二千百四十六話 タンダール支部の誕生と夜明けの精霊たち
旧神の呪針から解放されたばかりのセンリの体調を心配したが、大丈夫そうだな。
『旧神系の呪いなどへの対処は血筋由縁な影響もあるかと思いますが、ジンザの施術は見事ですね』
『あぁ』
視界に現れている小さい常闇の水精霊ヘルメも、ジンザの一瞬の針を活かした治療技術の高さに感心していた。
センリは、兄のジンザの腕の中で静かに呼吸を整えている。
首筋にあった禍々しい呪いの痕跡はすでに消え失せ、彼女の体内を巡る魔力も安定を取り戻していた。
センリの触れた者の魔脈を腐らせるという特異な力――。
そのスキル名は詳しく知らないが、暗殺を行う能力としてかなり優秀だろう。
かつてジンザが語った通り、彼らは秘匿底街【奈落の澱】という過酷な環境で生き抜くため、自らの経脈、魔脈を弄っている。魔毒の女神ミセアや闇神リヴォグラフ、地底神キールーの魔力にも適応するよう進化した魔商一族の血を引いている。
呪いという不純物が取り除かれた今、その強靭な血筋が本来の適応力を発揮し、彼女自身の意思で魔脈を御せているのだろう。
十六経の間を巡る経脈や魔脈は種族ごとに異なるが、ジンザたちの一族のそれもかなり貴重なものだろうな。そういえば、キッカたちの吸血鬼ハーフである『怪魔』の魔族たちも、また異なる名で呼んでいた。
キッカは、かつて、
『……私も自慢ではないが……亡き父から学び得た<血道・魔脈>と<魔導脈>と<怪魔ノ気概>と<怪魔ノ命脈>を得ている。人族とは異なる正経、魔脈、経脈と呼ばれるの十六経の間を縦横に走る魔導脈に流れる血と魔力……』
と、語っていた。
過去を思い出しながら、センリに、
「……体の具合はどうだ?」
声をかけると、センリはジンザに支えられながらゆっくりと立ち上がった。
その瞳には、暗殺者としての虚無的な暗さはない。
兄を見つけた安堵と、俺たちに対する深い感謝が宿っている。
「……はい。あの冷たくて重い感覚が消えました。自分の魔力が、ちゃんと自分のものとして巡っているのが分かります。シュウヤ様、そして皆様……本当に、ありがとうございました」
センリが深々と頭を下げる。
ジンザも立ち上がり、妹を庇うように前に出ては、俺の前で片膝の頭で地面を突いた。
「どうした急に」
頭部を上げたジンザ。
「あ、はい……シュウヤ様、我らの話を聞いてください」
「いいぞ」
頷いたジンザは、
「我ら兄妹はこれまで、どこの組織にも属さず、己の腕一つで過酷な裏社会を生き抜いてきました。誰も信じず、ただ妹を取り戻すためだけに……」
ジンザの言葉には、長く苦しい道のりを歩んできた者特有の重みがあった。
ジンザは真っ直ぐに見つめてくる。
「……貴方様の圧倒的な武威、そして何より、見ず知らずの我々兄妹のために損得抜きでこれほどまで尽力してくださったその懐の深さに……私は魂を打たれました。もしお許しいただけるのなら……我ら兄妹を、貴方様が率いる【天凜の月】の末席に加えてはいただけないでしょうか」
ジンザの言葉に呼応するように、センリもまた兄の隣で深く膝を折り、頭を垂れた。
「兄様の言う通りです。私からも、どうかお願いいたします。この命、シュウヤ様のために使わせてください」
迷いのない、力強い二人の声。
その確かな忠誠の念が、地下坑道の冷たい空氣を震わせた。
真っ直ぐな彼らの想いを受け止め、静かに頷く。
そこでヴィーネ、メル、レベッカ、ユイ、キサラたちを見ていく。
「ご主人様、メルはもう土地と家屋は既に用意していたようですが、鉱山都市タンダールには【天凜の月】の事務所はありませんし、これを機会に、事務所を構えるのも悪くはないかと」
「そうだな」
ヴィーネとメルは、俺の言葉を聞いてから、目を合わせ微笑む。
皆を見据えてから、ジンザとセンリを凝視――。
「……分かった。では、改めて、ジンザとセンリに問う」
「「……」」
二人は頷く。
「俺たちの大半は、既に知っているようにただの人族ではない。光魔ルシヴァルという種族。光と闇属性を持つ吸血鬼ハーフ系で、敵も多い。そして、味方には、【血星海月雷吸宵闇・大連盟】がある。魔界セブドラでは、五派連合の大同盟もある。それでも良いんだな?」
「はい!」
「勿論です!」
「にゃ~」
「きゃっ」
相棒はセンリの傍により、頬を舐めていた。
センリと黒猫は可愛い。
さて、ジンザとセンリに、
「では、二人を鉱山都市タンダール支部の支部長、および副支部長候補に迎え入れよう」
「えっ」
「私たちが……」
「おう。ヴィーネも言ったが、俺たち【天凜の月】は、ここではほとんど仕事をしていないし、俺は、初めてきたばかりでもある」
と笑顔で言うと、ジンザとセンリも笑みを浮かべ、
「そうなのですね、施術をした時には、すでに、鉱山都市タンダールで長く住んでいる武術家としての、貫禄がありましたが」
「はい、ふふ」
「はは」
ジンザの冗談に笑った。
ハンカイたちも笑顔を見せる。
「「ふっ」」
ジンザたちに、
「ということで宜しく。二人は、もうフリーの暗殺者ではない。俺たちの仲間として生きてもらう。そして、同盟相手であるバメルたち【大鳥の鼻】とも連携を取り合い、この街の裏社会を確固たるものにしてくれ」
「「ハッ! 御意に!」」
二人は深く頭を下げ、誓いの言葉を口にした。
そこで背後に控えていたメルが一歩前へ出る。
「――総長。彼らの活動拠点となるセーフハウスの確認と、大手盗賊ギルド【幽魔の門】とも連絡を取り、その各種情報屋が用意していた暗殺ルートの把握を進めたいと思います」
「あぁ、頼む。メル、カリィ、ハンカイ。お前たちはジンザとセンリに同行して、そのあたりの地盤を固めてきてくれ、くれぐれも、【大鳥の鼻】の面子を潰すようなことはしないように、控えめにな」
「ふふ、承知いたしました」
「アハ♪ 任せてヨ。控えめに、がんばるさ。タンダールの裏の裏まで、しっかり掃除して把握しておくからサ♪」
「ガハハ! 力仕事が必要なら俺の出番だな!」
メルたちがジンザ、センリと共に別の地下道へと消えていくのを見送る。
残ったヴィーネ、エヴァ、レベッカ、キサラ、ユイ、ベネット、カルードたちと視線を交わした。
「よし、俺たちも一旦戻ろうか。アシュレイたちが待つ、武神カシナハの大宿へ」
「「「はい!」」」
「にゃおぉ~」
黒豹が嬉しそうに喉を鳴らし、先頭を切って走り出す。
皆で旧第七魔石坑道の重苦しい空氣を抜け、活氣に満ちた鉱山都市タンダールの地上へと帰還した。
◇◇◇◇
深夜すぎ。
武神カシナハの大宿に戻ると、館内はすでに静まり返っていたが、俺たちの帰還を待っていてくれた女将が、静かに、そして温かく出迎えてくれた。
各々、部屋に備え付けられた清浄の魔道具で手早く激戦の汚れと地下の淀んだ魔力を落とし、肌触りの良い寛ぎ着へと着替える。
そこにハンカイから血文字が、
『シュウヤ、【大鳥の鼻】の虹色の大太刀使いと合流した、こちらが得ている情報を共有するぞ』
『あぁ、構わない』
と連絡をしながら、ユイたちと頷き合う。
ヴィーネもカリィたちに血文字を送っていた。
皆と大滝を望む大広間へと向かう。
そこには煌々と明かりが灯っていた。
窓を開け放ち、夜風が吹き込む広いテラスのような縁側で、アキレス師匠とアシュレイが杯を交わしている。
相棒は師匠の足下に走って行く。
俺も、
「――師匠、アシュレイ。まだ寝ないで待っていてくれたんですか。もう深夜すぎですよ」
「カカッ! なんの。お前さんから貰ったあの実と<天瞬・雷霆時角>のおかげでな、体の底から活力が湧いてきて全く眠れんのじゃ!」
師匠が豪快に笑いながら、極上の魔酒を煽る。
アシュレイも山吹色の髪を夜風に揺らし、微笑んだ。
「エルフである私も、人族ほど睡眠を必要としないからな。それに、アキレス様のその新たな風雷の理と進化の具合について、興味が尽きず、夜を徹して語り合っていたところだ」
「なるほど。たしかに、今の師匠からは静かにしていても凄まじい風と雷の氣を感じます。俺たち光魔ルシヴァルも大半が寝なくても平氣な種族ですから、夜更かしにはちょうどいいですね」
俺の言葉に、エヴァやヴィーネたちも微笑んで頷く。
アキレス師匠は盃を置き、真剣な目つきでこちらを見た。
「うむ。それで、シュウヤよ。ジンザという男と、その妹の件はどうなった? 無事に救い出せたのか?」
「えぇ。旧神系の厄介な呪針でしたが、ジンザの針術と俺たちの連携で、無事に呪縛を解き放つことができました。今はジンザと共に、俺たち【天凜の月】のタンダール支部として休ませています」
「そうか! 活人剣ならぬ、活人槍の働き、見事じゃ!」
「シュウヤ……お前はただ強いだけでなく、そうして出会った者の運命をも救うのだな。ますます敬服する」
アシュレイが感極まったように、熱い視線を向けてくる。
大広間のテーブルには、夜食として女将が用意してくれていたタンダールの名物、魔獣肉のステーキや巨大な岩魚の塩焼き、様々な山菜を使った小鉢が並べられていた。
皆で卓を囲み、改めて軽く盃を交わす。
「カカッ! シュウヤよ、お前の弟子としての成長ぶり、何度見ても飽きんわい。さぁ、飲め!」
「ありがとうございます、師匠」
一氣に喉へ流し込む――。
芳醇な香りと共に魔力が体を巡るのが分かった。
武の話題や師匠の新たな力について盛り上がる中、黒猫はテーブルの上を器用に歩き回り、レベッカやヴィーネから魚の身をもらっては「にゃ~」とご機嫌な声を上げていた。
「ん、ロロちゃん、美味しい?」
「にゃご」
エヴァが相棒の喉を撫でると、ゴロゴロと気持ちよさそうな音が響く。
和やかな空氣の中、ふとベネットが盃を置き、真剣な表情で口を開いた。
「……総長、夜明かしの途中で悪いが、【呪渦の顎】の件さ。ジンザの妹を救い出したとはいえ、奴らの事務所や残党を完全に潰したわけじゃないだろ?」
「あぁ、そうだったな」
カルードとユイも表情を引き締める。
「はい、マイロード。遺した資金や、他の闇ギルドとの連携と、旧神ゴ・ラードの眷族と通じるだけの魔術、呪術、そうした関連資料が残っている可能性が高いですからな」
「そうね。あんな外道な真似をする連中の巣窟。放っておけば、また面倒な連中が寄り付くかもしれないわ」
三人の視線に、俺は静かに頷いた。
◇◇◇◇
夜明け前。
残った皆がそれぞれの部屋で休息を取る中――。
黒猫と共に武神カシナハの大宿の広大な屋根の上へと跳躍を重ねていく。
見上げる夜空には沈みゆく残骸の月と――。
それに寄り添うような本物の月が青白い光を放っている――。
一番高い屋根に到着――。
大滝から舞い上がる水飛沫を含んだ夜風が、心地よく頬を撫でていく。
「にゃおぉ~」
相棒が瓦屋根の上を軽やかに歩き、定位置を見つけたように丸くなった。
静寂の中――精霊たちを一斉に外へ呼び出す。
左目から常闇の水精霊ヘルメが、豊かな胸の谷間と美しい曲線美を誇る女体化した姿で実体化する。続いて右目から闇雷精霊グィヴァが飛び出し、指輪からは風の女精霊ナイア、古の水霊ミラシャン、そしてシュレゴス・ロードが顕現した。更に光の魔力と共に、光精霊フォティーナも神々しく美しい姿を現す。
「閣下、このような静寂の時間に皆様と外に出られるとは……素敵な夜ですね」
「御使い様、タンダールの夜風も悪くありません」
「主、地下の澱んだ氣の後に、この高台の風は心地よいな」
ヘルメが優雅に微笑み、グィヴァとシュレゴス・ロードが頷く。
ナイア、ミラシャン、フォティーナたちも、大滝の涼風を浴びて氣持ちよさそうに宙を舞っている。
右手に陽槍ルメルカンドを召喚した。
静かに<血魔力>を注ぎ込むと、黄金の光と共に輝く鴉の幻影が飛び立つ。
光る鴉は、沈みゆく残骸の月と本物の月を目指すように、タンダールの夜空を美しく飛翔していった。
「……綺麗ですね。閣下の光は、いつ見ても心が洗われます」
「あぁ。エルンストに置いてきたザイクたち猟犬のエッジランナーも、いつかあの本物の月を、曇りなく見上げられるようになるといいなと思ってな。……それに、ジンザとセンリのこともある」
「御使い様のそのお心意氣、彼らにも必ず届いているはずです」
グィヴァの言葉に、他の精霊たちも深く頷いてくれた。
すると、ヘルメがしなやかな体をわずかに沈め、色っぽい流し目を送ってくる。
「閣下……夜明けまで少しだけ時間があります。私と、軽く手合わせを願えませんか? 最近、水術の新たな流れを掴みかけているのです」
「いつもの模擬戦か。いいぞ。皆も見ていてくれ」
「はーい!」
「「はい」」
精霊たちが見守る中、屋根の上でヘルメと向かい合う。
陽槍ルメルカンドを構え、<闘気玄装>を薄く纏った。
「行きます、閣下――」
ヘルメが水飛沫を上げて肉薄してきた。
女体化しているとはいえ、水飛沫を発しての、機動力と水術の冴えは凄まじい。
放たれた鋭い水刃の連撃を、陽槍ルメルカンドの柄で柔らかく往なす――。
水と光が交錯し、屋根の上に幻想的な火花と水飛沫が散った。
左から右へと薙ぎ払われるナギナタ状の水刃。その水の魔刃には、大月の神ウラニリ様と小月の神ウリオウ様の加護が混じっているように、双月神の幻影模様が出現していた。
水神アクレシス様よりも恩恵が強まっているんだろうか――。
そのナギナタ状の水刃を躱して後退すると、ヘルメはさらに加速して下段へと潜り込む。少し跳躍して躱そうとしたが、そこへヘルメの半身から出た無数の水飛沫が、鋭利な刃となって全方位から襲い掛かってきた。
それらを<隻眼修羅>で完全に把握し、陽槍ルメルカンド一本で的確に防ぎ続ける。
更に<血魔力>を込めながら半身で横回転して避け、<風柳・中段受け>で致命の水刃を受け止め、ヘルメの無双のような連続攻撃を凌ぎきった――。
「――ふふっ、さすが閣下。ならばこれはどうですか!」
ヘルメが体を捻り、美しい脚から水の鞭をしならせるような変則的な蹴りを放ってきた。
それを<風柳・中段受け>でふわりと受け流し、流れるように<風柳・撥草尋蛇>へと繋げて彼女の姿勢を薙ぎ払う――。
そして半歩踏み込み、ヘルメの喉元へ寸止めの<刺突>をピタリと突きつけた。
「あっ……閣下の流麗な槍捌き、痺れます……!」
ヘルメは恍惚とした表情を浮かべ、水となって一度距離を取る。
「主よ、ヘルメの動きもだが、主の槍の受け流し、まさに神域だな」
「えぇ、本当に。私たちも見惚れてしまいます」
シュレゴス・ロードとフォティーナが感嘆の声を上げる。
ナイアとミラシャンも楽しそうに宙を回りながら応援してくれていた。
「ヘルメ、水術の練度、確かに上がっているな。流れるような美しい連撃だったぞ」
「閣下にそう言っていただけると、胸が熱くなります……!」
ヘルメが嬉しそうに頬を染めて微笑んだ頃、東の空が白み始め、夜明けの光がタンダールの街を照らし始めた。
「さて、皆、そろそろ戻るか」
「はい、閣下」
「「「はい」」」
精霊たちを再び体の中や指輪へと戻し、黒猫を肩に乗せて、大宿の部屋へと戻った。
◇◇◇◇
翌朝。
武神カシナハの大宿の広々とした部屋に、朝日が差し込んでいた。
窓を開けると、大滝から舞い上がる水飛沫が心地よい涼風となって吹き込んでくる。
黒猫が膝の上で丸くなり、スヤスヤと眠っていた。
その柔らかな毛並みを撫でながら、温かい茶を啜る。
相棒は瞼を少し開けながら、頭部と背を横に動かし、こちらを見やる。
まだ眠たげな視線だ。己の顔を隠すように両前足で目元を覆う動作が可愛い。
と、また体をくねらせ、腹を見せる。
産毛のピンクの肌が見えたから、たまらなくなり、その腹を撫でた。
柔らかい――。
ゴロゴロとした喉音が聞こえてきた。
起こしちゃったかな。まぁいいやと、指を相棒にペロペロと舐められていく。
ヴィーネやエヴァたちも思い思いに寛ぎ、穏やかな朝の時間を過ごしていた。
やがて、廊下から複数の足音が近づいてくる。
襖が開くと、昨夜出撃したベネット、カルード、ユイの三人が戻ってきた。
その後ろには、砂城タータイムから応援に駆けつけたキュベラス、ルリゼゼ、そしてキッカの姿もある。
「戻りました、ご主人様。砂城からの応援要請を受け、合流いたしました」
キュベラスが優雅に一礼する。
そこでベネットたちに、
「おう、ご苦労。それで、【呪渦の顎】の事務所はどうだった?」
ベネットが懐から数冊の分厚い帳簿と、不気味な紫色の光を放つ魔道具の入った袋を取り出してテーブルに置いた。
「下っ端は逃げてもぬけの殻だったわ」
ユイの言葉に頷いた。
カルードが、
「はい、私たちが倒した幹部たちが【呪渦の顎】の主要メンバーであり、盟主の一人だったようです」
【呪渦の顎】は中小の闇ギルドだったようだからな。
ベネットは、
「隠し金庫も見つけたよ、あらかたは暴いたさ。予想通り、旧神ゴ・ラードに関連する怪しい触媒や、呪いの魔道具のストックがどっさりだったね」
と、紫色の光を放つ魔道具の袋を揺らした。
続いてカルードが、分厚い帳簿の一つを指差す。
「はい、この帳簿には、他の中小の闇ギルドとの不透明な資金のやり取り、各種盗賊ギルド、最大手の【幽魔の門】との取り引きなどが詳細に記されていました。タンダールの闇のネットワークを把握する上で、極めて重要な資料となります」
カルードの報告に、ユイが肩をすくめて付け加える。
「しかも、逃げる準備もろくにせずに慌ててアジトを放棄したみたいね。おかげで金貨や魔石もたっぷり回収できたわ」
なるほどな。
手に入れた帳簿をパラパラと捲りながら<闇透纏視>と<隻眼修羅>で魔道具の残骸を確認する。
エトアとラムーも残骸を確認していた。旧神の呪詛のような魔力がかすかに残っているが、俺たちの<血魔力>で浄化すれば問題ないレベルだ。ラムーも霊魔宝箱鑑定杖を使い鑑定をしていたが、何も報告をしていないので、大丈夫だろう。
「……よくやった。これでタンダールの裏社会は、【大鳥の鼻】とジンザたち【天凛の月】支部でコントロールできるだろう」
帳簿と魔道具をアイテムボックスに収納し、皆を見渡す。
「さて、タンダールでの用事も粗方片付いたか……次の目的地だが、マダム・ルージュから情報があった【魔科学実験都市ボレノン】へ向かう準備を始めるとしようか」
皆が一斉に力強く頷いた。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。
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