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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2124/2159

二千百二十三話 フェドゥとマガリディ<従者長>になる

 ソフィーやシタンたちに、


「ソフィーたち、俺たちは塔烈中立都市セナアプアに戻るが、少し、話をしようか」

「はい、地下の冥界シャロアルの出入り口も安定状態のままです。五派連合の影響により、北から東にかけての隣接地域は、光魔ルシヴァルの領域は安定しています。しかし、懸念は、南と東の狩魔の王ボーフーンと厖婦闇眼ドミエルです」

「了解している。それで、ここから北の王魔デンレガと魔蛾王ゼバルの支配地域には、まだアチたちが留まっているのかな」

「はい、恐王ノクター側の恐蒼将軍マドヴァの軍、メリア・ローランド率いるペントリアム魔傭兵、<従者長>アチたちの連合軍は、吸血神ルグナド様、悪夢の女神ヴァーミナ様と連携しています」


 頷いた。


「では、悪いが話はここまで塔烈中立都市セナアプアに戻り、ファントム・アルフのマガリディを連れてくる。会議は続けてくれ」

「「はい」」


 振り返り、アイテムボックスから魔杖バーソロンを取り出しながら魔の扉に移動。

 下部の孔に極大魔石を入れ、魔杖バーソロンを差し込み、パネルをポチッと押す。

 魔の扉の鏡を起動させた。

 魔杖バーソロンを回収し、皆で、魔の扉の鏡の中に入った。


 塔烈中立都市セナアプアの地下世界、地下神殿に到着。

 無数の花々と大小様々な樽が並びまくっている広場を凝視しているとキュベラスが、「シュウヤ様、ペントハウスに――」と<異界の門>を発動。


 祭壇のような階段の下に巨大な石門が瞬時に出来上がる。

 その巨大な石門を皆で潜ると、ペントハウス内部に転移した。

 

 リビングでは、ペレランドラやキッカ、そして待機していたマガリディが、光のゲートから現れた俺たちを見て即座に居住まいを正した。


「――シュウヤ様たち、お帰りなさいませ。和平会合後の各国の動向、並びに大魔術師アウグスト殿が率いる【魔術総武会】の魔塔防衛ラインの再構築、アドリアンヌ、シキ、キッカ、レザライサも協力しつつギルドマスターと【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の顔役の立場を利用し、裏社会に睨みを利かせています。いずれも順調に推移しております」


 ペレランドラが上院評議員としての凛とした顔つきで手短に報告を行う。

 そこで屋上の先に浮いている砂城タータイムを見ると、いつもより小さい炎竜ヴァルカ・フレイムが小型飛空戦船ラングバドルに四肢を乗せて、己の翼の下に頭部を向け、毛繕いのようなことをしているのが見えた。


「……ご苦労。セナアプアの状況は安定しているようだな――マガリディ」


 声をかけると、ペレランドラの背後に控えていたマガリディが弾かれたように顔を上げた。

 その表情には、故郷に残した仲間たちの安否を気遣う不安と、捕虜としての緊張が色濃く入り混じっている。


「……は、はい。何か、私の故郷に……フェドゥに何かあったのでしょうか……?」

「安心しろ。多眼魔将ゴルム・ザードは俺たちが討ち取った。お前の同胞たちも全員無事。だが、幽影魔族の集落、土地は放棄してもらうことになった。今は皆、魔界の俺の領地である【レン・サキナガの峰閣砦】へ避難させてある」

「えっ……!?」


 マガリディの深い紫の肌を持つ端正な顔が、驚愕に染まる。

 信じられないといったように、俺たちの顔を交互に見てきた。


「ん、大丈夫。フェドゥたちは、向こうで待ってる」


 エヴァが優しく言葉をかけると、マガリディの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 その場に崩れ落ちるように膝をつき、両手で顔を覆って嗚咽を漏らす。


「あぁ……よかった……本当に、よかった……!」

「ファントム・アルフの長老バマラと奥さんたちと話し合いをした。光魔ルシヴァルの庇護下に入ってもらうことになった。そしてフェドゥは、俺の<従者長>になることを望んだんだが、マガリディはどうしたい? ただの民として砦で暮らすこともできる」


 強制はしない。

 マガリディは顔を上げ、涙で濡れた瞳に強い意志の火を灯した。


「……私も、フェドゥと同じ道を望みます! 絶望から救い出してくださったシュウヤ様に、この命を捧げさせてください!」


 力強い言葉と表情だ。蒼みかがった瞳は美しい。

 

「分かった。なら、皆のところへ行こうか」

「はい!」


 マガリディを伴い、再び、フロルセイル地方の傷場の前にキュベラスの<異界の門>を用いて転移し、移動。傷場の前に到着。


「ふふ、またも一瞬ですね。フェドゥ」


 と、マガリディは呟き、傷場を見上げていた。


 傷場の表面は、今は閉じた状態だが、時空の傷を保っている無数の未知の魔力がプロミネンス的に波と振動のような不可思議な動きで周囲に放出されている。

 ワイル粒子、マヨラナ粒子、アクシオン、無数の素粒子のようなモノが放出されているように見える。

 

 一種の時空の紐に見えるのは前と同じ。


 魔界とセラの境目の次元空間を繋げている。

 一瞬、空間が内に裂けて周囲の空氣を取り込んだかと思えば、次の瞬間には内部の宇宙的なモノが吐き出され、セラの大氣を歪ませる。二つの世界の境界が剥き出しとなる瞬間、無数の魔線の中に小宇宙が見え隠れし、微小な生命体や植物、アンモナイトに似たクリーチャーが行き交うのが見えた。まるで不可思議な万華鏡を覗き込んでいるかのようだ。


 あらゆる色の魔力の中の異世界が液状となって傷から滲み出すこともある。

 時には硝子や鏡のように固形化したかと思えば、次の瞬間には蒸発して霧となった。


 魔界とセラの法則が互いに侵食し合っている証拠。

 カラビ=ヤウ多様体っぽいモノが粘着性を帯びながらも、トポロジーを表現するように蠢く。

 

 それらの傷場の運動、波動関数のようなモノを見ながら――。

 黄金の装飾が施された『魔霊のシンバル』を取り出す。古びた羊皮紙の『魔王の楽譜第三章』も出した。


 魔界の楽器と魔王の楽譜第三章を使用し、傷場が開いた。

 傷場を皆で通り抜け、【デアンホザーの地】にまた戻る。


 キュベラスが、「では、また直ぐに【レン・サキナガの峰閣砦】に戻りましょう――」


 キュベラスが両手を高く掲げ、極大の<血魔力>を放出する。

 空間が小さく歪むと、小型の<異界の門>が顕現した。

 大きさのコントロールが可能か。

 見た目も変化していた。今までは、ダンテ・アリギエーリが作った『神曲』三篇に登場する世界の地獄の門を連想していたが、今の<異界の門>は石の門に樹が絡み付いている。

 小型の石門にしか見えない。


 その石門の<異界の門>を潜り、【レン・サキナガの峰閣砦】の大楼閣ではなく、地下大回廊の地下闘技場に戻った。


 <異界の門>を抜けるなり、幽影魔族のファントム・アルフたちの中で、逸早くフェドゥが、


「マガリディ!」

「フェドゥ!」


 と、二人は駆け寄る。互いの無事を確認し合うように強く抱き合った。


 ……良かった。助けることができて本当に良かった。


 長老バマラや隻眼の婆、そして周囲のファントム・アルフたちも姉妹のような二人の再会を涙ながらに見守っている。


 ひとしきり喜びを分かち合った後、フェドゥとマガリディは揃って俺の前に進み出た。


「シュウヤ様。どうか、私たちを光魔ルシヴァルに……」

「おう。フェドゥとマガリディ、お前たちを<従者長>に迎え入れよう」

「シュウヤ、二人同時?」

「シュウヤ様も、成長しているとは思いますが……」

「「……」」

「大丈夫、たぶんできるとは思うが、一人ずつ行うとしよう。まずはフェドゥから」

「はい!」


 フェドゥが一歩前へ出る。

 常闇の水精霊ヘルメが「周囲を《水幕(ウォータースクリーン)》で囲います――」


「おう」


 ヘルメの両手から展開された水の魔力がカーテン状に展開されていく。

 そこで、フェドゥを見て意識を集中させるように、


「フェドゥを<従者長>に――」


 <光闇の至帝>を発動した。

 体から大量の血が迸る。

 一瞬にて、半径三十メートルを光魔ルシヴァルの血の世界へと塗り替えた。

 鉄と薔薇の香りが混じり合う神秘的な血の海と化す。


 フェドゥは光を帯びた血の世界を見て、驚愕に目を見開く。


 強い覚悟を目に宿しながら立ち泳ぎを行うように漂った。

 ほぼ同時に、光魔の王冠が降下し、手元に王笏が顕現。


 <血道第五・開門>が自動的に発動し、血の錫杖が出現した。


 彼女の体に光魔ルシヴァルの血が流れ込み、吸収が開始される。


 フェドゥの体内から溢れ出す幽影魔族特有の影の魔力が、光魔の血と激しく反発し合っていた。

 彼女は口から空氣と銀色の魔力粒子を吐き、苦悶に顔を歪めながらも血を受け入れていく。

 吐き出された銀色の魔力は彼女を包み込むように子宮の形を模り、その表面にファントム・アルフの集落の風景と双牙の短剣の紋章が揺らめきながら儚く消えていった。


 血の錫杖が上下左右を行き交い、小気味良い音波が響く。

 音色に導かれたように無数の小精霊(デボンチッチ)たちが現れ、幽影魔族の黒い革鎧を着て影の短剣を振るう姿で楽しげに行進し、フェドゥの体へと突入していく。

 続いて、七福神の装いをした血妖精ルッシーたちが乗る宝船も出現し、血流に乗って流れ込んでいった。


 フェドゥは光魔ルシヴァルの血を取り込み続けて着実に量を減らしていく。

 すると、頭上に半透明なルシヴァルの紋章樹が出現。


 ルシヴァルの紋章樹の幹と枝は太陽の如く輝きながら、左右に優雅に伸びていった。

 下部の根っこは、月虹の暗さを帯びた輝きを示した。

 万朶の枝には銀の葉と花が咲き、勾玉の形をした神秘的な実が宿る。


 その実は熟すと同時に宙空へと魔力粒子となって散り、フェドゥの体内に吸収されていく。


 半透明なルシヴァルの紋章樹から無数の魔線が放出され、フェドゥの体に付着する。

 ゆらゆらとルシヴァルの紋章樹の万朶の枝葉に引っ張られるように持ち上がる。

 操られるマリオネットのように体が少し揺らいで、舞踊を行うように動いた。


 周囲の血の流れが加速され、半透明なルシヴァルの紋章樹とフェドゥは重なる。

 と、フェドゥの肌に光の筋が浮かぶルシヴァルの紋章樹の榊の葉から滴る露がフェドゥの肌を濡らす。血筋の模様が生きた蔓のようにフェドゥの肢体を抱きしめ、深紅の花を咲かせるように円を描いていくと、フェドゥの体に、ルシヴァルの紋章樹の樹と根が深く絡むように融合を強めた。

 

 と、ルシヴァルの紋章樹の一部の幹が本物の色合いに変化し、そこから銀の葉が付いた榊の棒が出る。


 その榊の枝を手に取り、皆と同じようにフェドゥを見ながら前に出る。

 力の根源たる<光闇の奔流>、大量の<血魔力>を榊に込めた。

 その枝葉でフェドゥの体を祓い清める。


 葉がフェドゥの肌に触れると血の線が奔り、体が震えた刹那――。

 視界が切り替わる。


 幼いマガリディの姿と、魔界の森で遊ぶ彼女たちの親戚が見えた。

 やはりマガリディは妹のようだ。母親の姿も直ぐに見つかった。フェドゥとマガリディによく似た美人だ。ランリィンという名らしい。

 場面が変わり、女性魔族の強者に指導されている光景が映る。あの隻眼の婆の若き日の姿だ。

 両目があり、美しい。すると、長老バマラは、あのイケメン魔剣師か。

 

 これはフェドゥの記憶で確定。


 その女性魔族に指導を受けて、十字型、円盤型の手裏剣を<投擲>する訓練。

 幽影の名があるように、体が半透明になり氣配を殺すスキルがある。

 魔剣の袈裟斬り、魔剣の柄に魔力を込めながら魔剣を振るうと、柄から半透明の魔線と繋がっている刃が伸びて、それを操作、遠距離攻撃スキルか、それを眼球型のクリーチャー兵に衝突させ、収斂させると、一氣に近付いて魔剣の袈裟斬りと逆袈裟の連続斬りでクリーチャー兵を両断し倒していた。


 二人は、周辺の魔族たちの争いの場で活躍し、モンスター、クリーチャーを多数倒していく。

 幽影魔族の集落の周囲での争いが占めているが、穿山ウアンの戦場の一環なのか。

 暴虐の王ボシアド、魔界王子ライラン、悪神デサロビア、闇神リヴォグラフの、眷族たちが率いている部隊との争いに何度も巻きこまれながらも生き抜いている。


 そして、多眼魔将ゴルム・ザードの軍勢によって、幽影魔族の故郷が業火に包まれる地獄の光景となった。


 仲間を守るため、血反吐を吐きながら魔剣を振るい、大型の手裏剣を<投擲>している。


 だが、圧倒的な物量の前に傷つき、絶望の淵に立たされた時、絶剣イゼハが現れた。

 『俺の影として死ぬまで働くなら、この集落は保護してやる』

 屈辱と無念を押し殺し、一族を守るため心を殺してイゼハの影となった。その日々の重圧が、流れ込む記憶を通して俺の胸をも締め付ける。

 永きに亘り【異形のヴォッファン】の戦力として前線を駆け抜けたフェドゥとマガリディ。

 絶剣イゼハの名が闇神リヴォグラフ陣営で轟くようになると、いつしか『ファントム・アルフの魔族には使い道がある』という残酷な評価が、大眷属たちの間で共通認識と化してしまっていた。

 ――そして、【幻瞑暗黒回廊】での戦いで、俺に捕縛され、すべてが終わったと絶望した瞬間から、救済の光を見た時の魂が震えるような歓喜の記憶。


 幻視が終わり、血の世界に戻ると、ルシヴァルの紋章樹の幹と根っこが鮮やかな血の樹液が脈打ちながら成長していくと、幹と枝の表面に、大きい円と小さい円が刻まれていった。


 その円の中に、光魔ルシヴァルを支える柱の<筆頭従者長>と<従者長>たちの名が、光の文字となって一つ、また一つと円の中に刻まれていく。


 第一の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ヴィーネ――。

 第二の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>レベッカ――。

 第三の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>エヴァ――。

 第四の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ユイ――。

 第五の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ミスティ――。

 第六の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ヴェロニカ――。

 第七の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>キッシュ――。

 第八の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>キサラ――。

 第九の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>キッカ――。

 第十の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>クレイン――。

 第十一の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ビーサ――。

 第十二の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ビュシエ――。

 第十三の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>サシィ――。

 第十四の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>アドゥムブラリ――。

 第十五の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ルマルディ――。

 第十六の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>バーソロン――。

 第十七の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ハンカイ――。

 第十八の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>クナ――。

 第十九の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ナロミヴァス――。

 第二十の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ルビア――。

 第二十一の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>レン――。

 第二十二の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>エラリエース――。

 第二十三の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ファーミリア――。

 第二十四の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>キュベラス――。

 第二十五の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>レザライサ――。

 第二十六の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ルリゼゼ――。

 第二十七の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>ラティファ――。

 第二十八の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>アフラ――。

 第二十九の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>レミエル――。


 続いて、その礎を成す<従者長>たちの名が、力強く浮かび上がる。


 <従者長>カルード。

 <従者長>ピレ・ママニ。

 <従者長>フー・ディード。

 <従者長>ビア。

 <従者長>ソロボ。

 <従者長>クエマ。

 <従者長>サザー・デイル。

 <従者長>サラ。

 <従者長>ベリーズ・マフォン。

 <従者長>ブッチ。

 <従者長>ルシェル。

 <従者長>カットマギー。

 <従者長>マージュ・ペレランドラ。

 <従者長>カリィ。

 <従者長>レンショウ。

 <従者長>アチ。

 <従者長>キスマリ。

 <従者長>ラムラント。

 <従者長>エトア。

 <従者長>ラムー。

 <従者長>リューリュ。

 <従者長>パパス。

 <従者長>ツィクハル。

 <従者長>シャナ。

 <従者長>ハミヤ。

 <従者長>アジュール。

 <従者長>ザガ。

 <従者長>ボン。

 <従者長>ジュカ――。


 ルシヴァルの紋章樹に刻まれたヴィーネの木彫りは、以前よりも凜々しさが増していた。

 〝星見の眼帯〟を身に着け、<光魔銀蝶・武雷血>を発動させた状態で、戦迅異剣コトナギと古代邪竜ガドリセスを構える雄姿へと彫りが変わっている。さらに、翡翠の蛇弓(バジュラ)、〝風朧の霊弓〟、〝陽迅弓ヘイズ〟、〝月迅影追矢ビスラ〟を宙空に浮かばせる精巧な姿が刻まれていた。


 レベッカは〝城隍神レムランの竜杖〟を掲げて両手でお祈りをしている。

 『生命の泉』の復活の場面の造形だが、前とは異なる。

 <光魔蒼炎・血霊玉>は足下に複数誕生し、その上にレベッカは浮いていた。

 周囲には巨大なナイトオブソブリンとペルマドンが精巧に木彫りされているのは前と同じ。


 エヴァは<霊血魔導装具ルシヴァルプロテクター>と魔導車椅子を分解させた状態。

 片腕を伸ばし、何かを訴えつつも、己の骨足に金属を付着させ続ける姿が精巧に彫られてあった。


 ユイは幽影魔族たちを救う場面が木彫りされている。

 ミスティは魔導人形ゼクスに乗っている。

 アフラとレミエルたちの円からは、黒魔女教団の再興と仲間たちを守る姿が誇らしく彫り込まれている。

 アドゥムブラリ、ソフィー、ベリーズ、フー、ミレイヴァル、ファーミリア、ルンス、クナ、イモリザ、ツアン、ナギサなど、皆の姿もある。


 <従者長>の系譜の最後に刻まれたフェドゥの円。

 そこには、影から跳躍し双牙の短剣を振るうフェドゥの姿が精巧に木彫りされていた。


 紋章樹がまばゆい光を放つと、<従者長>の系譜の最後に、新たな小さな円が生まれ、そこに『フェドゥ』の名が白銀の輝きを放ちながら刻まれた。


 すべての眷属の名が揃う。


 新<従者長>の誕生だ。

 

 ルシヴァルの紋章樹のあちこちに造形された木彫りの一つ一つが、魂を宿したかのように動き始めながら、光魔ルシヴァルの血と共に彼女の体内へと吸収されていった。


 血の世界が収束し、フェドゥがふらりと膝をつく。

 

「……これが、光魔ルシヴァルの……」


 双眸に血筋が入っているフェドゥに頷き、手を差し伸べた。


「立てるか?」

「……はい……」


 と震えた手で、俺の手を握ったフェドゥは「ぁん」と感じた声を発し、寄り掛かってきた。

 体が数度振るえたフェドゥに、


「光魔ルシヴァル入り、おめでとう。<従者長>として、これからも頼む。そして、血の飢えがあるはずだ。まずは、俺の<血魔力>を吸え」

「……はい」


 フェドゥは、俺の首筋にキスをするようように唇と歯を宛がうと、噛み付いてきた。

 そのまま血を吸ったフェドゥは体の震えが収まると、自然と口を離した。

 そのフェドゥに処女刃を渡し、盥を用意して足下に運ぶ。


「二の腕に嵌め込んでスイッチを押せば刃が飛び出る。それで血を流し続けることで、<血道第一・開門>、略して第一関門が得られ、<血魔力>の操作と血文字が行えるようになる。また、個人差によるが、魔族の場合はすぐに<血道第一・開門>を覚えることができるかもだ」

「分かりました」


 そこでマガリディへ向き直った。


「次はマガリディ、お前だ」

「はい!」


 マガリディが進み出たところで、再び<光闇の至帝>を発動。

 先程と同じく、血の世界が展開され、マガリディが血の液体の中で立ち泳ぎを始める。

 彼女もまた銀色の魔力粒子を吐き出し、子宮の形を模った幻影の中には、姉であるフェドゥの背中を追いかけながら螺旋型の巨大な手裏剣を振るう姿が映し出された。


 血の錫杖の音波と共に、小精霊(デボンチッチ)たちや宝船が彼女の体へと吸い込まれていく。

 そして、俺の意識にマガリディの記憶が流れ込む。


 ――父であるペリォンがゴルム・ザードの兵刃に倒れる凄惨な光景。

 泣き叫ぶ自分を庇い、血塗れになって戦うフェドゥの背中。姉が一人で重荷を背負い、イゼハの軍門に下ったことへの無力感。

 強くなると誓い、必死に影の魔力を練り上げた日々。

 ――そして、俺という圧倒的な『光』に出会い、長きにわたる恐怖から解放された時の、魂が溶けるほどの安堵感。


 幻視が終わり、再びルシヴァルの紋章樹が出現する。

 先程と同じく、歴代の眷属たちの名が光の文字となって一つ一つ刻まれていく。そして、フェドゥの円のすぐ隣に、新たな円が生まれ、『マガリディ』の名が刻まれた。

 円の中には、螺旋型の巨大な手裏剣を構え、姉の背中を守るように立つ彼女の姿が木彫りされている。


 紋章樹が光と共に吸収され、血の世界が完全に収束した。

 床に手をつき、荒い息を吐くマガリディを支えるように抱き、血を吸わせてあげた。


「シュウヤ様……」


 恍惚の表情となっているマガリディ。

 そこに、フェドゥが、「シュウヤ様、<血道第一・開門>を得ました!」と早速結果を出す。


 「早いな。さすがは幽影魔族の戦士として幾多の死線を潜り抜けてきただけはある。おめでとう、フェドゥ」

「はい! ありがとうございます!」


フェドゥは嬉しそうに微笑み、腕の傷を自身の<血魔力>で塞いでいく。

 それを見たマガリディも気合を入れ直し、渡された処女刃を己の二の腕に当て、スイッチを押した。


カシャッ、と刃が紫の肌に食い込む。

 盥を用意する必要もなく、二の腕から輝きを帯びた血が流れて、直ぐに、その血を吸い寄せる。白銀の光を帯びた<血魔力>が彼女の体へと還っていった。


「……私も、得ました! <血道第一・開門>を!」

「おう、二人とも優秀だ。マガリディも、おめでとう」

「はいっ!」


 マガリディは満面の笑みを浮かべ、フェドゥと手を取り合って喜んだ。

 その様子を温かく見守っていたヴィーネが、優雅な足取りで近づき微笑みかける。


「ふふ、歓迎しますよ、フェドゥ、マガリディ。今日からあなたたちは、私たち光魔ルシヴァルの大切な家族です」

「ん、新しい家族。よろしくね。二人の影の力、すごく頼りになる」


 エヴァもふわりと浮き上がり、二人に言葉をかける。


「ヴィーネ様、エヴァ様……はい! 精一杯、努めさせていただきます!」


 フェドゥとマガリディは深く頭を下げた。

 キサラやレベッカ、キュベラスたちも次々と歓迎の言葉をかけていく。

 ヘルメの《水幕(ウォータースクリーン)》越しもあったとは思うが、見守っていた長老バマラや隻眼の婆、そしてファントム・アルフの民たちも、安堵と希望の入り混じった表情を浮かべている。



 隻眼の婆が、魔杖をつきながら進み出る。


「……見事なものだ。あの二人が、これほど清冽な魔力を纏うようになるとは。光魔の旦那、いや、シュウヤ様。我らの一族から、あのような立派な戦士を取り立てていただき、心より感謝申し上げる」

「婆さんも、二人の師匠格なんだろう? 砦の者たちに、その技術を教えてやってくれると助かる」


 隻眼の婆は、ニヤリと笑って力強く頷いた。


「フン、老いぼれの技でよければ、いくらでも叩き込んでやるさ」

「はい……我ら一族、峰閣砦の発展のため、粉骨砕身の覚悟で働かせていただきます」


 長老バマラも涙を拭いながら深々と頭を下げる。

 そこでレンに向き直った。


「レン。彼女たちのことは頼んだぞ。居住区の手配や、魔技班、上草影衆との連携など、適材適所で組み込んでやってくれ」

「ハッ、お任せください。彼女たちの影の技術は、我が砦の防衛と諜報に大いなる恩恵をもたらすでしょう。すぐに手配いたします」

「あぁ、頼む」


 一段落したところで、黒猫(ロロ)が俺の足下で「にゃ~」と鳴いて見上げてきた。


「腹が減ったか?」

「ンン、にゃお」

「ふふ、ロロ様には、まだまだ特上の魔獣肉もご用意しておりますよ! 皆様も、まだ崎長味噌の豚汁風鍋がございます。どうぞお召し上がりください」


 ルミコが氣を利かせて案内してくれる。

 張り詰めていた空氣が緩み、穏やかな温もりが【地下大回廊】に満ちていく。

 大きな戦いを終え、新たな仲間を迎えた後のこの時間は格別だ。


「じゃあ、皆で飯の続きといくか」

「「「はい!」」」


 皆の明るい声が、地下闘技場の内部に響き渡った。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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