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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2118/2163

二千百十七話 エヴァの紫心魔功がマガリディとフェドゥの真実を導く

 ――激戦の余韻が残る【幻瞑暗黒回廊】。

 赤い閃光を宙空に放つように移動、転移を繰り返している大魔術師がいる。

 そして、他の大魔術師と魔術師たちは、【幻瞑暗黒回廊】の各所に魔法陣を張り巡らせていた。

 

 当初の景色とは異なる。魔塔ナイトレーンの出入り口には、新たな幻瞑神魔封石が設置されていた。周囲には、様々な浮遊岩が魔法やカプセル状のアイテム、魔道具から生まれていく。

 魔塔も出現。そして、【幻瞑暗黒回廊】のいたるところに、異次元世界、心象世界の大魔術師が得意としている理が、出来上がっていく。


 あれらの魔法の理、結界を、闇神リヴォグラフ側の戦力が破っていたということか。

 背後にいる皆を見て、片膝を地面に付けている光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスを、


「ゼメタス、アドモス、帰還していい」

「「ハッ」」


 二人は己の体から噴出した漆黒と紅蓮の炎に包まれると、中心点に吸い込まれるように消えた。


「グィヴァ、ミラシャン、ナイア、シュレ、戻ってこい」

「「はい」」

「承知!」


 右目に、闇雷精霊グィヴァが入る。

 右手の人差し指の爪に古の水霊ミラシャンが帰還した。

 ナイアは指輪に、シュレも左手の掌に帰還。

 

 すると、そんな大魔術師と魔術師たちの一部が空から離れてこちらにやってきた。


 視界に映る魔術師たちは端正な顔立ちの女性が多い。

 戦場特有の殺伐とした空氣が洗われるようで、心が弾んで、嬉しくなった。


 と、先頭は見知った顔だ。

 暗紅色の長髪で、美形な顔の大魔術師。

 大魔術師キュイジーヌか。

 長身で、ほどよい膨らみの胸を持ち、洗練された燕尾服のような戦闘ドレスを着ている。

 右手の人差し指と中指の煌めいた爪先から、半透明な氷の魔刃が伸びていたが、それが消えた。


 その大魔術師キュイジーヌが、


「――シュウヤさん、大きな借りができました。本当に、ありがとう♪」

「おう、助けることができて良かった。そして、この激戦で生き残ったのはさすがだな」

「はい。皆のおかげです。なんとか生き残ることができた」


 キュイジーヌは同僚たちを見る。

 その中には、大魔術師ダルケル・ロケロンアの姿もあった。

 アモアスス、シオン、インベスルの姿がある。見知った存在が生きていると知り嬉しくなった。


 そして、ドワーフの大魔術師アウグストは、部下からの報告を聞くと、少し浮遊。

 左右の両手の掌から無数の魔鳩と、グリフォンと、中型のワイバーンに近いドラゴンを召喚した。魔術師たちの一部は、その魔獣たちに乗り込み【幻瞑暗黒回廊】のどこかに消えていく。

 

 そのアウグストさんに、


「アウグストさん。少しよろしいか」

「お、すまんの。今向かう――」


「わわっ」

「「え?」」


 と、皆が驚いたように、瞬間移動したアウグストの爺さんは体が半透明になって出現した。

「驚かせたかな? 空間魔法の応用じゃよ。して、シュウヤ殿、話とは?」


 アウグストは実体化しながら俺の前に立つ。

 その手へ、アイテムボックスから魔槍エッジガルバと、羅針盤のような封印アイテムを取り出す。

 

「これを……この魔槍と、アイテム。ラジヴァンの魂と上半身が封印されているようです。貴方に<魔魂回生>を頼みたいと、伝言を預かっている」

「な!? ラジヴァンじゃと!?」

「「えっ」」

「「おぉ?」」


 アウグストの目が丸くなり、他の大魔術師たちも動きを止めてこちらを凝視。

 アウグストは、「ラジヴァンが生きていたのか……」と呟く。


「はい、先程、絶剣イゼハを倒した際に、ツヴァイヘンダーと似た魔剣の残骸が吸い込まれていく岩場がありまして、そこを調べたら、この魔槍エッジガルバも突き刺さっていた」

「「……」」


 アウグスト少し呆然としてから、「あのイゼハを仕留めたか……」アウグストの爺さんの周りの大魔術師と魔術師たちは頷き、ざわついては、


「アウグスト様、事実です」

「はい、大魔術師たちの多くの仇を取って頂いたことなる」

「友のキィル、サウランも、あいつらに殺された」


 と、俺が捕虜にした女魔族たちを睨む。

 アウグストは頷いて、


「ふむ……シュウヤ殿はまことの強者よの……」


 と、震える手で魔槍とアイテムを受け取る。


「……ラジヴァン、たしかに。ふむ……咄嗟の保険が利いたか。そして生きておったか。あの馬鹿者が……いや、助かった。シュウヤ殿、この恩は計り知れん。奴には、わしも借りが多くてな」

「はい」

「うむ。今はセナアプアの魔法ギルドと防衛の立て直しで身動きが取れんが、必ず、我ら【輪の真理】の拠点である【魔法都市エルンスト】へ、貴殿らを正式に招待させてもらうぞ!」

「分かりました。落ち着いたらで大丈夫です」


 アウグストは、


「うむ! それでは、また周囲の結界作り、特に、魔塔ナイトレーンの出入り口がある【幻瞑暗黒回廊】の周辺を固めている最中でな、また今度、今日は本当にありがとうなのじゃ! ――我ら【魔術総武会】、そして【輪の真理】の盟約に代わり、深き魔の恩寵と真理の環の導きが、貴殿らと共に在らんことを!」


 と、発言し深く頭を下げた。

 周囲の大魔術師と魔術師たちも一斉に、胸に拳を当て、天を仰ぐような魔法ギルド特有の敬礼を行う。


「「「――真理の導きがあらんことを!」」」


 重厚な声が異次元の空間に響き渡る。

 深く頭を下げるアウグストやキュイジーヌたちに見送られながら、俺たちは【幻瞑暗黒回廊】を後にした。


 魔塔ナイトレーンから上界へ出ると、夜明け前の冷たい風が頬を撫でた。

 同時に、視界の端で赤い血文字が明滅する。クナたち別働隊からだ。


『シュウヤ様、各評議員の魔塔に存在した【幻瞑暗黒回廊】の出入り口ですが、空魔法士隊や空戦魔導師の方々と連携し、順調に封鎖及び鎮圧に成功していますわ。被害も最小限に抑えられています』

『よくやった。余裕ができ次第、ペントハウスに帰還してくれ、委細は任せよう。魔法学院、魔法ギルドへのツッコミ(・・・)は、ほどほどに』

『……大魔術師アキエ・エニグマが泣きつく位には、絞ってさしあげます。ふふ。では』


 と返信してきた。

 傍で、この血文字を見ているヴィーネたちは苦笑するが、まぁ、クナだしな。ということで、皆納得顔となった。


 そうして、俺たちも――。

 大魔術師たち、魔術師たち魔法ギルド員たちが仕事をしている【幻瞑暗黒回廊】を通り、魔塔ナイトレーンの出入り口に向かう。


 そこで<破邪霊樹ノ神尾>で拘束されヘルメの<珠瑠の花>の輝く紐に絡まっている二人の女魔族を見る。将校クラスは確実、 大眷属ヴォッファンと【異形のヴォッファン】の戦力の情報が聞けるなら聞こう。睨みを強めている二人にハンカイが、


「シュウヤ、そいつらから闇神リヴォグラフ側の情報を得るつもりか」

「あぁ、氣まぐれの範疇だがな」

「ご主人様、そう言いますが、情報を得る以外に、何かを感じたのでしょうか」


 ヴィーネは鋭い。

 

「そうだな。イゼハを討った俺に対する私怨だが、何か違和感、直感だ」

「ふーん」


 レベッカは納得いってないような、ニュアンスの言葉だ。

 分かりやすくて、あの嫉妬顔が可愛い。

 キサラが、


「美形ですし、ダークエルフにも少し似ています。シュウヤ様とイチャイチャされるという予感もあるのですね」

「そう、そう! いかつい男だったら助けなかったはず!」

「にゃおぉ~」

「でしょう、ロロちゅぅあぁん!」

「ンンン――」


 と、黒猫に戻っている相棒を捕まえようとして逃げられたレベッカが面白い。


「「「ふふ」」」

「ん」


 その皆と【幻瞑封石室】の構築具合を見ながら――。

 傷場と似た揺らめいているゲートのような魔法の膜に突入すると、惑星セラの下界に帰還した。

 

 魔塔ナイトレーンの内部か。

 傾きも修正され、【ギルド請負人】たちが緊急的に展開した【幻瞑封石室】だった物は、違う魔力が漂う大岩のスライド式の出入り口に修復されていた。

 

 修復が速い。魔造家のスキル系統かな。

 改築系の魔法、スキル、魔道具は無数にあるか。

 大魔術師アキエ・エニグマたちと話をしていたキッカと【ギルド請負人】たちとも合流。

 エヴァたちとクナたちがまだ【幻瞑暗黒回廊】にいることを伝え合う。

 皆で、外に出たところで、トラペゾへドロンの二十四面体を出そうとしたが、キュベラスが、


「シュウヤ様と皆様、これを使いましょう――<異界の門>」


 キュベラスが全身から<血魔力>を放出し、両手を掲げる。

 桃色のリスのケニィを肩に乗せたまま浮遊し、宙空に大きい石門の<異界の門>を生成した。

 皆で、その石門を潜る。

 一瞬で、上界の魔塔ゲルハットのペントハウス前に転移。

 硝子の扉を開いて、ペントハウスの中に入る。


「ンンン――」


 相棒は駆けて中央のソファーの位置に移動。

 広々としたリビングの中央に皆で向かう。

 ヘルメは、<珠瑠の花>で持ち上げている二人の女魔族を俺たちの前に置く。

 その二人を拘束している<破邪霊樹ノ神尾>を解除すると、ヘルメの<珠瑠の花>の輝く紐がより、二人の体に絡み付いていく。彼女のたちの戦闘服は滑らかそうな特殊繊維で作られているようで、乳房の形がよりくっきりと浮かび上がっていく。

 防護服はナノメタル繊維で作られているようにも見えた。

 二人は膝を付く姿勢となる。

 

 深い紫の肌に白銀の髪。

 しなやかな肢体を持つ。ヘルメに、


「<珠瑠の花>の拘束を緩くしていい」

「はい」


 二人の内の一人は片方の女性を守ろうと前に出るが、「ぐ、ぁ」と、力が抜けて地面に前のめりに倒れる。

 もう一人の女魔族が、


「ぐっ、ここは……お前たち、私たちを嬲るつもりか!!」

「そんなことはしないが」


 と、ヘルメとアイコンタクトしながら、女魔族に近付き起こしてあげた。

 ヘルメは<珠瑠の花>の拘束を緩める。


「……」

「フェドゥ、大丈夫なの!」

「……ぅん……」


 二人の感情からして、他の闇属性の魔族兵士とは異なるのは明白。ルリゼゼたちも納得したように武器から手を離した。


 そこでエヴァともアイコンタクトをしてから、


「名と魔族の名も知りたいが、俺の名はシュウヤ。種族は、光魔ルシヴァルだ」

「……」


 強気の女魔族の片方は俺をキッと睨み、


「知っている」


 そこで、体から<血魔力>を発し、


「――で、もう一度言うが、名と魔族を教えてくれるとありがたい」

「……魔族は、幽影魔族(ファントム・アルフ)、名はマガリディ」

「……私はフェドゥ」


 と、教えてくれた。

 

「幽影魔族で、フェドゥとマガリディか。宜しく。そして、担当直入に言うが、とくに制約がなければ、仲間にならないか?」

「ハッ、なにをほざく、さっさと殺せ! イゼハ様の仇……お前たち光魔の世話にはならない!」


 フェドゥと名乗った女が、鋭い牙を剥き出しにして睨みつけてくる。

 隣のマガリディは、ただ絶望に染まった瞳で床を見つめていた。


「……イゼハ様が死んだ。もう、私たちの故郷も終わりよ……」


 その言葉に、エヴァが魔導車椅子からふわりと浮上した。


「ん、私が視る」


 エヴァはフェドゥとマガリディの前に降り立つと、二人の額にそっと両手をかざした。


「な、何を――」


 フェドゥが抵抗しようとするが、エヴァの瞳が神秘的な紫色の光を帯びる。

 <紫心魔功パープルマインド・フェイズ>の発動だ。

 紫色の魔力がエヴァと二人の魔族を繋ぐ。

 

 エヴァは頷いた。


「ん、シュウヤの勘、ううん直感は凄い。闇が強いけど、光魔の<血魔力>にも合う素質、資質がある。そして――」


 エヴァの<血魔力>と<紫心魔功パープルマインド・フェイズ>の融合か。

 リビングの空間に薄らと<血魔力>の血霧が展開、そこに何かの投影が始まった。


「ん、皆、わたしも成長している――」


 と、そこには、魔界セブドラの辺境か?

 鬱蒼とした森とどこかの集落が映し出された。


 マガリディとフェドゥは、「「え!?」」と絶句。


「ん、ここは、幽影魔族の集落。マガリディの父の名は、ペリォン、フェドゥの母の名は、ランリィン」

「「ど、どうして……」」


 二人の記憶の波紋を、エヴァの能力で、投影しているということか。

 すると、美しい森の一部が無数の眼球と触手を持つ異形の魔族――大眷属ヴォッファン配下と思われる存在に無残に蹂躙されていく。


「アァ……」

「……あの時だ、これは……」


 炎に焼かれる集落。慰み者にされそうになる者たちは悲惨だ。

 マガリディとフェドゥは、涙を流す。

 エヴァは、


「ん、フェドゥ、マガリディ、貴女たち一族を襲っている敵、闇神リヴォグラフ側の戦力の名を教えて、あれはヴォッファンじゃない」


 エヴァの言葉には優しさに加えて、力強さもあった。

 マガリディとフェドゥは目を合わせ頷くと、


「あれは、多眼魔将ゴルム・ザードが率いる軍勢だ」

「はい……」


 と語ると、エヴァは頷く。

 そして、<血魔力>と<紫心魔功パープルマインド・フェイズ>が映す、彼女たちの記憶が少し流れて、絶望の淵に立たされた彼女たちの前に現れたのが、絶剣イゼハだった。

 

 イゼハは、今そこにいるように俺たちごと、フェドゥ、マガリディを凝視し、


「俺の影として死ぬまで働くなら、この集落は保護してやる。ヴォッファンには俺から手を引かせよう」


 と語る。冷酷な政治的取引が行われていく場面が続く。

 

 彼女たち、幽影魔族を繋ぎ止める唯一の希望が、イゼハの部隊章か。

 エヴァがゆっくりと手を離し、悲しげに俺を見る。


「……嘘じゃない。イゼハは冷酷な主だったけど、彼女たちにとっては故郷をヴォッファンから守るための『盾』だった……。イゼハが死んだ今、契約は切れて、故郷は滅ぼされる……」


 その言葉は真実だろう。

 マガリディがポロポロと涙を零し、その場に泣き崩れた。


「終わりよ……。もう、私たちの一族は【多眼魔将ゴルム・ザード】に喰らい尽くされる……!」


 フェドゥも唇を噛み締め、悔しそうに顔を伏せた。


「理解した。魔界でのありがちな展開だな」

「ん」

「「はい」」

「うん、鬼魔人と仙妖魔たちも同じ」

「ザンクワ、魔将オオクワ、ヘイバト、片腕の部隊、射手のアラ、副官ディエ、魔界騎士ド・ラグネスたちですね」


 キサラの言葉に頷いた。

 そこで二人の前に歩み寄り、


「ヴォッファンは先程の防衛戦で本隊を動かしていた。魔界の故郷を襲撃しているのは、その留守を預かる配下の軍勢だろう? ……なら、俺たちがその故郷ごと、ヴォッファンの手に挑戦しようと思うが、どうだろう」

「え……?」


 フェドゥが信じられないものを見るように顔を上げた。

 俺の言葉に、ヴィーネが優雅に微笑んで一歩前へ出る。


「ご主人様がそう決められたのなら、私たち光魔ルシヴァルが、貴女たちの新たな『盾』にして『剣』となりましょう」

「では、急ぎ、魔界セブドラに向かいましょう」

「状況的に、それこそ、嬲り殺しの現場と予想するわよ」

「はい、一刻の猶予もありませんからね」

「ンン! にゃお!」


 皆の言葉に、黒猫(ロロ)も賛同するように力強く鳴いた。


「フェドゥ、お前は道案内として付いてこい。マガリディは、このペントハウスで留守番だ。お前たちの故郷を救うための保証としてな。……ペレランドラ、カットマギー、カリィたちもご苦労さん。そして、こいつを頼む」


 カリィたちの傍には、レンショウ、助けたラドフォード。

 ラドフォードに、光精霊フォティーナが光の粉を振りかけていた。

 彼の腕や、その特異な戦い方、<千里眼>も見てみたいが、ま、サーマリア王国に向かう時に見させてもらおうとしよう。


 そして、相棒を載せているアルルカンの把神書、ルマルディ、ママニ、ハンカイ、ルリゼゼ、ビーサ、キッカ、カルード、ルビア、ルリゼゼ、フー、シャイナス、ホフマン、元【髪結い床・幽銀門】のアジン、ジョー、ウビナン、ファーミリア、アドリアンヌ、ザガ、ビュシエ、ボン、イモリザ、シキ、エトアたちが並ぶ。


 そして、端で、ミナルザンにユイが何かを語りかけていた。


「承知いたしました、主」

「はい、お任せを」


 ペレランドラたちの返事に頷く。

 そのまま、急遽、魔界セブドラへの精鋭チームが結成する流れとなる。


「では、案内役のフェドゥ。俺、エヴァ、ヴィーネ、ユイ、キサラ、キュベラス、そして相棒で行こうと思う」

「「はい」」


 キュベラスはすぐに<異界の門>を発動。

「まずは、西の傷場の前、フロルセイル地方だ」

「「はい」」


 皆で、<異界の門>を潜ると一瞬で、フロルセイル地方の傷場に到達。

 目の前は、魔界セブドラに通じた傷場がある。

 フェドゥを見て、


「魔界に向かう」

 

 フェドゥは頷いた。

 そこで、戦闘型デバイスのアイテムボックスから黄金の装飾が施された『魔霊のシンバル』を取り出す。古びた羊皮紙の『魔王の楽譜第三章』も出した。


 フェドゥが目を見開く。


「……魔王の楽譜と魔界楽器……」


 驚くようなことでもないと思うが。

 構わず、魔王の楽譜第三章の旋律を頭に描きながら、魔霊のシンバルにたっぷりと<血魔力>を注ぎ込むと、漆黒の楽譜が、ひとりでに宙へと浮き上がった。


「では、道を開くとしよう――」


 魔霊のシンバルに魔力を込める。

 両手に持ったシンバルを勢いよく打ち鳴らした。


 ――ジャァァァァァァァン!!


 打ち鳴らされたシンバルの音が、宙に浮く楽譜と激しく共鳴した。

 腹の底に響く重低音と幽玄な音色が地下空間の空氣を物理的にビリビリと震わせる。

 楽譜から飛び出した小人のピエロのような幻影が奇っ怪な魔声を響かせながら傷場の結界へと吸い込まれていく。

すると、空間を軋ませるような重低音が連鎖し、耳を劈く甲高い音も響き渡った。


 その中心のゲートの先は、【デアンホザーの地】。


「ご主人様、先に――」

「ん」


 ヴィーネたちが先に向かう。

 俺も相棒と共に傷場の中へ躍り込む。

 未だ呆然としているフェドゥの背を軽く叩いて、一緒に、次元の狭間へと足を踏み入れた。

 幽影魔族の故郷を蹂躙する敵を、片っ端から掃除してやる。

続きは、明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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