二千百十三話 数千の異形兵と【幻瞑暗黒回廊】の激闘
陽槍ルメルカンドと魔神槍・血河を消す。
直ぐに数万の軍勢のうち、数千に及ぶ異形の兵士たちが一斉にこちらへ向き直り、魔族たちが、
「おい、あれはナイトレーンごと塔烈中立都市セナアプアに向かった連中ではないぞ」
「「あぁ」」
「一番隊の副長、二番と三番の隊員が多くいた、あの先行軍が倒されたというのか!!」
「……強者、特任の遊撃員の武甲のメラド・カシマ様も加わっていたが……」
「あの人族共が倒したのか……S級の冒険者どもの集まりか……」
「そうだろう、だが、ここに乗り込んでくるとはな!!」
「仕留めろ――」
「「「おう」」」
狂氣の雄叫びと共に突撃を開始してきた。
相棒の頭部にいつのまにか乗っていた小さい光精霊フォティーナが、
「――私たちは光側として、この【幻瞑暗黒回廊】の闇を払う!!」
と宣言するが、敵の大軍には聞こえていないだろう。
その陣容は、まさに悪夢の具現化だ。
前衛を駆けるのは、先程と同じ、甲虫の外骨格と魔鋼が融合したような重装騎士が多いが、他にもいる。
家屋ほどもある巨大な頭部だけの魔族。鬼霧入道ドンシャジャと似たクリーチャー、モンスター兵もいた。体を持たない妖怪の『輪入道』を思わせる頭部だ。
頭部には色々な種類があるようだ。
おっさん、鬼、笑、能面、無数の顔を持つモンスターなど様々だ。
周囲に無数の赤い目の幻影を浮かべているのは、他のモンスター兵と変わらない。
それら頭部だけのモンスターたちは顎が外れんばかりに大きく口を開き、臭そうな息を吐きながら宙を飛んでくる。
それに続くのは、四本の腕そのものが禍々しい魔杖と同化している二眼の魔術師魔族たち。
彼らは後方から四本の杖を交差させ、極太の<暗黒魔力>の閃光を雨霰と降らせてくる。
更に、空間の歪みに無数の触手を突き刺し、異界から直接エネルギーを吸い上げながらバリアを展開するクリーチャー系の兵士たちが、隙間を埋めるように押し寄せてきた。
左翼からは、二眼で人族のような魔剣師集団が現れる。
二の腕と肘までの部位がない四腕を宙に浮かせ、その手には、何重にも巻かれた包帯越しに光属性の刀が握られている。その連中も飛来。レグ・ソールトと似たような連中か?
無数に押し寄せてくる圧倒的な絶望の渦に対し――。
静かに呼吸を整え、両腕を広げた。
「――<血道第四・開門>、<霊血の泉>!」
足下から爆発的に膨れ上がった<血魔力>が、重力のない異次元の回廊に赤い泉を形成する。
半透明なルシヴァルの紋章樹の幻影がそびえ立ち、聖域の霊氣が味方の能力を限界まで引き上げた。
「器、上のほうの敵は妾たちが担当しよう」
「了解」
沙に返事をしつつ《氷命体鋼》を発動――。
味方の殿を務めていただろう大魔術師たちの陣地側とは距離がある。
沙・羅・貂たちの動きを見ながら、敵の前衛に、王氷墓葎をぶちかますか。
「ンン――」
と、黒豹の相棒が右前に飛び出た。
全身から無数の触手骨剣を伸ばし、手前の家屋ほどもある巨大な頭部だけの魔族を貫いていく。 更に、一瞬にして巨大な神獣ロロディーヌへと姿を変え、力強く四肢で虚空を踏み込む。
沙・羅・貂の動きに合わせ、頭部の向きを変えると、口を極限まで大きく拡げ、
「にゃごァァ!」
豪快に紅蓮の炎を吹く――。
ゴォォォォッと放射状に広がった紅蓮の炎は、無数の燕の炎の魔力を周囲に散らしながら、圧倒的な汚物を浄化する劫火となって数千の敵前衛を真っ向から飲み込んでいく。
周囲の異次元すら焼き焦がす勢いの紅蓮の炎は強力だ。
紅蓮の炎の中に、戦神ラマドシュラー、戦神イシュルル、戦神ツユキラなどの姿が見える。
突撃してきた敵前衛の一部は消えた。
だが、光属性の魔法耐性が高いだろう巨大な頭部だけの魔族は「ギャアアァァ……ッ!?」と悲鳴のような言葉を発し、上のほうに飛び出ていく。
途中で、大口を開けたまま内から爆ぜて散った。
相棒の炎に耐えている巨大な頭部のクリーチャーは、やはり輪入道と似ている。その魔法耐久度が高いクリーチャーは沙、羅、貂たちの神剣を浴びて真っ二つ。その沙は<御剣導技>を使い、羅は<瞑道・瞑水>を発動し、加速しながら神剣を振るい、魔剣師を両断。
貂も<仙王術・神馬佳刃>を繰り出し、見事に数人の頭部がない異形の魔族を両断。
そんな三人に、無数の遠距離攻撃が向かう。
だが、天女のように踊り、体捌きで軽々と避けていく。
極太の<暗黒魔力>の閃光を放つ攻撃も、錐もみ状に螺旋回転している三人は宙空で位置を変えながら次々に標的を屠っていくため、まず攻撃は当たらない。
そして相棒の紅蓮の炎は、異界から力を吸い上げていたような印象の触手の群れのクリーチャー兵の大半を消していく。バリアのような魔法防御を宙空に展開されていたが、頭部が大きいモンスターとは違い、バリアは一瞬で消えていた。
先程も凄かったが、神獣ロロディーヌの紅蓮の炎の威力は抜群、圧巻だ。
威力と広範囲における効果はこうした戦場でこそ活きる。
四腕の魔術師たちが放った<暗黒魔力>の閃光すらも、神獣の炎に押し負けて霧散していく。
「相棒、ナイス! 皆、敵を倒しながら、大魔術師たちと合流するぞ!」
「「「はい!」」」
<血道第三・開門>、<血液加速>を発動。
地面に急降下した相棒を飛び越えて、突進――。
足下から<血鎖の饗宴>――波頭のような無数の血鎖が、巨大な頭部だけの魔族の頭頂部を蜂の巣状に貫いて倒すが――一部だけだ。
魔法耐性が高いだろう一部の巨大な頭部だけの魔族は、魔法陣を生み出し、血鎖を止めてきた。
血鎖の<血鎖の饗宴>を消す――。
その魔法陣で止めた巨大な頭部だけの魔族に向け、両手から通常の<鎖>を射出し、<光条の鎖槍>を五発飛ばす。
<鎖>と<光条の鎖槍>は魔法陣の表層に突き刺さり、止まる。
それを視て<月冴>を発動。
斜め頭上に『月冴』と日本風の魔文字が浮かぶ中、体の剛柔を操る<無方南華>と<無方剛柔>を同時に意識し、発動。
続けて<メファーラの武闘血>と<破壊神ゲルセルクの心得>を発動――。
<魔闘術の仙極>をも発動した。
<勁力槍>を強めた魔槍杖バルドークを中段に構えながら、まだ生きている頭部だけの『輪入道』と似たモンスターたちの動きを凝視。
並列に並んだ刹那――<紅蓮嵐穿>――。
魔槍杖バルドークを前に出すモーションのまま――。
秘奥が宿る魔槍杖バルドークごと次元速度で直進――。
――魔槍杖バルドークから魑魅魍魎の魔力嵐が吹き荒れる。
俺の体から出た龍の形をした<血魔力>も、その魔力嵐の中に混じるや否や推進力が増し、直線状に並んでいた頭部だけのモンスターたちをぶち抜きまくった。
二眼で人族のような魔剣師集団の一部も消し去る。
そして、皆の位置を見てから直ぐに腰溜めモーション――。
魔槍杖バルドークを右から左へと振るう<魔狂吼閃>を繰り出した――。
振り抜かれゆく魔槍杖バルドークからゴオォォッと咆哮が轟く――。
紅矛と紅斧刃から魔竜王バルドークの頭部を模った魔力が飛び出ると――。
周囲に無数の紋章魔法陣が出現。
その紋章陣から邪獣セギログンが現れる。
邪神シテアトップと黄金の骨も現れた。
冠を被る武者ドワーフも出現。
次々に魑魅魍魎の魂たちの幻影が吹き荒れるように現れ続けていく。
それら魑魅魍魎とした幻影類が魔竜王バルドークの頭部の魔力と紋章魔法陣を喰らいながら銀色の光を発した。
銀色の魑魅魍魎の嵐と化した<魔狂吼閃>が禍々しい魔杖と同化している二眼の魔術師魔族たちや、甲虫の外骨格と魔鋼が融合したような重装騎士たちも両断していく。
強者の魔剣師は転移し逃げていた。
他の魔術師は、魔法大剣を宙空に幾つも生み出し、銀色の光を発した魑魅魍魎の嵐となった<魔狂吼閃>に抵抗しながら後退、転移を繰り返し逃げた。
一部の魔剣師は左腕を犠牲に、目映い閃光を生むと、魔剣師の左側に魔法大剣が生まれ、その魔法大剣で、<魔狂吼閃>を防ぐ。大剣の周囲に膨大な動摩擦が発生し、化学流体力学的な様々な魔力粒子が散っていた。
銀色の光を発した魑魅魍魎の嵐となった<魔狂吼閃>は残りの前衛部隊の大半を仕留めつつ、【幻瞑暗黒回廊】の異次元虚空を寸断し爆ぜて異次元の中で連鎖爆発を起こしながら消えた。
「ご主人様、ありがとうございます!」
ヴィーネが翡翠の蛇弓から<速連射>を放つ。
前衛の残存部隊の額に光線の矢が突き刺さっていく。
ユイが<銀靱・壱>の神速で虚空を蹴る。
だが、その二人の前に、空間の波紋を蹴って異常な加速を見せる影が不意打ち気味に割り込んだ。
「ッ!?」
「くっ……!」
鋭い金属音。ヴィーネが放った光線の矢が、剣の腹で弾かれ、ユイの双剣による死角からの連撃が、神速の剣捌きによって完全にいなされる。
圧倒的な踏み込みで二人の体勢を崩し、退けさせたのは、全身から青白い<魔闘術>系統を立ち昇らせる一人の魔剣師だった。
「速い……!」
ユイが舌打ちをして後退する。
その魔剣師は追撃せず、カルードとルリゼゼの攻撃を避けながら、こちらに魔刃を飛ばしてくる――。
と、魔剣師はレベッカを凝視。
魔剣師に目掛け、<鎖>を射出。
魔剣師は青白い輝きを放ちながら転移し、相棒の細い紅蓮の炎を避けながら皆に向け、無数の魔矢を放ってきた。
一方、レベッカは、別の方角で巨大なクリーチャー兵に蒼炎弾を放とうとしていた。
そのレベッカ、クリーチャー兵が無数の触手を槍のように伸ばし急襲しているが、レベッカは無数の蒼炎弾を放ちまくり、クリーチャー兵を素早く仕留めては、《炎塔攻防陣》を発動させる。
局所的な炎の壁がいたるところに発生。
ビュシエの<血道・石棺砦>による簡易砦と、エヴァの白皇鋼の金属の壁が守れていないところに重点的に炎の壁が発生していく。
そして、後方支援のレベッカは、ユイ、カルード、サラ、ハンカイ、ルリゼゼたちへ飛来していく火球、雷球、風弾、魔矢、魔刃、漆黒の魔槍刃、岩槍、礫から守っていく。
レベッカは、城隍神レムランの竜杖を掲げ、杖の飾りに戻っていたナイトオブソブリンとペルマドンを瞬時に現実の巨大なドラゴンに変化させて、敵の中衛部隊の中心に送り込む。
そのレベッカを脅威に見えたのか、魔剣師は死角へと音もなく肉薄し、凶刃を振り上げた。
「レベッカ!」
<雷炎縮地>を発動。
レベッカに迫る触手を魔槍杖バルドークの石突きで粉砕しながら、魔剣師の振り下ろした刃を紅斧刃で下からカチ上げるように受け止めた。
ガギィィンッ!!
鼓膜を劈く金属音と、激しい火花が散る。
重い。そして何より、足場のない空間を自ら生み出した波紋のフィールドで蹴り、遠心力を乗せる技術が卓越している。
ツヴァイヘンダーのような魔剣の刃越しの四眼が煌めく、
「ほう……防ぐか、光魔の長」
魔剣師が不敵に笑い、ツヴァイヘンダーのような魔剣を引き、斬り掛かってくる幻影を生み出し、己は後方へ跳躍していた。
追撃をかけようとしたが、魔剣師が退いた空間を埋めるように周囲から、頭部がないディラハンのような、数千の異形兵士たちが群がってくる。
即座に、<血道第一・開門>を意識、体から<血魔力>を放出。
「邪魔だ――」
<血鎖の饗宴>――。
体から放出した血は一瞬にて、無数の血鎖に変化し、巨大な波頭のように前進。
群がる兵士どもを一氣に飲み込み、消し飛ばす。
だが、その瞬間。
「『展開せよ、封縛の陣!』」
敵の後方に陣取っていた魔術師連隊が一斉に魔杖を掲げた。
俺の上下左右に、紫黒の魔法陣が無数に行き交うように出現し、互いに干渉しながら回転を始める。
『閣下、これは視たことがない魔法、スキル封じ!?』
ヘルメの念話に返事はせず。
バチバチという不快な音と共に、展開したばかりの<血鎖の饗宴>が空間ごと削り取られるように消滅させられた。
「……」
直後、全身の骨が軋むほどの異常な重しがのしかかってきた。
見えない鉛の塊を背負わされたような、あるいは深海に沈められたような圧迫感。
<霊血の泉>の聖域内にあっても、この多重魔法陣のデバフは俺の体の自由を強引に奪いに来ている。
「ギチチッ! 動けまい!」
『閣下、出ますか』
重圧に苦しむ俺を好機と見て、クリーチャー兵や四腕の魔術師たちが一斉に殺到してくる。
だが、この程度の圧力なら――。
丹田に意識を集中させ、水神由来の理を呼び覚ます。
<水の神使>、<水神の呼び声>を意識。
続けて、<経脈自在>、<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>を同時発動。
一瞬、酒の匂いが漂う、全身の経脈が青白く発光し、体から大豊御酒と水の法異結界が放出した。体を縛り付けていた重圧の魔法陣が、内から膨れ上がった水圧に耐えきれず、ガラスが割れるようにパキパキと音を立てて砕け散った。
更に、大氣中の魔素の一部が水に変わり、腰に注連縄を巻いたデボンチッチが現れる。やや遅れて、無数の小精霊たちが大きなうねりを伴う水流へと変質し、渦を巻いた。
《水流操作》でその水流に乗るように移動し、重圧を強引に突破し、魔槍杖バルドークを旋回させ、<龍豪閃>――。
螺旋の衝撃を伴う紅斧刃が群がってきた異形の兵士たちを上半身ごとまとめて吹き飛ばした。
その間に、味方も躍動する。
キサラがダモアヌンの魔槍による<補陀落>で敵陣を一直線に貫き、エヴァが<霊血導超念力>で巨大な岩塊を魔術師連隊の頭上へ叩き落とす。
大魔術師たちを追い詰めていた包囲網が、皆の連携によって確実に切り崩されていく。
空間を蹴る波紋の音が、再び俺の背後から迫った。
「雑兵どもが、足止めにもならねぇか」
先ほどの魔剣師――。
奴は他の仲間には目もくれず、真っ直ぐに俺だけを狙って接近してくる。
俺も魔槍杖バルドークを構え直し、奴に正対した。
周囲の戦闘が遠のき、奇妙な一対一の空間が形成される。
魔剣師がフィールドを蹴り、神速の突きを放つ。
それを魔槍杖バルドークの柄でいなし、<魔雷ノ風穿>で反撃する。
奴は剣の軌道を瞬時に変え、雷光を纏った突きを流麗な剣捌きで逸らした。
――ガガガガガッ!
火花が飛び散り、数十合の打ち合いが異次元の空間に反響する。
その剣技、速さだけでなく、空間の歪みを利用した変幻自在の太刀筋。
そして、この独特の歩法……。
「……お前のその剣術、見覚えがあるな」
刃を交えながら問いかけると、魔剣師は余裕の笑みを浮かべた。
「当たり前だ。お前はオセベリアで、その剣術を使う男を殺している」
「……【異形のヴォッファン】一番隊隊長、ライゾウと同じ流派か」
「ご名答。あいつは俺の弟子の一人――」
魔剣師が<魔闘術>系統を発動しながらツヴァイヘンダーを突き出す。
その切っ先を魔槍杖バルドークの柄で受け下に弾く。
魔剣師はツヴァイヘンダーと似た魔剣を下げながら、俺の片足を狙うように魔剣を動かす。
それを視ながら右に移動し、避け、左手に雷式ラ・ドオラを召喚しつつ魔槍杖バルドークで<魔雷ノ風穿>――。
魔剣師はツヴァイヘンダーを上げ<魔雷ノ風穿>を完璧に防ぐ。
剣身に衝突した紅矛が振動し火花が散る。
「師匠ということか――」
魔槍杖バルドークを払うと、魔剣師は「ハッ」と嗤いながら後退――。
体から魔力を爆発させたように、青白に輝く魔力が体を覆う甲冑を覆い、周囲にも広がった。
否、<闇透纏視>と<隻眼修羅>で凝視すると、青に漆黒の魔力も加わっている。
ツヴァイヘンダーのような大きい剣身を軽々と振るう。
と、その剣身にルーン文字のような魔法文字が浮かび、剣身に不気味な紫電を這わせた。
「名を聞こうか」
「絶剣のイゼハ。ライゾウの仇、ここで必ず討たせてもらう――」
絶剣のイゼハ――更なる異常な加速で踏み込んできた。
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