二千百五十三話 赤い双眸の魔剣師の出自
<血道第三・開門>――。
<血液加速>を発動。
空間を押し潰すような風魔法を繰り出しているラスアピッドへと肉薄する。
ラスアピッドは周囲の魔導板を回転させ、
「――野良犬の分際で、この虚空の檻に干渉できるとでも――」
と、俺たちの前の空間を歪ませる。
断層、否、虚空の盾のような魔法なのか?
やや遅れてドッとした重低音と共に空間が歪みながら迫ってきた。
それを見るように、皆と共に旋回機動に移行――。
『ヘルメたち、ユイたちのフォローを』
『『『はい』』』
左目と右目から常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァが飛び出た。
左手の運命線のような傷の横の<シュレゴス・ロードの魔印>から半透明の蛸足集合体が飛び出て、古の水霊ミラシャンが爪から出た。
指輪から風の女精霊ナイアも出る。
点滅しながら現れた光精霊フォティーナと共に螺旋回転しながら宙を飛翔していく。
ロルジュ公爵の軍の魔法士隊の一部が、ヴィーネたちと戦っているのを把握、飛空艇が炎上し、街への落下も起きていた。
そこに、巨大な血剣の群れを扱うファーミリアが見えた。
更に<血魔術・巨人大剣術>の血の巨大な剣を召喚し、それで飛空艇を突き刺して沈める。
そこに、
「――燃え尽きなさい!」
レベッカの声と共に蒼炎弾が、ラスアピッドに向かう。
ラスアピッドは、空間に干渉するように蒼炎弾に何かを衝突させて、物理的に消していく。レベッカは、皇級:火属性炎神鳥の囀りと目される大きい火の鳥を繰り出す。
火の鳥は大きい空間に吸い込まれるように消えてしまう。
更に、ドラゴンのペルマドンとナイトオブソブリンが、ラスアピッドに近付き、炎と雷撃を吐く。
ラスアピッドは己を守るように、頭上に、魔導板のような物を幾つか召喚し、炎と雷撃を防ぐ。
《氷縛柩》をラスアピッドに向かわせる。避けられたが、避けた先に、《連氷蛇矢》と<光条の鎖槍>を置くように繰り出した。ラスアピッドに直撃したように見えたが――。
ラスアピッドは上空に転移。
避けた、そこにレベッカの蒼炎弾がヒットした。しかし、ジュウウウッと、異常な蒸発音が響き、ラスアピッドの間近の空間が熱で陽炎のように歪むと、ラスアピッドの幻影が消えて、本体は別のところを飛翔していた。
相棒も「にゃご!」と口から細い紅蓮の炎を前方に繰り出す。
曲がりくねって飛翔する相棒の炎のブレスは、ラスアピッドの防御用の空間魔法のような半透明な物体を越えていく。
ラスアピッドは加速して避けた。
そんなラスアピッドを凝視しつつも、ここは戦場――。
左と右から飛来してきた魔矢も把握――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>でレベッカを守るように右に送る。
無数の魔矢を防ぎながら、<超能力精神>で、左から飛来してきた魔矢や火球と雷撃を吹き飛ばすように防ぐ。
同時に、左右の両手首の<鎖の因子>から<鎖>をラスアピッドに射出――。
二つの<鎖>は直進、ラスアピッドは加速し、上下左右に移動し、<鎖>を避けていく。
更に、ラスアピッドの上下左右の空間に、干渉しているように、<鎖>は目に見えない壁と衝突し、連続的に弾かれていく。
風属性の魔法、時空属性系の魔法だろう。
「ん、削る」
エヴァが魔導車椅子から身を乗り出し、無数のサージロンの球体を浮遊させた。
展開された白皇鋼の刃が、レベッカの蒼炎が炙った空間の歪みへ、精密なドリルとなって突き刺さる。
防壁が、二人の規格外の<血魔力>によってバキバキと軋みを上げ始めた。
「な、ばかな!? ムサカの遺物の出力が負けているだと!?」
「にゃおぉぉん!」
ロロディーヌが跳躍と共に太い触手を振るう。
虚空の空間にできていた目に見えない壁のような物を叩きつけた。
刹那――ビキッ、とガラスに巨大な亀裂が走るような音が広場に響き渡る。宙空の魔線の傷跡のような煌めきと、その煌めきがラスアピッドの体と繋がっているが見えた――。
狙うか――<水神の呼び声>、<滔天仙正理大綱>、<滔天神働術>を発動させ、加速――。
煌めきの亀裂の中心に近付くまま、その中心に<魔雷ノ風穿>を繰り出した。紅矛が、空間の亀裂を突き抜けた。
空間の亀裂が広がって鼓膜を破るような破砕音が発生――。
粉砕に成功――。
ラスアピッドの体から出ていた無数の魔線も煌めきを強めると「グガァッ!?」と悲鳴を叫び、魔力の逆流が起きているように、苦悶の表情を浮かべたまま吹き飛んでは、血を吐きながら、体から魔力を噴出させて、錐もみ状に上昇、速いが逃がさない――。
魔槍杖バルドークで、<バーヴァイの螺旋暗赤刃>を繰り出した。
螺旋の魔刃はラスアピッドに当たらない――。
そこに金髪をなびかせたルマルディが見えた。
「――逃がさない!」
<血魔力>を全身に巡らせながら<炎衝ノ月影刃>を繰り出す。
ラスアピッドは両手と両足に魔法陣を生み出すと、そこから半透明の柱のようなモノを生み出し、炎と衝撃波のような連続攻撃を防ぐ。
月の形をした炎と風の属性の朧気な影刃が散っていく。
ラスアピッドは、ハイグリアたちへの魔法力を弱めつつ、魔刃も俺たちに繰り出してくる。
ルマルディは反撃の魔刃を避けながらラスアピッドの頭上へと回り込む。
「貴様……裏切り者の空極、ルマルディか!」
「裏切ったのはそっちでしょ! セナアプアを売り渡し、ドイガルガの犬に成り下がったコウモリ野郎が!」
ルマルディは右目の<七ノ魔眼>を金色に輝かせ、体勢を立て直そうとするラスアピッドの魔力の流れを完全に看破する。
「黙れ! お前たちのような異端に、真の空の支配者は……」
「千辛万苦の争いの世に、貴様のような小悪党の居場所はないぜェ!」
「ぬかせ――」
ラスアピッドは無数の魔剣状の魔刃を虚空に生み出し、それらで俺たちを遠くから正確に連続攻撃を繰り出す。
更に、無数の礫のようなモノ、空間の歪みまでも――。
<血想槍>を意識し、虚空に多数の得物を召喚する。
血を纏う神槍ガンジスが閃き、<血龍仙閃>の軌跡を描いて殺到。
間髪入れず、聖槍ラマドシュラーの<刺突>と霊槍ハヴィスの<光穿>が左右から敵の逃げ道を塞ぐ。
続けて白蛇竜小神ゲン様の短槍、夜王の傘セイヴァルト、雷式ラ・ドオラ、独鈷魔槍、神槍ケルフィル――血と魔力を帯びた数多の槍が、それぞれ独自の必殺の軌跡を描きながら、ラスアピッドが展開する防壁を次々と削り取っていく。
そして、本命。血を喰らう魔槍杖バルドークを握り締め、<夜行ノ槍業・壱式>の鋭烈な連続攻撃で、魔剣や魔刃の嵐を防いでいく。
「にゃご――」
相棒も後退しつつ、体から無数の触手を伸ばし、宙空に展開――。
触手から出た骨剣で、無数の魔剣状の魔刃を迎撃していく。
ルマルディの傍らに浮遊する『アルルカンの把神書』が、猫の足跡のマークを赤く点滅させながら陽氣に叫ぶ。
開かれたページから猛烈な炎が噴き出す。
アルルカンの把神書の頁から放射状に魔線が出るや否や、その魔線が、大きな鮫の頭部に変化を遂げた。
<魔霊術アルルカン>と<刹把鮫・血喰>だろう。
その鮫が、口を広げつつ濃密な魔力を内包した魔息を吐きながら突進し、ラスアピッドを追う。
「くそが、アルルカン、お前はいつも――」
ラスアピッドが防壁を再展開させ、防ぐと、ルマルディの<魔弾・把>魔刃を避ける。
俺もラスアピッドに向け<鎖>を射出――。
彼は至る所に魔法陣を設置、爆発させては、無数の魔刃など雷状の斬撃の反撃を、避けながら、繰り出してくるが、逃げ道を塞ぐように、皆で遠距離攻撃を繰り出した。
偏差撃ちを行うように、王級:水属性の瀑布水龍――。
大氣の水分を根こそぎ奪い取るように膨張した巨大な青き水龍が、天を衝くうねりを上げて顕現する。鼓膜を震わせる凄まじい咆哮と共に、大瀑布の如き圧倒的な質量となってラスアピッドの退路へ殺到した。
ラスアピッドは宙空で急制動を掛け、周囲の魔導板を乱舞させる。空間を折り畳むような時空転移で水龍の巨大な牙を防ごうとした。
だが、右目の<七ノ魔眼>を金色に輝かせたルマルディが、その跳躍の先を完全に看破していた。
「――逃がさないって言ったでしょ! <円速・虹刃>!」
ルマルディが両手から放った虹色の魔刃が、空間ごと切り裂くような速度で飛翔する。
ラスアピッドが転移した瞬間に、虹刃と瀑布水龍の激流が同時に直撃した。
「ガ、アァァァッ!?」
防壁は紙屑のように粉砕され、全身から血を噴き出したラスアピッドは、王都の廃倉庫街の瓦礫の中へと真っ逆さまに墜落していった。
「シュウヤ様、お見事――」
「悪党は地に落ちる運命なのさァ!」
ルマルディが笑い、アルルカンの把神書が陽氣にページを羽ばたかせる。ラスアピッドを撃墜し、虚空の檻が完全に消散したことで、地上は再びカオスな大乱戦の様相を呈していた。
「プハァッ……! ようやく息ができる!」
空間の圧迫から解放されたハイグリアが、獰猛な笑みを浮かべた。
銀爪式獣鎧の輝きが、本来の眩い光を取り戻す。
「ダオン! リョクライン! 反撃だ! 公爵の犬どもを噛み砕け!」
「「ハッ!」」
自由を取り戻した古代狼族たちが、目にも留まらぬ速さで重装歩兵の陣形へ飛び込み、銀の爪で次々と鎧ごと肉を裂いていく。
ルマルディたちに、
「俺たちは、下の戦いに加勢してくる、ルマルディはヴィーネたちの援護、及び、ソーグブライト王太子たちの援護を頼む」
「はい――」
「任せな――」
ルマルディたちの動きを見ながら空から落下してきた大きい瓦礫を<超能力精神>で止めて、更に高度を下げて落下してきた巨大な飛空艇に衝突させては、駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>をも、それに激突させて、粉砕、一般の方々を救う。
<魔布伸縮>も使い女性と子供を救った。
逃げ遅れた方々も多い――。
エヴァもラスアピッドに白皇鋼の刃とサージロンの球を向かわせながら、<霊血導超念力>を使い、落下してきた瓦礫を防いでいた。
レベッカも、
「シュウヤ、サザーたちも降下し一般の方々を助けているし、わたしたも、いい?」
「あぁ、エヴァと行動を共にして、一人では行動しないように」
「うん――」
レベッカは両手から蒼炎弾を生み出し、飛ばす。
落下してきた複数の瓦礫を蒼炎弾で粉砕しては、ペルマドンとペルマドンを思念で操作しているように、多数の一般の方々を助けている。
「――ユイたちのフォローが追いつかないから」
「おう、俺と相棒が行く――」
「にゃご」
下に向かった。
王都の街では、ユイとカルードたちが邪道流の剣客たちと激しい死闘を繰り広げている。
「――死ねやァ!」
二人の邪道流の剣客が、トリッキーな軌道で曲刀と鎖分銅をカルードへ放っているのを捉えた。
即座に<月冴>を発動させ、カルードの死角を突こうとした一人の間合いへ瞬時に詰める――。
深い左足の踏み込みから、右手の魔槍杖バルドークで<闇雷・一穿>を叩き込んだ。剣士の脇腹ごと腹をぶち抜いて、即死させる。
「……マイロード――」
カルードの体がゆらりとブレる。
<二連暗曇>――。
暗雲が立ち込めるかのような二重の残像が剣客の視界を狂わせたように、鎖分銅が空を切る。
カルードは驚愕する剣士の懐へ滑り込むと、
「<血滅・虎牙>!」
下からカチ上げるような双剣の斬撃が、虎の牙の如く剣客の胴体を深々と十文字に斬り裂いた。血飛沫が舞う。
鴉さんも流れるような体術と暗器で敵の急所を的確に穿っていく。
カルードと鴉さんに、ユイの動きを見ながら《氷縛柩》を剣士の一人衝突させながら、<超能力精神>で近付いてきた三人の剣士を吹き飛ばす。
相棒も突進し、ユイを守るように三人の剣士を薙ぎ倒していた。
ユイは、
「――よそ見をしている余裕があるの?」
冷静な声と共に背後から迫っていた別の邪道流の奇襲に対し、<銀靱・壱>を発動。
アゼロスとヴァサージで、銀色の靱帯を思わせる魔力の軌跡が宙に描かれ、飛来した毒塗りの暗器をすべて正確に弾き落とす。
そのまま反転し、敵の首筋を一閃で刎ね飛ばした。
衝撃波が飛来。
同時に様々な<血魔力>を感知した。
赤い双眸の魔剣師が繰り出す無数の血刃を、吸血鬼ハンターの爺が往なしている。
後転してきた赤い双眸の魔剣師が、ユイに、
「……やはり、その刀! 貴様、なぜそれを持っている!?」
と言いながら、吸血鬼ハンターの爺が繰り出した十字架の遠距離攻撃を避ける。
爺は、
「新手の吸血鬼集団か!!!」
怒氣を孕んだ声、光の礫を寄越してくる。
それらの礫を――<超能力精神>で、宙空で縫い止めた。
その間にも、赤い双眸の魔剣師が、青白い魔剣を上段からユイへ振り下ろしているのが見えた。
ユイは退かず、双剣を交差させてその重い一撃を受け止める。
「言ったでしょ。王家の血なんて知らない。これは、私の武器よ!」
アゼロスとヴァサージの刀身に刻まれた魔法文字が、赤い双眸の男の魔力に呼応するように、さらに強く白く発光した。
その直後、戦場を掻き乱すように怒号が響いた。
「――新手の魔族共! 我がエーグバイン家の聖なる炎でまとめて浄化してやろう!」
全身から光の魔力を放つ白髪の吸血鬼ハンターの爺――。
こちらを魔族の増援と、認識したようで、十字の聖鉄びしと光を帯びた聖水の瓶を猛烈な勢いで投げつけてきた。
「爺さん、ノーラを知っているなら相手を考えろ――」
と言いながら、左手首の<鎖の因子>から無数の<鎖>を射出。
宙空で網のように展開させ、飛来する聖鉄びしと聖水の瓶の一部を絡め取り、弾き落とす。
そして、あえて<鎖>を消し、その聖水の瓶をわざと喰らう。
ただの水と変わらない。
白髪の吸血鬼ハンターの爺は驚き、
「な!? の、ノーラじゃと?」
足を止めた爺の背後に、漁夫の利を狙って襲い掛かってきた「死ねや、イカレ爺――」
「取った――」
そんな邪道流の剣客たちへ向け――。
大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を送る。
突撃してくる剣客たちに衝突させて、「「げぇ――」」と吹き飛ばす。
「にゃおぉ~」
相棒が俺を飛び越え、カルードと鴉さんをフォロー。
太い触手骨剣で、剣士と吸血鬼とサーマリア王国の兵士の体を蜂の巣にして倒す。
その光景と、俺の頬や服から、ただの無害な水滴としてポタポタと滴り落ちる聖水を見て、白髪の爺は完全に戦意を削がれたように目を見開いた。濡れた服を軽く払いながら、爺を見据える。
「お、お主……聖水が微塵も効かぬばかりか、なぜ孫娘のノーラの名を……!?」
「細かい話は後だ。吸血鬼ハンターの仕事は取りあえず、中止し、一般の方々の避難を手伝ってあげてくれ。見ての通り、俺たちは、無闇に人を殺しているわけではない。爺さんも、今は本当の敵を見極めろ」
<光条の鎖槍>をわざと発動させて、剣士の一人の片足を射貫き、その後部からから光の網に変化していく作用で、剣士を足止めにした。
「……光属性……闇もあるが、……言葉も通じるか……良かろう、一旦矛を収める!」
爺が十字の聖鉄びしを下ろした。
良かった、意外に話が通じる。
視線をユイたちの戦いへと戻す。
赤い双眸の魔剣師が、
「――それはアゼロスとヴァサージか、憎きドルイ・リザロマが王族から不当に得たとされていた、あいつが死んでから……ん?」
赤い双眸の魔剣師の視線が、ふとユイの顔に釘付けになった。
何かに氣付いたのか。
慌てて後転し、ラスニュ侯爵かロルジュ公爵か不明な射手からの牽制の矢を弾き落としながら、ユイから距離を取る。
その赤い双眸には、明確な驚愕が浮かんでいた。
「その双眸……降るような銀色の粉雪に、底冷えする白銀の瞳……まさか、噂のネビュロスの三傑か。ヒュアトスの組織の生き残りがいたとはな……」
赤い双眸の魔剣師は両手の甲と魔剣の柄からサーマリア王国の紋章を輝かせた。全身から火山が噴火するような濃密な魔力を立ち昇らせ、警戒と殺意を限界まで引き上げていく。
「それより、貴方はサーマリア王国の王族? なら、ロルジュ公爵やラスニュ侯爵側とも敵対している? ソーグブライト王太子とも敵対しているの?」
ユイの言葉に、
「軍需派の豚共も王太子の青二才も、この国の真の歴史を知らぬ愚か者だ。我が血脈こそが真のサーマリアを支えてきた……同胞の王家の血の武具を持ち、認められながらも、それを知らぬとはな……」
「御託はいいから、敵なの? 味方なの?」
「お前たち次第――」
言い放つと同時、赤い双眸の魔剣師が握る青白い魔剣の刀身が、脈打つような赤黒い血の色へと染まり上がった。
大氣が重く軋む。極端な前傾姿勢で床を蹴り割り、文字通りの血の凶刃と化して一直線に突撃してくる。
ユイは退かず、姿勢を低く沈み込ませた。
右手に握るアゼロス、左手に握るヴァサージ。二振りの魔刀に刻まれた魔法文字が、これまでにないほど眩い白銀の光を放ち、ユイの全身を包み込む。
そのユイは、振り下ろされる巨大な血の刃を、最小限のスウェーの動きで避け、後退する。反撃できる間合いでありながら刀を振るわず、半身の姿勢のままスッと俺へ視線を送ってきた。
静かで冷静な白銀の瞳。
相手は建国に関わる存在、王族の血筋であるならば無闇に殺すことは得策ではない――そのクレバーな判断を即座に理解した。
「ユイ――」
<雷飛>を発動。
ユイと魔剣師の間に一瞬で割り込む。
魔槍杖バルドークの柄で、魔剣師の血塗られた凶刃をガキィィッ! と受け止めた。
同時に、ユイの双剣の切っ先が、俺の背後でピタリと止まる。
「――邪魔をするな!」
「待て、お前も魔族なら、この<血魔力>を理解できるだろう?」
大量の血の<血道第一・開門>を分かりやすく見せるように噴出させた。
業火の如く拡がり、三百六十度が血に満ちた。
魔剣師は「!?」と驚愕に両目を見開き、頬を<血魔力>の圧力を感じたようにひくつかせる。
本能的な畏怖に当てられたように、鍔迫り合いの力を弱めた。
その相手に、
「俺の名は、カガリ・シュウヤ。王族なら名を聞こうか」
「……私の名はガリウス・サーマリア……その<血魔力>といい、お前、シュウヤは、ただの吸血鬼ではないな……ミドランド家の連中も、急に、動きが鈍くなって撤退者が出ていた理由だと思うが……」
そう語ったガリウスは武器を降ろす。
俺も魔槍杖バルドークの構えを変え、切っ先を下げた。
「……その通り、俺の種族は光魔ルシヴァルで、光神ルロディス様と吸血神ルグナド様とも縁がある」
素直に告げるまま、大きい駒を操作した。
意識の一部は冷静に戦場へ向け、<血魔力>の抱囲の外で、掌握察が探知できるまま、味方のフォローを行う。
ガリウスは俺を見ながら、
「……」
沈黙。
そのガリウスに、
「サーマリア王国の王族なんだな?」
「そうだ。表の歴史から抹消されし、建国王の直系――魔界の血盟を継ぐ、真のサーマリア王族が、私たちだ」
なるほど。
ガリウスの仲間たちの魔族の氣配が周囲に増えた。
「単刀直入に聞く。ソーグブライト王太子をどう思う」
「レオンを組み入れたのは評価に値するが、この国の真の歴史を知らぬ愚か者だ」
敵なら潰しに動くだろう。
だから殺し合う存在ではない。
「ならば、俺たちと手を結べると思うが、どうだ? ユイのアゼロスとヴァサージの魔刀を見て、同胞と語っていたが」
「あぁ、貴様らが持つアゼロスとヴァサージ。私の、この『ゼラム』もまた、建国の血盟の証しの一つなのだからな」
「なるほど……」
そこで、展開していた<血魔力>を操作し、半身に移行し、ユイの姿をガリウスの視界へと通した。
ガリウスは双眸に<血魔力>のような魔力を溜め、ユイの観察を強めていた。
そのガリウスに敵対の意思がないことを示すように、
「手を組めるか?」
と笑顔を贈る。
すると、ガリウスもフッと警戒を解いたような笑みを見せ、ゆっくりと息を吐いて頷き、
「……了解した。お前たちが敵でないと言うのなら、剣を引こう」
ガリウスの視線の先には、ノーラの爺さんがいる。
俺の放った光を有した<血魔力>に当てられたように、十字の聖鉄びしを握ったまま唖然と立ち尽くしていた。
ガリウスは、
「……そこの吸血鬼ハンターも、急に、大人しくなった理由も氣になるからな……」
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」1巻-20巻、発売中。
コミック版1巻-3巻発売中。




