二千百二十話 スリーマンセルの強硬偵察と十層地獄の刃
途中からヴィーネ、ユイ、キュベラスの<筆頭従者長>のスリーマンセルの戦いとなります。
「承知いたしました、闇神リヴォグラフ側の大隊、旅団規模が一つだけとは考え難いですからね」
「あぁ、先程も言った通り、撤退を基本とすることは変わらんが……」
フェドゥをチラッと見て、ファントム・アルフの集落と生き残りの数をザッと見てから、
「……ファントム・アルフたちとの話し合いもある。復興できる時間があればとは思うが、如何せん、ここの土地勘は俺たちにはないし、四面楚歌となりかねん状況だ。だから、逸早く避難することが先決だとは思うが、俺たちが焦っても仕方がない。今は、フェドゥにも協力してもらい、ファントム・アルフの方々を冷静に、広い場所に集めてもらう必要もあるだろう」
と語ると皆とキュベラスも顔色を変える。
厳しさ表情に出し周囲を見てから、
「……はい。強硬偵察、警邏をかねて行ってきます」
「あ、キュベラス、待ってください。わたしも共に行きます。兵站の役割は多様ですが、後続、継戦能力を考えると、輜重部隊こそかなり凶悪的な強さを持つ戦力がいると仮定はできます」
ヴィーネの言葉に皆が頷いた。
「はい」
「わたしも行く。ゴルム・ザードの大隊が消えたことで、神々と諸侯の戦力が動くかもだからね」
「はい、闇神リヴォグラフの領域と隣接しているのは穿山ウアンの戦場ですから、警戒を強めましょう」
キサラの言葉に皆が頷く。
キュベラスは、
「分かりました、ヴィーネ、ユイ、<筆頭従者長>のスリーマンセルと行きましょう」
「ふふ、はい」
「うん、シュウヤとロロちゃん、キサラとエヴァも、ここを頼むわよ」
ユイの言葉に、
「おう」
「にゃ~」
「はい」
「ん」
ヴィーネ、ユイ、キュベラスの三人は、深い闇へと音もなく駆け出した。
□■□■
ここ魔界セブドラの辺境。
ファントム・アルフの集落から南東に数十キロ。
穿山ウアンの戦場や、十層地獄の王トトグディウスの領域へと続く険しい岩場と魔力荒野。
<ハデスの闇衣>を扇状に展開し、無数の魔道具をも使っていたキュベラスが先頭を走る。
周囲の空間の歪みに闇神リヴォグラフ側の戦力を、主に感知、偵察しながらルートを切り開く。
その両翼をヴィーネとユイが警戒しながら並走していた。
三人の足取りは魔界の重い大氣を感じさせないほど軽い。
枯れ枝一つ音を立てていない。
すると、<ハデスの闇衣>を仕舞い、闇晶レギアンに戻したキュベラスは足を止めた。
ヴィーネとユイも足を止めた。
闇の衣に覆われていた三人は周囲に露見されることになるが、それは了承済みのように頷き合う。
キュベラスの胸の谷間のネックレスが煌めく。
ネックレスの中心にはルビーのような魔宝石があり、そこから<血魔力>も発生していた。
<魔晶・魔群探知>にも反応している証左でもある。
そのネックレスから無数の煌びやかな紅の宝石の欠片が宙空に飛び、赤い結晶を撒くように散っていた。
「……キュベラス、ユイ、左、右にも」
「はい」
「うん、掌握察の探知を超えている速度でついてきている。強者の小隊、わたしたちと同じような部隊かな」
キュベラスの胸元のネックレスから放たれた紅の宝石の欠片が、空間のわずかな揺らぎを捉えて宙空でパリンと弾ける。
「空間跳躍か、あるいは極度の光学迷彩。……来ます!」
キュベラスの警告と同時、左右の岩陰から、空間そのものを切り裂くようにして複数の影が飛び出してきた。
全身を黒灰色の流体装甲で包んだ四つん這いの獣のような機動を見せる異形の魔族たち。
その手には、不気味な紫黒の魔力が纏わりついた歪な短剣が握られている。
一人の異形の魔族が、
「……光魔の雌犬ども……ゴルム・ザード将軍の仇……!」
その言葉に眉を潜ませたヴィーネは、
「先程逃げた連中が何をほざく」
「数が少ない私たちを狙ったのかしら?」
「ふっ、舐められたものだ……」
ヴィーネは素の感情のまま、黒灰色の装甲を身に纏う者たちを凝視。
ユイは、
「たぶんだけど、直の暗殺部隊でしょ。なまじ力や良い魔道具とか持っているのかもよ」
「……ふむ、多少、鼻が利く程度だろう」
ヴィーネの言葉に、二人は頷く。
ユイはイギル・ヴァイスナーの双剣を抜き放ちながら、余裕の笑みを浮かべた。
キュベラスは、
「ですが、個々の魔素の密度は先ほどの集落を襲っていた兵士たちとは比べ物になりませんよ」
「そうね、敵の数も約十と、数では不利」
「キュベラス、弱氣になるな、<筆頭従者長>であるからこそだぞ」
「はい」
「ご主人様たちに手間をかけさせるわけにいかない……ここで確実に仕留めよう――」
ヴィーネが翡翠の蛇弓を構え、光線の弦を瞬時に引き絞った。
敵が地を蹴り、残像を伴って波状攻撃を仕掛けてくる。
ヴィーネは<速連射>を放つ。放たれた無数の光線の矢が空間を切り裂くが、暗殺者たちは流体装甲の表面を波打たせ、矢の軌道をヌルリと逸らした。
「やはり、特殊部隊だったか! 物理的な衝撃を逸らす装甲」
「ミスティにお土産にできるかも?」
「ユイ、油断はしないように」
キュベラスは両手に魔杖を召喚し、魔力を通す。
ブゥゥゥンと放射口から赤い魔刃迸った。
ユイは、<ベイカラの瞳>を発動させ、
「ふふ、了解、斬り裂く――」
と、<血液加速>を発動。
同時に目尻から血と白銀の<血魔力>が漏れた。
一瞬で、魔剣師タイプの暗殺者との間合いを潰した瞬間――。
神鬼・霊風を振るい、<銀靱・壱>で魔剣師の懐を薙ぐと、胴を通り抜けた。
――ザシュッと、遅れて音が響く。
他の暗殺者がユイの横から突きを狙う。
ユイは、半身で左腕を少し上げながら、突き出された魔刀を避けると、左手にアゼロスの魔刀を召喚、その剣身で、突きの魔剣の剣身の下側をなぞるように前に出る――。
火花を散らしつつアゼロスの鍔と剣刃を衝突させると甲高い音が響くと同時に、手首を返したユイ、魔剣を鍔に引っ掛けながら右腕の神鬼・霊風を突き出し、切っ先で暗殺者の首を突く――。
ユイは、次の右から近付いた暗殺者の魔刀の突きも体を退かせ、鼻先で避けてから反転するように、神鬼・霊風を振るう。敵の紫黒の魔刃と交差した神鬼・霊風の刃は逸早く暗殺者の下腹部を捉え、斬る。
だが、途中で、ユイは後転――。
ユイがいた地面は爆発するように巨大な鉄球がめり込んでいた。
その鉄球を放った大柄の暗殺者の額と眼球にヴィーネの光線の矢が突き刺さる。
一方、ユイは、飛来してくる短剣と魔矢を、不規則なステップで躱し続けていく。
「眼球はさすがに装甲も防げずね――」
そして、短剣と魔矢を放った暗殺者たちには、弱点を把握したヴィーネの光線の矢と、それを見倣うキュベラスの紅の魔宝石の欠片が突き刺さって、各自、体の数カ所から爆発を起こすように吹き飛んでいく。
「完全な防御は無理ですね、境目は狙いどころです」
ヴィーネの言葉にユイは、「了解――」と、神鬼・霊風からイギル・ヴァイスナーに変化させる。
暗殺者の突き出した得物の刃を上下からジグザグに振るったイギル・ヴァイスナーの双剣で跳ね上げる。
その得物の刃を横や上に弾くと、イギル・ヴァイスナーの双剣の切っ先を胸に抱くように両腕をクロスし、その両腕を一氣に拡げた。一瞬で、×印の剣閃がブレながら前進し、消える。
と、暗殺者の両腕と胸元が細断されていた。
不可視の斬撃のまま、ユイは腕を跳ね上げ、左の剣で、その首元を深々と薙ぎ払う。
斬り裂かれた暗殺者の体が四方に飛び散った。
「一匹!」
「私も続きます」
キュベラスが胸元のネックレスに魔力を込めて、<魔晶力ノ礫>を発動。
宙空に散っていた紅の宝石の欠片が、鋭利な紅の魔刃となって暗殺者たちへ降り注ぐ。
暗殺者たちは<魔晶力ノ礫>から逃げるように方向展開するが、遅い。
ヴィーネが――<光魔銀蝶・武雷血>を発動させ、赤紫の雷状の<血魔力>を纏い駆けていた。
左と右の手に握るのは、古代邪竜ガドリセスと戦迅異剣コトナギ。
その剣の<羅迅剣>の回転斬撃に、<黒呪仙炎剣>の突きと、<白炎一ノ太刀>の逆袈裟を暗殺者たちに浴びせていく。
バチバチと迅雷の如くの剣撃が決まると、無数の肉塊が荒野に落下する。
「グォォォ! 地獄の業火に焼かれろォッ!」
残る数体の暗殺者が自らの流体装甲を爆発的に膨張させ、体そのものを巨大な棘付きの鉄球に変えて特攻を仕掛けてきた。
「ただの突撃ではなさそうです」
「シュウヤなら<紅蓮嵐穿>ってとこね」
「えぇ、シュウヤ様の槍の如く、敵を貫きましょうか」
キュベラスの言葉に「「――はい!!」」と声をハモらせたヴィーネとユイ。
ユイは双剣を交差させ、全身から<血魔力>を立ち昇らせる。
イギル・ヴァイスナーの双剣から斗宿仙秘刀鶯と神鬼・霊風に得物を変えた。
ヴィーネは<月光の纏>を発動し、金属鳥を出すと駆けた。
古代邪竜ガドリセスで<血饌竜雷牙剣>を繰り出した。
膨張した装甲をガドリセスの剣が穿つと、内に装甲が凹みながら爆発。
そこにユイが<暗刃>から<二連暗曇>で、装甲を連続的に斬る。
更に、<死神靭影>を発動――。ユイの前の魔界の空間が冥界に浸食されたように圧縮、ユイは<雷飛>の如く、前に加速前進し<銀靱・壱>を繰り出した。
斗宿仙秘刀鶯と神鬼・霊風の刃が、敵が持つ魔剣の刃と交差する。
衝撃を逸らすはずの流体装甲が波打つよりも早く、神速の双刃が装甲ごと暗殺者の体を容易く貫いた。
暗殺者は自爆のエネルギーすらも斬り裂かれ、不発のまま真っ二つになった肉塊が荒野に散らばった。
わずか数十秒の交錯。
特殊装甲を備えた小隊は、三人の圧倒的な連携の前に為す術もなく全滅したが、その直後――。
ユイたちに魔剣が複数飛来――
ヴィーネが、和弓と洋弓が融合したコンパウンドと似た翡翠の蛇弓から紫電の魔力の<ヘグポリネの紫電幕>を展開させ、複数の魔剣を防いでいく。
その魔剣が飛来した方角から、
「闇神の連中を見張っていたら――」
「ゲイン、無駄口だぞ――」
四眼四腕の魔族の三人組がヴィーネたちに襲い掛かっていく。
四本の腕に握られた大剣、獄炎の戦斧、棘付きの鎖鎌が三方向から同時に振り下ろされた。
「――私が受けます!」
キュベラスが前へ出る。
彼らの全身からは、肌をじりじりと焦がすような獄炎の魔力が立ち昇っていた。
キュベラスは、ブゥゥゥンと唸りを上げている赤い魔刃を構えたまま<愚王・魔加速>を発動。
陽炎のようにブレて加速――同時に、複数の予備の魔杖が周囲に漂い、<投擲>された鎖鎌の攻撃を弾く。
ゲインと呼ばれた魔族は鎖鎌を増やす。
だが、キュベラスの<導魔術・極>が操る魔杖の群れは、正確に迎撃していく。
遠隔操作によって操作されている魔杖から迸っている蒼、黄土色、赤などのエネルギー刃が、乱舞をするように鎖鎌を弾き落としていく。重い金属音が何度も響いた。
キュベラス自身は<予知>を高速転移でゲインの死角へと滑り込む。
ゲインは「なっ!?」と驚き、残る腕で魔短剣を突き出して防御しようとするが、キュベラスは<魔死眼刹>を繰り出し両手の赤い魔刃で<魔十字ノ秘剣>を放った。
キュベラスの赤い魔刃がゲインの腕と硬質な装甲を焼き斬り、肩口までも深く斬り裂いた。
ゲインの視界は揺らぐまま真っ暗闇となって絶命した。
一方で、リーダー格のグラウは、怒号と共に戦斧を振りかざし、極太の獄炎の柱をユイに放っていた。
ユイは右に左に高速移動しながら<ベイカラの瞳>を強め、グラウを凝視。
そこに、
「その炎、通しません――」
ヴィーネが<月光の纏>と<光魔銀蝶・武雷血>を同時発動、前進――。
一瞬で、グラウの懐に入るや否や、両腕がブレた。
――古代邪竜ガドリセスと戦迅異剣コトナギの鞘から剣が一氣に引き抜かれた。
血の抜刀術<迅暗血刃>――。
赤紫の雷光と漆黒の夜の闇が混じり合う刃が、巨体を通り抜ける。
両断されたグラウの体は爆発を起こして絶命。
残る大剣使いの魔族がヴィーネの背後を狙うが、
「遅い!」
ユイが<銀靱・壱>の神速で割り込む。
神鬼・霊風で、振り下ろされた大剣を弾き上げると同時に、斗宿仙秘刀鶯を突き出す。
ガラ空きになった敵の首元を、斗宿仙秘刀鶯の刃が深々と突き去り、横に動かし、首を薙ぎ払った。
「グラウをよくも……我ら十層地獄の刃、侮るな!」
新手の四眼四腕の魔族が、突貫していくが、キュベラスは口元に不敵な笑みを浮かべ、新たなスキルを解放した。
「――<銀葉ノ刃>」
ルシヴァルの紋章樹の葉をモチーフにした無数の銀色の刃が魔杖から舞い散り、四眼四腕の魔族の視界と動きを完全に封じると、肩に乗るケニィが「キュキュッ!」と鳴くのに合わせ、
「これで終わりです。――<魔血晶ノ礫>」
魔杖の先端から、血の魔力を帯びた結晶の散弾がショットガンのように放たれた。
無数の結晶が四眼四腕の魔族の全身に突き刺さり、着弾と同時に連続爆発を起こす。
肉体ごと完全に粉砕され、荒野に血の雨が降った。
複数の巨体が地に伏し、戦闘はわずかな時間で決着した。
「……次から次へと湧いてくるわね」
ユイが双剣の血を払い、鞘に納める。
キュベラスも浮遊させていた魔杖を消し、両手の赤い魔刃の出力を落として静かに息を吐いた。
「えぇ。しかし、トトグディウスの眷族がここまで前線に出張って来たということは闇神リヴォグラフ側の戦力の砦や領域は数カ所陥落したのかもしれません」
「あ、今の十層地獄の王トトグディウスの兵士なのね」
「はい」
キュベラスは頷きながら深い荒野の奥を見据える。
「この先の峡谷地帯……恐らく、闇神リヴォグラフ側の戦力、輜重部隊を備えた本隊が潜む場所は、すでに各勢力が入り乱れる激戦区になっている可能性が高いですね。穿山ウアンの戦場の戦いも拡大しているはず」
「ならここの索敵は、お終い。無駄なら争いはせず、偵察のみにしましょう」
「襲い掛かってきたら別だが」
「うん、それは当然――」
ユイとヴィーネは笑みを交わし、互いにシュウヤたちに血文字を送る。
闇神リヴォグラフ側の戦力と十層地獄の王トトグディウスの兵士と衝突したことを告げていく。
キュベラスは頷いて、
「……では、私たちは、シュウヤ様たちがファントム・アルフたちと会合し、避難場所を決めている間に、できることをしましょう」
ヴィーネとユイは力強く頷く。
三人は再び陣形を組み、ファントム・アルフの周辺地域と隣接している穿山ウアンの戦場を見据えながら駆けていく。
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