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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2112/2118

二千百十一話 賞金稼ぎロン・ガザトーとの交刃と崩れゆく魔塔

 レベッカの腕で微睡んでいた黒い毛並みが不意に揺れた。

 覗いた紅い瞳がこちらの意図を察したように細められる。

 かすかに口を拡げ、サイレントにゃを行うと黒猫(ロロ)は赤ちゃんみたいだ。


「ふふ、ロロちゃん、ちゅ~」

「にゃご」


 と、黒猫(ロロ)にプイッとされるレベッカの表情が笑える。

 エヴァたちも笑っていた。「えぇ~」と言うが、レベッカから逃げていない黒猫(ロロ)は前足の爪を出し入れして甘えていた。あの辺りが猫の天の邪鬼的な可愛さだな。

 その黒猫(ロロ)は、俺を見て、


「にゃ」


 と短く鳴く。同時にわずかに振られた尻尾の先端が、レベッカの細い腕とお腹辺りに触れた。

 言葉を介さずとも、相棒とは常に意識の深層で繋がっている。

 その相棒を抱くレベッカたちを見てから、


「そろそろお開きにしようか。ペントハウスに戻って、明日に備えるぞ」

「はい。大舞台の前に、皆でしっかり休んでおきましょう」


 カフェ『サロン・ド・ヴェレゾン』を後にし――。

 エセル大広場の喧騒を抜けて魔塔ゲルハットのペントハウスへと帰還した。


 ペントハウスに戻り、メル、アドリアンヌ、シキ、レザライサ、キッカたちを集めて明日の警備配置の最終確認を行った。


「キッカ、砂城タータイムは魔塔ゲルハットの近くに待機させたままでいいんだな?」

「はい、普段より魔塔ゲルハットの守りが薄くなる分、砂城タータイムの絶対的な能力があれば一安心です」

「了解した。今更だが、天空閣の警備配置と構造の詳細の把握はどうだろう」

「お任せを、表の警備と各国の控え室は、その各国の精鋭が固めていますが、裏のルートや死角は私たち【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の息がかかった者たちで潰しています。私は冒険者ギルドの裏仕事と警備の統括で少し忙しいですが、抜かりはありません。エミアたちも優秀です」


 キッカは俺の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>だが、塔烈中立都市セナアプアの冒険者ギルドマスターも務めている。

 そして、ギルド裏仕事人、副ギルドマスター、エミア・ゼピィルス、サン・ジェラルド、ハカ・ヨミランたちは健在か。


「……頼もしい」


 と言ってからヴィーネたちを見て、


「ヴィーネたちも休まなくていいのか?」


 ヴィーネは微笑む。


「はい。私たちは上界の各所を回り、大連盟の主要メンバーとして警邏に加わります」

「ん、わたしたちも上界を見て回るけど、魔塔ゲルハットの守りも大事」

「うん、私も遊撃として動く」

「そうね、ザガたちは試作型魔白滅皇高炉から出てこないようだから、警備員代わりにはなるとは思うけど」

「俺たちの魔塔ゲルハットに侵入は、どうかと思うぜ。闇神リヴォグラフ側の戦力なら、【幻瞑暗黒回廊】があるから可能性はあるかもだが……」


 アドゥムブラリの言葉に、ホフマンたちが、

吸血鬼(ヴァンパイア)と蜘蛛娘アキ殿たちにお任せを」

「あぁ、あいつらがいたか、そうだな」

「戦力だけを見れば、砂城タータイムの炎竜ヴァルカ・フレイムのドラゴンたちだけでも十分強いです。エセル大広場の一部も守れます」


 キサラの言葉に頷く。

 アドゥムブラリは、


「では、俺もママニたちと同行し、【迷宮の宿り月】も見てこよう」


 と発言。ママニ、フー、サザーが頷いた。

 クレインが、


「警邏に私も参加するさ。皆がいれば、何が起ころうとも大丈夫だろう。だが、光魔ルシヴァルだからこその油断はあるかもだがね」

「ん、魔酒を片手に持つ先生、油断しすぎ」

「ふふふ」

「ん、ふふ」


 クレインとエヴァだけでも強者だ。

 更に言えば、クレインは魔酒を飲んでいるほうが強いからな。バフハールと女帝槍のレプイレス師匠と師匠たちとハンカイも頷いていく。

 バフハールは、


「がはは、魔酒ならわしも持つ、そして、わしら警邏に参加するぞ」

「シュウヤ殿、私も警邏に参加させてもらう」

 

 シャイナスの言葉に頷く。


「では、また明日、【天空閣】にて合流にしよう。解散」

「「「はい!」」」

「「「おう!」」」


 ヴィーネたちは魔塔ゲルハットから離脱。

 エヴァたちは下層に移動していく。


 俺はヘルメたちを体に入れ、深夜――黒猫(ロロ)を伴ってセナアプアの夜空へと飛び出した。


 何かあれば、光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスを魔界から呼び戻すのもありだ。


 ◇◇◇◇


 上界の【天空閣】が見えてきた。

 <無影歩>で音もなく接近し、警邏の具合と建物の構造を徹底的にチェックする。

 空魔法士隊も警護に回っているようで、空の守りも厳重。


 さすがは歴史的な会合の場。

 幾重にも張られた魔法結界と、死角を補い合う警備兵たちの配置は完璧に近い。

 <無影歩>を解除して歩き、

 その外縁部に近付くと、巨大な蓮の葉を支える魔導基盤の陰で、見知った魔素を感じた。


「おっと、盟主。こんな夜更けに散歩ですか」

「にゃ」


 闇から現れたのは、【白鯨の血長耳】の魔弓ソリアード、レレイ、そして九式ミセブの三人だ。


 肩にいる黒猫(ロロ)に会釈したソリアードたち。

 レレイは小声で「か、かわいい」と相棒を見て呟いていた。


「ソリアードか。警備の調子はどうだ?」

「えぇ、表の連中が気づかないような小さな『穴』は、俺たちで塞いでますよ。レレイの罠も完璧です」


 黒猫(ロロ)を見ていたレレイが『ハッ』とした表情を浮かべてから、軽く手を上げ、九式ミセブが無言で一礼する。


「ご苦労。明日の本番も頼むぞ」

「お任せを」


 ソリアードたちが再び闇へと溶け込むのを見届けた。

 天空閣の屋根へと移動した。

 屋根の上に降り立ち、塔烈中立都市セナアプアの夜景を堪能する。

 眼下には無数の魔塔の明かりが煌めき、上空には崩壊している月の残骸と、健在の月が幻想的な光を投げかけている。


「ロロ、綺麗な夜景だな」

「ンン、にゃお」


 相棒も夜風に目を細め、静かに喉を鳴らした。

 その時だった。

 ――遠くの魔塔群から巨大な花火が打ち上がる。

 天空閣の街道周辺でも、あちこちで火花が発生する騒ぎが起きた。


「にゃご――」

『『『え?』』』

『花火?』

「聞いてないが、祝砲のつもりか?」

『主、警戒したほうがいいだろう』


 ヘルメ、グィヴァ、ミラシャン、ナイアの皆が驚きながら念話を伝えてきた。


 相棒が馬に近い大きさの黒豹に変化。

 四肢の爪先が屋根を覆っている蒼白い魔法陣の表層に喰い込んで火花を散らす。警戒モード。

 その黒豹(ロロ)の腹の横を触りながら、


「この花火は、目くらましか?」

「ンン」


 相棒は喉声のみ。

 すると、空から猛烈な速度でこちらへ接近する強大な魔素を感知。


「――来る」


 魔槍杖バルドークを右手に召喚――。

 <握吸>と<勁力槍>を発動。

 続けて<闘気玄装>と<血道第三・開門>を意識。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>を発動。


 赤い魔刃を有した魔槍か――。

 紅蓮の魔刃が、夜闇を切り裂いて肉薄、その一撃をバルドークの柄で真正面から受け止めた――。

 激突の余波が足下の屋根と魔法陣を軋ませ、悲鳴を上げさせるように衝撃波となって同心円状に広がり、無数の火花を散らす。そして、至近距離の男を凝視。


 網膜に焼き付いたのは――。

 人族に近い風貌ながら腰から野性味あふれる獣の尻尾を生やした二眼二腕の魔族だった。


 その手には黒金の魔槍が握られている。


「ハッ、この一撃を軽々と防ぐとか、自信を喪失するぜ……そして、黒髪に巨大な黒豹……お前が、【天凛の月】の盟主だな?」


 男の口元が獰猛に歪む。


「にゃご――」


 相棒の触手骨剣を頭部を横に傾け避けた男。


「そうだが、お前は?」

「俺か? 普段はしがない賞金稼ぎとして大人しくしているんだがな。ヘドロで埋まっていた巨大な下層の毒沼を掃除した【血月布武】の連中の活躍に、この三国和平なんていう極上の舞台を造り上げた連中。そして、その長だ。血が騒いで我慢できなくてな!」


 ――男が獣の尻尾を鞭のようにしならせ、間合いを詰めてくる。


 鋭く重い連続突き――。

 それをバルドークの紅斧刃と螻蛄首で弾き返し、返す刀で<龍豪閃>を放つ――。

 男は魔槍を回転させて柄で見事に防ぐと、半身の姿勢から鋭い突きを放ちつつ魔槍を浮かせ、空いた両手の爪を伸ばして連続斬りを繰り出してくる――。

 

 それを<風柳・中段受け>でいなし、続く怒涛の連撃も、<山岳斧槍・滔天槍術>の歩法を交えた魔槍杖バルドーク一本で完全に防ぎきる。上下による攻撃と緩急を付けた槍武術と独自の拳法――。


 数十合の打ち合い――。

 激しい火花が夜空に散る。


「強ェ――まさに、霊夢ミサの言葉通りだぜぇ!」


 霊夢ミサ?

 しかし、かなりの実力者――。

 ――<血龍仙閃>と似たような一閃も使う。

 反撃の魔槍杖バルドークで<魔雷ノ風穿>――。

 男は反応し、正眼に構えた黒金の鋼の柄で防がれた。

 男は<魔闘術>系統を何重にも強めて、魔槍杖バルドークを下に払うように、黒金の魔槍を振るい上げる。

 横に移動し、避ける。

 男は、「だよなァ――」と、傾斜した屋根の上を滑るように前進し、黒金の魔槍を一閃――。

 それを見るように避けると、突きが迫る。

 その突きを魔槍杖バルドークで弾き、左手に神槍ガンジスを召喚、<勁力槍>と<握吸>を同時に発動。

 そして、神槍ガンジスで<光穿>――。

 魔槍杖バルドークで<牙衝>――。

 男は、上下の連続突きに近い攻撃を、黒金の魔槍と左手に召喚した魔剣で防ぐ――後退しながら魔剣から魔刃を飛ばしてきた。

 その魔刃を神槍ガンジスで払う。

 男は動きを止め、相棒の触手骨剣による連続攻撃を、魔剣と黒金の魔槍で防ぎ続けていく。


「相棒、そいつは俺が受け持つ、周囲を見てきてくれ」

「ンンン――」


 黒豹(ロロ)は耳をピクピクさせてから触手を収斂させ、一氣にバックステップ、【天空閣】の屋根から飛び降りて消えた。


「俺とサシを望むとはな。まさに武人。盟主と戦えて光栄だ」

「光栄か、正直恐縮する……しかし、俺も強者と戦うのは好きだ。それで、お前の名は?」


 と、聞くと男は消え、否、上空から最上段の振り下ろし。


 魔槍杖バルドークを掲げ、魔剣の攻撃を受け止め、次の魔槍の一撃の出本を最速の神槍ガンジスで<刺突>で防ぎ、男の胸元に独自垂直蹴り(トレースキック)を繰り出す。

 しかし、それを黒鋼の柄で防がれた。

 蹴りの反動で宙空を飛翔した男は、「――ハハハハッ! 最高だ!」と言い、クルクルと後転しながら屋根に着地。


「【天凛の月】の盟主、俺の名は獣魔槍のロン・ガザトーだ」

「ロン・ガザトーか。覚えておこう。俺はシュウヤだ」

「あぁ、当然、盟主の名は知っている。そして、お前の首はある界隈に、高く売れそうだ!」


 ガザトーが魔力を爆発させ、更なる大技を放とうとした刹那――。


 ヒュンッ!


 遥か遠方から、極度に圧縮された魔矢がガザトーの眉間を正確に狙って飛来した。

 ソリアードの狙撃だろう。


「チッ!」


 ガザトーは咄嗟に魔槍を盾にして魔矢を弾き飛ばしたが、その衝撃で体勢を崩した刹那、消える。

 と、逆さまの体勢で、反対側に移動して、周囲を見渡し、もう一度舌打ちをするガザトー。


「……あ~ぁもう終わりか。興が削がれた。だが、当然か。やはり、純粋な殺し合いは楽しめねぇな……今日はここまでにしておくぜ【天凛の月】の盟主!」


 ガザトーは獣の尻尾を揺らし、闇夜の空へと爆発的な速度で離脱していった。


「……獣魔槍のロン・ガザトーか。厄介な奴がいたもんだ」


 だが、これで空の脅威も去った。


「ンン――」


 大きい黒豹からグリフォンに変化していた相棒が戻ってきた。飛来した触手手綱を掴むと、親指と人差し指の間から伸びた触手の先端が首に付く。

 

 『あいぼう』、『つおい』、『てき』、『にげた』、『あいぼう』、『だいすき』、『にく』、『あめだま』、『おさかな』、『にく』――。


 <神獣止水・翔>のスキルで相棒の氣持ちがダイレクトに伝わってくる。思わず笑った。


 相棒の背を撫でて、


「飯はあとでな」

「ンン」


 ロン・ガザトーは俺と戦う良い機会と捉えたか。

 明日の会合への乱入はなさそうと分かる。

 ま、乱入してこようが、ネレイスカリ姫たちを守り抜くことに変わりない。



 ◇◇◇◇



 そして、朝を迎えた。

 三カ国の和平会議は、天空閣にて厳かに執り行われた。

 ソーグブライト王太子、ネレイスカリ姫、シャルドネ侯爵。各国の代表がテーブルにつき、証書への署名、条約の締結、そして共同宣言が高らかに読み上げられた。

 大連盟の完璧な警備もあり、危惧されたテロや妨害は一切発生せず、歴史的な和平会議は無事に幕を閉じた。


 しかし、その数時間後。

 ペントハウスで休息を取っていた俺たちに緊急の血文字が届く。


『盟主! 魔塔ナイトレーンで異変が発生! 内部からの爆発により塔が傾斜……【魔術総武会】のアークメイジたちが、力ずくで排除されたようです!』

「なんだと!?」


 血文字の報告に、休息しかけていた皆も目の色を変えた。

 レベッカは、


「あ、【幻瞑暗黒回廊】での戦いで負けた?」

「ん、大魔術師ケイが心配」

「どうやら、【異形のヴォッファン】の連中に大魔術師たちが押し切られたようね」


 エヴァたちが頷いていく。


 俺たちはすぐさま現場である魔塔ナイトレーンへと飛んだ。

 ナイトレーンの中層部が大きく抉れ、塔全体が危険な角度に傾いている。

 現場にはすでに、冒険者ギルドマスターのキッカと、ドミタスたち裏仕事人である【ギルド請負人】たちが駆けつけていた。


「シュウヤ様!」

「状況は?」


 キッカが瓦礫の山を指差す。

 魔塔ナイトレーンの一室、内部だったところか。


 そこの外側に露出していたのは、かつて彼女たちがエミアと共に【四玉魔封石】を使って封じた【幻瞑封石室】の出入り口だった。

 当時、エミアが四角い石板のような【四玉魔封石】を向け、濃厚な黄金色の魔力で扉を動かし、陰陽太極図と四つの魔印の魔法陣で【幻瞑暗黒回廊】を封じた実績がある。


 だが、その封印は前とは異なる。

 内部からの凄まじい圧力で破壊されようとしているように見えた。


「今、ドミタスたちと結界を張り直し封印に成功しましたが、魔塔自体が傾いてしまった以上、長持ちはしません。それに中から脱出してきた魔法ギルドの者たちの話だと……」


 キッカが言い淀んだその時、血塗れになりながらも部下に支えられて現れたのは、ナイトレーンに表向き封じられていた。あるいは拠点を置いていただろう大魔術師アキエ・エニグマだった。他にも大魔術師ケイ・マドール、大魔術師ダルケル・ロケロンア、大魔術師キュイジーヌの姿が見えた。皆、衣服が破け、傷を受けている。


「……アキエに、ケイたち、その傷、大丈夫なのか!」

「あ、ふふ、シュウヤさん……面目ない姿を見せてしまったわね……」


 アキエは苦痛に顔を歪めながらも、深刻な事実を告げた。


「【幻瞑暗黒回廊】での戦い……私たちは、闇神リヴォグラフ側の戦力に……敗れたわ。奴らの【異形のヴォッファン】の隊長の何人かは仕留めたんだけど、それを上回る想像を超える戦力を隠し持っていた」


 大魔術師たちの敗退か。

 キッカが、


「各魔法学院の【幻瞑暗黒回廊】の守りはどうなの?」


 大魔術師アキエ・エニグマは、


「塔烈中立都市セナアプアの【幻瞑暗黒回廊】の出入り口を持つ魔塔は大半が閉じたはずよ。ただ、何かが起きるかもしれないわ」


 つまり、あの暗黒の回廊から、闇神の軍勢がこのセナアプアへと直接雪崩れ込んでくる危険が目前に迫っているのか。


 強者で神格を有していない魔族は多い。

 個別に対応はできるが……。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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