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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2103/2118

二千百二話 溶岩魚の朝食と焦げた味の優しさ

「はは」


 笑い声を上げると、相棒とムーがじゃれ合っている微笑ましい光景をしばらく眺めた。

 良い朝だ。軽く汗を流したことだし、朝食にしよう。

「……っ」

 ムーは相棒と駆けていたが、地面に、『師匠、ありがとうございます。アキレス師匠にも一度お会いしました』と共通語の文字が書かれていた。


「おぉ、師匠と会ってたのか」

「っ!」


 なぜかガッツポーズを行うムー。

 そして、先程のムーの洗練された動きに妙に納得がいった。


「では、飯にしよう」

「……」


 ムーは頷く。

 そのムーと相棒を連れて、広場に面した大型のログハウスの隣の敷地に向かう。

 そこは現在、ラライセ率いる【血の守護騎士団】とヒミィレイスの仮宿舎として提供した<南華魔仙樹(なんかせんまじゅ)>と<邪王の樹>などを活かした大きい建物だ。

 吸血鬼の皆のために屋根の四方と天辺には、闇の魔力と光魔ルシヴァルを活かしたクナ製の魔道具を設置し、窓には厚手の闇魔力の遮光布を掛けてある。

 そうした光属性への対応は、ラライセと【血の守護騎士団】には必要ないほどに、皆、陽の光への耐性は高いが、吸血鬼(ヴァンパイア)の弱点に変わりないからな。


 その建物の入り口の扉は開け放たれ、そこから食欲をそそる良い匂いが漂ってきていた。


「にゃ~」

「……っ」

「さ、中に入ろう」

「ンン――」


 相棒とムーが駆け、ログキャビンの隣の大きい建物に向かい、開かれたままの玄関から先に中に入った。俺もその建物に向かい入る。


「おはよう、皆――」


 中に入ると、いい匂い。

 長いテーブルを囲んで騎士たちが食事を摂っている最中で、他にもカード遊びをしているツラヌキ団もいるし、書物と魔道具を交換しているクナとルシェルとサナに、アキレス師匠たちがここに来た時のことをトン爺とシュヘリアがママニたちに語っていた。

 バーレンティン、イセス、キサラ、モガと話をしていたラライセとヒミィレイスも並んで箸を動かしていた。


 皆、俺の姿を認めると、席に座っていた方々は立ち上がり、壁際にいた方々もこちらを見て、拳を胸に当てる敬礼を行う。


「「「主!」」」

「あ、シュウヤ様!」

「「「シュウヤ様、おはようございます」」」

「おはようございます!」


 ラライセが穏やかな表情で会釈した。

 昨夜の姉妹の会話を経て、彼女の纏う空氣もどこか柔らかくなった氣がする。

 そして、【血の守護騎士団】の吸血鬼(ヴァンパイア)たちは一糸乱れぬ挨拶。

 さすがは精鋭騎士団だ。

 バーレンティンとイセスに、


「ソレグレン派の吸血鬼(ヴァンパイア)と本場の吸血鬼(ヴァンパイア)のラライセ、そして、【血の守護騎士団】だが、過去に何か経緯が?」


 と聞いてみる。すると、バーレンティン、イセス、そしてラライセと吸血鬼(ヴァンパイア)たちは、互いの顔を見合わせた。 そこには一瞬、当事者たちにしか分からぬ複雑な光が宿ったが、すぐにそれは穏やかな苦笑へと変わる。


「多少……」


 バーレンティンが短く答えると、イセスが呆れたように、


「バーレンティン、多少どころではないでしょうに」


 と、ツッコミを入れた。


「……はは、だが、随分と過去の話だ。戦いの連鎖……今となっては、覚えている恨み言も少ない」


 イセスとバーレンティンはそう語る。

 ラライセは、


「……たしかに、我々も地下の大動脈層を巡る戦いは数千回に及びますから」


 と言うと、ヒミィレイスは、


「ふふ、エイハブラ地方の地下都市と独立都市に、複雑な地下道の支配権の確立は、実に様々ですからね」


 と語ると、ラライセたちは頷き合う。

 そのラライセに、

「おはよう、ラライセ。住み心地はどうだ? 陽の光が氣になるようなら、砂城の部屋に移ってもいいんだぞ」

「お気遣い感謝します。この木の家は心地よいです。シュウヤ様にメル殿、クナ殿、キッシュ殿、その皆様が、闇の魔力と光魔の<血魔力>を活かした魔道具の結界に加え、遮光の闇布や寝具を丁寧に整えてくださったおかげです。快適に過ごせました」

「おう、それなら良かった」


 すると、給仕を手伝っていたエプロン姿のユイ、レベッカ、メル、ベネット、キッシュが盆を抱えたまま近寄ってきた。


 キッシュは緑色の髪を揺らし、健康的な笑顔を見せては元氣に席に座ったムーを見てから、


「ムーだが、どうだ?」


 と、聞くと、したり顔。

 キッシュからムーをチラッと見て、


「あぁ。良い槍使いに成長しつつある」

「だろう? ムーは、サイデイルに増えつつあった悪漢の冒険者たちを懲らしめたこともあるぐらいだ」

「へぇ、そんなことがあったのか」


 と感心してムーを見る。

 ムー本人は褒められていると分かっていないようで、少し傾げ、


「……?」


 小さい唇に人差し指を当てて、きょとんとした疑問顔。

 その拍子にメッシュの前髪がさらりと揺れ、小さい眉と片目が隠れる。無自覚な愛嬌あふれる仕草。 素直に可愛い。そのムーから視線を外し、改めて皆を見て、


「皆で朝食作りを手伝っていたのか」

「そうよ~」

「ふふ、あぁ」

「うん、フクナガの魔料理は美味しいし、作り方も面白いの」


 ユイは掌の包丁をくるくると回しながら語る。

 レベッカとキッシュは肩を合わせつつ持っていたお盆を柄に置いて、


「その通り、私も料理作りを手伝っていた――」


 テーブルの上には、既にフクナガとディーたちが用意した和風の朝食が所狭しと並んでいた。

 レベッカたちが手際よく配膳していく。

 昨日の宴の残りである『溶岩魚』のほぐし身が入った混ぜご飯からは、香ばしい脂の香りが立ち上っている。湯氣をあげる熱々の味噌汁、鮮やかな緑の豆類、肉と野菜の炒め物、団子状の野菜巻き……そして、黄色が鮮やかな美しい卵焼き。その横に、見るからに黒く焼け焦げた、無骨な卵焼きの一団があった。


「そっか」


 と、言いながら、その明らかに異質な「黒い卵焼き」を凝視する。視線に氣づいたキッシュが、さっと頬を赤く染めた。


「――あ、あぁ、それは私が失敗した物で――」


 と、焦げた料理が載った皿を慌てて自分の手元へ引き寄せる。隠そうとする仕草がいじらしい。

 キッシュは恥ずかしそうに鼻の頭を擦りながら席に座った。


「だが、フクナガは……わたしの失敗した卵料理を見て、『焦げた料理も美味しいのです』と、言うものだからな」


 言い訳めいたことを口にしつつ、俺の前にも料理を配膳し、コップに魔酒を注いでくれる。


「なるほど、酒をありがとう」


 と礼を言うと、キッシュは、


「ふふ、いいから、しかし、この『お味噌汁』と『卵焼き』という料理……フクナガ殿に教わっていたのだが、実に美味い。配膳しながら、つまみ食いが止まらんのだ」


 キッシュが悪戯っぽく舌を出す。


「はは、だろうな」


 と笑いながら皆を見る。

 ラライセは、


「シュウヤ様、フクナガさんの魔料理も最高ですが、皆さんのお料理も美味しいですよ。キッシュ殿の卵焼きも」


 と発言すると、皆が笑い声をあげていく。

 キッシュが照れくさそうに鼻を擦った。


「なに、礼には及ばん。私も冒険者時代に多少の料理をしていたからな」


 そこでサラたちから笑いが起きる。

 キッシュは、


「そして、光魔ルシヴァルの身のわたしたちも、同じ吸血鬼系で、アレだが、冒険者時代は、吸血鬼と遭遇したら必ず対決していたもんだ、それが、今はこうして一つのテーブルで食を共にし、何氣ない会話で笑い合える関係になるとはな。分からぬもんだ。そして、味方となれば頼もしい限り」


 と、語ると、ラライセたちは、


「たしかに、ここには様々な種族たちがいて、共に手を結んでいる」


 ヒミィレイスは、


「はい、サイデイルには、希望がありますね」

「ンン、にゃおぉ~」


 と、黒猫(ロロ)が、黒き獣に変化し、ヒミィレイスの言葉に強く同意した。

 黒豹よりも大きい黒狼にも見えるが、その姿から神獣ローゼスだった時の会話を思い出した。

 すると、キッシュが俺をジッと見てから、


「希望は、そうだな……サイデイルの理想」

 

 と、短く語る。

 自然と頷いた。

 ユイは、「うん、皆の希望でもある」とオフィーリアとツラヌキ団の皆を見ていく。

 ヒミィレイスは、


「こうして、新鮮な食べ物を頂けるのも、実感できます」


 両手で味噌汁のお椀を持ち、幸せそうに一口啜ってから、皆と建物を見て、


「……このお家の匂い、木の香り……とても落ち着きます。それに、朝ごはんと一緒に皆さんの声が聞こえるのが、こんなに嬉しいなんて」


 人族として迎える初めての朝の言葉か。


 彼女にとって、それは何物にも代えがたい生の実感なのだろう。

 守護騎士団の面々も、そんな主君の妹君を見守りながら和やかに食事を進めている。

 かつては種族のカテゴリーでみれば、敵対し命を削り合った者たちとも言えるが、こうして同じ釜の飯を食っている。不思議だが、悪くない光景だ。

 そこに、フーが、


「皆さん、まだまだ料理はあるので、立っている方々と遊んでいる方々も空いている席に座って、一緒に食べましょう」


 と、ミスティ、クナ、イモリザ、雷炎槍流シュリ師匠、ヴェロニカ、リデル、トン爺、サナ、ヒナ、ホフマン、ドナガンのドワーフ、皆も席に着く。


「ンン」


 相棒は騎士団員の足下を縫うように歩き回り、「にゃ~」と鳴いては魚の切れ端をねだっていた。

 エヴァも「ん」と言いながら空いている席に座る。


「では――」


 と、両手を合わせた。

 レベッカとエヴァも、「ふふ、お手とお手を合わせて~」と前にいった冗談を繰り返している。


「はは、なーむ~って頂きますだな?」

「ははは、うん!」

「ふふ」


 レベッカたちの笑みを見て、箸を手に取ると、再び「では、皆、有り難く、頂かせてもらおう――」と言って朝食に口を付けた。


「「はい!」」


 皆の元気な声がログハウスに響いた。

 

 口いっぱいに広がる『溶岩魚』の濃厚な旨味と、出汁の効いた味噌汁の優しい塩けがいい――。

 

 咀嚼するたびに体内の魔力回路がポカポカと温まっていくのが分かる。さすがはフクナガの魔料理だ。ただ美味いだけじゃない。活力そのものを食らっている感覚だ。


「……ん! 美味しい」

「あぁ、この魚の脂、焦げた味噌と絡んで絶妙だ」


 エヴァとレベッカも箸が止まらないようだ。

 和やかな空氣で、カチャカチャと食器の音が重なる。すると、ヒミィレイスが箸を止め、小刻みに震え出した。俯いた彼女の目から、ポロポロと大粒の涙が零れ落ち、卓上に並ぶ味噌汁のお椀の中に波紋を作っていた。


「……ヒミィレイス?」


 隣にいたラライセが心配そうに声をかける。

 ヒミィレイスは袖口で目元を拭うと、涙で潤んだ瞳で俺とラライセを見て、震える声で言った。


「……あ、ただ、温かくて味が、美味しくて……人族としての精神だからこそ分かる……生を感じられて……」


 その言葉に、騎士団の面々も箸を止め、静粛な面持ちで彼女を見守る。

 吸血鬼(ヴァンパイア)たちにも、血の盟約や眷族への愛、そしてラライセたちのような深い姉妹愛は存在する。冷徹に見られがちだが、その情愛の深さは人族以上かもしれない。

 だが、こうして陽の光を浴びながら、湯氣の立つ温かい食事を囲み、他愛ない会話で笑い合う『日常の温もり』は、人族となった彼女にとって、かつてとは違う種類の、鮮烈な感動なのだろう。


 レベッカはヴェロニカとビュシエとヒミィレイスを交互に見て、感動したのか、その美しい蒼い瞳ををうるうるさせている。俺が見ていると、彼女はビクッと肩を震わせ、『ちょ』、『ちがうの、目にゴミが入っただけ!』と言わんばかりに顔を赤くして慌てて両手をぶんぶんと左右に振っている。

 必死にごまかそうとするその姿が、なんとも愛らしく、面白い。


 そこで、


「……ゆっくり食えばいい。ここにはまだまだ食材はあるし、フクナガも張り切って作るはずだ」 「はい……シュウヤ様、ありがとうございます」


 ヒミィレイスは深々と頭を下げると、再び箸を取り、噛み締めるように食事を再開した。

 そんな彼女の足下では、黒猫(ロロ)が「にゃ~」と甘えた声を上げ、ラライセの足にスリスリと体を擦り付けている。

 

 ラライセは少し驚いたようだが、すぐに優しい笑みを浮かべ、自分の皿にあった『溶岩魚』の大きな切り身を相棒にに差し出した。


「ふふ、まだ食べられますか?」

「ンン――」


 相棒は嬉しそうに喉を鳴らし、触手で器用に切り身を受け取ると、パクついた。


「ロロちゃん、ナナイさんからもいっぱいもらってたのに!」


 と、ルビアが驚いている。

 その光景を見て、バーレンティンやイセスたちも破顔していた。敵意の欠片もない、穏やかな朝。

 

 腹も心も満たされていくのを感じながら――。

 最後の一口を飲み込み、箸を置いた。


「ご馳走様。さて、飯を食ったら動き出すか」


 パンッ、と手を合わせると、キッシュたちが素早く食器を片付け始める。お茶を啜りながら、これからの予定をどうするか……。


 オセべリア王国への根回しの心配もなくなった今、サイデイルの街は復興と拡張も順調だ。


 懸念は、女王サーダインの復活と、樹怪王軍と、旧神ゴラード、オークたちか。


 地下の様子も見ておく必要があるかな。


「ラライセ、ヒミィレイス。食事が済んだら、少し街を案内しようか?」

「はい、長居させて頂きますので、宜しくお願いいたします」

「はい」


 ヒミィレイスとラライセは頷き、ラライセは、通信用の魔道具を出し、


「では、地下の傷場の防衛任務を務めているラミドスラとカトガたちと連絡します。更に、【樹海のハーヴェストの泉】、【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】、〝血の陰月の大碑〟の守りのこともあります」

「あぁ、そうだったな」


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻~3巻発売中。

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