二千百十四話 絶剣イゼハの猛攻と光魔の矜持
絶剣のイゼハ――更なる異常な加速で踏み込んできた。
青白と漆黒の魔力が混じり合うオーラが異次元の空間を軋ませる。
ツヴァイヘンダーのような巨大な魔剣が、その質量を感じさせない神速で俺の首を狙ってきた。
相棒の触手骨剣が当たらない。
――速いだけじゃない。剣の軌道が途中で不自然に屈折する。
魔剣を軸にしているか不明だが、空間の歪みを利用したライゾウと同じ流派の極致か。
――<隻眼修羅>と<闇透纏視>でその歪みの起点を読み切る。
<風柳・異踏>で軸をずらし、魔槍杖バルドークの柄で剣の腹を滑らせるように受け流し、火花が散ると、イゼハは空間の波紋を蹴って宙空の真横へスライド――返す刃で、今度は俺の足を薙ぎ払うように魔剣を振るってきた。
その魔剣に斜め下から雷式ラ・ドオラの柄を衝突させる。
イゼハのツヴァイヘンダーの魔剣は火花を散らし、上に移動するが、強引に、下に返すように動かすと、切っ先の横の刃で俺の首を狙う。
握りの<握吸>を強め魔槍杖バルドークの柄を上げて、その魔剣を防ぐ。
イゼハは剣を引かず、魔剣のリカッソの部分を持ち、体から青白い魔力を噴出させ空間の歪みを利用、魔剣を左に転移させ、刃の軌道を変え――逆から首を狙ってくる。そりゃ悪手だろ――。
と、言いたくなるぐらい魔剣の刃に雷式ラ・ドオラの柄を下から衝突させ、弾きながら魔槍杖バルドークを押し出す。
紅斧刃で――、
「チッ――」
舌打ちをしたイゼハの右肩ごと首を狙うがツヴァイヘンダーの魔剣の装飾リングが煌めくと、鍔から出た青白い魔力が拡がって紅斧刃を防いでから消える。
イゼハは、そのツヴァイヘンダーの魔剣の角度を変え前に押し出してきた。
魔槍杖バルドークの柄の角度を変え、懸垂をするように剣刃を防ぐ。柄と剣刃から出た火花が鎖骨や頬に当たり熱いが『大丈夫です』と左目から出たヘルメの水の魔力で一氣に薄らぐ。だが――力で一瞬押され、肩の竜頭装甲の闇と光の運び手の胸甲と肩が擦れて火花が散る。
力も強い――至近距離での鍔迫り合いに変化。
「ハッ、これを耐えるか!」
イゼハが嗤い、リカッソを片手で持ち、左前腕の上下と掌から無数の魔刃を連ならせ伸ばしてきた――にわかに雷式ラ・ドオラを持ち上げ、石突と柄で、その連なった魔刃を連続的に叩くように防ぐ。
イゼハは、身と魔剣を捻りながら横移動――。
円を描くように魔剣を振るい、雷式ラ・ドオラの柄を何度も弾きながら、柄頭を顔面へと叩き込もうとしてくる。
首をわずかに傾けて躱し、そのまま両手で<握式・吸脱着>を発動――。
魔槍杖バルドークと雷式ラ・ドオラの柄から両手を離した。
続けて<血道第一・開門>を意識し、<血魔力>を体から発し――無防備になったイゼハの胸甲へ、<無式・蓬莱掌>を繰り出した。
イゼハは反応――。
ツヴァイヘンダーの魔剣から手を離し、前腕を突き出すように動かす。
ガントレット状の防具で<無式・蓬莱掌>を防ぐ。
衝撃で互いの武器が離れたが構わず――続け様に右手の掌底<滔天掌打>を打ち出し、イゼハの頭部を狙う。高速に動く左腕の前腕に、その一撃は防がれた。
即座に左足の太股を持ち上げ、左膝を突き出す<悪式・突鈍膝>を繰り出す。
と、イゼハは少し上昇し、右足を上げて膝蹴りを膝で防ぐ。
そのまま右足に体重を掛けるように、足裏の蹴りを繰り出してきた。
足裏目掛けアッパーを打つように右拳の<血仙拳>を真上に突き出す。
足裏と拳が衝突した。イゼハは衝突した勢いを利用して一回転し、右足の裏を見せるような踵落としを放つ。その踵目掛け、半身の<滔天拳>で迎撃――。
水の魔力が包む左拳とイゼハの踵が衝突――。
ドッとした衝撃音と共に踵を弾く――。
持ち上がったイゼハへと、身を捻り左回し蹴りの<湖月魔蹴>を狙う。
しかし、イゼハは<魔闘術>系統を強め、右腕で<湖月魔蹴>をブロッキングすると、体を撓らせるような膝を突き出してくる――。
その片足の膝の攻撃目掛け左足の<湖月魔蹴>を繰り出す。
蹴りと膝が衝突、そこから<魔経舞踊・蹴殺回し>の回し蹴りを放つ。
左右の蹴り回しを前腕で凌いだイゼハの体が「なっ重い――」と仰け反る。
その隙を逃さず、深く踏み込んで<蓬莱無陀蹴>を脇腹に放つ。
回し蹴りの<蓬莱無陀蹴>が脇腹に突き刺さる。
「――ぐぅッ!?」
強固な魔力障壁を蹴り破り、イゼハの体を後方へ吹き飛ばした。
イゼハに「にゃごぁ」と紅蓮の炎が向かう。が、奴は宙空で身を捻って体勢を立て直すと、真上に転移するように加速して紅蓮の炎を避けた。同時に体から出ていた青白い魔力の一部が稲妻のように変化し、相棒へと向かう。
黒豹は「ンン」と鳴いて後退。
「相棒、味方のフォローを頼む。ヘルメ、グィヴァ、ミラシャン、シュレも後方味方の援護を――」
同時に闇の獄骨騎に魔力を送り、光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスを呼び戻す。
『はい』
『分かりました』
『はい!』
『ハッ』
「ンン、にゃ――」
相棒はユイたちのほうに飛翔していく。
「「閣下ァ」」
「ゼメタスとアドモス、俺たち以外は敵、奥に人族の大魔術師たちがいる」
「「承知!」」
光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスは、全身から魔力を噴出させて、駆けていく。
一方、イゼハは分身の一部を相棒に追跡させたが、本体は追わず、再び残像を伴って、ツヴァイヘンダーの魔剣を片腕に引き戻しながら突進してきた。
<握吸>で雷式ラ・ドオラと魔槍杖バルドークを両手に引き戻す。
<勁力槍>と<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動。
「<撥魔霊・組手>で打ち負けるとはな――」
ツヴァイヘンダーの魔剣を振るってきた。
普通に後退し、避ける。
が、分身したように加速したイゼハ。
高速にツヴァイヘンダーの魔剣を突き出す。
<水月血闘法>を発動し、それを見るように斜め左と右にジグザグに後退した。
イゼハも加速し、追跡しながら魔眼から怪光線を放ってきた。
ツヴァイヘンダーの魔剣のルーン文字のような紋様の魔力も飛来――。
それらの飛び道具を<隻眼修羅>で凝視――。
<仙魔・桂馬歩法>を発動、宙空を跳躍しながら怪光線とルーン文字のような紋様の魔力攻撃を、連続的に回避し――宙空で身を捻り、青白いツヴァイヘンダーの魔剣を従えているイゼハを追う。
左手の雷式ラ・ドオラで<雷穿>を放つ。
紫電の突きがイゼハの脳天に向かうが、魔剣を盾にするのではなく、左手から青白い魔力の小型盾を瞬時に展開してそれを防いだ。
「――浅い!」
イゼハが叫び、魔剣に青の他に紫電を這わせて縦に振り下ろしてくる。
その剣身が二つ、三つとブレて増殖したように見えた。
幻影ではない。空間を折り畳んで、複数の時間軸からの稲妻のような斬撃を同時に放っているのか――。
<隻眼修羅>で剣筋を捉えながら<闘氣玄装>を極限まで練り上げ、雷式ラ・ドオラをイゼハに放りながら――。
「チッ――」
雷式ラ・ドオラは<雷穿>を放ったように見えるが、イゼハの雷を吸収しているようだ。そして、<山岳斧槍・滔天槍術>を意識し、魔槍杖バルドークを頭上で高速旋回させ、イゼハの多重の稲妻のような斬撃をすべて弾き落とす。
キン、キン、ガァァン!!
鼓膜を破るような衝突音が連続し、魔槍杖バルドークから迸る赤い火花と、イゼハの青白い魔力が激しく交差した。
「チッ……<三合・雷衝剣>も弾くのかよ!」
イゼハの斜めに移動しながら振り上げてきたツヴァイヘンダーと似た魔剣を弾く。
イゼハは横に移動し、間合いを保った。
雷式ラ・ドオラを<握吸>で引き寄せ、<闇の千手掌>を意識、不意に<導想魔手>の拳を送る。同時に<闇の千手掌>を発動。
<導想魔手>をツヴァイヘンダーの魔剣で防ぎ、左手の盾を魔刃に変化させたイゼハは不意打ちの<闇の千手掌>の拳を防ぐ。
「……<導魔術>系統も扱うか。ライゾウにメラド・カシマも屠るわけだ。お前はやはり、あの魔人武王のような存在だな」
当然、こいつも魔人武王ガンジスと戦い生き残った実力者だよな。
「……お前も、あのガンジスと戦ったことがあるか」
「……当たり前だ。武王の連撃に比べれば、お前の槍などまだ温い!」
イゼハが間合いを詰め、ツヴァイヘンダーを片手で軽々と振り回す。
同時に空いた左手から漆黒の魔弾を散弾のように放ってきた。
<血道第三・開門>、<血液加速>を維持したまま、<無方南華>と<無方剛柔>で体を柳のようにしならせる。
魔弾の雨を紙一重ですり抜けながら、魔槍杖バルドークで<血龍仙閃>――。
紅い龍の軌跡がイゼハの胴を薙ぎ払うが、奴の体は青白い霧となって霧散した。
イゼハの残像――背後か。
「後ろだ、光魔!」
振り向く間もなく、<武行氣>で前方に滑るように移動し、背に迫る凶刃を躱す。
振り返りざま、雷式ラ・ドオラを神槍ガンジスを召喚し、<光穿>を放つ。
イゼハは魔剣でそれを受け止めるが、神槍の光属性が奴の青白い魔力をジュッと焦がした。
「ぐっ……忌々しい光の魔力め――」
イゼハは怪光線――。
それを仰け反って避けると、真下と真上の空間から魔刃が出現。
それを<水月血闘法・水仙>を発動させ、
「チッ、輪郭が――」
複数の実体に近い分身と無数の水鴉に、水仙の花弁が広がる。
円を描いてイゼハを抱囲する残像と水鴉と花弁の群れは、一瞬で、青白い稲妻の剣に消えると、本体の俺に<魔雷ノ風穿>を思わせる切っ先が伸びてくる。
それに合わせ、神槍ガンジスで<風研ぎ>――。
双月刃の穂先が、ツヴァイヘンダーの魔剣の切っ先と衝突。
硬質の音が響く。次の斬撃のフェイクから左腕から蛇腹剣を彷彿させる魔刃が飛来。それを<導想魔手>に衝突させ、本体のイゼハを魔槍杖バルドークの<闇雷・一穿>で狙うが、青白い魔力が、複数の盾にとって<闇雷・一穿>は防がれた。
そのまま五合打ち合う――。
一進一退の激闘の最中、俺とイゼハの死角から、もう一つの強大な殺氣が迫った。
「イゼハ殿! 俺も混ぜろ!」
「イゼハ、お前は隊長ではない! 好き勝手に――」
全身を鋭利な甲殻で覆い、両手に巨大な棘付きのメイスを持った異形の魔将。
もう一人は四眼四腕のバフハールと似た笠を装備した魔剣師か。
甲虫の重装騎士も背後には多くいた。
二人は背後へと跳躍してくる。
イゼハと挟み撃ちにする腹積もりか――迎撃に動こうとした刹那。
「――お弟子ちゃんの邪魔はさせないわよ!」
頭上からの雷炎槍流のシュリ師匠だ。
<雷飛>からの雷炎槍エフィルマゾルの<雷炎腹柵斬り>が、俺に迫ろうとしていた異形の魔将を肩口にヒット、「ぐぇぁ」と斜め下に吹き飛ぶ。
「――カカッ! 片方の大物はわしがもらう――」
続いて飛怪槍流のグラド師匠が、風の如き速度で乱入してきた。
目の前のイゼハは、ツヴァイヘンダーの魔剣の突きを繰り出す。
それを後退し避ける。
イゼハは左手から無数の魔刃を生み出し、追撃してくるが、<超能力精神>を発動。
蛇腹剣のような魔刃の連なりごと、イゼハを吹き飛ばす。
飛怪槍流グラド師匠は飛怪槍と似た影の魔刃をイゼハたちに繰り出し、
「弟子、そいつは別格じゃ、任せたぞ――」
「はい」
飛怪槍を風車のように回転させ、魔将の四眼四腕のバフハールと似た笠を装備した魔剣師の四つの魔剣の攻撃を往なし、片足を突き出すような仕種で宙空浮遊。
変わったポーズで魔剣師を凝視。
更に、周囲に群がっていた甲虫の重装騎士に突撃。
輪入道モドキの雑兵たちを紙屑のように次々と空へ巻き上げ、細断していく。
<影導魔・星影>の無数の魔槍で血肉の雨を降らせる。同時に、予め【幻瞑暗黒回廊】に飛怪槍を浸透させていたかのように手元から消えた飛怪槍を操作し、【幻瞑暗黒回廊】から飛び出させた飛怪槍で四眼四腕の魔剣師を押し込む。そのまま、シュリ師匠の攻撃で弾き飛ばされていたメイス持ちの魔将の懐へと潜り込んだ。
「き、貴様らッ!?」
「お主の相手はシュリ以外にもおるのじゃ――」
グラド師匠の飛怪槍が魔将のメイスを絡め取り、そのまま強引に上空へと放り投げる。
「ナイスよ、頭目! さぁ、あっちで遊ぼうか!」
「カカッ、行くぞシュリ!」
シュリ師匠が雷炎の爆発を足場にして跳躍し、グラド師匠と共に宙空にいる別の魔将へと追撃を叩き込む。二人の師匠は、瞬く間に魔将を滅多打ちにしながら、群がる雑兵ごと【幻瞑暗黒回廊】の別の宙域へと離脱していった。
豪快な笑い声と激しい魔力の衝突音が遠ざかっていく。
一瞬だけ、その背中を見送り、
「……頼りになる師匠たちだ」
視線を戻せば飛怪槍流グラド師匠が操作していただろう<影導魔・星影>の魔槍を打ち払っていたイゼハが、忌々しげに舌打ちをしてツヴァイヘンダーのような魔剣を構え直していた。
「あの槍使い共……どこかで……まぁ、いい後で殺す!」
「できるもんなら、やってみろ」
魔槍杖バルドークを両手で握り直す。
――再びイゼハへと踏み込んで、牽制の突きを連続で放つ。
イゼハはツヴァイヘンダーの魔剣を縦横に振るい、残像を伴う斬撃で魔槍の連撃をことごとく弾き返してきた。
互いの武器が素早く交錯し、火花が散る。その最中、イゼハが空いた左手から青白い魔刃の礫を至近距離から放ってきた。
魔槍の柄でそれを払い落とし、返す刃で紅斧刃をイゼハの首筋へと見舞う。
イゼハが上体を反らして躱した瞬間、その無防備な胴へ向け――、
深く踏み込み<闇雷・一穿>――。
咄嗟に盾のように構えられたツヴァイヘンダーの魔剣の腹と衝突、異次元の空間を揺らすほどの火花が散った。
「お前ら――」
「そこの黒髪が、ルキヴェロスス様を倒した野郎か!!」
空間の歪みから強烈な咆哮が二つ、響き渡った。
イゼハは後退。
声の一つは、三つの巨大な爬虫類のような首を持つ巨魔族。
それぞれの口からは炎、氷、そして毒の息が漏れ出ている。
もう一つの声は、不定形の軟体生物のような魔人で、無数の触手を鞭のようにしならせている。
更に、その奥から、敵の大軍が出現。
大魔術師たちを囲んでいた軍勢の一部が、こちらへ反転してきたようだ。
「イゼハ殿、手間取っているようだな。我らも混ぜてもらおう」
「ギチチッ……光魔の血、光に耐性がある俺には、美味となる……」
三ツ首の魔族と軟体魔人が、イゼハの左右に並び立つ。
甲虫の外骨格と魔鋼が融合したような重装騎士の出現は続いている。
すると、ファーミリアとメルたちが、こちらに、
「シュウヤ様!」
「――総長!」
サンスクリットの血霊剣の<血剣・血霊斬>を繰り出す。
重装騎士を真横に両断し、無数の血剣を、三つの巨大な爬虫類のような首を持つ巨魔族に繰り出していく。
三ツ首の巨魔族は、「チッ」と舌打ちし、魔法の盾を生み出して血剣を防ぐが後退した。
ファーミリアは、今まで見せたことのない血のミストへと全身を変化させた。
大軍に突撃していく。血のミスト状のファーミリアは、一瞬で、数百の甲虫の外骨格と魔鋼が融合したような重装騎士を消し飛ばす。
重装騎士の死体はバラバラに虫食いでもされたような穴だらけとなった。
<霊血の泉>の効果でかなり強くなった?
と、周囲に無数の心臓と内臓、そして脊髄に、コアの魔石のような物が浮かんでいる。それらから一斉に魔線が血のミストに集積していくと、ファーミリアはいつもの美しい女性の姿へと戻った。
メルは紅孔雀の攻防霊玉を脚装備にし、足下から黒い翼を活かす。
低空を駆けながら連続的な左右の足技を放つ。
続けて、<血剋・蹴衝魔翼大刃>を繰り出し、巨大な血の翼で敵を両断していく。
フーも、そいつらに突撃。
ファーミリアも<血魔術・巨人大剣術>を発動。
足下に、巨人ケルダーの魔大剣を召喚すると、それを蹴る。
巨人ケルダーの魔大剣は、中隊規模の頭部が巨大な輪入道のようなクリーチャーたちを次々と貫いて倒していく。
ホフマンもこちらにやってくる。
漢字が浮かぶ黒剣爪を縦横無尽に操作し、近くの輪入道のようなクリーチャーを切断している。
その間に、腰ベルトに連なる銀チェーンと、フィナプルス夜会の書物にも魔力を込めた。
魔界四九三書がひとりでに開き、ページから眩い光が溢れ出す。
と、その光が人の形を取るようにフィナプルスが出現し、翼を広げ、手元に黄金のレイピアを出現させた。銀チェーンの杭が眩い閃光を迸らせ、その光の中から聖槍シャルマッハを携えたミレイヴァルが実体化する。
「主様の敵、なるほど……」
「陛下――」
「あぁ、フィナプルス、ミレイヴァル、乱戦だ。味方を頼む」
「「はい!」」
魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを構え直し、<血脈冥想>で呼吸を整える。
三ツ首の魔族は、閃光ミレイヴァルとフィナプルスの攻撃を避けると、こちらに向け、中央の首から灼熱の業火を――。
右の首から絶対零度の吹雪を同時に吐き出してきた――。
炎と氷が螺旋を描きながら、広範囲を薙ぎ払うように迫る。
即座に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を前面に展開し、その裏に隠れるように<仙魔・桂馬歩法>で左斜め前へと跳躍する。
巨大な駒が炎と氷のブレスを受け止め、激しい水蒸気爆発を起こした。
視界が白い蒸気に覆われた瞬間、足下の空間がぐにゃりと歪んだ。
「捕まえたぞ!」
軟体魔人の触手が、蒸氣の中から無数に伸びてきて足首と腕に絡みつこうとする。
<雷炎縮地>を発動。
雷光となって触手の包囲網を抜け出し、そのまま軟体魔人の懐へと飛び込んだ。
「遅い!」
神槍ガンジスで<魔仙萼穿>を放つ。
螺旋の光の魔力を帯びた双月刃が、軟体魔人のぶよぶよとした胴体を貫くが、手応えが軽い。物理的なダメージを分散させる特異な肉体か。
「ギチチッ、効かんな!」
軟体魔人が切断された触手を瞬時に再生させ、全方位から俺を包み込もうとしてきた。だが、その触手の網を、上空から降り注いだ銀色の閃光が次々と切り刻む。
「ご主人様の邪魔はさせません!」
ヴィーネだ。ユイとカルードも近付いていた。
<光魔銀蝶・武雷血>を発動し、雷状の<血魔力>を纏った彼女が、古代邪竜ガドリセスと戦迅異剣コトナギを振るい、軟体魔人の触手を高速で解体していく。
「にゃごぉぉぉッ!」
更に、黒豹が巨大な神獣ロロディーヌへと姿を変え、三ツ首の魔族へと飛びかかった。紅蓮の炎を吐き出しながら、その巨大な前足で、氷を吐く三ツ首の左の首を強引に地面へと押さえつける。
「ユイ、カルード! 雑魚は任せる!」
「うん、任せて!」
「承知いたしました、マイロード!」
ユイが三刀流から、神鬼・霊風の一本に変化させ、<銀靱・壱>の神速で重装騎士の群れへと突っ込む。カルードも流剣フライソーと幻鷺を振るい、月光と血の軌跡を描きながら甲虫騎士の装甲を次々と両断していく。その上で、光属性の刀を扱う魔剣師たちと戦っている沙・羅・貂たちとルマルディとフィナプルスが見えた。
レベッカとエヴァは、後方から支援魔法を乱れ撃つ。
蒼炎弾が輪入道モドキの顔面で爆発し、白皇鋼の刃が飛来する魔矢を的確に叩き落としていた。
師匠たちも、それぞれの槍を振るい、群がる異形の兵士たちを蹴散らしている。
戦場は完全に乱戦の様相を呈していた。
「よそ見をしている余裕があるのか!」
イゼハの声と共に、青白い魔剣の刃が俺の死角から迫る。
空間を歪めて転移攻撃を仕掛けて――。
だが、<隻眼修羅>の視界はそれを見逃さない。
魔槍杖バルドークを背後に回し、<風柳・案山子通し>の構えでその一撃を受け止める。ガギィィンッ!
背中合わせのような体勢から、肘を打ち込むようにして魔槍の柄をイゼハの胸元へ叩き込む。
「ぐっ!」
イゼハがわずかに呻き、距離を取る。
そこに三ツ首の魔族が中央の首をこちらに向け――。
圧縮された毒のブレスを吐き出してきた。紫黒の毒霧が周囲の岩壁をジュウジュウと溶かしながら迫る。
大きい駒は相棒たちのフォローに回しているから、
「――厄介な奴らだ……」
と呟きながら左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出。
【幻瞑暗黒回廊】の浮いているように【幻瞑暗黒回廊】に固定化されている巨大な海月のような超物体に<鎖>を絡ませ、ターザンのように宙を舞って毒のブレスを回避する。
そのまま振り子の要領で加速し、イゼハの頭上を取った。
「落ちろ!」
魔槍杖バルドークの紅斧刃を、重力と遠心力を乗せて振り下ろす。
<龍豪閃>――。
「<絶剣・空断>!」
イゼハが魔剣を上段に構え、空間そのものを切り裂くような斬撃で迎え撃つ。
紅斧刃と魔剣が激突し、異次元の空間に耳を劈くような轟音が響き渡った。
激しい衝撃波が周囲の毒霧を吹き飛ばし、足元の地面が蜘蛛の巣状にひび割れる。
鍔迫り合いの最中、イゼハの四つの瞳がギラリと光った。
「ハッ、これも防ぐか! その神槍といい、やはり、魔人武王を彷彿とさせる」
「あぁ、魔人武王ガンジスとは戦ったことがあるからな」
「……その言葉、虚仮威しではない。だが、俺たちを相手に、どこまで持つか見ものだ」
「俺たち光魔ルシヴァルを舐めてもらっては困る」
俺の言葉に呼応するように、胸の<光の授印>が熱く脈動すると、神槍ガンジスの神魔石も強く呼応するように鳴動していく。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版1巻~3巻発売中。




