたらフランに似ているし。
「……フラン、あそこにいるのはレムロナだろ?」
「ああ――」
「とっ」
フランが大声を出そうとしたので急ぎ口を塞ぐ。
まだ見つけただけで助けてはいない。
ぬか喜びになりかねないからな。
「……騒ぐな。お前とユイはそっと右回りして、あのレムロナを回収。そして、この場から急ぎ撤収しろ」
選ばれし眷属のユイならば大騎士を安心して任せられる。
そのタイミングで、フランの口から手を離す。
「分かった。シュウヤはどうするのだ」
中央で俺と黒猫が目立つ。
囮になれば、大騎士のレムロナへの注意は削がれるか、気付かないだろう。
「……俺とロロは様子を窺いながら、あの中央の場に乱入する」
「……わたしたちのために、自ら囮になるというのか?」
「買い被るな、昔、話をした人物に挨拶がしたいだけだ。さっさと助けてこい」
俺は首をクイッとレムロナの方へ動かし行動を急かす。
「……ありがとう、シュウヤ。この恩は忘れないぞ」
「いいからいけ」
ユイにも視線で、お前もいけと指示を出す。
短い黒髪の暗殺ビューティな彼女は、俺の顔を見て何かを言うように微笑む。
「ふふっ、それじゃフランさん。いきましょう」
「了解した」
フランとユイは足早にレムロナに近寄っていく。
……姉と妹、無事に喜び抱き合っていた。
感動的だが、雑踏した逃げ惑う女の声と、それを追う邪教徒たちの声が響き渡っているから、あまり話し合う言葉は聞こえない。
その肝心の姉のレムロナは中央部で行われている戦闘を見て何かここに残るとかいってそうだが、ま、フランとユイが彼女を説得して逃げるだろう。
「……ロロ、ヘルメ、あそこに乗り込む」
「にゃ」
『閣下、わたしも外に出ますか?』
『いや、俺とロロで直接戦う、後で出てもらうかもしれない』
『分かりました』
肩から降りた黒猫は黒豹型に変身。
触手を首元から六本生やすと、いつでも『戦闘できるニャ』というように、顔を見上げて、サーベルタイガーのようにキラリと光る牙を見せてきた。
よし、準備はよさそうだ。
黒豹へアイコンタクトしてから、視線を二対一の状況になっている中央部へ向ける。
足元にいる相棒と一緒にその中央部へ歩いていく。
端から見たら魔闘術のオーラが滲み出ているかもしれない。
それほどにイライラしていた。
多数の女性たちを生贄、それに巨乳の女性を傷つけ、ミミ、レムロナが犠牲になっていた可能性があると思うと、沸々と怒りが……。
いかん、冷静に行動しないと。
まずは巨乳さんの位置へ素早く移動だ。
「……俺が先にいく、最初だけ背中を頼む」
「にゃ」
少し歩いたところで、黒豹へ説明。
そこで、左手を銃に見立てるイメージで儀式が行われていた中央部へ向ける。
狙いは生贄台の下だ。
左手首の因子マークから<鎖>を射出――。
ティアドロップ型の<鎖>の先端が生贄台の真下に突き刺さった。
手首をスナップさせて、十分硬いことを確認。
鎖のアンカーとしての強度を確認してから、ピアノ線のごとく伸びた<鎖>を掃除機のコードをボタンを押して収納させるイメージで、一気に左手首の因子マークへ収斂させた。
俺は左手が引っ張られ、<鎖>に導かれる形で、ターザンのように宙を飛びながら、自身の体を生贄台が置かれた中央部の手前へ移動。
黒豹も鎖で飛ぶように移動している俺とタイミングで合わせたように四肢を躍動させて前進していたのか、華麗に着地していた。
俺を守るように、足元の右に立つ。
巨大な魔法陣の上で戦っていた牛顔、イケメン魔族、銀髪女。
彼らは目を見張って、突然の闖入者である俺たちの存在に注目してきた。
イケメンの魔族は鋒鋩の鋭さがありそうな闇剣を俺へ向けてくる。
そんな視線は無視。
背後を黒豹に任せポーションを取り出す。
その瓶蓋を外すと、生贄台に横たわる金髪の女性へポーションを振りかけた。
続けて、上級の水属性である《水癒》を念じ発動。
瞬く間に、光を帯びた透き通った水球塊が現れる。
一瞬で、球体が崩れた。
と、細かい粒となって気を失った金髪さんへシャワーのように降り注ぐ。
生贄台に横たわる金色の髪の女性は……。
体の喰われたような傷が徐々に回復。
……しかし、後々まで傷痕は残りそうだ……。
天に突き刺さる杉林の梢の鋭さを感じさせる小さい乳首を持つ立派な巨乳さんだけに……。
今後の人生を思うと同情する。
気道を確保せずとも息は確認できたから、命に別状はないと判断。
しかし、エロチックな衝動に駆られてしまう。
顔も頗る付きの美人さん。
色っぽい寝顔でふるいつきたいほどの色香を湛えた美しさを持つ裸体だ。
戦士として育ったような筋肉が目立ち、頑丈そうな骨格ではあるが、細い。
そして、女性らしい柔らかそうな肉付きもある。
が、今の俺は処刑人だ。
俺にはやることがある……生贄台に寝ている女性から視線を外す。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」11巻が2020年6月22日に発売予定。
コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」2巻が、2020年6月27日に発売予定。