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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二百二十七話 血鎖探訪

2021/09/15 19:46 修正

 左腕を白いガーゼで覆い隠している。

 肩口に雑種剣のバスタードソードの柄巻が覗く。


「あの左腕に、赤髪……フランか?」


 フランは俺の声に反応。棕櫚(しゅろ)の毛のような鬣を持つ魔獣の歩を速めて近付いてきた。


「シュウヤ――」


 魔獣に騎乗しているフランからは切羽詰まったような、色を損ずるといった印象を受けたが……肩にいるはずの透明的な魔力の鷹はいない。

 不思議な鷹の名はリノだったか? リノは仕事中かな。

 たぶん、手紙などか暗号をどこか組織に渡しているのだろう。

 俺はそのフランに、


「……よう、久しぶりだな。ところで、俺を追跡するな、と、昔に忠告したはずだが?」

「そんなことはどうでもいいっ――」


 フランは叫んでから魔獣から飛ぶように降り立つと、駆け寄ってきた。


「姉さんの行方が不明なのだ。シュウヤ、頼む、姉さんを探してくれ!」


 彼女はそう発言するとジャンピング土下座をする勢いで石床に両膝を突けて頭を下げていた。


 フランは素早く顔を上げる。

 鳶色の瞳孔が散大。必死な顔色だ。

 しかし、脈絡もなしに、いきなり赤の他人を助けろだと?


 こっちはこっちで救出するために調べなきゃいけないことがあるのに……。


「……姉? 悪いが無理だ。今、忙しい。至急調べなきゃならないことがある」

「何だとッ、姉さんはお前を買っていたのに! 姉さん、レムロナ姉さんはお前を本気で!」


 本気でって何だろう?

 ん、まて、今、なんと言った?


「おい、今、レムロナ、といったか?」

「そうだ。わたしの姉はレムロナ。オセべリア王国大騎士序列九位のレムロナ・ゼア・マッセンジャー子爵だ」

「な、なんですって」

「なんだって?」


 周りにいた全員が驚く。

 

「……そんな」


 メイド長のイザベルは息を吸いながら口に両手を当てて、ショックで呼吸が止まっている。

 イザベルが九大騎士(ホワイトナイン)の事務所で、無下にそれどころじゃない(・・・・・・・・・)と断られた理由か。


「大騎士に妹が……」


 周りで見守っていた眷属たちが呟く。

 よくよく考えれば辻褄は合う。

 フランは昔、ホワイトナインにも雇われていると語っていた。


 しかし……。


「大騎士が行方不明だと? ドラゴンはどうしたんだ?」

「レムロナ姉さんが行方不明になりサージェスは大暴れしたらしい。現在は幽閉され大人しくなっているはずだ。そして、もう一人の大騎士ガルキエフとは別行動中だったと思われる」

「ドラゴンを煙に巻く相手ということか」

「そういうことになる。その大騎士であるレムロナ姉さんが行方知れずなのだっ」

「大騎士まで行方不明だなんて、シュウヤ、何でも協力するから指示をして」


 レベッカは表情をキリッとさせて小さい顎を突き出すように見上げてくる。

 真剣な面だ。蒼い瞳も力強い。

 他の皆も彼女と同様に頷く。気持ちは一緒ってやつだ。


「……ありがとう。それじゃ、対化け物女対策として、戦闘奴隷たちを指揮するカルードを筆頭に、レベッカ、エヴァ、ミスティはここで待機」

「了解、火炎魔法、蒼炎弾だけじゃないってところを見せてやるんだから」

「ん、レベッカ、頑張ろう。屋敷と皆を守る」

「勿論、エヴァも守ってあげる。鑑定前だけど新武器も使おうかしら」

「畏まりました。奴隷たちの指揮及び周囲一帯の偵察もわたしが率先して行いましょう」

「緊急事態ね、金属で簡易防壁……簡易ゴーレムだけじゃなく、別系統の小さい命令文だけを錬魔鋼と魔柔黒鋼ソフトブラックスチールの一部に刻んで、魔導人形(ウォーガノフ)の拳だけでも操作できるように……」

「ん、ミスティ、緑の金属を改良してほしい」

「うん、少しだけなら弄れる」


 彼女たちは準備のために本館と工房へと戻った。


「俺とロロ、ヘルメ、ヴィーネ、ユイで外回りだ。少し調べてから動くとしよう」

「任せて、魔刀の調整と服を着てくる――」

「おう」


 ユイも<筆頭従者長>としての身体能力を活かす。膝が折れるように横に湾曲して見えるような横跳びから身を翻しつつ本館へと駆けていく。

 ま、ヴァンパイアだからな。

 骨が折れようが痛みに耐えればどんな機動も可能か。

 暗殺者というか剣術家でもあるユイらしい動きだ。

 二刀だけでなく、上段の構えからの一心一刀という斬り込みも編み出している。


「この間、話をされていたこと(・・)を用いて、探索を行うのですね」


 血とはっきりと言わないとこが、ヴィーネらしい。


「そうだ」


 そこで、肝心の黒猫(ロロ)は……まだ庭かな。

 と、中庭の一角でヘルメたちといるところに視線を向けた。


 傍にいるヘルメはさっきと同じく千年の植物(サウザンドプラント)を片手に持った状態だ。

 土を掘っていたが、千年の植物(サウザンドプラント)を植えなかったのか。

 黒猫(ロロ)のおしっこタイムに切り替えたのか?


 その黒猫(ロロ)は、おしっこをしてはいない。

 大樹の上に、瞳を向けていた。

 視線の先を見ると……枝の上で鳥の鶯が遊んでいる。

 ポポブムとバルミントも顔を上げた。

 鶯を捕まえろ~的な法螺貝と重厚な声をあげて叫ぶ。

 黒猫(ロロ)は触手は使わない。


「カカカッ」


 とクラッキング音を鳴らす。

 鶯の行動に合わせて、頭部を素早く、左、右、左、右と忙しく動かす。

 狩りの本能が刺激された黒猫(ロロ)さんだ。

 変身はしなかったが、野獣の習性通りに姿勢を低く構えた。

 下半身を揺らしていた。

 そのまま大樹の枝先でダンスをしている鶯を捕まえようと、狙う相棒ちゃん。

 大樹の根へにじり寄っていく。

 が……小さい鶯が動く度に黒猫(ロロ)はビクッと動きを止めるから……。

 だるまさんが転んだ的な遊びをしているようにしか見えなかった。


 ヘルメは満足そうに微笑んで、その光景を見ている。

 うん、俺も微笑む。

 すると、枝で遊んでいた鶯は飛び立ってしまった。

 あぁ、残念と、俺も相棒の狩りに感情移入していた。


 黒猫(ロロ)も残念。と、いったような面だ。

 髭をだらりと下げている。

 ムスッとした表情で、ストンと腹を晒しつつのスコ座り。

 そのぽこっと出たような腹をペロッと舐めてから後脚を上げる。

 と、その後脚を『舐めるのにゃ~』と勢いを持って舐め舐めを始める。


 『ここのお毛毛は入念にお手入れしにゃいと、まずいにゃよ』とかは、喋らないが、そんな調子で、爪先まで丁寧に舐めていく黒猫(ロロ)さんだ。


 頭部を沿わせるように何回も後脚を舐めていた。

 可愛い姿だが、時折、舐めるのを止めて、ムスッとした表情を俺に寄越す。

 相棒ちゃんよ。鳥は捕まえることはできんぞ?

 と、意思を視線で送ると、相棒は瞼をゆっくりと閉じて開くといったコミュニケーションを寄越してくれた。

 まったく……と、ヘルメがそんな相棒に近寄っていく。


 バルミントとポポブムも、ヘルメと黒猫(ロロ)の側に集まった。


 今度は何をするんだろうと、思ったら、黒猫(ロロ)も毛繕いを止めてヘルメの足下に移動。

 ポポブムとバルミントに挨拶してから、ヘルメに頭部を向けて、口を開けた?

 皆、そのヘルメに顔を向けて口をあーんと広げていた。


 あ、まさか……。

 そのヘルメは、巨乳をアピールするように腰に両手を当てると、ぷるるんと揺れた巨乳を前に突き出す。そして……想像通りに。

 ヘルメさんは、巨乳のふっくらマシュマロの先端を輝かせた!

 粒蕾という乳首さんから水を放出――。

 なんということでしょう、というフレーズが脳裏に浮かぶ。

 三匹は尻尾をルンルンと喜びで揺らして、放物線を描くヘルメのおっぱいウォーターを味わっていく……なんか、一気に肩の緊張が和らいだ。


 いかん、アニマルセラピーを楽しんでいる暇はない。


 二十四時間、いや、ここじゃ三十時間、事件はリアルタイムに進行中だ……。

 テロリストじゃない、そう、誘拐犯と化け物の事件が進行中なんだ。


 デジタル時計と心臓音がミックスしたような時を刻む、威圧するような重低音が、ドゴン、ドゴンと、脳内に響いたような気がした。


 

「……それで、姉さんの捜査にも協力してくれるのか?」


 フランが痺れを切らしたように聞いてきた。

 俺が呑気に黒猫ロロたちの様子を見ていたから、我慢できなかったようだ。


 鳶色の瞳にも怒りが見えた。

 当たり前だが、お姉さんを心配して名状しがたい不安感にとらわれているのだろう。


 しかし、使用人とて俺が正式に雇い入れた人材だ。

 レムロナも美人だが、メイド長も心配しているし、ミミの件を優先する。


「……協力はしよう。しかし、さっきも話したが、俺の方も立て込んでいるんだよ。奴隷が化け物に追われていたり、屋敷の使用人も行方知れずだったり。だから、レムロナを捜索する順序は低くなるが、それでも良い?」


 これは譲れない。


「勿論だとも! あの槍使いと黒猫が味方に付く。職業がら組織の力の否定はできないが、これほど頼りになる存在は……正直、南マハハイム中を探しても他にはいないと思っている。シュウヤ、本当にありがとう! 恩に着るぞ」


 彼女はパァッと気が晴れたように顔を柔らかく弛緩させた。


「……礼をいうのは、気が早い。あ、レムロナの血が付着した物を持っているか?」

「血だと? 姉の部屋に行けば何かあるかもしれないが……それが何か役に立つのか?」

「そういうことだ。協力するのだから……」

「分かっている、情報を漏らしたりはしない」


 ま、情報なんて漏らしても別にいいんだけど。

 何かしら行動すれば、自然と漏れていくものだし。


「なら早く姉の家にいこう、案内する」


 フランは姉のことが気がかりなのか、魔獣に乗ろうとしていた。


「まだだ。後でレムロナの家にいくとして、今は大人しく見ていてくれ」

「……了解した」


 そこで、イザベルに視線を移し、


「イザベル、案内よろしく」

「はい」


 俺の屋敷は中庭を挟んで寄宿舎が二つある。

 右が高級戦闘奴隷たちが生活している寄宿舎。

 今、イザベルが歩いている方向にあるのが、使用人たちが生活している寄宿舎だ。


 その寄宿舎へ向けて石畳の地面を歩いて進む。


 先を歩くイザベルが扉を開けて寄宿舎の中に入る。

 俺たちは彼女の後ろ姿を見ながらついていった。


 寄宿舎の中は戦闘奴隷たちが寝泊まりしている場所とそう変わらない。

 イザベルは一つの寝台の前で動きを止める。


「ここがミミが利用していた寝台、箪笥です」


 手を伸ばして指摘。場所は簡素。

 ゴミ箱と見られる物もある。

 まずは箪笥から調べようか。


「イザベル、ありがと、調べてみる」

「はい」


 まずは一段目の箪笥の引き出しを開ける。

 整理整頓されて綺麗なものだ。お、皮パンツを発見。


 ふむふむ。取り出して、広げてチェック。


 どのパンツにも……血の跡はないな。


 その時、ヴィーネ以外から怪しい視線が集まる。

 うん、女性のパンツを睨むように調べる男……実に怪しい。


「……皆、これはあくまでも(・・・・・)、捜査の手掛かりを探しているだけだからな」

「……さっきの血、パンツを見ているということは、生理のものを探しているのだな?」


 赤髪のフランの言葉だ。

 俺がレムロナの血について質問をしていたから感づいたらしい。


「当たり」

「そうでしたか、だから成熟と……でしたら――ありました。この箱です……」


 イザベルがそう話しながら手に取った箱。

 その中には血の跡がついた布が、かなりの量、溜まっているのが分かる。彼女はその箱の中を探していた。


 皆、いっしょくたにして、纏めて一遍に洗濯をする予定だったのかな。それか捨てる予定だったとか? の詳しい話は聞かない。でも個人の布を探せるものなのか? 


 あんな沢山……あ、刺繍か。


「この中にミミが使っていた布が……あ、これです」


 乱雑に置かれた布たちからイザベルが探し当てた布には、ミミの文字がちゃんと、刺繍されてあった。

 そのまま血の跡が残る布を手渡される。


「ありがと、これを調べる」

「はい」


 刺繍か。こういう布を個人専門に用意してあるんだ。

 使用人とてさすがは専門学校の出身、俺も大金を出して彼女たちを雇ったからな。


 さて、この布に初めて<血鎖探訪(ブラッドダウジング)>を用いるわけだが。

 少しワクワク……している俺がいる。


 確か血鎖に血を垂らすか、血が付いた物体を鎖の先端で貫けば、その血に関するモノへ血鎖の先端が方向を示すんだよな。


 よーし、頑張っちゃうぞ。


「……宣言しとく。ここに異世界探偵カガリ事務所の誕生を!」


 キリッとしたドヤ顔を意識。


「是非、わたしを助手に」


 ヴィーネが早速、ワトスン君になってくれた。

 俺はふざけた調子で鷹揚に頷いて返事をしとく。


 イザベルとフランの視線には触れない。


 さて、冗談はここまでだ。

 真剣な表情を浮かべた、その瞬間。


 <血鎖探訪(ブラッドダウジング)>を発動した。

 左手の<鎖の因子>マークから血塗れた鎖が生まれ出る。


 それはいつもと違う鎖だった。朱色の血が滴る鎖ではある。

 だが、ティアドロップ型の先端じゃない。

 船の錨、死神の鎌、三日月? そんな形が合成されたような不可思議な先端だった。

 その先端は、振り子時計のように左右に揺れて怪しく動く。血が滴るので余計に怪しく見えた。


 ゴクッと思わず唾を飲み込む。


 当然、イザベルとフランの視線も何だそれは?

 的な視線となる。ヴィーネは興奮したような息を漏らしていた。


 俺は構わずイザベルから渡された布を凝視。

 血に染まる箇所へと……。


 <血鎖探訪(ブラッドダウジング)>を操作。

 その先端は、血が滴った死神の鎌か。

 或いは、碇のような形。

 その先端が、布を貫いた瞬間――。

 血濡れた鎖の先端が、コブラの頭部のように、むくっと自動的に起き上がった。

 

 血鎖の先端はクイクイッと獲物を探すように方向を示す。


 この方向に血の持ち主であるミミがいるんだな。

 念のため、この血の付いた布は……持っておく。

 血鎖が機能すれば捨てるが、機能しなかった場合の保険だ。


「……ミミが生きているか死んでいるか分からないが、手掛かりを掴んだと思う」

「本当ですか?」


 イザベルが半信半疑なのか聞いてきた。

 血の鎖を見ても、あまり動じないところを見ると、それなりに経験は踏んでいると思われる。

 推察すると、彼女が過ごしていたレソナンテ寄宿学校の授業にそういう内容があったのかもしれない。


 もしくはもっと不思議なスキルが存在するのかもな。


「……あぁ、本当だ」

「……そのようなお力を……わたしたちは教科書に載るような偉大な御方に、雇われたのですね……」


 教科書……慎ましい態度のイザベルは頭を下げながら語る。

 偉大な御方か。ヘルメ、ヴィーネ以外の立派な女性にそんなことを言われると、妙にこそばゆい。


 鳥肌がたっちまうからあえて無視。


「……捜査を開始するから中庭へ向かおうか。ヴィーネ、フラン、移動する」

「はい」

「了解した」


 中庭へ戻り、準備を整えたユイと合流。


「慣れ親しんだアゼロス&ヴァサージでいく」

「おう、魔刀使いの暗殺ビューティ、ユイ。頼むぞ」


 ユイの恰好は下丈が短い鎖帷子系の黒装束。

 悩ましい白桃色の太腿が目立つ、本気モードだ。


「何よ、その暗殺ビューティーって……」


 ユイは何か文句があるようだが、樹木のところで遊んでいたロロとヘルメを大声で呼ぶ。


「ヘルメ、ロロ、こっちに来い! 緊急だ」

「はいっ」

「にゃあああ」


 ヘルメは持っていた千年の植物(サウザンドプラント)をドガッと音がするように地面に埋め込むと、背筋をピシッと伸ばし水飛沫を発生させながら走ってくる。

 黒猫(ロロ)は鳴きながら可愛らしい四肢を躍動させて走ってきた。


 あの千年の植物(サウザンドプラント)が何か凄い音を出していた。

 

 が、指摘はしない。

 傍にきた精霊ヘルメと神獣(ロロ)に対し……。

 

 使用人と戦闘奴隷たちの襲撃の件から救出へと向かう経緯をかいつまんで話す。


 その話し終えた直後――。

 ヘルメはスパイラルは俺の左目に納まった。


 黒猫(ロロ)も神獣としての姿を大きくさせる。

 黒馬か黒獅子に近い。


「……大きい」


 フランは生で黒猫から馬獅子型へ変身する姿を見て、驚いていた。

 何度か変身するところは見ているはずだが……。

 そんなフランは盗賊ギルド【幽魔の門】の一員だ。

 メリッサの同業者に神獣と俺の情報を無料であげていることになるんだよな。


 ま、これはしょうがない……。

 それに、彼女の姉であるレムロナの捜査もするんだ。

 【幽魔の門】系の盗賊ギルド、或いはフランがフリーランスならフランという優秀な密偵が俺の味方になる、と考えれば……そう悪くない。


 それにソバカスの美人さんだし。


「にゃあ――」


 神獣ロロディーヌは首の周囲から出した黒触手をヴィーネ、ユイ、フランに向ける。


「きゃ」

「あぅ」

「うああ」


 三人の腰を優しく黒触手で巻き付けたロロディーヌ。

 自身の背中に広がる黒毛座布団の上に運んで、優しく乗せた。


 フランの反応はよく分かる。


「俺はいい」


 相棒の首下から伸びた細い触手が一つ来たが、手を出して止める。


「胸ベルトを寝台のとこに置いたままだった。取ってくる」

「ンン、にゃ」


 黒猫(ロロ)は御豆さんほどの触手で、俺の頬を優しくなでると、『早く取ってこい』というようにツンツクを頬に繰り返してくる。


 その可愛い触手を軽く触り、裏側にある肉球をプッシュするのは忘れない。


 それから急ぎ本館へ走る。

 部屋で胸ベルトを装着し直す。


 よーし。

 と、部屋から飛び出して廊下からリビングを走る際に、一瞬、傷ついた紫色の鎧が視界に入ったが、ええい、ままよ――。


 と革鎧服でまた挑むことを瞬時に決めた。

 そのまま中庭を走る。

 神獣ロロディーヌの背中に乗っているヴィーネとユイの間を見ながら跳躍――ヴィーネとユイは俺の行動を読んで位置を調整。

 

 スムーズに二人の間に座った。

 相棒の柔らかい黒毛と地肌の感触は良い。

 が、やはりヴィーネとユイの体の柔らかさは最高だ。

 ヴィーネは正面から乳房の大きさを利用するように圧力を強めてきた。おっぱい圧力メーターMAX。

 ユイは後ろから俺の腰をギュッと抱きしめてくる。


 巨乳と、ほどよい大きさの乳に挟まれた。

 おっぱいサンドイッチだ。

 すると、「ンン」ロロディーヌのおっぱいサンドイッチに対するツッコミか? と思ったら違う。

 

 一対の触手手綱がヴィーネの首と鎖骨を優しく撫でるように俺の前に伸びてきた。

 

 いつもの触手手綱だ。

 その触手は掴むと、ぐにょっと触手が動く。

 親指と人差し指の間からちょびっと出た触手の先端が伸びて首に迫る。触手の先端は平たく変形しつつ俺の首にぴたりと付着。

 

 その触手の裏側は、勿論、肉球だ。

 柔らかい肉球の感触はおっぱい級。


 そして、細胞と細胞が本当に付いたように自然な流れでロロディーヌと感覚共有を得た。


 ――人馬一体を超えた<神獣止水・翔>。

 目の前のヴィーネが不思議そうな表情を浮かべて、


「ご主人様、この触手はロロ様と繋がっているのですね」


 と、聞いてくる。

 首に張り付いた平たい触手を、青白い細い指で触っていた。

 その触手の表面がヴィーネの指の跡が付くように『ぷにゅ』と音がなったように凹む。


「そうだよ」

「よく見えないけど、ロロちゃんと繋がるなんて、なんか羨ましいかも」


 俺の背中に胸を張り付けているユイの言葉だ。

 彼女の胸のサイズは中々と分かる。


「わたしは貴女に抱き着いていいのだろうか」


 ユイの背後に座るフランだ。

 遠慮がちにユイに尋ねていた。


「あ、フランさん? わたしはユイ、今回は宜しくね。腰に手を回していいけど、心配は不要よ。ロロちゃんの触手が腰に巻き付いたら絶対に落ちないから。それに、この黒いお毛毛、柔らかくて感触が気持ちいいうえに、不思議とお尻と太腿の位置とぴったりと合うの」


 うむ。神獣(ロロ)の黒毛ちゃんだからな。


「不思議だが、確かに……今回は宜しく頼む。しかし、その、一応……」


 フランは遠慮がちにユイの細い腰へ手を回したようだ。

 美人同士の絡む様子は見たいが、今は……。

 

 <血鎖探訪(ブラッドダウジング)>の方角へ向かわないと。

 血が滴る不可思議な鎌か碇型の血鎖の先端を、前方へ動かす。


 相棒が走っていても、どの方向を血鎖が示しているか、分かりやすいように、相棒の視界の中に<血鎖探訪(ブラッドダウジング)>の先端が入るようにしてあげた。


 ――準備は完了。


 心配気に見つめているメイド長のイザベルへ顔を向ける。


「イザベル。<筆頭従者長>たちの指示に従いちゃんと待っていろ」

「はい、ご主人様を信じています。皆さま方、行ってらっしゃいませ」

「よし、ヴィーネ、ユイ、フラン、いくぞ」

「はい……」

「うん、シュウヤの背中に手をまわして、ぎゅっとするからね」


 ユイの細い手が心地いいかもしれない。


「了解した」

「ロロ、感覚で分かっていると思うが、進行方向は血鎖の方向だ。いつでもいい」

「ンンン、にゃおぉ」


 俺の声を聞いた馬か獅子かの凜々しいロロディーヌは、喉声を鳴らしながら返事をすると、石畳の上を走り出す。それは膂力のある四肢の動き。

 全身が躍動――ストライドのある爆発的な加速で大門の上へ跳躍――。


 大門の上に四肢を突けて、肉球を滑らせながらのスライド着地。

 すると、跳び箱台を利用して跳ぶように神獣ロロディーヌは高く高く跳躍した。

 そのまま鳥のように空へ飛び立つ感じだったが――。


 少し離れた通り前に着地。


 ジェットコースター気分で気分爽快だ!

 しかし、目の前のヴィーネさんは違った。

 長耳を可愛らしく萎ませた。


 体を小さく縮ませるように抱きしめを強くしてくる。

 黙ってヴィーネの背中を撫でてあげた。

 相棒の速度は変わらないから我慢してもらうしかない。

 血鎖の先端が方角を示す方向へと神獣ロロディーヌは頭部を向けた。

 

 あの路地の先だ――。

 路地を抜けると、また、血鎖の指す方角に走る――。

 

 行き交う人々の間を縫うように通り沿いを走った。

 迷宮都市ペルネーテの街を黒き神獣が一陣の風のように駆けていく。

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