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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2104/2117

二千百三話 キッシュの鋼の決意と平和の裏に潜む者


「ぷゆゆ~!」

「てやんでぇ、これ美味すぎ!」

「わたしは、ねーむす!」


 ぷゆゆと、モガと、ネームスも、最高の料理を堪能している。

 ネームスの胸元が光を帯びると、一瞬、黒髪の女性が見えたような氣がしたが、氣のせいか。


「では今、この血現魔具を使います――」


 ラライセは通信用の魔道具、血現魔具を出す。

 そこから<血魔力>が現れ、複雑な魔導記号を空間に描いた。魔法陣が宙空に誕生、魔法陣は淡い銀色の光を放つと中心に、朱と漆黒の鎧を纏ったラミドスラと吸血鬼(ヴァンパイア)の眷族兵たちが浮かび上がる。


「あ、シュウヤ様と、ラライセ! ご無事な姿を拝見でき、何よりにございます」

「あぁ。そっちはどうだろう」


 通信越しに、オークの重々しい断末魔が混じった戦火の音が響いてきた。


「セラ側の傷場、及び三聖地の守護は万全にございます。 オーク大帝国の斥候、及び樹怪王軍の侵蝕は、皆が悉く撃退しております。……そして、聖地にはカトガたちが巡回に出て、【血の守護騎士団】の一部と合流、その警邏と、この傷場への地下道の占拠と防衛に力を注いでいる最中であります」

「順調そうだ」

「はい、シュウヤ様とヒヨリミ殿との縁が、これほどまでに我らの剣を軽くさせるとは。背後を憂うことなく戦える喜び、眷属一同、噛み締めております」


 ラミドスラの背後では、<従者>の吸血鬼(ヴァンパイア)兵たちの掛け声と、傷場から現れてくる援軍の吸血鬼(ヴァンパイア)たちの戦の歌声らしき声が響いていた。


 吸血神ルグナド様の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>のラミドスラに、


「了解した。カトガたちにも苦労をかけると伝えてくれ。【樹海のハーヴェストの泉】など、聖地の加護を存分に使い、無理はするなよ」

「ハッ。 畏まりました」


 通信が切れると、その銀色の光と入れ替わるように控えていたキッカが一歩前へ出た。

 陽光を受け、血色が混じる黒髪が艶やかに輝く。

 ハイネックブラウスの胸元に開いたハート型の穴からは、白く豊満な肌が覗いていた。

 彼女は第九<筆頭従者長>としての威厳を湛えている。

 

「宗主……セナアプアの<従者長>ペレランドラより、血文字が届きました。水面下で調整を続けていた、オセべリア、サーマリア、レフテンの三カ国和平会合。ついに、その準備が整ったとのことです」

 すると、


『シュウヤ様、皆にも血文字で伝えましたが、和平会合の段取りが付きました』


 ペレランドラの血文字に頷き、『了解した』と血文字を送り、<筆頭従者長(選ばれし眷属)>キッカたちに、


「和平会合か。ついに動き出したな」


 かつてユイたちが予見し、ペレランドラが準備を進めてきた大局。

 シャルドネ、ネレイスカリ姫、そしてサーマリアのソーグブライト王太子。

 南マハハイムの命運を左右する顔ぶれが、中立都市セナアプアに集結する。シャルドネが結構金を回したのかな。好戦派の一面から大規模な戦ではない利権確保に移行か。


「ふっ、ただの茶会では済まないようだな」


 口を挟んだのは、同席している<筆頭従者長(選ばれし眷属)>レザライサだ。

 【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の【白鯨の血長耳】を率いる。

 冷ややかな笑みを浮かべて腕を組んでいた。


 ヴィーネが、


「サーマリア王国の好戦派と軍需産業、レフテン王国の宰相と軍需産業が素直に、それを許すとは思えないですね」


 納得だ。俺の知る地球でも国際資本が戦争を続けるために、あらゆる工作を両方の国、世界で行っていた。または争いの火種を作る。敵対する両国に平然と投資を行う。


 表に出るニュースの裏には、必ずスポンサーがいる。

 ニュースの裏、ニュースを作る側こそが、胆。ネットのニュースもそうだろう。

 

 スポンサーがいる。または政府、上層部の思惑。


 そのスポンサーは、どこのだれか。スポンサーに歯向かえばどうなるか?

 マッチポンプが常、基本は儲けるため。


 恐怖を煽り、武器を売り、復興でまた稼ぐ――血塗られたマッチポンプ。


 俺のいた世界でも、その手口は洗練され、陰湿化していた。

 指向性エネルギー兵器(DEW)や、地殻に干渉する環境改変兵器としての『地震兵器』。これらは国際条約の場でも議論の遡上にある現実的な脅威だ。


 マイクロ波による脳への干渉。

 流体注入による地殻への干渉。

 『見えない力』であることをいいことに、彼らは隠蔽し、シラを切る。


 だが、科学を語るならば事実は明白だ。

 CO2の地中貯留(CCS)やシェールガス採掘における水圧破砕法フラッキング

 これらに伴う『誘発地震』のリスクは、USGS(米地質調査所)等の公的機関でさえ公式に認めている既知の事実だ。


 にも関わらず、彼らはその因果関係を認めようとしない。

 本来ならば、特許技術やデータに基づき、フラットかつ科学的な推察がなされるべきだ。


 地下深部への流体注入が引き起こす『間隙水圧』の上昇と、それに伴う断層面の『有効応力』の減少。この物理的メカニズムによって断層が滑りやすくなる……それは地質学の基礎なのだから。


 しかし、彼らは物理的接触がないから不可能という極論や、「深度が異なる」という詭弁を用い、地殻の臨界点に対するエネルギー干渉の可能性を意図的に排除した。


 それは科学ではない。特定の利権を守るための『結論ありきの火消し』に過ぎない。


 誠実な科学的検証よりも、スポンサーの利益が優先される。

 真実よりも株価。人命よりも利権。

 面で起きることの裏、そこでだれが儲けて、何を得をしているのか?

 大衆が正義や愛国心に熱狂している間、その裏で誰が儲け、誰がシナリオを書いているのか。


 または、勝ち負けに拘らず、どちらにも投資を行う、両建てを行う大本の存在を理解する大事さを、当時の国民はそれを見て、理解していたのかどうか。

 『死の商人』にとって、平和とは「商売あがったり」の別名でしかない。


 そんな腐った構造は、異世界であっても変わらないということか。


 シニカルな思考を振り払い、今は今と、キッシュを見る。


「……私の『耳』が拾った情報では、サーマリアのロルジュ公爵とラスニュ侯爵が、それぞれ飼っている『猟犬』をセナアプアへ放ったそうだ」

「【ロゼンの戒】と【黒薔薇の番人衆】ですな」


 カルードの言葉に皆が頷く。

 メルは、


「はい、前のこうした話にも登場しましたが、和平を望まぬ軍産複合体の連中が、和平会合を邪魔しに動くとの予想でしたね」

「ふむ、なめられたものだ。我ら【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の名がある塔烈中立都市セナアプアで事を起こすつもりとは……」


 頷くとハンカイが、


「敵さんは、己の欲のために、大事な調印式を血祭りにあげるつもりか」

「だろうな、ソーグブライト王太子の首を獲り、罪をオセべリアかレフテンの姫に擦り付ける……見え透いた絵図だ。また二重、三重の展開も予測されているはずだろう。国家規模の作戦のはずだ」


 レザライサがそう言うと、ルリゼゼたちも怒りの声を発した。

 アドリアンヌも黄金の仮面を揺らして頷き、


「ある意味、シャルドネ侯爵がシュウヤ様に接触してきた真意もそこにあるのでしょう。彼女は『両建て』の天才ですが、盤面そのものを壊されるのは望んでいない。シュウヤ様を『最強の抑止力』、あるいは『不測の事態への保険』として会場に呼びたいはずです」


 アドリアンヌの言葉を聞いていて、ユイ、カルード、鴉さんを見てから、思わず、サーマリア王国の方角へ目を向けた。かつて魔界で入手した『炎幻の四腕』を思い出す。

 建国に関わった魔神レンブラントの血筋にこれを渡すという布石。

 そして、和平を阻む売国奴たちの掃除か……。


「……いいだろう。がんばっただろうシャルドネの顔を立ててやろう。レザライサ、お前のところの情報網もフルに使ってくれ。会合の当日、セナアプアで動く不届き者はすべて叩き潰す」

「ンン、にゃおぉ~」


 黒き獣へと姿を変えた黒豹(ロロ)だ。

 膝の上に両前足を乗せてくる。


「ごはんか?」

「にゃおぉ~」


 と鳴いてから、戦闘型デバイスに肉球を押し当てる。

 

「転移、セナアプア――と神獣様は言っているようですよ、マスター!」


 と、戦闘型デバイスに浮かんだ人工知能アクセルマギナが機械音で、相棒の気持ちを代弁してくれた。


「ンン」


 黒豹(ロロ)は喉声を鳴らし、もう一度、肉球で戦闘型デバイスの風防硝子の表面をまた叩いた。


「あぁ、〝レドミヤの魔法鏡〟か二十四面体(トラペゾヘドロン)を出せだな?」

「にゃ」


 と、短く返事をした黒豹(ロロ)は、俺の足下を一周し、脹ら脛辺りに頭部を寄せ、胴体を擦り付けて、後脚で俺の足の甲をわざとらしく踏みつけてくる。尻尾の根元がプルプルと震えていた。


「相棒よ、オシッコはするなよ」

「にゃご」


 失敬な、とばかりに、湿った鼻先と共に肉球パンチのツッコミが飛んできた。

 爪を立てない絶妙な力加減。これぞ相棒の愛だ。


「「ははは」」

 

 俺たちの漫才じみたやりとりを見て、皆から笑い声が上がる。

 朝の光が差し込むログハウスの中に、温かな空氣が満ちた。

 苦笑を浮かべつつ、黒豹(ロロ)の首筋を優しく撫でて、


「了解した相棒ちゃんよ!」


 と、片耳を軽く引っ張るイタズラをすると、顔が上に間延びして、少しエイリアン顔となった黒豹(ロロ)は、抗議するように俺の掌の月丘辺りをガブッと甘噛みしてきた。


「いてぇ!」

「ンン、にゃ~」


 皆からまた笑い声が起きる。


「ん、ロロちゃんの甘噛みは結構痛い時がある!」


 と、黒豹(ロロ)を抱きあげ、頭部と背に何回もキスをしているエヴァ。

 皆も同じ気持ちらしい。また笑ってから、


「……それじゃあ、がんばっただろうシャルドネの顔を立てて、セナアプアに向かうとしようか。ペレランドラが長年かけて舞台を整えてきたんだ、その仕上げを台無しにさせるわけにはいかないからな」


 そう告げると、キッカが第九<筆頭従者長(選ばれし眷属)>としての凛とした表情で頷き、居住まいを正した。傍らで腕を組んでいたレザライサも、その双眸に鋭利な好戦の光を宿し、静かに口角を上げる。


「……猟犬どもの潜伏先や『面の顔』である商会どもの動き、その尻尾を掴むには、まずは現場に降り立つのが一番だ。セナアプアの裏通りを熟知する私の部下たちも、主役の到着を待ちわびているぞ――槍使い」


 立ち上がったレザライサは体から<血魔力>が噴き上がる。

 プラチナブロンドの髪が背の上に漂った。

 頷き、留守を預かるキッシュに向き直った。


「キッシュとデルハウトにシュヘリア、トン爺たち、そして、ムーも。毎回だが、ここを頼むぞ」

「ふっ、分かっている」


 キッシュはメルから渡されていた書類にサインをしていた。

 その書類が載ったクリップホルダーを渡してから、こちらの近くの机にあったコップを手に取り、その中身を飲み干してから、俺をジッと見る。


 緑色の髪を揺らし、


「地下のラミドスラたち、吸血神ルグナド側も大事な同盟相手。地上と地下もバーレンティンたちと連携して、一歩も引かずにこのサイデイルを守り抜く」


 そう語る口調は、既に恋人のそれではない。

 サイデイル防衛の要、司令官としての鋼の響きを帯びていた。

 その凛々しさがたまらなく愛おしい。

 

 キッシュに歩み寄る。


「あぁ、頼む。愛する友」

「――ふっ、任せておけ――」


 力強い言葉とは裏腹に、胸に飛び込むように抱きついてきた。

 彼女のしなやかで細い腰に両手を回し、強く抱きしめる。

 鼻孔をくすぐる爽やかなシトラスの香り。

 宝石のような薄緑の髪は、光の加減で透き通って見える。その神秘的な色彩に目を細めた。


 キッシュは、皆の視線があることを意識したのか、俺の首筋に熱い唇を一瞬だけ押し当て、名残惜しそうに身を離す。


 キッシュは頬を朱に染めつつ、


「……ここはわたしたちの城だ。樹怪王軍だろうがオーク大帝国だろうが、このサイデイルの土を一歩たりとも踏ませはしない」


 双眸には、強い意志の火が灯っていた。


 あぁ、そうだな。

 デルハウトとシュヘリアも頷く。

 シュヘリアは、


「はい、樹怪王と旧神はオーク以上の神出鬼没さですが、私たちにも、<霊血の秘樹兵>に<血魔力>の精霊樹の地の利がありますからね」

「そうだな」


 そのルッシーはぷゆゆたちの傍にいる。

 そして、キッシュは、


「……シュウヤ、セナアプアでは化かし合いと工作員どもの群れが相手になるだろうが、存分に『最強の抑止力』――としての貫禄を見せつけてこい」


 と、キッシュはメルのマネをするように両手でジェスチャーを行う。

 メルとベネットとヴェロニカは、笑う。ムーたちは俺たちを見て疑問顔。

 

 その、きょとんとした顔が可愛い。


「あぁ、行ってくる。……じゃあ、始めるぞ」


 戦闘型デバイスのアイテムボックスから、多面体の魔道具二十四面体(トラペゾヘドロン)を取り出した。十八面の赤色の溝を指でなぞると緑色に変化した。

 即座に二十四面体(トラペゾヘドロン)は光を帯びるや急回転。


 折り紙が畳むように面と面が幾重にも組み合い重なって変化をしていく。

 中心から溢れ出した魔力が光の塊となって弾けると、空間を切り裂くように弧を描いて拡がり、鮮やかな光のゲートが形成された。


「ンン、にゃ~」

「ぷゆゆ~」


 ゲートの先には、魔塔ゲルハットのペントハウス内が映る。

 相棒とぷゆゆが覗き込むように見ていた。


「では、会合に出席するとして、付いてきたい者は一緒に行こうか。後からキッシュの執務室の地下にある転移陣からでもゲルハットには行ける」

「はい、行きます」

「私もいくさ」

「「はい」」

「ん、行く」

「「うん」」

「エンチャント~」

「「行きますぞ!」」

「にゃおぉ~」


 皆で二十四面体(トラペゾヘドロン)のゲートを潜る。

 魔塔ゲルハットのペントハウス内のリビングに到着。

 ソファーと机に、左にキッチンがある。


 硝子越しに植物園が見えた。

 黒豹(ロロ)は巨大な窓硝子の付近を駆けていく。

 慣れ親しんだ室内の匂いを嗅いでいた。

 窓硝子越しに広大なバルコニーがあり、端に、俺たちの誇る漆黒の小型飛空戦船ラングバドルが、その猛々しい姿を横たえていた。


「戻ってきた」


 庭園の近くには木々が静かに揺れている。

 浮遊岩から上がってきたであろうペレランドラとカットマギーの氣配を察知。

 更に、二十四面体(トラペゾヘドロン)の球体がパレデスから離れて飛来した。それをアイテムボックスに仕舞う。


「シュウヤ様! お帰りなさいませ!」

「主!」


 正装を纏った<従者長>ペレランドラとカットマギー。

 ドロシーは居ない数名の護衛を伴ってリビングを歩いてくる。

 二人とも美人さん。ペレランドラは室内の光源の下、深々と跪き、上院評議員としての重厚な礼を執った。カットマギーは、相棒の頭突きを足に受けからエヴァたちに会釈していく。


「ペレランドラ……とカットマギー。ただいま。早速だが、会合場所の【天空閣】の件から、前の【白鯨の血長耳】の会合の事象を、思い出すんだが」


 と、声をかけると、


「はい。シャルドネ侯爵が強引に場を整えた面も大きい」

「なるほど、結構急ぎか」

「はい、サーマリア王国、レフテン王国とも内に問題を抱えている。共に政敵を抱えている立場ですからね」


 ペレランドラはレザライサとメルとヴィーネとも会釈。

 レザライサは耳に嵌めている魔通貝に手を当て、皆に手を当てながら横を歩き、【白鯨の血長耳】のメンバーたちに指示を出している。


 その皆で庭園の瑞々しい緑を抜け、開かれた扉からペントハウスの内部へと足を踏み入れた。

 ソファが並ぶ中央に、レベッカたちは移動。

 

 ペレランドラは、


「最新情報を報告します」

「頼む」

「はい、本来、前線に送られるはずのない『新型の魔導兵器』が、商会の私兵たちの手に渡り、このセナアプアへ向けて大量に運び出されているとのこと」

「それはガセくさいが」

「そうですね、大商会が大本としても、商会もダミーの商会の場合もあります。船の輸送なら楽ですが、特殊な転移陣ならば、話は変わる。更に、この和平会合を、新兵器のデモンストレーションの場に変えるつもりの狙いもあるのでは? とレザライサたちとの血文字で会話をしていました」


 ユイとキサラも片手を上げる。

 彼女たちも血文字で会話していた。


「……なるほどな。三日後の『天空閣』。それが、連中にとっての『戦場という名の利益』を生む祝砲になるわけか」


 庭園の先に広がる蒼空を見上げた。

 

「ペレランドラ、レザライサたちが動いているようだが、三日間で連中の資金源を更に洗ってもらう……そして会合当日、天空閣がまだどんな場所か、わからんが、クズな連中の血で汚させるわけにはいかないからな」


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中

コミック版1巻-3巻発売中。

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