二千百五十七話 交差する影、血塗られた絆の決着
黒装束の三人を衝撃波の<超能力精神>で吹き飛ばした。
だが、それは布石か――。
真上の漆黒の天井から魔刃と雷球が飛来。
俄に、<魔闘術>系統の<紫月>と<経脈自在>、<ルシヴァル紋章樹ノ纏い>から<水月血闘法>、<無方南華>と<無方剛柔>を瞬時に多重展開――。
<血道第一・開門>の血と<生活魔法>で水を撒き――。
頭上を覆うように《闇壁》と《氷縛柩》の多層防御を構築し、絶え間なく降り注ぐ暗器と魔法を防ぎ続けた。
その数秒の間にハンカイ、カルードが、相対した黒装束の湾刀の連続斬りを防ぎ、反撃し、十数合打ち合う――。
それだけで察した、相手はすべて凄腕――。
横壁に移動した黒装束たちから、魔風や火球が飛来。
それを<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で防ぐ。
金属音が響く、黒装束たちの一部は壁を蹴り、カルードたちへと湾刀による攻撃を繰り返していた。
足下から火花が走る。
皆、一閃に跳躍しながら反撃――。
着地すると同時に相棒が、「にゃごぁ――」と紅蓮の炎をプルトーに吐く。
紅蓮の炎は直進してプルトーを捉えたが、その体を炎は通り抜け、壁を焦がしただけ、黒装束たちも一斉に黒豹のロロディーヌから距離を取る。
プルトーは残像を発生させながら横壁を駆けていく。
「ンンン――」
相棒は、そのプルトーを追い掛けた。
飛来した短剣と火球を避けつつ、そのプルトーに――。
左手の<鎖の因子>から<鎖>を差し向ける――。
だが、双剣により弾かれた。
更に、魔法の網のような物が飛来した。
魔法の網は、直線状に伸びていた<鎖>に降りかかり、<鎖>を覆うと、<鎖>の表面の梵字の煌めきが消える。
即座に<鎖>を消す――。
黒装束たちの一部は、投網剣闘士が放ってくるような魔法の網をカルードたちにも放っていく。
ハンカイが<炎塊岩ノ強化>で体から炎を噴出させ、大きい金剛樹の斧を<投擲>し、魔法の網を斬りながら飛翔し、黒装束の一人に金剛樹の斧の斧刃を胸元に喰らわせていた。
他の黒装束たちの一部は魔法と手裏剣を寄越す。
一部は前傾姿勢のまま暗器や得物を突き出し、振るってきた――。
身を捻りつつ《氷縛柩》と《闇壁》を黒装束たちとプルトーに送る――。
そして、ハンカイたちのフォローにも、それらの魔法を連続発動させながら、魔法を掻い潜って接近してきた黒装束たちの攻撃を魔槍杖バルドークで弾き続けた。
反撃の裏拳――
下段の<牙衝>――。
一人の黒装束の片足を穿ち、そして、中段の<刺突>で、もう一人の黒装束の腹を紅矛がぶち抜く。
伸びていた右腕を即座に引く。
後退し、魔槍杖バルドークで、左右からきた二人の突剣を<風柳・中段受け>の柄で防いだ。
更に、黒装束の魔剣師が右から直剣を突き出してくる。
その刃を<風柳・上段受け>で防ぐ。
続けて迫ってくる複数の直剣の突き技――。
左手に神槍ガンジスを召喚、<隻眼修羅>で、感覚のまま魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを動かした。
<風柳・中段受け>と<風柳・風蛇左腕>で、連続的に直剣の攻撃を受けながら後退――。
わざと全身から<血魔力>を発した。
分身系への布石を兼ねた、目眩まし、だが、利かない――。俺は左右に身を捻り、二人の一閃を避けて、三人目の突きを屈んで避けた。
更に、魔槍杖バルドークの柄を己の背へと回し込む。
<風柳・背環受け>を行う。
背に回した柄で、四人目の剣撃を防ぐ。
同時に、力の<魔銀剛力>を発動――。
突き技を、力で跳ね上げるまま身と得物でシールドバッシュを行うように、魔槍杖バルドークと神槍ガンジスで<双豪閃>――一人の黒装束の首を刎ねる――。
そのまま<双豪閃>を止めての魔槍杖バルドークの払いで、複数の剣を弾き、前に出て、三人の黒装束に近付くと、反撃の突きが迫った。短く持った魔槍杖バルドークで強引に<闇雷・一穿>を繰り出す。
紅矛と紅斧刃が二人の剣を弾き、一人の黒装束の腹を穿ったが、即座に後退――。
俺がいた地面が爆ぜた。
ポーション爆弾か。
相棒が身を捻りながら、速い黒装束たちへと複数の触手を向かわせていく。黒装束の【ロゼンの戒】たちは、骨剣を得物で弾く。その乾いた音を響かせながら俺の後方に相棒は着地し、複数の触手を操作――。
触手から出た骨剣は、俺たちの左右斜めと前と背後から飛来してきた魔矢を貫いてくれた。
相棒の触手は、そのままウッドクロスボウ持ちの黒装束へと直進し、その得物ごと胸を貫き倒す。
その間にも、相棒と俺に近付いていた黒装束が、直剣を突き出してくる。
それを神槍ガンジスの<風柳・上段受け>で受けて、相棒も骨剣を衝突させ、直剣の突きを防ぐ。
黒装束たち【ロゼンの戒】のメンバーたちは、戦況に合わせて瞬時に立ち回りを変えてくる――。
異常な練度の持ち主たち――。
次から次へと死角から殺到してくる――。
魔槍杖の握りを<握式・吸脱着>で位置を変えながら左手に神槍ガンジスを召喚し直し、<風柳・下段受け>で、突きと薙ぎ払いの攻撃を弾き――頭上の一閃を避け、前出て、横からの黒装束が振るった直刀の刃を、神槍ガンジスの螻蛄首に絡めるように<魔手回し>――。
得物ごと一人が「うげ」と声を発しつつ宙空に持ち上がり横に体が回転、もう一人の黒装束も金属音と共に、もう一人も柄に刃が絡まったように頭上に舞う
「――ぬぉ!?」
短く持った魔槍杖バルドークで<血龍仙閃>――。
紅斧刃が一人の黒装束の胴と、もう一人の首を薙ぐ――そのまま右前に出て、カルードのフォロー。
カルードの流剣が一人の胴を深く薙ぐ。
だが、致命傷を受けたはずの男は悲鳴一つ上げない。それどころか、体を膨らませ、己の血を撒き散らし、常軌を逸した執念でカルードの腕に食らいついた。
その身に宿す魔力も異常――。
――即座に<雷飛>を発動、その膨れた体に紅矛の<闇雷・一穿>と、神槍ガンジスの<光穿>を突き刺した。
光と闇の双閃が魔力の暴走を貫き、黒装束の男はカルードから引き剥がされるように後方へと吹き飛び、空中で爆散した。
――カルードはもう近くにいない。
相棒の触手骨剣の連続攻撃を往なしていたプルトーに向かっていく。
だが黒装束たちの一部が棒手裏剣を飛ばし、カルードに近づき、斬り掛かる。
カルードはプルトーを追うのを止め、飛来した棒手裏剣を柄で防ぎながら数歩後退――。
黒装束の一人が振るった直刀を、両刃刀・幻鷺を斜めに振るい上げ、横に弾き、次に飛来してきた棒手裏剣を、その刃で横と上に弾くまま、また数歩、後退し――。
背後から迫っていた黒装束の突剣を、背に目があるように流剣の剣身で横に弾きまま、横回転を行い、両刃刀・幻鷺を振るう。
黒装束の肩口と、もう一人の胸元を薙ぐ。
黒装束の一人、二人の動きが鈍る。
「お前の剣筋、まさか――」
「フローグマン……」
まぁ、当然に、カルードを知っていたか。
カルードも壁を背に、黒装束とプルトーたちの動きを視て、剣尖が揺れた。迷いを見せる。
そのカルードの異変を視界の端で捉えながら、相対した黒装束の直剣を神槍ガンジスを下げ、柄で下に弾き、<魔闘血蛍>と<月冴>を発動――するまま、穂先を下に向けた魔槍杖バルドークで<風柳・撥草尋蛇>――。
黒装束の足を薙ぎ払う。
プルトーが、「キゼガ――」と言いながら直進。
双剣の連続攻撃を<風柳・中段受け>で防ぐ。
迎撃態勢に入るより早く、周囲の死角から三人の黒装束が無音で迫り、湾刀を振り下ろしてきた。
爪先半回転――。
同時に<水月血闘法・鴉読>を発動。
足下の水飛沫から血色の十字架と朧げな月、そして水鴉が立体的に浮かび上がる。深紅の霧と共に幾つもの血の分身が滑り出たが、プルトーと黒装束たちの異常な手数の前に次々と散らされていく。
その光景を視界に収めながら後退。
残った分身が、残像のように背後から俺の動きを追従してきた。それらすべてを己の槍へと収束させるように、<血刃翔刹穿>を繰り出す。分身たちも完全に同調し、同じ<刺突>のモーションで一斉に穂先を突き出した。
魔槍杖バルドークの紅矛から、致死の血刃が前方へと爆発的に放射される。
プルトーたちは後退。
血刃は当たらず――。
と、消えたように左から出現したプルトーの一撃。
それを<風柳・異踏>で避けた。
右からも黒装束の剣突が迫るが、その黒装束は相棒の触手骨剣が背に突き刺さり、宙空に跳ね上がって、天井に激突していた。
プルトーの攻撃を、またも<風柳・異踏>を使い、軸をずらして避けてから、後方へ跳躍――。
プルトーとの間合いから離脱した。
そこに背後から、黒装束の湾刀が迫る。
神槍の柄で、背後からの湾刀を弾き落とし、魔槍杖バルドークの石突で左の男の鳩尾を砕く。
「にゃごァ!」
背後にいた相棒の黒豹が、俺の肩から飛び出し、紅蓮の炎を吐き、右の男の顔面を焼く。
残る一人が俺の着地の隙を狙って飛び込んでこようとしたが、相棒の背から伸びた触手骨剣が的確にその首を刎ね飛ばした。
相棒と並走しながら、再びプルトーへ向けて踏み込む機を窺う。俺たちの動きを阻むように、天井の暗がりから無数の魔刃と短剣が降り注いできた。
双槍を高速で旋回させ、飛来する刃をことごとく弾き落とす。その一瞬の足止めを突き、今度はプルトーが双剣を交差させ、真空の刃を伴う突進を仕掛けてきた。
重い魔風の斬撃を<風柳・上段受け>で受け流し、その反発力を利用して、後方へ距離を取る――。
視界の端、ハンカイが金剛樹の斧で群がる黒装束を薙ぎ払っていたが、彼の頭上の死角から爆発符を手にした特務兵が音もなく落下してきていた。
プルトーから視線を切らず、右手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出し、宙空で爆発符を正確に射抜く。
特務兵ごと宙空で爆発させた。
「助かった、シュウヤ!」
「おう」
ハンカイの剛斧と共にカルードも流剣を煌めかせて敵を切り伏せているが、プルトーへ向けるその視線には、どこか葛藤が混じっているように見えた。更に、入り口の暗がりから眩い白銀の軌跡が走る――ユイだ。
<血液加速>で飛び込んだ彼女はカルードの背後を狙っていた手練れを容赦なく両断。
無駄のない死神の如き動きで、味方の陣形を強固にフォローしていた。
そこで、飛来する魔法と魔刃を避け――。
接近してくる湾刀使いの黒装束の一人、二人、三人を魔槍杖バルドークと神槍ガンジスで往なす。
時折、魔槍杖バルドーク一本に切り換え、<山岳斧槍・滔天槍術>を活かし、基礎の<刺突>と<豪閃>だけで、黒装束の二人を屠る――。
前進し、右手から左手へ、流れるように魔槍杖バルドークを持ち替え、穂先を左右に揺らめかせながら間合いを詰め、槍術の基本「らん・拿・扎」で払い弾き、引っ掛ける――更に、穿つ――。
風槍流『連礼穿槍』――。
※ピコーン※<風柳・連礼穿槍>※スキル獲得※
良し! 一人、二人の黒装束の腹を穿ち倒す。
そこで――再び<魔闘術>系統の<闘気玄装>と<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>を意識、魔力を練り上げた。
群がる手練れたちの刃の隙間を縫うように――。
「ンン――」
相棒と共にプルトーへと再び強襲を仕掛けた。
即座に<雷飛>で距離を潰し、神槍ガンジスで牽制の<光穿>を放つ。
プルトーは両腕の奇妙な腕甲から強烈な魔風を逆噴射させ、紙一重で光の刺突を避けた。だが、そこへ相棒が回り込み、四方から無数の触手骨剣を突き出す。
プルトーの双剣が残像を生み、触手骨剣を次々と弾き落としていくが、その迎撃の隙を突き、俺は魔槍杖バルドークを大上段から振り下ろした。
――<血龍仙閃>。
重い紅斧刃の一撃。
プルトーは双剣を交差させて受け止めたが、その威力を殺しきれず、大理石の床を削りながら数メートル後退した。
奴の腕甲から吹き荒れる風の魔力と、その意匠。
どこかで見覚えがある氣がするが、今は追究している余裕はない。
「……さすが、噂に聞く【天凜の月】の槍使い、と黒き獣……」
プルトーは肩で息をしながらも、その瞳から戦意は全く失われていない。
寧ろ、周囲の戦況――己の部下たちが次々とカルードやハンカイ、ユイの手によって倒れ、あるいは自爆して散っていく光景を見るたびに、奴から放たれる殺氣と魔力が異常なまでに膨れ上がっていくのを感じた。
倒れた黒装束たちから立ち昇る血の匂いと、暴走した魔力の残滓。それらが、プルトーの足下から伸びる不自然に濃い『影』へと吸い込まれていくように見えた。
「同胞の死を喰らっているのか……?」
「俺たち魔族のハーフは、そうやって這いずり回るしか生きる道がなかったんでな。……この命も、弟妹たちが残した魔力も、すべては親父殿のために!」
影から吸収した漆黒の魔力が、腕甲から放たれる魔風と融合し、プルトーの輪郭を黒い炎のように包み込む。
その渦巻く魔力の中、プルトーの視線が一瞬だけ、俺の背後――敵の首を刎ね飛ばし、返り血を浴びて立つユイの姿へと向けられた。
「……白銀の瞳か……まさか、な――」
プルトーの手首が爆ぜたように見えた――否、無数の短剣を放つ暗器の<投擲>――。
その短剣の攻撃を大きい<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で防ぎつつ、前進させる。
その凶雨のような短剣の群れを、大きく展開した<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を盾にして弾き落としつつ、前進する。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>はそのまま壁へと激突。
プルトーは天井を逆さまで駆けながら、相棒の触手骨剣の連続攻撃を避けては、魔刃を寄越してきた。
その魔刃を左に駆けて避けていく。
プルトーは、ユイたちの近くに着地した直後にその姿を消し――否、ユイの左死角から双剣を振るってきた。黒装束の一人を切り伏せたばかりのユイだったが、即座に神鬼・霊風を宙空に生み出しつつ、アゼロスとヴァサージの魔刀を振るう。
プルトーの双剣を二振りの魔刀で弾きながら、口に咥えた神鬼・霊風で的確にプルトーの首を狙う。
プルトーは驚愕に目をカッと見開きつつ、壁を蹴って後退。
壁に足を付け、カルードとハンカイの追撃を壁を真上に駆け上がることで避けていく。
そして、天井を蹴って、俺に向け直進――。
突き、否、払い、否、双剣を振るうフェイクから、耳鳴り――突如、足下から雷撃が走った。
闇と光の運び手装備も関係なく足に痺れが走るまま、目に見えない一閃を感覚のまま神槍ガンジスの<風柳・中段受け>で防ぐ。
プルトーは驚きを顔に出しつつ、後退。
「――この<暗雷剣・響斬>で仕留められなかったのは……初めてだ……」
と、ここに来て、初めての表情を出した。
そして、ユイとカルードをチラッと見ては、何らかの因縁を想起するような色を出す。と、プルトーは首を振り、俺をジッと見てくる。
「……ユイとカルードが氣になるようだな」
プルトーは自嘲するように口角を上げ、
「……ユイにカルードか……その名は、やはり、元【暗部の右手】……ハッ、なるほどな……」
「そうだ、二人とも、ヒュアトスの殺し屋だった」
「あぁ、ヒュアトスに殺されたと聞いていた、そのヒュアトスも一日にして、突如屋敷ごと壊滅した話は……裏社会では巨大竜の仕業だという怪情報が流れていたが……あぁ、だからか。お前、【天凜の月】、お前の仕業だったのだな……」
頷いて、
「すべてが俺たちではないが、大切な仲間に手を出したのはヒュアトス側だった。だから倒した、それだけだ」
俺の言葉を聞き、プルトーの顔に初めて戦慄の色が浮かんだ。
巨大竜が屋敷を消し飛ばしたという怪情報。その噂の主が、目の前にいる俺だと合点が繋がったらしい。
プルトーは睨みを強めた。
その瞳から戦意は微塵も失われていない。
自らの命を燃やし尽くすような熱を感じた。
彼のマグマのような魂の叫び、死狂いの覚悟か。
「……貴様たちが、ヒュアトスを喰らった本物の災厄だろうと、親父殿の御前に立ち塞がるなら……すべてを斬り捨てる」
親父殿のニュアンスからして、ロルジュ公爵を父と考えているのか。
そして、周囲では、ハンカイの斧やユイの魔刀、相棒の触手骨剣によって致命傷を負わされた黒装束たちが、次々と躊躇いなく自爆魔法を起動し、爆散している。
その飛び散る血と暴走した魔力の残滓が、プルトーの足下の濃い『影』へと渦を巻いて吸い込まれ、彼が纏う腕甲から吹き荒れる魔風をさらに狂暴に増幅させていた。
目の前の男もまた、家族を護るためにすべてを捨てているということか。ならば……最初は……。
「……あえて聞く、すべての矛を収めろ……」
「あぁ”?」
プルトーは怒りを滲ませた低い声を返す。
だが、
「レオンやガリウスは、お前たちの囲いを突破し、ロルジュ公爵の部屋に入ったはずだ。ソーグブライト王太子の軍もここに雪崩れ込む。そうなれば、降伏するだろう」
「降伏だと? ……【天凜の月】の盟主よ、貴様は底知れぬ強者だが、同時にひどく甘い男だ」
プルトーは嗤った。
それは嘲りではなく、相容れない生き方しかできない己と相手との決定的な違いを噛み締めるような、乾いた嗤いだった。
「……この状況で、甘くはないだろ。だいたい死に、美学なんて求めていない。ただ、次を見据えて、笑い楽しく生きるため……そうした一つの道を、お前のような存在にも見せられるという自負がある。だからこその、この言葉だ」
「……」
プルトーの視線が揺れる、動揺が見えた。
だが、悲しげな表情で、散った仲間たちを見てから、ある種の諦観じみた顔色に変化した。そして、俺を睨み付け、
「……俺たちが親父殿に拾われ、この血塗られた暗部で何を生業にしてきたと思っている……」
プルトーの両手首の装備に魔風の魔力が集結。
その両腕から体に浸透していくと、オーラのように背から魔力を噴出させ、
「……あの御方が降伏などを、選ぶはずがない。それに……」
プルトーの双眸からわずかに残っていた人族としての理性すらもが消え失せた。
純粋な闘争本能と魔の氣がむき出しになる。
「……親父殿の誇りと命を護るためなら、国ごと焼き尽くしてでも敵を屠るのが、俺たち家族の存在意義だ! 言葉はもういらん。俺の命ごと、貴様の牙を砕く!」
プルトーが双剣をだらりと下げ、深く息を吐き出した。
直後、彼を包む漆黒の魔力が急激に内へと収縮していく。
同胞の死喰いで得た魔力と、限界まで圧縮された殺氣。
プルトーの全身の血管が異様に隆起し、ハーフである彼の『人族の生命力』と『魔族の血』が体内で激しく反発し、ショートを起こすようなバチバチという不気味な音が鳴り始めた。
「カルード、ハンカイ、ユイ、相棒! 周りの手練れは任せる! こいつは俺がサシでやる!」
双槍を構えたままだったが、魔槍杖バルドーク一本に切り換えた。それを見た皆が、
「承知いたしました、マイロード!」
「おう、任せとけ!」
「うん……シュウヤ、氣をつけて」
「にゃごァ!」
頼もしい仲間たちが即座に呼応し、俺とプルトーの間に割って入ろうとする死狂いの黒装束たちを、力技で壁際やホール外周へと引き剥がしていく。
自爆ではない。己の命そのものを燃料にして、一撃必殺の絶技を放つための極限の構え。
魔槍杖バルドークの<握吸>を強めた。
<隻眼修羅>と<闇透纏視>を意識し、強めつつ、目を防ぐ。
<血脈冥想>を行った。
プルトーの呼吸が、俺の死を望むように、感じられる。
「……」
――来る。
殺氣を風で捉えるように<風柳・異踏>――。
横に避け、自然体で、下から上に振るう魔槍杖バルドークで双剣を弾き、肩に担ぐまま前方へ魔槍杖バルドークを滑らせるように突き出す<風柳・案山子突き>――。
双剣で、その初撃を双剣をクロスさせて防ぐプルトー。
「くっ」
そのプルトーへ――。
紅矛の連続突きから、足下を掬う<雷払雲>――。
プルトーは、双剣の片方を下げて足払いを防ぐ。
<仙血真髄>を発動――。
加速し、ガラ空きの脇腹へと、石突の<龍豪閃>を繰り出した。石突がプルトーの腹に沈み込む――。
「ぐえ――」
プルトーは体勢を崩し後退したが、反転し、双剣を突き出す。
それを<隻眼修羅>と<風読み>で読みきる。
<支え串・天涯>――。
それは、突きというにはあまりにも静かな一撃だった。
最初からそこに魔槍杖バルドークが、あったかのように、空間の『涯』そのものとなって現れ、双剣ごとプルトーの胸元を穿ち抜いた――。
プルトーの両手首の腕甲が魔風と閃光を発し、上半身を守ろうとするが、<支え串・天涯>はそれすらも容赦なく消し飛ばす。
プルトーは「ガッ」と大量の血を吐きながら、背から壁に激突し、がくりと項垂れた。その右胸から右肩にかけての肉体が、ごっそりと抉り取られるように消滅している。
「長兄――」
「統括――」
と、悲痛な声でプルトーの名を叫ぶ者たちも、次々にハンカイたちによって切り伏せられ、倒れていく。プルトーは片目から血を流しつつ残った隻眼で己に集積してくる魔力の残滓を見て、最期の力を得たように、
「……ぐっ、暗剣の風スラウテルの加護か……ぐぇほァァ……」
と血を吐いてから、横に倒れ、床を這いずって、
「私……い、俺は……お前を……親父……殿……す、すまねぇ……」
そこで両腕の腕防具が外れ落ちる。同時に、限界を超えて圧縮されていた魔力が暴発したように両腕が吹き飛び、プルトーは二度と動かなくなった。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版1巻~3巻発売中。




